2018.06.03 Inter FM「Daisy Holiday!」より

万引き家族』特集 その2 前編(収録は4.18とのこと)

 

※『メゾン・ド・ヒミコ』のサントラ、めちゃくちゃいいですね…

 

daisy-holiday.sblo.jp


 
H:こんばんは、細野晴臣です。えー、いつもはなんか…ざっくりやってますけど、時々…はりつめたゲストが来ます(笑)時々ね。今回は、誰か、と…めずらしい方がいらっしゃってます。映画監督の是枝裕和さん。いらっしゃい。
 
是枝:どうも、おじゃまします。
 
H:はじめまして…というか、ラジオでははじめまして、ですね。
 
是枝:はい、よろしくお願いします。
 
H:で、通訳の…門間…下の名前がわからなくなっちゃった(笑)
 
門間:門間雄介と申します。
 
H:雄介さん、そうだ。通訳お願いしますね。
 
門間:ええ(笑)僕もおじゃまします。
 
H:それで、なんでこういう形になってるかというと、BRUTUSの取材を兼ねてますから、時々シャッター音が聞こえるかもしれないですね。はい。
 
門間:じゃあ…僕の方でちょっとお二人に伺いたいことをいろいろ、伺っていこうと思うんですけど…きょうお二人がお話しして頂くっていうのは是枝監督の新作『万引き家族』が間もなく公開されるということで。
 
H:そうね。
 
門間:で、細野さんが今回音楽を、担当されているということですけど。
 
是枝:はい。
 
門間:なんで是枝さんが、細野さんに音楽を…
 
H:それは僕も聴きたいんだよ(笑)
 
門間:気になりますよね、やっぱり。
 
是枝:そうですね…そうですか。不思議な組み合わせでした?
 
門間:細野さんは、その話を頂いた時っていうのは、ちょっと不思議な感じありました?
 
H:いや、不思議ではないですけどね。以前から周りの…僕の周囲のね、くるりの岸田くんとか、ハナレグミとかね。音楽的な人がやってるんだなと思ってね。そういう情報知ってましたから。別に不思議ではなかったですね。
 
門間:僕も…いや、むしろ、すごくいい組み合わせになるんじゃないのかなっていう風に、話だけ最初に伺った時には思ったんですけど。是枝さんはどういう理由で(細野さんに)お願いされたのかな、と。
 
是枝:あのね、何度か…「あ、細野さんにこれ頼めるといいかな」って思ったことは今までも何度かある。何度かあるんだけど何となく…そこまで辿りつかなかった、ですね、いろんな事情で、きっと。
 
H:うんうん。
 
是枝:それで、今回の話は…すごい、貧乏くさいって言うとアレですけど、貧しい街で暮らしている家族の話なんですけど。そこに映画が留まるのではなくて、何となくその先に少し…詩のようなものというか、寓話のようなものが立ち上がってきてほしいなという思いがあって。
 
H:うーん。
 
是枝:単純にリアリズムの中に沈んでいく話ではなくて…というのがあったもんですから。じゃあ、どういう色とどういう音を、いま自分が書いている脚本に加えていったら、それがより鮮明な形で生まれるだろうかと考えて。初めて組むカメラマン、近藤さんに頼んで…
 
門間:新しい、近藤龍人さんという方が。
 
H:うんうん。
 
是枝:で、細野さんの音の力をちょっと、お借りしたいという…そんな感じです。
 
門間:じゃあ、前々からどこかのタイミングでと、長年思われてたその念願がようやく叶ったということですかね。
 
是枝:あのね…そう。で、もう別の方で出来上がってるからあんまり言いにくいんだけどね、でも作って頂いたものも素晴らしかったから、別にそれに何の不満もないんだけどね。『空気人形』っていう映画を…
 
H:それだ。すごい好きだったんだよ、その映画。
 
是枝:こないだちょっとおじゃました時に細野さんからその映画のタイトルが出て、うわあ、と思ったんだけど。あの映画をやろうと思った時に最初に思い浮かんだのが細野さんだったの。
 
H:あ~、やりたかった…(笑)
 
是枝:そんなことがありまして。
 
門間:意外、でした。
 
H:あの『空気人形』っていうのはすごい思い入れがあるんですよ。なぜかって言うと、あのロケ現場の辺りに住んでたから。まったく同じ景色、いつも見てる景色が出てくるんで…
 
門間:あれロケどちらですか?
 
