2021.10.10 Inter FM「Daisy Holiday!」より
H:こんにちは。こんばんは。細野晴臣です。きょうは…この番組は初めてですよね、吉田美奈子さんです。
吉田:はい、そうです。ありがとうございます、お呼び頂いて。光栄です。
H:いやいやいや…前に一度、美奈子の番組にお邪魔したことはあるよね。
吉田:はい。4時間の番組にお付き合い頂きました(笑)
H:4時間だった?すごいな。
吉田:30数曲ぐらいかけて頂いて。
H:そんなに?この番組は30分なんで…(笑)
吉田:はい(笑)
H:いやー、早速ですけど…
吉田:48年前の…
H:48年!『扉の冬』がリマスターで新しくなったという。
吉田:ボックスが出てるんですよ、それ以外に。アナログ盤とCDとシングルCDと…全部入ってるんですよ。
H:シングルCDなんてかかるの…?
吉田:それで1万円です。
H:まぁ、手ごろかな(笑)
吉田:なんか、ほんとにゴージャスなやつを作って頂いて。
H:そうなんだ。まぁとにかく、この『扉の冬』というデビューアルバム…おいくつだったのかな?
吉田:20歳(笑)
H:48年+20歳…(笑)
吉田:細野さんだって20代ですよ?
H:20代だね。あんまり変わんないんだ。
吉田:え、いくつ違うの?6つ?
H:6つだね。お互いにベテランみたいな気持ち…(笑)
吉田:おじいちゃんはおばあちゃんになって、おばあちゃんはおじいちゃんになっていくんですよね、だんだん。雰囲気が。
H:そうか。僕はおばあちゃんっぽい?
吉田:おばあちゃんっぽくなって…(笑)
H:ときどき言われるかなぁ。でもね、なんだろう…自分には女性性があんまりないんだよ。女のことは全然わからない(笑)
吉田:(笑)
H:気持ちがまったく理解できない。突然怒ったりするじゃない?
吉田:うん、気に入らない。
H:理由が理解できないんだよ。
吉田:理由は…説明すればいいんですか?そういうときって。
H:「なんで?」って訊いても、口を利かなくなるでしょ?女性って。
吉田:あー…いや、私はきちんと説明しますけどね。
H:そのほうがわかりやすいかもね。
吉田:それで「怒ってる?」って言われて、いや、そうじゃなくて指摘しているだけです、って(笑)
H:僕もおんなじだ。ときどき怒るけど、それは自分の感想だっていう。
吉田:同じです。
H:そうするとまぁ、うまくいくよね。
吉田:上手くいきます。話を聞いてもらえるし。
H:それはさておき…48年前の出来事を。
吉田:キャー、憶えてますか?(笑)
H:あんまりね、突然言われても…でも、美奈子との場は憶えてるよ。
吉田:スタジオとかそういうことですか?会ったとき?
H:スタジオも憶えてるし、会ったとき。「東京キッド」の…
吉田:「東京キッド」は細野さんたちがライヴバンドだったんですよ。
H:エイプリル・フールだよね。
吉田:そうそう。たまたまエイプリル・フールを観に行って。「東京キッドブラザース」の新しい出し物で歌が歌える人がいない、と。なんでミュージカルなのに歌える人がいないの?となって(笑)それでジャングルジムの上で、亡くなったイラストレーターのペーター佐藤さんと一緒に暗ぁい曲をデュエットしたんですよ。それが始まりですね。
H:なんか、先に…「ヘアー」という渋谷にあったミュージカル喫茶、「東京キッド」のね。あそこでずっとやってたのは憶えてるんだけど。
吉田:いや、「あそこに通え」と言われて…ぜんぜんやる気はなかったんですけど(笑)
H:へぇ、自分から飛び込んでいったのかと思ってた。
吉田:とんでもないです、やる気ないですよ。だっておもしろくない…(笑)
H:まあね。今だから言える(笑)そうか…
吉田:で、ペーターとはすごく仲良くなって。ペーターのアシスタントをやったりして…コラージュをちょうどやり始めたときで、「キッドブラザース」のアートを全部ペーターさんがやっていて。それのお手伝いをしてました。
H:うん。とにかく東京近郊のどこかから単身、東京に飛び出してきて…あの頃の雰囲気ってヒッピーじゃない?
吉田:ヒッピーですね。
H:ヒッピーだったの?
