2020.08.16 Inter FM「Daisy Holiday!」より

 

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H:細野晴臣です。さぁきょうも先週の続きでゲストの佐藤征史さん、くるり佐藤征史さんを…もう、2週分録ってますから(笑)

佐藤:よろしくお願い致します。すみません、なんかべらべらしゃべっちゃって…(笑)

H:いいんですよ。しゃべんないと。

佐藤:うれしいです、本当に。

 

H:で、先週最後に話してたミナスの話がすごい興味深くて。ちょっと、ますます聴きたくなってくるんですけどね。

佐藤:はい。じゃあもう1曲、聴いて頂いていいですか?

H:ええ。

佐藤:これはミナスのシンガーと、アルメニアのピアニストっていう…

H:すごい取り合わせ(笑)

佐藤:ホントにその声とピアノだけの作品なんですけど。アルメニアって、あの…あー、名前出て来へん(笑)

H:(笑)

佐藤:すごい大好きな人がいて。アルメニアの民謡を現代風にアレンジした作品を出しておられて…あっ、ティグラン・ハマシアン(Tigran Hamasyan)!

H:あー…

佐藤:そのアルメニアっていう国に行ったことないからわからなかったんですけど、ものすごい世界観があってすごいな、と思ってたんですよ。

H:うんうん。

佐藤:それがブラジルのヴォーカリストと一緒に…アルメニアの空気感っていうのが合わさったら…

H:もう、その話を聞いてるだけで…

佐藤:ものすごい美しいなぁ、と思って。じゃあちょっと、まず1曲聴いて頂きたいんですけど。

H:ぜひ。

佐藤:タチアナ・パーハ&ヴァルダン・オヴセピアン(Tatiana Parra & Vardan Ovsepian)っていう…あの、すみませんね(笑)

H:(笑)

佐藤:という方で、"O Silencio De Iara"。

 

 

O Silencio De Iara - Tatiana Parra & Vardan Ovsepian

from『Triptych』)

 

 

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H:いいねぇ…聴いちゃったよ。

佐藤:ありがとうございます(笑)ホントにこういうヴォーカリストが…器用、って言ったらおかしいんですけど、日本人的感覚とぜんぜん違うじゃないですか。

H:まぁそうね。

佐藤:自分、初めてブラジルの音楽っていうのを意識して聴いたのがエリス・レジーナ(Elis Regina)やったんですけど。あの1枚目の、"帆掛け舟の疾走(Corrida De Jangada)"っていうんですか。いや、カッコいいけどなにやってるかわからへんし…

H:(笑)

佐藤:拍もどうやって繋がってるのかわからへん…

H:裏の…裏だよね、ぜんぶ。んー。

佐藤:はい。それで…なんて言うんですかね、小節の分解というか、音符と音符の間もすごい細かいじゃないですか。

H:うんうん。

佐藤:だからぜんぜんわからなかったんですけど、それが気持ちよくなってきたときに…出来ないんですけどね、自分では。ブラジルの音楽っていうのがちょっとずつ好きになってきて。それでこういう人たちに出会って…

H:そうかそうか。もう随分、じゃあ、長いんだね、そういう…ブラジル。

佐藤:そうですね。「わからない」もの…けど。

H:「わからない」からこそ惹かれるんだよね。

 

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佐藤:ジャズとかもそうなんです。別に、普通のスタンダードとかはまったく聴かないんですけど、ブラッド・メルドーBrad Mehldau)の響きだけ好きやったんですよ。

H:あ、そうなんだ(笑)

佐藤:それが今の…アルメニアのピアニストの方(ヴァルダン・オヴセピアン)とか、ティグラン・ハマシアンとかはそれにすごい近い空気感、っていうんですかね。

H:なるほど。

佐藤:天気で言ったらぜったい曇ってる、っていう中で鳴ってるコード感みたいのはすごい好きやったりするんですよね。

H:なんかこう…この時代に空気感がすごいピッタリくるっていうかね。

佐藤:あー…ただ陽気では居られない、という。

H:ついこないだまで…ヒット曲とか、すごかったじゃない。アメリカ製の、音が独特のね。作り込んだような、ヴァーチャルな音楽。

佐藤:はいはい。なんでもソフト一本で作れそうなものですよね(笑)

H:そうそう(笑)そういうのももちろんあるんだろうけどね、まだ。非常にパーソナルでやってる人が増えてきてるよね。アメリカではね。

佐藤:最近ホントに…なんて言うんですかね、50s'・60s'リヴァイヴァルというか。

H:うん。

佐藤:特にベースで言ったらぜったい音が止まってるような…ミュートで弾いて、太鼓とかもすごく抑えてるような音が増えてきたから、新しい音楽でも懐かしい感覚というか。やっぱり自分の耳触りが…すごいそういう音が好きやったりするんで。

