2021.08.29 Inter FM「Daisy Holiday!」より

 

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H:はい、細野晴臣です。ひさしぶりに岡田崇くん、いらっしゃい!

O:こんばんは、岡田崇です。

H:ミハルちゃんがいないね。

O:ね。来ると言っていた…ような気がするんですけども。

H:なんか今、アルバムを作ったストレスで倒れてるとか…(笑)

O:そうですね、マスタリングも終わってジャケットも終わって…疲れ切っちゃったのかな(笑)

H:いっつもストレス抱えるよね。

O:体調は絶対崩すし…もう、ヘロヘロになってますよね。

H:僕たちの中でいちばん凝り性なんじゃないの?

O:締め切りがなかったらたぶん、ホントに終わらないんじゃないですかね。

H:ずーっとやってるよね(笑)入り込んじゃって…目が回って倒れちゃったんじゃないかな(笑)

O:そのがんばっていたミハルさんのニューアルバムが9月15日に。

H:いよいよね。『秘密の旅』という…やっとできたね。

O:そうですね。同じ日に渋谷のさくらホールでコンサートが。

H:そう。おんなじ日なんだね。それもあるんだ、大変だな。

O:ちょっとね、状況がいろいろ変わってきているんで…どうなるかはわからないですけどね。

H:ホントにね。相変わらずだしね、世の中。

O:そうですね。

 

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H:というわけで…実は僕もずっと宿題に追われてて(笑)スタジオにずっと缶詰になってて…車ぶつけちゃいましたよ(笑)

O:(笑)

H:ガードレールですよ。

O:まぁ、対人じゃなくてよかったですけどね。

H:よかった。人にぶつけたことはないんだけど。だいたいガードレールだよ(笑)

O:(笑)

H:パンクしちゃってさ。

O:いやー、大変ですね。

H:なんかね、車が身代わりになってくれるのね。自分の。ペットなんかもそうなんだよね。そういう関係があるみたい。というわけで、ちょっと気を入れて…音楽の番組なんで、音楽をかけようかね。

O:かけましょうかね。

H:全部お任せしますよ(笑)

O:いやいや…(笑)まぁ適当に色々。

H:はい。お願いします。

O:1曲目は…つい最近ですね。『大土蔵録音2020』という…

H:パッと聞いただけじゃわからないね(笑)

O:山田参助とG.C.R.管絃楽団…僕の友達のぐらもくらぶという、SP盤の復刻をやっている方々がいまして。

H:そういう人たちね。

O:そこが…SP盤も有限じゃないですか。で、昔の録音物を今の技術と昔の技術とを使って再現して新録していこうということで。

H:凝り性の人たちだね。

O:これは千葉の佐原にある大きな土蔵…500人ぐらい収容できるような。

H:このジャケット写真にある、蔵のような…

O:そうですね。そこでマイク1本、マツダのA型ベロシティマイク…いわゆるRCAの44BXという。

H:僕も使ってるやつだね。

O:あれの日本ライセンス版、日本で生産していたものがあるんですけど。

H:落語とかのど自慢とかはみんなそういうのを使ってたよね。

O:昔の放送局とかね。そのマイク1本で録音した音源なんです。

H:すばらしい。

O:服部良一の曲で、"夏の行進曲(海へ山へ)"という曲をお聴きください。

 

 

夏の行進曲(海へ山へ) - 山田参助とG.C.R.管絃楽団

(from『大土蔵録音2020』)

  

 

H:古い!(笑)これは今録ったとは思えない。すごい凝ってるなぁ。

O:すごいですよね(笑)

H:なかなかこれはね、できないよ。よくやったなぁ!(笑)

O:すごい大変だったらしいですね、この夏の曲を真冬に、ストーブを何台も焚きながら…防寒着を着ながら(笑)

H:いやいやいや…徹底してるね。よくぞマイク1本でこういう音が録れたな。すばらしいね。

O:相談されてたんで、できるかな、大丈夫かな、と思ったら…

H:ど頭のラッパの時点であの頃の音になってるんだよね(笑)不思議。で、奏法もそうだし、あの歌の感じ。すごいね。

O:山田参助さんね。すばらしいですよ、この人。色んな声色で。

H:ああいう人いたからね、昔(笑)びっくり!こういう人がいるんだね。

O:山田参助さん、絵を描く方で。今は『新やる気まんまん オット! どっこい』を描いてますね。

H:(笑)

O:『やる気まんまん』って、昔あった漫画知らないですか?

H:なんにも知らないよ僕は(笑)なにそれ?『やる気まんまん』?

O:検索すると出てくると思います(笑)

H:そうなんだね。未知の世界だ。すばらしい。

O:これは新録のCDともう1枚、2枚目にはオリジナルのSP音源も一緒に入ってます。

H:聞き比べたいね、それは。これはもうびっくりだ。尊敬しちゃうよ。

 

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H:そういえば…この間ずっと会ってなかったけど、何をしてたんです?

O:僕はまぁいろいろとやっていた…気がするんですけど(笑)

H:(笑)

O:いちばん大きなのが片岡知子さんの。

H:シトロン。

O:インスタント・シトロン(INSTANT CYTRON)のアナログ盤リイシューというのを6月から…6、7、8と3か月、連続で5枚作って。

H:きょう頂いたね。

O:その作業をやって。今は10月20日の命日に『スキマの国のポルタ』というアニメーションの音楽を…片岡さんやってて。それがすばらしいので…レイスコ好きは絶対聴いたほうがいいという(笑)そのアナログ盤が…今度持ってきてお聞かせします。

H:お願いします。じゃあ、その片岡知子さんの…

O:じゃあインスタント・シトロンを、せっかくなので聴いてみましょうか。"Good Day Broken Heart"という曲を。

 

 

Good Day Broken Heart - INSTANT CYTRON

(from『Little Gang Of The Universe』)

  

 

H:いやいやいや…もっと歌声が聴きたくなるね(笑)

O:(笑)

H:この当時の音作りの特徴だよね。自分もそうだったし。最近はどんどん歌が前に出てきてるけど。

O:そうですね。

H:なんかもっと声が聴きたいな、という。ミックスし直すわけにはいかないけどね、ないんだから。

O:この辺は、たぶんね…

H:あるの?

O:データはたぶん…今トライしてるところなんですけど。

H:あ、ホント?

O:RolandのVS-1680というハードディスクレコーダーで録ってるんで…全部家で録ってたので。

H:そうかそうか。

O:そのデータをどうにかできないかなぁ…と思って。データ自体はあるはずなんです。

H:どういうファイルなんだろうね、形式とか。わかんないよね。こういうのはしょっちゅう、どんどん変わっていくからね。

O:そうなんですよね。なんとかトライして、うちで抜き出せるようにしようと思って。いつか。

H:それはやったほうがいいね。おもしろい。さっきの歌の英語の男の人はどなたですか?

O:ん、今のシトロンのですか?長瀬五郎くんという相方です。デュオだったので。

H:あ、そうか。いや、すごいネイティブな人だね。発音がね。びっくりしちゃった。

O:喜びますね、それは(笑)

H:その方は今どうしてるの?

O:今は福岡に戻って…地元で音楽活動を。

H:そうかそうか。

 

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H:ところでこの…今回持ってきてくれた中に三保敬太郎さんが入ってるんだよね。

O:入ってますね。

H:気になるなぁ。

O:こないだ「POPEYE」で細野さんがホラー映画について書いてて。

H:やったやった。

O:その中でヒッチコックAlfred Hitchcock)の『鳥(The Birds)』について書いてたんで…あー、『鳥』の曲ってあったなぁ、と思って。あの映画は音楽がついてないので。

H:鳥の声ばっかりだよね。

O:その鳥の声も本当の鳥の声じゃなくって、トラウトニウムという電子楽器で変調させてる…という話なんですけど。

H:それはすごいね。だから怖いんだな、逆に。

O:そうですね。なので、そのサントラは鳥の声だけになっちゃうので…

H:それも聴きたいけどね(笑)

O:怖すぎるんで、当時ソニー・バーク(Sonny Burke)が曲を付けて…イメージソング的なものでサントラ盤が日本でも出ているんですけど。

H:それは知らなかったね。

O:その中、B面に"鳥のブルース"というのがあって。その曲の三保敬太郎さんカヴァーヴァージョンというのを持ってきたので…

H:ちょっと聴いてみたいですね、それはね。"Blues for the Birds"。

 

 

鳥のブルース(Blues for the Birds) - ミステリー・サウンド・オーケストラ

(from『殺られる!! -ミステリー・ムード集-』)

  

 

H:怖っ(笑)

O:(笑)

H:あの…全面的に鳥の声が入ってる音楽というのは初めて聴いたね(笑)ずっとそっち聴いちゃった。

O:そっちが主体ですからね(笑)

H:いやー…あれはどうやって作ったんだろう。やっぱり電子音楽だね。映画とおんなじ様な声がしてる。いやー、めずらしいなこれは。

O:ジャケットもカッコいいんで…

H:そのジャケットいいですね。フィルムノワールっぽい。三保さんの、もう1曲聴きたいな。

O:じゃあ"グリスビーのブルース"もやってるので、それを。

H:いいですね。選曲がいいよね。

O:ね。三保さん…最高ですよね。

 

 

グリスビーのブルース(Le Grisbi) - ミステリー・サウンド・オーケストラ

(from『殺られる!! -ミステリー・ムード集-』)

  

 

H:なんか、現代音楽だ。(笑)すごいね。いろんな、実験的な時代だったんだよね。

O:そうですね。結構好きにやらせてもらってたんじゃないですかね。ミステリー・サウンド・オーケストラ名義ですけど。

H:そうだね。三保敬太郎さんと言えばレーサーとしても有名でね。僕たちがいちばん馴染んでるのは「11 PM」のテーマソングですね。シャバダバダ…という。いやいやいや…すごい人がいたんだね。

O:ね。

H:きょうは図らずも日本の人たちの音楽特集になっちゃいましたけど(笑)

O:そうですね、図らずも。

H:じゃあ時間なんで…さっきも話してました、きょう来てないコシミハルの新作から1曲、聴いてみましょうかね。

O:そうですね。じゃあタイトル曲の"秘密の旅"という曲を。

H:はい。じゃあ、それを聴きながら…また来週。岡田崇さんでした。

O:おやすみなさい。

 

 

秘密の旅(Voyage Secret) - コシミハル

(from『秘密の旅』)

  

 

2021.08.22 Inter FM「Daisy Holiday!」より

 

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加藤:ではでは…今回はブックレットの第2回というか、後半というところでお話を伺えればと思います。前回は結成…Sketch Showは「結成」と呼ぶのかわからないですけど(笑)

幸宏:なんとなく「2人のバンド」になっちゃった、というお話でしたよね。最初は僕のソロのつもりだったのが…

加藤:そうですね。細野さんはそのプロデュースで、というはずが…

幸宏:僕は最初から2人でやるつもりだった(笑)

H:僕はそれ知らなかった(笑)

加藤:というところで1枚目、『Audio Sponge』のお話を伺いました。今回は2枚目、3枚目…『Tronika』と『Loophole』について伺えればと思っております。

 

 

 

Ohotzka - Sketch Show

(from『Tronika』)

   

 

幸宏:前回も話したけど、この『Tronika』は突発的に出したんですよね。

H:うんうん。

幸宏:『Audio Sponge』を出したときにインタビューをすごいいっぱい受けて…さすがエイベックスさん、すごいな、と思ったんだけど。1日に20本くらい取材を受けて。

H:やったね。ホテルでやったね。

加藤:ええ…ホテルに缶詰めみたいな感じですか。

H:うん。

幸宏:それで…インタビュアーがみんな「トロニカ」という言葉にやたらこだわるんですよ。とくに若い子。「エレクトロニカなのかフォークトロニカなのか、はっきりしてくれ」みたいなことを言われたから、細野さんがムッとして(笑)「別にどっちでもいいじゃない」という。

H:そうだよ。そういう垣根が取れた時代だったんだよね。フォークだろうとなんだろうと、エレクトロニカというジャンルができた。

幸宏:その「トロニカ」がくっつくやつは、確かにおもしろかったんですよ。

H:そう。「トロニカ」という言葉がおもしろかったんだね。

幸宏:じゃあ『Tronika』っていうアルバムを出せばいいじゃん、という(笑)今までやった曲も少しミックスし直してみたりして入れちゃおう、みたいな。これはミニアルバムでもいいね、と言って。

H:うんうん。

幸宏:なんとなく自分たちで…細野さんとの暗黙の了解で、3枚目でやりたいことがわかってきました、と僕が言ったんですよね。

H:3枚目ってなんだ?

加藤:3枚目は『Loophole』です。

H:ああ、『Loophole』のことね。

加藤:細野さんは『Tronika』で印象深いことというか、制作だったり…

H:1枚目がわりと曖昧にスタートしたでしょ?プロデュース気分で。でも、作ってるうちにどんどんエレクトロニカ系の方向に進んでいったんで、次はもう最初から最後までそれでできるな、という気分。いちばんそういう音楽にのめり込んでた時期だね、この頃は。家に帰ってからもテレビも見ずにそんなのばっかり聴いてた。

幸宏:あのね…テレビで外の映像を画面だけ映して、音声は消して。そういうエレクトロニカ系の、北欧の音楽を聴いてました。

H:そう。北欧の音楽がいちばん多かったね。

幸宏:だからこの中で僕が印象深いのは"Ekot"という曲ですね。「イコー」と発音してるけど。

 

 

Ekot - Sketch Show

(from『Tronika』)

   

 

幸宏:"Ekot"はね…さぁむい感じを出したかったんです(笑)

加藤:あ、音としてですか。

H:寒いの大好きだったね、あの頃(笑)

幸宏:大好きだった(笑)なんでだろうと思ったら、そうか北欧の音楽だから…ベルリンも寒かったし。

H:その頃はホントにアメリカ大陸に目が向かなかったね。ないんだから、そういう音楽。まぁあったんだろうけど。

幸宏:ないんじゃないですか…?あ、アメリカにもある。ニューヨークに。

H:ニューヨークにあったんだ。

幸宏:あとニュージーランドとかね。ヘンなところで寒そうなのやってるんですよ。

H:そう。段々南下して行って…南米に行ったよね。ブラジルとか。なんか桜前線みたい(笑)

幸宏:そう(笑)

H:でも、このアルバムを作ったら…女子に受けたね。なんか追いかけてきた、派手な…名前忘れちゃった(笑)

幸宏:あの2人ね。僕も2人とも名前忘れちゃった…ちょっとね、変わってるんですよ。趣味が。

H:変わってるよね。一見するとパリピみたいな…当時流行ってた。

幸宏:そう、一見そう見えるけど、実はアーティスティックなんですよ。もうちょっとね。

H:で、その2人で見に来てて…知り合ったんだよね。そしたらやっぱり"Chronograph"がいちばん好きみたいだったね。

幸宏:あれは僕、ここのピアノで…さぁ最後の音どうしようかなと思ったら、細野さんが「最初に戻ればいいよ」って言ってて。そしたら、あ、ホントだ、って(笑)

H:(笑)

加藤:あ、そういう風にできたんですね。へぇ…

H:なんか、自然にできてきちゃうんでプロセス憶えてないよ。

幸宏:すごい早かったですよね。メロディーは簡潔にしよう、と。全くそれで動かない、って細野さんが言うから…で、ここの上で2人で歌詞を書いたんですよ。

H:よく憶えてるなぁ(笑)そうなんだ。

幸宏:「走る、止まる…」とか。クロノグラフ*だから

[*ストップウォッチ機能が付いた腕時計。]

H:そうそうそう。

幸宏:僕がこのデイトナを買ってから…たっけぇんだよな、この時計、とか思いながら。

H:(笑)

幸宏:「"Chronograph"というのはいいんじゃないですか?」と。これコスモグラフ(ROLEX Cosmograph Daytona)って書いてあるけど。このタイプが急に流行り出したでしょ?時計として。

加藤:うんうん。

幸宏:あと…今回はシバオカチホちゃんの存在も大きかったですよね。

H:あー、最近はどうしてるのか全然…

幸宏:どうもしてないんだろうなぁ。

H:どうもしてないかな(笑)よかったよ、声が好きだった。

幸宏:声がいいですよね。北欧とかフランスとか行って勉強した人の声って、語りをやってもらうとどうしてすごくいいんだろう。独特ですよね。

H:言語も素晴らしかったし…どこの国だっけ?(笑)

幸宏:スウェーデン

H:スウェーデンか。

 

 

Chronograph - Sketch Show

(from『Tronika』)

   

 

加藤:『Tronika』から『Loophole』はすごく時間が短いというか…

幸宏:もうね、アイディアが湧いてきてたんですよ。

H:そうね。いくらでもできちゃう感じね。

幸宏:だけど『Loophole』は…新曲ばっかりでしょ?なんか火星にかかりましたよね。

H:"Mars"…そう、火星のなにか、イベントがあったんだよ。

加藤:火星のイベント…?

