2019.09.22 Inter FM「Daisy Holiday!」より
Hal Herzon Septetの "Colonial Portrait"、葬式で流してください。
H:こんばんは。細野晴臣です。えーと、きょうはですね…ひさしぶりに岡田くん、よろしくね。
O:こんばんは、岡田崇です。
H:なんか、溜まってるよね。
O:溜まってますかね、ちょこちょこは。
H:えー、ひさしぶりだな。ずっと「恐るべき十代」が来てたから…(笑)
O:圧倒されますよね、十代に(笑)
H:なんか、挑まれてる感じするよね(笑)
O:詳しいんだもん(笑)
H:勝った/負けた、みたいなこと言われたり…(笑)
O:(笑)
H:んー。じゃあね、なにが溜まってるのか、ちょっと教えて。
O:じゃあですね…前にもかけてる、ハル・ハーゾン(Hal Herzon)。
H:あー、はい、そうだ。それ。
O:誰も知らない…(笑)
H:誰も知らないよね(笑)
O:ハル・ハーゾン…前にかけたりしてたのは、16インチの大きいレコード…トランスクリプション盤っていうやつだったんですけど、1枚だけSP盤3枚組で出てるんですよ。それをずーっと探してたんですけど。
H:よく見つけたね、そんなの(笑)
O:ようやく、あった……
H:どこに落ちてるんだ、そういうの?(笑)
O:コネチカットにありました(笑)まあ、オークションですけど。
H:待ってれば出てくるんだね、じゃあ。
O:待ってたら出てきましたね。6ドル99セント[約750円]。
H:高くないね。
O:もう、誰か[高値を]付けたらヤバい、と思ったんで…
H:そうかそうか。そーっとね。
O:あの、8万円ぐらいまで付けたんですよ、僕。
H:…え?それがなんで6ドルなの?
O:いや、僕しか付けなかったんで、いちばん最低価格で…(笑)
H:じゃあよかったね、ラッキーだね。それはお宝だね。
O:送料が40ドル[約4,300円]ぐらいかかって…で、なんか混載便で発送されちゃって…
H:混載便ってなに?
O:混載便って…直行でうちに来なくて、アメリカの都市を転々とするんですよ。
H:へぇ。
O: 料金が安い代わりに…そのsellerの人は9ドルくらいしか送料払ってなくて。残りはe-bayっていうオークション会社の運送会社に入るんですけど。
H:なるほど。
O:もう、SPが割れないかどうか、ドキドキドキドキ…(笑)
H:それはそれは(笑)
O:あとですね、コネチカットからニュージャージーに行って、オハイオに行ってケンタッキーに行って、ルイジアナに行って、アラスカに行って成田に着いたっていうね(笑)
H:旅だね(笑)おもしろい。
O:割れずに…(笑)
H:割れなかったね。よかったよかった。では、聴かしてください。
O:じゃあ、その中から"Robot"を。モートン・グールド(Morton Gould)の曲です。
Robot - Hal Herzon Septet
(from 『Morton Gould's Musical Fantasies』)
H:いやいやいや、おもしろい…おもしろいわ(笑)
O:前のやつよりもテンポがけっこう、遅くなってますけどね。
H:そっかそっか。他のなににも似てないね、誰にも。レイモンド・スコット(Raymond Scott)を引合いに出せば。
O:そうですね。レイモンド・スコット・クインテットは1930年代には終わってますけど、40年代にも続いてたらこんな感じになったかもね、と。
H:ちょっとフューチャリズモっていうか、未来形のね。"Robot"ね。んー、おもしろい。こういう音楽は当時、どうなってたわけ?これは出たんだよね、SP盤でね。
O:これは出ました。
H:で、誰が聴いてたんだろうね?(笑)
O:ううう…(笑)
H:岡田くんみたいな人がいたんだろうね、当時。
O:いたんじゃないですか?やっぱり、レイモンド・スコットは相当売れたんで、当時は。
H:あー、そっか。
O:こういうのを聴く土壌っていうのは、少しはあったんじゃないですかね。
H:んー。まあでも、初めて聴くよね。
O:ようやく買えた…(笑)
H:ホントに、残ってないよね。
O:残ってないですね。僕、見つけた時に、Googleで検索して3,4件しか出てこなかったんで。
H:世界広しと言えどもたった3,4件?
