2018.05.13 Inter FM「Daisy Holiday!」より
記憶の記録・継承…個人的に最近もっとも関心のあるテーマであります。
そして、図らずも少しだけタイムリーな話題が…(おめでとうございます)。
H:こんばんは、細野晴臣です。えーと…今日はお二人見えてます。一人はおなじみ…
O:こんばんは、岡田崇です。
H:もうひと方、高校時代から…(笑)ずーっと、まあ、馴染みの深い人物。
野上:野上です。
H:写真家ですね。
野上:よろしく。
H:急に来て、急にラジオ出されて…
野上:そうなんだよ…ぜんぜん聞いてないのに、入れよ、みたいな。
H:まぁ同い年ですよ、珍しく。なかなか居ないんだよね、最近、周りに。みんなくたばっちゃったりね、してますよね。
野上:僕らはもうね、[残り]10年あるかないか、と。
H:そういうことだよね。今のうちだね。
野上:指も数えて、数えられちゃう、みたいな。
H:10年とは限んないけどね。5年かもしれないし、15年かもしれない。
野上:そうそう。
H:まあだいたいでも、そんな感じか。岡田くんは大丈夫かね。
O:なんとか10年くらいは…がんばります。
H:いっぱいレコード持ってるんだから、がんばってよ。
O:レコードの数で…(笑)
H:そうそう(笑)
O:いやー、いっぱい買おう、もっと。長生きするために…
H:そうですよね、うん。で、今日は野上くんはあれでしょうね、写真展があるんだよね。
野上:5月の19日から、このすぐ近く…白金のBIOTOP(ビオトープ)っていう…
H:BIOTOP、どこだっけな?
野上:洋服屋さん。で、やるんですけどね。
H:あー、なんか…一軒家の洋服屋さん?いいとこだよね。
野上:そうそう。3階建てぐらいの。
H:素晴らしい所だから、あそこ。
野上:メシも美味しいよね。3階がレストランだったと思う。
H:あ、そうだったんだっけ。へー。
O:あ、ご飯も食べられるんですか?
野上:うん、ご飯も食べられるとこ。
H:そこで…写真展の内容っていうのは?
野上:写真展は『BLUE』っていう題で、1968年から1972年までの写真ですね。だからはっぴいえんどとかも…
H:出てくるね。
野上:出て来ちゃいます。
H:それのなんか、相談があったんでしょ、今日?
野上:そうなんです。それで来たのに…(笑)
H:それで来たのにラジオ出てる、と。
野上:そうなんです。
H:じゃあここでちょっと、相談聞こうかな。
野上:なるほど…
O:「なるほど」?(笑)
H:いやいや、「なるほど」じゃなくて…相談、なに?
野上:(笑)
H:はっぴいえんどの写真使っていいか、ってことでしょ?
野上:そうですね、使っていいっすか?
H:いいよ!
一同:(笑)
H:なんの相談でもないよ、それ。簡単な話だ。
野上:よろしくお願いします。
H:えー…音楽、聴こうかな。岡田くんだね、担当は。
O:あ、はい、僕、今日は音楽担当ですよね。
H:そうです。
O:じゃあですね、ボー・ハンクス・セクステッド(The Beau Hunks Sextette)の…レイモンド・スコット(Raymond Scott)の"Penguin"を。
H:久しぶりだね、んー。
O:今度、5月の末ぐらいにですね、Li'l Daisyから…出すんですね。
H:Li'l Daisyから出る、という…これは、ね、なかなか出ないんですよね?
