2019.10.06 Inter FM「Daisy Holiday!」より

 

 

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H:こんばんは。細野晴臣です。先週、ジョアン・ジルベルト(João Gilberto)特集をそのうちしたい、と思っていましたが…早速、きょうやります。つきましては、伊藤ゴローくんに来てもらってます。よろしくね。

ゴ:よろしくお願いします。

H:いろいろと…いろんなことを教えてもらいたいんです。

ゴ:いやいやいや…(笑)そんな、教えることは…ないんですけども…

H:いやいや…あのね、ゴローくんのギターに惚れてるんですよね。

ゴ:いやぁ、そんなこと言って頂いて…うれしいですけど(笑)

H:いや、ホントに(笑)何曲か僕、いっしょにやって。

ゴ:はい。

H:それで…なんだろう、突然「歌ってくれ」って頼まれたんだよね(笑)

ゴ:そうですね(笑)

H:すごい難しい曲だった(笑)

ゴ:いや、もう細野さんしかないな、と。

H:なんでそう思ったの?だって僕、あんまりそういうのやってないし。まあでも、おかげでやる気が出てきたっていうか。

ゴ:(笑)

H:ボサ・ノヴァ

ゴ:いやぁ、すごく良かったですよ。

H:あ、そうですか?

ゴ:コンサートも。ね。ライヴでもやりましたね。

H:ね、よかったね。

ゴ:あのときもすごく良いライヴでした…

H:誘ってくれてうれしかったんですよ。

ゴ:いやホント、出て頂いてよかったです(笑)

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H:じゃあね、ジョアン・ジルベルトが7/6かな?亡くなったんですね。

ゴ:そうですね。

H:おいくつだったんだっけ?

ゴ:88歳。

H:もう、大往生かな。

ゴ:んー、そうですね。

H:東京に来たときは観に行ったんですか?もちろん。ね?

ゴ:行きましたね(笑)

H:伝説ですよね。

ゴ:そうですね。

H:最近、DVDが出ましたよね。

ゴ:そうですね、出ました。

H:監修してる?

ゴ:いやいや、監修はしてないですけれども…(笑)ちょっと、中に文章を載せて頂きました。

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H:じゃあ、早速なんか1曲…挨拶代わりに。

ゴ:はい。

H:ジルベルトさんの声を聴きたい。

ゴ:どれが良いんでしょうかね?

H:もうお任せしちゃう。いちばん好きな曲はなんなの?そういうのあるの?いちばんっていうのは無いよね。ぜんぶ良いから。

ゴ:なんかちょっと…最近、また聴き直してる曲があって。

H:おー、それはなんだろう?

ゴ:(笑)や、これなんか、細野さんにピッタリかな、と思って。

H:ええ?いやいやいや…(笑)

ゴ:これがいいかなと思って。

H:聴かせてください。

ゴ:"Undiú"という曲なんですけど。

H:ほほう…僕、まだわかってないかもしれない。聴けばわかるかな?

ゴ:聴けばわかると思いますよ。えーとね…この白い…

H:あ、白い…「ホワイト・アルバム」と呼ばれているやつ

ゴ:2曲目の…ちょっと長い曲ですけど。

H:はい、聴きましょう。

 

 

Undiú - João Gilberto

(from 『João Gilberto』)

 

  

H:いやー、ぜんぶ聴いちゃいましたね。

ゴ:はい。長いですね…

H:スキャット、というか、ハミングだけで5分ぐらいやるってすごいね。

ゴ:そうなんですよね。これといって何を歌ってる、というわけじゃなくてですね(笑)

H:どんな意味なんだろう。

ゴ:「Undiú」という言葉の意味はぜんぜんわかんないですね。

H:そうか。あれ、ゴローくんってポルトガル語が出来そうな感じがする。

ゴ:いやいや、ぜんぜん…(笑)挨拶っていうか、それぐらいしか出来ないですけど…

H:いやー、ポルトガル語は難しくてね。

ゴ:細野さんは、でも、すごい雰囲気が…

H:いやいやいや、雰囲気だけで…本当にわからない。

ゴ:あー…でもね、いちばん最初に細野さんとボサ・ノヴァをやった曲、憶えてます?"O Sapo"っていう曲で、カエルの曲。あれも歌詞が無くて。

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H:あれは大好きだ。

ゴ:♪ゴルゴル~、ゲルゲル~…みたいな(笑)

