2020.11.29 Inter FM「Daisy Holiday!」より

 

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H:こんばんは、細野晴臣です。さて、きょうはですね…ホントひさしぶりですね。鈴木惣一朗くんです。

惣:あれ?細野さんじゃないですか。

H:なんだ、コントかい?これ(笑)

惣:まぁ、一生コントなんで…

H:あ、そうなの。何年ぶりかな?

惣:何年ぶりかな…なんつって、先々週でしたっけ?会いましたよね。

H:はい。

惣:六本木で…「ダブル・ファンタジー」展で会ってね。うわー、ジョン・レノンはこうだったんだ、と思って。感心してビックリしてたら…なんか、僕の横にいる人から「細野さんが来てるよ」って言われて。

H:うん。

惣:ジョン・レノンがぶっ飛んじゃった、っていう。

H:なんだそれ(笑)

惣:おー!細野さんのほうがめずらしいや!って…(笑)

H:いやー、しょっちょうそういうところ行くからね。

惣:そしたら…「ヨーコさん(オノ・ヨーコ)来てるの?」とか言って怖がってるから…

H:怖がっちゃあいないけどね(笑)

惣:相変わらずおもしろいなぁ、と思って。そのときに…思ったより柔和な雰囲気で。柔和ってわかります?

H:ますます柔和になってるよ。

惣:ますます柔和?ふにゃふにゃじゃないですか、じゃあ(笑)

H:そう。やわらかいよー。

惣:(笑)それで、元気そう…というか。

H:元気だよ。

惣:なんか安心したというか。取って付けたように言いますけど、毎日まいにち物騒で…

H:ね。煽るね、また。

惣:毎朝起きて、よーし、きょうは元気に明るくいくぞ、なんて思ったりするんですよ。これでも。

H:(笑)

惣:で、テレビつけるじゃない?見なきゃいいのに…

H:はい(笑)

惣:見なきゃいいのに見るわけ。昼の12時くらい。

H:あれはね…元気なくなるよね、たしかに。

惣:で、まぁそのー…「まぁそのー」ってちょっと田中角栄みたいになりましたけど(笑)

H:いや、角栄は「まぁこの…」って言うよ(笑)

惣:まぁこのー…

H:ぜんぜん声がダメ(笑)

惣:細野さん、モノマネ上手だったのに…どうしたんですか?

H:いやいや、ぜんぜん興味がないよ、いま(笑)

惣:柔和になったからね。

H:「なんてったって…」って言ってね。

惣:お、懐かしい。

H:ぜんぜん似てない。

惣:それは巨泉さん(大橋巨泉)ですか?

H:そうですそうです。

惣:そう、だからね…朝起きてニュースとか見ると、数字とか出てくるでしょ。

H:出てくるね。

惣:あれ…がんばろうかなと思ってたけど、半分くらいがんばろうかな、みたいな。

H:ずいぶん影響されるね。

惣:いやー、気が小さいもん。

H:気が小っちゃいんだね。

惣:(笑)

H:いや、僕だって…誰だって影響されてるんだよ、あれ。もう刷り込まれてるんだよみんな。僕もそうだけど。でも、抵抗してるんだよ。抵抗しないとやられちゃうから。

惣:どうやって抵抗するんですか?

H:違う情報を見つけるんだね。真実を。

惣:違う…真実?

H:うん、

惣:僕はね、最近…今度出した新作にも書いたんですけど、「事実と現実が違う」っていう言葉、細野さん知ってます?