O:そうですね、もう廃盤なので。もったいないな、と思って。CD出させてよ、とバスタ(Basta)の方にお願いして…出ることになりました。
H:これはもう、素晴らしいことで。
O:日本語対訳つきで…
H:絶対買おっと。
O:では…
H:はい。
The Penguin - The Beau Hunks Sextette
(from『Celebration on the Planet Mars』)
H:いいですね、やっぱり。
O:いいですね、やっぱりね。あのー、クインテットの演奏って、レイモンド・スコット本人のもありますけど。
H:うん。
O:こういうクリアーな音ではなかなか聴けないので。
H:そうだよね、うんうん。
O:クインテット時代の曲を聴くにはやっぱ、この盤が…必要ですよね?(笑)
H:ボー・ハンクス、素晴らしいですね。うん。
O:ぜひ…(笑)
H:はい。Li'l Daisyから発売、ということで。
O:2タイトル同時に出ますので…
H:さて、えー、野上くんはずっとニュー・ヨークで生活してましたよね。
野上:そうですね。
H:それが…いつからこっちにまた戻って来たんだっけ?
野上:んーとね、2015年だから…2年半くらい前か。
O:結構経ってるんですね。
野上:経ちましたね。
H:どうですか、東京は。
野上:東京、ね。いいっすね。
H:ああ、いい?(笑)
野上:まあ…政治的にはいろいろ、あるんだろうけどね。いいっすね。
H:まあ住みやすいのかね、うん。
野上:でもね、2020年にまたニューヨーク戻ろうと思っててね。
H:あ、ホントに?オリンピックの年だね。観ないで?
野上:そう、観ないで。またニューヨークの写真を撮りに…行こうかなと思ってて。
H:ニューヨークはどういう感じなんだろう、いま。
野上:どんな感じなのかな…まあ毎年行ってるんですけどね、あんまり変わらないかな。
H:うんうん。
野上:物価がすごい高くなっちゃって…レストランとか、2000年くらいはだいたい40ドルぐらいで一人、結構いい物食えたんですけど、今はまぁ100ドルくらい用意しないと…
O:たっかい!(笑)
H:え?随分高くなったね。どうしちゃったんだろう。
野上:なんか急にね…
H:景気がいいってこと?
野上:そうなんじゃないかな。で、マンハッタンは特にそういう人たちが集まってて。
H:あー、なるほど…どうかな。うん。
野上:で、まあ今度2020年に行って、2,3年かけてまたニューヨークの写真撮って…そうするとね、「ニュー・ヨーク三部作」になるんですよ。
H:ああ、そっか。
野上:1980年代、それから2000年代、今度2020年代で…
H:なるほど。
野上:なんでも、「三部作」っていいじゃん。スターウォーズとかさ。
H:「四部作」だとちょっと多すぎるよね、うん。
野上:で、どうかな、と。
H:いいと思うよ、うーん。あと10年だからね、私ら。
野上:そうなの、10年以内にまとめるもんまとめとかないと…(笑)で、途中で死ぬのもカッコいいかな、みたいな。
H:いやー…いいよ、ぜんぜん。
一同:(笑)
H:最近、まあ音楽の話だけど、音楽界でリタイアが流行ってるじゃん。
野上:うんうん。
野上:おー。
H:いくつだったかな…その前はね…去年はアレサ・フランクリン(Aretha Franklin)が、やっぱり引退宣言して。
野上:うんうん。
H:それから…ツアーをやめたっていう人も結構ね。ポール・サイモン(Paul Simon)とか。あと、ヘビメタの…オジー・オズボーン(Ozzy Osbourne)とかね。まあいろいろみんなね、それぞれ「あと10年」って思ってるんでしょうね、うん。
野上:んー…
H:そういう時期になって…ステイプル・シンガーズ(The Staple Singers)の…お姉さんかな、これ。イヴォンヌ・ステイプル(Yvonne Staples)が亡くなったりね…あ、ベンチャーズ!ノーキー・エドワーズ(Nokie Edwards)が…今年だ、3月に亡くなったりして…どんどん20世紀が消えていくっていう、ことですかね。
野上:まあ…もう、どうせ死ぬんだから、ハデにやろうみたいな、ことはないのかな。
O:(笑)
H:あんまりないね、それ(笑)
野上:(笑)
H:まああの…どんな悪い人も、どんな良い人も死んじゃうんだね。
野上:そうだね。
H:どんな大金持ちも、貧乏な人も死んじゃうんだね、うん。
野上:なんか、どんな知識持っててもね無くなっちゃうんだよね、その人が死ぬと。
野上:うん、できたらね、ホントに…どんなにきれいな風景見てたって、それも消えて無くなっちゃうって。
H:野上くんの場合は、でも、写真に撮ってるからね。遺せるじゃん。
野上:そっか…
H:で、僕はまあ音楽作って遺してるって感じかな。で、岡田くんは…レコード集めて残ってるっていう…(笑)
O:…あれ?(笑)他人のレコードですけどね…
H:デザイン、デザインも大事。ね、ジャケットいろいろやってますよね。残りますよね、んー。あとボー・ハンクス出したりとかね。
O:そうですね。
H:んー。偉業っていうんですよね、そういうのをね。
O:偉業ですか…誰もやらないことを…(笑)
H:そう、変人というか…(笑)
野上:今度、その展覧会に写真集出すんですけど、それの表紙も[岡田くんに]やってもらいました。
H:あー、ほんと?
