2018.07.22 Inter FM「Daisy Holiday!」より
ライブラリーものという深淵がこちらを見つめている…
H:こんばんは。細野晴臣です。えー、久しぶりですね、岡田くん。
O:こんばんは、岡田崇、です。
H:変わんないね。
O:…でしょ?(笑)こないだまでは(鈴木)惣一朗さんがね、ずっと、3週間しゃべってたんで。
H:いっぱい、訊かれるよね。なんかいろいろね、うん。
O:すごかったですね。
H:まあその間僕はちょっと、イギリスに行ってたんですけどね。
O:おつかれさまでした。
H:いえいえ…
O:時差ボケが、まだ?
H:もう、ひどいね。何これ?これは病気だよね。
O:まあ、日本の気候が、また…
H:帰ってきてね、重いんだよ身体が。空気とか。
O:んー、やっぱ湿度が…
H:湿度の違いって大きいね。
O:ホントですよね。ロンドンはカラッカラですか?
H:もうカラッカラで、なんて言うんだろう…皮膚から水分が無くなっちゃう、みたいな。
O:(笑)
H:「気候が人間の性格を作る」って、よくわかるよ。だから。
O:日本はジメッと…
H:まあ、なんか、引力強い感じはあるね。
O:引力…
H:引力ってほら、各地で違うんだよね、多少。もちろん高山に行けば軽くなるし。たとえば音楽でもさ、音が地面に吸い込まれる感じしない?
O:あー…
H:日本で音作ってると、そう思う時があるんだよ。
O:なんか、あるのかもしれないですね。
H:で、はっぴいえんどの時、ロサンゼルスでレコーディングした時に…カラッカラじゃない、あそこ。音が飛んでくんだよね、まっすぐ、スピーカーから。「これ、引力弱いね」って(笑)
O:(笑)
H:思ってたんだ。うん。
O:でも影響はありますよね、絶対。
H:んー、あると思うんだ。
O:この湿度が…
H:参ったなあ。もうちょっといればよかったな、向こうに。
O:(笑)
H:えーと…いろいろ楽しいことはいっぱいあったよ。
O:そうですか。
H:うん…何があったかな、憶えてないけど。
O:(笑)
H:そうそう、お金落としたんだよね。
O:ええ…
H:まあ、小銭を替えて持ってたんだけど、足りなくなってまた両替して。1万円ぐらいかな…ごはん食べるのに現金で食べたりするんで。もうあまりにも歩いて、16,000歩ぐらい歩いて。
O:うんうん。
H:なんでかって言うと、ハロッズ (Harrods)に行ったんだよ。ものすごいね、あそこ。デパート。
O:でっかい、ですか?
H:迷路みたい。で、ピーターラビットのぬいぐるみ頼まれて…(笑)
O:(笑)
H:マジメだから僕は…
O:探しに行ったんですか(笑)
H:買ってかなきゃいけないと思って…あそこにしかないんだよ。そしたらもうブームは去ってて。
O:あー、映画がもう終わって…
H:店員に訊いてもわかんないんだよね。で、ベテランの女性店員に訊いたらやっとわかって。え、こんなとこに売ってんだ、って思って…で、本物のピーターラビットも置いてあるんだけど、それはマジメすぎてこわいのね。
O:あー。
H:漫画の、ぬいぐるみがおもしろいんだよね。胸押すとしゃべるし(笑)
O:(笑)
H:まあ、とにかく疲れて。その後タクシーに乗ってったら、タクシーにお金を落としちゃったのかな。
O:あら。
H:知らないまま、夜になってレストランに入って。美味しかったんだよ。あれ、お金…(笑)
O:(笑)
H:で、寄せ集めたらなんとか足りたの。
O:よかった…
H:足りなかったら一体どうするんだろう。あそこで僕働いて…
O:皿洗いから…(笑)
H:帰れなくなっちゃう…それもいいなあ。
O:(笑)
H:そんなことを話してると延々としゃべっちゃうんで、音楽聴かせてください。
O:じゃあ…最近イギリス製のライブラリーの10インチのレコードが何枚か届いたんですけれども、その中からエリック・ウィンストン(Eric Winstone)という楽団で、"Happy Hippo"です。
H:うん。やっぱり、いいよね。ハッピーもいいし、アンハッピーもいいですよね、音楽。えー…これ、イギリスのBBCのですかね?