H:うんうん。

佐藤:最近の音楽やけど昔ながらの音、っていうのが増えてきて。自分的にはちょっとうれしかったりするんですけどね。

H:大人になったんだね(笑)

佐藤:(笑)でも自分たち、「元祖グランジ世代」って言ってるんです。

H:そうだよね(笑)

佐藤:自分たちが学生時代、高校生のときとかに1992年、1994年…ニルヴァーナNirvana)とかスマッシング・パンプキンズ(The Smashing Pumpkins)とか。

H:そうだよね。

佐藤:あとはオアシス(Oasis)とかのブリットポップもそうやったんですけど。そういうのを聴いて、自分らのバンドを始めたときのテーマは「技術をパワーでごまかせ」っていう。

H:(笑)

佐藤:サビになったらディストーション踏んどいたらいいや、みたいな(笑)

H:なるほどね。その通りやってるな(笑)

佐藤:そういうノリでずっとやってました(笑)

 

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H:あ、なんか時報が…外から入ってくるね(笑)

佐藤:そっか、17時のチャイム…

H:17時の時報。うん。

佐藤:素敵でございます(笑)

H:(笑)

佐藤:…そういうので、ないものねだりみたいな感じで色んな国の、ようわからへん音楽を聴くのが好きになったのかもしれないです。ホント。

H:だんだんそれで、自分でやりだすんだよね。楽しみだね(笑)

佐藤:そうですね…(笑)でも、どっちかって言ったらラジオでかけるっていう…音博とかもそうなんですけど。

H:うんうん。

佐藤:友達とかと…昔やったらカセットテープのベストテープを交換していたような。

H:聴かせ合いみたいなね。やってたねぇ…

佐藤:今で言ったらプレイリストか。Spotifyとか。これ聴いて?みたいのをリアルでやる。

H:うん。

佐藤:音博やったら人を呼んでやる、みたいな。ラジオやったらこんなん誰が聴くねん!というような曲だけかける、みたいな…(笑)

H:なるほど(笑)

佐藤:そういうのをよくやってますね。

H:まぁその楽しみもよくわかるけど…でも、自分でもやりたくなるんでしょう。

佐藤:そうですね…まぁ、何回かやったことはあるんですけど。

H:やってるよね。んー。

佐藤:でもなかなか僕、そんなに上手にメロディーを書ける人でもないから…楽曲を作って、っていうのは…

H:誰かに作ってもらえば?(笑)

佐藤:じゃあそのアレンジをこういう風に持ってきたいよね、とか。

H:やっぱりその大元の…なんて言うんだろう、自分でマイキングしたりね。こういう音って…なんだろう。作り込みというよりも、すごくナチュラルだけど、なんだかすごくリアルじゃない。

佐藤:はい。

H:今、そういう音がやっぱり増えてるよね。

佐藤:うんうん。そうですよね。

H:そういう世界を…自分でもいまも考えてるけど。まぁ、いまは白紙状態なんだよね。この時期。

佐藤:はい。

H:ついこないだまでやってたことが、なんか遠い過去になっちゃって(笑)あの震災のときもそうだったでしょ。

佐藤:そうですね。

H:震災の前と後はぜんぜん変わっちゃったでしょ。

佐藤:変わっちゃいましたね。

H:それとはまた違う質なんだけど、いま。なにか変わってきてるんだけど、まだわからない。

佐藤:わからないですね。なんか震災の後は…もちろん、被災地にお邪魔させてもらって演奏とかね。

H:一緒に行ったことありますね。うん。

佐藤:やっぱりものすごい…ちゃんとやろう、であったりとか。クサい言葉かもしれないですけど、一音一音に魂を込めて、人前でちゃんと聴いてもらうために演奏しないと…っていうような感覚がすごい強くて。

H:それはあるね。

佐藤:それが今まで続いてるので、自分にとってはすごいありがたい経験なんですけど。

H:うん。

佐藤:ひょっとしたら…コロナが終わったら、もっとふざけなアカンのかな?とか(笑)

H:(笑)

佐藤:それが自分でもまだわからないですね。

H:わかんないね、んー。

佐藤:人の前で[演奏]できるありがたさっていうのが…もちろん、震災の後も今も一緒なんですけどね。

H:そうね。

佐藤:どういう音楽をみなさん聴きたいと思うのか、とか。

H:ね。

佐藤:そういうところが…もうちょっとしたら見えてくるんですかね(笑)

