2018.10.07 Inter FM「Daisy Holiday!」より


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H:こんばんは、細野晴臣です。きょうは久しぶりに、レギュラーの…
 
O:岡田崇、です。
 
H:よろしくね。
 
O:よろしくお願いします。
 
H:どうすか?
 
O:もう、10月ですよ。
 
H:10月だって。
 
O:イヤになっちゃう(笑)
 
H:イヤになっちゃう…なんか、次々にやってくるね。新しい日が。
 
O:(笑)
 
H:きょう終わると明日だよ、だって。
 
O:マジすか?
 
H:明日の次はあさってだぜ。
 
O:ああ…昨日になんないかな…
 
H:ね。最近、なんかね、身体がリワインド(rewind)してる感じがあるよ。巻き戻し。
 
O:若返ってる、ということですか?
 
H:なんだろう。ずっとね、僕スタジオにいま籠ってて。
 
O:お、やってますよね。着々と…
 
H:やってますよ。着々、というか大変だよこれは…もう本当になんか、後悔してるんだけど(笑)
 
O:(笑)
 
H:難しいことやってるんだよ、いま。●●●。●●。あ、まあいいや、これはね、まだ解禁してない。大丈夫(笑)
 
O:(笑)
 
H:だから、スタジオ入ってると…なんて言うの?内面にしか旅に行かないっていうかね、外にぜんぜん行かないの。
 
O:そうですよね。自分に向き合うしかないですもんね。
 
H:そう。だからヴァーチャル感覚、すごいんだよね。なんだろう。
 
O:ひとりでやってるし…
 
H:そう、ひとりで…久しぶりだよ、ひとりでやってるの。20年前はずっとひとりだったな僕、そういえば。孤独に(笑)
 
O:(笑)
 
H:えー…どうですか、岡田くんは。
 
O:もう、五十肩がね…痛くて、もう。つらい。
 
H:えー?おんなじだね、僕と。
 
O:腕、左がぜんぜん上がんないですね。
 
H:左が治るのは…半年くらいかかって治るんだよ、それ。
 
O:突然ですか?
 
H:まあ、なんとなく突然。
 
O:いまはずっとストレッチやったりとか…
 
H:そうすっと今度は右に来るからね。
 
O:移るんですね…(笑)
 
H:移るよ(笑)僕は左がひどかったのが治って右に来てんの。で、手を伸ばしてなんか取るの大変なんだよね。
 
O:そう!なんか、奥の方にあるものを…
 
H:それ。いちばん痛いの。イテーっていって、ジーンと尾を引くんだよな、痛みが。
 
O:ホントに…それですよ、いま。
 
H:じゃあ岡田くんは、年相応に(五十肩に)なってるわけね。
 
O:そうですね。
 
H:ということは僕は若返った、ってことだよね。五十肩に。
 
O:「七十肩」かもしれないですよ。
 
H:そんな話は聞いたことが無いね。
 
O:(笑)
 
 
 
H:はい、音楽の時間です。
 
O:きょうはですね、前回来た時にウィラード・ロビソン(Willard Robison)とかをかけたと思うんですけど。
 
H:ウィラード・ロビソン、はい。
 
O:ヴァン・ダイク(・パークス)がやらないのかな?っていう話をしてたじゃないですか。
 
H:うん。
 
O:調べたら、2006年にヴァン・ダイクがプロデュースしたマーレイズ・ゴースト(Marley's Ghost)という4人組の楽団がいて。
 
H:知らんなぁ…
 
O:その人たちのアルバムの中で1曲、ウィラード・ロビソンをヴァン・ダイクがプロデュースして、やってますので…
 
H:ぜんぜん知らなかった。聴きたい。
 
O:"There's Religion in Rhythm"です。
  
 
There's Religion in Rhythm - Marley's Ghost
(from 『Spooked』)
 
 
H:なるほどね。ヴァン・ダイクっぽい…
 
O:そうですね。
 
H:わりと、こう…マジメにやってるな、っていう感じ(笑)
 
O:(笑)
 
H:なるほど…知らなかったな。
 
O:ぜんぜん知らなかったです、そんなアルバムが出ているなんて。
 
H:まあね。あの…ヴァン・ダイク・パークスVan Dyke Parks)って…なんだろ…いいや(笑)
 
O:(笑)
 
 
 
H:えーと、僕がかけるものってないんですよね。
 
O:…お?(笑)
 
