2019.01.20 Inter FM「Daisy Holiday!」より

 

daisy-holiday.sblo.jp


 (以下、すべてH:)

 こんばんは。細野晴臣です。えーと、1月も…半ばを過ぎて。2019年、どんな年になるんでしょうかね。きょうはひとりで…まあ、ぼちぼちやっていきたいと思いますが。ずっと紹介したくてできなかった音楽を聴きながらですね…話していきたいと思います。

 どんな音楽かっていうと…日本のバンドがいま、とてもおもしろくて。それもロック系ではなくてね。なんか、地方にいっぱい、そういうおもしろいグループがいるんですよね。その話をしながら…最初になにをかけるか。じゃあ、ジプシー・ヴァイブス(GPSY VIBS)というグループを紹介しますね。それでは、タワーという…『Tower -誕生-』というアルバムですね。それの中からGPSY VIBSで"花の野"。

 

花の野 - GPSY VIBS

 (from『Tower -誕生-』)
  
 

 GPSY VIBSで"花の野"。「花」と、それから野原の「野」ですね。GPSY VIBSは4人組で、浜松…だったと思うんですよね。静岡県を中心に活動しているという話で。ヴィブラフォンは女性なんですけど…ま、詳しいことはまだわかってないですね、僕は。印象的なこのメロディがとても気になったんで、ずっと…いつかかけようと思ってたんですけど。

www.gpsyvibs.com

 

 そもそも、こういう音楽をなんで知ったかというと、テレビ欄のいちばん端っこにある…東京のローカルなテレビ局、ありますよね。それの「ヒーリングタイム」という…ヒーリングタイム・ミュージック、かな?時々見ちゃうんですよ。街の風景とか猫とか、いろんな静かな画面…動画のところにニュースのテロップがダーッと流れてて、音楽がずーっと鳴ってて。その番組の選曲の人が、なかなかすごいんじゃないかと思うんですけど。それを聞いていつも聞き流す…聞き流してるはずが、「あれ?これ誰だろう?」って思うような音楽がかかるんですよ。で、このGPSY VIBSもそこで知ったんです。そしたら、おんなじようなことを星野源くんが言ってましたね。おんなじ…やっぱりGPSY VIBSだったか…そういうものをそこで聴いて、としゃべってました。あー、おんなじ感覚してるなぁ、と。あの番組はちょっと聴き逃せない、っていう感じになってきますね。

s.mxtv.jp

 

 で、その番組で知ったのが…京都のCloseness Ensemble Of Kyotoという。実は、残念ながらこの人たちの音源、手元にないんですね。配信がなかったっていうのもありますし。まあ、まだ詳しくはわからないんですけど。このグループはジャズ系なんですけど、とってもユニークなサウンドなんですね。非常にノーマルな編成ですけど、やってることがすごくおもしろい。そのうちまた、探してきてかけたいと思います。話だけになっちゃいましたけどね。

 

www.youtube.com

 

 えー…他にですね、ショーロ・クラブChoro Club)がかかって、これがまたよかったですね。画面にピッタリ…「環境」的な画面にかかるにはそういう音楽がピッタリっていう…思うに、東京にしろ地方にしろ、そういうインスト系のグループが実に地道に、しっかりと、おもしろい音楽を作り始めてる感じがありますね。次にかけるChoro Clubはもう20年以上のベテラン、ということなんですけど。これはですね…『ARIA The NATURAL』という、アニメなのかな。それのサウンドトラックの中の一つです。Choro Clubが参加してて…"夏の妖精"という音楽を聴いてください。

 

夏の妖精 - Choro Club feat. Senoo

(from 『ARIA The NATURAL Original Soundtrack due』)

 

 Choro Clubで"夏の妖精"という曲。「ショロ」というのは、C・H・O・R・Oで「チョロ」と書いて「ショロ」ですけど。ブラジルの伝統的な音楽の一つで、ショーロというのは複弦楽器、ギターのようなマンドリンのような、いま聴いてたような音色がショーロ…で、それ以上のことは僕、知らないんですけどね。すごく憧れる音楽の一つですね。その楽器をあんまり、見たことがないんですけど。わりとこういう、ブラジル系の、アコースティックなサウンドのグループとか、生ギター…アコースティックギターがフィーチャリングのバンドも多いわけですね。

www.choroclub.com

 

 で、ちなみに先ほどのGPSY VIBSっていうのはスペルがまた変わってまして。G・P・S・Y・V・I・B・S、ですね。一つずつ欠けてるんですね、母音が。元々はマヌーシュ的なバンドだったと思うんですけどね。ジャズの要素が強く入ってきたりして。大体そうですね。多くのそういう新しいグループも…いまのChoro Clubもそうですけど、ジャズとかブラジル音楽とか。そんなような影響が強いかもしれないですね。

 

 えーと、そういうわけで…もうこれでネタ切れなんですよ(笑)残念ながら。そのうちまた集めて、特集したいなと思います。とにかく、忘れないうちに知らせておきたかった、ということで。これは去年の9月くらいに聴いてた音楽ですね、いままでのは。

 