吉田:ヒッピーにしては若くないですか?(笑)
H:若いよね(笑)16歳だよ。
吉田:そうです。音楽の学校に行ってて、あんまりおもしろくなくて。で、バイトで「曲作ってみたら?」と言われて。その当時はまだ学生運動の名残で、新宿の西口広場に3つぐらいのコードで歌を歌ってる人がいて。それよりはちょっとオシャレなコードの曲を作ったら、「いいんじゃない?」という話になって。少しずつ仕事を始めて…
H:あ、そうだったんだね。
吉田:細野さんとか松本さん(松本隆)の背中を見て…ジーッと見て学習して。
H:見られてたんだ(笑)
吉田:そう(笑)それで少しずつ働けるようになったんです。
H:そうやって…その頃は16歳で。『扉の冬』を作ったのは?
吉田:それが20歳ですから…18歳のときに「マッシュルーム」という村井邦彦さんのレーベルがあって。それと契約したんですけど、あんまり作りたくなくて流しちゃったんですよ。それで20歳になって「風都市」ができたでしょ?それでトリオレコードでレーベルができたんで…そこで作ったんです。
H:そうか、これトリオだったんだね。それで、曲は決まってから作ったの?
吉田:いや、曲は少しずつ書いてた曲を…だから原風景の曲が多いです。
H:うん。ちょっと聴こうか。
吉田:なにを聴きます?
H:このアルバムね、すごく出来がいいなと思ってて。ミュージシャンとして(笑)
吉田:ベースの話ですか?(笑)
H:いやいや、全体の話(笑)曲もいいし。演奏も楽しかったのを憶えてる。
吉田:あ、ほんとですか。プログレとか言われたりした曲もありますけど。
H:本当?ぜんぜんそんなことは思ってなかった。なにがいいかな…
吉田:憶えてますか?曲。
H:憶えてるよ。"扉の冬"かけよう。タイトル曲。
吉田:はい。
扉の冬 - 吉田美奈子
(from『扉の冬』)
H:おお、なんか透明感が…
吉田:細野さん、いっぱい弾いてますねベース。
H:ちょっと手数が多いかな。
吉田:今は親指でしか弾いてないという噂が…(笑)
H:そうそう、省エネなんで…(笑)親指だけで弾く人って結構いるんだけどね。
吉田:あー、そうですね。
H:ギターでも…ウェス・モンゴメリー(Wes Montgomery)、親指だけでやってる。すごいよね、あの人。
吉田:すばらしいですよね。
H:あそこまではできない。
吉田:YouTubeで観られるようになってからビックリすることがいっぱいありますね。
H:そうなんだよ。全然知らなかったよね(笑)
吉田:どうやってやってるんだろう?と思って工夫したてけど、実際にああやって見られるわけじゃないですか。今の人たちはすごく恵まれてますよね。
H:そうなんだよ。こっちは想像だけでやってたもんね。
吉田:そう。でも、想像だけでやってるから逆にすごくおもしろいことができたかもしれない。
H:かもね。本家とは違うやり方でおんなじような音を出してたという…(笑)
H:さぁ、それで…この頃、僕の記憶ではローラ・ニーロ(Laura Nyro)が…
吉田:ローラ・ニーロを教えて頂いて…ローラ・ニーロに狂っていましたね。
H:そうだよね。ピアノも元々弾けてたから、ちょうど…
吉田:いや、でもピアノは亜流なんですよ、ほとんど。学校に行くために先生からきちんと正しく習っただけで。いまはどっちつかずになっちゃうから…歌ばっかりですね、最近は。
H:あ、最近は弾いてないんだね。
吉田:弾いてないですね。両方ダメになっていっちゃう、と思ってしまって。
H:そうかそうか。
吉田:歌はやっぱりちゃんと歌わなきゃいけない、と思う。
H:最近はだから…ソウルシンガーとして、世界中で…(笑)
吉田:え?(笑)ソウルシンガーじゃないですけど…でも歌はいいですよね。世界中にはいい曲がいっぱいあるじゃないですか。でも、シンガーソングライターとしてデビューしちゃうと、常に自分で曲を書いて歌っていなくてはいけない、というのをお客様が強いるんですよ。
H:あるね、そういうの。
吉田:だけどそれがイヤで。昔からジャズの人たちとか、いろんな人たちと一緒にやってたので。
H:そうだよね。
吉田:今ね、日野皓正のクインテットとジョイントでツアーを回ってるんですよ。
H:ほう!もうジャズの世界に入ってるんだ。
吉田:いや、ジャズ…私のルーツはジャズじゃないんですけど、おもしろいです。譚歌という日野さんのグループにいたベースの金澤英明という人と。それからこないだちょっとご病気になっちゃってバンドを辞めた石井彰さんというピアニストと。その3人でライヴをやってます。で、オリジナルのほうは森俊之さんという人と一緒にやってるんですけど、ジャズというかカヴァー全部はその譚歌というデュオの人たちと一緒にやってます。
H:うん。ずいぶん前になるけど、"ガラスの林檎"をカヴァーしてたのを聴かせてもらって。
吉田:ああ、松本さんが大喜びで…45周年でしたっけ?コンサート。今度は50周年?
