2019.11.17 Inter FM「Daisy Holiday!」より
H:こんばんは細野晴臣です。さぁきょうは…めずらしいね。ゲストは女性シンガー、ギタリスト、Reiさん。
H:初めまして。
Rei:初めまして。
H:突然来るね(笑)
Rei:すいません(笑)
H:いやいやいや…(笑)
Rei:どうしても会いたくて…
H:ホント?
Rei:はい、ずっと…きょうを夢見てました。
H:いやー、それはもうぜんぜん、迂闊だったけど…え、おいくつなの?いま。
Rei:いま26歳です。
H:あ、そうなんだ。んー。どこからやって来たんだろう?(笑)
Rei:そうですね(笑)簡単に…まぁ、説明する、っていうか…4歳からクラシックギターを始めて。当時はニュー・ヨークに住んでいたんですけど、
H:んー。
Rei:テレビで、ギターを弾く女性を見て、I want thatって言っておねだりして…
H:英語だ(笑)
Rei:そこから…当時通っていた学校が小学校と一貫のところで、そこのお兄さんお姉さんのビッグバンドに混ざって。5,6歳のときにジャズブルースを演奏するようになったんですけど。
H:ビッグバンドに入ったの?すごいな…
Rei:Miles DavisとかDuke Ellingtonとかをカヴァーしてました。
H:うわー、英語…発音がいい(笑)
Rei:(笑)で、いろんな…帰国してからもロックバンドを組んだりとかしながら、自分のオリジナルの音楽を探し求めてて。で、CDデビュー自体は2015年にしまして。
H:2015年?うん。
Rei:で、いまは最新作が7作目なんですけど。
H:多いね。んー。
Rei:私はクラシックギターを幼い頃からやってるのもあって、渡辺香津美さんが大好きで。それがきっかけでですね、YMOを知りました。
H:あー、そっかそっか(笑)
Rei:実家が…小さい頃に赤い2CV(deux chevaux)に乗ってたんですけど。
H:あー、シトロエンだ。おしゃれ。
Rei:そのカーステレオで、FMで録音したYMOのカセットをですね…これなんですけど。
H:え、カセット?おお…ちょっと見して。かわいらしい。
Rei:ワールドツアー1979年の、ニュー・ヨークのボトムラインの…これが『Public Pressure(公的抑圧)』で教授(坂本龍一)のシンセに置き換えられているんですけど…
H:そうなんだよ。ギターをね、置き換えちゃったんだよね(笑)これは貴重かもね、じゃあ。
Rei:そうなんですよ。ラジオで聴いたときは香津美さんのギターで、矢野顕子さんとか皆さんご参加されてて。これをホントにたくさん聴いたんですよね。なので…そこから聴くようになりました。
H:なるほどね。大体はわかってきたけど、どんな音楽か、というのを…最新のCDが出てるんで、聴かせてもらっていいかな?
Rei:はい。
H:なにがいいかな?
Rei:そうですね…私もワールドミュージックが大好きで、今年もスペインのジャズフェスに出演したんですけど。
H:んー。
Rei:そこですごい影響を受けたfeelingが入っている"DANCE DANCE"という曲、聴いてください。
DANCE DANCE - Rei
(from 『SEVEN』)
H:おお…すげぇな(笑)
Rei:(笑)
H:いやいや…テクニックすごいね。
Rei:いえいえ(笑)とんでもないです。
H:やっぱ、4歳からやってるっていうのはすごいな。
Rei:いつも自分ではquality over quantity、って言ってるんですけど…
H:ど、どういう意味?(笑)
Rei:「量より質だ」と…
H:おお。
Rei:ずっと長い間やってるんですけど、でもやっぱり頭打ちになる瞬間があって。表現というか…
H:なるほど。
Rei:そこを突破するのにいつも苦しみますね。
H:あー、それはね、上手い人がよく言うセリフだよね(笑)
Rei:そうなんですかね?(笑)
H:そうだよ。上手いとどんどん出来ちゃうんで、すぐ頭打ちになるんだよ。たぶん(笑)
Rei:いやー…でも、細野さんの映画を、『NO SMOKING』を見させて頂いたんですけど。
H:あ、観た?
Rei:歌に対してあまり…なんとういか、歌う気になれなかったときもあったけど、楽しくなってきた時期もあった、という話をされていて、すごく共感したんですよ。
H:あ、ホント?