H:ありますよね。
O:いいですよね。
O:『さらば青春の光(Quadrophenia)』の舞台、ですよね。
H:それもそうだ。それは観てないんですけどね…なかなか、最初着いた時に、なんかあの…街にやんちゃな若者がけっこうウロチョロと…リゾートだからしょうがないんだよね。車の運転が荒っぽくて、ププー!っておどかされたりしてね。印象悪かったの、最初は。ここは磁場が悪いな、って(笑)
O:(笑)
H:で、ヘンな塔が建ってるんで、そいつの所為じゃないか、って思ったりね。なんか磁場が狂ってる、みたいな。でも、土地にいる人たちはやっぱり素晴らしいよね。
O:うんうん。
H:なかなか住みやすそうな…まあ観光地ですけどね。海岸縁のテラスでタンゴのダンスやってたりね。いいんだよ、なかなか。日本には無いなこれは。
O:無いですね。
H:ああやって踊る習慣というのがね、西洋にはありますよね。
O:ね。日本だとパラパラとかになっちゃいますから。
H:やめてくれ…
O:(笑)
H:まあ盆踊りぐらいかね。
O:そうですね。
H:まあそんな中で。ブライトンで公演した後に、若者たちが、男の子たちがね、「ハローミ」って呼ぶわけ。
O:(笑)
H:20代中盤かな?
O:若いんですね。
O:まさか(笑)
H:まさかね…(笑)だから、そういう人も来てるんだ、って思って。で、彼らは"SPORTS MEN"っていう曲が好きで。
O:へえ。
H:自分たちの映像を作っててそれのバックに、昔作った"SPORTS MEN"を(BGMとして)使ってるんだよ。あれは歌詞がなんか…くるのかね?(笑)
O:(笑)
H:まあそんなようなこともあったりね。日本の人も居たし、イギリス人もいっぱい居たし。楽しかったな。また行きたいな。
O:みんな待ってるんじゃないですか、向こうで。
H:いや、もう飽きたんじゃないかな。1回観れば…
O:いやいや…(笑)
H:次は違うことやんないと。っていうかもう、変わり目なんですよ、僕。誕生日迎えた後。もう制作期間に入ってるんですよ、今、実は。
O:おおっ。
H:何にもやってないんですけど(笑)だって7月って大っ嫌いなんだよね、僕。悪いけど。7月に悪いな、ごめんなさい。すみません。
O:これからどんどん暑くなるし。
H:そう。学生時代は7月の誕生日の頃までずっと、期末試験だった…で、雨がいっぱい降ってたの、当時。まだ梅雨で。
O:梅雨ですもんね。
H:だから暑さと試験とで滅入ってたんですよね、7月は。その記憶があるんで。なんていう時に生まれたんだろう、と。夏に弱いんだよね、夏生まれが。
O:(笑)
Milky Way - John Baker
H:いい音ですよね。
O:ですね。
H:もうこういう音はあんまり出ないですね、今は。
O:んー。
H:なんかやりたくなるんだよなあ。
O:ぜし。
H:それで思い出したんですけど。
O:はい。
H:ブライトンだったか、ロンドンだったか…明和電機にいた人がね、あの、裏方でやってた人。電子部門みたいな人が来て。
O:はいはい。
H:えー、なんだ…レイモンド・スコットの使ってたあのシンセ、なんていうんだっけ?
O:シンセだと、クラヴィボックスですか?
H:それかな?
O:か、エレクトロニウムか。
H:どっちかだな。それを再現して作るみたいで。
O:んー。
H:それのプロジェクトをいまやってるんだ、って言って。なんかいろんな情報をくれて、小っちゃな電子楽器もらったりして。
O:へー。
H:一緒にね、DEVOの…
O:マーク・マザーズボー(Mark Mothersbaugh)。
H:が、参加してるみたい。
O:はいはい。マークのところに、エレクトロニウムは今、あるんで…
H:そうかそうか、それをまた、なんかやるのかしら。
O:ウンともスンとも鳴らないらしいです、モータウンで作ってたやつは。
H:鳴らないんだ(笑)じゃあそれを再現しようとしてるのかしらね。
O:んー…
H:あのね、その資料忘れちゃったの、きょう。今度ね。
O:今度…ぜし…楽しみに…
H:話は変わりますけど、こないだミシェル・ルグラン(Michel Legrand)が来てて。
O:はいはい、ブルーノートでしたっけ。
H:ブルーノートで、トリオでやってたんですよ。で、コメントを頼まれたんでちょっと書いたりしてね。その縁で観に行ったんですけど。初めて僕は観たんですよ。
O:あ、そうなんですね。
H:元気ですね。86歳だったかな…とにかく、まあ、僕よりおじいちゃんですけど、僕より元気ですね(笑)で、ピアノが上手い!
