2019.10.27 Inter FM「Daisy Holiday!」より
こんばんは。デイジー・ホリデーの時間です。番組では先週から、先日、恵比寿ガーデンプレイスで行われました、『細野さん みんな集まりました』、そのDay4「細野さんと語ろう! ~デイジーワールドの集い~」の模様をお送りしています。さぁ、今宵は、どなたがいらっしゃるのでしょう。
★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆
(会場拍手)
H:はい。ごはん食べましたかね。お腹すいたでしょう。お弁当、ちょっと食べました(笑)そぼろ弁当。えーと、きょうは楽かな?と思ったら、けっこう大変ですね。こんなに人としゃべるっていうことはあんまりないんで。ある人と会って30分ずっとしゃべってる、って言うことはないですよね。どうなるかわからないまんま、ここまで来ましたが…さぁ、次は?
(♪ピンポン)
H:来た来た。いとうせいこう!
(会場拍手)
せ:こんばんは。いやー、ね…もう、働き過ぎ!細野さん。
H:でしょう?(笑)
せ:こんな細野さん見たことない!
H:いやいや、自分でも見たことない(笑)ホントに。
せ:次から次へ話を振るし、メモもなく…
H:ない(笑)考えてない。
せ:なんかね、柳家金語楼とかそういう、昔の噺家のトークショー見てるみたいな感じがしました。
H:金語楼ですか。うれしいなぁ。金語楼、知ってる人いないですよ、今。
せ:そうですね(笑)川添さん(川添象郎)から始まったんで、ちょっと年齢を上に上げてみましたけど…もう何日もやってるんですよね?これ[イベント]?
H:あのね、1日…一昨日[10/12(土)]、台風で中止になっちゃったんですよ。残念ながら。で、それの振替で明日[10/15(月・祝)]、「映画」をやるんですけど、そのときに来てほしかったな。
せ:そうですよね、すみません。
H:明日にして?
せ:(笑)僕、一回帰ってね、明日また出てくれば…いや、仕事があるはずだったから僕もその日は台風で飛んで…
H:そうなんですよね。
せ:しかも、僕がなんでここにいるかって言うと…
H:うん。
せ:そのイベントの詳細っていうか、なんとなくこういうのがある、っていうのはね?メディアで知って。
H:はい。
せ:出たい!と。
H:あ、ホント?
せ:細野さんのイベントがあるのになんで僕を呼んでくれないんだ、と思って、事務所に言ったんですから。僕から。言ってここにいるんだから!いま。
H:そうなの?(笑)
せ:そうですよ!
(会場拍手)
H:知らなかった(笑)
せ:それで「映画」で、って言ったけど、[その回は]時間がちょっと合わないけど、「トーク」があるでしょ!って。もう、知ってるから、こっち!(笑)
H:(笑)
せ:いや、すごい大変なはずだから、これは僕が行って…
H:助け舟が来たわけだね。
せ:もちろんですよ。もう、休んでてくださいよ。そこで寝ててください。
H:オッケー。じゃあ、もうひとりでしゃべって(笑)
せ:(笑)もう疲れ…たしかに、普段はあのスピードで細野さんとしゃべってる人を見たことがない。
H:しゃべらないっすね。
せ:ですよね。もっとゆっくり、おまんじゅうでも食べて…
H:(笑)
せ:まったーりしてるのが細野さんのテンポじゃないですか。
H:そう。だから…向いてないことをやってるわけですけどね(笑)
せ:でももう、50周年ですから。
H:それがね、僕の悩みですよ。どうして50周年になっちゃったんだろう、って。
せ:いや、ずっとやってるからそうなっちゃったんですよ。
H:なっちゃったんだね。
せ:誰もがそこを超えなきゃいけない、台風ですよ。だから。
H:台風だ。
せ:やり過ごせばもういいんですよ。
H:そうだ。なんかね、いろんな…台風があったり、地震があったでしょ?
せ:そうなんですよ。なんですかあのおそろしい…
H:ね。
せ:これは神、怒ってるっていう…
H:怒ってるよ。
せ:怒ってますよね。ちょうどあの台風が来る1日前に、すごくちゃんとした企業でトップをやってる…若いんですけど、僕は信頼してる人が、気候変動の話をずっとしてたんですよ。
H:やっぱり?