幸宏:映画?『マーズ・アタック』は関係ないか。

H:映画じゃなくて、本当の天体の現象があったんだよ。

幸宏:あー、そうだ。

加藤:火星が近づく、とかそういうやつなのかな。

H:まぁよくあるやつだね。「マーズ」じゃなくて「マルシュ」だ。

加藤:北欧の気分をさらに深めていった、みたいな感じなんですか?

H:そうですね。

加藤:なるほど。1枚目に比べて2枚目、3枚目はだいぶ玄人好みというか。より深く行っているような。

幸宏:[このアルバムを]ある制作部の部長さんにうちの兄貴(高橋信之)が渡したら、「宝石の塊のようなアルバムだ」と言ってました。音のひとつひとつが宝石みたいだ、って。

H:そういう話は初めて聞くなぁ…(笑)

幸宏:あのとき細野さんに言いましたよ?

H:そうかい?(笑)

幸宏:ちょっとうれしかったのは…「いい音」としては作ってないんですよね、ああいう音。パチッパチッて。

H:そうだね。

幸宏:笑ったのはミックスがある程度進んだときに、よし聴いてみよう、って爆音で聴くじゃないですか。いっぱいグリッチノイズが入ってるのに、「あ、ちょっと止めて!」って細野さんが言って…デジタルノイズでした(笑)

加藤:えー、よく気が付きましたね。

H:違うノイズが気になるという…(笑)

幸宏:入れてないノイズなんですよ。あれはやっぱり、レベルの問題で出ちゃうんですかね?

H:うんうん、でっかくするね、聞こえる。

幸宏:つまり、音楽的じゃないってことですね。簡単に言うと。

H:とにかく、ノイズの音楽を聴いたときはすごくショックだった。最初はね。誰だっけな、あれ…もう全部忘れた(笑)電子音楽にスクラッチノイズがランダムに入ってるわけ。リズムも関係なく。これは不良品だと思った。

幸宏:(笑)

H:で、それを持ってる人に訊いたら彼のにもおんなじ音が入ってるんで、あ、これは意図的に作ったノイズなんだ、と思って。それはすごいショックだったね。

幸宏:ニューウェイヴの頃じゃないですよね?

H:いや、もっと全然後。エレクトロニカの前の時代。1990年代の終わりぐらいかな。

加藤:でも、それを音楽的と捉え直すことができたのはすごいですね。

H:かなり抵抗があったの、最初は。ショックだったからね。CDというメディアを超えちゃったというか…音楽のメディアとしての機能を超えてる。それはビックリした。

加藤:デジタルノイズ…レコードのノイズとはちょっと違いますもんね。

H:うん。そのショックが結構尾を引いて…段々とそれがポップになっていった、という時期だよね。

幸宏:そうですね。エレクトロニカ自体が…

 

 

Mars - Sketch Show

(from『Loophole』)

   

 

 

加藤:『Loophole』に向かう確固たるイメージというか…

幸宏:最近聴いてなかったけど、今こうやって見たらね…これはかなりオリジナル色が強いですね。

加藤:Sketch Showとしてのオリジナリティ。

幸宏:細野さんが「昔、"Attention Stockholm"って曲があったよね」って。ああ、ヴァーナ・リント(Virna Lindt)でしょ、って言って。

H:そうだ。

加藤:ほんとによく憶えてますね(笑)

H:ヴァーナ・リントなんて出てこないよ…

幸宏:「じゃあ"Attention Tokyo"というのを作ろう」ということになって…これは別にコピーするということじゃないんですよね。インスパイアされる、ともちょっと違う。

 

 

Attention Tokyo - Sketch Show

(from『Loophole』)

   

  

幸宏:"Traum"というのは僕、夢で見たものをそのまま歌詞にして…いろんな雑音みたいのがいっぱい入ってますけど。エンジニアの原口くん(原口宏)といろんなのを入れまくって。

 

 

Scotoma - Sketch Show

(from『Loophole』)

   

   

幸宏:"Scotoma"もいいですね。

H:実験音楽だよね(笑)

加藤:たしかに…実験音楽的なものが『Loophole』ではいよいよ増えてくるというか。

幸宏:でもね、僕はすごいポップだと思う。これを聴くと。"Scotoma"はミックス上がってきたとき、細野さんに聴かせるためにどこかのコンサートホールに行ったんですよ。それはどんなコンサートだったかと言うと、細野さんを中心とした…

H:あれでしょ?はっぴいえんど

幸宏:はっぴいえんどの曲をやろう、みたいな。

加藤:そういうコンサートがあったんですか?

幸宏:結構前ですけどね。そこにそれを持って行って、楽屋で結構大きな音で聴いたら…あまりの違いに(笑)

H:(笑)

幸宏:僕ははっぴいえんども大好きだし、細野さんの世界も大好きだったから…いいのか?これ?って。

H:ホントだよな(笑)でもそのときに、一周回った感があったんだよね。不思議な気持ちだったね。

幸宏:自分たちでは楽しいものを作り出してる感じがしましたけどね。つまり…前にもお話ししたように『Audio Sponge』のときは昔のアイディアとか影響がいっぱいあったんだけど、ここにはないんですよね。ほとんど。

H:ないよ。うん。

加藤:一応『Tronika』を挟んでますけど…『Audio Sponge』から『Tronika』にかけての感じもすごい早いというか。いきなり振り切ったな、みたいな感じがありますよね。いま聴いてると。

そこから『Loophole』までもそうですけど。

幸宏:そうですね。

H:濃密な時期だったからね。1か月ごとにどんどん変化していったから。

幸宏:"Fly Me To The River"で細野さんがラップをやってるんだけど…フライフィッシングのことを言ってるのはすごいですよ(笑)

H:釣りなんか知らないのに(笑)

幸宏:ルアーという言葉は出てくるけど、あれは別にフライであっても同じことですから。疑似餌。

 

加藤:でも、お2人のキャリアからしても…今更ながら、この3作はポンポンポンと出た時期ですよね。

幸宏:そう。僕も『Blue Moon Blue』(2006)から『Page By Page』(2009)は早かったですね。でもあれでやり切った感じになっちゃって…向こうの人たちともいっしょに、全部やったし。

H:とにかく、交流がすごくあったよね。

幸宏:そうですね。僕は昔から交流型なので(笑)

H:そうだよね(笑)

幸宏:どうしても…イギリスでニューウェイヴとかが出てくるとその連中とやりたくなって。で、日本に帰ってくると細野さんに報告する。

H:(笑)

幸宏:「どうだった?」って。

H:僕は一切やらないからさ(笑)

幸宏:いちいち人に会って…めんどくさいですもんね。

H:苦手なんだよね。

幸宏:昔はアメリカでやってたじゃないですか。

H:まぁ、個人じゃないけどね。

幸宏:ヴァン・ダイク(Van Dyke Parks)とかは?

H:ヴァン・ダイクは…その後ここに来たりしてくれたけど。僕がここにいて、来てくれるのは構わない(笑)

幸宏:行くのがめんどくさい(笑)

 

 

Fly Me To The River - Sketch Show

(from『Loophole』)

   

    

加藤:今回再リリースされる3作品なんですけど、いったん『Loophole』で終わって。その後、新作というか。リリースしていくのは…

幸宏僕は自分のソロでそっち方面に行っちゃったので。細野さんもそこでもうやり切っただろう、という感じになっちゃったかもしれない。

H:そうね。うん。

加藤:でも、YMOに近い形態でやっていく、みたいなところも一瞬ありましたけど。あの辺に繋がったのがSketch Showだったのかな、と。

幸宏:そうですね、あれは人間関係の繋がりですね(笑)

H:(笑)

幸宏:だって、細野さんと教授(坂本龍一)の名義のコンサートありましたもんね。

H:やったね。

幸宏:で、僕はそれをね、結構感慨深く観てたんですよ。歳をとるとなんて素敵な日が…

加藤:訪れるんだろう、と。

H:それはあるね。

幸宏:教授が細野さんの名前を出してサッポロビールの宣伝、出てましたもんね。

H:そうだったそうだった。

幸宏:「話せなかった人と話せるようになる、歳とるっていいよ」、「話せなかった人って細野さんなんだよね」って。ブッキー(妻夫木聡)に普通に言ってましたよ(笑)

H:うん、言ってた(笑)

幸宏:細野さんもあれ出てるでしょ?

H:出た。その後。

 

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加藤:幸宏さんがやられているワーハピ(WORLD HAPPINESS)とかにも…

H:ワーハピ、よく出たなぁ。

幸宏:2009~2012年…2013年まで出たかもしれないですね。わかんないや。

加藤:そう考えると結構前ですね、もう。

幸宏:細野さん、今度またワーハピでSketch Showかなんかやりませんか?

H:お、いいじゃん。

幸宏:なにがいいかと言うとね…一昨年は八戸でやったんですよ。

H:なんか噂は聞いたな(笑)

幸宏:街中、そんなに人が集まることもないし。おじいちゃんが「いい経験させてもらったよ…」って(笑)

H:(笑)

幸宏:で、帰る人たちの意見を聞いてた人から伝え聞いたことがあるんだけど、みんな本当に感動してた、と。やってよかったなぁ、と思って。僕はその後奥入瀬に行って釣りもできたし(笑)ああいうのでいいから、どこかで町おこしというか…

加藤:これはじゃあ、Sketch Showをまた観られることがあるかもしれない、ということですかね?

幸宏:Sketch Showは別に、気楽にやりますよ。細野さんと。その代わりやるんだったらおもちゃの楽器だけ持ってきて…

加藤:なかなか…前回の初めにも言いましたけど、ファンというか、Sketch Showをもう1回観たいという人がめちゃくちゃ多いですよ。音楽性も含めて。

幸宏:音楽性はありますね。昨日僕、ちょうどメガネを作りに行ったところのカフクくんという人が…ものすごい音楽好きなんですけど。Sketch Show今度リイシューで出ますよ、「え!アナログ盤出ますか!」って言うから、出ますよ、「うれしいなぁ…!」って言ってて(笑)

H:(笑)

幸宏:「なんでSketch Showってもっと売れなかったんですかね?早すぎたのかな」って言われたから、違います、今までにないものだったからですよ、と。「今までにないものってYMOみたいに売れるはずじゃないですか?」って言うから、うーん、いいところついてきたけど…(笑)それを言ったらYMOはもっとポップだったし、細野さんがサービス精神にあふれたプロデューサーだったから、あの頃。

H:あれはね、売るために作ったようなもんだから…(笑)

幸宏:レコード会社を救わなきゃ、みたいのがあったでしょ。恩返しみたいに。

H:そうそう(笑)

加藤:でも、こんなに音楽的にコアというか…玄人でも楽しめるみたいなものを、お2人の名前でこの時代…わりとCDが売れていた時代に出してくるというのはやっぱりすごく大きくて。

幸宏:こういうアルバムだから僕たちやれたんですよね。

H:うんうん。

加藤:ほんとにそれはすごい時代だな、と思うし…

H:自然に湧き上がってくることをやってれば間違いはない、というかね。

幸宏:そうですね。

H:企画が先にあってやるとなかなかうまくいかない(笑)

幸宏:企画はあったんですけどね。僕のソロをやろうか、という。

H:まぁそれは企画というか…

幸宏:きっかけ。

H:きっかけだよね。

加藤:代理店的な企画ではないということですね。

幸宏:ダメですよ、お金が絡んでくると。お金のニオイがするところに集まる人って必ず決まってるんで…(笑)だいたい名前わかるけど。

H:うん(笑)

 

 

Night Talker [Safety Scissors Mix] - Sketch Show

(from『Loophole』)

   

    

加藤:そしたらちょっと…20年経って、現代にSketch Showの音が届けられるということで。

幸宏:今聴くといいですよ!

加藤:ほんとにそう思います、僕も。

H:うんうん。

幸宏:自然の中で最高…

加藤:コロナ禍でも適当、適切な温度感で届く音楽だなぁ、と改めて思いました。

幸宏:どっちかっていうと寒いときに聴いてほしいですね、この3枚は。こんな暑いとき用の『TROPICAL DANDY』みたいなのもやってみたいけど(笑)

H:(笑)

加藤:そっか、『TROPICAL DANDY』を暑いときに聴くのが良いとすれば…夏に発売だけど、寒いときまで聴き続けてほしいということで…今回のブックレット用の取材はいったんここで締めさせて頂きます。

H:はい。

加藤:ありがとうございました。

 

 

Plankton - Sketch Show

(from『Loophole』)

   

 

 

 

2021.08.15 Inter FM「Daisy Holiday!」より

 

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加藤:今回はSketch Showの再発をエイベックスさんがやられるということで…そのブックレットに収められるお2人のインタビューの1回目ということで、1時間ほどお時間を頂きました。

H:あ、2回目があるのね。

加藤:2回目…たぶんあると思います。で、僕がまとめさせて頂く加藤(加藤一陽)と申します。よろしくお願い致します。

幸宏:よろしくお願いします。

H:いろいろ、訊いてくれるんでしょ?

加藤:はい、こちらから司会させて頂きますので…よろしくお願い致します。

  

 

Reform  - Sketch Show

(from『Audio Sponge』)

   

 

加藤:Sketch Showのアルバム3作品をリリースされるというところで、ファンは「Sketch Show、もう1回やってくれないかな」とか。そういう声はめちゃくちゃ多いですか?