Rei:ビートルズとか、60年代のロックを学校でカヴァーするようになってから歌を歌うようになったんですけど。
H:んー。
Rei:なんて言うんですかね…技術が翼だったとしたら、自分の飛びたいという気持ちに追いつかない歌唱力、みたいなところで。ギターのようにはいかないな、みたいな。
H:歌はね。んー。
Rei:でも、その苦手意識をやっと、ここ数年で…歌うの楽しいな、って思うようになってきました。
H:んー、なんか、楽しそうだよね。
Rei:そうなんですよね(笑)
H:ギターは、でも、自由なんだよね?
Rei:どうなんでしょう。
H:なにか目標はあるの?いまは表現が爆発してるけど、どうなってくんだろうね、これからね。
Rei:あ、でも…いつも不自由さを感じていて、そこから逃れるために作り続けてて、歌い続けてる。
H:なるほどね。
Rei:そういうところが、あります。
H:やるしかないもんね。
Rei:そうなんですよ。細野さんの原動力っていうのはどこにあるんですか?
H:僕?どこかな…僕は歌うときはプレイヤーじゃないんだよね。
Rei:あ、そうなんですか?
H:ギターもテクニック、そんなにないしね。ベースもそんなにテクニックはないの。
Rei:そう仰いますけど…(笑)
H:いやいや、ホントに。ただやっぱり、楽しくなくなったらもう、やる気が無くなっちゃうよね。
Rei:やっぱりそうですよね。
H:いちばんの基本はそれかな。だから、カヴァーするのが好きなのは、楽しいからだね。
Rei:そうですよね。なんかすごいprimitiveなことですけど…
H:アッコちゃんと話してるみたいだ(笑)なんて言ったの?パーマティヴ?
Rei:あ、プリミティヴ…
H:あ、プリミティヴね。発音がよくてわかんねぇ…(笑)
Rei:…な、ことですけど、立ち返りますね。楽しい、って。
H:そこに戻って行けば続けられる、っていうことだよね。
Rei:そうですよね。たしかに。
H:なんか、違う目的を持っちゃうと、迷っちゃうからね。
Rei:そうですね。26歳の頃って、細野さんで言うとはっぴいえんどから『HOSONO HOUSE』にかけて、とか。そういう頃ですかね?
H:そう。26の頃は迷ってたね。
Rei:あ、そうなんですか?
H:なにやってたんだっけ?ちょっと憶えてないけど…ソロだったね。テクノじゃないもんね、まだね。なに作ってたんだっけ?(笑)
Rei:(笑)
H:あ、エキゾチックサウンドに没頭してたのか。
Rei:ワールドミュージックは海外で演奏する機会があるとすごく新鮮に感じますし。こんな楽器があるんだ、サウンドがあるんだ、っていうので…今回もこの"DANCE DANCE"でタップダンスを…
H:ああ、あれがタップだね。うん。
Rei:はい、踏んで頂いて。
H:あ、本物のタップを踏んでるの?あれ。すごいね。
Rei:元はクラップだけだったんですけど、スペインから帰ってきて感化されちゃって。フラメンコで、足踏みとかがそのまま音楽になってるのがすごい素敵だな、と思って。
H:そうだよね。
Rei:入れたら、もしかしたら、タップダンスの音が音を可視化するかもしれない、みたいに思っちゃって。
H:なるほど。いやー、いろんなことを思ったほうがいいと思う(笑)
Rei:(笑)
H:なんかあの、マヌーシュっていう…昔はジプシーって言ってたんだけどね。
Rei:はい。
H:そういうのも共通してるね。
Rei:そうですね。マヌーシュも大好きで。
H:あ、だろうな。
Rei:この曲は、それこそジャンゴ(Django Reinhardt)とかのスタイルを踏襲したギターソロになってます。
H:あー、やっぱりそうだったんだね。んー。
Rei:はい。スケールとか。
H:ギターをね、ずっと持ってるでしょ?ギターを持って生きてるんだね。
Rei:(笑)おしゃべりはそんなに得意じゃないから、持ってたら、なんか…
H:落ち着くのね。
Rei:そう、なんか毛布みたいな感じで…
H:毛布ね(笑)取り上げると泣いちゃうよね、じゃあ。
Rei:そうですね(笑)
H:そのギターは、また、使い込んでるね。
Rei:そうですね。[細野さんと]同い年ぐらいですかね?あ、でも細野さんのほうが少し先輩…1956年製です。
H:んー。
Rei:古いギブソン(Gibson)を最近、使われてますよね。
H:そこにあるんだよ。うん。
Rei:これはいつのですか?
H:これは僕より年上だね。
Rei:えー!
H:1932年ぐらい、だったかな。
Rei:「細野観光」にも置いてありましたか?