せ:気候変動をどうにか止めなきゃいけないんで、欧米の優秀な企業の人たちが、「気候変動を止めるなら」っていう理由で会社をばらばら辞めて、いろんなネットワークに行ってる、とか。あー、立派だなぁ、っていう話をしてて。
H:うん。
せ:でも、マスコミじゃこの話をしないでしょうね、って彼も言ってました。これを気候変動と結び付けて話す人はいない。地球温暖化と結び付けて話す人がいない、っていうことが今の日本の問題だと思います、って言ってました。
H:なるほど。なんか、いろんな意見があって、本当のことが見えなくなってるでしょ?「温暖化は本当は無いんだ」とかね。
せ:はい。本当は…「大きく見ると冷えていってる」…
H:氷河期に向かっている、と。それはそうなのかもしれないけど。
せ:そう。「大きく見」たらなんでもそうなると思いますけどね。
H:実際は、でもね、暑い夏が来たし。
せ:来たし、あんなにデカいハリケーンが来ちゃってるから…
H:でっか過ぎますよ。
せ:でか過ぎましたね。
H:初めてです。だいたいね、男はそういうところあるんですよね。災害に対してアドレナリンを出してくるでしょ?
せ:まぁね、どうにかしたい、とかね。立ち向かいたい、とか。
H:なんかじっとしてられないんだよね。
せ:それは子供の頃からそうだった…
H:そうそうそう。子どもの頃はどしゃ降りになると、ぜんぶ洋服脱いでワーッ!って。裸でね、嵐の中に行って。風が吹いてて、「風よ吹け!」って言ってましたね。
せ:吹いてるのに!(笑)
H:吹いてるのに(笑)
せ:自分がやってるみたいに見せかけて?(笑)
H:見せかけて(笑)誰も見てなかったですけどね、残念ながら。
せ:たぶん、それが…ちょっと大人になって少し自分に抑制をかけられるようになるけど、ある年齢からこの抑制が取れるんでしょうね。
H:老人になるとね。
せ:うん。それはすばらしいことだと…フロイト(Sigmund Freud)はね、これを「抑圧されたものの回帰(Wiederkehr des Verdrängten)」と呼んでて。
H:出ました。ここがいとうせいこうらしいところです。
せ:(笑)これはやっぱり僕、おもしろいと思って。社会的になるために人間が[自らすすんで]抑圧してきたことを、ある歳から…あるいは精神的なプレッシャーがかかると、抑圧されたものが回帰してきちゃう。
H:なるほど。
せ:でも、この力はあまりにものすごくて、人間ひとりでは到底逆らえないような力だ、と。
H:そうだね。とにかくね、「風が吹いているところに裸でいる」っていうことにすごく僕はあこがれがある。
せ:(爆笑)ちょっとゆっくり聞かせてもらってもいいですか?それ。
H:あの…普段、大事なところとか晒さないじゃないですか。外に。
せ:そうですね。それで、なんかこう、社会から抑えろ、と言われてきた…
H:抑圧ですよ。
せ:抑圧です。回帰しましょう!
H:そうそう(笑)
せ:(爆笑)
H:だから…よく、温泉でね。露天なんかで、嵐の日に行くといいでしょう?
せ:あー…確かにね。そうでしょうね。雨の日ぐらいは僕も体験ありますよ。ざんざん降りとか。いいですよね。
H:一回、台風が来てるときに行ったことがあって。そのときに、一度抑圧を解いて…
せ:抑圧を解いて、っていうか、いちばんの欲望がむき出しになった状態ですよね。
H:そう(笑)
せ:だって、風の中で裸でいたいんだもん(笑)
H:そうです(笑)
せ:あれは、でも音楽の…スピーカーの前にいるときのアレと似てるかも。
H:あー、なるほどね。
せ:振動というか。風になってくるじゃないですか、良い音が。
H:そう。身体の感覚ですよ。だから、身体感覚で得る快感っていうのがいま、無いじゃないですか。あんまり。
せ:うんうん。
H:みんな脳内でやってるでしょ?
