2019.11.24 Inter FM「Daisy Holiday!」より
(以下、すべてH:)
こんばんは。細野晴臣です。えーとですね…風邪を引いてまして。治りかけてますんで、鼻声じゃなくなってきましたけどね。今年はね、なんか黄砂が飛んだり…鼻をやられましたね。くしゃみばっかり出てました。熱は出ないですね。でも、ずーっとしつこい風邪で、治りが遅かったですね。まぁ、疲れてるっていう所為もありましてね。暑い夏を過ごしたんで、みんなそうなんでしょうね。免疫が落ちちゃって。
えーと、これからまた忙しくなる…ちょうどいまは谷間です。11月の末に有楽町のフォーラム(東京国際フォーラム)で…コントのライヴと。あ、それは2日目か。12/1がコントで、30…11月って31日まで?30日だ(笑)30日がライヴですね。あんまりいまは考えてないです。とにかく今年は忙しかった!高齢者にはちょっとキツいですね。はい。
で、映画『NO SMOKING』っていうのをやってますが…まぁ幸い、観に行ってくれる人が多くて。ありがたいことなんですけど。『NO SMOKING』っていうタイトルは思いつきでつけたんですけど。まぁ僕はかなりのヘビースモーカーなんで。音楽とタバコっていうのは密接だったんで、そういう曲をきょうはかけていきたいなと思います。
じゃあ、レス・ポールとメリー・フォード(Les Paul & Mary Ford)で"Smoke Rings"。聴いてください。
Smoke Rings - Les Paul & Mary Ford
えーとですね、「Coffee&Cigarettes」というようなタイトルの曲、けっこう多いんですよね。ジム・ジャームッシュ(Jim Jarmusch)の映画にもそういうのがありましたね。じゃあそのタイトルの曲、"Coffee and Cigarettes"。最近のです、Jazzinuf。
Coffee and Cigarettes - Jazzinuf
(from 『Coffee and Cigarettes』)
えー、今度はですね、「煙の夢」"Smoke Dreams"。ヘレン・ワード(Helen Ward)とベニー・グッドマン(Benny Goodman)。
Smoke Dreams - Helen Ward with Benny Goodman & His Orchestra
これはザ・ロビンズ(The Robins)が歌う"Smokey Joe's Café"。これはヒットしましたね。ブロードウェイミュージカルにもなってます。
Smokey Joe's Café - The Robins
えー、ザ・ロビンズで"Smokey Joe's Café"。日本でも"ベッドで煙草を吸わないで"、なんてありましたけど…
えーと、"Smoke from Your Cigarette"。リリアン・リーチ&ザ・メロウズ(Lillian Leach & The Mellows)。
Smoke from Your Cigarette - Lillian Leach & The Mellows
えー、猫なんてのはタバコ[の煙]を吸うと目をシバシバさせるんですよね。あれは煙が目にしみるんですかね?(笑)"煙が目にしみる(Smoke Get In Your Eyes)"と言えばそういう大ヒット曲がプラターズ(The Platters)でありましたけど。"Smoke Gets In Your Eyes"、今回はアーティ・ショウ(Artie Shaw)のヴァージョンで聴いてください。
Smoke Gets In Your Eyes - Artie Shaw & His Gramercy Five
そもそも、タバコを初めて吸ってた人たちっていうのはアメリカ大陸の先住民たちですね。神様と対話するときに煙を…パイプをまわしてね、煙を出すわけですね。で、僕がネイティヴの人に会ったときに、天の…ご先祖様とかね、神様と交信するときにこのタバコをふかせ、と。吸わなくていいから煙を出せ、と言われて。吸った憶えがありますね。それほどなんか、こう…呪術的な意味があるっていうかね。で、ブラジル辺りのメディスンマン、呪術師。女性なんかが多いんですけど、占う前はタバコをブワーっとふかして煙だらけにするということを聞いたことがありますね。煙っていうのは、まぁ…煙いですよね。タバコっていうか、焚き火もよかったんですけど、昔は。
そんなわけで、まだまだありますよね。僕は好きなグループがいて、インストバンドなんですけど。プレスリー(Elvis Presley)のバックでベースを弾いてた人がいて…ビル・ブラック(Bill Black)という人がやってるビル・ブラツク・コンボで、"Smokie Part2"。
Smokie Part2 - Bill Black's Combo
では最後にですね、いま公開中…もうすぐ終わんのかな?よくわかんないですけど(笑)『NO SMOKING』という自分のドキュメンタリーですね、絶賛公開中なんですけど。そのエンディングに使用しました"No Smoking"という曲、実際にここにあるんですけど。まだなんにも、CD化とかそういうの考えてなかったんですけど…まぁ、とりあえず聴いてみますかね。最後まで聴かなくてもいいですけどね。仮ミックスみたいなものなんで…"No Smoking"
No Smoking (仮Mix) - 細野晴臣
2019.11.17 Inter FM「Daisy Holiday!」より
H:こんばんは細野晴臣です。さぁきょうは…めずらしいね。ゲストは女性シンガー、ギタリスト、Reiさん。
H:初めまして。
Rei:初めまして。
H:突然来るね(笑)
Rei:すいません(笑)
H:いやいやいや…(笑)
Rei:どうしても会いたくて…
H:ホント?
Rei:はい、ずっと…きょうを夢見てました。
H:いやー、それはもうぜんぜん、迂闊だったけど…え、おいくつなの?いま。
Rei:いま26歳です。
H:あ、そうなんだ。んー。どこからやって来たんだろう?(笑)
Rei:そうですね(笑)簡単に…まぁ、説明する、っていうか…4歳からクラシックギターを始めて。当時はニュー・ヨークに住んでいたんですけど、
H:んー。
Rei:テレビで、ギターを弾く女性を見て、I want thatって言っておねだりして…
H:英語だ(笑)
Rei:そこから…当時通っていた学校が小学校と一貫のところで、そこのお兄さんお姉さんのビッグバンドに混ざって。5,6歳のときにジャズブルースを演奏するようになったんですけど。
H:ビッグバンドに入ったの?すごいな…
Rei:Miles DavisとかDuke Ellingtonとかをカヴァーしてました。
H:うわー、英語…発音がいい(笑)
Rei:(笑)で、いろんな…帰国してからもロックバンドを組んだりとかしながら、自分のオリジナルの音楽を探し求めてて。で、CDデビュー自体は2015年にしまして。
H:2015年?うん。
Rei:で、いまは最新作が7作目なんですけど。
H:多いね。んー。
Rei:私はクラシックギターを幼い頃からやってるのもあって、渡辺香津美さんが大好きで。それがきっかけでですね、YMOを知りました。
H:あー、そっかそっか(笑)
Rei:実家が…小さい頃に赤い2CV(deux chevaux)に乗ってたんですけど。
H:あー、シトロエンだ。おしゃれ。
Rei:そのカーステレオで、FMで録音したYMOのカセットをですね…これなんですけど。
H:え、カセット?おお…ちょっと見して。かわいらしい。
Rei:ワールドツアー1979年の、ニュー・ヨークのボトムラインの…これが『Public Pressure(公的抑圧)』で教授(坂本龍一)のシンセに置き換えられているんですけど…
H:そうなんだよ。ギターをね、置き換えちゃったんだよね(笑)これは貴重かもね、じゃあ。
Rei:そうなんですよ。ラジオで聴いたときは香津美さんのギターで、矢野顕子さんとか皆さんご参加されてて。これをホントにたくさん聴いたんですよね。なので…そこから聴くようになりました。
H:なるほどね。大体はわかってきたけど、どんな音楽か、というのを…最新のCDが出てるんで、聴かせてもらっていいかな?
Rei:はい。
H:なにがいいかな?
Rei:そうですね…私もワールドミュージックが大好きで、今年もスペインのジャズフェスに出演したんですけど。
H:んー。
Rei:そこですごい影響を受けたfeelingが入っている"DANCE DANCE"という曲、聴いてください。
DANCE DANCE - Rei
(from 『SEVEN』)
H:おお…すげぇな(笑)
Rei:(笑)
H:いやいや…テクニックすごいね。
Rei:いえいえ(笑)とんでもないです。
H:やっぱ、4歳からやってるっていうのはすごいな。
Rei:いつも自分ではquality over quantity、って言ってるんですけど…
H:ど、どういう意味?(笑)
Rei:「量より質だ」と…
H:おお。
Rei:ずっと長い間やってるんですけど、でもやっぱり頭打ちになる瞬間があって。表現というか…
H:なるほど。
Rei:そこを突破するのにいつも苦しみますね。
H:あー、それはね、上手い人がよく言うセリフだよね(笑)
Rei:そうなんですかね?(笑)
H:そうだよ。上手いとどんどん出来ちゃうんで、すぐ頭打ちになるんだよ。たぶん(笑)
Rei:いやー…でも、細野さんの映画を、『NO SMOKING』を見させて頂いたんですけど。
H:あ、観た?
Rei:歌に対してあまり…なんとういか、歌う気になれなかったときもあったけど、楽しくなってきた時期もあった、という話をされていて、すごく共感したんですよ。
H:あ、ホント?
Rei:ビートルズとか、60年代のロックを学校でカヴァーするようになってから歌を歌うようになったんですけど。
H:んー。
Rei:なんて言うんですかね…技術が翼だったとしたら、自分の飛びたいという気持ちに追いつかない歌唱力、みたいなところで。ギターのようにはいかないな、みたいな。
H:歌はね。んー。
Rei:でも、その苦手意識をやっと、ここ数年で…歌うの楽しいな、って思うようになってきました。
H:んー、なんか、楽しそうだよね。
Rei:そうなんですよね(笑)
H:ギターは、でも、自由なんだよね?
Rei:どうなんでしょう。
H:なにか目標はあるの?いまは表現が爆発してるけど、どうなってくんだろうね、これからね。
Rei:あ、でも…いつも不自由さを感じていて、そこから逃れるために作り続けてて、歌い続けてる。
H:なるほどね。
Rei:そういうところが、あります。
H:やるしかないもんね。
Rei:そうなんですよ。細野さんの原動力っていうのはどこにあるんですか?
H:僕?どこかな…僕は歌うときはプレイヤーじゃないんだよね。
Rei:あ、そうなんですか?
H:ギターもテクニック、そんなにないしね。ベースもそんなにテクニックはないの。
Rei:そう仰いますけど…(笑)
H:いやいや、ホントに。ただやっぱり、楽しくなくなったらもう、やる気が無くなっちゃうよね。
Rei:やっぱりそうですよね。
H:いちばんの基本はそれかな。だから、カヴァーするのが好きなのは、楽しいからだね。
Rei:そうですよね。なんかすごいprimitiveなことですけど…
H:アッコちゃんと話してるみたいだ(笑)なんて言ったの?パーマティヴ?
Rei:あ、プリミティヴ…
H:あ、プリミティヴね。発音がよくてわかんねぇ…(笑)
Rei:…な、ことですけど、立ち返りますね。楽しい、って。
H:そこに戻って行けば続けられる、っていうことだよね。
Rei:そうですよね。たしかに。
H:なんか、違う目的を持っちゃうと、迷っちゃうからね。
Rei:そうですね。26歳の頃って、細野さんで言うとはっぴいえんどから『HOSONO HOUSE』にかけて、とか。そういう頃ですかね?
H:そう。26の頃は迷ってたね。
Rei:あ、そうなんですか?
H:なにやってたんだっけ?ちょっと憶えてないけど…ソロだったね。テクノじゃないもんね、まだね。なに作ってたんだっけ?(笑)
Rei:(笑)
H:あ、エキゾチックサウンドに没頭してたのか。
Rei:ワールドミュージックは海外で演奏する機会があるとすごく新鮮に感じますし。こんな楽器があるんだ、サウンドがあるんだ、っていうので…今回もこの"DANCE DANCE"でタップダンスを…
H:ああ、あれがタップだね。うん。
Rei:はい、踏んで頂いて。
H:あ、本物のタップを踏んでるの?あれ。すごいね。
Rei:元はクラップだけだったんですけど、スペインから帰ってきて感化されちゃって。フラメンコで、足踏みとかがそのまま音楽になってるのがすごい素敵だな、と思って。
H:そうだよね。
Rei:入れたら、もしかしたら、タップダンスの音が音を可視化するかもしれない、みたいに思っちゃって。
H:なるほど。いやー、いろんなことを思ったほうがいいと思う(笑)
Rei:(笑)
H:なんかあの、マヌーシュっていう…昔はジプシーって言ってたんだけどね。
Rei:はい。
H:そういうのも共通してるね。
Rei:そうですね。マヌーシュも大好きで。
H:あ、だろうな。
Rei:この曲は、それこそジャンゴ(Django Reinhardt)とかのスタイルを踏襲したギターソロになってます。
H:あー、やっぱりそうだったんだね。んー。
Rei:はい。スケールとか。
H:ギターをね、ずっと持ってるでしょ?ギターを持って生きてるんだね。
Rei:(笑)おしゃべりはそんなに得意じゃないから、持ってたら、なんか…
H:落ち着くのね。
Rei:そう、なんか毛布みたいな感じで…
H:毛布ね(笑)取り上げると泣いちゃうよね、じゃあ。
Rei:そうですね(笑)
H:そのギターは、また、使い込んでるね。
Rei:そうですね。[細野さんと]同い年ぐらいですかね?あ、でも細野さんのほうが少し先輩…1956年製です。
H:んー。
Rei:古いギブソン(Gibson)を最近、使われてますよね。
H:そこにあるんだよ。うん。
Rei:これはいつのですか?
H:これは僕より年上だね。
Rei:えー!
H:1932年ぐらい、だったかな。
Rei:「細野観光」にも置いてありましたか?
H:置いてあった。心配で心配で、やっと戻ってきて。
Rei:そうですよね(笑)
H:あ、チューニングがぜんぜん、メチャクチャだ(笑)
H:そうなの。うん。
Rei:けっこう、好きな楽器が似てるな、と思ってて。
H:そう。ギブソンが好きな人ってなかなかいないんだよね。
Rei:あ、そうですか。タカミネ(Takamine)も「細野観光」にあったじゃないですか。
H:あったあった。
Rei:私もタカミネが大好きで。
H:あ、なんか、趣味が似てるんだね、じゃあ(笑)
Rei:似てるのか、私が影響されてるのかわかんないですけど…(笑)
H:いやいやいや…でもギブソンって…僕のこのギターはニック・ルーカス(Nick Lucas)タイプって言うんだけど、めちゃくちゃ歌に合うんだよ。[音が]地味でね。
Rei:なんか、ネックの幅もけっこうありますよね。
H:うん。自分にはちょうどいいんだけどね。だから、昔フォークやってた頃はみんなマーティン(Martin)を使ってたわけ。すごい派手な音がするでしょ。
Rei:はい。
H:で、ギブソンはすごい地味な音だったの。当時ね。だから誰もあんまり、使ってなかった。
Rei:なんか、マーティンは「解像度が高い」っていうイメージで…ギブソンは[音が]塊で出るから、逆に。二声とか三声には向かないんだけど、歌とは別域をカヴァーしてくれる感じですね。
H:そうなんだよ。歌に合うんだね。
H:へぇ…なんかやってくれるのかね、これはね。
Rei:いいんですか?
