2019.02.10 Inter FM「Daisy Holiday!」より
H:こんばんは。細野晴臣です。えーとですね…きょうは、ゲストを招いております。猪野秀史(INO hidefumi)さん。
猪野:こんばんは。よろしくお願いします。
H:マイク近いね(笑)
猪野:いやー、緊張します…ここにずっと来たかったです。
H:あ、ホント?
猪野:はい。きょう、やっと来れて…
H:あー、よかった~
猪野:本当にうれしいです。たいへん光栄です。ありがとうございます。
H:いやいや、とんでもないです。っていうか、僕のほうがよく行ってるんですよね。
猪野:いや、もう、ホントに…ありがとうございます、いつも(笑)
H:なんでかって言うと…いいのかな、言って?
猪野:はい、もちろん。
H:この近所に…港区のとある街に、カフェがあるんですよね。
猪野:はい。
H:それ、場所は言っていいのかな?
猪野:あ、まあ、ぜんぜん…
H:白金の…商店街のほうですね。三光町なのかな?なんだろう。
猪野:三光町商店街?ですね。
H:よく行くんですよ、そこは。僕はね。
猪野:ありがとうございます。隣にね…
H:ハチロー…(笑)
猪野:ハチローさん(洋食ハチロー)があって。細野さんが、たぶん、子ども時代から…少年時代から行かれてたんですか?ハチローさんは。
H:いや、そんなことはないんですよ。わりと、最近気が付いたんですよね。
猪野:あ、そうなんですか!
H:そうなの。
猪野:こないだも、さまぁ~ずのお二人を引き連れて…
H:そうなんですよ(笑)
猪野:うちのお店の前を素通りしていかれましたね(笑)
H:隣だからね。
猪野:いえいえ…ちょっと複雑な気持ちでしたけど(笑)
H:そうですか(笑)店、間違えたかな、選ぶの。
猪野:いえいえ…
H:…あのお店の名前、なんだっけ?(笑)
猪野:えーとですね…「テネメント(TENEMENT)」というお店です。
H:そう…店の名前、覚えきれないよ、僕はもう、どこも。でもね、すごく…ケーキがおいしいよね。
猪野:ありがとうございます。いつも、そうですね、黒豆チーズケーキというのを召し上がっていただいて…
H:あれあれ、うん。あとコーヒーもおいしいし。で、ごはんもやってますよね。
猪野:はい。ハチローさんに対抗して…
H:(笑)
猪野:洋食を、僕が好きなんで…(笑)洋食を出しています。
H:あ、そうなんだ。あのお店はいつからですか?
猪野:もう、17年目ぐらいです。
H:えーと…そもそも、九州だよね?
猪野:そうなんです。
H:どこでしたっけ、九州は?
猪野:宮崎です。
H:宮崎県。で、いつこっちにいらしたんですか?
猪野:2000年ですね。ちょうど僕、30歳の時に上京しまして。遅かったんですけど。
H:へー。
猪野:ずっと福岡…高校卒業して福岡にいたんですけど。で、福岡でバンド活動をしてまして。で、バンドメンバーを説得して(東京に)行こうと思ったんですけど、誰もついてきてくれず…
H:あ、そうなんだ。
猪野:もうこれはいかん、と思って。ひとりで、職も決めずに東京に出てきて…っていう感じです。
H:あー、そうなんだ。それでも、でも、CDをいっぱい出されて…去年10月に出した、タイトルが?
猪野:『SONG ALBUM』という。
H:『SONG ALBUM』。これからちょっと、まず、1曲選んでくれますかね。どれがいいでしょうかね?
猪野:はい、では聴いてください。"犬の散歩"。
H:はい。INO hidefumiさん、"犬の散歩"という曲。これ、あのアルバムで初めて歌ったんじゃないだっけ?もっと歌ってたっけ?
猪野:いえ、今回のアルバムが初めて、全曲…
H:やっぱりそうか。全曲「歌」アルバム。最初のイメージは、フェンダー・ローズを弾いてる鍵盤の人っていうイメージだったんで。この歌を聴いて、ああ、歌も歌う…と。
猪野:はい。
H:で、それを観に行ったんですよね、僕ね。ビルボード。去年の10月…でしたかね。
猪野:9月かな?それぐらいですね。
[*6月です…]
H:その時に、鈴木茂がギターを弾いてて。で、ハマくん(ハマ・オカモト)?
