2021.04.25 Inter FM「Daisy Holiday!」より
H:はい、こんばんは。細野晴臣です。きょうはホントに久しぶりに…来て頂きました。くるりの岸田くん。いらっしゃい!
岸田:はい、どうもー。ご無沙汰しております。
H:何年振りかね?
岸田:もう、ずっと会ってないですよね。
H:そうね。前来てもらったときは自分のオリジナルのクラシックスコアの…そのとき以来だよ、だから。
岸田:あ、そっかそっか。そのとき以来ですね。
H:ずっと京都だよね?
岸田:そうですね。京都でこもってるんで…なかなか。
H:京都も行きたいのになかなか行けないんだ。どう?京都は。人は?
岸田:やっぱし、インバウンドがいないので…観光、スーツケースの人がいなくなったというだけで、場所によってはずいぶん人が減った印象があるのと…
H:だろうね。
岸田:京都市の人口動態みたいなものをこないだ調べたんですけど。
H:うんうん。
岸田:ずーっと横ばいやったんですけど、外国の人が帰ったのか、ちょっと減りましたね。2年で2万人ぐらい減ってますね。
H:随分だね。
岸田:やっぱり人口が減ってるんだなぁ、と思って。細野さんは最近行きたいところとか…?
H:んー、もう外国はね、ちょっと諦めてるね。
岸田:あー、まぁしばらくはね。そうですよね。
H:色んな条件が必要になってくるじゃん。
岸田:ワクチンパスポート的な。
H:めんどくさいじゃない、そういうのね。
岸田:そうですね。たしかに…じゃあ国内やったら温泉ですかね?やっぱり。
H:温泉は行きたいね。
岸田:温泉行きたいですね、行きましょう今度。前行きましたもんね。
H:行った行った(笑)あれはいいところだったね。
岸田:いいとこでしたね。東北の…
H:秋田のほうだね。
岸田:乳頭温泉。行きましたね。虹が出てましたよね。
H:出てたねー(笑)
岸田:露天風呂で虹、最高ですよね。
H:平和な時代だよなぁ(笑)
岸田:平和ですよ(笑)たまに思い出すんですけどね。そうですね、東北の温泉行ったから次は…南九州とかね。
H:あ、いいね。
岸田:あっちもいい温泉多いですからね。食べ物おいしいし。
H:そうだよね。
岸田:南九州はね…私は鹿児島が好きで。
H:うんうん。
岸田:自分もカヴァーとかしたんですけど…鹿児島の民謡というんですかね、おはら節。
H:あー、おはら節ね。有名だ。
岸田:あの歌が好きで。「おはら祭」とかやってるんですよ。
H:そういうの行ったんだ。
岸田:やっぱり九州の端っこやから、エキゾチックな感じがするというか。
H:どことなくね。やっぱり南国なんだね。
岸田:そうですね。あと、最近の若い人たちは普通の言葉をしゃべらはるけど、ご年配の方は…
H:あー、独特の言葉だもんね。
岸田:そうそうそう。西郷さん(西郷隆盛)時代の隠語と言うんですかね?暗号みたいになった言葉というか…
H:そっか。そういうの知ってるんだ?
岸田:いやー、僕もぜんぜん知らへんかってんけど…前、うちに付いたレコード会社の宣伝の人で鹿児島の人がいて。鹿児島弁でこれはこういう意味や、みたいなことを教えてくれたんですけど。
H:へぇ。そういう人いないなぁ、周りに。
岸田:で、くるりでライヴ…わりと毎回行くんですけど。
H:あ、鹿児島でやってるのね。
岸田:結構ね、くるり…
H:人気あるんだね。
岸田:うん。鹿児島と青森はいつも盛り上がるんですよね。
H:南と北で…おもしろいな。
岸田:で、温泉がいいですね、やっぱりね。
H:前、清志郎(忌野清志郎)に連れられて行ったところはよかったなぁ。
岸田:どこですか?