せ:そう。骨伝導で音を聴いたりすると、まぁそれはそれで良いけど、風は無いですね。
H:だから…快楽も恐怖も、やっぱり音ですよ。ホラーが怖いのは音が恐いから。
せ:あ、そうか。ブゥゥ…って言ってますもんね。
H:あれ、音が無かったら怖くないですよ。
せ:そうですね(笑)ウゥ、ヴゥゥ…って言ってるから怖い。
H:重低音が怖い。15Hzぐらいは、身体を壊しちゃうから。危険なんですよ。
せ:あ、実際に危険なんですか。
H:怖いですよ、低周波は。
せ:あー、さすがは小さい頃、病気を治すときにスピーカーの上にお腹を載せていたという…細野少年ですね。
H:そう(笑)
せ:僕、あの話聞いてビックリしたんですから。どうにかしてるな、と思って(笑)自己治癒ですよね?たしか。
H:そうそう。
せ:そのスピーカーの振動が腹痛を治す、と思ったんですよね?
H:もっと深刻な病気ですよ。癌。
せ:え?癌を治すと?
H:ええ。直腸癌とかね。
せ:え、まだ子どもなのに?
H:ええ。
せ:もう治し始めてた?
H:そうなんです。
せ:それは振動によって?
H:そうです。
せ:あー…これは大事なことを、きょう…
H:あんまり真に受けないで(笑)
せ:(笑)
H:やる人がいるかもしれないから…(笑)
せ:でも、その人が気持ち良ければね。
H:それはそうですね。
せ:僕はいま…ぜんぜん話飛びますけど、すごく良い精神科医で、ミュージシャンで、バンドもやったりしてて。僕の主治医なんですよ、彼がね。
H:へぇ。あ、そうなの?
せ:で、彼がこないだ…北海道だったかな?「ちょっと僕、見に行きたい病院があるんですよ」ってセッション中に言うから、どういうの?って訊いたら…統合失調症の人とか、相当な鬱の人とかが入るんだけど、その病院のモットーは「治らないけど楽しい」っていう。
H:ほほう。
せ:これすごいな!って思って。
H:楽しい病院、ね。
せ:治らなくていいんだ、と。それはもうしょうがないことだし、それを治すからって言って強い薬を飲んだりすることはないんだ、と。
H:なるほどね。
せ:それ[症状]自体は悪いものではない。社会とぶつかるから「悪い」のであって、その代わりに楽しく生きましょう、と。すごい良い病院だな、と思って。
H:それは今までになかったね。
せ:そうですよね。だから僕、ちょっと頭イったらそこに入ろう、と思って。
H:いいですね(笑)
せ:いいですよね(笑)
H:楽しそうにしてる重病患者になるんでしょ?
せ:そうですよ。「風よ吹け!」って言ってるんじゃないですか?もう吹いてるのに(笑)
H:(笑)
せ:そういう、認知が歪んでますもんね。
H:まぁ、僕もそうだ。
せ:ですよね(笑)
@※=}@※=}♪ジングル@※=}@※=
H:でも、この歳になると…というよりは、今の社会なのか、病気で苦しんでる人が多いですよ。周りに。
せ:あー…
H:楽しそうな人はひとりもいない、その中に。
せ:そうですよね。たしかにたしかに。
H:で、どうやってそういう人を癒せるのか…自分ではもう人は救えない、とか思っちゃったりしてね。すごい暗欝たる思いになる、というかね。
せ:おお…
H:これはどうにかならないの?と思ってたら、その病院に行けばいいんだ。
せ:そう。その病院に行けばバッチリだと思う。ただ、治りませんよ?(笑)
H:(笑)
せ:一切治しませんから、逆に言ったらね。治しません、だけど楽しいんですよ。で、それでいいじゃないか、っていう。
H:それはでも…それがいちばんの治療なんじゃないかね。
せ:そうなんですよね。だって、昔の人はそうだったでしょ?癌とか知らないで死んでいった時代の…たとえば江戸時代の人たちは、「具合が悪いから、まぁとりあえず楽しくやるか」ってやってたんじゃないですか?やっぱり。
H:なるほど。まぁでも、他人事じゃないね。長寿社会の…日本がいちばん未知の体験に突入してるでしょ?