O:はい。
H:それはそれは…残るね、それもね。
H:じゃああの…音楽聴かして。
O:はい。じゃあ佐藤勝(Masaru Sato)の…
H:お、嬉しいね。
O:『殺人狂時代』というですね…チャップリンじゃないですよ?
H:日本の映画ね。それ知らないや。
O:日本の映画で…最近、4月にサントラが出たんですけど。
H:あ、ホントに?
O:その中から…メインタイトルを。
メインタイトル(DB2-M2 完成音)ー 映画『殺人狂時代』より - 佐藤勝
H:いいなあ…佐藤勝ってこういうこともやるんだね。
O:おお、って思って…
H:なんかやっぱり、この時代…何年の映画かな、1960年くらいかな…
O:1963年…?もうちょいかな?
H:仲代達矢[が主演]なんだね。
O:そうですね。
H:この映画は知らなかったね、んー。ヨーロッパの音楽みたいね、映画の。そういえば映画音楽、僕やってて。
O:『万引き家族』ですか。
H:そう。作る前は、この佐藤勝…尊敬すべき佐藤勝っていう人の音楽と…一方でイタリアのね、カルロ・ルスティケッリ(Carlo Rustichelli)の音楽が頭の中で一緒になってて…
野上:んー…
H:「そういう音楽を作ろう!」と思って張り切ってたら…ちょっとダメだったね、映画に合わなかった(笑)
O:(笑)
H:映画音楽、よかったね、1960年代。面白いな。カルロ・ルスティケッリ、ここに入ってるけど、聴きたいですね。
O:じゃあ…『ロゴパグ(Ro.Go.Pa.G.)』という…これも最近出たサントラですけど、その中から。
H:はい。
Pollo Ruspante - Carlo Rustichelli
H:いいね。カルロ・ルスティケッリ、時々…この時代かな、1960年代かなやっぱりこれ。
O:はい。
H:エレキ使うのが面白いんですよね。
O:いまのはロッセリーニ(Roberto Rossellini)とゴダール(Jean-Luc Godard)とパゾリーニ(Pier Paolo Pasolini)とグレゴレッティ(Ugo Gregoretti)の…4人監督のオムニバスですね。
H:ああそう。
O:その頭を取って"Ro.Go.Pa.G."っていうんですけど。
H:これはちょっと有名ですよね。
O:ロゴパグ。
H:野上くんはなに聴いてんの、最近。
野上:最近ね…俺もなんか古いの聴いてるね。
H:どこらへんの?