H:置いてあった。心配で心配で、やっと戻ってきて。
Rei:そうですよね(笑)
H:あ、チューニングがぜんぜん、メチャクチャだ(笑)
H:そうなの。うん。
Rei:けっこう、好きな楽器が似てるな、と思ってて。
H:そう。ギブソンが好きな人ってなかなかいないんだよね。
Rei:あ、そうですか。タカミネ(Takamine)も「細野観光」にあったじゃないですか。
H:あったあった。
Rei:私もタカミネが大好きで。
H:あ、なんか、趣味が似てるんだね、じゃあ(笑)
Rei:似てるのか、私が影響されてるのかわかんないですけど…(笑)
H:いやいやいや…でもギブソンって…僕のこのギターはニック・ルーカス(Nick Lucas)タイプって言うんだけど、めちゃくちゃ歌に合うんだよ。[音が]地味でね。
Rei:なんか、ネックの幅もけっこうありますよね。
H:うん。自分にはちょうどいいんだけどね。だから、昔フォークやってた頃はみんなマーティン(Martin)を使ってたわけ。すごい派手な音がするでしょ。
Rei:はい。
H:で、ギブソンはすごい地味な音だったの。当時ね。だから誰もあんまり、使ってなかった。
Rei:なんか、マーティンは「解像度が高い」っていうイメージで…ギブソンは[音が]塊で出るから、逆に。二声とか三声には向かないんだけど、歌とは別域をカヴァーしてくれる感じですね。
H:そうなんだよ。歌に合うんだね。
H:へぇ…なんかやってくれるのかね、これはね。
Rei:いいんですか?
H:いいよ!もちろん。
Rei:おおー、やった!
H:聴かせてください。
Rei:ではせっかくなのでオリジナルの曲をやりたいと思うんですけど。
H:ぜひぜひ。
Rei:"香港Blues"とか"東京ラッシュ"とか、細野さんは地名の曲がたくさんありますね。私も地名の曲に憧れがあって…だから自分の、東京の国道のことを歌った曲をお送りします。
Route 246 - Rei
Rei:♪Japanese gentlemen, please stand up!
H:(笑)
Rei:♪Now I'd like to introduce the members of the band...On bass...on guitar...on vocals...Harry Hosono!
H:(せき)
Rei:(笑)
H:咳でちゃった(笑)
Rei:♪On guiitar, Gibson LG-2! And last menber is...On guitar and volals, Rei! Shiroganedai!!
Rei:Thank you!
H:すごい(笑)即興なの?そうでもないのか。
Rei:即興…途中の部分とか、メンバー紹介は。
H:すごい、メンバー紹介されちゃった(笑)
Rei:ギターを紹介したりとか。
H:いやー、すごいな。陽気だよなぁ…
Rei:陽気です(笑)
H:だいたいこういう、アップテンポだね。
Rei:そうですね。アップテンポな曲も多いですし…でも、ゆったりとしたものも好きで。戦前のブルースとか。
H:おお。
Rei:あとは、ラグタイムとかピードモントにすごい影響を受けたんで…
H:あー、それもいいな
Rei:なんか…♪(即興ラグ)
H:なるほど、ラグタイムだね。
Rei:はい、こういうのが大好きで。Blind Blakeとかに影響を受けましたね。
H:じゃあ…アメリカの古い音楽、ほとんど聴いてるんだね。きっと。
Rei:いやー、ぜんぜん勉強中ですけどね。でも、音楽を作るときは新しいもの、というか、みんな聴いたことがないものを作りたいな、と思ってます。
H:えーと、バンドはいるの?固定の。
Rei:そうですね…レコーディングでは様々なんですけど、それこそ伊藤大地さんとも何度かご一緒してますし。
H:あ、そっか。やってるんだね。
Rei:ツアーバンドは…最近一緒に回ってる方たちはいらっしゃいます。
H:時間が合えば一緒にできるかもしれないね。
Rei:あ、そうですね!
H:ここに手紙を頂いたんだよね、CDと一緒に。
Rei:はい、お渡ししました。
H:そこに、そのうち一緒にやりたいと書いてある(笑)
Rei:はい、もう、ぜひぜひ…(笑)
H:すぐできそうだよね。
Rei:いやいやいや…そうですね。[細野さんからは]たくさん影響を受けてるんですけど…こないだもですね、「細野観光」でemulatorとか置いてあったじゃないですか。
H:はいはい。
H:あ、鍵盤もやるわけね。
Rei:鍵盤というか…本当に鍵盤にはなってないんですけど、アープ(Arp)ではありませんが、モーグ(Moog)が好きになって。
H:あー。
Rei:「Prodigy」とか「Mini Moog」とか「Sonic Six」とかを自分の作品で弾いたりして。
H:あ、ホント?んー。
Rei:それはすごく影響を受けてるんです。
H:そうかそうか。
Rei:そういう、instrumentalも歌のものもいろいろ作ってこられたじゃないですか。そのれはその時々で大切にしてるものは違うんですか?