せ:そうですね。
H:高齢化社会。張本人ですからね、僕。
せ:そう…かなり突っ込んでってますよね(笑)
H:(笑)だから、なんかね、申し訳ないんだよね。
せ:申し訳ない?
H:団塊の世代として膨れ上がってる人口が。
せ:あ、「オレたちが社会の中でこうなってるのが申し訳ない」?
H:[人口ピラミッドが]逆三角形になってるでしょ?
せ:なってます。ここが年金を食い潰すんです(笑)
H:そうなんですよ。だから申し訳ない。
せ:(笑)細野さんですよ
H:そうでしょ?(笑)
せ:うん(笑)これは風の中裸で出て行ってる場合じゃないかもしれない、逆に(笑)石投げられちゃうかもしれない(笑)
H:いやー、だからね、気を付けようと思って。社会でひっそり生きていきたいんですよね、本当は。邪魔しないで。
せ:これはもう、細野さんの宿命ですから。人を楽しませなきゃならない。別にそれはトークで、とは言いませんよ。
H:(笑)
せ:ただ、きょうは[トークの]芽があるな、と思いました(笑)「細野晴臣十番勝負」みたいな。次から次へと人が出てきて、最終的には細野さんが寝ながらしゃべってる、みたいな感じの(笑)
H:そこまでじゃないですけどね(笑)
せ:いや、すごかったですよ前半の振り方。これ、しゃべること頭に用意してあるのかな?って。わりとプロ系の僕が思うぐらい…
H:プロですもんね。
せ:すごい早さだった。あれは早晩疲れるな、と思ったら、見事に第2部の途中で疲れてましたね(笑)
H:疲れた(笑)
せ:(爆笑)
(会場拍手)
H:ちゃんと見てるわけだね(笑)
せ:こりゃまずい!と思ったら、もう集中力ゼロになってましたもんね(笑)
H:突然集中力切れちゃうんですよね(笑)
せ:いや、それがすごく…むしろ良かった。すごい正直だから。
H:歳とるとね、時々ね、黒みが入るの。意識に。黒みってわかる?
せ:まったくの黒ですよね。
H:黒になって、こう…0.5秒ぐらい。
せ:考えることもできないですね、黒みが入っちゃったら。
H:ふつうは真っ白でしょ?そうじゃない、黒いの。
せ:黒みが入る。やっぱり映像的な…映画っぽい。
H:そうなんですよ。
せ:黒みが入って、で、なんも考えなくなって黙っちゃう。
H:そうなんですね。だから、あと10年はなんとか…やれるかな。という感じですよ、いま。ホント。
(会場拍手)
せ:いやいや、パチパチじゃなくて…10年じゃ短いでしょ!(笑)
H:あっという間だよ(笑)
せ:みんな「送る」気になっちゃってたけど、ダメダメダメダメ!(笑)
H:いや、しょうがないでしょ(笑)
せ:や、そうだけど。でも、きょうだって細野さんがホストの役をやってるから。僕はここに来るまで、僕が[ホストを]やぅて、細野さんに話を聴くんだと思ってた。
H:やって(笑)
せ:(笑)
H:もう、ダメ…(笑)
H:トークショーって時々やるけど、例えば横尾さん(横尾忠則)と話したりするときは、逆にツッコミを入れたりする立場になるわけ。横尾さんに。
せ:ほうほう。
H:けっこう、そのときは頭が活性化するわけ。
せ:あー、いいですね。実はツッコミ型なんですか?
H:そうなの。
せ:ですね、じゃあ。これ。
H:うんうん。
せ:あー、それ重要ですね。自分がボケ/ツッコミのどっちにハマるか…まぁ、東京の場合はこのお笑いが無いわけだけど。まぁ一応…そうじゃないほうをやってみたときに本当の自分が見出されることは度々あることですよ。
H:どっちなの?