H:そうそうそう。あれはね、歌える(笑)あれはわかりやすい。

ゴ:ですよね。で、この曲もまぁ、スキャットみたいな。

H:まぁ、これだったら大丈夫かな(笑)でも、この曲難しいよ。

ゴ:難しいですよね。

H:ずーっと繰り返して、瞑想しちゃうよね(笑)meditationしちゃう。

ゴ:そうですよね。これ、ジョアン・ジルベルトが自分で作った曲なんですけれども。

H:あー、そっかそっか。

ゴ:彼の自作の曲は何曲かあるんですけれども…

H:少ないんだね、意外に。

ゴ:少ないですね。で、初期の頃というか…"Bim Bom"という曲。♪ビンボン、ビンボン…

H:あー、はい。

ゴ:ずっとビンボンビンボン、半分はビンボン言ってる曲なんで…(笑)それも歌詞といった歌詞が無くて。

H:無いか。

ゴ:途中で少し歌詞はあるんですけども…まぁ、わりとスキャットの曲ですよね。

H:そうだね。

ゴ:あと、もっと古い曲で、"Hó-Bá-Lá-Lá"という曲があるんです。あれも、♪オー、バララ、と…(笑)

H:歌詞作るのがイヤなのかね(笑)

ゴ:あまり言葉というか…意味が無いほうが、たぶん、彼はいいのかな、と。

H:そうなんだね。すごく音楽的な人だね。

ゴ:そうですね。

H:なんであんなに音程が良いんだろう、と思って。いつも。すごい…

ゴ:パーフェクトですよね、音程。

H:あと、声がトランペットみたい、というか…管楽器みたい。

ゴ:楽器のような声ですよね。声の出し方…

H:そういう曲もあるよね。歌いだしが楽器みたいな…

ゴ:ありますね。

 

 

H:じゃあ…なにがいいかな。

ゴ:なんか、選んでくださいよ、細野さん(笑)

H:じゃあ初期の…これ、読めないんだよね、僕。「シェガ・ディ・サウダーヂ」でいいのかな?

ゴ:"Chega de Saudade"。

H:"Chega de Saudade"。

 

 

Chega de Saudade - João Gilberto

(from 『Chega de Saudade』)

 

  

H:えー、ジョアン・ジルベルトで、"Chega de Saudade"です。えーと、ゴローくんはいつからジルベルトを聴いてるんだろう?

ゴ:えーと…うちの父親が『Getz/Gilberto』のレコードを持ってて。それを初めて聴いたのが中学生ぐらい…ですかね。

H:ギターはいつから?

ゴ:ギターもね、その頃からポロポロやってたんですけども。でもさすがに、ボサ・ノヴァをやってみよう、なんて…(笑)

H:中学生だとあんまり思わないかもね(笑)

ゴ:思わないですよね(笑)

H:で、そのうち、やり出したんだ、じゃあ。本気で。

ゴ:そうですね。いつかやってみたいな、と思いつつも、なかなか…チャンスが無くて。

H:じゃあ、ブラジルに留学っていうか…行ったりしなかった?(笑)

ゴ:いやいや、それは無いですね(笑)まぁ、[音楽を]やり始めてからレコーディングで行く、みたいな感じで。ひたすら部屋で修行してました。

H:あのギターはどうやって覚えていったの?

ゴ:もう、レコードを聴いて、ひたすら…反復練習というか(笑)

H:そうなんだ。やっぱりジルベルトを?

ゴ:そうです、はい。

H:そうか。やっぱり聴いて…指づかいとか、わからないところあるでしょ?(笑)

ゴ:そう…わからないですよね、実際。わからないんで、こんな感じかなぁ、とか思いながら…(笑)

H:それで、「Live In Tokyo」がDVDで出て…よく見えてるわけでしょ?指が。

ゴ:あれはね、ホント…左手も右手もぜんぶ見えてるというか…

H:じゃあ、確認できるんだね。

ゴ:いろいろ確認できて、すばらしいです。

H:それはすばらしい。僕も見たい。

ゴ:観てください(笑)

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H:ギターはどこのを使ってるんですか?

