2020.12.13 Inter FM「Daisy Holiday!」より

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H:こんばんは、細野晴臣です。えー、きょうは…ホント1年ぶりかな?青葉市子さん、いらっしゃい。

市子:こんばんは。お邪魔します。

H:変わらないね。1年じゃ変わらないか(笑)

*ホントは4年ぶりです

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H:なんかこう…いい風が吹いてくるんだけど、どっか行ってたんだね。

市子:行ってました(笑)深いところに…

H:で、新作も…『アダンの風』という。

市子:はい。

H:いい風が吹いてるね。

市子:完成しました。

H:じゃあこの中から…まず最初にちょっと、聴かせてもらおうかな。

市子:最初に…なににしましょう?

H:なにがいいか。

市子:なにがいいかな…じゃあもう、"Prologue"で。

H:うん。

 

 

Prologue - 青葉市子

(from『アダンの風』) 

 

 

H:のっけにアンビエントですね。なんか変わったのかな。

市子:今回…普段は弾き語りで、今までずーっとギターと歌でやってきたんですけど。

H:そうだよね。

市子:今回は架空の映画のためのサウンド・トラック、というのをテーマにして制作したんですよね。

H:そうみたいだね。んー。

市子:沖縄に1月に滞在してたときに、海ぶどうを食べようとして。お箸ですくい取って光に透かしたときに、たくさんのクリーチャーたちが身体に入ってくるような感じがして。

H:ちょっと怖いけど(笑)

市子:小っちゃなかわいい子たちが…そこから突然、物語が降りてきて。

H:なるほどね。

市子:泡盛とかクーブイリチーとかをよけて、そこで物語を書き始めたんですけど。

H:へぇ。

市子:そのときに…少女とクリーチャーたちが登場するんですが、島流しに少女が遭うんです。島流しに遭うときに少女が乗っていた船を島民たちがエーイ!って沖に押し出すときの音はもう、オルガンだ、っていう風に…

H:なるほど。今のがそうなんだね。

市子:はい、そうです。そのシーンです。

H:そっか。いやー、もう、映画が観たいな、それ(笑)

市子:まだ存在しないんですよね(笑)

H:そうかそうか。

 

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H:じゃあ、この1年はずっと…そういうところにいたのね。

市子:はい。

H:パラダイス。

市子:パラダイス…(笑)

H:うらやましい…いや、ホントに行きたかったけどね。じゃあ、主に八重山のほうかな?

市子:ですね。慶良間諸島とか、沖縄本島もいましたけど、八重山や…あとは奄美大島

H:あ、奄美もね。

市子:加計呂麻…その辺りに。

H:「アダン」っていうのは植物だっけ?

市子:そうです。ゴツゴツした…

H:そうだよね。トータルでどのくらい行ってたわけ?

市子:トータルで…でも、1か月に満たないくらい。ちょこちょこ集中して行って、撮影して、プロットを書いて、すぐ戻って来るっていう。

H:じゃあレコーディングは東京で、という。

市子:そうです。はい。

H:そっか。じゃあ向こうで…海にも入ったの?

市子:海、入りました。もう、人がいないんですよね。

H:でしょう。

市子:なので、あえてもっと人がいないところを選んで行っていたので、牛ばかり周りに…(笑)

H:あ、ホント?(笑)

市子:石垣牛たちといっしょに泳いで…(笑)

H:ありゃま…(笑)それはなかなかないなぁ。人がいない沖縄っていうのはやっぱり、古代を思い出すね。思い出すっていうか、思わせる。

市子:本当にそんな感じでした。人っ子一人いなくて。

H:もちろん、カメラマンの人とかはいっしょに行ったわけでしょ?

市子:ええ。

H:でもまぁ、ひとりで海に行ったりする感じは…なんだろうな、どんな気持ちなんだろう?