野上:ジャズで…ジューン・クリスティ(June Christy)とか…まあ、新しいのも聴いてるんだけど。作業してるとき一日かけてるから、色んなの聴いちゃう。
H:そうだろうね。
野上:そんで…その時代のも結構多いです。ペギー・リー(Peggy Lee)とか、聴いちゃうんだな。
H:聴いちゃうんだよね(笑)
野上:(笑)そう、あのね、高校の時大好きで、随分アルバム買ったんですよね。
H:ああそうだったんだ、んー。
野上:高校生になった時に、「高校生って大人になってきたな」って思って。中学時代はプレスリーとか聴いてたんだけど。
H:はいはい。
野上:なんか、「高校生になったんだから大人の音楽聴かなきゃいけない」、みたいな。
H:ああ、そうなんだ。
野上:それでペギー・リーとか、フランク・シナトラとか。そっちの方に行って。
H:なるほどね。でもすぐにあの、サイケデリックに行っちゃうけどね、時代的にね。
野上:そうなんですよ。そう、ビートルズが出てきて…
H:そうね、変わっちゃう。
野上:変わっちゃうね、ガラッと。
H:そのペギー・リーは…なんか、あるんでしょ?
O:じゃあ、ですね…"Sans Souci"という曲をかけます。
H:はい。
Sans Souci - Peggy Lee
H:さて…何にも話すことがもう無い。
一同:笑
H:ああそっか。
H:そうだよね。いちばんまあ、ピークっていうか、んー。
O:この1955年にペギー・リーがラジオ用に録音したトランスクリプション(Transcription)っていう、大きい16インチ盤を…ラジオ用の音源を集めたコンピレーションが最近出て。
H:じゃあなかなか、出てなかったやつなんだね。
O:そうですね。
H:最近そういうことがあるからいいよね。
O:そうですね、そういうのが出たり…まあ、さっきかけてたような映画音楽とかも最近いっぱい…
H:んー、ありがたい。
O:『甘い生活(La dolce vita)』とかも…映画のセッションからのCDが最近出たりとか…いろいろ出てますね最近。
H:はい、で…何かメッセージをひとつ(笑)
野上:メッセージね……んー…無いかなあ。
H:無いか…んー、無いな。
野上:そうだな、そろそろみんなまとめてこないとね…いけないね(笑)
H:そうだね(笑)
野上:まとめないと。
H:本当だよなあ…いやー、死んじゃうのか、って思っちゃうよね。
野上:自分がいなくなる世界がね、もうすぐなっちゃうから。
H:そう。捜しちゃうよみんなで。「野上どこ行った!」(笑)
野上:(笑)
H:昼寝してただけだったりね。
野上:(笑)
H:まあ、しょうがないわね、こういう世の中は。だんだん、日に日になんか、自分が空っぽになってくね、僕の場合、うん。
O:そうですか。
H:えー、なんだろうね…これはちょっと…加齢なのかな(笑)
野上:そうね。
H:こう、取り出せなくなってくる。脳内のメモリーを。ホントに物忘れがすごいから。
野上:すごくいっぱい入ってんだけどさ、なんかそれについて…なんか、どうでもいいっていうかさ。
H:そう、どうでもよくなってくる(笑)
野上:そうなんだよね(笑)
H:うん。いやー、どうでもいいこと多いわ…あ、でも、毎日ニュースは見てるんだけどね。でもどうでもいいと思いながら見てるんだけどね。どうなんだろう?日本はどうなる、大丈夫?
野上:僕に訊かないで。
H:そっか、んー…じゃあ、音楽聴いて…(笑)
O:(笑)何かけましょうか。
H:あのね、松宮庄一郎、この人はギタリストですよね。
H:なんか、そう、選曲がいいんだよね。
O:録音もいいですしね。
H:あの、ルスティケッリつながりで、「わらの男」("L'Uomo Di Paglia")聴きたいんですけどね、松宮庄一郎さん。
O:はい。
H:じゃあ、これを聴きながらですね。まあ、10年後にまた会いましょう、野上くん。
野上:わかりました(笑)
H:はい。では野上眞宏、岡田崇。ありがとうございました。
野上・O:ありがとうございました。