幸宏:多いですねー、そういう人。YMOの次ぐらいに多いですね。当たり前か(笑)

H:あ、そうなの。

加藤:そうですそうです。界隈ではSketch Showのプロップスというか、評価は非常に高くて。みんな待ってるというような…新作も含めてですけど。そういったところでこの再発ということで…今回は改めてお2人に「Sketch Showとは今思えばなんだったのか」みたいなことをファンに届けられたらな、と思って。

幸宏:細野さんの見解と僕の見解はちょっと違ってて。

加藤:違いそうですか?

H:そうなんだ(笑)

幸宏:細野さんは当初始めるとき、「ユキヒロのソロアルバムを僕がプロデュースする」みたいな感覚だったのがなんか2人でやることになっちゃった…という感じだったんですよ。僕は当初から2人でなにかできないかな、と思ってたんで。そこに大きなズレが…(笑)

H:あ、そっか(笑)

幸宏:というか、僕がまんまとはめ込んだというか。

H:最初の半月ぐらいがそんな時期。1か月もなかったような気がするな。

幸宏:そうですね。

H:当時は、初期のエレクトロニカ系の音楽がワーッと増えてきている時期で。

幸宏:特にベルリンのモール・ミュージック(morr music)とか、それからカラオケ・コーク(Karaoke Kalk)とか。ああいうレーベルがバシバシ来て。

H:そう、みんなベッドルームレコーディング系の…いいのがいっぱいあったね。

幸宏:そうそう。で、声はみんなやさしい…インディーズ声と僕は呼んでましたけど。

H:内向的だよね、みんな。

幸宏:外に向かってワー!とは歌わない。そういうのが多かったですね。

加藤:じゃあ、お二方ともそういうのは別々で聴いていた、ということなんですか?

H:最初はね、僕は幸宏からプロデュースを頼まれた、と思い込んでたのね。で、幸宏はなにを聴いてるかその頃は知らないからさ。自分もひっそり聴いてたでしょ?あんまりそういう話はしなかった。最初はね。で、幸宏がどういうのをやりたいのかなって探ってたんだね、僕はね。それで最初にやったのは…なんだっけな、"Turn Down Day"あたりからやったのかな?

幸宏:そうです!"Turn Down Day"を…ああいうアレンジになるとは思わず。当時行きつけの、僕も今行ってきた、髪を切るところでその話をしたら、ギタリストの佐橋くん(佐橋佳幸)というのが細野さんに、「あ、イントロにシタールが入ってますよね!僕やりますよ」と言ってたらしいですね。

H:そっか。やらせなかったな(笑)

加藤:あ、それはないんですね(笑)

幸宏:だって、そういうアレンジじゃないんですもん。

H:でもあのフレーズは大事だから入れたんだよね。

幸宏:すごい静かな…ほんとに"Turn Down Day"な…(笑)

H:いま聴いてもいいよね。

幸宏:いいアレンジですね。

  

 

Turn Down Day - Sketch Show

(from『Audio Sponge』)

   

  

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H:まぁそこら辺からスタートして。だんだん…あれ、これは2人で新しいのを作るんだな、というのがわかってきたんだよね(笑)

加藤:プロデューサーというだけではなかったという…

H:そこからエレクトロニカ系の情報をお互いにいっぱい出し合ってね。

幸宏:そう。ラリ・プナLali Puna)とかミス・ジョン・ソーダ(Ms.John Soda)とか。

H:そこら辺の情報、いまは途切れてるよな。

幸宏:ラリ・プナとは僕、今も直接…

H:やってるんだよね。で、あの頃はいっぱい東京に来てたんだよね。名もない連中も含めて。アイスランドから来てたりとか。

幸宏:来てましたね。

H:ムーム(múm)の2人はここに来たんだよね。

加藤:すごいですね、それ。

H:なんかいろんな人が来たよ。でも名前忘れちゃった、もう(笑)

加藤:なるほど。たしかにエレクトロニカ、フォークトロニカみたいなところだとムームみたいのが筆頭にいて、という時代…

幸宏:僕たち、当時のインタビューはそればっかりだったんですよ。「フォークトロニカなんですか?エレクトロニカなんですか?」ってよく言われて…どっちでもいいじゃん、ってなって(笑)

H:そうそう。だから『Tronika』というのを作ったんだよ(笑)

加藤:それはちょっと皮肉もあったんですね。「トロニカ」というタイトルには。

幸宏:そうですよ。完全な皮肉(笑)あなたが感じたほうとして聴いてください、という。僕はあのアルバム好きなんですよね。

H:いちばん入り込んでたね。

加藤:なるほど…ちょっと『Audio Sponge』のほうに話を戻したいんですけれども。お話を伺っているとなんとなく細野さんがプロデュースするのかな、というところから入っていって。じゃなくて2人で作るんだ、という話になっていった…というところだったんですけど。

幸宏:あのね…1960年代の音楽の要素、影響みたいなのが多分にあるんですよ。"Turn Turn"なんかもそうだし。えー!ってみんなに言われるけど、キンクスThe Kinks)ですよ。"You Really Got Me"。こないだベスト盤を爆音で聴いてたんですけど。30曲ぐらい。みんなカッコいい。

H:いいよね。いま聴けば聴くほどいいよね。

幸宏:ギターサウンドってこれだよ、って。

H:あの頃はフー(The Who)もすごく良かったね。音がいいんだよね。

幸宏:だってツェッペリンLed Zeppelin)だって観に行ったし、僕。「だって」というのも失礼ですけど(笑)ロックの王道ですから…

H:だってやってたもん(笑)

幸宏:知ってる(笑)僕、「ヤング720」で松本くん(松本隆)が足つりそうになりながら片足でやろうとしてるの見てた。

H:そうそうそう(笑)

加藤:ジョン・ボーンナム(John Bonham)の…

幸宏:しかも、あの忠さん(小坂忠)が歌ってた。

H:そうなんだよ。歌上手かったなぁ(笑)

加藤:それ、すごい話ですね。

幸宏:僕はユーミンと出ましたけどね、アマチュアバンドで。

H:あ、そうか。じゃあ"ひこうき雲"をやったのかな?

幸宏:いえ、当時は「マホガニーの部屋」というタイトルで…"翳りゆく部屋"というタイトルになりましたね、後に。プロコル・ハルム(Procol Harum)ですね、完全に。

H:あ、そっか。

加藤:僕が別でやらせて頂いている「細野ゼミ」という連載があって。内容がそういう話に今なってるので、いったんSketch Showに戻しますね(笑)

幸宏:それで…Sketch Showにはそういう要素があって。でも音はエレクトロニカで。ただ、ミックスまで全部自分たちでやっていくと、これは自分たちの音になってしまうんじゃないか。ということで、"Turn Turn"は人に預けてみよう、といってテイくん(テイ・トウワ)にミックスを任せたの。

H:そうだね。

幸宏:ただ細野さんが…今でも覚えてるけど。この歌詞をこのメロディで歌ってみますね、でやったらぴったりはまったんです。そしたら細野さんが「ちょっとハモるね」って下をハモったらいきなりYMOになっちゃった(笑)

H:そうそうそう(笑)それはよく覚えてるよ。

幸宏:細野さん、これYMOだ、と。

H:幸宏の高音部と僕の低音部が合わさるとYMOになっちゃうんだよね(笑)

幸宏:そこに教授(坂本龍一)が入ってきてもどっちかに吸収されちゃうんです。倍音で。

  

 

Turn Turn - Sketch Show

(from『Audio Sponge』)

   

  

幸宏:ところが、その1枚目を作ってると聞きつけた坂本くんがですね、「僕を入れないでなんかやってるって聞いたんだよね」と来て。3人でご飯食べたんですよ、この近くで。地下のお店だったのは憶えてるんですけど。で、「なんか参加できないかな」って。

加藤:ご自身で…

幸宏:めずらしいんですよ?そういうことを言うの。

H:そうだよね。

幸宏:そしたら細野さんが「なんかスライ(Sly & The Family Stone)みたいな曲」って。

H:言った。頼んだよね。

幸宏:「リズムはこっちで考えるから」。で、コードワークが来たんですよ。それでできたのが"Wonderful To Me"ですね。

H:あれはもう、完全にYMOのイメージがあったね。

幸宏:ありましたね。ある曲のテンポを遅くしたリズムですからね。サンプリングして。

H:幸宏と僕は『BGM』にすごい思い入れがあるんで。それをちょっと意識しちゃったという。

幸宏:『BGM』はほんとに2人で入り込みましたからね(笑)僕はああいう感じにあればいいな、と思ってたんだけど。

加藤:あ、そういうイメージもあったんですね。

幸宏:ありました。あれと『テクノデリック』をミックスしたみたいな…という感じだったんですけど。

H:それは言わないけどね。

幸宏:これは書かなくてもいいんですけど、結果的にはそういう思い入れがあったのかな、という感じですね。

加藤:今思えば…

H:それはあったよ。

加藤:それは絶対書いたほうがいいと思うんですけど、もしアレだったら…

H:大丈夫だよ、これは。書いたって。

幸宏:ファンは喜びますね。今から作ってるわけじゃないですけどね(笑)

加藤:めっちゃ喜ぶと思います。鳥肌が立ちました。

  

 

Wonderful To Me - Sketch Show

(from『Audio Sponge』)

   

  

H:とにかく、その1枚目はいろんな技術的な…便利なグッズがなかったんだよ。

加藤:2002年。

H:だから自分たちで作ったんだよね。グリッチっぽい音をね。

幸宏:いわゆるグリッチノイズっぽいチリチリチリという感じではなくて、パチッという音はね…お菓子についてる、梱包するときに使う…

加藤:あー、プチプチ…

幸宏:あれの音に似てないですか?って細野さんに言って。ちょっと録ってみようよ、ってパチッとやったらほんとにそうで(笑)

加藤:それにディレイをかけたりして、とかですか?

幸宏:いや、ディレイじゃなくてほんとにそのまま。フレーズを打ち込んで。

加藤:昔の円谷プロみたいですね(笑)

H:ホントそう。手作りですよ。で、音を加工していく…例えばエレクトリックピアノが減衰していくでしょ?ただ減衰するだけじゃつまんないんで、ゲートをかけるんですよ。そうするとブツ切れになる。それをやってるのはたぶん、Sketch Showぐらいだと思うんだけどね(笑)

加藤:なるほど…完全に人力エレクトロニカですね。そう考えると。

幸宏:まさにそうですね。

H:それが2枚目になると…出そろってくるんですよね。アプリケーションがね。

幸宏:もういろんなものを聴いて影響を受けちゃったし、多少。

H:僕はアプリケーションを探し回って…まだ楽器屋で売ってる時代だったんだね。パッケージで。銀座の山野楽器かどこか…普通の楽器屋でプラーゴ(Pluggo)というのが売ってたんだね。うわ!これだ!探してたやつだ!って(笑)

幸宏:なんか、嬉しそうに細野さんが持ってきた記憶があるなぁ(笑)

H:ところがマックはまだOS 9の時代ですよ。だから、いま使えないんですよ。逆に言うとね。今こそ使いたいというときがあるんだけど、ダメなんだよ。

幸宏:今はOSをどんどん上げていくとね、なんか使いづらくなっていきますよね。前のやつがうまく使えなかったり。クラウドを使い過ぎてるから、みんなが。

H:だからね、音楽業界の連中はみんなアップデートしないんだよ(笑)

加藤:ありますよね、ここまでで止めてる、みたいな。

H:みんなそう。ただOS 9には戻れない。やろうと思えばできるけど。まだあるんで。

幸宏:途中からみんな言い出しましたよね。オリジナルのOSがいちばんいいよって。それをバージョンアップしちゃうと使いづらくなるとか。

H:そうなんだよ。いっつも苦労してたね、それで。

幸宏:あれ、これ違うな…とか言ってましたよね。

加藤:ということは、OS 9で作ったのが『Audio Sponge』になるんですか?その前ですか?

H:いや、しばらくそうだよね。2枚目ぐらいまで。

加藤:『Tronika』まではOS 9で…

H:だと思うんだ。

幸宏:なんか、『Loophole』ってこなれちゃってますよね、もう。

H:そうだね(笑)

幸宏:いつモール・ミュージックから出てもおかしくない、みたいな…

加藤:たしかに洗練の極みみたいな感じですよね。出来栄えとしては。

幸宏:音のひとつひとつが宝石だと思って作ってましたからね。

H:で、できたやつを小原(小原礼)に聞かせたんだよな。そしたら「チリチリってる」って(笑)

加藤:いい感想ですね(笑)

幸宏:うちでね…尾崎亜美ちゃんがね。

H:あ、そうだ。それだ。

幸宏:「ねぇねぇ、この曲チリチリいってるのって、これはいいの?」そしたら小原が「それはわざとやってるんだよ。だってさ、それは"Sumer Place"じゃない。それはレトロだよ」とか言ってて(笑)「レトロニカ」というのを作ったほうがいいのかな、と思ったね。

H:お、それいいね。それは初めて聞いたよ。今やるといいんじゃない?

幸宏:いいですね。レトロニカにしましょう。

H:そうしよう。決まった(笑)

  

 

Theme From A Summer Place - Sketch Show

(from『Audio Sponge』)

   

  

幸宏:そういえば、"Wilson"って曲があったでしょ?