H:そうだなぁ…
Rei:「なにも伝えたいことがないのに作る」ときもあれば、「歌詞を歌いたい」ときもある…みたいな感じですか?
H:だいたいね、いつもなんにも伝えたくないっていう…(笑)
Rei:(笑)最高ですね、それは。
H:なんか、楽しい感じが伝わればそれはそれでいい、っていう。それだけかな。自分が楽しくないことはやってたらダメだ、と思うよ。だから。
Rei:いや、ホントそうですね。あの、『HOCHONO HOUSE』を出されたじゃないですか。
H:うん(笑)
Rei:それも、「もう1回自分の作品を再解釈したら楽しそう」って、ある日思いついたんですか?
H:…まぁ、人に刺激されたっていうのもあるんだよね。「やってみてくれませんか?」みたいなこと言われて。それまで考えてなかったけど。
Rei:うんうん。
H:で、やってみたら、ちょっとおもしろそうだとも思ったけど…やり始めたら、こんなに大変なことはない、と思って。
Rei:(笑)けっこう、ミックスとかまでかなりやられてるってお聞きしましたけど。
H:ミックスもやるよ、うん。
H:でもね、人にホントは委ねたいんだけどね。優れた人はいっぱいいるから、これ好きにやってみて、っていう風に言いたいんだけど。なかなか、こじんまりやっちゃうんだよね。自分でね(笑)このスタジオがあるし。
Rei:なるほど。
H:楽しいんだよ、結局(笑)
Rei:自分でやってるのが楽しくなっちゃって…
H:そう。職人っぽくなるというかね。うん。
Rei:たしかにたしかに。ちょっと凝り性になって…そうですか。
H:そういえばツアーは…忙しいでしょ?いっぱいやってるね。
Rei:弾き語りツアーが年末年始にありまして、その後2月からバンドツアーがあって。あとはですね…2月にヴァーヴ・レコーズ(Verve Records)、ご存知ですか?
H:ヴァーヴ、アメリカのジャズレーベルだ。うん。
Rei:ヴァーヴから作品を出すことに…
H:あ、アメリカで出るってこと?それはすごい。
Rei:そうなんです、そんなことも決まって…
H:いつ出るの?それ。
Rei:2月の予定でございます。はい。
H:ちょっとツアーの情報をお知らせしとかなきゃね。今年はもう、Sold Outらしいね。
Rei:はい。うれしいことに…
H:10か所ぐらいやってるんだよね、今年。
Rei:はい、そうです。バンドツアーは…今回『SEVEN』という作品で、7作目、7曲入りで。あとは7thコードとか、そういうものも意識しながら作ったんですけど。
H:それで『SEVEN』っていうの。なるほど。
Rei:「7th Note」という、それに付随するツアーがありまして。全国6か所で、東京が3/27に赤坂BLITZなんですけど。
H:あとは大阪・名古屋・福岡・札幌・仙台と。
Rei:はい。ありがとうございます。
H:どっかで観にいけるかな。あ、3月は行けるかもね。うん。
Rei:あ、やったー!
H:観てみたいですね。
Rei:ぜひいらしてください。ちょっとうるさめですけど…(笑)
H:(笑)いやー、元気がいいわ。ホントに。
Rei:(笑)
H:きょうは初めて会いましたけど、これからなにか一緒にやることもあるかもしれないので…まぁゆっくり、これからもお願いします、ということになるね。
Rei:はい。マイペースにやっていきます。
H:じゃあ最後にもう1曲だけかけてお別れしましょうか。30分番組なので…
Rei:はい。選曲していいんですか?
H:いいですよ。
Rei:じゃあ、[細野さんが]ボブ・ディランに影響を受けた、っていう話を聞いて。私もボブ・ディラン大好きなんですけど、Blind Lemon Jeffersonという、私が大好きな…
H:ブラインド・レモン・ジェファーソンだ。日本語で言うとね(笑)
Rei:はい(笑)[ディランは]レモンさんの曲を1枚目のアルバムの最後でカヴァーしているんですよね。
H:はい。
Rei:その曲をかけれたらな、と思って。
H:ぜひぜひ。
Rei:じゃあ、"See That My Grave Is Kept Clean"。
H:じゃあこれを聴きながらお別れしますが、ゲストはReiさんでした。どうもありがとう。
Rei:ありがとうございました
H:また来てください。
Rei:はい。
See That My Grave Is Kept Clean - Bob Dylan
(from 『Bob Dylan』)