H:いいよ!もちろん。
Rei:おおー、やった!
H:聴かせてください。
Rei:ではせっかくなのでオリジナルの曲をやりたいと思うんですけど。
H:ぜひぜひ。
Rei:"香港Blues"とか"東京ラッシュ"とか、細野さんは地名の曲がたくさんありますね。私も地名の曲に憧れがあって…だから自分の、東京の国道のことを歌った曲をお送りします。
Route 246 - Rei
Rei:♪Japanese gentlemen, please stand up!
H:(笑)
Rei:♪Now I'd like to introduce the members of the band...On bass...on guitar...on vocals...Harry Hosono!
H:(せき)
Rei:(笑)
H:咳でちゃった(笑)
Rei:♪On guiitar, Gibson LG-2! And last menber is...On guitar and volals, Rei! Shiroganedai!!
Rei:Thank you!
H:すごい(笑)即興なの?そうでもないのか。
Rei:即興…途中の部分とか、メンバー紹介は。
H:すごい、メンバー紹介されちゃった(笑)
Rei:ギターを紹介したりとか。
H:いやー、すごいな。陽気だよなぁ…
Rei:陽気です(笑)
H:だいたいこういう、アップテンポだね。
Rei:そうですね。アップテンポな曲も多いですし…でも、ゆったりとしたものも好きで。戦前のブルースとか。
H:おお。
Rei:あとは、ラグタイムとかピードモントにすごい影響を受けたんで…
H:あー、それもいいな
Rei:なんか…♪(即興ラグ)
H:なるほど、ラグタイムだね。
Rei:はい、こういうのが大好きで。Blind Blakeとかに影響を受けましたね。
H:じゃあ…アメリカの古い音楽、ほとんど聴いてるんだね。きっと。
Rei:いやー、ぜんぜん勉強中ですけどね。でも、音楽を作るときは新しいもの、というか、みんな聴いたことがないものを作りたいな、と思ってます。
H:えーと、バンドはいるの?固定の。
Rei:そうですね…レコーディングでは様々なんですけど、それこそ伊藤大地さんとも何度かご一緒してますし。
H:あ、そっか。やってるんだね。
Rei:ツアーバンドは…最近一緒に回ってる方たちはいらっしゃいます。
H:時間が合えば一緒にできるかもしれないね。
Rei:あ、そうですね!
H:ここに手紙を頂いたんだよね、CDと一緒に。
Rei:はい、お渡ししました。
H:そこに、そのうち一緒にやりたいと書いてある(笑)
Rei:はい、もう、ぜひぜひ…(笑)
H:すぐできそうだよね。
Rei:いやいやいや…そうですね。[細野さんからは]たくさん影響を受けてるんですけど…こないだもですね、「細野観光」でemulatorとか置いてあったじゃないですか。
H:はいはい。
H:あ、鍵盤もやるわけね。
Rei:鍵盤というか…本当に鍵盤にはなってないんですけど、アープ(Arp)ではありませんが、モーグ(Moog)が好きになって。
H:あー。
Rei:「Prodigy」とか「Mini Moog」とか「Sonic Six」とかを自分の作品で弾いたりして。
H:あ、ホント?んー。
Rei:それはすごく影響を受けてるんです。
H:そうかそうか。
Rei:そういう、instrumentalも歌のものもいろいろ作ってこられたじゃないですか。そのれはその時々で大切にしてるものは違うんですか?
H:そうだなぁ…
Rei:「なにも伝えたいことがないのに作る」ときもあれば、「歌詞を歌いたい」ときもある…みたいな感じですか?
H:だいたいね、いつもなんにも伝えたくないっていう…(笑)
Rei:(笑)最高ですね、それは。
H:なんか、楽しい感じが伝わればそれはそれでいい、っていう。それだけかな。自分が楽しくないことはやってたらダメだ、と思うよ。だから。
Rei:いや、ホントそうですね。あの、『HOCHONO HOUSE』を出されたじゃないですか。
H:うん(笑)
Rei:それも、「もう1回自分の作品を再解釈したら楽しそう」って、ある日思いついたんですか?
H:…まぁ、人に刺激されたっていうのもあるんだよね。「やってみてくれませんか?」みたいなこと言われて。それまで考えてなかったけど。
Rei:うんうん。
H:で、やってみたら、ちょっとおもしろそうだとも思ったけど…やり始めたら、こんなに大変なことはない、と思って。
Rei:(笑)けっこう、ミックスとかまでかなりやられてるってお聞きしましたけど。
H:ミックスもやるよ、うん。
H:でもね、人にホントは委ねたいんだけどね。優れた人はいっぱいいるから、これ好きにやってみて、っていう風に言いたいんだけど。なかなか、こじんまりやっちゃうんだよね。自分でね(笑)このスタジオがあるし。
Rei:なるほど。
H:楽しいんだよ、結局(笑)
Rei:自分でやってるのが楽しくなっちゃって…
H:そう。職人っぽくなるというかね。うん。
Rei:たしかにたしかに。ちょっと凝り性になって…そうですか。
H:そういえばツアーは…忙しいでしょ?いっぱいやってるね。
Rei:弾き語りツアーが年末年始にありまして、その後2月からバンドツアーがあって。あとはですね…2月にヴァーヴ・レコーズ(Verve Records)、ご存知ですか?
H:ヴァーヴ、アメリカのジャズレーベルだ。うん。
Rei:ヴァーヴから作品を出すことに…
H:あ、アメリカで出るってこと?それはすごい。
Rei:そうなんです、そんなことも決まって…
H:いつ出るの?それ。
Rei:2月の予定でございます。はい。
H:ちょっとツアーの情報をお知らせしとかなきゃね。今年はもう、Sold Outらしいね。
Rei:はい。うれしいことに…
H:10か所ぐらいやってるんだよね、今年。
Rei:はい、そうです。バンドツアーは…今回『SEVEN』という作品で、7作目、7曲入りで。あとは7thコードとか、そういうものも意識しながら作ったんですけど。
H:それで『SEVEN』っていうの。なるほど。
Rei:「7th Note」という、それに付随するツアーがありまして。全国6か所で、東京が3/27に赤坂BLITZなんですけど。
H:あとは大阪・名古屋・福岡・札幌・仙台と。
Rei:はい。ありがとうございます。
H:どっかで観にいけるかな。あ、3月は行けるかもね。うん。
Rei:あ、やったー!
H:観てみたいですね。
Rei:ぜひいらしてください。ちょっとうるさめですけど…(笑)
H:(笑)いやー、元気がいいわ。ホントに。
Rei:(笑)
H:きょうは初めて会いましたけど、これからなにか一緒にやることもあるかもしれないので…まぁゆっくり、これからもお願いします、ということになるね。
Rei:はい。マイペースにやっていきます。
H:じゃあ最後にもう1曲だけかけてお別れしましょうか。30分番組なので…
Rei:はい。選曲していいんですか?
H:いいですよ。
Rei:じゃあ、[細野さんが]ボブ・ディランに影響を受けた、っていう話を聞いて。私もボブ・ディラン大好きなんですけど、Blind Lemon Jeffersonという、私が大好きな…
H:ブラインド・レモン・ジェファーソンだ。日本語で言うとね(笑)
Rei:はい(笑)[ディランは]レモンさんの曲を1枚目のアルバムの最後でカヴァーしているんですよね。
H:はい。
Rei:その曲をかけれたらな、と思って。
H:ぜひぜひ。
Rei:じゃあ、"See That My Grave Is Kept Clean"。
H:じゃあこれを聴きながらお別れしますが、ゲストはReiさんでした。どうもありがとう。
Rei:ありがとうございました
H:また来てください。
Rei:はい。
See That My Grave Is Kept Clean - Bob Dylan
(from 『Bob Dylan』)
2019.11.10 Inter FM「Daisy Holiday!」より
H:えー、こんばんは…(笑)細野晴臣です。風邪引いちゃって…(笑)
O:大丈夫ですか?岡田崇です。
H:すいません、ダメです。
O:お疲れですね。
H:本番だとシャキッとするかと思ったら、ダメです。
O:(笑)
H:鼻声で申し訳ないですけど。これ、聴いてる人にうつらないかな、と思ってね。岡田くんにはうつるかもしれないけどね。
O:(笑)
H:いやー、なんか…こないだね、展覧会。
O:はい。「細野観光」。
H:あ、「細野観光」って言うんだ(笑)最終日に行って。
O:あー、そうですか。
H:ええ…それで疲れちゃったのかな(笑)なんか、自分のものに囲まれてると疲れちゃうんだね。だから、あんなところに住めないな、と思って(笑)
O:自分のものなのに(笑)
H:自分のものってツラいよね。じっくり見ようと思ったけど、見れなかったね。まぁでも、すごい量だな、と思って。
O:ね。
H:なんか、いち時にいろんなことがあったでしょ?
O:そうですね。恵比寿で4日間…
H:映画も公開されてるしね、いま。なんか、自分のことのような、自分のことじゃないような、ね。熱に浮かされたような…(笑)
O:(笑)
H:あの頃もう、精神的に風邪引いてたね(笑)
O:大変な1ヶ月でしたよね。
H:いやー、もう、疲れたな。なんだろう、疲れてる場合じゃないんだけどね。自分ではそんなにいっぱいやってないんで。これからが大変なんだよね。
O:コンサートが。
H:フォーラム(東京国際フォーラム)でやる。それに比べたらわりと楽なはずなのに、なんでだろう。人々が…こんないち時にいろんなひとが僕のこと考えてるわけじゃないですか(笑)
O:そうですね(笑)
H:そういうことって、あんまりないよね。今までもなかったし。世界中で数人ぐらいが「あ、ホソノどうしてんのかな?」とかね、思うかもしれないが。
O:(笑)
H:やっぱり、人々のほうが強いからね。僕、弱いから。
O:その熱量に…
H:熱量にやられちゃいましたね。だから、いま草葉の陰から見守ってる、って、ずーっと言い続けてるんですよ。
H:きょうも、ひとつお願いしますね。最初、ひとりでやるつもりだったけどできなくて…
O:急遽…(笑)
H:来てもらって。聴いてるよ、だから。草葉の陰で。
O:いやいやいや…(笑)
H:どうぞ。
O:じゃあですね、1曲目はギャビー・モレノ&ヴァン・ダイク・パークス(Gaby Moreno & Van Dyke Parks)という名義で先日アルバムが…『¡Spangled!』というものが出まして。
H:ヴァン・ダイク(せき)。
O:久々のソロみたいな…
H:せきで返事してるから。聞いてないわけじゃないから(笑)
O:(笑)
H:はい、どうぞ。
O:じゃあその中からですね、"Across The Borderline"。ライ・クーダー(Ry Cooder)とか、ジョン・ハイアット(John Hiatt)の曲です。
H:いいね。
Across The Borderline - Gaby Moreno & Van Dyke Parks
(from 『¡Spangled!』)
H:なるほどね。ヴァン・ダイク・パークスらしいストリングスアレンジね。
O:そうですね。
H:あの…7月にヴァン・ダイク・パークスに会ったときに、「9月にソロが出るんだよ」って言ってたの。これ、ソロなのかな?歌ってないよね。
O:ソロ…のつもりなんじゃないですかね?
H:まぁでも、ギャビー・モレノ。
O:グアテマラの人、かな?
H:サンディー(Sandii)を思い出すな、歌声が。
O:おお。
H:…ミックスがアル・シュミット(Al Schmitt)だって。いやー、なんかいいな。
O:お元気ですね。
H:元気だ。よかった。
O:もう、いくつなんだろう…
H:んー…みんな高齢者だよ。僕も含めて。キャピトル・タワーでミックスしたみたいだね。ロサンゼルスだね。
O:2人ともL.A.に住んでるみたいですね。
H:お、このトラックはジム・ケルトナー(Jim Keltner)だね、ドラムスが。
O:あ、そうでしたか。クレジットをちゃんとチェックしてなかったです。
H:あと、ライ・クーダーがスライドやってるね。
O:ジャクソン・ブラウン(Jackson Browne)が歌ってるんですね。
H:あ、そうなのか。結集してるね、高齢者たちが(笑)
O:(笑)
H:うれしいね。なんか、ホッとするようなサウンドですね。んー。いやー、ヴァン・ダイク・パークスの声も聴きたかったな。
O:そうですね。
H:きょうはこのまま続けてもらおうかな、じゃあ。
O:はい。じゃあですね、これもわりと最近出たものなんですが…サマンサ・シドリー(Samantha Sidley)という女性なんですけども、イナラ・ジョージ(Inara George)のレーベルから新しく出たアルバムがありまして。
H:ほうほう。サマンサ・シドリー。
O:プロデューサーがバーバラ・グラスカ(Barbara Gruska)という方で…
H:女性だ。
O:女性…まぁ、同性愛の方なんですけど[サマンサ・シドリーと]カップルで、プロデューサーが彼女…彼女なのか彼なのかわかんないですけど(笑)で、このバーバラ・グラスカさんは、前に僕…イーサン・グラスカ(Ethan Gruska)という人を紹介したと思うんですけど。
H:…憶えてないな(笑)
O:ジョニー・ウィリアムス(Johnny Williams)の曾孫…レイモンド・スコット・クインテット(Raymond Scott Quintet)のドラマーの。
H:ジョン・ウィリアムス(John Williams)ね?
O:えっと、ドラマーが「ジョニー」ウィリアムスで、その息子さんが映画音楽の…
H:「ジョン」ウィリアムス。まぎらわしい。
O:そのさらに2世代下りて…曾孫さんですね。
H:曾孫!
O:…が、プロデューサーとして名前を連ねております。
H:ほほう。つながってるね。
O:はい。じゃあその人の…"I Like Girls"という曲を。
I Like Girls - Samantha Sidley
(from 『Interior Person』)
H:いい、良いサウンドだ。
O:いいですよね。
H:なんかこう、最近の傾向としてはもうちょっと作りこんでるけど、ずいぶん自然体な音だね、これ。良い感じ。
O:アルバム全体でこんな感じで、けっこう良かったです
H:なんか、いいな。この路線は好きだな。うん。
O:よかった…
H:この人はあれかな、女の子が好きなのかな。
O:そうですね。いまの曲通り…もともとは『アメリカン・アイドル(American Idol)』に出てた人みたいですよ、11年前に。
H:あ、そう。ジャケットがそんな感じね。かわいらしい感じで。なるほど。
H:はい、えー、そんな感じで…
O:鳳啓助が…(笑)
H:(せき)
O:じゃあもう1枚ですね…さっきのヴァン・ダイクのやつといっしょに買ったレコードがあって…レイチェル&ビルレイ(Rachael & Vilray)という男女2人組なんですが
H:おお、知らない。
O:"Alone at Last"という曲を、まずは。
H:はい。
Alone at Last - Rachael & Vilray
(from 『Rachael & Vilray』)
H:良い。大人だ(笑)
O:詳しくはよく知りませんが…(笑)
H:ノンサッチ・レコード(Nonesuch Record)の…
O:ノンサッチが時々…さっきのヴァン・ダイクもそうですけど、良いのを出すんですよね。
H:この音像も、さらに好き。
O:よかった…
H:なんかモノ(モノラル)に近いでしょ?