H:あれもいいな。

幸宏:あれは細野さんが2階から降りてきたときに、僕がオルガンの音で弾いてたんですよ。そしたら細野さんが「幸宏、それ良い」っ言って。あとは座って自分のコンピューターを広げて自分のことをやり始めて…(笑)

H:(笑)

幸宏:で、あの曲にだんだんなっていくんですけど。僕のイメージはスティーヴ・ライヒSteve Reich)だったんですよ。"Four Organs"。

H:あ、そうだったの?ぜんぜんそれ知らないや(笑)

幸宏:ただ、二人とも『キャスト・アウェイ(Cast Away)』観てて。

H:ちょうどね、観たばっかりだった。

幸宏:そういえばブライアン・ウィルソンBrian Wilson)って砂の上に…部屋に砂を敷き詰めて、そこにピアノを置いて曲を作ってたみたい。実際、そういう映像が出てきたじゃないですか。のちに。

H:出てきた。

幸宏:それで…その当時僕は別荘を持ってて、それが下田だったんですよ。その海岸のところに行って、そして2人で詩を考えていて。「Wilsonってバレーボールのメーカー、あるよね」。

H:『キャスト・アウェイ』に出てくるんだよね、バレーボールが。

幸宏:そう。別にテニスのボールだってWilsonですけどね。スポーツメーカー。だからWilsonっていう子がいて…ボールですけど。「教えてよウィルソン」っていう歌詞が出てくる。

H:それとブライアン・ウィルソンがごっちゃになってるっていう(笑)

加藤:ダブルミーニングというか。

幸宏:あの人もかなり神経が参ってる人だったじゃない?で、僕もすごく参ってる人だったんで…(笑)今だにだけど。だから細野さんと相談して、こういう歌詞どうかな?って。そしたら「いいよ」って(笑)

H:(笑)

  

 

Wilson - Sketch Show

(from『Audio Sponge』)

   

  

幸宏:そうしてるうちに、細野さんの部屋としてあてがったすごい小部屋があって。そこに細野さん閉じこもったんですよ。ギターを持って。

H:そうだっけ?(笑)

幸宏:あれ、細野さん出てこないなぁ、と思ってたら、しばらくして「1曲できた」って出てきて。それが"Stella"だったんですよね。

H:そうか。そこで作ったんだ。

幸宏:そう。それがびっくりして…いい曲なんで。これは誰のイメージ?って訊いたらそれはもうあって。自分が死んだらこの曲流してもらおうかな、と思うような…そんな歌詞になりましたね。そしてあるとき坂本龍一くんがここに来て。「聴いたよ、アルバム。今年聴いたレコードでいちばんよかった」そんなに褒めらるとは…『BGM』は褒めなかったから…(笑)

H:たしかにね(笑)

幸宏:随分褒めてくれるなぁ、って。3人で番組録ったのかな。

 

  

Stella - Sketch Show

(from『Audio Sponge』)

   

  

幸宏:で、だんだん近づいていくきっかけになったのが、僕はやっぱりSketch Showなんだろうな、と思ったんですね。

H:そうだろうね。それはそうだよ。その頃はよく比喩で…幸宏と僕が砂場で遊んでたら遠くからそれを見ていて。一緒に遊びたいんだな、って(笑)

幸宏:ワンコみたいですよ(笑)

H:そうは僕は言ってないけど…(笑)

幸宏:いや、僕は最近ワンコ飼い始めて…

  

  

Supreme Secret - Sketch Show

(from『Audio Sponge』)

   

 

加藤:『Audio Sponge』がまず1作目としてできたときに、「Sketch Showとはこうである」というのが…お2人の中で腑に落ちたというか。そういう風なポイントってあったりするんですか?

幸宏:それはね…バルセロナに行って。

加藤:ソナー(Sónar)ですね。

幸宏:僕たち、後半はけっこうメインアクトになっちゃったんででっかいところでやってましたけど…町の中心部の美術館でしたっけ?現代美術館?そこがメインのときが良かったんですよね。『Audio Sponge』を作り終えて、招待されてそこに行ったんですけど。僕たちがやったのはそこのちょっとしたホールだったんだけど、中庭でDJやってるんです。そこら中でDJやってたんだけど、あるときムームをかけてたんですよ。みんな寝転がって聞いてるんだけど、普通はDJのときってノリノリじゃないですか。で、ぼくがここに来た意味はこれだったのか、ってわかったんですよ。

H:んー、なるほど。

幸宏:なぜSketch Showは呼ばれたんだろう。で、後に結局ヘッドライナーになっちゃうんだけど…

H:それまではテクノ系ってダンスミュージックみたいなものだったんだけど、そうじゃなくなったということだよね。

幸宏:そうですね。なんか「気持ちいいもの」だったんですよ。小気味が良くて、高揚感があって。昔細野さんが「僕は将来、静かな高揚感がある音楽をやりたい」と言ってた。

H:ほんと?そんなの知らない…(笑)

加藤:じゃあそういうことがSketch Showでだんだんそうなっていった…みたいなこともあるんですかね。

幸宏:いや、細野さんは無意識だと思う。

H:その前にアンビエント時代っていうのがあったでしょ。その頃に…

幸宏:そう思ってたんじゃないですか?

H:うん、そう思ってたね。

幸宏:そしたらそこにドーン!と出てきたんですよ。エレクトロニカというものが。

H:そう。アンビエントはポップな音楽ではないんで…ミニマルなんですけど。

幸宏:なにかを鎮めるためにありますよね。

H:アシッドハウスのあたりからダンスからチルアウトに移行して、アンビエントになって。その頃、アンビエントっていうのは大自然の激しさみたいなものがあるなぁ、って感じてたんですよ。

幸宏:そういえば僕、昔はアンビエントはあんまり聴かなかったけど、今の軽井沢の家ではしょっちゅうかけてますよ。

H:今はちょっとした…時代的に合う時代になってきたね、アンビエント

幸宏:合いますね。やっぱりストレスが多いんじゃないかな。いろいろ。都会には。人が多いところは。自然の中に行くと、野鳥が止まったりするんですよ、ベランダに。餌を毎日置いておくといっぱい飛んでくる。いわゆるジュウシガラ、ヤマガラとか…

H:わかるんだ、見て。全然わかんないや(笑)

幸宏:もう「野鳥のすべて」っていう図鑑まで買っちゃいました(笑)

H:そうか(笑)

 

加藤:はい、ちょっと話が逸れに逸れましたが…1回目。聞いててめちゃくちゃ興味深かったんでこのまま聞いていきたいんですけど…

幸宏:読む人も興味深いと思いますよ。いかに原点がそういうものだったか、というのをわかってもらえれば。

H:こういうことはあんまり、今まで話してないもんね。

幸宏:お互いに今ので分析できちゃったり…(笑)

H:いま初めて知ったということが多いね。

加藤:次回の1時間で『Tronika』と『Loophole』にフォーカスして、というか。その頃の時代のお2人の感じというところをつかんでいきたいなと思います。きょうはこの辺で終了させて頂きますので。

H:そうですね。お疲れさまでした。

幸宏:お疲れさまでした。

 

 

 

 

2021.08.08 Inter FM「Daisy Holiday!」より

 

daisy-holiday.sblo.jp

 

H:はい、こんばんは。細野晴臣です。えーとですね…ホントに久しぶりなんですが、ゲストに…久保田麻琴くん。いらっしゃい!

久保田:こんばんは…というか、おはようございます。

H:どっちとも言えないね。時々、街で会うんだよね(笑)

久保田:会いますね(笑)

H:けっこういろんな人に会ってるんじゃない?

久保田:いやいや、細野さんくらいですよ。なんか年に1,2回ね。

H:会うね、突然。

久保田:駐車場とかね。

H:あとカフェね。

久保田:カフェの入り口とかね。隣に座ってることとかもありますもんね。

H:あるね。なにしろお互いにお酒を飲まないもんで。

久保田:飲めないですね。

H:だからカフェなんだよね。コーヒー好きだから。

久保田:コーヒーですね。

H:まぁそういうことで。6月にHarry & Macが…久保田くんがマスタリングしてくれたんですよね。

久保田:ありがとうございます。

H:元はバーニー・グランドマン(Bernie Grundman)という…元々良い音だったというか。

久保田:大変でした(笑)ハードル高かったですね。

 

 

Night Shade  - Harry & Mac

(from『Road To Louisiana』)

  

 

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H:それから…いろいろ出るよね。夕焼け楽団も。

久保田:去年は昔のトリオ(トリオ・レコード)で出てた初期の3枚がまとまって出て。その前のデビューアルバムも去年出たのかな?今年か。

H:うん。

久保田:とにかく、去年から今年にかけてどどーって出て。で、1977~1979年の最後のほうの夕焼け楽団コロムビアなんですけど、これもマスタリングが終わって。8月ですね。もうすぐ出る…

H:もうすぐだね。いやー、アナログ盤がいっぱい出るね。

久保田:ですね。レコード屋行ってないですけど、ヴィニール専門の店とかある…おもしろい。

H:あるみたいね。みんなよくプレーヤー持ってるなね(笑)

久保田:プレーヤーも持ってるし、[レコードの]値段もね。昔の…下手したら倍ぐらい(笑)

H:そう、高いよな。

久保田:なかなかね…まぁでも珍しいものなので、ぜひ。少ない数ですから。

H:そうね。不思議な時代だよ、今は。

久保田:ですね。いろいろ不思議ですよね。

H:ホント不思議な時代だ。いやいや…

久保田:本当はもっと時間が欲しいんですよね、私。色んなことがあるので…制作の機材も一変わりしてますし。その勉強、というかチェックするだけでもう…

H:そうなんですよ。もうね、僕は出来ないよ。なにがなんだかわからないもん。

久保田:たしかに(笑)

H:だから情報をもらうとうれしいんだよね。

久保田:よく人に言うんですけど…昔、30年ぐらい前からMPCというドラムマシーンありますよね。ヒップホップの。

H:使ってましたね、皆さん。

久保田:あれ好きだったんだけど、さすがに時代が変わって。ちょうど20年ぐらい前…ハリーとマックの時ですよ。アナログからProToolsになったのが。

H:あれは何年だったかな。

久保田:2000年前後なんですけど…1999年かな。それまでのデジタルレコーダーというのは16bitだったんですね。それが24bitになって、ああ、それならいいか、と思って。

H:うん。

久保田:ちょうどハリーとマックがProToolsというコンピューターシステムの導入の年だったんですね。

H:そうかそうか。つい最近という感じもあるけどね(笑)

久保田:(笑)そこからもう、つい最近ですよね。もう20年経ちましたから。

H:まだProToolsだもんね。現役だよ。エンジニアもみんな使ってるよ。

久保田:そうですよね。で、そのProToolsを追いかけるようにもっと安くて効率のいいものがどんどん出てきて。

H:若者はAbletonというものを使ってたりね。

久保田:そうですね。でもそうこうしてるうちに、昔使っていたMPCが新しくなって。

H:新しくなったんだね?

久保田:なりましたね。ここ10年か5年のドラムマシン…というよりはサンプラーというんですかね?その進歩は…操作するのが昔は4輪車に乗っていたのが今はヘリコプターくらいの…(笑)

H:飛んじゃうんだ(笑)

久保田:飛びますね(笑)ただ、ここまでやれることが多いかぁ、と。もう音楽を作ってるのか複雑なプラモデルをやってるのか、ちょっとわからなくなってくる。

H:そうそう。音楽を作ろうと思ってそういうのをいじくり出すと、何作っていいんだかわからなくなっちゃう(笑)

久保田:なりますなります(笑)今は私、それのいちばんドツボで…

H:でも楽しいでしょ?

久保田:まぁそうですね。その迷いはとても楽しい。でも1年ぐらい前から、自分の[新作]アルバムをやるってある人に約束してて…1年経ちました(笑)

H:そうだよね。アルバム作るときに機材を更新したくなるよね。今はちょうどそういう時期。

久保田:なるんですよね。たぶんProToolsが20年で一回りして…飽きたというか、やり口が決まってきた、みたいなところがあるじゃないですか。それを壊したいんですよね、きっと。

H:わかるよ。ガラッとね、壊したいというか。

久保田:それで今、次々と機材を買っては…子どもみたいに(笑)

H:大変だね、それ(笑)お金かかるね。

久保田:あ、お金はね、昔に比べると全部安い。10分の1ぐらいになってる(笑)

H:そっか。ずいぶん安くなったね。

久保田:だからAmazonとかでポンポン買っちゃうんですよね。でも、やれることは10倍ぐらいすごいんで…

H:忙しいね。勉強する時間が。

久保田:楽しすぎてね。本当に。

H:うらやましい…というか、まぁ自分もそうなんですよね。

久保田:細野さんもけっこうリマスターとかやってますよね。

H:やってるねぇ。

久保田:こないだアメリカのライヴの…『あめりか』ってアルバムでしたっけ?

H:そうそうそう。

久保田:あれはツアーのときのミックス?

H:そう、そうなんです。あれは主にロサンジェルスのアルバムで…ここにあるんで持ってってください。

久保田:CDにもなった?

H:なった。

久保田:あー、両方なんだね。あ、ありがとうございます。

 

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H:じゃあね、なんか聴かせてもらおうかな。持ってきてくれたんですよね。

久保田:どうしましょう。『ラッキー・オールド・サン』か『セカンド・ライン』という2枚のアルバムが70年代後半に出たコロムビアのアルバムなんですけど、どっちかですね…一つは細野さんの曲なんですよね。

H:なんだっけ?(笑)

久保田:"Roochoo Gumbo"(笑)

H:あー!

久保田:私が生涯憑りつかれているような曲…やってもやっても飽きない(笑)やっぱり『泰安洋行』のときの"Roochoo Gumbo"が本当にすごすぎて。

H:あれね、再現できないんだよね(笑)

久保田:レヴォン・ヘルムLevon Helm)とかも参加したヴァージョンなんで、記念ヴァージョンですから…

H:そうなんですよ。それ聴こうかな…

久保田:これもね、なんか上手くいかなかったな…とずっと思ってて。だからあの頃のアルバムは30年ぐらい聴いてなかったんですね。でも、こないだリマスターするときに、まぁやるか…と思ってマスタリングしてたら、あ、なかなかいいじゃん、って(笑)

H:(笑)

久保田:と思うこともちょっとあったので。

H:時間によって聴き方が変わるからね。

久保田:そうですね。それは『泰安洋行』のマジックは当然ないわけですけど。

H:まぁ楽しかったよ、あれは。僕もいたよね?

久保田:そうだ、細野さん遅刻して…(笑)プロデュースの予定だったんだけど。

H:このいきさつをちゃんと説明しないとわからないでしょ?

久保田:そうだね。

H:レヴォン・ヘルムザ・バンド(The Band)のドラマーで…もう伝説ですけど。もう亡くなってしまいました。それで…レヴォン・ヘルムザ・バンドじゃなくて彼の…なんて言うんだろ?

久保田:えーと、なんとかオールスターズですね(笑)

H:そうそう(笑)

久保田:だからスティーヴ・クロッパー(Steve Cropper)とかね。MG'sのメンバー。

H:ボビー・チャールズ(Bobby Charles)もいたね。

久保田:そうボビー・チャールズも…あれは遊びに来てたのかな?