猪野:が、ベースで…林立夫さんがドラムで。
H:そうだ。すごいメンバー揃えてるなぁ、と思って。僕だけ知らない、っていうか(笑)
猪野:事前に、客席に細野さんがいらっしゃるっていう情報があって…
H:あ、あったんだ。うん。
猪野:で、もう…ドキドキで、"薔薇と野獣"を、僕が…
H:そうそう!やってくれたんだよね。
猪野:しかも、オリジナル・キーでやらせて頂いて…
H:そっか。そうだ、もう1回それ、観たかったなぁ。今度聴かしてもらおう。
猪野:あ、がんばります(笑)
H:なんか…あの時のレコーディングテープとかあるんですかね?
猪野:あります、はい。
H:あ、あるんだ。じゃあ、今度聴かせてもらっていいですかね?
猪野:はい。っていう、またやると思いますので…
H:あ、そうですか。
猪野:もしよろしければ、細野さん、次はゲストで2,3曲、参加して頂いたらみんな喜ぶと思います。
H:あ、そうね、いいですよ(笑)
猪野:ぜひ…(笑)うれしい。
H:いまの曲…"犬の散歩"のサックスはスカパラ(東京スカパラダイスオーケストラ)のGAMOさん。
猪野:はい、GAMOさんが…吹いて頂いて。この曲…細野さんは憶えていらっしゃらないと思うんですけど、ライヴでやった時に、まだ曲名が決まってなかったんですよ。
H:あー、そうかそうか。
猪野:で、ライヴが終わって楽屋に細野さん、お越し頂いて。で、「犬の散歩っていう曲…」って言われて…あ、じゃあ"犬の散歩"…それでもう、その場で決めました(笑)
H:それで決まったんだっけ…(笑)
猪野:はい、そうですよ(笑)細野さんがこの曲のタイトルを…決めて頂いた。
H:そうだったの?ぜんぜん知らなかった(笑)
猪野:「やめてやめて」っておっしゃられてましたけど、「いえ、もう決定です」と。
H:そうかそっか…犬は飼ってるんですか?
猪野:いえ、飼ったことも散歩したこともないです(笑)
H:あ、なんだ(笑)
猪野:ネコ派です。
H:ネコ派なの?
猪野:はい。
H:でも、イノセントレーベル[*innocent record]と、お店の感じは「鹿」がシンボルになってないですか?
猪野:そうですね、鹿…神様の使い、的な。メッセンジャー的な意味合いで、神道における…みたいな。
H:あー、すごい(笑)
猪野:僕はもう、音楽的なものも勿論そうなんですけど…細野さんとか、中沢新一さんとか。そういった精神世界的なものにもすごい影響を受けてきて。
H:あ、そうなんですか。
猪野:天川(奈良県)にひとりで行ったり…
H:あ、行ったんだ。
H:あらららら…知らなかった(笑)
猪野:アンビエント時代の細野さんの楽曲も、いまでも好きで…聴かせて頂いています。
H:えー、それはうれしいな。そっか、あんまりそういう…どんな人が聴いてるんだろう、って僕が思ってたんだけどね(笑)よかったぁ、聴いててくれて。
猪野:はい…
H:そうですか。鹿にはそんな深い意味があったんですね。ここ、だって、(ブックレットの)"犬の散歩"の写真に鹿が写ってる(笑)
猪野:(笑)そうです、鹿です。
H:鹿は飼ってるの?そんなことないか(笑)
猪野:鹿は飼ってないです(笑)それは奈良に行くツアーの途中かな?行ったときに撮った…
H:あー、そうか。ビックリするなぁ。えー、隣に奥さんがいらっしゃいます。
猪野:はい。マネージャーをやってます。
H:最初、店に行ったらすごい綺麗な人がいて。誰だと思ったら奥さんだった。
猪野:いえいえ…(笑)
H:で、お子さんができたばっかりの頃かな…
猪野:そうですね、もう11年…12年近く前かな。
H:その頃から行ってるんだな、僕は。うん。
猪野:はい。僕はそれまで…3年間、禁煙してたんですよ。なぜか。
H:あ、そう。
猪野:で、細野さんがその時…これも憶えてらっしゃらないと思うんですけど、「煙草は悪くないんだよ」っておっしゃられて。
H:(笑)そんなデタラメ言って…(笑)
猪野:「宇宙との交信なんだよ、ネイティヴ・アメリカンの中では」というようなお話を頂いて、次の日から僕は火を点けるようになりました。
H:マズイねそれは…悪影響っていうか…
猪野:そもそも僕、煙草吸い始めたきっかけは、はっぴいえんどの"抱きしめたい"を聴いて、カッコいい…と思って、吸い始めて。
H:そんな…(笑)
猪野:禁煙…3年止めたと思ったら、細野さんにまた、そういうお話を頂いて。
H:困ったもんだなぁ…
猪野:で、それからずっと吸ってます。
H:今は?