O:そうですね。
H:で、なんか、こう…行き過ぎてないじゃん。なんだか(笑)最近の傾向って行き過ぎてるのが多かったじゃん。まぁ好きだったけど、ジョン・ヘンリー(Joe Henry)とかね。あのプロダクションもすごいけど。
O:あの辺を経て、ちょっと…
H:ちょっと落ち着いてきたね、いま。
O:そういう感じがしますよね。
H:それがおもしろい。なんか。その傾向がすごく、興味があるね。いいよ。
O:3枚ともすごく、そういう傾向が…
H:いいよ。大人の世界だよね。
O:ノンサッチはホントに時々ね、良いのを出しますね。
H:はい、えー…
O:(笑)
H:もうネタはないの?そんなことないでしょう。
O:じゃあグルッと変えてですね…ちょっと前に音くん(福原音)が来たときにもかけましたけど、レジナルド・フォーサイス(Reginald Foresythe)という。
H:はいはいはい。
O:レイモンド・スコットよりもちょっと前…1933~1934年ぐらいにイギリスで活躍した…まぁ、ジャズとクラシックを合わせた最初の人というか。
H:そうだね。
O:木管楽器をフロントに置いた最初の人らしいんですけど。
H:なるほど。
O:その人の音源で"Burlesque"という曲を。
H:バーレスク。
Burlesque - Reginald Foresythe & His Orchestra
(from 『Rachael & Vilray』)
H:なるほど(笑)
O:お疲れ様です、という感じなんですが…(笑)
H:いやいや…これでおしまいね?きょうは。
O:はい(笑)
H:楽しかったな(笑)聴いてるのは良いね。もっとやりたいね。じゃあきょうはもう、帰って寝るよ、僕。
O:そうしてください。
H:はい。じゃあまた来週…
O:おやすみなさい。
H:おやすみなさい。
2019.11.03 Inter FM「Daisy Holiday!」より
こんばんは。デイジー・ホリデーの時間です。番組では、先月14日に恵比寿ガーデンプレイスで行われました、『細野さん みんな集まりました』、そのDay4「細野さんと語ろう! ~デイジーワールドの集い~」の模様をお送りしています。3週目となる今夜は、どなたがいらっしゃるのでしょうか。
□■□■□■□■□■□■□■□■
(会場拍手)
H:あ、原田知世さんが入ってきました。いらっしゃい。ちょっと一息入れていいですかね?(笑)
知世:どうぞ。 50周年おめでとうございます、まずは。
H:あ、いやいや…
(会場拍手)
H:ありがとうございます。
知世:でも、気がつくと周年が来てたり…するものじゃないんですか?
H:そうなんだよね。だから、今回もなんかお祭り騒ぎなんだけど、自分でやりたいなんて言わないよね。
知世:そうですよね。周りの方がやっぱり、そのときを楽しみにしてくれて。だからちょっと、ご本人は意外と…
H:最初はちょっと他人事だったんだよね。
知世:(笑)
H:なんかいっぱい重なっちゃって大変だなぁ、とか思って。他人事のように。
知世:うんうん。
H:まぁでもね、実感がだんだん出てきました。みんなに楽しんでもらえればいいな、と思って。
知世:ええ。うれしいですよね、みなさん。
(会場拍手)
H:ありがとうございます。
知世:私もきょう呼んで頂いてすごく光栄です。ありがとうございます。
H:えーと、こないだ…ミックスを僕、依頼されてね。
知世:はい。ありがとうございました。
H:あれは、アルバムは…なんのアルバムでしたっけね。
知世:えーと、16日なのでもうすぐですね。10/16に『Candle Lights』というアルバムをリリースするんですけれども、それはこれまでの私の…10年ぐらいの間、プロデューサーの伊藤ゴローさんとやってる時期のアルバムの中から、夜寝る前にゆっくりと聴いてもらえるような曲を…
H:あ、それでキャンドル…ライト?
知世:アルバム名は「キャンドル・ライツ」ですね。ポッと心に光が灯るようなあったかいアルバム、ということで。で、その中で選んだ曲の中に…数年前に洋楽のカヴァーアルバムを作ったんですけど、"Love Me Tender"を歌っていて。
H:はい。
知世:で、私のレコード会社のプロデューサーの方が、それをぜひ細野さんに…リワーク(Rework)っていうんですかね?を、やって頂けたらいいよね、ってみんなで話をして。
H:いやいや。ありがたかったですよね。
知世:それで、引き受けて頂いたということなんですけど。
H:もう、そういう仕事大好きですから(笑)
知世:ホントですか!ありがとうございます。それがすごいんです。私ビックリしたんです。元のオリジナルもすごく好きだったんですけど、細野さんから届いたのを聴いたときに、もうぜんぜん違うものになっていた。
H:そうなんですかね。んー。
知世:自分の声がまったく違って聞こえたんですね。なんだろう…すごく立体的で。歌い直した?っていうぐらい、声の…歌の表情がぜんぶ変わっていて。
H:そうだった?よかった。
知世:もう何回も…感激して、ちょっと鳥肌が立って、何度も何度も聴いてしまいました。
H:それはやりがいがあるね。うれしいですよ。
知世:ホントにありがとうございました。で、いろんな曲が入ってるんですけど、やっぱり細野さんの"Love Me Tender"がいちばんこのアルバムのコンセプトというか、作りたかった世界観にいちばんピッタリと来ていて。1曲目に入ってるんですけど。
H:あ、ホントに?
知世:伊藤ゴローさんも、自分で元々はやっているけど、細野さんにやって頂いて1曲目にこれを聴くと…それ以外の曲でリワークしてないのもあるんですけど、他のものまで違って聞こえてきた、って。すごくよろこんで…
H:効果的、うれしい。そうですか。じゃあ、16日に発売されるんで、聴いてみてくださいね。
知世:よかったらぜひ…ありがとうございます。
ラヴ・ミー・テンダー (Haruomi Hosono Rework) - 原田知世
(from 『Candle Lights』)
H:ゴローくんとずっとやってて…最近は?また変わったんですか?
知世:いや、ゴローさんといっしょにやってます(笑)
H:あ、よかった(笑)ゴローくんのアレンジとか大好きなんですよ。ギターとか…いっしょにいちばんやってていいなぁ、と思いますよ。
知世:そうですか?ゴローさん、すごくよろこびます。
H:一度、ライヴを観に行って…京都だったかな?
知世:そうです。あれはなんか…私、「on-doc.(オンドク)」っていう歌と朗読の会をやっていて。ゴローさんのギターと私の声だけでやる小さなライヴなんですけど、それに細野さんが観に来てくださって…ちょっと緊張しちゃいましたけど。
H:いやー、あの会場もなかなか良かったしね。
知世:そうですね、カフェ…古い建物で。素敵な場所でやってます。
H:なんか、いちばん音楽がゴージャスに聞こえる、っていうのかな。すごい楽しめましたね。
知世:あ、ホントですか。ありがとうございます。
H:歌、良いなぁ、なんて思って聴いてました。
知世:ホントですか、ありがとうございます(笑)うれしいです…
H:もう、最初の、デビューの頃を僕は知ってますから。
知世:そうなんですよね。細野さんに聞いて、あ、そうだったのか、と。ビックリして…
H:あれは…何歳ぐらいだったんだ?
知世:あれは、私が15歳のときで、『時をかける少女』という映画があって。
H:それそれ。
知世:その主題歌をテレビ番組で歌って…
H:生で歌ってたんでしょ?
知世:そうなんです。なんか、生で歌って…そのときの私のディレクターをやっていた方。
H:国吉くん(国吉静治)っていうね。まぁ僕のディレクターでもあったんでね。
知世:そう。それで、細野さんが…お2人いっしょのときだったんですけど。
H:いっしょにね、どっかのスタジオのテレビがついてたんで、それを見てたんですよ。そしたら彼が緊張して。
知世:ですよね(笑)
H:なんて言うんだろう、ドギマギしてた、っていうか。デビュー後初めてのステージというか、オンエアーですから。
知世:はい。
H:それを見てたんですね。ええ。どうだったっけ?(笑)
知世:いやいや、本当にもう子どもで…ものすごい子どもでしたね。
H:それはそうだったね。15歳だからね。
知世:もう、緊張して…いまでもやっぱり、歌番組って慣れないんですけど。細野さんって、その後何回か歌番組で…YMOのお三方とごいっしょする機会もあったりしましたけど。
H:そうですね。
知世:どうですか?歌番組はどうなんですか?
H:いやいや、あれはね、慣れるもんじゃないですね。
知世:そうですよね。
知世:はい。
H:なんか、過換気症候群っていうやつね。いま流行ってるみたいだけど。で、出番前…「ヒットスタジオ」とかそんな番組で。
知世:ですよね、ありましたね(笑)
H:あったね。で、最初に他人の曲を歌うじゃないですか。
知世:ね!あれは間違えられなくて…
H:あれはキツいですね。
知世:こわかったです。
H:そのとき僕、もう、全身がしびれちゃって、歩けなくなっちゃって。
知世:え!ホントですか。
H:神経症でね。で、幸宏(高橋幸宏)に抱えられて出て行って、みたいな。
知世:そうですか!えー…
H:そんなことがあったりして。まぁ、だんだん…この歳になると図々しくなってきますけど。
知世:そうですか。私も、だいぶ…
H:だいぶ慣れてきたね。
知世:なんか、あんまり緊張しなくなってはきたんです。
H:よかったね。まったく緊張しないとぜんぜんダメだけどね。
知世:そうなんです。「良い緊張」はたぶん必要なんですけど、緊張し過ぎて真っ白になってしまうと…
H:そういうときもあった。うんうん。
知世:なんか、もったいないですよね、練習してきたことがぜんぜん出来ないっていうのも。緊張感は持ちつつも、それに呑みこまれない、みたいな。
H:もうね、やっぱりベテランですもんね、もう(笑)
知世:なんかね。そうですかね(笑)私、こないだドラマをやっていてですね。
H:そうですよ。
知世:それで…そこが日活の撮影所だったんですね。で、『時をかける少女』もそこで撮影してて。
H:あ、同じだったんだね。
知世:で、なんかちょっと感慨深く…あのときいちばん年下だったのに、今回行ったらほとんどが年下。
H:あ、そう?
知世:プロデューサーの方も年下なんですよ。
H:プロデューサーが年下ってすごいね(笑)
知世:すごくないですか?(笑)で、ちょっと衝撃を受けて。しっかりしなきゃ!ってすごい思ったんですけど…(笑)
H:まぁでも、しっかりしなきゃ、と思うとしっかりするもんですからね。
H:でも、ぜんぜん変わらないけどね。印象が。みんな言うね、「かわいい」(笑)
知世:ありがとうございます(笑)
H:なんだろう、この存在感。ずいぶん前ですけど、お誕生会をどこかのカフェでやったのを…ちょっと行ったことがあるんですけど。
知世:そうですね。ありがとうございます。
H:そのときにね、後で記念写真かなんか、知世ちゃんがケーキ…
知世:ケーキが出てきて、その前で撮ってる写真。
H:そうです。それにね…なにが写ってたの?
知世:あれは天使だと思います。
H:天使だよね(笑)
知世:ホントに天使の形をした、光の…
H:妖精のような天使のような。あれはなんだったの?
知世:なんですかね、あれ。ビックリしましたね。
H:みんなビックリしてましたよ。
知世:そうですよね。
H:これはやっぱり、知世ちゃんの存在がそこに結び付いてるっていうか…天使が憑いてるんですよ(笑)
知世:いやいやいや(笑)なんかすごくね、良い写真でした。一度しかない…
H:あ、その後はそういうのはない?
知世:はい。あれが最初で最後です。
H:でも、あれはね、証拠ですね。証拠写真。うん。
知世:ありがとうございます(笑)
H:その印象が僕はずーっとあるんで…まぁ知世ちゃんはオッケー、大丈夫。
知世:大丈夫ですかね?(笑)
H:ドラマで死んでも大丈夫(笑)
知世:そうですね、生き返ってきました(笑)
銀河絵日記 (Goro Ito Rework) - 原田知世
(from 『Candle Lights』)
H:これからは、また音楽…どっちかっていうと僕は歌手、音楽家に見える。最近。
知世:ホントですか?
H:音楽活動も多いですよね。
知世:はい。わりと、ここ数年はコンスタントに1年1枚という形でやらせて頂いていて。
H:そう、アルバムも出てね。
知世:まぁ、伊藤ゴローさんとの出会いがホントに良くて。
H:良いですよね。
知世:すごく、私…ここ6カ月ぐらいずっとドラマのほうに行ってて。
H:うん。
知世:今年1月にライヴをやったんですけど、そこからはもう音楽関係の人に会えなくてずーっと過ごして。で、こないだアルバムのレコーディングでひさしぶりに会ったらすごくホッとして。
H:あー、なるほど。
知世:なんか、おうちに帰って来たような、そんな感じが。両方とも仕事はすごい楽しいんですけど、[音楽活動が]「おうち」っていう感じにいま、なってますね。
H:あの、お芝居と音楽と、やっぱりぜんぜん違いますよね。
知世:違いますね。細野さんはなんか、お芝居…
H:いや、僕はぜんぜん…時々呼ばれてなんかやるんだけど、今だにできないですよ。なんて言うんだろう、自分以外になれないんですよ。
知世:でも、もう細野さんは細野さんのままで…
H:まんまでいいの?そしたら、役になれない(笑)
知世:いや、大丈夫…役がたぶん、近づいてきます、細野さんに。だから細野さんが近寄る必要はない気がします。
H:そうね。別に、真剣には考えてないんですけど(笑)
知世:はい(笑)
H:それで食っていこうとは考えてないんで(笑)呼ばれれば行く、っていう。何本か出てるんですけどね。恥ずかしいですね。自分の映画、観れないですよ、僕は。やっぱり観るでしょ?
知世:観ますけど…やっぱり、ストーリーが追えないですね。自分の[芝居の]細かなところを見てしまったりして。
H:そうだろうな。
知世:何回か観ないと、冷静に、客観的には見づらいですね。
H:そうでしょうね。それがね、大変だなと思いますね。女優さん、俳優さんは。次のドラマは観てみようかな、じゃあ。なんだろう、次は。
知世:次はですね…ちょっと長くやってたんで…(笑)音楽のほうをやりたいな、と思ってて。
H:あ、そうですか。
知世:そうなんです。やっぱりずっと片方をやってると…甘いものとしょっぱいものみたいな感じで、こっちをずっとやってるとこっちをやりたくなって…
H:わかるわかる、おせんべいの後どら焼き食べたりね。
知世:そんな感じですよ。なので、2つあるおかげで飽きないんですけど。なので、いっぱいねドラマの…お芝居をやったので、この後はライヴ…人の前で歌ったり。すごく、そういうのがいいなぁ、と思ってますね。
H:それはいいですね。また観に行きたいですよ。ええ。
知世:ぜひ…私、11月にライヴやります。
H:あ、どちらで?
