2022.05.15 Inter FM「Daisy Holiday!」より
手作りデイジー🌼#33
(以下、すべてH:)
はい、細野晴臣です。みなさんいかがお過ごしでしょうか。ゴールデンウィークはどうなさってたんでしょうか。さてですね…5/1にニュー・オーリンズ特集をやったんですけど、なんか言い足りないことがいっぱいあって。30分では無理なんですね。それで次の…きょう放送する分を作っている最中にですね。小坂忠が天国に旅立ってしまいまして。そのことについては後半、少し触れていきたいと思います。
さて、ニュー・オーリンズの言い足りなかった分というのはバラードという側面があるということ。まぁバラードといっても陽気でハッピーで、ロマンチックな部分ですね。普通ニュー・オーリンズと言えばブルース系が多いんですけど、一方では1950年代・60年代の初期まで非常にメロディアスなポップスが大流行りしたんですね。そういうのを大瀧詠一や僕は中学生の頃にラジオで聴いていて。それがメインストリームのアメリカ音楽だと思ってたんですが…はっぴいえんどをやっている頃に、それらのほとんどがニュー・オーリンズ製だったということを知っていくわけです。
それで、いちばん最初にやり出したのはファッツ・ドミノ(Fats Domino)です。1956年に"Blueberry HIll"という大ヒットを飛ばしてから有名になりました。来日もしていて、それを僕は観に行った憶えがありますね。その中でボビー・チャールズ(Bobby Charles)という人が作曲した"Walkin' To New Orleans"。このボビー・チャールズという人が僕のあこがれの人でもあるんですね。ニュー・オーリンズではめずらしいホワイトマンです。他にはフランキー・フォード(Frankie Ford)がいましたっけ。
ところで、2005年にニュー・オーリンズを襲ったハリケーン・カトリーナ。このときファッツ・ドミノは家にいて困ってたみたいですね。それを救ったのがボビー・チャールズだったという話です。それでは"Walkin' To New Orleans"、1960年。ファッツ・ドミノです。
Walkin' To New Orleans - Fats Domino
次はですね、1960年のヒット曲。"You Talk Too Much"、ジョー・ジョーンズ(Joe Jones)です。
You Talk Too Much - Joe Jones
そして次はですね…1959年、ロイド・プライス(Lloyd Price)の大ヒット曲"Personality"。これはカテリーナ・ヴァレンテ(Caterina Valente)でも大ヒットしました。"Lawdy Miss Clawdy"、"Stagger Lee"で有名なシンガーです。
Personality - Lloyd Price
次もボビー・チャールズが作曲に関わってます。"But I Do"、1961年の大ヒット曲です。クラレンス・フロッグマン・ヘンリー(Clarence "Frogman" Henry)。
But I Do - Clarence "Frogman" Henry
このようなとてもロマンチックなバラードはドクター・ジョン(Dr. John)にも受け継がれています。ドクター・ジョンの"Such A Night"。
Such A Night - Dr. John
このドクター・ジョンの弟分と呼ばれているロニー・バロン(Ronnie Barron)。すばらしいピアニストでありヴォーカリストですが、1978年に久保田真琴と僕で制作した…東京録音ですね。『The Smile Of Life』から"Moon Shinin' Bright"。
Moon Shinin' Bright - Ronnie Barron
(from『The Smile Of Life』)
そのドクター・ジョン、ロニー・バロン…そういった人たちの先生というか、先輩にあたるアラン・トゥーサン(Allen Toussaint)。前回も特集しましたけど。1958年にインストが大ヒットしてました。"Java"という曲。これはアル・ハート(Al Hirt)でもっと大ヒットしたんですね。続けてアーニー・ケイ・ドゥー(Ernie K-Doe)の"Mother-In-Law"。これもトゥーサンの曲です。
Mother-In-Law - Ernie K-Doe
大瀧詠一がこれを…焼き直したというかね。"楽しい夜更かし"という曲。1975年。
楽しい夜更かし - 大瀧詠一
(from『NIAGARA MOON』)
Tipitina - Dr. John
(from『Dr. John's Gumbo』)
ドクター・ジョンの"Tiptina"を…申し訳ないですけどバックにして、ちょっとおしゃべりをしたいと思います。1曲目にかけたファッツ・ドミノのプロデュースというか、バッキングをすべて…アレンジとかをやっていたのがデイヴ・バーソロミュー(Dave Bartholomew)。この人がいなければニュー・オーリンズの音楽は始まっていなかったでしょう。なんと100年、1世紀を生きた人なんですね。で、ドクター・ジョンが亡くなったのが2019年。僕はロサンゼルスからの帰りの飛行機の中で知ったような気がするんですが、デイヴ・バーソロミューもその頃に亡くなってるんです。つまり、ニュー・オーリンズがそこで終わったのではないかと、僕は思ってしまいました。
ところで、小坂忠もつい先日亡くなってしまい…いろんな思い出があるんですが、その中で2001年に僕と忠で作った『People』というアルバムがあるんです。その中の"He Comes with the Glory"という曲。この詩をいま聴いてるとですね…この日をまるで予知していたような、不思議な気持ちになるんですね。彼はこの歌を葬列のときに流してくれ、という遺言があったということです。最後にその曲をどうぞ。
He Comes with the Glory - 小坂忠
(from『People』)