H:もう忘れちゃったな。妙見かな?
岸田:あー、妙見のほうね。ありますよね、いくつか。あとは霧島のほうとか。
H:そうそうそう。で、やってるのが独特な人で色んなもの作っちゃうんだよね。小屋とか温泉とか。自分で広げてっちゃう。
岸田:そういう人いますよね。
H:顔がどうしてもね、「隼人系」と思っちゃうんだけど…隼人というのは海の人たち。
岸田:はい。
H:そういう人は鹿児島、多いと思うんだけど…そういう興味がすごいあるね。
岸田:うんうん。じゃあちょっと次は南九州の温泉に行って。
H:ね、そうしよう。
H:ということで…前振りが長くなっちゃったけど(笑)
岸田:はい(笑)
H:アルバムが4/28に。
岸田:そうです。
H:いつ作ってたの?これ。
岸田:これね…実は2017年ぐらいからダラダラと録りためていたというか。部分録りして放置してあったようなものをちょっとずつ作っていったみたいな感じで。
H:うん。
岸田:去年の夏ぐらいからそういうものを組み立てて、録音して。ポストプロダクションというか。
H:『天才の愛』という。いいタイトルだ。
岸田:はい。ちょっと大それた…
H:これはなんかあるんだろうね、意味が。
岸田:かなり適当に付けたんですけど…(笑)でもなんか「天才の愛」という感じがするなぁ、と。
H:へぇ…いいね。なんかベートーベンだね(笑)
岸田:あー…(笑)こういうこと言うと怪しいですけど、タイミングがめっちゃ合うとか。天才的な巡り会わせみたいなことってあるじゃないですか。
H:あるよね。うん。
岸田:かなり胡散臭いんですけど…ちょっと第六感めいたものというか。僕はとくにオカルト好きというわけではないんですけど、そういうものが好きな友達と話していたときに…松果体ってわかります?(笑)
H:おお松果体、出ました!オカルトだね(笑)
岸田:松果体の話になって…(笑)もしかしたら細野さんもそういう感覚持ってはるのかな、と思ったりするんですけど。
H:僕もオカルトは好きだけどね。最近はあんまり、表で話さないね。
岸田:僕もあんまり話さないですけど。松本さん、松本隆さんと…
H:あ、そうだ、京都の住民同士だ。
岸田:お話ししたときに"風をあつめて"の話になって。路面電車が海を渡るのを見たんです、とか。あれはゆりかもめなんだよ、とか。
H:…そうかい?(笑)
岸田:「摩天楼が衣擦れを起こす」のは、あのときは高い建物がなかったけど…
H:あ、じゃあ未来を予知してたわけだ。すげえ、それは初めて聞いた(笑)なるほどね。
岸田:そんなようなことを仰られていて。もちろんそれって「物は言いよう」という見方はあると思うんですけど…曲を書いてたり、歌詞もそうですけど、ちょっと予測変換めいたことってあるじゃないですか。
H:あるよね。
岸田:ドミナントモーションじゃないですけど、絶対こう解決する、とか。知らなくてもそういう風になって。人とのご縁もそうですし。なんか不思議なことが実現したりとか。
H:音楽やってるとそういうことあるかもね。
岸田:ありますよね。なんかそういうことを感じるような出来事というか。
H:そういうのがあったんだね。
岸田:そういうのがちょっと…小さいことからそれなりのことまで、色々感じることがあって。やっぱり天才はすごいな、みたいな(笑)
H:(笑)
岸田:なんだろう、天才が生み出してるそういう喜びとか。ゆで卵の殻をベロベロと剝いて、ペロンと中身が出てくるような感覚とか。
H:気持ちいいよね(笑)
岸田:そうそう(笑)それをどう言い換えて、どう表現したらいいのかな、と思ったときに…「愛」かなぁ、と思って。
H:あのね、岸田くんが天才なんだよ。