H:そうね、遊びに来てたんだろうね。ただの酔っぱらいだから(笑)

久保田:ブッカーT(Booker T. Jones)がいたりとか…ドクター・ジョン(Dr. John)はあのとき欠席でしたね。

H:そうだったね。

久保田:まだちょっと不良状態だったか…

H:弱ってたんだよ。メンタルが。

久保田:そうですね。

 

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H:それで…あれは誰が声かけたんだろう。

久保田:あれはね…麻田さん、麻田浩さんがだいたい呼んでくれるわけですよ。で、夕焼け楽団が前座でした。

H:あ、そうだったんだね。

久保田:それで沖縄っぽい曲をやったらメインの人たちが「なにこれ?」って飛んで来るわけですよ。

H:うんうん。

久保田:「これは"ハイサイおじさん"という曲で…」って説明して。それでどっかのお店に繰り出して…なにかをかけたんですよね。『泰安洋行』かけたんじゃないかな?(笑)そしたらこれで行こう!みたいな話になって。そのままコロムビアの担当ディレクターに電話して、夜中にスタジオを押さえて…

H:そのときに僕のところにかかってきたんだよ。

久保田:そう。「細野さんプロデュースして!」。

H:突然だよ。寝ようと思ってたんじゃなかったかな(笑)

久保田:たぶん、もうYMOが始まってたんですよ。

H:そうだね。

久保田:だからアルファでなんかやってたか…だからそれはもう、遅れてもね。遅れてもというか勝手な無茶ぶりですけど。来て頂いて。

H:いやー、すごいメンバーだしね。ビックリしたよ。

久保田:そうだね。代わりにスティーヴ・クロッパーがその場を仕切ってましたけどね、さすがに(笑)

H:そうそう、リーダー(笑)

久保田:でもレヴォンが楽しく叩いてくれて。

H:で、"Roochoo Gumbo"をやったと。

久保田:そうですね。その後ね、喜納さん(喜納昌吉)たちとツアーをすることがあって。

H:うん。

久保田:ちょうどその録音をしてるちょっと後ぐらいかな。で、喜納シスターズですよね。スタジオに来てもらって。沖縄風のコーラスをダビングしてくれたんですよね。

H:そうだったんだね。

久保田:まぁちょっと、ずーっと恥ずかしかったけど。

H:うん。聴いてみたい。

久保田:久しぶりに聴いてみましょう。

H:ぜひ。

 

 

Roochoo Gumbo~Hoodoo Chunko - 久保田麻琴と夕焼け楽団

(from『セカンド・ライン』)

  

 

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H:いやー、懐かしいというか…ボビー・チャールズの声がすごい印象的で(笑)

久保田:(笑)

H:なんかお酒飲みながらやってたよね。

久保田:たぶん(笑)「フィレー(file)」ってガンボに入れるスパイスなんですよね。それで「フィレー、フィレー」って…

H:そう言ってたんだ!今初めて知った(笑)

久保田:で、言い過ぎたんでスティーヴ・クロッパーが「そんなに入れたら不味くなるよ」って言ってた…(笑)そういうしょうもない記憶がありますね。

H:そうなんだ(笑)おもしろい…

久保田:おもしろい人たちだったね。レヴォンもいい人だった。

H:いい人だったね。Harry & Macニュー・オーリンズに行ったとき、レヴォン・ヘルムとすれ違ったね。

久保田:そうだっけ!?

H:「ちょうどニュー・オーリンズに来てるから会おうよ」と。メッセージが入って…ところがそれが中止になっちゃったのかな。来れなくなって。

久保田:ちょっと病気が始まってたもんね、少し。

H:うん。治療してたね。そういえば。

久保田:次の年にウッドストックまで私、行ったんですよ。『ON THE BORDER』というアルバムで…そのときは叩いてもらった。

H:あ、そうだったんだ。すごいね、そんなことやってたんだ。

久保田:でも、やっぱりちょっと病み上がりっぽいというか…で、「ギャラは要らねぇ」みたいな(笑)

H:(笑)

久保田:いやいやそうはいかないでしょ?みたいなノリでしたね。

 

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久保田:そのときはガース(Garth Hudson)にも久しぶりに会って…というときがありましたね。

H:2,3年前だったかな?ガース・ハドソンが自分のバンドで来て。ビルボードで。

久保田:そうだ!3年ぐらい前ですね。あれ、一緒に行かなかったっけ?

H:一緒だったっけ?(笑)

久保田:一緒だったような気がするけど、違ったかな…

H:楽屋で話したりしたのも…

久保田:あー、ありましたね。違うときだったかもしれない。まぁでも、同じビルボードで。奥さんとね。

H:そうそう。ガースがね…おもしろい人だなぁ、と思って。

[*ガース・ハドソンの来日公演は2013年8月。]

H:Harry & Macのときに…あれはどこでレコーディングしたんだろう。サンフランシスコ?

久保田:あれはね…ロサンジェルスのスタジオ。ウェストレイクみたいなところだったかな。あれですよね、ジム・ケルトナー(Jim Keltner)。

H:そうそう。すごいな。

久保田:それだけ先に決まってたんですよね。「なんかやろうね」って。内容が決まる前にドラムだけ決めるという(笑)

H:うん(笑)いやー、ケルトナーとできたのはいい体験だよ。

久保田:そうですね。

H:今やできないかもしれないしね。

久保田:まぁでも元気っぽいけど…

H:元気だけどね。ジム・ケルトナーは僕のことを「サムライ」って…(笑)

久保田:(笑)

H:ぶっきらぼうだしね、僕。無表情だし。で、「自分のドラムスはポルカ」だと言ってたのがすごく印象的で。ルーツがね。2ステップというか。

久保田:はいはい…そういう系の国だもんね。たしかにストレートのロックドラムというよりはちょっとロールが入ってるというか。

H:そうなんだよ。ライ・クーダーRy Cooder)の『Into The Purple Valley』とか、ああいうところを見るとね。

久保田:そうそう。ライとは相性が良かったですよね。なんかサーカスっぽいというか、揺れのあるところが好きだったんですよね。私も細野さんもね。まぁ日本では伊藤大地っていうのがいますけど(笑)

H:いるね(笑)ライ・クーダーの息子(Joachim Cooder)もなかなかね。

久保田:そうですね。さすがにお父さんとずっとやってるから…あのスタイルは彼、上手だよね。

H:来日して息子がドラムをやったセッション、すごい良かったんだよな。

久保田:あ、サム・ゲンデル(Sam Gendel)の時ですか?あ、違う違う!ニック・ロウNick Lowe)と一緒に来た時…良かったよかった!良かったけど、ニック・ロウのバックの時はちょっとヘタでしたよ(笑)

H:(笑)

久保田:お父さんのときはめっちゃ上手かったけど、ストレートなロックを叩くと急にアマチュアみたいに…

H:忘れられないよ、"Jesus On the Mainline"。良かったなぁ…

久保田:あの独特な入り…マーチっぽいね。

H:なかなかあれ、あの後で聞けないんだけど。あのセッションでしかないんだよね。

 

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久保田:あの後にヨアキムから連絡があって。「演奏に行くから観に来て」って。行ったらね、トリオで。サム・ゲンデルというサックスの男だった。

H:今ね、大流行り。大人気。

久保田:そうだよね。で、ビックリして…グルーヴもすごく良かったし、音がすごく小さくて(笑)

H:(笑)

久保田:ドラムが入っててこれだけ小さい音のコンサートは初めて観た(笑)

H:そっか(笑)

久保田:でもここのところね、そういう小さい音のロックがすごくいい。

H:やった!

久保田:いいのがあります。

H:勝った!(笑)

久保田:それなら任しとけって?(笑)

H:もうね、コンセプト。小っちゃい音にみんな耳を傾ける。なんでそう思ったかというと、ザ・フーThe Who)のピート・タウンゼント(Pete Townshend)が「大きな音じゃないと人に伝わらない」と。ウソだろう、と。

久保田:はいはいはい、イギリススタイルね(笑)デカいですよね。電気めっちゃ使いますよね。

H:そうなんですよ。まぁそういう時代もあったけど、今はちょっと時代が変わっちゃった。

久保田:そのサム・ゲンデルのときはショールームみたいなところで、メインのギグじゃなくて東京でもちょっとやるよ、みたいな。パーティーっぽい…で、音が小さくてものすごく良くて。そのときにサムとも話して。

H:そうだったんだ。

久保田:でもね、細野さんのことは口にしてたよ。

H:え!なんで!

久保田:そのうち細野さんのなんかのレコードをサンプリングして…なんかありましたよ(笑)

H:え?知らないよそんなの(笑)

久保田:年に何十曲もリリースしてるんですよね。

H:いっぱい出てるね。いや、今はホントにみんな聴いてるんだよ。若いのが。

久保田:ジャズ的なところもあるし、ヒップホップの要素もあるし。

H:そうだね。

久保田:亡くなりましたけど、昔のジョン・ハッセル(Jon Hassell)みたいなね。

H:そうなんですよ。それはこないだも言ったけど…

久保田:ちょっと似てるんですよね。ニヤッとしてましたけど、それを言ったら。

H:やっぱりね。

久保田:今日持ってきたかな…あのね、こっちのほうがいい曲があるかもしれない。

H:じゃあ、最後になっちゃうけど…最後の曲を紹介してもらおうかな。

久保田:じゃあサム・ゲンデルで行きましょうか。

H:またかかるんだ、サム・ゲンデルが(笑)

久保田:あ、ここのところかかりすぎ?

H:いいよいいよ(笑)

久保田:じゃあ止めて…Jディラ(J Dilla)にしましょうか(笑)

H:なんだって?

久保田:MPCの…若くして亡くなった黒人でJディラという人がいて。その人がやっぱり、今のドラムマシンというか打ち込みのシーンにものすごい影響を与えていて。

H:お、聴きたいね。

久保田:たぶん細野さん大好きだと思うよ。これの何曲目かな…『Dillatronic』という実験アルバムで、インストの短い曲ばっかり入ってる。その14曲目だから…タイトルあったかな。『Dillatronic』の14曲目、みたいな感じでいいかな。

H:それでいいよ。

久保田:ドラムマシンの達人で、今のグルーヴを作ったパイオニアみたいな人なんですけど。残念ながらだいぶ前に亡くなって。

H:そうか。亡くなる人多いね。

久保田:そのJディラという人の実験作のような、デモのような『Dillatronic』というアルバムがあって。これはその14曲目だったと思います。タイトルは忘れました。

H:うん。

久保田:じゃあお別れに…これを聴きながら。

H:ありがとう。久保田麻琴くんでした。

久保田:ありがとうございます。

 

 

Dillatronic 14 - J Dilla

(from『Dillatronic』)

  

 

久保田:昔のMPCなんだけど、この人はクオンタイズさせないで…

H:あー。

久保田:自分の好きなところまでやって、それが「おっちゃんのリズム」なんです。

H:へぇ(笑)

久保田:「アラヨット!」みたいな。それが…今は拡大解釈で、ヨレたのがヒップになってる(笑)

H:なるほどね(笑)ちょっと流行ってるよね。ズレてる。

久保田:それの先駆者ですね。思い切ってそれをやって…たぶん出したときは何こいつ?って言う風に…20年前は言われたんじゃないかな。

H:あー、20年前か…

久保田:2000年代初頭だったはずですよ、この人。

H:ディ・アンジェロ(D'Angelo)がそれを大々的にやって…それを今、ブレイク・ミルズ(Blake Mills)とかサム・ゲンデルと一緒にやってたりするベーシストがいて。パラディーノ(Pino Palladino)という。

久保田:あ!はいはい。イギリス人ね。

H:うん。

久保田:彼は古いよね。もう60代だよね。もっと行ってるかな?たぶんあの人はイギリスのジャコ(Jaco Pastorius)みたいな人で…すごい元気で、サムと仲いいんですよ。たしか。

H:そうそう。最前線に立っちゃってる。

 

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H:ズレが意識的になってきたね。

久保田:かなりデフォルメというか…そこまでやらなくても、という人は多いですよ。けっこう。ものすごいファッションだよね。まぁ世の中ね、だいぶ無茶苦茶なんで。

H:(笑)

久保田:リズムくらいは緩くしていって…対抗していかないと。

H:そうだね。そのせいで今流行ってるのかな。

久保田:それもあると思いますよ。ここまでヨレていいんだ、と。

H:うん。

 

 

Dillatronic 15 - J Dilla

(from『Dillatronic』)

  

 

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2021.08.01 Inter FM「Daisy Holiday!」より

手作りデイジー🌼#23

  

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 (以下、すべてH:)

  

 はい、細野晴臣です。夏ですね。ホントに悩ましい世の中ですけど…まぁひと時のお楽しみということで。今回はサーフィン、ホット・ロッドを大雑把ですけど紹介していきたいと思います。

 僕は中学生の頃はずっと、ラジオばかり聴いていまして。1963年のある日のことなんですけど、ヒットチャートに素晴らしい曲が上がってきたんですね。それがビーチボーイズThe Beach Boys)の"Surfin' USA"だったんです。ということで、前半はそこに至る系譜をつなげてみたいと思います。イントロに注目して頂きたいと思いますが、まずはルイ・ジョーダン(Louis Jordan)の"Ain't That Just Like A Woman"。そして10年後、1958年のチャック・ベリーChuck Berry)の"Johnny B. Goode"、同じく1956年のチャック・ベリーの"Brown Eyed Handsome Man"。その2年後の1958年はデュアン・エディ(Duane Eddy)の"Movin’ N' Groovin'"。そして、1963年のビーチ・ボーイズの"Surfin' USA"につながっていきます。前半の最後はその元ネタであるチャック・ベリーの"Sweet Little Sixteen"。ではまず最初のルイ・ジョーダンから。"Ain't That Just Like A Woman"。

 

 

Ain't That Just Like A Woman - Louis Jordan And His Tympany Five

  

  

Johnny B. Goode - Chuck Berry

  

  

Brown Eyed Handsome Man - Chuck Berry

   

   

Moovin'N' Groovin' - Duane Eddy

    

  

Surfin' USA - The Beach Boys

   

    

Sweet Little Sixteen - Chuck Berry

      

 

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Wipe Out - The Surfaris 

      

 

 このサファリーズ(The Surfaris)の"Wipe Out"は大ヒットしましたけど…このイントロにはビックリしましたね。

 

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サーフ・サウンドというのはやっぱりインストが主役で、いわば「サブカル系」と言っていいんでしょうか。その中でも「King Of Surf Guitar」と呼ばれたディック・デイル(Dick Dale)。そのディック・デイルで"The Wedge"。

 

       

The Wedge - Dick Dale & The Del-Tones 

      

 

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 「Ghostly Sound」と呼ばれた"Pipeline"。やってるのは…これはオリジナルヴァージョンですよ、シャンティーズ(The Chantays)。

 

       

Pipeline - The Chantays

      

 

 1963年のヒット曲、"Pipeline"。シャンティーズでした。

 

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 次は同じく1963年のヒット曲、ザ・トラッシュメン(The Trashmen)の"Surfin' Bird"。

 

       

Surfin' Bird - The Trashmen

       

 

うるさいけどおもしろいなぁ。海のないところでやってるサーファーバンドなんですけどね。これ、リビングトンズ(The Rivingtons)というグループのパクリで…著作権、取られちゃいました。

 

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 さぁ、いよいよここからホット・ロッドですね。主役はビーチ・ボーイズとジャン&ディーン(Jan&Dean)。ビーチ・ボーイズで"409"、そして"Little Deuce Coupe"。

    

  

409 - The Beach Boys

   

         

Little Deuce Coupe - The Beach Boys

   

    

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 ロニー&デイトナズ(Ronny & The Daytonas)で、"G.T.O."。

   

         

G.T.O. - Ronny & The Daytonas

       

 

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 ジャン&ディーンの"Drag City"。これはブライアン・ウィルソンBrian Wilson)との共作です。1963年。

    

         

Drag City - Jan & Dean

       

 

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 次のリップ・コーズ(The Rip Chords)はテリー・メルチャー(Terry Melcher)とブルース・ジョンストン(Bruce Johnston)がリードを取ってたりするんですね。テリー・メルチャーについては色々と話すことが多いんですが…端折ります。"Hey Little Cobra"。

    

         

Hey Little Cobra - The Rip Chords

       

 

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 ホット・ロッドの締めはですね、ビーチ・ボーイズの"Our Car Club"。

  

   

Our Car Club  - The Beach Boys

       

 

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 ホット・ロッドは独自のポップススタイルを形作っていておもしろかったんですけど、サーフィン、ホット・ロッドは1962~64年…まぁ数年の出来事だったということですね。その騒ぎたるやすごいですけど。エネルギッシュですね。そういうところを潜り抜けてビーチ・ボーイズは発展していくわけです。とくにブライアン・ウィルソンは非常に内向的だし、サーフィンがあまり好きではなかったみたいですね。そのブライアン・ウィルソンの作曲で3曲、最後にお送りします。"Girls On The Beach"、"The Warmth Of The Sun"、そして最後は"Passing By"。

 

  

Girls On The Beach  - The Beach Boys

       

  

The Warmth Of The Sun - The Beach Boys

       

   

Passing By  - The Beach Boys

(from『Friends』)

       

 

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2021.07.25 Inter FM「Daisy Holiday!」より

 

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H:こんばんは、細野晴臣です。さぁ、今週もですね…先々週に高田漣くん、伊賀航くんが来て。一堂に集まれないからね。2人ずつ、と。

大地:そうですね。

H:一応…メンバーだった人たちというか(笑)

2人:(笑)

H:1年前にリモートでやったんだね。

大地:早いですね。

卓史:うんうん。

H:あれは全部4人でやったわけだね。1年前か…それってどう思う?昔なの?最近なの?遠いよね。

大地:その判断がつかないくらいごちゃごちゃになってますね。

H:さっき言ってたよね、時空が歪んでるって。

大地:歪んでませんか?なんか。

H:歪んでるよ。めちゃくちゃ歪んでる。明日って昨日?