H:たぶんね。アートの世界では、たとえば…僕がびっくりしたのは横尾忠則さんが「With Corona」っていうシリーズで、過去の作品とかにマスクを着けてて。その量がすごいんだよ。毎日のように送ってきて頂くんだけど(笑)

佐藤:(笑)

H:圧倒されるんですけどね。やっぱりこれは芸術の力だ、って思ったんですよ。美術とかアートとかそういう…絵を描く人とか。ダイレクトに出てくるんだな、と思ってね。即反応してるっていうか。

佐藤:はい。

H:でも音楽はまだね、即反応は出来てないから(笑)

佐藤:うーん、そうかもしれないですね。

H:まずは…なんて言うんだろう、僕たちは聴くことからやってるんじゃない?今。

佐藤:そっか。

H:「なにを聴きたいか」っていうことからやってるところがあるな、僕なんかはね。

佐藤:なるほど。ピカソみたいに「ゲルニカ!」って表現するアートもあれば…

H:そうそう。アートってわりとそういう、素早い力があるけどね。

佐藤:やっぱり自分たちにしてもリスナーでもあるから、耳からの刺激を経て、じゃあそれをどうアウトプットするか、っていうことなんですかね。そうかもしれない…

H:音楽っていうのはそういうものなんだな、と思って。

佐藤:なるほど。

H:不思議な…つかみどころがないっていうか(笑)

 

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佐藤:なんか、もしもう1曲かけるのであればめっちゃふざけてやつかけようかな、と思ってたんですけど、やめます(笑)

H:あるの?あるのなら聴きたいよ。

佐藤:ホントですか?時代、まったく関係ないと思うんですけど。

H:いいんだよ、それで。

佐藤:いいですか?じゃあトルコの歌姫の曲を1曲、聴いてもらっていいですか?

H:お、いいね。ちょっとそれで元気になるんじゃないの?

佐藤:そうですね。じゃあこれを…ヴォーカリストなんですけどバンド形式でやっておられる…5,6人バンドでわりと大所帯なんですけど。

H:うん。

佐藤:トルコの独特の音階のメロディをこれでもかっていうふうに歌わはるんで。

H:最近の人なのね?

佐藤:えーとね、最近です。アルバムは3枚ぐらい出されてるんですけど、これは1枚目のアルバムになりますかね。4,5年前ですね。

H:へぇ。

佐藤:えーと、ガイ・ス・アクヨル(Gaye Su Akyol)っていう方で、"Hologram"という曲を聴いてください。

H:ほほう。

 

 

Hologram - Gaye Su Akyol

from『Hologram İmparatorluğu』)

 

 

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佐藤:すみません、下品っぽい曲をかけてしまいました…

H:いやいやいや!ひさしぶりにこういうの聴いたよ(笑)

佐藤:サラームさん(サラーム海上)とかがお好きそうなあれなんですけど…ちょっとびっくりして。なんかここまでやんのや、と思って。

H:うんうん。

佐藤:カンボジアとかベトナムとかのポップスも、ちょっと日本の演歌っぽくもあったりするじゃないですか。

H:そうだね。

佐藤:そういうのがトルコにもあるんだな、と思って。ちょっと1回行ってみたい国の一つです。行ったことないんですけど。

H:僕は一度行きましたね。

佐藤:なんか…ヨーロッパに居たときに、練習スタジオにみんなで入ってたんですよ。ライヴせなアカンっていうことで。

H:うん。

佐藤:隣のスタジオから、ようわからへん音楽が聞こえてきて。

H:うん(笑)

佐藤:それをずっと、休憩中にタバコを吸いながらとか聞いてたら、なにをやってるのかぜんぜんわからへんけど、これは繰り返されてるぞ、っていうぐらい…(笑)

H:(笑)

佐藤:何拍なのか、音階もわからないんですけど、どうもこれはミニマルな音楽をやっておられるみたいだ、っていうのだけわかって。

H:そうなんだ(笑)

佐藤:で、その人らがどこの人なんや、ってスタジオの人に訊いたらトルコの人たちやったんですよ。

H:へぇ。

佐藤:あー、ぜんぜん、こんな…日本では流れないような音楽もあるんだな、と思って(笑)

H:まったく異質の音楽だよね。

佐藤:そうですよね。どういう感情になればいいのかがあんまりわからなくて…

H:わからない!