猪野:今も吸ってます。
H:え、吸ってますか?止めた方がいいですよ。
猪野:更新してます。制作の合間に、もう…
H:ああ、そう。いやー、そっか…思わぬ影響っていうのはあるんだね。気をつけよう。
猪野:(笑)
H:まあでも、言い訳は僕はいっぱい…いつも言ってるわけでね。ただの言い訳なんで…
猪野:いえいえ…
H:いろんなミュージシャンとの交流が、あるんですね。
猪野:いやー、まあ僕は友達少ないほうかもしれないですね。ミュージシャンの友達は。
H:少ない、っていうのは…いるっていことはいるんですね。
猪野:いるのはいます。
H:どなた?
猪野:スカパラの初期のメンバーだったり、あとは…ミュージシャンっていうよりもDJ、選曲する人が多いですね。ピチカート・ファイヴの小西さん(小西康陽)とか…
H:あ、小西くん。小西くんは…あ、そんな深い仲なんですね。
猪野:今回の新作でも2曲ほど作詞をして頂いたりとか。
H:"スカイツリー"っていう曲がそうですか。
猪野:はい。あとはinnocent recordっていう僕のやってるレーベルの名付け親だったりとか。
H:あ、そうなんだ。それはそれは…
猪野:お世話になってます。
H:へー、意外な…おもしろいな。で、またライヴとか、いつやるんですかね?観に行きたい。
猪野:ありがとうございます。3月から…東京を皮切りに、4月、5月、6月ぐらいまで。
H:続くんですね。ツアー。
猪野:はい。やります。
H:えーと、詳しいことわかる?
猪野:詳しいことは…じゃあ、HPでチェックして頂ければ…よろしくお願いします。
H:東京はどこですか?
猪野:東京はBYGっていう、渋谷の…
H:あ、BYG。懐かしい。んー。
猪野:細野さん、やられたことあるんですか?
H:昔ね。
猪野:あ、そうですか。
H:古い店ですよね。
猪野:そうですね、伝説の…
H:はっぴいえんどの頃からある店だよね。
猪野:そうですよね。
H:で、そこはまた、茂とか出るんですか?
猪野:いえ、そこはもう、猪野バンドというか、僕のバンドで。
H:メンバーはどんな方なんですか?
猪野:メンバーは…4人編成なんですけど、ドラムがHi-STANDARDっていうバンドの恒岡章。と、ベースが、僕が20代からずっとバンド活動してるバンド仲間。と、もう一人、メロトロンとコーラスを担当するのが横にいる…マネージャー兼嫁の…
H:え!知らなかった。
猪野:あの、いまものすごい特訓してます(笑)
H:あ、特訓…(笑)
猪野:まあ、僕の中では信頼のおけるメンバー…筋金入りのメンバーで…
H:すばらしい。いや、それは理想的ですよね。
猪野:いえいえ…DIY…
H:知らなかった。ただのマネージャーじゃないね。んー。
猪野:どうですかね…ちょっと、がんばっていかないと…
H:それはもう、楽しみですね。で、じゃあ、もう1曲。さっき話した小西くんの作詞で、"スカイツリー"聴いてください。
H:なるほど。スカイツリーの、なんか…小西くんの詞、難しいよ(笑)詞が先なの?これ。
猪野:詞が先です。はい。
H:日記のような、ね。小西くんって最近こういう詞を書くんですね。おもしろい。スカイツリー、僕も好きですよ。
猪野:ありがとうございます。うれしいです。
H:(笑)
猪野:東京タワー派じゃないんですか?
H:いや、実は東京タワーが好きですけど。
猪野:僕もそうです(笑)
H:あ、なんだ(笑)あの、東京タワーはお母さんっぽいよね。
猪野:お母さん。
H:うん。スカイツリーはお父さんっぽいよね。なんか、男性的。
猪野:なるほど。
H:で、やっぱりここ(白金)から見えるのはどうしても東京タワーだしね。あの、天気の悪い日に…霧が出るような日にね、東京タワーにのぼったことがあるんですよ。
猪野:はい。
H:5,6年前かな。すばらしかったね。なんにも見えなくて。
猪野:んー…(笑)
H:で、ガラガラだからね、そういう日はね。
猪野:あー、なるほど。(普段は)多いですもんね。僕もたまに子どもを連れて行きますけど。
H:あー、そうですか。
猪野:もう、人がすごいですもんね。
H:そうなんですよ。
猪野:いいですね、でも。なにも見えない景色、というか。東京の。
H:いいですよ。すばらしい。
猪野:そういう日を狙って、僕も今度行ってみます。
H:ぜひぜひ。スカイツリーも。
猪野:はい。
H:えっと…(笑)
猪野:(笑)
H:聞くところによると、ですね…最初に聴いた音楽はなんですか?シングル盤、買ったでしょう。
猪野:はい。…シングル盤?