2人:(笑)

卓史:その細野さんの感じ…(笑)

H:なんか「今日」っていう感じがないんだよな。

大地:今もいつなのかわからないですね。

H:わからない。今日はやるぞ!みたいな気持ちにならないんだよね。

2人:(笑)

 

H:じゃあ、その1年間はどうしてた?仕事…大地くんは結構忙しいでしょ?

大地:いや、それが…あ、じゃあいいですか?俺から。伊藤大地です。こんばんは。

H:…あ、そうだ。名前まだ言ってなかった(笑)えー、いま喋ってる伊藤大地くん。

大地:こんばんは。

H:そして隣が、野々村…

卓史:野村です、細野さん(笑)

H:わざと言ったんだよ(笑)

大地:芸能人みたい(笑)

H:卓史くんね。野村卓史

卓史:よろしくお願いします。

H:はい、ごめんなさい。

大地:そうですね、忙しいのと、全然仕事がないヒマな時間とが交互に…

H:あ、そうなんだ。どういう配分なの?結構スタジオやってるよね。

大地:録音がバーッとある時もあれば、まったくない時もあるし。まぁ今年は結構ライヴも…去年の秋ぐらいから始まったじゃないですか。

H:そうだね。

大地:7月は結構ヒマですね。

H:野村くんは?

卓史:僕はわりと満遍なくヒマでしたね。

H:満遍なくね(笑)安定してるよね。

卓史:(笑)

H:あの…フジロックとかやるんでしょ?今年。そういうのは出ないの?

卓史:大地は?

大地:僕は予定ないですね。

H:ないか。ツアーやってる人は結構多いでしょ?わりとみんな活発にやってるな、という印象が最近はあるね。

卓史:うんうん。

大地:だんだん、お客さんを入れても大丈夫、という感じになってきて。

H:なってきたね。1年前は全然ダメだったけどね。

大地:そうですね。「無観客配信」というのに慣れていく時でしたね。

 

H:それはさておき…1年どころじゃない、2年前。あの時の印象ってもう薄れちゃってるよね。どう?

大地:アメリカですか。ちょうど夏…

卓史:ちょうどこのタイミングですかね。

H:そうそう。今頃やってたんだっけね。2年前は。

大地:ホント、2年前に行っててよかったですよね、細野さん。ニューヨークに。

H:いや、ほんっとにそう思うよ。

大地:[2018年の]ロンドンも5月、6月ぐらいで行ったじゃないですか。で、1年後にニューヨーク、ロサンゼルス。

H:そうそう。いい天気だったよね。素晴らしかった。

大地:ですよね。いい季節に行ってたし。だから1年後になってたら実現しなかったし。

H:もう、ホントだよね。なんにもできないただのおじさんになっちゃうよね。

2人:(笑)

H:今そうだけどね。

大地:そうなんですか(笑)

H:そう。年老いた、哀れな…(笑)

大地:マイク越しに細野さんの声を聴くのも久しぶりだし、お姿を見ても変わらないですよね。

H:そう?変わらないかな。

卓史:なんかむしろ…髪も伸びて強そうになってて…

大地:(笑)

H:強そうになった?(笑)髪伸びると強くなるのかな。そういえば偉人はみんな髪を伸ばしてるよね。キリストさんとか。

大地:そうなっていくんですか?細野さんも。

H:いや、どうかな?(笑)漣くんたちとも話したんだけど…だんだん、家があるのに家のない人みたいな気持ち。なんて言うんだろう…世の中にはそういう人もいるじゃない?

大地:はい。

H:こないだ銀座に行ったら、GINZA SIXの前の通りにポールが立っててね。照明かな?外だよ?路上で僕ぐらいのおじさんが瞑想してるんだよ。座って(笑)みんなは見ないんだけどね。まじまじと見ちゃったよ。で、探しちゃうんだよね、次に行った時も。あれ、いないな?とかね。

大地:いつもそこにいるような人ですかね。

H:うん。僕もああいう風になるのかな、って。

大地:ならないと思いますけど…

H:いや、結構近いんだよね。気持ちが。

大地:この1年ぐらいで?

H:そう。なんて言うか、具体的に動く動機がないんだよ。ライヴとか…こういう時代、こういうことにならなければオーストラリアに行ったりとか。

大地:そうでしたね。

H:あとはいろんな…パリとかでイベントがあったんだけどね。全部そういうのも忘れちゃったじゃない。

大地:そうですね。

H:だから淡々としちゃうというか…もう、未来はないな(笑)

2人:(笑)

大地:髪を切ってください、そしたら(笑)

H:髪切ろうか(笑)

大地:俺、ドラマーだから呼んでもらうしかありえないじゃないですか。

H:そうだよね。

大地:でも細野さんと卓史は作る人。で、こうなって…ライヴじゃない音楽の場面もあるわけじゃないですか。2人は。

H:そうだね。うん。

大地:だからちょっと違いますよね、そういうときの気持ち…俺は全然わかんないですけど。こっちは呼んでもらう待ちなので。

H:そうか。いやー、ごめんね。全然呼んでなかったな。

大地:いやいや、そういう意味じゃないんですけど…(笑)だから自分が「作る!」っていう気持ちになれば…

H:でも2人はバンドやってるじゃない。名前忘れちゃった(笑)

2人:(笑)

大地:グッドラックヘイワと申します(笑)よろしくお願いします。

H:もう、すべて忘れてるんだよ(笑)その活動はやってないの?

卓史:こないだ1年半ぶりにライヴを…

大地:そうですね。

H:あ、やったんだね。どちらで?

卓史:愛知県ですね。フェスティバルに呼んでもらって。

大地:あとは卓史の地元の山口県、徳山で…

H:あ、山口なんだね。

大地:だから、去年はライヴやってないです。1本も。

H:あ、それは今年の話か。そうか。

大地:こないだです。緊張はしなかったけど、やっぱり感覚は…忘れそうになってる中やる感じというか…

卓史:うん。

H:そうだよね。

大地:こんなに、20何年以上音楽やってきて初めてというか。

卓史:お客さんも「声出さないでください」とか言われてることが多いから、こっちもぎこちないけどお客さんもぎこちないし…不思議な緊張感があるというか。

H:そうか。

大地:みんなそこと戦ってますよね。お客さんの…

H:なんか、楽しくないよね…(笑)

大地:そうですね。

卓史:でも、たまたまロケーションがビーチで。目の前に砂浜と海と…みたいな。で、天気も晴れてきて…というのがあったのでちょっといい感じでやれたんですけど。

 

 

 

H:うんうん。まぁでも…本当はこの5月に福岡でそういうシチュエーションがあったじゃない。

大地:そうですね。CIRCLE。

H:あれはやるつもりだったんだよね。

卓史:直前まで。

H:直前までね。急に中止になった。だから結局、なんにもやらない人間になっちゃったんだね。だって、1年以上ギターに触ってないんだよ。

大地:ホントですか?

H:うん。ケースに入れたまんまで。でも毎日挨拶はしてるよ。

2人:(笑)

卓史:ケース越しにですか?(笑)

H:そう。「元気?」って(笑)でもなんで触らなくなっちゃったんだろう、と。やっぱりね、何か大きな変化があったね。自分の中で。もう音楽できないのかもしれないな、と思ってね。

大地:作ったりは?

H:全然してない。

大地:してないんですか…

H:なんてね、してるわ(笑)

2人:(笑)

H:ギターじゃなくて鍵盤で。でもそれは去年だね。去年閉じこもってて…世界中で自分の家でやり出したじゃない。「Stay Home」とか言ってね。もうそういう人は今いなくなっちゃったけどね(笑)

卓史:そうですね。

H:だんだん復活してきてるよね。で、僕も「Stay Home」じゃないけど、元々…なんだろう、90年代から僕は「Stay Home」だったから。

大地:(笑)

H:その流れで映画の音楽をやったりしてたんですけどね。うん。でも、音楽は聴いてるんでしょ?

卓史:聴いてますし…なんか、YouTubeを見るのが増えましたね、すごく。

H:あ、同じだ。

大地:外国の「Stay Home」の音楽を見たり、見てる中でお笑いのが出てきたらそっちを見ちゃったり…(笑)

H:ずっと見てるよ、YouTube(笑)

大地:おもしろいですよね。自分の中ではこの1年で価値が上がりました。

卓史:え、プレミアム入ってるんでしょ?いつから?

大地:入ってる。それはでもね、コロナ禍になる前に…真心ブラザーズYO-KINGに勧められて。

H:そうなんだ。それは映画なの?

大地:YouTube Premiumという…お金を払うとCMがなくなるやつです。

H:ああ、それか。僕も入ってるはずなんだけどね。よくわかんなくて。

大地:(笑)

H:でも最近のYouTubeは急に…なんて言うんだろう、普通の人たちが目覚めた感じで。このコロナのこととかアメリカの大統領選のこととか。みんな語るようになったんだよね。情報源は限られてるんだろうけど。

大地:あー…

H:それは最近おとなしくなったけど。いっぱい、飽和状態だった。でも画面が動いてるわけじゃないから…YouTubeってラジオみたいになっちゃった(笑)

大地:流しっぱなしでも聴けますしね。

H:そう。「聴くもの」だよね。聞きながら他のことやれるし…[画面を]見なきゃいけないということがだんだんつらくなってきちゃって。だからラジオを聴いたりしてるんだよね。で、ラジオをやってると、ラジオの番組同士で最近、コミュニケーションがあるんで…(笑)今度その話するけど、今はしないよ。

大地:へぇ。なんか企画があるんですね。

H:企画じゃないの、自然現象。おもしろい。これはテレビではありえないね。

大地:なるほど。なんかわかる気がします。

H:まぁそれは今度、追々話します。

大地:ぜひ。

 

H:じゃあね、なにを聴いてるか…音楽聴かせて。

大地:きょうかけてもらおうと思ったのは…たまには自分が演奏してる曲もいいかな、と思って。

H:お、いいね。

大地:こんな感じをやってます、という…吉田省念くんのアルバムが今年出たんですよ。ずっといっしょに録ってきていて。1stアルバムはたしか、細野さんも声で参加してくださって。

H:そう。ユニークな音楽だったね。

 

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大地:そうですよね。あれから3作目が…

H:そんなに作ったんだね。

大地:いっしょに作っていて…じゃあ俺からかけさせてもらって…

H:うん。どうぞどうぞ。

大地:今年出た吉田省念くんのニューアルバムから、"DEVO"という。

H:お、ディーヴォ

大地:はい。D-E-V-O、"DEVO"。

H:DEVOっていうグループは知ってるよね?

大地:ディーヴォ?あ、俺知らないですね…

H:世代の…(笑)

大地:でも、そこから来てるかもしれないですね。

H:そう。テクノ時代のね。80年代。

卓史:スペルも同じっぽいね。

大地:うん。曲調はあれですけど…ちょっと聴いてみてください。

H:はい。聴かせてください。

 

 

DEVO  - 吉田省念

(from『空前のサミット』)

  

  

H:素晴らしい。いやー、おもしろい…なんだこりゃ。

大地:これ、省念くんと2人で…細野さんも行かれたことあると思うんですけど、スタジオ。

H:あるある。京都ね。

大地:はい。自宅スタジオで。2人だけで録って…そこから彼がいろいろ重ねていった。

H:器用な人だね。

大地:すごいですよね。

H:なんか、1枚目の時もこんな感じで…ビックリしたんだよね。ビックリするね、この人の音楽。

大地:そうなんですよ。彼自身にとって締切とかないから、納得がいくまで時間をかけて作ってて。

H:いいねぇ。

大地:すごく完成度が高い…

H:なんか、全部聴きたくなるね。いつ発売なんですか?

大地:もう出てます。サブスクでも聴けますし。

H:出てる?じゃあちょっと買ってみようかな…

大地:あ、買ってくれる…よろこびます(笑)

卓史:(笑)

H:もらうよりは買ったほうが全然いいからね。

大地:そうですね。

  

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H:では…野村くん。

卓史:はい。えーと…なんて読むのかわからないな。

H:え?(笑)

大地:曲名?

(♪流れ出す音源)

卓史:あー、違う違う違う…

H:え?

卓史:えっと、ごめんなさい(笑)この…

大地:動画?

卓史:いや、これはSpotifyの自動で動画を流してくれるやつ…

(D:それ持ってます。)

卓史:あ、そうですか。

H:誰?

(D:たぶん細野さん知ってます。)

卓史:あ、じゃあ…(笑)

H:誰だ…(笑)

大地:Spotify派?

卓史:有料会員になってるのはSpotifyだけだね。

大地:そうなんだ。一本で…細野さんはなにで聴いてます?

H:僕は相変わらずね、iTunesから離れられない(笑)

大地:iTunesApple Musicと?

H:そうね。

大地:俺もそうなんですよ。最近、音質がすごくよくなって…

H:はいはい。

卓史:…あ、じゃあお願いします。

H:じゃあちょっと曲、紹介して。

大地:曲名がわからない…

卓史:読めない…(笑)なんて読むんだろう、これ…「ジュラーケル」?

大地:ピノ・パラディーノ(Pino Palladino)の…

H:あ、ピノ・パラディーノ。ブレイク・ミルズ(Blake Mills)とやってるやつ?

卓史:そうです。めちゃめちゃカッコいい…

H:みんなそれ聴いてる!(笑)

卓史:(笑)

大地:俺も聴いてます(笑)

H:なんだろう、これ(笑)

卓史:曲はかぶってないですか?

H:かぶってない。

卓史:よかった(笑)

 

 

Djurkel  - Pino Palladino, Blake Mills

(from『Notes With Attachements』)

  

 

卓史:たぶんホーンを吹いてるのは…

大地:あー、サム・ゲンデル(Sam Gendel)。

卓史:サム・ゲンデル。で、途中からドラムが入ったと思うけど…

H:ドラムは後でかぶせたみたいだよ。

卓史:あ、そうなんですか?