是枝:あれはですね…川の向こう側が月島で、その反対側なんですけど。
 
H:湊って言われている地帯ですね。もう今は無くなっちゃった。公園とかね。素晴らしい公園があったんだけど無くなっちゃって。
 
門間:あの風景、もう無いんですか。
 
是枝:無くなりました。
 
H:無いんですよ。だから貴重な風景が映ってますね。
 
門間:でも、『空気人形』がそういう風に細野さんと繋がってるっていうのも、ちょっとおもしろいですね。
 
H:それはね、そう思いましたよ。なんでここら辺で(ロケ地を)選んだんだろうとかいろいろ考えましたよ。いろいろ、ロケハンしたんですか、あれは。
 
是枝:しました。東京でどっかこう…なんだろうな、エアポケットじゃないけど、地上げが途中で止まっちゃってるような、そこだけ時間が止まっているっていう場所を探そうと思って。
 
H:ああおんなじだ。僕もそういうところを探してあそこに住んだんですけど…(笑)
 
門間:へえー。
 
H:今回の映画もあそこら辺に近いっていうか…まあちょっと違いますけど、川の方ですよね。
 
是枝:そうですね。今回のも、設定はだいぶ違いますけど、やっぱり周りをビルに囲まれて、そこの一か所だけ取り残されて人の目に触れなくなっている家を舞台にしようと思っていたので、そういう意味で言うとちょっと似てるところがあります。
 
H:うんうん。
 
門間:そうですよね。開発に取り残されて、1軒だけ家がポツンとあるっていう。
 
H:そうですね。花火のシーンがそれ、すごく印象的ですね。
 
是枝:はい。
 
 
 
門間:是枝さんは今回(細野さんに)お願いしたいって改めて思われて、こういう映画音楽を作るやり取りっていうのは…
 
H:これがなんかね、なんて言ったらいいんだろう、ひとりで悶々としてたんですよ(笑)なんでかって言うと是枝さん、パリに行っちゃって。
 
是枝:(笑)
 
H:「これ相談したいな」って時にはいなかったんで…まあ、勝手にやっちゃえって思って(笑)
 
門間:もともと是枝さんは、以前細野さんが作られた映画音楽も、映画を観ると同時に音楽も聴かれて、やっぱりそこで印象に残っているものがいろいろあった?
 
是枝:そうなんですよね。あの…きょうも自前のCD持ってきたんですけど。
 
H:あ、「銀河鉄道」だ。
 
是枝:これを劇場で観て…まあそれ最初は僕、宮沢賢治好きだったので、自分で花巻とか、大学時代に回ったりしていたこともあり、公開当時に観に行って。
 
H:んー、観たんですね。
 
是枝:はい、劇場で。それであまりに音楽が素晴らしくて、CDを買いまして…
 
H:そうですか(笑)
 
是枝:「映画音楽の細野さん」としては僕はこれが最初…
 
H:まあ、あんまりやってないですから。
 
是枝:これはでも、ホントに好きで。
 
H:特殊な仕事でしたけどね、僕にとっては。映画音楽って言うよりも…まあアニメーションそれ自体が音楽的なイメージなんで。いっぱい作りましたね、音楽。
 
是枝:音楽映画みたいな。
 
H:そうなんですよね。
 
門間:僕もリアルタイムで観てるはずなんですけど。まだ本当ちっちゃいころに、あの猫たちの絵と音楽とっていうのが、なんか見たことのないものとしてすごく焼き付けられたような記憶がありますね。
 
H:時々言われますよ。子供時代に観た…まあ男の子が多いですけど、刷り込まれてるみたいなね。そういう人もいるんですよね。
 
門間:1985年の作品のはずなので、YMOを一度休止…「散開」されて、その直後くらいですよね、時期的に言うと。
 
H:そうですね。
 
 
別離のテーマ(映画『銀河鉄道の夜』より) - 細野晴臣
 
 
H:それでね。(『万引き家族』の)ラッシュのフィルムを見せて頂いて、そこにガイドとしてね、僕のそういう…「銀河鉄道」とか「メゾン・ド・ヒミコ」とか、入ってたんですよね。「こんな感じで」って。
 
是枝:はい。
 
H:それを聴いちゃうとね…結構できないんですよね(笑)
 