H:45周年のときにもやったんだ。毎年やればいいのにね(笑)
吉田:そのときに歌いながらパッと見たら、前のほうの壁際で思いっきり踊ってました、松本さん。
H:ええ!そんなの見たことない(笑)
吉田:松本さんが踊ってる!と…(笑)見たことないでしょ?私も初めて見たんですけど。
H:あ、でもね…学生の頃というか、はっぴいえんどをやる前はしょっちゅう踊ってた。
吉田:そうなんだ。踊る作詞家だこの人!と思って(笑)
H:(笑)
吉田:ビックリした、そのときは。
H:やっぱりドラマーだからね。
吉田:あー…すごい練習してるみたいですね。
H:そうそうそう(笑)練習してるの?って訊いたら「3日間やった」と言ってたね。3日でいいのかな?(笑)
吉田:そうか、3日間か…(笑)
H:いろんな噂が立ってるけどね。神戸でバンドを作った…みたいなね。
吉田:なんか写真出てましたけど…ピアノを弾いて歌う女の人がいて。一応、グループっぽかったですよ。
H:ほう。なんか、やる気があるのかないのかわからないな(笑)
吉田:どうなんでしょうね。
H:いやー…多分やらないと思うけどね。
吉田:でも今すごいじゃないですか、マスコミへの出方が。
H:出方はすごいよ。でも、作詞家として出てるだけで。
吉田:でも、まんざらでもない顔してますよ(笑)
H:いやー、うれしいだろうね(笑)
吉田:すごくニンマリしてる(笑)笑ったことないじゃないですか、あの人。写真で。
H:そうそう、いつも…
吉田:ムスッとした顔してるから。あ、笑ってる!と思って…そういうところを見て喜んでるんですけど(笑)
H:そうかそうか(笑)
H:ずいぶん長い付き合いだよね。
吉田:そう。ありがとうございます。光栄です、記憶の片隅に居られるのは。
H:いやいやいや(笑)こうやって会えるしね。で、なんかあるときはときどき歌ってもらったりするじゃない。最近はちょっとないけど…もう1曲?
吉田:はい。なんですか?
H:♪~
吉田:あ、それは"外はみんな"です。
H:じゃあそれだ。はい"外はみんな"。これ好きなんです。
外はみんな - 吉田美奈子
(from『扉の冬』)
H:いやー、いま聴いてもいいね、これは。
吉田:細野さんカッコいいですねー!
H:この頃まだベーシストだったんだな(笑)
吉田:この頃は(笑)今はなんですか?マルチプレイヤーですか?細野さん、とにかくね、なにやっても素晴らしいんですよね。ギター弾いても
H:いやいやいや…そんなに褒められると怒られるかも(笑)
吉田:ほんと素晴らしいですよ。やっぱり才能がある人はなにに手を出しても全然問題ない。
H:手を出し過ぎだよ(笑)
H:いやー…美奈子にはすごく親しみがあるんだけど、ときどき怒られるんだよね。
吉田:えー、怒りましたっけ?憶えてないです。
H:いや、憶えてないと思うよ。いつだったかな…アルファの頃だからもうYMOをやってたかな。
吉田:卓の上にコーヒーをこぼすとか、そういう?
H:そういうこともあったけど、それで別に美奈子が怒ることはないからね。松武さん(松武秀樹)に怒られたよ(笑)
吉田:(笑)
H:高いシンセの上に…
吉田:そう、ミルクと砂糖が入ったコーヒーをこぼしましたよね。
H:まずいなぁ、あれは…かわいそうに、松武さん(笑)
吉田:え、でも卓にもこぼしたんじゃなかったかな?