ゴ:ギターは…このギターじゃなきゃダメ、みたいのはそんなにないんですけれども、今は日本の…越前くん(越前良平)っていうギター作家さんがいて。

H:特注で作ってるんだね。

ゴ:そう、彼のギターを使ってますね。

H:ジルベルトはなにを使ってるんですか?

ゴ:ジョアンは…ブラジルのギターですね。ディ・ジョルジオ(Di Giorgio)という…

H:え?

ゴ:ディ・ジョルジオ…ちょっと言いにくいブランドですけども。そのギターをずっと使ってますよね。

H:ディ・ジョルジオ。んー…

 

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H:会ったことある?

ゴ:え?ジョアンですか?

H:はい(笑)

ゴ:いやいや…(笑)無いですよね。

H:無いか。んー。

ゴ:なかなかね、会えないらしいですよ

H:そういう映画をこないだ観に行ったんだよ(笑)

ゴ:僕も観ました(笑)

H:観たでしょ?パンフレットに[コメントを]書いてるよね。

ゴ:なかなか会えないもんですよね。

H:あの映画はね、観てモヤモヤしてきたよ、やっぱり(笑)

ゴ:そうですよね(笑)

H:ホントに会えないのかね。

ゴ:やっぱり、ホントに会えないんですよ。いろんなブラジルのミュージシャンがたくさん出てたじゃないですか。

H:そうだね。周りの人はいっぱい出てきて。

ゴ:そう。彼らは[ブラジルに]行くと会えるんですよ。僕も何度か行ってますけど、行くと必ず…(笑)

H:普通、会えるよね(笑)

ゴ:普通は会えるんですよ。特にジョアンの2人目の奥さん…ミウシャ(Miúcha)っていう。

H:あー、はいはい。映画に出てきた。

ゴ:彼女は、行くと必ず…[劇中では]カフェで話をしてたと思うんですけど、あそこのカフェに必ずいるんですよ。

H:あ、ホント?で、あの映画でもやっぱりそういうシーンがあって…ドイツ人だっけ?青年が会いに行って。その元奥さんのところに行ったら、電話がかかってきたんだよね。

ゴ:そうですね(笑)

H:ジョアン・ジルベルトから(笑)

ゴ:(笑)

H:で、声は聞こえるんだけど…それでも取り次いでくれないのね。なんで?(笑)

ゴ:なんか、あの調子で行くと会えそうな感じですもんね(笑)

H:ね。不思議だった…やっぱり、「神様」になっちゃうね、それじゃあ。

ゴ:そうですね。ミウシャがよく行ってるカフェから見えるところにジョアンは住んでるんですよね。

H:住んでるんだよね(笑)

ゴ:うん。でも、降りてこないんですよ(笑)

H:人が嫌いなの?そういうわけでもない…

ゴ:どうなんでしょうかね…

H:謎だらけなんでいろいろ訊きたかったんだよね。なんか、小野リサさんは電話で話した、っていう話をこないだ聞いた。

ゴ:そうそうそう…なんか話したって言ってましたね。

H:ひょっとすると、会っていっしょになんかやる、っていうのも実現したかもしれないんだろうね、きっと。わかんないけど。

ゴ:どうなんでしょうね。なかなか、電話で話すっていうのも…

H:でも、ジョアン・ジルベルトは電話好きって聞いたけどね(笑)

ゴ:うんうん(笑)なんか、一日中電話してたみたいですよ。

H:あ、そうなんだ(笑)

ゴ:途中でギター弾き出して…ずっと受話器に向かって歌ってくれるらしいですよ(笑)

H:(笑)そうか。不思議な人だなぁ…なんか、ぜんぜん他の人と違うよね。ギターの練習はやっぱり、ものすごい熱心にやったんだろうね。あのお風呂場で。

ゴ:ね。たぶん、相当…

H:引きこもって。

ゴ:引きこもって練習したんだと思いますけどね。んー…

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H:サンバが元になってるけど、あの静けさっていうのはジョアン・ジルベルトアントニオ・カルロス・ジョビン(Antônio Carlos Jobim)の作ったものだなぁ、と思ってたんだよね。