市子:うーん…ジャケットの撮影もそうですけど、服を纏わず、身一つで入って行って。

H:おや…

市子:なんか、牛たちを見てると…人のほうがめずらしいんですよね。異物というか…

H:そっか(笑)

市子:[衣服を]纏っていたりするのが不自然に思えるぐらいの…

H:牛は服着てないもんね。

市子:自然の力がとても強かったので。泳ぎもできると思ってなかったんですけど、水着を着ていたりシュノーケルを付けていたりするから難しいんだ、と思って。

H:なるほど…

市子:皮膚が波の感覚とかを覚えてくると、泳げないと思っていても自然とわかる…次の波の高さとかが。

H:じゃあ、元々は泳げなかったわけ?

市子:そうですね。そんなに得意ではない…

H:でも、スムーズに…魚みたいになっちゃったんだね。

市子:なってましたね、たぶん。

H:イルカとか魚…服着てないね、そういえば(笑)

市子:そうなんです。人って不思議だな、言葉も使うし。

H:ホントに。ますますそうなってきたね、今。

市子:ヘンですね。

H:ずっとマスクしてるしね。こういう場でもしてますけど。

  

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H:じゃあ、サウンド・トラックからもう1曲…聴いてもいいかしら?

市子:はい。なんか、細野さん、これ!っていうのありますか?名前を見て…

H:じゃあタイトルで…まだ聴いてないんで。

市子:はい。

H:んー…意味がわからないのもあるね。"chinuhaji"って…沖縄の言葉かしら。

市子:その"chinuhaji"は"血の風"のインタールードのような曲で…

H:あー、そっか。

市子:その後の"血の風"は沖永良部島の言葉を使った歌なので…はい、"血の風"をお願いします。

 

 

血の風 - 青葉市子

(from『アダンの風』) 

 

 

H:なんか気持ちいいな…ボーっとしてきちゃった(笑)

市子:たくさん楽器が入ったものを…と思ったのに、ほとんど弾き語りだった。ごめんなさい(笑)

H:いいよいいよ、後で聴くから…(笑)

 

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H:ギターじゃなくて、それは…恒例の、なんかやってもらえるんじゃないのかな?

市子:(笑)きょうはね、ギタレレを持ってきました。

H:かわいらしい…ウクレレとギターの間、6本弦ですけど。

市子:そうです。

H:いいね、ピッタリだね。僕だとちょっと小さいんだけど…(笑)

市子:ほんとに抱っこできるサイズですね、これは。

H:それはずっと持ってたんだね、今回。

市子:ずーっとこれを持って移動してました。

H:そして、そこにある鳴り物が…

市子:これはシュタイナーの鐘と言って…

H:あのルドルフ・シュタイナー(Rudolf Steiner)のことかな。

市子:はい。

H:わ、すごい…これはまた、高級なウインドチャイムの音がする。

市子:これは風の音で…こちらが水の音…

H:あ、音程が違うんだね。

市子:これはさっきの"Prologue"にも入ってたんですけど。

H:そっか。

市子:これで最初は曲を作ってて…~♪

H:ホントだ。これは楽器だね。ちょっと貸して、それ。

市子:はい。じゃあ水の音を…

H:水の音担当で…じゃあ、歌ってもらおうかな、これで。

市子:~♪…細野さんが鳴らすとほんとにせせらぎ、水のせせらぎですね…(笑)

H:これは入り込むよ、この音。すばらしい。これは聴いてる人寝ちゃうな、ぜったい(笑)

市子:おやすみなさい…(笑)

H:おやすみー。

市子:こんな楽器も今回はたくさん使っています。

H:これはすばらしいですよ…歌ってくれるの?

市子:あ、では…(笑)こんなんでよければ…

H:もちろん!これはもう、恒例ですから。

市子:じゃあ…"奄美蛙歌"じゃなくて、今回は"Sagu Palm's Song"という名前で入ってるんですけど…

H:んー。外国の曲名みたいだね。

市子:はい、「ソテツの歌」。じゃあ行きます。

 

 

Sagu Palm's Song(生演奏) - 青葉市子

 

 

H:良かった…この歌、好きだな。

市子:うれしいです(笑)

H:これ[アルバムに]入ってる?

市子:入ってます。これは奄美大島で作りました。

H:へぇ…なんか言葉もおもしろかったし、よかったな。もういいや、話さなくても…なんてね(笑)

市子:(笑)

 

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市子:今年の2月ぐらいに…小さな、阿佐ヶ谷の映画館で『銀河鉄道の夜』を上映してたんですよ。

H:やってたね。その話は知ってる。

市子:で、観に行ったんですね。

H:あ、ホントに?