知世:えーと、オーチャードホール(渋谷Bunkamura)。
H:お、良いところでやりますね。
知世:ぜひいらしてください。
H:編成は?バンドで?
知世:えーと、いつものバンドで…プラス弦の方を3人ぐらい。
H:なるほど。いやー、それは楽しみにして…
知世:細野さんもライヴ、ありますね?
H:までん、50周年の最後に…11月の終わりと12月1日、2日間やらなきゃいけないんだよ(笑)
知世:いやー、うれしいですけど(笑)うれしいですよね?
(会場拍手)
H:いやいや…向いてないです。気が重いんですよ。
知世:どんな感じでやりますか?
H:1日目はね…どっちかな?2日間あるんだけど、有楽町国際フォーラムで。コントと(笑)
知世:コント?
H:コント(笑)「イエロー・マジック・ショー」って。
知世:えー!
H:ホントは出てもらいたいんだけどね(笑)
知世:そんな!(笑)
(会場拍手)
H:で、もう一日は普通のライヴで。
知世:あ、そうですか。両方とも観たいですね。
H:まぁ、重なってなければぜひ来てください。
知世:あ、ぜひ伺いたいです!
H:いやー、もうね…後はなにを話そうか(笑)
知世:なんかね、こないだ…細野さんの六本木ヒルズの…
H:あ、展覧会。
知世:展覧会に伺って。
H:そうだ、来て頂いて。
知世:はい。細野さんにお会いして。で、今度ライヴ呼んで頂いてありがとうございます、って言って。で、細野さん、どんな話しますかね?って言ったら、「いや、ぜんぜん決めてない」って(笑)
H:決めてないんだよ、今もわかんない。
知世:「大丈夫だよ」って言われて、「曲とか流すし」って。あ、じゃあいつものラジオの感じかなぁ、と思って。
H:だと思ったら、曲かかんないんだよね(笑)
知世:そうです!(笑)それできょう来て、楽屋で打ち合わせがあったんですけど…
H:30分話し続けるっていうのは、なかなかラジオではね。
知世:それで、進行表みたいのを見たら、「ピンポン♪と鳴ったら出ていく」みたいな説明はあるんですけど、内容が一切無くて…(笑)
H:そう(笑)
知世:あれ?無い!と思って。
H:いやー、もう、困っちゃうよね。
知世:でも、すいません…大丈夫ですかね?こんなで。
H:大丈夫かな。まぁ、少し黙ってここでお茶でも飲んで…
知世:そうですね、ちょっとお茶飲みましょうか。
H:お茶飲もうか。喉渇いちゃった。ずっとしゃべりっぱなしってつらいですよね。
知世:そうですよね。
H:カプチーノ。いやー…ちょっと寝ようかな。なんか応接間みたいなんで。いつも僕はソファーで寝てるんですよ。
知世:ソファーのほうが落ち着く方って多いですよね。そっちのほうが寝れるんだ、っていう。
H:熟睡しますね。ベッドはダメなんです。
知世:なんかね、一瞬の転寝が深く眠れたりして、気持ち良いときありますよね。
H:僕のイメージだと知世ちゃんはパジャマにちゃんと着替えて、ぬいぐるみ抱えて寝るんですか?
知世:(笑)
H:そうじゃないのかな(笑)
知世:そうですね、ぬいぐるみは持ってないんですけど…(笑)
H:そうか。でもやっぱり、ちゃんと着替えて…「さぁ、寝よう」って言って寝るんですね。
知世:そうですね。私ね、そう…催眠術をかけてもらったんですよ。
H:え?
知世:今年。え?って感じですよね(笑)
H:かかりやすい?
知世:かかったんです。
H:え、かかるんだ?
知世:うん。それで、緊張したりとか…いろいろ、ドラマもあったから、すごく緊張し過ぎて、眠れなくなったんですよね、途中。夜中に何回も目が覚めて、深く寝れなくなっちゃって。これは自律神経かな…とか、いろいろ思ったりしたんですけど。
H:うん。
知世:そして、たまたま共演してる方から催眠術の良い先生がいるっていうのを聞いて、それで行ってみたんです。そしたら本当によく眠れるようになったんです。
H:へぇ。
知世:いろいろ治してもらえるんです。で、私、虫も嫌いなんです。すごく。
H:虫?僕も(笑)
知世:だから夏の撮影とかやってると、ブン!とか。セミとか来るんですよ。で、ハッ…ってなっちゃって、他の人以上に動いちゃうから、仕事にならないと思って。
H:そっかそっか。
知世:で、これもちょっとイヤなんです、って言って。まぁ、今年の夏はあんまり虫に遭ってないんですけど…でも、そんなに前ほどウワッ!ってならなくなったのと。なにしろ、呼吸法なんですね。それを教えてくれる部分があって。
H:じゃあ、自分の…なんていうの、自律をコントロールするようになるわけね。
知世:コントロールする方法を教えてもらった、っていうほうがいいのかもしれない。
H:催眠術っていうよりもそういうことか。
知世:そうですね。自己催眠をかけられるようになるというか。
H:なるほどね。
知世:それでね、ちょつと生まれ変わったんです(笑)
H:あ、ホント?
知世:そう、楽になりました。もっと早く体験してみたかったな、というか。
H:そうか。虫、怖くない?いま。大丈夫?
知世:あんまり。前ほどは。
H:実はね、今朝、悪夢を見て。
知世:なんですか?
H:廃屋にいてね、奥の暗ぁい畳の部屋に携帯を忘れて。僕はそこに取りに行くんだけど、辺り一面昆虫だらけなの。なんだろう、これ?
知世:それ…なんですかね?じゃあ、先生紹介します(笑)
H:ぜひ(笑)
夢のゆりかご - 原田知世
(from 『Candle Lights』)
H:だから…まぁ、健康な人はうらやましいけど、いろんな不調があるわけですよね。人間ってね。
知世:ありますね。
H:でも、概ね健康ですよね。
知世:うん、健康です。
H:病気になったっていう話、聞いたことがない。
知世:そうですね、おかげさまで。あまり風邪も引かないですね。
H:引かない?なんかやっぱり、芯が丈夫ですよね。
知世:身体はけっこう丈夫なのかな、と思ったりしますね。
H:まぁ、僕もどっちかっていうとそうかもしれないんですけどね。いま僕、70を過ぎてますから、この先どうなるかね。いま50周年でしょ?
知世:はい。
H:次はなんだろう?引退記念かな(笑)
知世:えー?(笑)
H:その次は、死んでからですよね(笑)
知世:いやいやいや…(笑)
H:もう50周年でごちそうさま、っていう…
知世:いやいや…みんな待ってますよ。
H:長くて疲れちゃいましたよ。
知世:いやいや、まだまだです。
H:いやもう…30分も長いですね(笑)
(♪ピンポン)
知世:…あ、呼ばれた!
H:呼ばれたね。
知世:わかりました。じゃあ、私は…
H:じゃあ、この後はね、15分休憩なんで…ごはんタイムなんだよね。
知世:そうですね。
H:お弁当でも食べますか(笑)
知世:じゃあ行きますか(笑)ありがとうございました。
H:じゃあ、原田知世さんでした。
(会場拍手)
2019.10.27 Inter FM「Daisy Holiday!」より
こんばんは。デイジー・ホリデーの時間です。番組では先週から、先日、恵比寿ガーデンプレイスで行われました、『細野さん みんな集まりました』、そのDay4「細野さんと語ろう! ~デイジーワールドの集い~」の模様をお送りしています。さぁ、今宵は、どなたがいらっしゃるのでしょう。
★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆
(会場拍手)
H:はい。ごはん食べましたかね。お腹すいたでしょう。お弁当、ちょっと食べました(笑)そぼろ弁当。えーと、きょうは楽かな?と思ったら、けっこう大変ですね。こんなに人としゃべるっていうことはあんまりないんで。ある人と会って30分ずっとしゃべってる、って言うことはないですよね。どうなるかわからないまんま、ここまで来ましたが…さぁ、次は?
(♪ピンポン)
H:来た来た。いとうせいこう!
(会場拍手)
せ:こんばんは。いやー、ね…もう、働き過ぎ!細野さん。
H:でしょう?(笑)
せ:こんな細野さん見たことない!
H:いやいや、自分でも見たことない(笑)ホントに。
せ:次から次へ話を振るし、メモもなく…
H:ない(笑)考えてない。
せ:なんかね、柳家金語楼とかそういう、昔の噺家のトークショー見てるみたいな感じがしました。
H:金語楼ですか。うれしいなぁ。金語楼、知ってる人いないですよ、今。
せ:そうですね(笑)川添さん(川添象郎)から始まったんで、ちょっと年齢を上に上げてみましたけど…もう何日もやってるんですよね?これ[イベント]?
H:あのね、1日…一昨日[10/12(土)]、台風で中止になっちゃったんですよ。残念ながら。で、それの振替で明日[10/15(月・祝)]、「映画」をやるんですけど、そのときに来てほしかったな。
せ:そうですよね、すみません。
H:明日にして?
せ:(笑)僕、一回帰ってね、明日また出てくれば…いや、仕事があるはずだったから僕もその日は台風で飛んで…
H:そうなんですよね。
せ:しかも、僕がなんでここにいるかって言うと…
H:うん。
せ:そのイベントの詳細っていうか、なんとなくこういうのがある、っていうのはね?メディアで知って。
H:はい。
せ:出たい!と。
H:あ、ホント?
せ:細野さんのイベントがあるのになんで僕を呼んでくれないんだ、と思って、事務所に言ったんですから。僕から。言ってここにいるんだから!いま。
H:そうなの?(笑)
せ:そうですよ!
(会場拍手)
H:知らなかった(笑)
せ:それで「映画」で、って言ったけど、[その回は]時間がちょっと合わないけど、「トーク」があるでしょ!って。もう、知ってるから、こっち!(笑)
H:(笑)
せ:いや、すごい大変なはずだから、これは僕が行って…
H:助け舟が来たわけだね。
せ:もちろんですよ。もう、休んでてくださいよ。そこで寝ててください。
H:オッケー。じゃあ、もうひとりでしゃべって(笑)
せ:(笑)もう疲れ…たしかに、普段はあのスピードで細野さんとしゃべってる人を見たことがない。
H:しゃべらないっすね。
せ:ですよね。もっとゆっくり、おまんじゅうでも食べて…
H:(笑)
せ:まったーりしてるのが細野さんのテンポじゃないですか。
H:そう。だから…向いてないことをやってるわけですけどね(笑)
せ:でももう、50周年ですから。
H:それがね、僕の悩みですよ。どうして50周年になっちゃったんだろう、って。
せ:いや、ずっとやってるからそうなっちゃったんですよ。
H:なっちゃったんだね。
せ:誰もがそこを超えなきゃいけない、台風ですよ。だから。
H:台風だ。
せ:やり過ごせばもういいんですよ。
H:そうだ。なんかね、いろんな…台風があったり、地震があったでしょ?
せ:そうなんですよ。なんですかあのおそろしい…
H:ね。
せ:これは神、怒ってるっていう…
H:怒ってるよ。
せ:怒ってますよね。ちょうどあの台風が来る1日前に、すごくちゃんとした企業でトップをやってる…若いんですけど、僕は信頼してる人が、気候変動の話をずっとしてたんですよ。
H:やっぱり?
せ:気候変動をどうにか止めなきゃいけないんで、欧米の優秀な企業の人たちが、「気候変動を止めるなら」っていう理由で会社をばらばら辞めて、いろんなネットワークに行ってる、とか。あー、立派だなぁ、っていう話をしてて。
H:うん。
せ:でも、マスコミじゃこの話をしないでしょうね、って彼も言ってました。これを気候変動と結び付けて話す人はいない。地球温暖化と結び付けて話す人がいない、っていうことが今の日本の問題だと思います、って言ってました。
H:なるほど。なんか、いろんな意見があって、本当のことが見えなくなってるでしょ?「温暖化は本当は無いんだ」とかね。
せ:はい。本当は…「大きく見ると冷えていってる」…
H:氷河期に向かっている、と。それはそうなのかもしれないけど。
せ:そう。「大きく見」たらなんでもそうなると思いますけどね。
H:実際は、でもね、暑い夏が来たし。
せ:来たし、あんなにデカいハリケーンが来ちゃってるから…
H:でっか過ぎますよ。
せ:でか過ぎましたね。
H:初めてです。だいたいね、男はそういうところあるんですよね。災害に対してアドレナリンを出してくるでしょ?
せ:まぁね、どうにかしたい、とかね。立ち向かいたい、とか。
H:なんかじっとしてられないんだよね。
せ:それは子供の頃からそうだった…
H:そうそうそう。子どもの頃はどしゃ降りになると、ぜんぶ洋服脱いでワーッ!って。裸でね、嵐の中に行って。風が吹いてて、「風よ吹け!」って言ってましたね。
せ:吹いてるのに!(笑)
H:吹いてるのに(笑)
せ:自分がやってるみたいに見せかけて?(笑)
H:見せかけて(笑)誰も見てなかったですけどね、残念ながら。
せ:たぶん、それが…ちょっと大人になって少し自分に抑制をかけられるようになるけど、ある年齢からこの抑制が取れるんでしょうね。
H:老人になるとね。
せ:うん。それはすばらしいことだと…フロイト(Sigmund Freud)はね、これを「抑圧されたものの回帰(Wiederkehr des Verdrängten)」と呼んでて。
H:出ました。ここがいとうせいこうらしいところです。
せ:(笑)これはやっぱり僕、おもしろいと思って。社会的になるために人間が[自らすすんで]抑圧してきたことを、ある歳から…あるいは精神的なプレッシャーがかかると、抑圧されたものが回帰してきちゃう。
H:なるほど。
せ:でも、この力はあまりにものすごくて、人間ひとりでは到底逆らえないような力だ、と。
H:そうだね。とにかくね、「風が吹いているところに裸でいる」っていうことにすごく僕はあこがれがある。
せ:(爆笑)ちょっとゆっくり聞かせてもらってもいいですか?それ。
H:あの…普段、大事なところとか晒さないじゃないですか。外に。
せ:そうですね。それで、なんかこう、社会から抑えろ、と言われてきた…
H:抑圧ですよ。
せ:抑圧です。回帰しましょう!
H:そうそう(笑)
せ:(爆笑)
H:だから…よく、温泉でね。露天なんかで、嵐の日に行くといいでしょう?
せ:あー…確かにね。そうでしょうね。雨の日ぐらいは僕も体験ありますよ。ざんざん降りとか。いいですよね。
H:一回、台風が来てるときに行ったことがあって。そのときに、一度抑圧を解いて…
せ:抑圧を解いて、っていうか、いちばんの欲望がむき出しになった状態ですよね。
H:そう(笑)
せ:だって、風の中で裸でいたいんだもん(笑)
H:そうです(笑)
せ:あれは、でも音楽の…スピーカーの前にいるときのアレと似てるかも。
H:あー、なるほどね。
せ:振動というか。風になってくるじゃないですか、良い音が。
H:そう。身体の感覚ですよ。だから、身体感覚で得る快感っていうのがいま、無いじゃないですか。あんまり。
せ:うんうん。
H:みんな脳内でやってるでしょ?