大地:じゃあ、あれですよね…クリス・デイヴ(Chris Dave)とかも叩いてますよね。

卓史:クリス・デイヴだった気がする。

大地:そうだよね。

H:誰?

大地:ディ・アンジェロ(D'Angelo)とかで叩いてる…

H:あ、そうか。

卓史:ディ・アンジェロ組ってことだよね。

H:そうだよね。パラディーノが…

卓史:うんうん。

   

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H:いやいやいや…サム・ゲンデル、ブレイク・ミルズ、ピノ・パラディーノって、今みんな聴いてるんだよね(笑)どういう現象なんだろう。

卓史:僕、あんまり横のつながりとかでその話になったことなくて…

H:いや、僕もそうだったんだよ。ついこないだまで。

卓史:あ、そうなんですね。

H:そしたら…例えばここでかけるじゃない?そうするとすごく反応があるしね。あとはゲストの人たちとか、みんなかけるんだよね。

大地:自分も結構、行く現場現場で「聴いた?」みたいになってますよ。

H:そうかそうか。なんだろう?なにがみんなを引き寄せてるんだろう。

大地:YouTubeとかでセッションしてる映像が上がってきてて。たぶんそれを見てから音源が出てるから…

H:そっかそっか。

大地:YouTubeの、彼らが狭い…

卓史:ね。スタジオでもないようなところでね。

大地:うん。みんなが集まる場所でお酒飲みながら、みたいな…

H:雰囲気がいいよね。セッションだもんね、こういうのは。曲というよりも。

卓史:そうですね。

H:サム・ゲンデルとかブレイク・ミルズは曲になってるけどね。このパラディーノはセッションっぽい。

大地:ぽいですよね。

H:こういう自由な感じがいいのかな。でも、本国アメリカでもすごく評価されてるじゃない?新しい潮流なのかもしれないですよね。

卓史:うんうん。

 

www.youtube.com

 

 

H:ジョン・ハッセル(Jon Hassell)というトランペッター、亡くなっちゃったんだよね。

卓史:あ、そうなんですね。

大地:そうなんだ…

H:うん。ついこないだ…6月26日だったかな?

大地:ホントに最近。

H:84歳かな。結構、お年だったんだね。まぁブライアン・イーノBrian Eno)とやってたからその時代…70年代から聴いてたけどね。あの人もトランペットにハーモニー付けてるじゃん。

卓史:そうですよね。サム・ゲンデルにちょっと近い…

H:うん。エフェクターとしてね。他の誰もやってないことやってたよね。

卓史:発信音みたいのを使ったり。

H:ああいうのを聴くと「あ、ジョン・ハッセルだ!」ってすぐわかるじゃない?その流れがつながってるよね。サム・ゲンデル、ブレイク・ミルズ…みんなハーモニーを使ってる。あと、ボン・イヴェール(Bon Iver)も声にそれを使ったりね。サックスにも入ってるけど。

大地:その音響効果のシステムはなんなんだ?みたいのをみんな知りたがってて。それを誰かがこないだ現場で教えてくれて…実はBOSSの小っちゃいやつを使ってるんだ、みたいな(笑)

卓史:(笑)

H:Rolandとかね(笑)

大地:そう!大したもんじゃないという(笑)

卓史:そこはカッコいいね(笑)

H:そういうもんなんだよな。

大地:ホントに、センスのある使い方をしている、みたいな。みんな言ってて…

H:いいね、音楽の話は(笑)

2人:(笑)

H:ホッとするよ(笑)なんかこう、こんな時代でも音楽聴いてるとその世界に入れるからね。あー、やっぱり音楽やめるのやめた(笑)

大地:やったー(笑)

卓史:ぜひぜひ…(笑)

H:音楽、おもしろいわ。自由だよ。

大地:自由ですよね。

H:ね。マスクいらないから。

大地:音楽やってると…つけてると演奏できないんで、外してます。

H:そうでしょう。そりゃそうだよ。

大地:つけると音変わるじゃないですか。ハイが落ちるというか…

卓史:感覚的にはかなり変わるよね。

H:声はね。ドラムが?

大地:聞こえる音が。

H:あ、聞こえる音がね。

大地:それは誰かが…鼻から音を聴いてるから変わるんだ、って言ってて。

H:鼻!鼻って耳なのか!(笑)

大地:たしかにそうかも!と思って。

H:へぇー!

大地:へぇですよね。

H:初めて聞く。だったら口もそうかも。目も。

大地:響いてる…

H:まぁ皮膚でね、聴くから。そうかそうか。それは知らなかった。

大地:そうですよね。ドラムは無理です、マスクしながらは。

H:まぁでもしてないほうが…見た目もね。

大地:(笑)

H:だって最近の子どもは…家庭でお母さんがマスクしてると「マスクを取った顔が怖い」っていう子どもがいるって…

大地:そうか、逆に…

H:あと、「昔に戻りたい」っていうのはニュースで聞いたんだよ。子どもたちが。

卓史:「昔」というのはその子たちのちょっと前の…

H:コロナ以前の。それはおんなじ気持ちかもしれないね。あ、でも僕は昔に戻りたいとは思わないけどね。どう?

大地:うーん…

卓史:いやー…

H:(笑)

卓史:「どうしていくか」みたいなことばかり考えてたんで、もし不思議なスイッチがあって戻れるというんだったら押してみたい、という気持ちはありますけどね。

H:うんうん。ボタンね。なるほど…まぁ今後、どうするのかな?予定っていうのは別にないんだよね、僕もね。

大地:グッドラック的にも…なにも立ててないよね。

H:立ててないか。なんかやろうかな!

2人:お…

H:このまんまじゃイヤだ!(笑)

大地:おお!(笑)

H:(笑)

大地:これは…細野さんフェスティバルみたいな(笑)

H:それは無理だよ(笑)

大地:そうですね(笑)

H:まぁでもなんかしら…やんないとおもしろくないや。レコーディングでもいいんだけどね。でも、いまはそういう音楽…さっきみたいな音楽聴いてて影響されちゃうとイヤだな、と思ってね。2年前はブギウギやってたじゃない?

大地:そうですね。

H:もう今はちょっとできないけどね…

大地:ですよね。2年もやってない…

H:そう。ずいぶんやってたじゃん。10年ぐらい?

大地:そうですね。やってました…

H:まぁその集大成だったじゃない、2年前のアメリカはね。

大地:ホントにそうだと思います。

H:だから、これが終わったら休もうと思ってたから、ちょうど休めたという。で、今後どうするかっていうのは白紙状態。聴いてるけどね。いろいろ。聴いてるけど自分は白紙状態で。どうするんだろう?と思ってね。まぁみんなもそうらしいね。どうやらね。

大地:そうですね。

H:まぁじゃあこんな感じで…締めちゃうよ?

大地:はい。

卓史:はい。

H:いいの?(笑)

2人:(笑)

大地:またしばらく細野さんと会えなくなるのか、と思うとアレですけどね…

H:前、家の前で会ったね。僕の母親が亡くなって…

大地:すみません、そのときは…(笑)

H:いやいや!すばらしいよ。なんか…奇跡だよ。位牌を持って、外に出たんだよね。

大地:ちょうどみなさんがお帰りになられたとき…

H:そう!そしたらそこに通りかかって、なんかくれたんだよね。

大地:細野さんにちょっと、夏のお届け物を…と思って来たら、細野さんとみなさんが喪服の姿で…

卓史:あー…

H:そうそうそう。どうもありがとうございました。

大地:いえいえいえ…(笑)

H:野村くんも、ありがとうございました。

卓史:いやいやいや…(笑)

大地:また、呼んでください。

卓史:ぜひ!

H:はい、またやりましょうね!では、伊藤大地くんと野村卓史くんでした。ありがとう!

2人:ありがとうございました!

 

 

2021.07.18 Inter FM「Daisy Holiday!」より

 

daisy-holiday.sblo.jp

 

~~~~~~~~~~~~~ 

 水原佑果:…そこに行ったときにホケキョーがたくさん鳴いてて。頂上に行ったときに。

 H:あー、ウグイスってやつね。

 佑果:♪ピピピピピピピ…

~~~~~~~~~~~~~

 

H:「いいねぇ、佑果ちゃん。」ということで…なんかごめんね(笑)

安部:(笑)

H:ちょっと他の番組に影響されちゃって…いけないね。

 

 

H:今日のゲストはnever young beach…って言っていいの?

安部:大丈夫です(笑)

H:大丈夫ね。安部勇磨くんです。

安部:よろしくお願いします。

H:ソロが6/30に出ましたよね。

安部:そうなんです。

H:いまCDを初めて見たよ、僕は。あれ、そんなことないかな?

安部:(笑)

H:ソロが出て、反響はどうですか?

安部:やっぱりすごい反響があって…リリースするにあたってSNSを始めたんですけど。

H:あ、今までやってなかったんだね。

安部:やってたんですけど、ちょっとお休み…というかやめてたんですけど。今回リリースしました、ということをやったら、海外の方がすごい…今までになかったくらいパーッと書いてきてくれて。

H:すばらしいね。

安部:なんかうれしい、届いてないところや人に届き始めてるのかも、と思ってすごくうれしくて。

H:やっぱりいいね。SNSとか。そういうのね。

安部:でもホントに細野さんやデヴェンドラさん(Devendra Banhart)のお力もありがたいというか…ワクワクして楽しかったので。

H:僕も楽しかったよ、ミックス。

安部:あ、ホントですか。なんかちょっと…あー、一個終わっちゃったんだ、みたいな。夏休みが終わっちゃったみたいなみたいな寂しさもあるんですけど。

H:いやいや、始まったんだよ(笑)

安部:そうですね(笑)ホントに楽しかったです。ありがとうございました。

H:じゃあその中で…1曲かけましょう、まずはね。

安部:じゃあ…僕の中で思い入れが強い曲なので、"おまえも"という曲をお聴きください。

H:あ、これ僕がミックスしたやつだ(笑)

安部:そうですそうです(笑)これ音がいいんだよな…なんでシンセサイザーとか…まぁ後で聞きますけど、なんでこんな…

H:(笑)

 

 

おまえも - 安部勇麿

(from『fantasia』)

  

 

H:いやいや、いい歌だね。

安部:えー!うれしい!(笑)

H:歌を聴きながらミックスすると楽しいね。つい聴いちゃうんだよね。だからすごく[ボーカルを前に]出しちゃったよね(笑)

安部:出してくれたんですね(笑)ありがとうございます。うれしい…

H:出過ぎてない?大丈夫?

安部:ぜんぜん!でも僕は初めて聴いたときビックリしちゃって。ミックスってこんなに変わるんだ、というか。

H:元をみんなは知らないからね(笑)

安部:僕が自分で、なんとなくでやってたやつがあったんですけど。細野さんがやるとこんなに違うんだ、すげー!って…ちょっと感動しちゃいました。

H:そこまで言われるとなんか恥ずかしいんですけど…もっともっと良くなるかもしれないし、力が足りない…

安部:いやいや!僕は音楽やってる友達に自慢気に、鼻高々に、聴いてくれよ…とか言って(笑)細野さんがミックスしてくれたんだ、って。で、みんな聴いてうわー、すげー…って。楽しかったですね。

H:よかった。これはギターがデヴェンドラ。

安部:そうです。デヴェンドラさんが弾いてくれて。

H:いいね。いい仲間だね。

安部:ホントに素敵なギターが入って、しかもこれに細野さんのミックスという形で…5,6年前の自分とか、ビックリするだろうな、と。

H:それはみんなそうじゃない?僕もそうだよ。

安部:そうですね(笑)ホントに感動して…一生モノのワクワクする楽しい経験だったなぁと思って。すごく楽しかったです。

H:いやいや、これが始まりなんで。

安部:そうですね、ありがとうございます…

 

open.spotify.com

 

 

H:曲の特徴があるんだよね。なんだろう、なんか惹かれるものがあるんだよ。

安部:ホントですか!うわー、よかったー!僕、昨日…明日細野さんに会うんだと思って、細野さんのインタビューをなんとなく見てたんですよ。そしたら「細野さんの音楽に影響された若い人たちの音楽は聴きますか?」みたいな、何年か前のインタビューだったんですけど。細野さんは「聴かないな」って。

H:(笑)

安部:「お茶とかもそうだけど、一番は美味しいんだけど二番煎じ・三番煎じはあんまり美味しくないんだよ」と書いてあって。あっ!僕はまだがんばらなきゃ、みたいな…

H:いやいや…(笑)

安部:でもそう言って頂けるとよかった、うれしいな、と思います。

H:その頃はたぶん、聴いてなかったのかもしれない(笑)

安部:(笑)

H:今はみんな成長してきたじゃない。勇麿くんもね。もう大人だよ。あの頃はたぶん、子どもだったんじゃない?(笑)

安部:そうですね(笑)細野さんからデータでもらうときに一言、「素敵な曲だったよ」と添えてくれて。

 

H:その通りだよ、正直に。

安部:あれがホントにうれしくて。こんなことってあるんだなぁ、としみじみしてしまいました。

H:いやいや…でも歌とか曲がよかったんで、ホントにホッとしてるというか(笑)

安部:(笑)

H:これがダメだったらミックスってすごくつらくなるからね(笑)

安部:やっぱりそういうのありますよね、そうですよね。だから僕も…頼んだら細野さんは「いいよ」って言ってくれたけど、いざ渡してあんまり好きじゃないとかだったら大変なことを言っちゃったよな、と。大丈夫かな細野さん…と思って。

H:いや、たぶんね、お互いにあんまり考えないでやり取りしたのがよかったんだよね。突然会ったわけじゃないしね。お互いに知ってるし。

安部:そうですね。僕もいい意味で…細野さんとなんとかやるぞ!とか気合い入れるのもダメなんだな、と思って。スーッと普通のテンションで…

H:そうそう。普通で行こう、普通で(笑)

安部:よかったよかった(笑)ありがとうございます。でも、そう、出したら出したで…出すまでは宝物みたいな時間だったんですよ、僕の中では。

H:わかるなぁ、それ…みんなそうだよね。

安部:やってるときはすごい、うわーうれしい!とかだけだったんですけど、出てからは緊張というか。

H:そういうもんだよね。作っちゃった後って誰でもそう。僕もそうだよ。

安部:そうなんだ…

H:恋愛してるときって楽しいでしょ?でも家庭を持つわけじゃん。そうすると子どもができて。養育費とか。学校、どこに入れようとかね。すごい社会性を帯びてくる。音楽もそうやって生まれてくるんだよね。

安部:ホントそう、そうですね。だから僕もなんも考えず…なんも考えないから皆さんもファーって受け入れてくれたのかな、と思うんですけど。デヴェンドラさんも。

H:うんうん。

安部:なんも考えずに友達とやってた…細野さんのことを友達って呼ぶのもすごく失礼なんですけど。

H:いやいや、友達だよ(笑)

安部:音楽が大好きな、歳は離れてるけど大好きな人にやってもらえた!というだけでやってたのに、ちゃんと…こういう媒体でこういうインタビュー受けて、とかやっていくうちにどんどんどんどん…自分の感覚を言葉にしていくうちに、この言葉で合ってるのかな、とか。それは言葉にできないなぁとか。いろいろ考えちゃって。

H:なるほどね。なんも考えなくていいってば。

安部:(笑)

H:もう、まんまで…だって他の曲もいいからね。

安部:え、ホントですか!