是枝:そう、それね、いつも悩むんですよ。結構もう、お願いするのが決まると、脚本書いてる時も曲をかけながら脚本書くんで…
 
H:やっぱりね。うん。
 
是枝:で、そのイメージで編集に仮当てをするんですけど。「当てたものを聴かせてください」っていう音楽家の方と、「(音楽を)外したものだけくれればいいです」っていう方と分かれるので、両方作るんですけど。
 
H:あー、わかるわかる。
 
是枝:くるりの岸田くんなんかは「入ってないものだけもらえれば」っていうタイプでしたし。ゴンチチさんとかは「当ててもらったものを見せて頂いた方が参考になるので」って言って、当てたものをお見せしたら「このままでいいんじゃないの?」っていう(笑)
 
H:そうそう、僕もそう思っちゃった(笑)
 
是枝:すごい、ちょっと困るので…難しいところなんですこれ、たぶん。作られるほうも、もちろん難しいんだろうなって思いながら。
 
H:他人の曲じゃなくて自分の曲っていうところが…ちょっとね、混乱するんですよね(笑)
 
是枝:わかります…
 
H:で、自分がつくったものだけど、そういう風にはまた作れないな、って思ったんですよね。昔の自分といまやっぱり、ちょっと違っちゃってるんだなといろいろ考えさせられて。勉強になりましたね。
 
是枝:それは音楽に対する自分の興味とか、そういうものがどんどんどんどん変化していくっていうことですか?
 
H:そうですね。さすがに何十年も経ってますから。「銀河鉄道」からね。
 
是枝:はい。
 
H:だから、あの頃できたことは今できない、ですよね。色んな意味がありますよ。使ってる音源とか、システムが違いますから。ああいう音、音自体がいま、再現性がないんですよね。
 
是枝:んー。
 
H:だから、(ガイドの音楽を)このまま使えればな、なんて思いましたよ(笑)
 
門間:いまのお話で言うと『銀河鉄道の夜』と『メゾン・ド・ヒミコ』という名前も挙がりました。『メゾン・ド・ヒミコ』も細野さんが映画音楽を作られている作品ですけど。
 
是枝:素晴らしい。
 
H:でもね僕はね、実はコンプレックスがあって。音楽作り過ぎちゃうから、ミュージシャンなんでね。職業映画音楽作家だったらツボを心得ているでしょうけど。で、それは『メゾン・ド・ヒミコ』の時には考えながらやったんですけど、それでもまだ過剰な感じがしててね。で、抜いて、メロディーとかもう無い方がいいな、と。最近の映画は特にメロディーが無いですよね。コードの、和音の形でみせていくという。そういう職業的なあこがれもあるんですよね、映画音楽って。だから作り過ぎちゃったなっていうのはありますよね、かつては。
 
 
テーマ(映画『メゾン・ド・ヒミコ』より) - 細野晴臣
 
 
H:で、『メゾン・ド・ヒミコ』の時、試写会に行った時に、山田洋次さんが観に来てて。ひと言ね、近くでしゃべってるのを聞いて。「音楽が、いいよね。」って言ってたんだけど、それは僕には皮肉に聞こえて、いたたまれなくて…(笑)なんかね、音楽のことは憶えてなくていいんですよね。僕はそう思うんですよ、最近。だから、今回観てて。
 
是枝:はい。
 
H:(是枝監督に)お会いした時、観終わった時に「理想的だ」って僕言いましたけど、そういう意味なんですよね。
 
是枝:なるほど。
 
H:なんかこう…出過ぎてないし。なんかすごい安心する(笑)
 
是枝:よかったです(笑)
 
H:はい、よかった(笑)
 
是枝:最初、ラッシュを観て頂いた時に「ドキュメンタリーを観ているみたいな感じがするから、そんなに音楽は主張しなくてもいいんじゃないかな」って言って頂いて。
 
H:そうなんだよ。
 
是枝:それはとても、映像の作り手としてうれしいです。
 
H:まあ、まったく(音楽が)無くても観れる映画ですからね。
 
門間:うんうん。
 
H:いやー、なんだろうあのドキュメンタリー感は。不思議な映画ですよ。
 
 
 あの、ちょっといいですか?会話が素晴らしいんですよね。
 
是枝:ありがとうございます。
 
H:あれは演技指導っていうのはあるんですか?
 
是枝:演技指導…
 
H:放置してるんですか?
 