せ:そう。骨伝導で音を聴いたりすると、まぁそれはそれで良いけど、風は無いですね。
H:だから…快楽も恐怖も、やっぱり音ですよ。ホラーが怖いのは音が恐いから。
せ:あ、そうか。ブゥゥ…って言ってますもんね。
H:あれ、音が無かったら怖くないですよ。
せ:そうですね(笑)ウゥ、ヴゥゥ…って言ってるから怖い。
H:重低音が怖い。15Hzぐらいは、身体を壊しちゃうから。危険なんですよ。
せ:あ、実際に危険なんですか。
H:怖いですよ、低周波は。
せ:あー、さすがは小さい頃、病気を治すときにスピーカーの上にお腹を載せていたという…細野少年ですね。
H:そう(笑)
せ:僕、あの話聞いてビックリしたんですから。どうにかしてるな、と思って(笑)自己治癒ですよね?たしか。
H:そうそう。
せ:そのスピーカーの振動が腹痛を治す、と思ったんですよね?
H:もっと深刻な病気ですよ。癌。
せ:え?癌を治すと?
H:ええ。直腸癌とかね。
せ:え、まだ子どもなのに?
H:ええ。
せ:もう治し始めてた?
H:そうなんです。
せ:それは振動によって?
H:そうです。
せ:あー…これは大事なことを、きょう…
H:あんまり真に受けないで(笑)
せ:(笑)
H:やる人がいるかもしれないから…(笑)
せ:でも、その人が気持ち良ければね。
H:それはそうですね。
せ:僕はいま…ぜんぜん話飛びますけど、すごく良い精神科医で、ミュージシャンで、バンドもやったりしてて。僕の主治医なんですよ、彼がね。
H:へぇ。あ、そうなの?
せ:で、彼がこないだ…北海道だったかな?「ちょっと僕、見に行きたい病院があるんですよ」ってセッション中に言うから、どういうの?って訊いたら…統合失調症の人とか、相当な鬱の人とかが入るんだけど、その病院のモットーは「治らないけど楽しい」っていう。
H:ほほう。
せ:これすごいな!って思って。
H:楽しい病院、ね。
せ:治らなくていいんだ、と。それはもうしょうがないことだし、それを治すからって言って強い薬を飲んだりすることはないんだ、と。
H:なるほどね。
せ:それ[症状]自体は悪いものではない。社会とぶつかるから「悪い」のであって、その代わりに楽しく生きましょう、と。すごい良い病院だな、と思って。
H:それは今までになかったね。
せ:そうですよね。だから僕、ちょっと頭イったらそこに入ろう、と思って。
H:いいですね(笑)
せ:いいですよね(笑)
H:楽しそうにしてる重病患者になるんでしょ?
せ:そうですよ。「風よ吹け!」って言ってるんじゃないですか?もう吹いてるのに(笑)
H:(笑)
せ:そういう、認知が歪んでますもんね。
H:まぁ、僕もそうだ。
せ:ですよね(笑)
@※=}@※=}♪ジングル@※=}@※=
H:でも、この歳になると…というよりは、今の社会なのか、病気で苦しんでる人が多いですよ。周りに。
せ:あー…
H:楽しそうな人はひとりもいない、その中に。
せ:そうですよね。たしかにたしかに。
H:で、どうやってそういう人を癒せるのか…自分ではもう人は救えない、とか思っちゃったりしてね。すごい暗欝たる思いになる、というかね。
せ:おお…
H:これはどうにかならないの?と思ってたら、その病院に行けばいいんだ。
せ:そう。その病院に行けばバッチリだと思う。ただ、治りませんよ?(笑)
H:(笑)
せ:一切治しませんから、逆に言ったらね。治しません、だけど楽しいんですよ。で、それでいいじゃないか、っていう。
H:それはでも…それがいちばんの治療なんじゃないかね。
せ:そうなんですよね。だって、昔の人はそうだったでしょ?癌とか知らないで死んでいった時代の…たとえば江戸時代の人たちは、「具合が悪いから、まぁとりあえず楽しくやるか」ってやってたんじゃないですか?やっぱり。
H:なるほど。まぁでも、他人事じゃないね。長寿社会の…日本がいちばん未知の体験に突入してるでしょ?
せ:そうですね。
H:高齢化社会。張本人ですからね、僕。
せ:そう…かなり突っ込んでってますよね(笑)
H:(笑)だから、なんかね、申し訳ないんだよね。
せ:申し訳ない?
H:団塊の世代として膨れ上がってる人口が。
せ:あ、「オレたちが社会の中でこうなってるのが申し訳ない」?
H:[人口ピラミッドが]逆三角形になってるでしょ?
せ:なってます。ここが年金を食い潰すんです(笑)
H:そうなんですよ。だから申し訳ない。
せ:(笑)細野さんですよ
H:そうでしょ?(笑)
せ:うん(笑)これは風の中裸で出て行ってる場合じゃないかもしれない、逆に(笑)石投げられちゃうかもしれない(笑)
H:いやー、だからね、気を付けようと思って。社会でひっそり生きていきたいんですよね、本当は。邪魔しないで。
せ:これはもう、細野さんの宿命ですから。人を楽しませなきゃならない。別にそれはトークで、とは言いませんよ。
H:(笑)
せ:ただ、きょうは[トークの]芽があるな、と思いました(笑)「細野晴臣十番勝負」みたいな。次から次へと人が出てきて、最終的には細野さんが寝ながらしゃべってる、みたいな感じの(笑)
H:そこまでじゃないですけどね(笑)
せ:いや、すごかったですよ前半の振り方。これ、しゃべること頭に用意してあるのかな?って。わりとプロ系の僕が思うぐらい…
H:プロですもんね。
せ:すごい早さだった。あれは早晩疲れるな、と思ったら、見事に第2部の途中で疲れてましたね(笑)
H:疲れた(笑)
せ:(爆笑)
(会場拍手)
H:ちゃんと見てるわけだね(笑)
せ:こりゃまずい!と思ったら、もう集中力ゼロになってましたもんね(笑)
H:突然集中力切れちゃうんですよね(笑)
せ:いや、それがすごく…むしろ良かった。すごい正直だから。
H:歳とるとね、時々ね、黒みが入るの。意識に。黒みってわかる?
せ:まったくの黒ですよね。
H:黒になって、こう…0.5秒ぐらい。
せ:考えることもできないですね、黒みが入っちゃったら。
H:ふつうは真っ白でしょ?そうじゃない、黒いの。
せ:黒みが入る。やっぱり映像的な…映画っぽい。
H:そうなんですよ。
せ:黒みが入って、で、なんも考えなくなって黙っちゃう。
H:そうなんですね。だから、あと10年はなんとか…やれるかな。という感じですよ、いま。ホント。
(会場拍手)
せ:いやいや、パチパチじゃなくて…10年じゃ短いでしょ!(笑)
H:あっという間だよ(笑)
せ:みんな「送る」気になっちゃってたけど、ダメダメダメダメ!(笑)
H:いや、しょうがないでしょ(笑)
せ:や、そうだけど。でも、きょうだって細野さんがホストの役をやってるから。僕はここに来るまで、僕が[ホストを]やぅて、細野さんに話を聴くんだと思ってた。
H:やって(笑)
せ:(笑)
H:もう、ダメ…(笑)
H:トークショーって時々やるけど、例えば横尾さん(横尾忠則)と話したりするときは、逆にツッコミを入れたりする立場になるわけ。横尾さんに。
せ:ほうほう。
H:けっこう、そのときは頭が活性化するわけ。
せ:あー、いいですね。実はツッコミ型なんですか?
H:そうなの。
せ:ですね、じゃあ。これ。
H:うんうん。
せ:あー、それ重要ですね。自分がボケ/ツッコミのどっちにハマるか…まぁ、東京の場合はこのお笑いが無いわけだけど。まぁ一応…そうじゃないほうをやってみたときに本当の自分が見出されることは度々あることですよ。
H:どっちなの?
せ:僕はもう、典型的なツッコミ…でしたが、歳をとって物忘れがひどくなり、「それはナントカじゃないか!」の「ナントカ」がまるで言えなくなる。
H:わかるわかる(笑)
せ:あー、お前はアレだな!なんて…(笑)
H:(笑)
せ:そのときに、先にボケとかないと、それを誰かに見透かされたら商売があがったりだ、と。
H:商売だからね。
せ:そうです。だから、僕はものすごい勢いで、急旋回でボケになってる。
H:あ、そうなんだ(笑)
せ:いま[この場で]そうなってないのは、細野さんがすごいボケちゃってるから、僕がんばんなきゃ、と思ってるだけで…(笑)
H:そうだよ(笑)もう、お願いしますよ、ホントに。ツッコんでください。
せ:でも今は基本的には…昔、Appleでトークショーやったの憶えてます?
H:憶えてる。
[*2006年9月20日、銀座Apple Storeで行われたトークショー「細野晴臣 オフ・OFF・トーク ~今日からスイッチ・オン~」。同時期にリリースされたDVD『東京シャイネス』の発売記念イベント。]
せ:あのときはマネージャーの方に、「ずーっと作れ作れと言ってるんだけどちっともアルバムを作ってくれないから、いとうさんから言ってください」っていう、よくわからない…親戚でもないのに(笑)
H:(笑)
せ:でも、そこから細野さんはいろいろ…ここのところの[作品の]出し様がすごい勢いだな、と思って。
H:そうね。
せ:この変化はどう起きてるんですか?
H:あのね、やっぱり…なんだろう、時間がないからかな。
せ:おー。それは実際思う、っていうか…
H:思うでしょ?
せ:思います。
H:限られた時間しかないから。だいたいみんなこの世を去る段階に来てるわけですよ。この歳になると。周りに多いじゃないですか。ああ、あの人もいっちゃった、この人もいっちゃった。和田誠さんがいっちゃったな、とかね。
せ:うん。
H:時間がないから、なんか加速してるんですね、今になって。自分の中でね。やりたいことが次から次へと出てきてて。
せ:思いついてる?
H:うんうん。もう、隠してはおけないの。
せ:それはありますね。人生半分過ぎると。もったいぶってらんない、っていう気持ちになりますよね。
H:うん。もう、ぜんぶ全開。
せ:おお、全開ですか。例の?
H:風よ吹け(笑)
せ:(笑)
H:(笑)
せ:そのときに…違うときに話を伺いましたが、カヴァーもものすごくやるでしょ?
H:カヴァーが大好きでね。
せ:その、急にバーッと出すようになってからの細野さんは…それまでは日本の音楽業界的な慣例みたいのがあったと思います。欧米、たとえばアメリカのミュージシャンたちはカヴァーをめちゃめちゃやるけど、それほど日本ではやらなかった、とか。
H:そうね。
せ:オリジナル信仰が強い、とか。
H:強い強い。うん。
せ:でも、そこへ細野さんはいきなりバタバタバタっと出していくものに、めちゃめちゃカヴァーが入ってる。
H:そうですね。まぁ、レコード会社は嫌がりますけどね。
せ:印税が入らない。
H:印税のこととか、いろいろ…著作権とかめんどくさいですからね。
せ:許可を取りに交渉しなきゃならないとか。
H:それがね、けっこう大変なんですよ。
せ:著作権者がもういなくなってたりしてね。
H:宙に浮いてるやつも多いんですよね。んー。
せ:でも、やるぞ、っていう。
H:なんでかな?あの…自分が作るのなんて大したことないから…今までにすごい、名曲がいっぱいあるわけだよ。20世紀って。
せ:うんうん。
H:だから、20世紀を忘れちゃいけないよ、っていうような気持ちが自分の中にあってね。こんな良い曲があるのに誰もやらないの?って思うことが多いんですよ。
せ:うん。
H:だから、誰かしらがやらなきゃ、っていう。その中のひとりになりたいな、と思って。
せ:そうじゃない人たちだと、このままだと埋もれちゃうかもな、と思うことがいっぱいあるわけですか?
H:うん。たとえばね、アメリカの新人のジャズ歌手とかがアルバムを出すとき、オリジナルで固められてると聴く気がしないんだよ(笑)
せ:えー!なるほど…あ、でもちょっとわかる気もするなぁ、近頃!
H:そうっすかね。
せ:最初っからそいつの世界を、一から紐解いていくヒマもそんなに無いんだよな、こっちも、っていう。
H:(笑)
せ:カヴァーでその人の実力がわかるようなものを聴きたいな、って…
H:そうなの。
せ:たしかに思うことあります。
H:カヴァーだとわかるわけ。その人の力量が。
せ:そうですね。どうアレンジしたか。
H:で、好きな曲をやってると、どうしたって聴きたくなるわけ。
せ:うんうん。
H:だから、オリジナル信仰っていうのは僕には無くなってきた。でも日本ではまだあるね。
せ:やっぱりそうですよね。カヴァー集をなかなか出させてもらえないっていう現実はある。
H:そうなんだよ。カヴァー集を出すと、ソロアルバムとは認めてくれないんだよね。なんとなく。
せ:あー…なるほど。カウントしてくれないっていうことですね。「…で、次のアルバムはどうですか?」って訊かれちゃう。
H:「ソロはいつ出すんですか?」なんてね。出したばっかりなのに(笑)『Heavenly Music』とか。
せ:あ、そうだ。
H:ソロのつもりだった。カヴァー集だからね。
Cow Cow Boogie - 細野晴臣
(from 『Heavenly Music』)
H:まぁ、なんて言うんだろう…いままでいっぱい曲作ってきたし、もういいか、と思うわけ。長く生きちゃうとダラダラ作ってくでしょ?それがイヤなの。
せ:なるほど。
H:でも、やりたい。まだ。
せ:演奏したい?
H:演奏…アレンジしたい。
せ:アレンジしたい!この今…細野さんがバーッと作りだしてるときって、カヴァーもし出したけど、ものすごく「演奏欲」があるように見えた。もう1回ベースを弾く細野さんが見れてよかったぁ、と、ファンとしては思ってるけど、それは「演奏欲」じゃなくて、その曲をそのときのライヴでどうやるかのアレンジがしたいんだ?
H:そう!
せ:そうなんですか。
H:だから、なかなか伝わりにくいんだけど、たとえば1940年代のアメリカのジャズとかね。ビッグバンドとか。今は誰もできないんだよ、あれ。似たようなことはやるけど。
せ:演奏できない、っていうことですか?
H:うん。
せ:腕[演奏技術]が違うっていうことですか?