せ:僕はもう、典型的なツッコミ…でしたが、歳をとって物忘れがひどくなり、「それはナントカじゃないか!」の「ナントカ」がまるで言えなくなる。
H:わかるわかる(笑)
せ:あー、お前はアレだな!なんて…(笑)
H:(笑)
せ:そのときに、先にボケとかないと、それを誰かに見透かされたら商売があがったりだ、と。
H:商売だからね。
せ:そうです。だから、僕はものすごい勢いで、急旋回でボケになってる。
H:あ、そうなんだ(笑)
せ:いま[この場で]そうなってないのは、細野さんがすごいボケちゃってるから、僕がんばんなきゃ、と思ってるだけで…(笑)
H:そうだよ(笑)もう、お願いしますよ、ホントに。ツッコんでください。
せ:でも今は基本的には…昔、Appleでトークショーやったの憶えてます?
H:憶えてる。
[*2006年9月20日、銀座Apple Storeで行われたトークショー「細野晴臣 オフ・OFF・トーク ~今日からスイッチ・オン~」。同時期にリリースされたDVD『東京シャイネス』の発売記念イベント。]
せ:あのときはマネージャーの方に、「ずーっと作れ作れと言ってるんだけどちっともアルバムを作ってくれないから、いとうさんから言ってください」っていう、よくわからない…親戚でもないのに(笑)
H:(笑)
せ:でも、そこから細野さんはいろいろ…ここのところの[作品の]出し様がすごい勢いだな、と思って。
H:そうね。
せ:この変化はどう起きてるんですか?
H:あのね、やっぱり…なんだろう、時間がないからかな。
せ:おー。それは実際思う、っていうか…
H:思うでしょ?
せ:思います。
H:限られた時間しかないから。だいたいみんなこの世を去る段階に来てるわけですよ。この歳になると。周りに多いじゃないですか。ああ、あの人もいっちゃった、この人もいっちゃった。和田誠さんがいっちゃったな、とかね。
せ:うん。
H:時間がないから、なんか加速してるんですね、今になって。自分の中でね。やりたいことが次から次へと出てきてて。
せ:思いついてる?
H:うんうん。もう、隠してはおけないの。
せ:それはありますね。人生半分過ぎると。もったいぶってらんない、っていう気持ちになりますよね。
H:うん。もう、ぜんぶ全開。
せ:おお、全開ですか。例の?
H:風よ吹け(笑)
せ:(笑)
H:(笑)
せ:そのときに…違うときに話を伺いましたが、カヴァーもものすごくやるでしょ?
H:カヴァーが大好きでね。
せ:その、急にバーッと出すようになってからの細野さんは…それまでは日本の音楽業界的な慣例みたいのがあったと思います。欧米、たとえばアメリカのミュージシャンたちはカヴァーをめちゃめちゃやるけど、それほど日本ではやらなかった、とか。
H:そうね。
せ:オリジナル信仰が強い、とか。
H:強い強い。うん。
せ:でも、そこへ細野さんはいきなりバタバタバタっと出していくものに、めちゃめちゃカヴァーが入ってる。
H:そうですね。まぁ、レコード会社は嫌がりますけどね。
せ:印税が入らない。
H:印税のこととか、いろいろ…著作権とかめんどくさいですからね。
せ:許可を取りに交渉しなきゃならないとか。
H:それがね、けっこう大変なんですよ。
せ:著作権者がもういなくなってたりしてね。
H:宙に浮いてるやつも多いんですよね。んー。
せ:でも、やるぞ、っていう。
H:なんでかな?あの…自分が作るのなんて大したことないから…今までにすごい、名曲がいっぱいあるわけだよ。20世紀って。
せ:うんうん。
H:だから、20世紀を忘れちゃいけないよ、っていうような気持ちが自分の中にあってね。こんな良い曲があるのに誰もやらないの?って思うことが多いんですよ。
せ:うん。
H:だから、誰かしらがやらなきゃ、っていう。その中のひとりになりたいな、と思って。
せ:そうじゃない人たちだと、このままだと埋もれちゃうかもな、と思うことがいっぱいあるわけですか?
H:うん。たとえばね、アメリカの新人のジャズ歌手とかがアルバムを出すとき、オリジナルで固められてると聴く気がしないんだよ(笑)
せ:えー!なるほど…あ、でもちょっとわかる気もするなぁ、近頃!