H:ホント。嘘つかないよ、僕。嘘ついてもしょうがないからね(笑)

安部:よかった!(笑)うれしいー!

H:自分でも作ったとき、あ、いいのができた、と思うわけでしょ?さっきも言ってたように思い入れがあるわけでしょ。

安部:そうですね、作ってるときは…僕、ひょっとしてすごい才能あるんじゃないの?とか(笑)

H:それそれ(笑)それでいいよ。

安部:作ってるときは無敵のような感覚でやるんですけど。

H:それが大事なんだよ。

安部:じゃあ、細野さんも作ってるときがいちばん楽しい、というか…

H:まぁ、最近はちょっと落ち込んでるけどね。

安部:え!それはなんでなんですか?

H:やっぱりもうね、歳だから…才能がもうないというか(笑)

安部:いやいやいやいや…

H:いやいやいや…と言われてもね(笑)いや、ホントそうだよね。枯れてくるね。

安部:え、枯れるんですか!

H:枯れるよ。

安部:えー、だって『HOCHONO HOUSE』でも…2年前ですか、もう。

H:あれも勇麿くんの一言でつらい思いを…

安部:いやいや(笑)でも僕も『HOCHONO HOUSE』を聴いて…細野さんとかとお話しさせて頂いて、自分よりもぜんぜん歳が上の人でも…

H:ものすごく上だよ(笑)

安部:(笑)だけど、作る力ってやっぱりなくならないんだな、って。こんなにおもしろいものを作る…古いも新しいも超越した細野さんの…

H:でもね、やり出すとそうなるんだよね。やる前がダメなの。枯れてて。考えられない。

安部:へー。じゃあやると湧いてくるんですか?

H:やれば仕方なくやるというか。

安部:そうなると楽しくなってくるんですか?細野さんも。

H:無理やり楽しくなってくるね(笑)

安部:(笑)

H:とにかくね、持続力というか、若い頃の…例えば徹夜でやるじゃない。レコーディングもね。それができなくなってくる。

安部:あー、ホントに体力的なところで…

H:体力。気力もね。体力に気力が引っ張られちゃうから。

安部:なるほど。

H:昔は気力で体力をごまかしてたわけ。例えば…ずーっと徹夜でやってるじゃない、スタジオで。ひとりでやってるんだよね。そうするとなんかね、足踏みしてるんだよ。自分が。なんだろうと思って。なんで足踏みしてるんだろう、と。自分の足が。あ、オシッコしたいんだ、と思って(笑)

安部:(笑)え、それがわからなくなるぐらい…

H:集中しちゃうんだよね。昔はそうだったね。

安部:へぇ…昔って、細野さんの作品で言うとどのあたりの時期からそんな感じだったんですか?はっぴいえんどとかもですか?

H:いや、その頃はそんなことなかったね。集中したりする時間もそんなに長くないじゃない。短期集中で。

安部:じゃあ、その後のご自身の活動というか。

H:そうそう。ソロを作るとやっぱりすごい時間をかけちゃうじゃない?

安部:そうですね。

H:この前の『HOCHONO HOUSE』もすごい時間をかけて。消耗しちゃって。だからアルバム1枚作ると、背が1cmくらい縮むんだよ。

安部:(笑)

H:ホントに。体重は1kg増えるけどね(笑)

安部:細野さんって、アルバムを制作するときがいちばん楽しくなってきて、朝とか夜中までパソコンの前でやるじゃないですか。

H:うん。

安部:で、リリースになる頃って…完成品になるまでに自分で何回も聴いてるじゃないですか。

H:そうなんだよ。

安部:リリースしたときには、聴いてくれる皆さんはすごくワー!って言ってくれるけど、意外と自分は次の作品に向かってたりとか。

H:冷めてる。

安部:聴き飽きたりとかして。そのとき細野さんって、自分のアルバムができたらすぐに次の作品とかに行くんですか?それとも疲れちゃって行けないんですか?

H:気持ちはね…レコーディングをやってると次のアイディアが出てくることがあるでしょ?

安部:ありますあります。

H:映画作ってる人もそうじゃない。監督とか。次の作品の構想がその映画の制作中に出てきちゃうんだよね。

安部:うんうん。

H:それはあって。やろうと思うんだけど、できないね。疲れてて(笑)

安部:いやー、そうなんだ…僕も最近、やりたい気持ちとか、やるぞ!って思ってたのに…

H:ちょっと待ってよ、おじいちゃんの意見だからね?(笑)

安部:(笑)

H:自分に当てはめないでよ(笑)

安部:細野さんも昔はそうやってずーっとやってた…ただ僕は今、けっこう休んじゃうというか…この前も新しい曲を作ってたんですけど。

H:あ、また作ったんだ。それだよ、若さ。

安部:今回のアルバムを作って…細野さんのミックスとかで、こんな音像で気持ちいい…いろいろ勉強だなぁと思って。

H:それはいいね。

安部:僕だったらこうしてたのに、こういうやり方をするとこんな風に自分の曲が思いもしてなかったように聞こえるんだ、とか。

H:それっていいの?大丈夫?(笑)

安部:すごくいい意味で!ホントに素敵な意味で…自分は音楽の知識とかがなくて、閉鎖的に「こういうものだ」と思ってやってきたけど、細野さんみたいにいろんな音楽を知ってる方が「こういうやり方もあるんじゃないの?」ぐらいの感じでやってくれたような気がして。こういう音像があってこんな気持ちいいんだ、って。すごくハッとして、それでまたこういう音像でやってみたいな、とか。どんどんワクワクしてきて。

H:そうか。それはいいことだよね。

安部:で、今また曲を作り始めたんですけど。そしたらある程度形になってから詰めていくところで妙に体力が必要になってきて…今は一回やめちゃおう、とか思ってなんにもできなくなっちゃって。

H:いいんじゃない?一回放っておいたほうがいいよ。

安部:やっぱり一回放っておいたりする時期はあるんですか?細野さんも。

H:ある…かな?

安部:放っておいてる時期って音楽から全然離れるんですか?

H:そう。それでもう10年ぐらい経っちゃったりするんだよね。

安部:(笑)

H:いや、ホントに(笑)

安部:1990年代とかですっけ?

H:一時期ね、部屋でギターでいっぱい録り溜めてたの。メモ代わりにね。そういう断片がいっぱいあるんだけど。もう20年、30年前のもあるわけ。

安部:へぇー。今も残ってるんですね。

H:残ってるよ。これはいつか使おう、と思ってるうちに忘れちゃって。もう何十年も経っちゃってる。

安部:そういうのって、もう一回作ろうとかはあんまり…

H:いや、実はね…あるんだよ。

安部:お!じゃあ最近も実はなんか作ってるみたいなことなんですか?

H:ときどき使ったりするね。

安部:へぇー!

H:捨てないで取っておくという…もうなんでも取っておくんだよね。

安部:そうですよね。細野さんの六本木でやってた展示行ったら、小学生の時の漫画とか…すごいなと思って。

H:あれはね、母親が隠して持ってたんだね。

安部:いま見るとおもしろい…こんなものが残ってるなんてすごくありがたいなというか、ファンとしてはうれしくて。

H:まぁ、だからちょっと恥ずかしいんですけど。いろんなものが残りすぎててね。

安部:そうですよね。だってあれ赤裸々というか…自分の小さい時の写真とか恥ずかしかったりするのに。見せてくれるのはうれしくて。

H:だから…捨てる人も多いんだろうけど、捨てられない人ってけっこういるでしょ?捨ててないでしょ?

安部:僕はでも…細野さんみたいになんとなくギターでつま弾いたやつをデータで残しておく、とかはあるんですけど。昔のノートとかはどこかで捨てちゃってたりしてて。細野さんのを見てやっぱり残しておけばよかったかな、とか思って。

H:残そうと思ってるんじゃないんだよ。捨てられないだけなの。めんどくさくて(笑)

安部:(笑)

H:誰かが捨てちゃったらしょうがないけど、自分ではできないね。考えちゃうもん、1個1個。

安部:へぇ…

H:これは捨てていいかな…とか、考えてるうちに1時間くらい経っちゃうでしょ?だったら捨てないほうが早い、というか。

安部:あー。でも細野さんのあの展示を見てから、ちょっとノートに書いたやつとかは僕も残しておこうと思って。

H:だから…亡くなる前に整理したりする人がいるけど、そういうのはすごいなと思うよね。身辺整理してあの世に行く、という。たぶんそれはできないね、僕は。もう、迷惑かけながら…っていう感じになっちゃうよね。「なにこれ、こんなに残っちゃって」って言われるタイプ。

安部:(笑)

H:みんなそうだよ。音楽やってる人はだいたいそうかな?

安部:たしかに愛着というか、わきますもんね。

H:そのおかげで…亡くなった後も色々、音源が出たりするじゃない(笑)

安部:はいはいはい…そうですね。僕とかは自分が亡くなった後に、隠してた音源とかが世に出たらちょっと恥ずかしいかも、とか思うんですけど、どう思います?そういうのオッケーですか?

H:いやもう、死んじゃったらわかんないからね(笑)

安部:そっか、死んだらたしかに恥ずかしいもなにもないですもんね(笑)

H:ただし、生きてる間にあんな展示会やったり…まるで死んでるみたいな。

安部:(笑)

H:それがいちばん恥ずかしいよ。生きてるんだから(笑)

安部:そうですよね、赤裸々ですもんね。あんなにたくさんの過去のものが…

H:まずいもの展示してないかな?とかね。全然チェックしてないよ、自分では。

安部:あ、チェックしてないんですね!

H:大雑把に、いいよいいよ、みたいなね。

安部:へぇー!でもホントおもしろかったです。僕、2回行きましたもんね。

H:あ、ホント?そうですか。

 

安部:お…

H:おしゃべりをしてるとすぐ時間が経っちゃうんだよ(笑)1曲かけてお別れだね、これはね。

安部:あ、ホントですか!ちょっと早くて申し訳ないんですけど、最後に1個だけ…今度ホントに、ミックスを…ミックス講座みたいな感じで教えてほしいです。

H:いや、僕はなんのノウハウもないんだよ。

安部:いやー、そんなの嘘です。ダメですよ、細野さん(笑)

H:いやいや、ホントに。気力でやってるだけだから…

安部:あー!(笑)あ、話がまた長くなっちゃつてホントに申し訳ないんですけど…

H:(笑)

安部:ずーっときょう聞きたかったんですけど、先ほど流して頂いた"おまえも"とかのシンセがすごく空間があって広くて。あれってどうやってやってるんだろう、って。

H:…忘れちゃった(笑)

安部:あー!(笑)

H:その場でしかやらないから…(笑)

安部:最近僕、インタビューとかで…「アルバム出ましたよね」「細野さんのミックスはどうでしたか?」って聞いてくれて。

H:うん。

安部:いや、すごいんですけど、どうやったんですか?って訊くと「わかんないんだよね」って言われてわからないままなんです、って言って…(笑)

H:あとでデータを見れば思い出すというかね。

安部:あ!ちょっと今度、いつかデータを見せてもらっても…

H:いいよいいよ。

安部:やったやったうれしい!ありがとうございます!

H:ヘンな会話だ、ミュージシャン同士の…誰もわからない(笑)

安部:ありがとうございます(笑)

H:はい、じゃあ音楽…かけられる?1曲選んで。

安部:じゃあ、これも細野さんにミックスして頂いて…デヴェンドラさんがギター弾いてくれた曲で、"さよなら"という曲があるので…

H:あー、あれね。では、これでお別れします。ゲストの…今野雄二、じゃなくて…(笑)

安部:安部勇麿です(笑)

H:安部勇麿くんでした。なんで今野雄二が出てきたんだろ?(笑)

 

 

さよなら - 安部勇麿

(from『fantasia』)

  

 

H:お、いい音だな。

安部:あ、あと僕、そう、このギターの…ディレイみたいのかかってるじゃないですか。

H:はいはい。

安部:これが、『HOCHONO HOUSE』とかでもドラムにディレイがかかってたのを憶えてて。あ、細野さんのディレイだ!と思って興奮した…

H:いやいや、僕のディレイじゃないよ。みんなのディレイだよ(笑)

安部:みんなのディレイっていいですね(笑)

  

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安部:最近、源さん(星野源)とかとも…「勇麿くんって細野さん、大好きでしょ?僕も大好きで…」みたいな話をして。

H:あ、ホント?へぇ。

安部:「でも細野さんってさ、好きすぎると逃げちゃいそうじゃん」みたいな。

H:逃げちゃう?

安部:「スキスキ!」って言うと、細野さんってヒラヒラヒラ~、って…(笑)

H:(笑)

安部:だから「あんまり好きって言っちゃうと、どっか行っちゃいそうで言えないよね…」みたいな話をして。

H:それ、男女の話じゃないの?(笑)

安部:(笑)だから今回も…僕が細野さんに影響されて好きで作ったから、嫌われたらどうしよう…

H:いやー、嫌いなわけがないよ。でもなんか、こういうメロディーラインとかコードラインとかは自分の中にもあるからね。親戚だよね。

安部:マジでホントに、ありがとうございます。あー、よかった…うれしい…

H:声に特徴があるんだね。

安部:あ、ホントですか?

H:最近の人ってキンキンで高いじゃん。

安部:そうですね。高い人が多いですね。

H:低くはないけど、歌手の声…おもしろい。

安部:よかったー、うれしい!いや、それもすごいコンプレックスというか…今はちょっと低いくらいなんですけど、「細野さんの声と近いものがありますよね」ってインタビュアーの方から言われるんですけど。

H:あ、言われるんだ。

安部:でも僕からすると、細野さんほど低いところはあんなにどっしり出てないし。どっちつかずだな、なんかもっと自分の歌い方はないかな、とか。

H:悩むね(笑)

安部:そう、悩んでるんです(笑)

H:僕から見るとね、まだ半分子どもみたいに見える(笑)

安部:いや、そうですよね(笑)でもホント、細野さんにそういうこと言われると3日間くらい心がホカホカして…

H:よかったよかった(笑)

安部:ホントにそんなこと言ってくれてたっけ?とか、何回も考えたりしてわかんなくなってきて。

H:お父さんとお母さんはなんて言ってるの?

安部:あ、僕お父さんとお母さんが天界に行ってるタイプなんですよ。

H:あ、そっか。おんなじだよ、僕と。

安部:細野さんの世代の人たちとあんまり接点がないから…もしいたらおじいちゃんとかお父さんってこんな感じだったのかな、みたいな。

H:え、浸ってるの?やめてよ?(笑)

安部:(笑)そう、だから親しすぎると嫌われちゃいそうな感じがして…

H:お父さんって呼ばないで、絶対(笑)

安部:(爆笑)