市子:私の実家にはビデオテープがずっとあったんですけど。

H:そうだね、ビデオの時代に出たからね。

市子:でもジャケットだけ見ていて、本編を観たことがなかったんです。それをこの歳になって初めて映画館で観て。

H:へぇ。

市子:で、細野さんのサウンド・トラックを聴いて。♪ダダダダーン、タンタンタンタンタン…ドーン!

H:(笑)

 

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市子:それがほんとに好きで。

H:そうか。

市子:このアルバムは…『アダンの風』で南の島のことを歌ってはいますが、根底に『銀河鉄道の夜』のあの世界がキラキラと散りばめられているような気が自分でもしてるんです。

H:ホントに?なるほどね。宮沢賢治の宇宙観というか。根底には通じますよね。

市子:はい。浜がキラキラして光っている様子とか、夜光虫がザーッて光る感じとか。

H:たしかにね、僕、「銀河鉄道」を作ってる頃…1980年代、よく沖縄に行ってたから(笑)

市子:あ、そうなんですね。そっかそっか。

H:似たような経験はしてると思うよ。誰もいない海っていうのは知ってるもん(笑)

市子:はい(笑)あのときの、人間以外の生命たちが勢いよく湧き上がってくる感じって、独特なんですよね。生ぬるい…

H:そうですよね。海自体が生きてるんで…ずーっと海の中に腰かけてるんだよね、お風呂みたいに(笑)

市子:そうそうそう…(笑)

H:そうするとほら、満ち引きで音が…ゴボゴボゴボゴボ。どんどんどんどん海がせり上がってくるっていうか。生きてる、と思って。

市子:うん。

 

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H:いやいや、なんだかこの…突然沖縄の世界に浸っちゃいますよね。遠かったからね、この1年。

市子:そうですね。街が静かになって、周りも静かになって。限られた人としか話せない中で…閉じてるように思えて、視覚とか聴覚とか嗅覚とかがどんどん開いていく…閉じるからこそ、自分の心の中にあったものがよく聞こえてきて。

H:うん。

市子:なので、ここまで没頭して作品作りができた…ということでもあります。

H:そうだね。それは才能だよな。

市子:いやいや…状況がそうさせてくれました。

H:僕はぜんぜんそうなんないんだよ(笑)

市子:(笑)

H:キョロキョロキョロキョロして。世の中どうなってるんだろう、って。外ばっかり見てたけどね。

市子:うーん。

H:おかげさまで、正気に戻れそう。やれやれ…ちょっとチャイム…これはどこで手に入るんだろう?

市子:これは福岡にお店があると思うんですが、ネットでも売っていて。

H:あ、ホント?ぜひ僕は手に入れます、これ。

市子:細野さんによかったら水の音色を差し上げます。

H:いやいやいや、ダメ。

市子:ほんとに。

H:セットだから、これは。

市子:いや、まだあるので…火や地が。回してらっしゃるのがピッタリだな、と思ったから…

H:いやいや、そんな…口が滑っちゃったんじゃないの?大丈夫?もらっていいの?本当に?

市子:大丈夫です、もちろん!

H:うわーい。

市子:アルバムに使ったので…

H:じゃあ僕も使おう。

市子:私は風を持ってますから…

H:これはなんか「里見八犬伝」みたいだ。

市子:(笑)

 

H:それでは…もう1曲かけれる?

市子:じゃあちょっと最後はうるさい…うるさいっていうか…(笑)

H:うるさい曲があるわけないよ(笑)

市子:うるさい曲というか…じゃあ、がんばってビクタースタジオでせーの…で録ったやつ。

H:へぇ。

市子:"Dawn in the Adan"。

H:じゃあ、これを聴きながらお別れしますね。

市子:はい。ありがとうございました。

H:また来てください。

市子:はい、ぜひ。

H:青葉市子さんでした。

 

 

Dawn in the Adan - 青葉市子

(from『アダンの風』) 

 

 

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