佐藤:(笑)

H:真似して演奏は…ちょっと似たようなことはできるけど、ぜったい歌は出来ない。

佐藤:あー…そっか。

H:たとえばモロッコに行ったときに、ベルベル族たちの音楽がベンディールっていう太鼓だけで…タンバリンみたいなやつで、それだけで合唱してるんだけど。

佐藤:えー…

H:すごい、それが興奮するわけ。トランスミュージックって言われてるんだけど(笑)なんか、儀式的な音楽なの。

佐藤:へぇ…

H:そのベンディールっていうタンバリンを買ってきて、誰もやらないからひとりで…

佐藤:(笑)けっこう大きいタイプの?

H:タンバリンのちょっと大きいもので…

佐藤:イメージ的にはアイルランドとかのスルドっぽい…

H:うん、そうそう。あの感じ。スルドっぽいやつ。でも蛇腹が貼ってあって…蛇腹じゃなくて、なんだろう、あれ。ボヨヨン、っていうノイズが出てくる。

佐藤:へぇ。

H:それを3,4人でやるんですけど、ポリリズムでみんな違うんだよね。基本はワルツなんだけど、いつの間にか2拍子になってるわけ。あれー?って(笑)

佐藤:それ、生で聴いたらすごそうですよね。

H:生で聴いたらびっくりしちゃって、そのベンディールを買って帰ってきてずーっとひとりで練習して。

佐藤:(笑)

H:で、なんか出来そうになってきて。仲間が欲しくてしょうがなくて…誰もやってくれないんだよね(笑)

佐藤:細野さんたぶん、そういう楽器多いですよね(笑)海外とかで色々…昔の楽器とかも。

H:多いよ(笑)結局ひとりでやってると限界がきてやめちゃうんだけどね。

佐藤:でもせっかくね、ベンディールやったら少なくとも3人以上とか。大人数でやるほうがトランス感…

H:そう。やりたい…

佐藤:そういう募集して、サークルとか。このラジオで募集して…(笑)

H:でも日本ってそういう人、けっこういるんだろうね。サークルみたいな。もう、びっくりするような人たちがいっぱいいるからね。

佐藤:そうですよね。わりとメジャーな…なんだっけ、座って叩く太鼓とかやったらようけやってはりますもんね。

H:やってるよね。で、ホントにマニアックな人たちがけっこう多いな、と思いますよ。日本も。

佐藤:そっか。タブラとかもね。教室とかやったらみんな行かはりますもんね。

H:上手い人いっぱいいるしね。

佐藤:ちょっと広めて…ぜひぜひ。

H:ベンディール。急に思い出した(笑)

佐藤:(笑)

H:いまだにやりたい気持ちは捨ててないからね。

 

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佐藤:そっか、砂漠地方なんでしたっけ?

H:そう。砂漠の音楽。だから声が砂に枯れてるっていうか…ああいう声じゃないとできないね。

佐藤:最近デザートブルースとか…ギターのブルースの人、何人か出てきはりましたけど、すごい乾いてますもんね、やっぱり。

H:乾いてるねぇ。

佐藤:カッコいいなぁ、って思ったりします。けっこう海外も行かれてるんですよね。ホントに。

H:いやー…随分長く生きてるからね。色々行ってきましたけど。もうこの先はあんまり行けないんじゃないかな、と思って…(笑)

佐藤:いやいや、なにを仰いますやら…でも映画を観させてもらったりしてアレなんですけど、ぜひ細野さんのライヴを海外で観たいな、っていうのは自分もあって。

H:あー。

佐藤:それこそニューヨークとかで観れる日が来るのを楽しみにしております。

H:そうですね、また…もうブギウギは出来ないなぁ…(笑)

佐藤:ぜひぜひ、よろしくお願い致します…(笑)

 

H:ま、そろそろ時間かな…じゃあ、最後にもう一度『thaw』から。未発表曲…なにがいいでしょう。

佐藤:そうですね…こんなけったいな曲の後で、なにがいいやろなぁ…

H:(笑)

佐藤:えーとね…そうですね、あんまりラジオとかでかかることはないと思うんですけど、"evergreen"という曲を。

H:おお。

佐藤:普通にいい曲なんで、聴いて頂けたら、と。

H:これはどこで録ったやつですかね。

佐藤:これはね…韓国で録りましたね、リズムは。

H:へぇ!色んなとこでやってるな(笑)

佐藤:韓国で録って、オーバーダブとかはぜんぶ新大久保でやりました(笑)

H:(笑)

佐藤:で、歌だけ今年録ったんですよ

H:そうなんだ、今年!じゃあほやほやですね。

佐藤:ほやほやです。

H:"evergreen"。じゃあ、これを聴きながら…またそのうち来て頂きます。くるり佐藤征史さんでした。

佐藤:ありがとうございました。

 

 

evergreen - くるり

from『thaw』)

 

 

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