H:そうっすかね。
せ:最初っからそいつの世界を、一から紐解いていくヒマもそんなに無いんだよな、こっちも、っていう。
H:(笑)
せ:カヴァーでその人の実力がわかるようなものを聴きたいな、って…
H:そうなの。
せ:たしかに思うことあります。
H:カヴァーだとわかるわけ。その人の力量が。
せ:そうですね。どうアレンジしたか。
H:で、好きな曲をやってると、どうしたって聴きたくなるわけ。
せ:うんうん。
H:だから、オリジナル信仰っていうのは僕には無くなってきた。でも日本ではまだあるね。
せ:やっぱりそうですよね。カヴァー集をなかなか出させてもらえないっていう現実はある。
H:そうなんだよ。カヴァー集を出すと、ソロアルバムとは認めてくれないんだよね。なんとなく。
せ:あー…なるほど。カウントしてくれないっていうことですね。「…で、次のアルバムはどうですか?」って訊かれちゃう。
H:「ソロはいつ出すんですか?」なんてね。出したばっかりなのに(笑)『Heavenly Music』とか。
せ:あ、そうだ。
H:ソロのつもりだった。カヴァー集だからね。
Cow Cow Boogie - 細野晴臣
(from 『Heavenly Music』)
H:まぁ、なんて言うんだろう…いままでいっぱい曲作ってきたし、もういいか、と思うわけ。長く生きちゃうとダラダラ作ってくでしょ?それがイヤなの。
せ:なるほど。
H:でも、やりたい。まだ。
せ:演奏したい?
H:演奏…アレンジしたい。
せ:アレンジしたい!この今…細野さんがバーッと作りだしてるときって、カヴァーもし出したけど、ものすごく「演奏欲」があるように見えた。もう1回ベースを弾く細野さんが見れてよかったぁ、と、ファンとしては思ってるけど、それは「演奏欲」じゃなくて、その曲をそのときのライヴでどうやるかのアレンジがしたいんだ?
H:そう!
せ:そうなんですか。
H:だから、なかなか伝わりにくいんだけど、たとえば1940年代のアメリカのジャズとかね。ビッグバンドとか。今は誰もできないんだよ、あれ。似たようなことはやるけど。
せ:演奏できない、っていうことですか?
H:うん。
せ:腕[演奏技術]が違うっていうことですか?
H:今の人のほうが[演奏は]上手いよ?上手いけど、上手いだけじゃダメなのよ。
せ:ほう。イナタい…
H:イナタさを勉強してないから、今の人は。だから、音の響き?イナタい響きっていうのがあるわけ。「全開」じゃダメなの、やっぱり。
せ:なるほど。
H:…「全開」でもいいのかな?こうなっちゃうからな(笑)
せ:(笑)
H:まぁとにかく、再現ができないんで、なんとか再現したいな、と。
せ:んー。それは一つは…前に細野さんにお伺いしましたけど、どうやってレコーディングしてるのかいまだにわからない、という録り方があると。これは録る側の問題じゃないですか。で、いま仰ってたのは、プレイする側の問題もあるじゃないですか。
H:そう。
せ:これはなんですか、両輪?
H:両輪なの。両方大事なの。つまり、音楽ってライヴよりも「レコード芸術」の側面のほうが強いわけでしょ?
せ:あー、録音芸術…うん。
H:蓄音器が発明されて以来、音楽がみんなに聴かれるようになったわけでしょ。みんなが毎日ライヴに行けるわけじゃないけど、レコードは自分でかけて。で、3分半の音楽がそれで定着してった。で、レコーディングしやすい管楽器がメインだったと。
せ:うん。
H:つまり、レコードでみんな音を聴いてたわけだ。僕もそうでしょ?レコードで聴いてた。
せ:そうですね。
H:で、ライヴで観ると、あれ、なんか違うな、って思ったりしてね(笑)たとえばビーチ・ボーイズが、僕が中学のときに来日して。厚生年金ホールかな?観に行ったんだよね。
せ:うん。
H:なんかね、おもしろくない。ライヴが。レコードはあんなに良いのに。
せ:なるほど、あんなにいろんな音が鳴ってるのに、って。
H:完全にレコードの人間なんですよ。だから、レコードを作るっていうことがいちばん楽しい。
せ:あー。
H:ライヴももちろん好きだけど、別のものなんだね。
せ:ということは、「ものすごく録音したい」っていうことですね?いま。
H:録音大好き。
せ:(笑)バンバン聴きたいですけどね、こっちは。
H:もう、出来るだけやりたいんだけど、人生、思ったことの3割ぐらいしか出来ないでしょ?