H:今の人のほうが[演奏は]上手いよ?上手いけど、上手いだけじゃダメなのよ。
せ:ほう。イナタい…
H:イナタさを勉強してないから、今の人は。だから、音の響き?イナタい響きっていうのがあるわけ。「全開」じゃダメなの、やっぱり。
せ:なるほど。
H:…「全開」でもいいのかな?こうなっちゃうからな(笑)
せ:(笑)
H:まぁとにかく、再現ができないんで、なんとか再現したいな、と。
せ:んー。それは一つは…前に細野さんにお伺いしましたけど、どうやってレコーディングしてるのかいまだにわからない、という録り方があると。これは録る側の問題じゃないですか。で、いま仰ってたのは、プレイする側の問題もあるじゃないですか。
H:そう。
せ:これはなんですか、両輪?
H:両輪なの。両方大事なの。つまり、音楽ってライヴよりも「レコード芸術」の側面のほうが強いわけでしょ?
せ:あー、録音芸術…うん。
H:蓄音器が発明されて以来、音楽がみんなに聴かれるようになったわけでしょ。みんなが毎日ライヴに行けるわけじゃないけど、レコードは自分でかけて。で、3分半の音楽がそれで定着してった。で、レコーディングしやすい管楽器がメインだったと。
せ:うん。
H:つまり、レコードでみんな音を聴いてたわけだ。僕もそうでしょ?レコードで聴いてた。
せ:そうですね。
H:で、ライヴで観ると、あれ、なんか違うな、って思ったりしてね(笑)たとえばビーチ・ボーイズが、僕が中学のときに来日して。厚生年金ホールかな?観に行ったんだよね。
せ:うん。
H:なんかね、おもしろくない。ライヴが。レコードはあんなに良いのに。
せ:なるほど、あんなにいろんな音が鳴ってるのに、って。
H:完全にレコードの人間なんですよ。だから、レコードを作るっていうことがいちばん楽しい。
せ:あー。
H:ライヴももちろん好きだけど、別のものなんだね。
せ:ということは、「ものすごく録音したい」っていうことですね?いま。
H:録音大好き。
せ:(笑)バンバン聴きたいですけどね、こっちは。
H:もう、出来るだけやりたいんだけど、人生、思ったことの3割ぐらいしか出来ないでしょ?
せ:んー、まぁ時間もありませんし。
H:3割出来れば良いほうかな。打率みたいなもんでしょ?
せ:そうですね。
H:だから、この先考えてることはいっぱいあるけど、1つか2つか3つぐらいしか出来ない。
せ:いや、少な過ぎますよ!(笑)もうちょっとできるでしょ!
H:過去を見ると、10年に1枚だったりね。そんな時期もあったわけだね。
せ:そうです。
H:今はやっぱり、1年ごとに出してるね。10年だったら10枚か。
せ:そうですよ。いけますよ。
H:いけるか。
せ:いけます。
H:80歳になったらどういうのを作るんだろうね。
せ:いやー、それはすごい楽しみですよ。あの、録音物を出すやり方も変わってるわけじゃないですか。ネットになって…ということは、まぁよくミュージシャンと話すことだけど、どんどん出せる、と。ある意味言ったら。
H:そうだね。ネットでね。
せ:いちいちヴィニールの上に刻まなくてもいいわけだし、CD作るとか、宣伝をどうするとか、言ってる間もなく出しちゃうことができるし、出しちゃってる。細野さんはメディアとのあれで…いまどんな感じなんですか?モードは。
H:遅ればせながら、っていう感じで…使えるな、と。思いますよ。うん。やっぱり、誰に相談しないでもポンと出せるっていうことはすごいですね。
せ:うん、そうですよね。
H:たとえば画像だってYouTubeにパッと出せるわけで。これから音楽じゃなくて映画をやろうかな、と。
せ:うん、いいと思う。
H:ちょっと思ったりして…
せ:いいと思う、いいと思う、いいと思う!
H:いいかぁ…
せ:いいでしょう!(笑)いいじゃないですか!
H:(笑)
(会場拍手)
せ:いや、それでいま言って、「しまった、言っちゃったな」とかって思ってると思いますよ、性格上。
H:思ってる(笑)
せ:だけど、気にしないでください。それはみんな、風の日に裸で出ちゃったんだ、って。
H:そっか(笑)
せ:その一言があるから…まぁ、僕も細野さんも「後半」ですよ。それは誰も否定できないところで、150歳まではやっぱり生きないから。
H:それは無理だよ。んー。
せ:そのときに…もっと寛容だったでしょ?社会が。おじいさんに。
H:そうだね。
せ:「しょうがないなあの人、ジジイはあれで…拓本とってさ、日本中回ってやがって…」。それが無くなっちゃったのは、やっぱり良くないんじゃないですか?
H:そうなんですよ。だから、「あの人、年寄りだからしょうがないか」っていう風にしてほしいんだよね。
せ:いやー、もう、しますよね?ぜんぜんしますよ。
(会場拍手)
せ:もう、細野さんなんだからしょうがないよ、っていう…
H:もし街で裸で歩いてても…
せ:もうぜんぜん、あ、細野さんだなぁ、って、遠くからもわかりやすいし。
H:(笑)
せ:あー、細野さんだなぁ…あー、警察につかまって…
(♪ピンポン)
せ:あーあーあー。次あるんですよね?
H:あるんだよね。あー、でも、明日ね、映画…ジャック・タチ(Jacques Tati)の話しようと思ったけど、時間がないんでもういいや(笑)
せ:(笑)え、ここまで[次の人を]呼んでから交代ですか?
H:あ、いいんじゃない?もう。
せ:じゃあ、どうもどうも。
H:いとうせいこうさんでした。ありがとう。
せ:お楽にお楽に…お楽にやってください。
H:ありがとう。次は誰かな?
2019.10.20 Inter FM「Daisy Holiday!」より
こんばんは。デイジー・ホリデーの時間です。今週から幾度かにわたり、先日、恵比寿ガーデンプレイスで行われました、『細野さん みんな集まりました』、そのDay4「細野さんと語ろう! ~デイジーワールドの集い~」の模様をお送り致します。それでは、ごゆるりとお楽しみください。
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(会場拍手)
H:いらっしゃい。細野晴臣です。この音楽はですね、毎週日曜日の深夜にInter FMでやってるレギュラー番組のテーマ曲なんですけど、アーティ・ショウ(Artie Shaw)の"Back Bay Shuffle"という…
H:えー、その番組の収録も兼ねて、きょうはちょっと…ゲストを3組お招きしてます。いつもは来ない人たち…特に、最初に来る人はとてもめずらしい…まぁ、僕の先輩ですね。YMOのときにプロデュースをして頂いた、川添さん(川添象郎)がいらしてますので。すごいおもしろい話がいっぱいあると思うんですけどね。どんな話になるか…
(♪ピンポン)
H:あ、ちょうど玄関から…
(会場拍手)
川添:しばらくです!いやー…
H:どうぞどうぞ…川添さんは握手するときはこうなんですよね。上から目線なんですよね(笑)
川添:え?
H:上から目線。
川添:あ、そうなんですか。
H:そうなんですよ。自分でもそう仰ってましたよ。
川添:すいません!いっぱい人がいるんですね。
H:そうなんですよ?(笑)
川添:(笑)こわいですねぇ。
H:お茶が来ました、お茶が。
川添:ご苦労様です。
H:さぁ、なんの話をするかというとですね…時々、街でお会いしますよね。
川添:そうですね。あのー、食べ物屋さんかなんかでね。偶然出くわしたり。
H:そう。最近は「満天星」に…
川添:そうそう、満天星に行くと会う!なんであんなところ知ってるんですか?
H:いや、満天星は洋食の、ね…ハンバーグが美味しいんで。
川添:あー、なるほど!オーナーが僕のね、小学校の友達なの。旧友なんですよ。
H:あ、そうなんですか!
川添:すいません、歯が無いもんでね!
H:(笑)
川添:「ハなしにならない」っていう…
(会場拍手)
川添:ウケたよ!びっくりした!
H:よかった。歯はなんで入れないんですか?
川添:そうだよね。
H:直してくださいよ。
川添:あのね、入れると痛いんですよ。
H:痛いのは弱いんですか?
川添:いやいや、痛いのはイヤでしょう。
H:意外と…弱いんですね(笑)
川添:いや、絶対イヤですね。
H:それでね、キャンティ(CHIANTI)のご子息ですよね?
川添:そうなんです。キャンティって言ったって、みなさんご存知ないでしょう?
H:もう、「六本木族」の走りですからね。
川添:そういうことですか(笑)
H:ええ。芸術家がいっぱいたむろして…そこのオーナーのご子息ですよね。
川添:そんな偉いもんじゃないですけどね。あ、これイタリアン・レストランなんです。
H:そうなんです。美味しいですよ。
川添:ありがとうございます。よく来て頂けますもんね。
H:僕、しょっちゅう行ってますよ、いまだに。
川添:西麻布とか。
H:西麻布のほうに行って。
川添:多いですよね。
H:で、ずいぶん前…10年ぐらい前ですかね。西麻布のキャンティに行くと、だいたい川添さんがいらっしゃってね。
川添:そうですね。
H:で、なんかアタッシュケースを見せるんですよ。
川添:(笑)
H:開けると…
川添:物騒なものが入ってるんでしょ?
H:物騒なものが入ってる(笑)
川添:よく憶えてるね(笑)
H:GUNですよ。拳銃。
川添:ですよね。
H:本物じゃないですから(笑)
川添:モデルガンに凝りましてね、それでエラい目に遭いましたね。おまわりさんに見つかってね。
H:(笑)
川添:留置場に連れてかれちゃったことあるもんね。
H:いや、とにかくね、めちゃくちゃですから。川添さんは。
川添:いや、そんなことないですよ(笑)
H:あのね、それでアタッシュケースからモデルガンを出してきて、「これ、外で撃ちにいこう」って誘われてね。
川添:あ、ホント?
H:で、キャンティの看板めがけてね、撃つんですよ。
川添:当たるでしょ?
H:当たりましたよ。
川添:うん、当たりますよ、あれは。
H:あれ以来キャンティは出入り禁止なんですか?
川添:実はそうなんですよ(笑)
H:そうなんでしょ?(笑)
川添:自分の店なのにね、入れてくれないんですよ。
H:そうでしょうね。
川添:ひどいもんだね!
H:そうだと思って…最近、いないので。満天星のほうに行っちゃったっていう。
川添:あのー、自分の店から排除されまして。
H:もうねぇ、子どもなんですかね?そういうところは。
川添:それはわかります。まんまですから。
H:川添さんのことを「ショウちゃん」って言ってる人たちがいますよね。ミッキー・カーチスさんとか。
川添:みんなそうですよ。あなたぐらいですよ、「川添さん」なんて言うのは。
H:いや、「ショウちゃん」とは呼べないですよ(笑)
川添:なんで?(笑)
H:先輩ですから…
川添:いや、若い女の子はみんな「ショウちゃん」ですよ?
H:あー、女の子はね。モテるんですよね。
川添:うん。いやー、うれしくなっちゃいますね、あれね。
H:はいはいはい…お父様(川添浩史)はすごいプロデューサーですよね。
川添:そうですね。
H:どんな方ですか?
川添:「エンプロサリオ」の走り。エンプロサリオって言ってもみなさん、あんまり馴染みが無いかもしれないけど。
H:聞いたことない。
川添:まぁ、簡単に言うとね、日本の文化を世界に紹介して、世界のおもしろいものを日本に持ってくるっていう。そういう仕事をしてたんですよ。
H:いちばん大きな仕事は…万博ですか?
川添:万博の富士パビリオンね。当時、40億円かけて作った展示場ですね。それで賞を獲ったりなんかしてますけど。
H:うんうん。
川添:あとはね、日本の文化を世界に紹介するのが好きで、「あづま歌舞伎」っていう、まぁこれは踊りなんですけど。それを持ってって、世界中ですごいウケたりしてたんですよ。
H:あとは…外国のアーティストを招聘したりしてましたよね。
川添:『ウエスト・サイド物語』をね、オリジナルキャストで連れてきたり。
H:ええ。
川添:あとはイヴ・サンローラン(Yves Saint-Laurent)とかピエール・カルダン(Pierre Cardin)っていう…
H:そうですね、ファッション系も多いですね。
川添:パリのファッション・デザイナーを日本に紹介したり。
H:あと、有名なカメラマン…えー、どなたでしたっけ?
川添:ロバート・キャパ(Robert Capa)。
H:そうです、キャパ。
川添:キャパ。
H:すごい人の…アシスタントをやってらしたんですか?
川添:私ですか?いや、キャパは僕が物心つく頃にはもう亡くなっちゃってたんですよ。
H:あ、そうなんだ。
川添:それで、キャパが作った「マグナム(Magnum Photos)」っていう写真家集団があるんですよ。これは世界一の報道写真の写真家集団なんだけど。
H:ええ。
川添:そのマグナムの人たちが日本に来ると必ずうちの親父を訪ねてきて。
H:うん。
川添:で、僕がこの道に入って…この道っていうのはなにかって言うと、文化系の仕事ですね。そのきっかけも最初は…写真家のアシスタントをやってたんです。
H:そうですよね。
川添:高校を卒業してすぐ。デニス・ストック(Dennis Stock)とかね。
H:それで、アメリカにいらっしゃったんですよね。
川添:そうです。シャーリー・マックレーン(Shirley MacLaine)ってご存知ですか?
H:あ、もちろん。
川添:シャーリー・マックレーンの旦那さん(Steve Parker)がプロデューサーで、ラスベガスでフィリッピン・フェスティバルっていう大きなショウをやることになって。
H:うん。
川添:僕が、ショウビズの仕事をしたい、って言ったら「じゃあ連れてってやる」って、シャーリー・マックレーンといっしょに連れていかれたんですよ。19歳のときに。
H:もう、ラスベガスでショウのアシスタントをやったんですか?
川添:舞台監督をやってたの。舞台監督「助手」から始まったんだけどね、もちろん。
H:あ、すごい…
川添:死にそうでしたよ。
H:そうでしょうね。生きててよかったですね。
川添:あー、ホント!ね。
H:そういうアメリカのショウビジネスの真っただ中にいたわけですよね。
川添:19歳で飛び込んじゃったんですよ。
H:19歳でね。
川添:で、それが終わって…それで貯めたお金を持って、今度はニュー・ヨークにひとりで行って。グリニッジ・ヴィレッジっていう…その頃は芸術家村だったんだけど、そこにアパートを借りて。暮らしながらフラメンコギターをやって。
H:そうなんですよ。川添さんはフラメンコギターの名手なんですね。実は。
川添:(笑)
H:すばらしいスパニッシュギターを持ってて。
川添:持ってて、あなたが…(笑)
H:欲しい(笑)
川添:知ってる知ってる(笑)あれね、いろんな話があって。細野さんがすごい気に入って、あのギターをよくレコーディングで使って…
H:『HoSoNoVa』のときにお借りして、あれでやってたんですよ。
川添:そうですよね。
(from 『HoSoNoVa』)
H:YMOのツアーは、川添さんがリーダーだったんですよね。大変でしたけどね。
川添:あー、大変だね、あれは。
H:外国人相手に交渉するわけですけど、さっきの握手。上から目線のね。
川添:抑えつけないとね、言うこと聞かないから。
H:そうなんでしょ?すごい、感心しましたよ、その話で。
川添:あの、マット・リーチ(Matt Leach)っていう舞台監督がいて。向こうでショウをやるとYMOはゲスト・ミュージシャンじゃないですか?