H:いやー、知ってるか知ってないかわかんないけど、知ってるよ。

惣:字面は違いますよね、事実と現実って。

H:はいはい。

惣:事実っていうのはありのままで…目の前にあるでしょ?いまのパンデミックの…

H:うん。わかったよ、そのこと、昨日考えてたんだよ。

惣:気が合うね。

H:(笑)

惣:僕、それ書いたんですよ。アルバムに。

H:あ、そうなんだ。読んでなかった、それは。

惣:で、現実っていうのはそれぞれのパーソナリティというか。その人がどういう風に生きてきたかによって…「こういう風に見える」と。つまりそこはそれぞれ…100人いたら100通りの現実が。まぁ、歪んだ形で事実がある。

H:うん。

惣:でも、事実っていうのは…なんかヘンな、堅い言い方だけど、宇宙の目で見ると…100も1,000も10,000もあると。一つの事象に対して。

H:なるほど。

惣:でも人間はその無限のものを、頭の中で抱えきれないから…自分の持ってきた経験値とかそういうもので、「まぁこんな感じかな?」って「現実」にするわけですよ。でも、それはその時点でだいぶ歪んでるというか。それで僕はおびえているんだ、と思うんですね。

H:じゃあ、わかってるじゃない。

惣:いや、その理屈はわかってるんだけど、やっぱりね…理屈だけでは乗り越えられないというか。

H:これからはますます現実が歪んだ形で押し寄せてくるでしょ?波のように。

惣:そうですそうです。

H:コロナに関係なく、これから先はずっとそういう世界が続くわけだ。

惣:うん。

H:そのことを昨日考えてて。

惣:あ、そうですか。

H:で、仮想現実っていう言葉がある。

惣:はいはい、ヴァーチャル・リアリティ。

H:すごい古いじゃん、もう。

惣:うん、古い。

H:今は…ああいうパソコンの中とか、テクノロジーじゃないところでそういうことが行われてるから、報道を通したり。それをなんて言ったらいいんだろうなぁ、って考えてたわけ。

惣:あ、ネーミング得意なのに。

H:日本語で言うと「仮相(けそう)」だね。

惣:仮相?

H:うん。借り物の現実っていうような意味だよ。でも英語では難しいんで…やっぱり今の時代の象徴がマスクなんだよ。

惣:はい。

H:マスク(mask)っていうのは「隠す」っていう意味だよ。

惣:うん。マスキングですよね。

H:そうそうそう。だから「マスキング・リアリティ(Masking Reality)」。

惣:お、出ましたね。

H:出た。次のアルバムはそれだ(笑)

惣:「マスキング・リアリティ」、すごい(笑)前はタバコ吸ってたのにね。今度はマスキングですか。

H:タバコを吸いながらマスクしてる…(笑)

惣:やりにくいでしょ、それ(笑)

H:ちょっと失礼、タバコ吸わせて頂いて…

 

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惣:マスキング・リアリティね。MRですね。

H:そうだね。

惣:あー、でもわかるような気がしてきた。

H:だからね、3月11日の大震災。

惣:ええ。

H:あれは「現実」と「事実」が重なってる。ピッタリと。で、報道は逆にそれがなかったかのように…というのは言い過ぎだけど。放射線に関してね。

惣:いやー、うん、わかります。

H:それと今は逆なんだよね。

惣:同じ「目に見えないもの」なんだけど質が違うというか。音楽も本当は目に見えないもので…

H:うんうん。

惣:たぶん、音楽に携わる人が長けているものがあるとしたら、目に見えないものに対する対抗力…対抗力というか、慣れてるというか。普通の人よりも。

H:そうね。

惣:だって見えないんだもん、音楽は。それで一喜一憂してるでしょ?

H:そうだね。

惣:で、今も目に見えないもの…それが2011年のことと、2020年は質が違うと思います。2011年のときに細野さんと話をしている中で最も印象的だったことは、『陰翳礼讃』という谷崎潤一郎さんの本のことを教えてくれたんですよ。

H:ああ、そうか。

惣:で、僕は読んでなくて…10年経ちますけど、10年かけて読んでる。

H:読んでるんだ(笑)

惣:まだ読んでる。

H:まだ!すごい(笑)読み込むねぇ。

惣:共存、という言い方はちょっとアレですけど。光がやわらかい、トワイライトの色になっているとすれば、それもまた美しいという、という風に本当に思えるかどうか、というのが…