岸田:いやいや…(笑)
H:普通そんなことは考えない(笑)
岸田:別にそこまで考え込んでるわけではないんですけど…僕は天才というよりは変態のほうだと…(笑)
H:おんなじだよ(笑)
岸田:(笑)
H:さっそく聴かせて。『天才の愛』。楽しみ。なにがいい?選んで。
岸田:そうですね…じゃあ、ちょっと長いんでカットしてもらってもいいと思いますけど…あ、こっち行こう。"I Love You"という曲を…すみません(笑)
H:オッケー(笑)
I Love You - くるり
(from『天才の愛』)
H:ほほう…感じが変わったよね、やっぱり。この1年ぐらいで。
岸田:まぁそうですね、こもってるんで…(笑)
H:こもってたならではの…プログラミングやるんだね。
岸田:はい、そんなことばっかりやってました。
H:音像がすごく、今の感じに合うね。
岸田:ちょっと変わったコード進行というんですかね。
H:おもしろいね。
岸田:最初ギターでやってて…そのコード通りにやってるんやけどなんか響きが気持ち悪いな、ということになって。どないかならんかな、と。ちょっと検証したんですよ。そしたら…最初にデモを作ったときに打ち込みでパパッと作ったんですけど、5度の音がちょっと音痴というか、気持ち悪くて。気になってきて、古典調律みたいなのを調べ出して。
H:いやいやいや…行っちゃってますね(笑)
岸田:で、佐藤(佐藤征史)と2人で…これ、純正律でやったらどうなるのかな、みたいなことをやり出して。
H:そうなんだ。純正…バッハ以前の、ということね。
岸田:そうですね。ほんなら、あるコードは気持ちよく響くんやけど移動したら気持ち悪い、とかなって。今はいろんな調律をプリセットで[再現]できるソフトがあるから、聴いてみたら…ここはこれがよくてここはこれがよくて、みたいな。
H:あ、パートで作り上げたんだ。
岸田:それを曲中で変えたらちょっと面倒だから…マリンバみたいのが入ってるんですけど、マリンバのあるフレーズを5つぐらいのトラックに分けて。
H:へぇ。
岸田:で、ここはホ長調の純正、ここはピタゴラス音律とか。色々組み合わせて…
H:すごいな、それ…そんなこと考えてる人いないけどね、最近(笑)
岸田:ギターもCの形で押さえて…バッハが昔使っていたヴェルクマイスターという調律があって。
H:あー、聞いたことはあるけどよく知らないな(笑)
岸田:それでCを弾いたら、Cだけでめっちゃ感動したんですよ。
H:そう?ちょっと興味あるね。
岸田:C弾いて、次C/G弾いて、G7いってCに戻ったら、もうそれだけで…
H:出来ちゃったんだ。
岸田:うん。感動して…これはちょっと、平均律を疑おう、ということになって。
H:おもしろいなぁ。でも聴いてるとそういうのは全然…普通に聞こえるというか。
岸田:そうですね(笑)無駄な努力かもしれないですけど…
H:いやいや。きっとそうやってうまく調整してるから自然に聞こえるんだろうね。
岸田:なんか、そういうことばっかりやってました。時間あったんで。
H:深いね。時間があるっていうのはそういうことだな(笑)
岸田:そうですね(笑)
H:いや、おもしろい曲だなと思って。メロディとかね。あんまり聴いたことがないよね、他では。なるほど…これが"I Love You"というタイトルね。
岸田:あんまり"I Love You"っぽい曲でもないんですけど、一応。
H:なんとなく…音楽って全体像で聴いちゃうから、ふんわーって気持ちよかったんで…それはタイトルのせいもあるかもね。
岸田:ありがとうございます。
H:音作り…ミックスとかは自分でやるの?