H:ええ。
川添:要するに、メインのアクトの前に出るじゃないですか。
H:そう。最初のツアーでアメリカ行ったときのグリーク・シアター(The Greek Thatre)…
川添:グリーク・シアターのとき、そうそう。
H:あのときが最初ですよ。で、前座ですね。
川添:僕らは「"Guest musicians fro Japan"って言え!」っていって、そういう紹介をしてもらいましたからね。
H:そのときの話がね。だいたい、ああいうのは…前座、って言っちゃあアレなんですけど、まぁウォーミング・アクトは。
川添:うん、プリ・アクトだね。
H:プリ・アクト。音のレベルを下げられちゃうんですよね。
川添:そうなんですよ。インストゥルメンタルのグループでしょ?音下げられちゃったらなにもならないもんね!
H:そうなんですよ(笑)で、僕たちはなんかぼーっとしてるんで、なんにも考えなかったんですけど、それをPA席で聴いてたんですよね、川添さんが。
川添:っていうかもう、だいたい様子を掴んでましたからね。
H:掴んでましたか。やっぱり、よくご存知なんですよね。そういうのは。
川添:まぁ、向こうでやってましたからね。
H:それで、なにをしたかというと…?
川添:なにをしたかというと、まず舞台監督をいてこますのがいちばん(笑)
H:いてこます…(笑)
(会場拍手)
川添:それで、舞台監督に賄賂を渡して…
H:賄賂!(笑)
川添:1,000ドルの賄賂を渡して。ついでに…A&Mレコードのジェリー・モス(Jerry Moss)っていうすごい偉い人がいるんですけど。
H:はいはい。
川添:その人の名前を出して、「この金をもらったからにはちゃんと音を出さないと、お前は二度とショウビジネスの仕事ができなくなる」、と脅かしましてね(笑)
H:おそろしい…(笑)こわいよね。
川添:ヒエーッ、ってびっくりして、言うこと聞いて音を出してくれたんですよ。
H:それであんなに大きな音になったっていうことですね。
川添:あれが、だから、成功の原因の一つではありますね。
H:そうでしょう?で、そんなことを知らないから、僕たちは。「あ、ウケた!」と思ったんですよ。
川添:いやー、バカウケですよ、もう。
BEHIND THE MASK - Yellow Magic Orchestra
(from 『LIVE AT GREAK THEATER 1979』)
H:その話を聞いて、ショウビジネスのバックグラウンドというか…そういう仕事って非常に大事なんだな、と。思いましたね。
川添:そうですね。あと、向こうでやる場合には向こうのそういう習慣だとかね。あり方みたいなものをちゃんと心得てないとひどい目に遭いますね。
H:そうですね。
川添:それだからさ、YMOが行ったときに、ロサンゼルスはヤバいから。で、あなたたちその頃は言葉をあんまりしゃべらなかったでしょ?英語は。
H:あんまりね。
川添:それで、リムジンをぜんぶ用意して。でっかいリムジン憶えてますか?
H:立派なリムジンでした。
H:ショーファー(chauffeur)っていう、運転手が付いてて。そういえばそうでしたよ。
川添:あれはね、身の安全を確保する重要な…
H:あ、そうなんですね。
川添:だって、ロサンゼルスって車が無いとどうしようもないでしょ?
H:そうですね。
川添:タクシーなんて走ってませんからね。
H:歩いてると…
川添:歩いてると延々歩いてるからね(笑)
H:そのショーファーとリムジンを用意したのも川添さんなんですか?
川添:そうですそうです。
H:すごいわ…やっぱりもう、川添さんなくしてはYMOの成功は無かった、と。これは言い切れますよ。
川添:いやー、そんなことはない…
(会場拍手)
川添:とんでもない。
H:本当にそうです。
H:で、こういうプロデューサーって今、いないんですよ。
川添:あー、そうでしょうね。
H:音楽をすごく大事になさってるタイプってあんまりいないんですよね。音楽好きですもんね。
川添:音楽、大好きですから。
H:ミュージシャンですもんね。
川添:そうです!音楽が大好きなだけじゃなくて、エンターテイナーにね…気持ち良く仕事をしてもらわなくてはなにも始まらないですからね。
H:そうなんですよね。
川添:だから、みんな元気で仕事やってるのかなー、と思ってたらね、細野さんの顔を見るといっつもね、「くたびれた…くたびれた…」(笑)
H:(笑)
川添:ふた言目には「くたびれた」ってね(笑)
H:生まれたときから疲れてますんで…(笑)
川添:あー!なるほど。
H:まぁ…川添さんは元気ですね。
川添:いやー、そんなことないですよ。もう80歳ですから。
H:ははぁ…やっぱり、元気ですね。
川添:ありがとうございます(笑)
H:(笑)
川添:(笑)
H:あのー、村井さん(村井邦彦)とは仲良いですか?
川添:仲良いですよ。いや実はね、YMOの成功は村井邦彦というね、アルファ・レコードの社長…まぁ、当時社長で、すごい優秀な作曲家でもあるんですけど。
H:ええ。
川添:彼のね、勇断というか決断というかね。蛮勇というかね。それが無ければね、YMOの世界的成功は無かったですね。
H:そう。そう思いますね。
川添:だってあの頃ね…YMOのレコードが出来たときに、村井くんはね、ヘンな声出して電話してきたんですよ。
H:(笑)
川添:「ショウちゃんね、細野くんに任して出来たレコードがあるんだけど、ちょっと聴いてくれない?」って、あんまり元気そうじゃないのよ。
H:(笑)
川添:で、なんだなんだ、って聴きに行ったわけ。そうしたらね、最初に出てきた音がね、♪ピッ、ププッ、ブー…
H:1枚目です…(笑)
川添:これはね、歌もないしね、誰も聴いたことのない音楽だしね、2人で頭抱えちゃったの。
H:(笑)
川添:そしたら案の定ね、リリースしても日本では3,000枚ぐらいがやっと売れたぐらいで、ぜんぜん売れなかったわけ。
H:ですよね。
川添:そのときに、新宿のフュージョン・フェスティバルでトミー・リピューマ(Tommy LiPuma)が来てた。
H:紀伊国屋ホールですね。
川添:はい、紀伊国屋ホール。実はトミー・リピューマっていうプロデューサーはアメリカの大プロデューサーで、マイケル・フランクス(Michael Franks)とかジョージ・ベンソン(George Benson)とかご存知の方もいるかもしれないけど、それをプロデュースした大プロデューサーなんです。
H:ええ。フュージョン系が得意でしたね。
川添:そうそう。オシャレな音楽を作る人ですよね。
H:はい。
川添:で、彼が日本にバンドを連れて来てて。細野さんたちが出演している紀伊国屋ホールの…
H:フュージョン・フェスティバルですね。
川添:そう、それに出たの。そのときにね、YMOを見せようと思って…僕はトミー・リピューマがその頃泊まってたオークラホテルに行って、シャンパンをしこたま飲ませて酔っぱらわせてね。
H:またやってるわ(笑)
川添:それでね、連れてったの(笑)
H:すごいね、裏工作がね…(笑)
川添:そうしたらね、「これはなんだ!すごいいいじゃないか!」って…
H:酔っぱらってるんですね(笑)
川添:そうそうそう!YMOっていうのはね、あの頃、酔っぱらって聴くと良かったんです(笑)
H:あ、ホント?(笑)
川添:それでね、えらい興奮して「[YMOのレコードをアメリカで]出す出す」って。
H:あー、そっからですよね。
川添:そう。そこから村井邦彦にすぐ電話して、トミーがこう言ってるよ、って言ったら、「ホントかよ、じゃあアメリカで出すように工作してみるわ」ってアメリカに電話して。A&Mレコードのジェリー・モスに「トミーがこう言ってるから出してよ」って言ったら…
H:うんうん。
川添:まぁ、向こうでもね。けっこうその前にYMOの音源があって、若手のプロモーターたちが「これはなんだ、おもしろい」って言ってたらしいんですよ。
H:あー、その話は聞いてますね。ええ。
川添:それをうまく合体してね。向こうでレコードが出るということになりました。
H:いやー、奇跡的にね。ええ。
川添:で、出ることになったのはいいんだけど、ライヴをプロモーションでやらなくちゃいけない。
H:んー。
川添:それでトミー・リピューマも、「この音楽、おもしろいけどどうやって売ろうか」って頭抱えてたんですよ。
H:みんな頭抱えちゃうんですね(笑)
川添:そう(笑)最初はね、誰でも頭抱えますよあれは、細野さん!勘弁してくださいよ!(笑)
H:いやいや…(笑)
川添:ひどいもんだね!やりたい放題ですから。それで、トミー・リピューマも頭抱えながら、オフィスで流したわけよ。
H:うん。
川添:そしたらチューブス(The Tubes)っていう、向こうの売れっ子バンドのマネージャーがオフィスの前を通って、これなんだ?っていう話になって。
H:ははぁ。
川添:それで夏の、グリーク・シアターのチューブスの3日間のコンサートに、このバンドを出したらどうだ、っていう話になって。
H:そう、チューブスとはよく話してて、本当に彼らは気に入ってくれてたんです。
川添:そうそう。だってね、実は向こうのバンドの人たちっていうのはすごいように聞こえるけど、大して上手くないんですよね、楽器は。
H:(笑)
川添:それで細野さん率いるYMOはみんな熟練でしょ?だからシェーッ!ってびっくりして舞台の袖でね、YMOの演奏をみんな聴きまくってましたからね。
COSMIC SURFIN' - Yellow Magic Orchestra
(from 『LIVE AT GREAK THEATER 1979』)
H:ラッキーだったんですね、チューブスがいてくれて。
川添:もう、いろんな偶然が重なって…それでいちばん最初に[=チューブスの前に]YMOのライヴがあって、1曲目からウケちゃったんだよね。
H:…はい?
川添:1曲目からウケちゃったの!あなたたちの演奏が!気がついてないの?あなた。
H:あんまり実感ないんですよね(笑)
川添:いや、知ってますよ(笑)それでこいつはしめたと思って、2日目・3日目にビデオクルーを入れて、すぐにビデオで記録を録って、うちのプロモーターを日本に遣ったの。
H:うん。
川添:そしたら村井が、「これはおもしろいからすぐNHKに売り込もう」って言うんで、それをNHKに持ってったの。
H:そうだった。
川添:そしたらNHKって、ほら…9時のニュースとかってだいたい憂鬱な話ばっかりじゃないですか。
H:(笑)
川添:誰が死んだとかね、こういうことが起きたとかって。そこで明るい…日本のミュージシャンが[アメリカで]バカウケしてる、っていう…
H:ニュースになったんだね。
川添:そうそうそう。映像といっしょに来たもんだから、それに乗っかっちゃったっていう。当時、視聴率22%ですよ。
H:すごいですね。
川添:2,200万人が見たわけですよ、あなたたちがウケてるのを。
H:上手くいっちゃったわけですね。
川添:いっちゃったんですよ、あれ!
H:なかなかやりますね…(笑)
川添:いやいや…(笑)あなたたちは好き勝手作ってるだけだから、売る方は売ること考えなきゃなんない…大変なんだから!(笑)
H:ホントですね(笑)まったく、その当時はそういうこと知らなかったですから。
川添:あ、そうですか。でもまぁね、餅は餅屋だから。音楽を作る人、芸術をつくる人、それを広める人、と…分業しないとね。できないですからね。
H:日本の芸能界の中でそういう動きっていうのは…特殊ですよね。「歌謡界」ですからね、当時。
川添:もう、ぜんぜん特殊ですね。
H:なんか、疎まれたりしたんでしょうね。
川添:あのねぇ…
H:(笑)
川添:これは僕らもね…村井邦彦さんも僕もそういうのにはあんまり頓着なかったでしょ?
H:ええ。
川添:2人ともミュージシャンだから。
H:そうですよね。
川添:それから…インディペンデントでレコード会社始めましたからね。
H:なんか、アメリカの会社みたいでしたもんね。
川添:そうそうそう。だから、なんでもかんでもやってみようじゃないかっていう精神が旺盛でしたね。
H:なるほど。若かったですね。
川添:やりたい放題でしたね。
H:自分たちこそやりたい放題ですね(笑)
川添:(笑)実は細野さんが率いるYMO、およびいろんなニュー・ミュージックのアーティストたちはすごい真面目に音楽作ってたんですよ。
H:もう、そのことしか考えてなかったですよ。音楽のことしか。
川添:あのー、ヘッド・アレンジって言う言葉をあなた、仰いましたよね?
H:ええ。ヘッド・アレンジ、うん。
[*予め譜面を用意するのではなく、スタジオの現場で編曲を決めていくこと。]
川添:すっかり信用してね、1時間40,000円のスタジオに行って。入って演奏するのかと思ったら、演奏しないで、ティンパン・アレーのメンバー4人で「さぁ、これからどうしよう」って話し合い始めて。
H:(笑)
川添:ちょっと待って、1時間40,000円だよ!(笑)
H:まぁそういうことにも無頓着で…(笑)
川添:知ってます。芸術家なんだからいいんだけどね(笑)
H:いやいや…1回、ひどい遅刻をしたんですよ。アルファ・スタジオにね。
川添:うん。じゃあ、80,000円から120,000円飛んでるね。
H:もう、飛んでますよ(笑)で、さすがにね、怒られましたよ。川添さんから。
川添:えー?ウソだよ!
H:ホント。で、反省したんですよ。だから。
川添:ウソだよ!僕そんなこと言わないよ!
H:いや、言いますよ!
川添:言いませんよ!
H:言ったんです。
川添:そうですかね?(笑)
H:かなり怒ってましたよ。
川添:ウソだね!それは…
H:ホントホント(笑)
川添:憶えてないと思っていい加減なこと言ってる…(笑)
H:いや、ホント…(笑)
川添:盛ってるよそれ!
H:え?
川添:盛ってます!
H:いやいや、だから…怒られたっていうか、注意されたんですけど、そのおかげで僕は「ああ、遅刻はいけないんだ」って…
川添:(笑)
H:幼稚園の感じで…(笑)いやいやホントに。おかげさまなんですよ。誰も言ってくれなかったんですよ。
川添:そうですか。
H:アルファ・スタジオはアルファのものだし、どうせ[お金が]グルグル回ってるんだろう、と思って高をくくってたんですけどね(笑)
川添:いやいや!1時間40,000円だっていうの(笑)
H:あー、そうですね(笑)高い!
川添:高いよ、当時は!
H:当時はスタジオで作るしかなかったんで、制作費っていうと、スタジオ代ですよね。
川添:そうですね。
H:東京でいちばん高いところは1時間60,000円ぐらいしましたからね。まぁ、そういう時代でした。今はもう、それが無くなりましたね。ほとんど。
(♪ピンポン)
H:お。次のお客さんが来た(笑)
川添:話が長ぇから出て行けっていう合図だな、これは(笑)
(♪ピンポン)
川添:なんか、おもしろかったですか?この話。
(会場拍手)
川添:あ、よかった!