H:うん。

惣:つまり、今はとても明るいときではないので、斜がかかっているというか…僕はトランポリンの上でふわふわしているような日々の感じもするんですけども。でも、共存しているという感じがするんですよね。払いのけれない。

H:んー、なんとなくわかるね。

惣:それが僕にとっての『陰翳礼讃』の解釈。

H:そこはちょっとわからない(笑)

惣:すみません、あと10年ぐらい読みます(笑)

H:僕はあれ、1日しか読んでないけど…(笑)

惣:え!(笑)

H:(笑)

惣:なんだ…(笑)

H:一回読めば…自分に響いてくる言葉とか、もう、それで充分じゃん。読み込む、裏読みは必要ないんじゃないかな…(笑)

惣:細野さんはけっこう速読法ですよね。いろんな本読んでるのに。

H:まぁね…あんまり最近読んでないな。んー。

惣:僕、なんだっけな…京都でイベントの仕事があって、たまたまそれが終わった後、細野さんの部屋に行ったら、枕元に…

H:うん。

惣:細野さんがネイティブ(アメリカン)にかなりディープにはまってるときで、『死ぬにはいい日だ(Today is good day to die)』っていう本を読まれていて。

H:あー、あれね。うんうん。

惣:うわ、この人大丈夫かな…みたいな。

H:気が弱いね(笑)

惣:いやいや…その後それ読んだんですよ。そしたらそんなね、ネガティブな内容じゃなくて…

H:そらそうさ。ネガティブな本じゃないから。

惣:ひとつの覚悟というかね…なんて言うんですかね、生きる知恵というか。

H:北米インディアンのカルチャーを知ればね、いいことで。

惣:そうですよね。なるほど、なるべくこういう本を読もうかな、と思って…『夜と霧(Man’s Search For Meaning)』とか買ってきて。

H:ぜんぜん違う…(笑)

惣:あとレイチェル・カーソン(Rachel Carson)、『沈黙の春(Silent Spring)』。あれを買ってきて読んだり。

H:うん。

惣:これはよく細野さんと話をしてましたけど、2011年とか今回のパンデミックの前は、僕、パニック映画をよく観てたんですよね。

H:おんなじじゃん。

惣:そうそう、細野さんもよく観てるってね。劇場に観に行って、わーわーよろこんでたんですよ。隕石が飛んで来たり、地球にコアがあったり。

H:あの頃多かったんだよ、そういう映画が。

惣:それで、細野さん、怖くないですか?って。僕はおもしろいんですけど、そういうの。「怖いけど、準備してるんだよ」って言うわけ。

H:(笑)

惣:準備してる?なんですか?って。「いや、そういうことが起きたときのために準備してるんだよ」って…(笑)

H:そうそうそう(笑)いや、役に立ったよ、だって。

惣:そう、今役に立ってるでしょ?

H:うん、立ってる。

惣:立ってるから観なくなっちゃったの。『感染列島』とかさ。あるじゃない。

H:あー、なるほどね。あるね、いっぱい。感染ものもね。んー。

惣:ちょっとさ、そういうのを…サブスクリプションって言うんですか?で、いっぱいあるけど、それはちょっともう、観れなくなっちゃったわけ。

H:なるほど。

惣:で、観れなくなっちゃうと…2011年も僕、そうだったんですけど、チャップリン(Charlie Chaplin)とか、小津安二郎とか、ヒッチコックAlfred Hitchcock)とかを観はじめるというのが…

H:あー、そうなんだ。

惣:今年もまた同じ状態になって。

H:なるほどね。

惣:それは自分にとってなんなんだ?っていう…

H:バランス取ってるんだね。

惣:そう。なんか…確固たるものがそこにあって。その確固たるものを持てないから、日常で。

H:わかるわかる。あのね…芸能・文化・芸術っていうのは強い助けになる。

惣:礎というかね、助けになるでしょ?