 その後、僕はソロアルバムの制作に没頭し始めて、ついこないだ完成しまして。まあいま、まだマスタリングのプロセスの段階なんですけどね。3月に出るということで…僕はヘトヘトなんです。こんなに没頭して、苦労したアルバムは初めてですから…(笑)この歳になってですね。この歳というのはつまり71歳、今年72になるんですね。おじいちゃんですね。それでアルバムタイトル、自分のソロですけど、『ホチョノ・ハウス(HOCHONO HOUSE)』ですよ。なんでこうなったかというと、あまりにも深刻に作り過ぎて。深刻っていうか、難しかったんでね。没頭し過ぎて。緊張感が強かったんですよね。それの反動ですね。「ホチョノ・ハウス、できたよ!」っていう感じです(笑)んー…緊張がほぐれるんですよ。これ、もしラジオかなんかで女子アナの方々がですよね、僕のアルバムを紹介してくれるとなるとですね、「ホチョノ・ハウスから…」っていうことになるわけですよね。それが楽しみだな。申し訳ないとは思うんですけど。

 

 では、ここでまたちょっと違うムードの音楽をかけたいと思います。これもずっと、去年からかけようかなと思ってたんですけどかからなかった、ケイト NV(Kate NV)という。これはモスクワに住んでる…ルックスがニュー・ウェイヴっぽい、綺麗なお姉さんですね。名前はケイト・シロノソヴァ(Kate Shilonosova)という。なかなか、モスクワ発の音楽っていうのは…聴くのが珍しいですけど。実は実験音楽とかテクノが盛んな街、らしいんですね。そのKate NVも、まあテクノ系というのかな。そういう音楽なんです。彼女と僕は一回すれ違ってるんですね、東京で。Red Bullかなんかのコンヴェンションに僕は出向いたんですけど、その聴衆のひとりだったということを後で聞きました。僕の『フィルハーモニー』とかを聴いてるっていうようなことを…記憶があるんですけどね。その彼女、Kate NVのソロが去年出て。『FOR』というアルバムですね。その中から1曲、"YOU"という曲ですね。

 

 вас YOU - Kate NV

(from 『для FOR』)

 

www.redbullmusicacademy.jp

 

 まあ、こんな感じの曲が全体に散りばめられていますが。Kate NV、"YOU"という曲でした。

 

 モスクワの音楽を紹介したからにはですね、是非ともセルゲイ・クリョーヒン(Sergey Kuryokhin, Серге́й Курёхин)という、とてもユニークな音楽家のことを紹介…しないわけにはいかないですね。去年の初めごろ、僕は『Vu Jà Dé』というアルバムの中で、"Retort"という、まあセルフカヴァーをやっていたんですけど。その歌詞の中に「メハニカ」というような言葉が出てきて、そうだったなぁ、と。「ビオメハニカ(biomekhanika)」という言葉にすごく僕は…1980年代に影響されてたなぁ、と、思い出してたんですが。それを紐解いていくと、ロシアのセルゲイ・クリョーヒンという人物にぶち当たったわけですね。

 で、「ビオメハニカ」っていうのは1920年代に考案された演劇的な理論のひとつで。モダニズムの中で…メカニックと生体、っていうのかな。「有機的な機械」というか。そんな動きの、新しい演劇論が沸き起こったわけですね。その流れが1980年代の旧ソ連で「ポップ・メハニカ(Pop Mekhanika)」という流れになって、その中心にいたのがこのセルゲイ・クリョーヒン、だったというわけですね。あらゆるジャンルの音楽を融合したような、とても実験的な音楽をいっぱい作ってて。自分もそうなんでしょうけど、掴みどころのない音楽家…ですが、とてもユニークで、存在感のある人ですね。全貌が掴めてないですけど。「ポップ・メハニカ」というのが今だに続いているのかどうか。まあ、いろんなジャンルの…音楽に限らない、演劇、映像、そういったアーティストが集まったムーヴメントのようですね。

 では、セルゲイ・クリョーヒンのアルバム、何枚か出てます。ほとんどロシア語表記なんですけど、読めないけど…あ、これは英語表記もついてて、『Mr. Designer』というアルバムかな、これは。その中から"Casket"という曲を、聴いてください。

 

 Casket - Sergey Kuryokhin

(from 『Mr. Designer』)

 

 というような、短い楽曲ですけど。"Casket"という、セルゲイ・クリョーヒンの作品です。この方はですね、1996年に亡くなっていまして、その前に2度ほど来日しているんですね。1996年には実は、日本の現代音楽作家の高橋悠治さんが主宰するアヴァンギャルドなコンサートに出る予定だった、らしいですね。ですから、そういう前衛的な舞台というか、ジャンルでは非常に注目を浴びていた音楽家なんですね。

musicircus.on.coocan.jp

 

 えー、それではここで息抜きに、軽い…軽いというのかな(笑)聴き馴染んだ音楽をかけてお別れしたいと思いますけど。これは車でラジオを聴いてたら突然かかって、なんだ、いいな、と思って調べて手に入れたものなんですが…"枯葉(Autumn Leaves)"という、まあ有名なスタンダードですね。"Autumn Leaves"をキャノンボール・アダレイCannonball Adderley)、サックスですね。が、演奏しています。では、それを聴きながら…これ長いんですね。11分ぐらいあるんで、かかるところまで聴いてください。お願いします。では、また来週。

 

Autumn Leaves - Cannonball Adderley