O:亡くなったときの記事が出てきたぐらいですね。
O:で、すぐ、ニュー・ヨークのアーウィン・チューシッド(Irwin Chusid)っていう、レイモンド・スコット・アーカイヴの人に音源を送って。見つけたよ、と。すっごい盛り上がって…(笑)
H:向こうがビックリしたっていうね。
O:バスタ(Basta)とか、ボー・ハンクス(Beau Hunks)とか、あの辺のメンバーにもC.C.で…バーッと話が広がって…(笑)
H:あ、そう(笑)
O:あー、こういう感じでレイモンド・スコットもみんなで共有していったんだろうなぁ、と思って。
H:そうだろうね。じゃあ、発見者だね、岡田くんはね。
O:まぁ、そうですね…
H:考古学的に言うと。
O:[ハル・ハーゾンの]息子さんを見つけて。コンタクトを取りましたけど、お父さんの音楽は聴いたことない、と…(笑)
H:ヒエー。よくあるパターンだよ(笑)
O:なんかもう、50年代で音楽を辞めちゃってたんで…
H:じゃあさ、もう一度…ハル・ハーゾンという人のプロフィールをここで。
O:プロフィールがですね…あんまり、まだわからないんですよ。
H:んー。
O:まぁ、30年代については…チャーリー・バーネット(Charlie Barnet)の楽団だとか。
H:ビッグバンドだ。
O:ビッグバンドでいろいろ…アルトサックスとクラリネットですね、を、やっていて。40年代になって、仕事を求めてハリウッドに行って。
H:んー。[それまでは]ニュー・ヨークにいたのかな?
O:ニュー・ヨークですね。で、ハリウッドで自分のスタジオを作って、そこでこういう楽団…自分のオーケストラを持って。
H:なるほど。
O:映画音楽関係もやっていたでしょうし。
H:うんうんうん。
O:で、やっていたんだけれども、まぁ、いろいろ…ウェストコースト・ジャズだとか、ロックンロールだとか。そういうのが出てきて、音楽の道はもう無い、と思って…
H:絶望しちゃったんだ。
O:で、そのままハリウッドに残って、タレント…ジェームズ・コバーン(James Coburn III)のマネージャーとかをやるんですよ。
H:へぇ!そうなんだ(笑)
O:その、僕がコンタクトを取った息子さんは、お父さんは「芸能プロダクションの人」…
H:だと思ってるわけね(笑)
O:昔の話で、音楽をやってた、っていうのは聞いたことはあるけど、[音源を]聴いたことはない、と。
H:ヒエー…
O:で、納屋を探してもらって(笑)いろいろ、写真とか、モートン・グールドからの手紙とか。
H:じゃあ、そういう人をなんで…日本列島の島国にいる岡田くんが見つけたんだ?(笑)
O:(笑)まぁ、不思議でしょうね。
H:不思議だよ(笑)どこで見つけたんだっけ、最初。
O:最初はオークションのリストで…レジナルド・フォーサイス(Reginald Foresythe)の曲をやってたんですよ。
H:…まずはレジナルド・フォーサイスの説明を(笑)
O:レジナルド・フォーサイスっていうのは…1933年ぐらいに、レイモンド・スコットに先がけてあの手の音楽をやってた人ですね。
H:あの手の、ね(笑)ノヴェルティ・ミュージックっていうね。
O:イギリスの人ですけど、その人もすーごいおもしろくて。その曲を何曲かやっていたので、これは!と思って。
H:あー、カヴァーしてたんだね。
O:はい。それで買ったら…すごかった(笑)
H:あ、そう(笑)それは売ってるんだね。
O:それは…まぁ、あんまり買えないですね。16インチの[トランスクリプション盤]…
H:もちろんCDなんかには…
O:なってないですね。CDにしよう、と思っていますが。
H:いいね!うん。すごいや。何曲か聴けるの?