ゴ:いやー、でもそうですよね。

H:だから「ボサ・ノヴァ」ってひとことで言うけど、本当は彼らのものだよね(笑)

ゴ:そうですね。まったくそうだと…(笑)

H:で、日本ではバブル期にボサ・ノヴァが流行ったらしくて…(笑)

ゴ:(笑)

H:カフェ・ボサ・ノヴァ若い女の子とかが「いいわよねー」みたいな(笑)「"イパネマの女"がいいわよねー」とかね。「風が吹くのよね」とか。そういう話は聞いたことあるけどね(笑)

ゴ:(笑)

H:ということは、今はそんなに景気が良くないからね。どうなんだろうな、と。

ゴ:あー、そうですね。でも細野さんはすごく…合ってる、っていうのもヘンですけども…(笑)

H:(笑)そうかなぁ…

ゴ:いいと思いますよ。

H:いやー、勧めるねぇ…

ゴ:まぁちょっと、言葉がね。言葉というよりは、さっきのスキャットみたいのはすごくピッタリじゃないかな、と。

H:あれはね。まぁスキャットなら…いや、でも、勘弁して(笑)

ゴ:(笑)

H:難しい…(笑)

 

H:じゃあ曲。えーと、その「ホワイト・アルバム」(『João Gilberto』(1973))っていうのはどういう状況で作られたんでしたっけ?

ゴ:これはですね、アメリカでレコーディングを…ウォルター・カルロス(Walter Carlos)?ウェンディ・カルロス(Wendy Carlos)がプロデュースとかエンジニアを。彼が録ってるんです。

H:え、意外。それは知らなかった。

ゴ:そうなんです。1973年とか74年とか、そのぐらいですよね。

H:ウォルター・カルロス、ウェンディ・カルロスに…女性になっちゃった人だ。『Switched-On Bach』作った人ね(笑)

ゴ:そうです、そうです。

H:そうだったんだ。

ゴ:彼が録ったんですよね。あまり資料が無いんですけども。

H:なんか、地下[で録音した]っていうのは聞いたことがある。

ゴ:そうそうそう。[ジョアンが]スタジオに夕方、っていうか、夜?おもむろにやってきて…(笑)

H:ニュー・ヨークだったかな?

ゴ:ニュー・ヨークですね。

H:やっぱり、このアルバムがいちばん不思議っていうか、ジョアン・ジルベルトの真髄というかね。

ゴ:んー。ホント、そうですね。

H:その中から…うわ、この人すごい、息継ぎがない!肺活量すごい!と思った曲が"Trolley Song"。ここに入ってるかな。

ゴ:はい。"Trolley Song"は…

H:これじゃないや、ごめん。どれだっけね。アルバムが違った。

ゴ:"Trolley Song"は…『彼女はカリオカ(Ela É Carioca)』という…あれもメキシコで録ったアルバムですよね。

H:そうだ。これも名盤だよね。

ゴ:名盤ですね。

H:メキシコだ。そうそうそう…じゃあそこから、いい?"Trolley Song"聴いていい?

ゴ:うん、聴きましょう。

 

 

Trolley Song - João Gilberto

(from 『Ela É Carioca』)

 

  

H:えー、"Trolley Song"でしたけど。ジョアン・ジルベルトってけっこう、アメリカのこういう音楽やるよね(笑)

ゴ:やりますね。

H:英語で歌ってるのもなかったっけ?

ゴ:ありますね。なんか、かわいらしい英語で歌ってますね(笑)

H:そうそうそう(笑)

 

H:いやいやいや…話が尽きないからね、すぐ時間経っちゃった。あと1曲になっちゃうんですけど…どうしようかな。じゃあ、ゴローくんとライヴでやった、カエルの歌ね。

ゴ:はい。"O Sapo"ですね。

H:"O Sapo"ね。ではこれを聴きながら、また。来週やります。

 

 

 

O Sapo - João Gilberto

(from 『João Gilberto En Mexico』)