H:うん。

惣:映画っていうのは、どんなお話かな?って思いながら観るときが楽しいですけど、音楽…というかアルバムといっしょで、何度も何度も同じ映画を観れるんですよね。

H:うんうん。

惣:例えば『ライムライト(Limelight)』とか。もうわかってるのに…

H:そうね。最初だけだよね、ストーリーを追うのは。

惣:うん。もう、アンビエントみたいなもんで…印象だけで自分の周りの空気をあっためてくれるから。

H:で、好きなシーンっていうのがあるんだよね。

惣:あるある。パンデミックになったときにいちばん最初にやったのが…『ツイン・ピークス・リターンズ(Twin Peaks: The Return)』のブルーレイボックスを買ってきて…

H:(笑)

惣:とにかく、これを観てる間は考えないようにしよう、と。

H:そっか。

惣:これはお笑い映画なんだな、と思って…(笑)

H:(笑)

惣:観直したらホントにお笑い映画で…ぜんぜん怖くないわけ。ビックリしないし。

H:たしかにね、そういうとこあるね。

惣:わりと、逆にほのぼのしちゃって。デヴィッド・リンチDavid Lynch)という人にほのぼのした。

H:なるほど。

惣:それはちょっと独特な感覚だな、みたいな。ぜんぜん怖くないんだなぁ、と思って。

 

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惣:あ、そうだ、この話をしたかった。いいですか?

H:どうぞ。

惣:自分の新譜の話はしませんけど、あんまり。

H:しようよ(笑)

惣:『ニーチェの馬(A torinói ló)』っていう、細野さんも好きな映画がありますよね。

H:うん。

惣:で、今度『サタンタンゴ(Sátántangó)』っていう8時間くらいある映画が…

H:それは、観れないんだよね。

惣:あ、ホント?

H:観たの?

惣:あのですね、劇場に行ったら終わってて…3回休憩があるっていうのね、長いから。

H:うん。

惣:で、今入ってるんですよ、サブスクに。

H:あ、観れるんだ。

惣:観ました(笑)何度も寝落ちして…

H:すごい…

惣:でもね…一つのシーンが出てくるとするでしょ?例えば女の子が森の中を歩き始めますよね。

H:うん。

惣:15分くらい続くの。なんにも起きないの。

H:(笑)

惣:普通、なんか起きますよね。で、一回寝るんですよ。それで起きるでしょ?

H:うん。

惣:そうすると、気持ちがいいわけ。

H:なるほど。

惣:なんて言うんですか?まどろみ?監督の発言にもあるんですけど、「それを体験してほしくて映画を作った」みたいな言い方もしてるんですけど。

H:んー。

惣:でもこの感じはたぶん…細野さんの音楽は怖くて気持ちがいい、って最初に思った…『泰安洋行』の感覚ですけど。聴いてるうちに寝ちゃうんですよね。

H:そうだろうね。

惣:気持ちがいいし…例えば『花に水』。

H:うんうん。

惣:細野さん、作りながら寝てたって言ってましたよね。

H:(笑)

惣:いつ作ってるんだ、っていう…エンジニアが横で寝てるっていうさ…スタジオには「無」なわけじゃん(笑)作ってる人が寝ててエンジニアも寝てて、どうやって『花に水』は出来たんだ、という…

H:不思議だよね(笑)

惣:最近は再評価されてますけど。眠たくなるっていうのは、だいたい…寝る前に本読んだりしますけど。

H:うんうん。

惣:だいたい気持ちがいいもので。

H:そうさ。

惣:そうするとすぐに細野さんの言葉を思い出して。「睡眠は失神だ」って。

H:そう(笑)

惣:失神してるんだ、と思って…だから寝床に入って寝ない、と。今はどうですか?

H:おんなじだよ。もう、何十年と続いてる。

惣:ソファーで寝てるって言ってて。今も?(笑)

H:うん。身体、壊れないね。

惣:すごいなぁ…

H:ベッドで寝ると足腰痛くなるけどね。背中とか。

惣:痛くなるんでしょ?それで「鈴木くんは布団で寝てるの?」って言われて、布団で寝てますよって。

H:(笑)

惣:しかもパジャマに着替えて寝てます、って言ったら、「パジャマなんて着たら緊張して寝れない」って言われて…(笑)

H:そう(笑)

惣:パジャマってリラックスするために着てるんだけど…緊張して寝れないかな、みたいなさ。

H:「さぁ寝よう!」と思って寝るわけでしょ?