O:んー。
H:時々あの、暴走するけど、でも、すごい馴染んでるから。ピアニストなんだよね。非常にこなれてるというかね。でも、時々歌うんだよね。
O:あ、そうですか。おー。トリオでしたっけ、今回。
H:トリオだね。歌うとね…笑えるんだね、これが(笑)
O:(笑)
H:失礼ながら…おもしろかった。で、ほとんどジャズだよね。ジャズが好きだねー。で、"ロシュフォール"とか、ああいうヒット曲は最後に…タンゴでやったりね、いろんなスタイルでやってみせるっていう、ショウマン・シップがあるっていう。
O:んー。
H:その"Paris"っていう曲をかけたいんですよね。
O:あ、いいですね。
A Paris - Michel Legrand & His Orchestra
H:というわけで…ラジオでは毎朝、前半の口笛とミュゼットの部分しかかからないんですよ。後半がこんなになるとは知らなかった(笑)
O:大盛り上がりですね。
H:そうですね。えー………もう、話すこと無い、ですね…疲れちゃった。
O:そういえば昨日、家の玄関で物音がして。
H:おや。
O:なんだろうと思って…知らない人が、鍵をガチャガチャ、ずっと。1分以上やって。
H:それ酔っ払いでしょ。
O:おばちゃんがフロアを間違えたみたいで。
H:あ、そっか(笑)
O:1分以上ガチャガチャガチャガチャやってて、こわ…って思って。
H:出たの?それで。
O:いや、放って置いてたんです。そしたら「あー!」って。表札見ておどろいて、別のフロアに行きました(笑)
H:それはまあ、しょうがないよね。
O:何だろうって思って。
H:それは猫もそうだもん。マンションで飼ってる猫が玄関から出ちゃうじゃない、そうするとパニックになって帰れないわけ。
O:うんうん。
H:で、(玄関の見た目が)全部おんなじじゃない。違う階のおんなじ所に行って、なんか大変なことになってるっていうね。
O:(笑)
H:前、僕もそういう事あったよ。僕は鍵かけてなかったんだけど、若者が入ってきちゃったの。酔っ払って(笑)で、なかなか帰んないんだ。
O:え、帰んない?
H:なんか居座っちゃうんだよ。しょうがないから引っ張り出して、説教して、追い返したの。そしたら携帯を落としていって、後で届けたんだよ。
O:親切…(笑)
H:いや、ほんっとにね。守らないと、身を守んないと、何が起こるか…僕は1曲かけたんで、じゃあ、もう1曲かけるかな…何がある?そっちは。
O:あ、じゃあ、アンブローゾ・オーケストラ(Ambrose Orchestra)をかけようかな。
H:はいはい。
O:じゃあまたイギリスですけど、1936年の録音で、"Creole Lady"という曲です。
Creole Lady - Ambrose and His Orchestra
H:カリプソのリズムですね。
O:そうですね。
H:イギリスが続くね。
O:なんとなく…(細野さんが)ロンドン帰りだったので。
H:ありがとうございます。
O:(笑)
H:えーとね…じゃあロンドンの話をもうひとつ。
O:はい。
H:市内に公園があるでしょ。ハイドパーク(Hyde Park)って言われてて。ニューヨークとおんなじような名前の。
O:はいはい。
H:その中にケンジントン・ガーデン(Kensington Gardens)っていう、これがまたすごい広いんだけど。あの、大きな都市があの大きな公園があるってすごいなって思って。
O:うんうん。
H:そこにはね、カモやリスがいるという。で、リスが…かわいいんだよ。出てくんだよ。人慣れしてるのかね。
O:リスかわいいですよね。アメリカの公園とかにもよくいる。
H:でも、リスが恐い人もいるのね。エサを漁りに来たりする…でもかわいかった。で、そこをあるくと、もう延々と歩くんで、大変なことになるんだけど。
O:(笑)
H:まあ、緑が多いね、ロンドンは。ビックリしたね、改めて。何度も行ってるのに、初めてそう思った。で、なんか街がいいじゃん。地震が無い国なんで。レンガ造りで。
O:そうですね。
H:ああいうレンガ造りの古い…みんな煙突があるんだよね。
O:んー。
H:今は使ってないような感じだけどね。煙突がいいなあ、と思ってね。みんなおんなじような形の煙突で。あんな建物が1軒、東京にあるだけで「オッシャレ~♪」ということになるんだろうけど。
O:(笑)
H:全部があれだからね。やっぱり違うね、都市って。んー。
O:日本はどんどん変わっていっちゃいますからね。
H:だから日本の良さって、まだほら、混沌とした下町とかね、いいじゃん。ああいう所が観光客に人気あるじゃん。自分だって観光客気分で、ああいう所好きだからね。そういうの整理しちゃうと…
O:ねー。
H:魅力無くなっちゃうね、なんにも。んー。ツルンツルンの都市じゃあね。なんとかしてくださいよ、っていう。見てるしかないんだからね。
O:んー。
H:そんなわけで…東京つかれた、っていう特集でした。最後に1曲ね。じゃあ、東京じゃなきゃどこだ、っていうんで、さっきはパリかけましたけど、もう1回パリかけちゃおうかな(笑)
O:(笑)
H:フランシス・ルマルクのオリジナルで聴いてください、"A Paris"。それではまた来週~。
A Paris - Francis Lemarque