H:なんでかって言うと…ちょっと今度、次、自分だけのところ(回)で発表するけど、いま大きな変化を迎えてるんだよ。
 
O:お。そうなんですか。
 
H:ずっと15年ぐらい、バンドでやってたじゃない。ブギやったりね。
 
O:はい。
 
H:で、いま取りかかってる仕事が、それを許さないわけよ。
 
O:そうですね。
 
H:うん。だもんで、さっきも言ったけど、ヴァーチャルな感じで、拡張現実の気持ちになってるわけ。そういう時に、今の音楽ってどうなってるんだろう、って思って。
 
O:うん。
 
H:表面的にはあんまりおもしろくないんだけど。なんだろう、たとえば、時々ビックリするような音があるじゃない。(♪iPhone)たとえば、マイケル・ジャクソンの『DANGEROUS』っていうアルバムがね、良かったり。(ブリトニー・スピアーズの)『Britney』のネプチューン(The Neptunes)のプロデュースが良かったりね。
 
O:はい。
 
H:それにちょっと首突っ込んだのよ。で、元をたどって行ったら1990年代ぐらいに「ニュージャックスウィング(New jack swing)」っていうのがあって、テディ・ライリー(Teddy Riley)という人物がいて。これが天才なんですよね。その彼が手がける音がすごいんだよね。それにすごく影響されて…(笑)
 
O:(笑)
 
H:いっぱい聴いてて。謎なんだよ、今だに。あの音作りが。そう簡単に出ないんだよね、低域とか。出てるようで出てないようで出てるようなね、すごいヘンな…で、それの流れがずっと、今に至るんだよな。
 
O:うんうん。
 
H:で、僕はFM聴いてて、昔。2000年代かな。車でよく聴いてたわけ。そしたら音がやたら良くなってたのね、当時。それの源流は「クワイエット・ストーム(Quiet Storm)」っていうムーヴメントで。FM放送用のミックスみたいなね。それも元をたどればニュージャックスウィング辺りの影響があるわけ。音作りの。
 
O:そうなんですね。
 
H:だからいま、音作りの世界にバーって入っちゃってて(笑)なんか、今までとちょっと違うんですよね。というか、時々あるんだけどね、こういうことは。
 
O:(笑)
 
H:そんな中で、いろいろリサーチして…ま、そのうちかけるけど、きょうはそういうのじゃなくて…世界一せわしない音楽っていうのを聴いてみていい?
 
O:はい。
 
H:ものすごいせわしないから(笑)このジャンルはなんだかよくわからないよ、僕には。で、どれを聴いてもおんなじなんだけど。適当に選んでみる…『Granada Music』っていう、アルバムがあるんですけどね。じゃあ、"Bambawa"っていう曲。
 
 
Bambawa - Boogie B
(from『Granada Music Volume III』)
 
 
H:ま、こんな感じなんですよ(笑)
 
O:どの曲もこんな感じなんですか?
 
H:これは比較的ユルいほうだよ(笑)
 
O:もっとせわしないのがあるんですね(笑)
 
H:なんかコンピレーション…この"Bambawa"っていうのはBoogie Bっていうグループなんですけど、アフリカ系ですよね。ザイール辺りの音楽を思い出すよね。昔フランスで「ズーク(Zouk)」っていうのが流行って、それにすごく似てる。「メレンゲ(Merengue)」とかもせわしない。
 
O:うん。
 
H:なんでこんなせわしないんだろうって思って。気持ちがいま、追いついていけないんだよね、こういう音楽に(笑)
 
O:(笑)
 
H:さっき言ったクワイエット・ストームとか、ああいう流れはカリフォルニア辺りで発生してて、音が素晴らしいと。だいたいみんなスローテンポなんだよね。なんかこう、今の音楽より良いんだよね、音が。なんだろう、あれは。いまだに価値があるよ。今度やるけど。岡田くんが好きかどうかはわからないけど(笑)
 
O:(笑)
 
 
 
H:はい、戻します。岡田くんの世界に。
 
O:いやいや…どうしよう(笑)
 
H:いいよ、どうしようもしなくて(笑)
 
O:あの…今度11/3の「レコードの日」っていうのがあるんですけど。そこで大滝(詠一)さんのカヴァー集っていうのが出るんですよ。『GO! GO! ARAGAIN』っていう。アラゲイン(ARAGAIN)っていうのはナイアガラ(NIAGARA)を逆に綴ったもの…
 
H:へぇ、おもしろいね。
 
O:ARAGAINっていうのは、大滝さんの楽曲管理の会社がARAGAINっていうんですけど。
 
H:あ、そっか。
 
O:で、そのジャケットを手伝いしたんですけど、前に野上(眞宏)さんの写真展のトークショーの時に会ったキーポン(KEEPON)くん…
 
H:ああ、キーポンくん。キーポンくんの噂は時々聞くね。
 
O:彼が、ついにですね。
 
H:デビューしたの?
 