惣:そうそう、入眠…入眠、いま大事じゃない?パンデミックになってから。

H:まぁね。

惣:だけど失神して寝るのがいちばん深く寝られるから、音楽聴いたり…

H:じゃああのさ…(笑)

惣:あ、ごめんなさい。

H:音楽聴こうよ、1曲でもいいから…(笑)

惣:あ、聴くの?しょうがないなぁ…(笑)

H:新譜出たんでしょ?

惣:新譜が出たんですよ。

H:出たばっかりね。

惣:『色彩音楽』っていうタイトル付けたんですけど。このモノクロームの世界に色彩のある音楽をお届けしたいな、という風に。地味なアルバムを…

H:すばらしい。

惣:聴いたんですか?

H:聴いたよ。映画音楽を聴いてるような感じだったね。

惣:お、うれしい。インストゥルメンタルを主体としてやってきたので…

H:歌ってるでしょ、でも。

惣:ごめんなさい(笑)

H:歌は…ちょっと良くなってない?

惣:あー、ありがとうございます(笑)おべんちゃらだとしてもうれしいです。

H:いやいやいや(笑)

惣:インストゥルメンタルを主体としてきたので、アンサンブルを作るのは比較的得意なほうだと思ってるんですけど。

H:うん。

惣:自分の声がそこに介入するのに抵抗感があったんですが…自分の声がそのサウンドの一部になれるのかな、ってずっと思ってて。そしたらですね、これは加齢なんだ、と。カレイってわかります?カレーじゃないですよ?

H:カレーライスじゃなくて?(笑)

惣:加える齢。

H:あー、加齢ね。

惣:声がね、やっぱりうちの父の声に自分がどんどん似てくるんですけど。

H:あるね、そういうこと。

惣:すごくサウンドに溶け込みやすい感じに思えたんですよ。

H:なるほど。

惣:そしたら歌うことに、少し積極的になれた。

H:よかったよかった。

惣:つまり…ギターも古いギターのほうがいいでしょ?

H:加齢ってね、そういう効果があるね。

惣:そう。加齢礼讃。

H:カレーライサン?

惣:そう、カレーライサンで…(笑)

H:鈴木くんが作ってる音楽は加齢気味だから…(笑)

惣:デビューしたときから加齢気味なんで…(笑)

H:そうそう、ちょうど合ってきたんだね、声が。

惣:まぁ細野さんも「おっさんのリズム」と若いときから言っているように…さっき茶色のおまんじゅうを食べてましたけど。

H:(笑)

惣:「茶色の音楽」っていう言い方を…細野さんは一時期使われていて。

H:そうだっけ?

惣:うん。だから「緑」ではないんですよね。茶色っていうのは枯葉だったり、土だったり。朽ち果てていく前のような音楽。

H:うんうん、そうね。

惣:それがある意味ザ・バンド(The Band)であり…

H:そうだね、ザ・バンドを思い出すね。若いうちから枯れた声出してたから。

惣:僕も十代のときにそういう音楽を聴いて、憧れるわけですよね。ところが、はっと気づけば61歳で。もはや…細野さんは73歳でしょ?

H:そう。

惣:61歳と73歳が話している、という現実が待ってるとは…1980年代のニュー・ウェイヴのときには思いませんでした(笑)

H:そりゃそうだな(笑)

惣:だから、長くやってみるもんだな、と思って。

H:うん。

惣:なーんて話してるから音楽がかけられなくなっちゃうんで、聴いてみますか?