せ:んー、まぁ時間もありませんし。
H:3割出来れば良いほうかな。打率みたいなもんでしょ?
せ:そうですね。
H:だから、この先考えてることはいっぱいあるけど、1つか2つか3つぐらいしか出来ない。
せ:いや、少な過ぎますよ!(笑)もうちょっとできるでしょ!
H:過去を見ると、10年に1枚だったりね。そんな時期もあったわけだね。
せ:そうです。
H:今はやっぱり、1年ごとに出してるね。10年だったら10枚か。
せ:そうですよ。いけますよ。
H:いけるか。
せ:いけます。
H:80歳になったらどういうのを作るんだろうね。
せ:いやー、それはすごい楽しみですよ。あの、録音物を出すやり方も変わってるわけじゃないですか。ネットになって…ということは、まぁよくミュージシャンと話すことだけど、どんどん出せる、と。ある意味言ったら。
H:そうだね。ネットでね。
せ:いちいちヴィニールの上に刻まなくてもいいわけだし、CD作るとか、宣伝をどうするとか、言ってる間もなく出しちゃうことができるし、出しちゃってる。細野さんはメディアとのあれで…いまどんな感じなんですか?モードは。
H:遅ればせながら、っていう感じで…使えるな、と。思いますよ。うん。やっぱり、誰に相談しないでもポンと出せるっていうことはすごいですね。
せ:うん、そうですよね。
H:たとえば画像だってYouTubeにパッと出せるわけで。これから音楽じゃなくて映画をやろうかな、と。
せ:うん、いいと思う。
H:ちょっと思ったりして…
せ:いいと思う、いいと思う、いいと思う!
H:いいかぁ…
せ:いいでしょう!(笑)いいじゃないですか!
H:(笑)
(会場拍手)
せ:いや、それでいま言って、「しまった、言っちゃったな」とかって思ってると思いますよ、性格上。
H:思ってる(笑)
せ:だけど、気にしないでください。それはみんな、風の日に裸で出ちゃったんだ、って。
H:そっか(笑)
せ:その一言があるから…まぁ、僕も細野さんも「後半」ですよ。それは誰も否定できないところで、150歳まではやっぱり生きないから。
H:それは無理だよ。んー。
せ:そのときに…もっと寛容だったでしょ?社会が。おじいさんに。
H:そうだね。
せ:「しょうがないなあの人、ジジイはあれで…拓本とってさ、日本中回ってやがって…」。それが無くなっちゃったのは、やっぱり良くないんじゃないですか?
H:そうなんですよ。だから、「あの人、年寄りだからしょうがないか」っていう風にしてほしいんだよね。
せ:いやー、もう、しますよね?ぜんぜんしますよ。
(会場拍手)
せ:もう、細野さんなんだからしょうがないよ、っていう…
H:もし街で裸で歩いてても…
せ:もうぜんぜん、あ、細野さんだなぁ、って、遠くからもわかりやすいし。
H:(笑)
せ:あー、細野さんだなぁ…あー、警察につかまって…
(♪ピンポン)
せ:あーあーあー。次あるんですよね?
H:あるんだよね。あー、でも、明日ね、映画…ジャック・タチ(Jacques Tati)の話しようと思ったけど、時間がないんでもういいや(笑)
せ:(笑)え、ここまで[次の人を]呼んでから交代ですか?
H:あ、いいんじゃない?もう。
せ:じゃあ、どうもどうも。
H:いとうせいこうさんでした。ありがとう。
せ:お楽にお楽に…お楽にやってください。
H:ありがとう。次は誰かな?