O:"ロックン・ロール・マーチ"をやってまして。
 
H:ほほう…なんか噂聞いてるよ。ライヴに出たりとか。中学生だよ(笑)
 
O:14歳ですね(笑)細野さんから音像についてアドバイスを受けた、って言ってましたけど(笑)
 
H:(笑)
 
O:ミックスに時間をかけてみたんです、と言ってましたので。聴いてみましょうか。
 
H:ほう。ちょっと聴いてみたい。キーポンくんで、"ロックン・ロール・マーチ"。
 
O:はい。
 
 
ロックン・ロール・マーチ - KEEPON
(from『GO! GO! ARAGAIN』)
 
 
H:すげえな。恐るべし。
 
O:ひとりで全部…
 
H:ひとりでやってるんだ(笑)
 
O:ひとり多重録音ですね(笑)
 
H:すごい中学生だよね。声が大滝くんに似てるよね。
 
O:ねえ(笑)
 
H:かなり…入りこんでるね。
 
O:一年半前にはっぴいえんどを聴いたらしいですよ、初めて。
 
H:ついこないだじゃん。なんてこったい…これからどうなるんだろう、この人(笑)
 
O:最近は細野さんのテクノ部分も聴くようになってきました、と。
 
H:本当?
 
O:先週、YMOの1stを買ったらしいです(笑)
 
H:本当?先週?(笑)いやー、楽しみっていうか、恐るべしだよなぁ。なんか、最近の子ども…子どもって言えないか、中学生は。でもすごいな。うん。オリンピック出れるよね。
 
O:(笑)
 
H:えー、キーポンくんね。憶えておいてください、KEEPON。おもしろいね。
 
 
H:えーと…ということで僕はかけるものが無いんだよ(笑)
 
O:じゃあ…このあいだ、神保町で買ったシングル盤が…ピエール・スピエールとゆかいな仲間(Pierre Spiers et son orchestre)。フランスの1958年ぐらいだと思うんですけど、アンドレ・ポップ(André Popp)とか、あの辺りと同じ時期だと。
 
H:いい時代だよね。
 
O:その中から"もっとも素晴らしいジャヴァ(La Plus Bath des javas)"。
 
H:日本盤なんだね。
 
O:そうなんです。日本盤で買ったんです。
 
 
La Plus Bath des javas - Pierre Spiers et son orchestre
 
 
H:どんなグループだったんだろう(笑)冗談音楽かと思ったらわりとマジメにやってるよね、音楽。
 
O:この人は時々かける、ジャンゴ(・ラインハルト)みたいなチャン・チャオ・ヴィダル(Tchan Tchou Vidal)っているじゃないですか。あの人の演奏のバッキングとかやったりしてる人たちです。
 
H:なんだ、マジメな人たちじゃん。
 
O:もともとハーピストみたいです。
 
H:あ、そう。なんかでもバッキングでスパイク・ジョーンズ(Spike Jones)みたいなことやってるね(笑)
 
O:そうですね。ミュージック・コンクレートというか、現代音楽がちょっと混じったような。
 
H:そのチャン・チャオ・ヴィダル、聴きたくなったなぁ。
 
O:じゃあ聴いてみましょうか。"Bye Bye Blues"を聴いてみましょうか。
 
H:はいはい。
 
 
Bye Bye Blue - Tchan Tchou Vidal
 
 
H:いいっすね。
 
O:いいですよね。
 
H:この人はいま、どうしてるの?
 
O:いや、もういないんじゃないですかね。さすがに。
 
H:そっか(笑)いや、こういうギター、弾きたいけど弾けないんだよなぁ。ピックが四角なんだよね。
 
O:あ、四角なんですか。
 
H:うん、なんかヘンな…独特のピックを使ってるんだよね。マヌーシュの人たちは。
 
O:みんな…ジャンゴとかも、みんな?
 
H:そうそう。
 
O:へえ…四角なんだ…
 
H:これは(高田)漣くんから教わったんだけどね。
 
O:(笑)
 
 
H:じゃあね、スウィングつながりで僕、最後にかけたいものが出てきたんで。ソニー・ロリンズSonny Rollins)なんだけどね(笑)
 
O:おお。
 
H:これは…トリオかな?彼自身のトリオで、"St.Thomas"。マックス・ローチMax Roach)のドラミングがすごい。…あ、カルテットですね。トミー・フラナガンTommy Flanagan)がピアノです。
 
 
St.Thomas - Sonny Rollins 
(from『Saxophone Colossus』)