H:聴こうよ。紹介して。

惣:じゃあ…World Standardで"世界の標準"を聴いてください。

 

 

世界の標準 - World Standard

(from『色彩音楽』) 

 

 

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惣:このアルバムは、実はコロナ前から作ってて…2019年の秋くらいからちょっとずつ作ってたんですよ。そしたら自粛期間ということで…途中で頓挫しまして。

H:うん。

惣:やる気もなくなっちゃって。止まってたんですけど、10曲くらいは出来てて。どうしようかな、みたいな。で、いろんなライヴの話が中止になったんですが、香川県で屋外ライヴをする話が来て。6月か、7月の頭だったと思うんですけど。

H:うんうん。

惣:僕はすごく怯えていて。怯えたときには細野さんにメールをするという。返事が来ようが来まいが。

H:(笑)

惣:そしたらすごい、ね…「大丈夫だよ」みたいな。「コロナに子守唄を聞かせるつもりで」…憶えてます?

H:そんなこと書いたの?

惣:そんないいことを書いてくれたんで…

H:ホント?ぜんぜん憶えてない(笑)

惣:それで行ったんですよ。で、ライヴは無事終わって。打ち上げがある、と。

H:抵抗あるね。

惣:3密どころか5密ぐらいあるわけ。そしたら…フォークシンガーの友部正人さんという人と一緒だったんですよ。

H:おお!それはめずらしい。

惣:あとサックスの梅津さん(梅津和時)とか。

H:いいメンツだね。

 

 

惣:すばらしいお2人で…そのときに、人生相談していいですか?って、友部さんに僕は相談したんです。

H:へぇ。

惣:今、アルバムがほぼ出来てるんですけど、発売を躊躇している、と。発売しても物流が動いているかわからないし、プロモーションもできないし…と。そしたら怒られまして。「鈴木くん、それは違うよ」と。

H:うん。

惣:アルバムには出すべき時期っていうのがあって。天命が。鈴木くんが決めることじゃないよ、と。出来てるんだったら出すべきだし…そのとき、伊賀(伊賀航)とかも参加してる、友部さんの新作も…「僕は出すよ」というわけ。

H:そう。

惣:実際友部さんの新作も出て。夏に。

H:うん。

 

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惣:で、東京に帰ってきて。11月だったら少し状況はよくなってるかな、という願いも込めて、11月28日という発売日を決めたんです。

H:なるほど。

惣:まぁ、それは僕が勝手に決めたんですけれども。

H:いいんだよ、勝手に決めて。

惣:まぁ、アルバムって出すと…細野さんもそうだけど、ライヴ・プロモーションしろ、って言われてきたでしょ?

H:そうね(笑)

惣:「ライヴできなきゃダメだよ」みたいな…それは誰のことを言ってるんだ(笑)

H:まぁ、なんかしらやんないといけないよね。

惣:だけど、できないなぁ、みたいな。じゃあ、内容を濃くする時間が用意されたんだな、と。作品のね。

H:うんうん。

惣:でも、アルバムはほぼ出来ている。出来ているんだけど…よーし、と思って。"ステラ"という曲を…

H:うん。

惣:この時期だから、追加録音したいな、と思って。

H:あ、追加録音したんだ、"ステラ"。

惣:うん。[アルバムは]もう出来てたんだけど…パンデミックの渦中に"ステラ"を録音したんですよ。

H:あー、そっか。

惣:で、細野さんにメールして。やっていいですか?って。「ぜひ」って言ってくれたので、録音して…

H:うん。

惣:なんとなく、自分の中でバラバラになっていたものが一つに…アルバムってできるタイミングがあるじゃないですか。つまり、放っておけばいつまでもやっているような気もするんだけど。その"ステラ"を録音したら、あ、出来たな、と。

H:完成したんだね。うん。

 

 

ステラ - World Standard

(from『色彩音楽』) 

 

 

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H:すごい眠くなってきたんで、そろそろ、じゃあ…(笑)

惣:あれ?よかったのかな?

H:いやいや、気持ちいい。ありがとう。

惣:結局、僕がいっぱい喋っちゃいました。

H:いやー、大幅にカットします(笑)

惣:(笑)

H:またね。

惣:はい、またお会いしましょう。

H:鈴木惣一朗くんでした。

 

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