H:なんか、ここに書いてあるんだよね。「初めて買ってもらったレコードは"ライディーン"のシングル」…
猪野:あー…
H:ウソなの?これは。
猪野:ホントです(笑)
H:ホントなのか(笑)
猪野:はじめ、頭にハチマキを巻いて大玉ころがしをしてるバックで…
H:あ、運動会だ。
猪野:はい。爆音で流れたのが…そうなんです。
H:あの頃ね、運動会でよく使われてたんですよね。
猪野:"ライディーン"と"天国と地獄(Orphée aux Enfers)"が流れてましたね。
H:"天国と地獄"ってどういう曲?
猪野:オッフェンバック(Jacques Offenbach)の…
H:あー!そっちか(笑)
猪野:その時は僕、知らなかったんですよね、YMOっていう…
H:ま、そうだろうね。
猪野:でも、そこから『増殖(X∞Multiplies)』っていうアルバムを聴いて。
H:聴いちゃったんだ。
猪野:はい。で、"Tighten' Up"を聴いた時に雷が落ちまして…
H:あららららら…
猪野:で、町に1軒しかないレコード屋さんに急いで自転車を漕いで『増殖』と…あと、アーチー・ベル(Archie Bell)っていう人が気になって調べて行ったんですけど、「そんなものは置いてない」って言われて。
H:あ、そうなの(笑)そっかそっか。じゃあ、その頃から音に敏感な少年だったの?
猪野:そうかもしれないです。
H:そのころから、ピアノは?
猪野:はい。5歳からやってました。
H:やってたんだ。あー、すごい。
猪野:練習してなかったですけど(笑)
H:あ、ホント?(笑)それは、でも…今は鍵盤奏者になってるから、大事な時期だったんですね、じゃあ。きっと。
猪野:そうですね…歌謡曲ばっかり聴いてましたね。歌謡曲とかを耳でコピーして。あとは…レイ・チャールズ(Ray Charles)の"What'd I Say"とかを…AMラジオがすごく好きで(笑)ラジオ少年で、よく聴いてました。
H:あ、そうですか。音楽好きな少年…そういう意味では、おんなじですよ。はい。
そんなわけで…なにか、じゃあ、推薦してもらおうかな。今度は。
猪野:じゃあ…"魔法"という曲を。聴いてください。
H:"魔法"ですね。はい。
H:あ、いいなぁ。間がある音楽好きだな。
猪野:うれしい…
H:なんか、あの、ローズの音が…やっぱり魔法っぽいよね(笑)
猪野:(笑)ゆらぎが…はい。
H:なんか、レイ・ハラカミくん…今は亡き。そういう感じを感じたな。うん。
猪野:あー…うれしいです、ありがとうございます。
H:えっと…打ち込み、ですよね?
猪野:はい。ぜんぶ自分で作ってます。コーラスは、横にいるマネージャーが…
H:あ、やっぱりそうだったんだ(笑)
猪野:マンガ好きなマネージャーなので、ピッタリ声が…オタッキーな声がハマって…
H:オタッキー(笑)
猪野:試しに歌わせたら、いいじゃん、と思って。
H:なるほど。いいですよ。やっぱり、そういう要素が入ってきたほうが絶対いいですよね。スタジオ、っていうか、自分の家でやってるってこと?
猪野:はい。まあ、音部屋的な感じですね。ひきこもってやってます。
H:ふんふん…なんかこう、手伝いたいなぁ。
猪野:うわー…
H:こういうの聴くとね、手伝いたくなるんだよね(笑)
猪野:もう、ひとりでひきこもってやってるんで、ホントに…いつか機会があれば…
H:ぜひぜひ。ミックスでもやりたいなぁ、と思っちゃうな。
猪野:うれしい…来てよかった…
H:いやー。やらせてもらおう、じゃあ。あの、次のレコーディングとかはまだ考えてない?
猪野:いや、もう始めてるんです。
H:それはそれは。
猪野:ペースを上げていかないとな、と思って。
H:なるほど。じゃあ、これを縁に…また、お店行きますんで。店行ったからといって、来なくていいですからね。
猪野:いえいえ…こないだちょっと、お風呂に入ってて行けなかった(笑)すみません。
H:いえいえ、いいんですよ(笑)必ず通報されるんだよね、お店の人に(笑)
猪野:行けるときは必ず行くようにしてます。地方にいない限り…
H:そうですか。じゃあ、お店でまた会ったり。レコーディングの現場で会ったりとかね。これからも、じゃあ、会いましょう。
猪野:楽しみにしてます。
H:えー、では猪野秀史さんでした。また。
猪野:ありがとうございます。