是枝:いや、脚本を書いてはいるんですけど…ただもう、役者が上手いんですね。
 
H:役者さんの力なんですね。
 
是枝:役者の力が大きいですね。やっぱり今回、安藤サクラさんを初めて撮りましたけど。
 
H:すごいですよね。
 
是枝:僕、自分で(脚本を)書いてるとは思えなくなりました、途中で。彼女の口から出て来た時に…すごく、色んなものにまぶされて、台詞が台詞としては、書いたものとしては立ってこない感じ…
 
H:台詞…だから、日常会話がスムーズに運んでいくわけでしょう。
 
是枝:そうですね。
 
H:で、(樹木)希林さんが和菓子買ってきてリリー(フランキー)さんに渡す時とか、「何だこれ?」とかね。そういうのって日常にはあるけど、映画には無いですよね。
 
是枝:なるほど…
 
H:それがおもしろくて。なんだろうこの自然さは、と。で、リリーさんがなんか…ベテラン俳優ですね(笑)
 
門間:リリーさんは是枝さんの作品では4回目、ですよね?
 
是枝:かな?
 
H:常連ですね、もう。
 
門間:もう常連、ということですよね。だから是枝さんの作品に、特に最近はリリーさんが…居ないとおかしいんじゃないかなって思っちゃうぐらい、一つのものとして感じたりもしています。
 
是枝:リリーさん自体もとてもいいと思うけど、子供の転がし方って言うんですか?は、僕ほとんどリリーさんを信頼してお任せしてるぐらいな感じ。だから、僕が子供からこういう表情欲しいなっていう時には完全にそれをわかってくれて、カメラが子供に向いている時にリリーさんがどういう話しかけ方をしたら(子供が)どう反応してくれるかみたいなことは、完全に演出寄りでやってくれてるから、すごい助かるんですね。一人そういう人がいてくれると。
 
門間:心強いですよね。
 
是枝:心強いです。
 
門間:細野さん、リリーさんとは面識もおありで…
 
H:ずいぶん昔にトークショーで一緒になったことがあって。その頃は、あの人の本職がなんだかよくわからない(笑)イラストも描くでしょ。色んな事やられて…でも話がおもしろくておもしろくて、その印象が強かったんですよ。で、そのうちに、その…ああいう名前だしね。俳優さんになるとは思わなかったんですよね。
 
是枝:いまだいぶ俳優さんの色が強くなっちゃってね。
 
門間:役者さんのお仕事多いですもんね。でもご本人は「役者さんですよね?」って訊くと「そうじゃないんだ」っていう仰り方はしますよね。
 
H:だろうな。
 
門間:(細野さんが今回の映画について)「すごく自然だ」って言うのはきっと、是枝さんは役者さんのおかげだって言ってましたけど、是枝さんのシナリオの書き方が独特だからなんじゃないのかなって思うところもあって。何度も何度も…何段階も書き換えていくじゃないですか。改稿を何度も続けていって。突然新しく付け加えるところもあったりとかして。それでどんどん、役者さんにフィットしたものにしてるのかな、っていう気もするんですけどね。
 
是枝:うんうん。
 
 
 
門間:役者さんはリリーさんをはじめ皆さんよかったですけど、子供たちもそうですし。細野さん、さっきも樹木さんのシーンのこと仰ってましたけど、樹木さんもよかったですよね。
 
H:あのね…見れば見るほど自分にそっくりで(笑)
 
是枝・門間:(笑)
 
H:なんかね、親しみがあるんですよ。
 
是枝:ずっとプロデューサーがね、「なんとかして2ショットが撮りたい」って言ってて(笑)ちょっと実現してないんですよね、今回ね。
 
H:そうなんですよ、会えてないんですよ。
 
門間:あ、それでこの間、細野さんが試写にいらした時に会えるか会えないかっていうところで、結局会えなかったという。
 
H:そうなんですよね。一度ロケの現場に足を運ぼうと思ったんですけど、まあちょっとタイミングが合わなかったんですよね。そこで希林さんと会えるかなと思ってたんですけど。希林さんからそういうメッセージを頂いたりして…なんか、希林さんも双子だと思ってるみたい(笑)ヨーダとか言われたり、いろいろ…
 
門間:希林さんも是枝作品の常連ですしね。
 
是枝:そうですよね、長いね。
 
 
H:まあそんなこんなで、2週目が控えてますので、ここら辺でちょっと一回締めていいですかね。
 
門間:はい。
 
H:はい。じゃあまた来週、お願いします。
 
是枝:よろしくお願いします。
 
 
 バス(映画『メゾン・ド・ヒミコ』より) - 細野晴臣