岸田:ミックスはある程度のところまでは自分たちで…こういう感じかな、というのはやって。この曲だけは京都に住んでるエンジニアにやってもらって。他はウィーンに住んでるディーツ(Dietz Tinhof)という人がいるんですけど。彼とリモートで。
H:リモートで。なるほどね。
岸田:でも、彼とリモートでやるということ自体は以前もそうやってたんで。
H:あ、そうか。それはいい方法かもしれないね。いやいや…そうだったんだ。1年というのはいろいろ変化があるね、今。
岸田:そうですね、いろいろね。なんか、新しいのとか作ってないんですか?今。
H:えーとね…いまNetflixで上映中の『彼女』という映画の音は1曲作ったの。エンディング用に作ってくれ、みたいなね。テーマ的な。インストですけど。
岸田:うんうん。
H:出来てみたら[劇中の]あっちこっちにそれが使われてるような感じだね。まだちゃんと見てないんですけど(笑)
岸田:そっかそっか。
H:それが今の最新作かな。なんかね、昔…1970年代、80年代にやってたアルバムがアナログ化されて。「レコードの日」みたいな日があるんでしょ?そこに向けていろいろ、いっぱい出るのね。
岸田:はいはい。
H:それのマスタリングとか。そういうことが忙しいね、今。
岸田:結構、チェックして色々やってたら手間かかりますもんね。マスタリングはご自身でやられるんですか?
H:お任せしちゃうこともあるし、これはやりたい!というのがあるんで、そういうのは…プリマスタみたいなことはやってね。
H:使うねぇ(笑)
岸田:あれ、すごいですよね…
H:今聴いた音、それ使ってるなと思ってたんだけど…(笑)
岸田:ありがとうございます(笑)初めてとかではないんですけど…さっきの曲とは他の曲が結構、音圧があるんで。アルバムやし、[音圧を]稼がなあかんから…どうやって上げようかな、というところで。まぁOzoneでしょうな、ということは思ってて。
H:なるほど。
岸田:で、エンジニアさんと話してて。新しい…ヴァージョン9ですかね?
H:うん。
岸田:それの…いくつかプリセットのパターンあるじゃないですか。
H:あるね。もうプリセットしか使わないけどね(笑)
岸田:僕もそうなんです…(笑)それがすごかったですね。
H:新鮮だよ、最初聴いたときどれもよくて。
岸田:すばらしいなぁ、と思って。僕はあんまり機材とか興味ないほうなんで。
H:まぁ僕もそうなんだけど…いい音は作りたいじゃん。
岸田:作りたい!
H:おんなじだよ(笑)
岸田:そうなんですよ(笑)で、たまたま京都のエンジニアさん…谷川さん(谷川充博)というんですけど。昔の機材オタクで。
H:それもいいんだよね。
岸田:ベースとかも…佐藤さんが家で録ってきたやつをリアンプしたりとか。そういうのもしてくれはったんですけど。D.I.もMotown D.I.使ってはったりとか。アウトボードも実機で揃えはる人なんですよね。
H:おお、マニアックだ。そういう人いるといいね。
岸田:そうなんですよ。だいたいそういう…マイクプリとかも昔のやつのリイシューに手を加えてやってはる人で。
H:手を加えられるというのがいいね。
岸田:で、僕はそういうのさっぱりだから、あー、いい音ですねー、って言ってたんですけど。Ozoneが登場してきたときにうわー!と思って。
H:うんうん…機材の話が続いちゃいますけど(笑)
岸田:すみません(笑)
H:音楽、聴きましょうよ。
岸田:はい。細野さんに聴かせて…いろんなんあんねんけど…打ち込みっぽいのかロックっぽいのか、どっちがいいですかね?
H:打ち込みっぽいのはちょっと聴いてみたいなぁ。1曲目がそんな感じだったし。
岸田:そうですね。じゃあ…女の子がね、歌ってくれてる曲があって。これ打ち込みっぽいので。
H:はい。
岸田:じゃあね、四国の電車の歌なんですけど。"コトコトことでん"という曲があって。
H:かわいらしい。
岸田:聴いてください。
H:はい。じゃあ、これが最後の曲で…また出てください。
岸田:ありがとうございます。
岸田:どうもー。
(from『天才の愛』)