H:卓にもこぼしてるんでしょうね、それは。
吉田:入ったばっかりの新しい機械にこぼして…
H:もう、いろいろこぼすからね、僕(笑)それじゃないんだよ、それじゃなくて…なんだろうな、頭がよくなる本、みたいなバカみたいな本を読んでたの。
吉田:え、細野さんがですか?
H:うん。そしたら「そんなの読んでるから頭良くならないのよ」って(笑)
吉田:えー、ほんとですか?(笑)
H:たしかにそうだよな…でも別に真剣に読んでたわけじゃないんだよ(笑)突然言うんだよ、通りすがりに。表紙を読んで。
吉田:それはきっと観察してるんですね。
H:でもね、反射的にパンッと言うんだよね。
吉田:失礼しました(笑)
H:そういうことって憶えてるんだよね。
吉田:えー、私憶えてないです。
H:いいよ、憶えてなくて。どうってことない話だよ(笑)
吉田:言われた人のほうが憶えてますよね。私はすぐ忘れちゃうんで…なんか降ってくるんですよ、上から(笑)
H:やっぱりね(笑)そういうタイプだよね。
吉田:(笑)
H:なんか体温高いんだってね。
吉田:高いです。でも、手のひらはそうでもないんですけど。
H:いま、僕は36.5度にやっとなってきたんだよ。
吉田:低かったんですか?
H:前はね、ずっと低かった。35度台だった。
吉田:高いほうがいいんですか?
H:高いほうがいい。ウイルスに対抗できるんで…ちょうどいい体温になってきた。別になろうと思ってなったわけじゃないんだけどね(笑)
吉田:よかったですね。きょうは体調大丈夫なんですか?
H:大丈夫、うん。ときどき怠いけどね。どっかでかかってるのかな?(笑)
吉田:(笑)
H:でも、風邪みたいな感じでかかってるかもしれないからね。
吉田:そうですね。でもなんか…氷が解けてるじゃないですか、世界中の氷。
H:うん。
吉田:その中には最低でも50個の未知のバクテリア、ウイルスがいるとか。
H:なんか聞いたことある。
吉田:どうもその中に今回のコロナがあったらしいです。
H:そういう説もあるんだね。
吉田:こわいこわい。
H:ところで…音楽の話。
吉田:はい。
H:相変わらずいろいろ聴いたりはしてるんでしょ?
吉田:聴いたりはしますけど…でも、歌ってるのはありものの、昔の曲が多いので、まずはその曲の譜面を見て、メロディーを把握して。ジャズシンガーではないから、系統だった「〇〇風」とかがないので…カヴァーとしては丁寧に元々のメロディーを歌うようにしようとしています。で、それが楽しい。
H:そうなんだね。ということは曲が好きなのかな?
吉田:そうですそうです。曲がすごく好き。
H:あんまりいないんだよね。「あの歌詞が好き」とかいう人はわりと多いんだよ。
吉田:あー…歌詞ももちろんいいですよ。でも、英語だったりすると聴いてても全然[その意味が]分からない人もいるわけで。その行間で言葉を映像に広げてもらうにはどう歌えばいいか、ということはすごく考えながら歌います。
H:僕が言ったのは、シンガーが好き…例えばビリー・ホリデイ(Billie Holiday)とか。
吉田:それはあんまりないですね。
H:そう、だからそれがめずらしいかな、と思って。
吉田:そうですね。なんかそうなると、その人のモノマネになっちゃうじゃないですか。
H:なってる。みんななっちゃうんだよね。
吉田:それは良くないなぁ、と思って。曲を作った人がその曲をどういう気持ちで作ったか、というのを考えたいですね。それは大切にします。
H:それだ…それなんだよ。いい曲というのは20世紀に山ほどあるからね。全部やりたいんだよ。
吉田:ありますね。でも、細野さんの曲だって歌ってますよ、"終わりの季節"。
H:あー…ありがとうございます(笑)
吉田:あれは歌うと客さんは泣きますね。
H:えー!自分じゃわからない(笑)
吉田:素晴らしいですよ、あの曲。
H:ありがとうございます。じゃあ最後に…曲をかけてお別れしたいな、と。
吉田:はい。
H:自分で選んでくれますか?
吉田:えー…なんだろう、"ひるさがり"が好きです。
H:はいはい…いいですね。じゃあ"ひるさがり"を聴きながら、これで…お別れします。どうもありがとう。
吉田:ありがとうございました。
H:吉田美奈子さんでした。
ひるさがり - 吉田美奈子
(from『扉の冬』)