H:川添象郎さんでした。
川添:ありがとうございました!
H:もう、はけていいですよ(笑)
2019.10.13 Inter FM「Daisy Holiday!」より
H:こんばんは。細野晴臣です。えー、きょうも先週に引き続いて、伊藤ゴローさんに来て頂いてます。
ゴ:よろしくお願いします。
H:よろしくね。ジョアン・ジルベルト(João Gilberto)特集です。
ゴ:はい。
H:早速だけど、「ジルベルト追悼アルバム」とか、考えてないんですか?
ゴ:えー…たまに「作ったらどう?」みたいな話はあるんですけど。
H:あるでしょうね。
ゴ:細野さん、どうですか?
H:いや、僕?(笑)手伝うけど。
ゴ:え、ホントですか?
H:作るときは。うん。
ゴ:じゃあ作ろうかな。
H:ぜひぜひ(笑)
ゴ:いいこと聞いた(笑)
H:聴きたいですよ。
ゴ:(笑)
H:ジョアン・ジルベルトってブラジルで…亡くなった後どういう感じなんだろう、いま。
ゴ:そう、ですよね。
H:なんか、どういう…やっぱり大人気でしょ?
ゴ:まぁ、そうですよね。
H:だろうね(笑)
ゴ:葬式の映像をちょっと観ましたけど、棺の前でみんなが"Chega de Saudade"を歌っている…
H:やってた?感動しちゃうね、それは。
ゴ:そういうのを観ましたけど。特別な人ですよね、きっと。
H:ね。特別だよね。「神様」って言われてるけど、そんな感じだよね(笑)
ゴ:神様ですね、うん。
H:じゃあ、神様の曲、ちょっと聴かせてください。なんか選んで。
ゴ:そうですね…なにがいいんでしょうか…
H:なんでも。
ゴ:(笑)そうですね、じゃあ…"Chega de Saudade"、「想いあふれて」が1958年。
H:そんな前なんだね。んー。
ゴ:それと同じ年、次の…シングルって言わないかな(笑)SPなんですけども、"Bim Bom"っていう。
H:はいはいはい。
ゴ:これもスキャットの…
H:先週、話は聞いてるね。んー。
ゴ:"Bim Bom"、これも細野さんにはピッタリかな、と思って。
H:本当?ちょっと聴いてみましょうか、じゃあ。
Bim Bom - João Gilberto
H:"Bim Bom"。若いよね、これはいくつぐらいなのかな?
ゴ:えーとね、20代後半。
H:20代!変わんないよねあんまり、声が(笑)
ゴ:でも、ね?少し声が元気な…(笑)
H:そう、ちょっと高い。うん。元気がいいね、まだ(笑)その後、すごいよね。どんどん声が…沈んでいくというか、なんというか。
ゴ:そうそうそう。
H:内向的になってくるというかね。
ゴ:んー。
H:で、ジルベルトさんの音域と、幸い僕がちょっと近いんだよね。
ゴ:いやいや、すごく、こう、同じ…
H:同じとは言わないでください、おこがましい…(笑)
ゴ:同じ帯域というか。
H:帯域が似てるよね、たしかに。
ゴ:うん。
H:だから…他の人は普通、もっと高いからね。男の人って。高い、っていうのは僕に比べて。どっちかって言うと女性の帯域に近いんですよね。
ゴ:あー…
H:なんだろうね、これは。しょうがないんだけど。持って生まれた帯域なんでね。だから、歌いにくくはない、ですよね。
H:その…「いっしょに歌ってくれ」、って言われた難しい曲はスタン・ゲッツ(Stan Getz)ですよね?
ゴ:はい、そうですね。
H:その頃のニュー・ヨークっていうのは…それは何年だ?
ゴ:えーとね、1963年?
H:あー、そっかそっか。それで、どういう状況だったか知らないけど、アストラッド・ジルベルト(Astrud Gilberto)がそこにいたわけだね。
ゴ:はい。
H:いったいどういうことになったわけ?あれ。
ゴ:そうですよね、あれは…まぁ、ジョアン・ジルベルトの当時の奥さん。
H:ですよね。美人の奥さんがいて。
ゴ:で、彼女もシンガーであったらしくて、彼女に歌わせよう、という。それはジョアンが歌わせたいのか、ちょっとまぁ遊び…軽い気持ちで、「1曲、歌わせちゃあどうだ?」みたいな(笑)
H:(笑)
ゴ:そういうことらしいですけども、まぁ、プロデューサーのクリード・テイラー(Creed Taylor)が…
H:「これは当たるぞ」みたいなことだろうね。
ゴ:そうですね。
H:クリード・テイラーね。それで、ジョアンは落ち込んだのかな?そんなこともないの?
ゴ:いや、落ち込んだと思いますよ。
H:落ち込むよね。
ゴ:だってアルバムのほうではジョアンが歌って、アストラッドも歌って、というヴァージョンがあるのを、ジョアンの歌をカットしてアストラッドの歌でシングルに…(笑)
H:それは、心外だろうね。
ゴ:そうですね。一応、「ジョアン・ジルベルト&スタン・ゲッツ」みたいな。『Getz/Gilberto』っていうアルバムじゃないですか。
H:そうそうそう。そこにアストラッドが出てきちゃう(笑)
ゴ:シングルはアストラッド・ジルベルト名義なので…
H:これはやっぱり、アメリカのね、ポップス業界のなにかにやられちゃって…
ゴ:ねぇ(笑)どうだったんでしょうかね。
H:いやー、気持ちはわかるような気がする。だから、混乱しちゃうよ、その後、聴くと。『Getz/Gilberto』だとジョアンが歌ってるけどね。
ゴ:ですよね。
H:その頃の…あの難しい曲、なんだっけ?
ゴ:"P'ra Machucar Meu Coração"。
H:それそれ(笑)いまだに覚えられない(笑)それ聴こうかな。
ゴ:ぜひぜひ…細野さんの[カヴァーした音源]を聴くということ?
H:僕、持ってない(笑)…というか、ここにはない…お、ある?僕のを聴くの?
ゴ:いや、聴きましょうよ。
P'ra Machucar Meu Coração - 細野晴臣
(from 『Getz/Gilberto +50』)
H:やっぱりやめようよ(笑)
ゴ:これ、教授(坂本龍一)がピアノ弾いてる…
H:そうそうそう。すごいメンバー。
ゴ:すごいですね(笑)
H:じゃあ聴こうか(笑)サックスは清水くん。清水靖晃。
ゴ:そうですね。
H:恥ずかしいな…(笑)お邪魔だよ、これ。
ゴ:そんな…難しい歌ですよね。
H:難しかった。
H:いやいやいや、冷や汗ものだよ(笑)
ゴ:いやー、良いですね。
H:これはすごく原曲に忠実にやってますよね、みんな。演奏もね。
ゴ:そうですね。
H:原曲をかけるチャンスが無くなっちゃった(笑)
ゴ:とても素敵です、これ。
H:いやー、良い曲だなぁとは思いますけど…(笑)
ゴ:(笑)
H:これは難しかったなぁ、と思って。
H:でも、その後、クリスマスの…あれは"赤鼻のトナカイ(Rudolph the Red-Nosed Reindeer)"、やったよね?
ゴ:はい、細野さんに歌って頂いて…(笑)
H:あれはね、すごい好きなんだよ。あれは楽っていうか、気持ちよかった(笑)
ゴ:僕も好きですね(笑)
H:いいよね。あのときの弦アレンジとかすごいなぁ、と思ったんだよ。
ゴ:ホントですか?(笑)
H:うん、ちょっとアヴァンギャルドで。
ゴ:お恥ずかしい…(笑)
H:なんか、またやってほしいなと思うんだよね。
ゴ:あ、ホントですか?
H:うん。ホントホント。
ゴ:やっていいですか?(笑)
H:いいよいいよ!やってよ(笑)
ゴ:いやー、うれしいな、いろいろ…
H:やることはいっぱいあるよ。
ゴ:そうですね…いや、ちょっと、計画します。
H:ぜひぜひ。
ゴ:なに聴きます?
H:なに聴こうか。いや、聴きたい曲はいっぱいあるよ。でも長いんだよね。
ゴ:そうなんですよね。
H:えーと…なんかある?「これ聴いてほしい」。
ゴ:いやー、長いんですよね。
H:いいよ、長くたって。
ゴ:そうですね……なにがいいですか?
H:(笑)たとえば…かけたいのは僕、"Águas de Março"。「マルコ」でいいの?
ゴ:「アグアス・ジ・マルソ」?
H:「マルソ」だ。ポルトガル語、わかんないんだよな。
ゴ:これいきます?じゃあ。
H:いっちゃおうかな。
ゴ:"三月の水"?
H:そう、"三月の水"だ。
ゴ:5分24秒あります。
H:長いね…他の人のはみんな2分台なんだよな。
ゴ:そうなんですよね。やり始めると止まんないんですよね、この人。
H:止まんないんだね。んー…「マルソ」か。「マルコ」って読んでたよ、ずーっと。やんなっちゃう(笑)
ゴ:(笑)
H:読めない…(笑)
ゴ:まぁ、「マルコ」でも…(笑)
H:なんか…ポルトガル語とスペイン語って微妙に違うじゃない。
ゴ:そうですね。
H:スペイン語だと「フォアン」になるよね。「ジョアン」じゃないよね。
ゴ:そうですね。この「de」が「ジ」っていう発音に近いみたいで。
H:なるほどね。勉強しよう。じゃあ"Águas de Março"。これはアントニオ・カルロス・ジョビン(Antônio Carlos Jobim)の曲ですね。
ゴ:うん。
Águas de Março - João Gilberto
(from 『João Gilberto』)
H:この曲についてゴローくん、なにか思うことがあるの?
ゴ:いや、思うことというか…僕が勝手に思い馳せてることがあって。
H:聞きたい。
ゴ:ちょっと話すと長くなるので、掻い摘んで…(笑)
H:掻い摘んで。ぜひ。
ゴ:この曲の後半のところ、ハーモニーが変化して…いわゆるコーダ的なところがあるんですけども。実は、このレコーディングは、ジョビンよりジョアンのほうが先なんですよ。
H:え!それは知らなかった。
ゴ:そうなんですよ。でも、元々の…プロトタイプの"三月の水"っていうのがあって、それはブラジルでジョビンがレコーディングしてるんですよ。シングルのような形で。
H:知ってる、それは。
ゴ:本当の原型みたいな…
H:それは残って無いんじゃないの?あるの?
ゴ:一応、あるんですけども…当時、ダブルシングルというか、他のアーティストといっしょのシングルみたいのがあって。
H:なるほど。
ゴ:それがいちばん最初なんですけど、それ以降は…ジョアンのこのレコーディングのヴァージョンのほうが先なんですよね。
H:それは知らなかった。
ゴ:で、そのプロトタイプの"三月の水"にはコーダ的なハーモニーの変化はないんですよ。
H:もっとシンプルなわけね。
ゴ:だから、ジョアンがそれを…
H:作った?
ゴ:もしかしたら…
H:あー…
ゴ:ここはジョアンのアイディアなのではないか、という…かなり独りよがりな…(笑)
H:いやいやいや(笑)そういう話、好きだな。
ゴ:そうなんですよ。で、僕なんかは、もしかしたら、ジョアン・ジルベルトがジョビンに対して「こんなアレンジはどうだ?」っていうメッセージというか…
H:そうだよね。
ゴ:だったんではないかという、ものすごい仮定を…
H:ジョビンとジョアンっていうのはすごく親密なんでしょ?
ゴ:そうですね。ただ、本当に初期の頃…"イパネマの娘(The Girl From Ipanema)"、『Getz/Gilberto』以降は、交流ないんですよ、実は。
H:あ、そんなに前から?
ゴ:そうなんですよ。ただ、ジョアンはジョビンの曲をずっと取り上げていたわけですよね。新しい曲も。
H:そうだよね。
ゴ:なので、2人の間にはなんというか、音楽でのやり取りというか。
H:そうだよね。[実際には]会わなくても。
ゴ:あったので、ジョビンもジョアンのために曲を作ってただろうし、ジョアンもジョビンのメッセージをちゃんと…なんというかな、応える形でレコーディングをしていた、と。
H:すごい意識してただろうね、2人は。それはそうだと思うよ。
ゴ:なんていうのは僕の…さっきのDVDにちょっと書いたんですけどね。
H:うん、書いてあるね。みなさん、読んでくださいね。
ゴ:(笑)
H:これは貴重なものだからね、このDVDは。宝物ですよ。
ゴ:はい。
H:じゃあね、これも長い…"Izaura"。
ゴ:あ、いいですね。
H:すごい好きなんだよなぁ。いいですか、これで。
ゴ:はい。
H:じゃあ、これで最後かな?曲は。じゃあ、ジョアン・ジルベルトさん、安らかにお眠りください、ということで…いつか、またやりましょうね。
ゴ:ぜひ、お願いします。
H:伊藤ゴローさんでした。どうもありがとう。
ゴ:ありがとうございました。
Izaura - João Gilberto
(from 『João Gilberto』)
ゴ:実はこのパーカッションの秘密、というか。
H:秘密があるの?
ゴ:この話をするのを忘れた…(笑)なんか、[自分が]ブラジルに行ったときに奥さん、ミウシャ(Miúcha)に、これはなにを叩いてるんだ?って訊いたんですよ。ハイハットじゃないし。
H:じゃないんだよね。
ゴ:そしたら、「ザル」って。
H:ザル。
ゴ:要は、キッチンにあるカネ(鉄)のザルをブラシで叩いてる、と言ってたんですよ。
H:ほほう…おもしろいね。
ゴ:ザルだったんですよ…
H:ザルだったんだ。それはよくわかるわ。僕も灰皿叩くし(笑)
ゴ:いろんなもの叩きますよね(笑)この音出したくって、いろんなものを叩きましたよ。
H:あ、ホント?(笑)ザルは叩いた?
ゴ:ザルは叩かなかった。で、ブラジル人に訊いたら、電話帳もいいんだよ、と。
H:電話帳ね。あれも近いね。
ゴ:で、やってみたんですけど…
H:違う?
ゴ:ブラジルの電話帳じゃなきゃダメなのかなぁ、と。
H:(笑)
ゴ:タウンページじゃダメなのかなぁ、と…
H:そうか(笑)鉄のザルってなかなかないよなぁ。
ゴ:そうですね。当時なので、たぶん、鉄のザルのほうが主流…だよね?台所用品…
H:なるほど。うん、ちょうどいい音だよね。
ゴ:んー。とにかく息が長いですよね。
H:そうなの。それはかなわないね。
ゴ:ビックリするぐらい長いですよね。
H:すごい。すごい肺活量。
ゴ:一息でずーっと…ブレスしない…(笑)
H:これはできないよ。タバコ吸うし。
ゴ:(笑)