O:あ、もう1曲聴きましょうか。じゃあ、そのSP盤から"Colonial Portrait"。
H:この曲がラジオでかかるの、初めてじゃない?世界で(笑)
O:おそらく(笑)
Colonial Portrait - Hal Herzon Septet
(from 『Morton Gould's Musical Fantasies』)
H:若干、ちょっと…レイモンド・スコットっぽいところがあったな(笑)
O:(笑)
H:でも、ジャズじゃないんだよな。ぜんぜん。
O:ジャズじゃないですね…ま、曲は全部、今回のはモートン・グールドなんで…
H:そのモートン・グールドっていう人がキーパーソンだよね。要するに、ハル・ハーゾンを見つけた、っていうか…なんだろう。
O:えーと、ハル・ハーゾンを見つけた人自体は、アーヴィング・ミルズ(Irving Mills)なんですよ。
H:そうだ。アーヴィング・ミルズ、よく出てくるよ、その人。
O:で、アーヴィング・ミルズのところ…ミルズ・ミュージック(Mills Music)と契約をして、このレコーディングをしてるんです。
H:そうなんだ。
O:で、モートン・グールドの著作権管理はミルズ・ミュージックがやってる。
H:あ、そういう関係なんだね。や、モートン・グールドってムード音楽でよく出てくる名前だったんだよね、昔。
O:そうですね。この辺の音楽を作ってた、っていうのはほとんど知られてないんじゃないですかね。
H:知らないよ。
O:まだ…有名なものの中で唯一、雰囲気が残ってるのは"Pavanne"じゃないですかね。あれはモートン・グールドなんで。
H:あ、そう。
O:まぁ、ちょっと片鱗がある…かな?
H:で、レジナルド・フォーサイス。
O:レジナルド・フォーサイスそのものの[音源]は、いまちょっと手元になかったんですけど、マリオ・ブラジオッティ(Mario Braggiotti)っていうピアニストがいて、その人がやってるレジナルド・フォーサイスの曲が…
H:聴いていい?
O:それを聴いてみましょうか。"Revolt of the Yes Man"という曲ですね。
Revolt of the Yes Man - Mario Braggiotti and his orchestra
H:すばらしい…なんだこれ(笑)
O:(笑)
H:このジャンルはいまはもう、無いね(笑)
O:無いですね。
H:どこ行っちゃったんだろう(笑)
O:誰もやってないですね(笑)
H:とにかくこの時代…30年代・40年代の音楽家たちはみんなこういうの好きだよね。みんなやってたよね。どこ行っちゃったんだろう(笑)
O:(笑)廃れちゃったんですね。
H:不思議だよなぁ…後を継がないといけないんじゃないの?(笑)
O:(笑)
H:まぁ、ブギウギもそうだけどね。誰も後を継ぐ人がいない音楽…いやー、そうこうしてると、隣にあの「恐るべき十代」が座ってるね、いつの間にか(笑)音くん(福原音)だ。
音:おじゃましてます…
H:いやいやいや…声が小っちゃいよ(笑)
音:すみません…
H:どうだった?いま。聴いてて。ハル・ハーゾン。
音:いや…すごい楽しい。僕はけっこう好きな部類、というか…スピリッツ・オブ・リズム(Spirits of Rhythm)とか。ちょっと違うんですけど、そういうの好きなんで…わりと楽しんで聴きました。
H:スピリッツ・オブ・リズムってあれでしょ、誰?
O:テディ・バン(Teddy Bunn)とかがいたやつです。
音:あー、そうです。
H:んー。よく知らない(笑)あれ、レオ・ワトソン(Leo Watson)がいたのはなんだっけ?
音:レオ・ワトソンもいました。
H:あ、いたっけ?じゃあそれだ。なるほどね。
H:いやー、恐るべし…(笑)
O:出てくる名前がね…(笑)
H:うんうん、ホントだよ(笑)普通、岡田くんとしか話さないからね、こういうの。
O:こないだ、渋谷のレコード屋さんで、音くんとバッタリ会ったんですよ(笑)
H:それも不思議なんだけど、なんで会ったんだろう?(笑)
O:あの…渋谷のレコード屋さんにいて。僕、そのお店には年に1,2回ぐらいしか行かないんですけど、まぁ、用事があって行って。音くんはずーっと前からいたんだよね?
音:そうですね。
O:で、その店員さん…松永良平さんって、ライターの。
H:あー、はいはい。
O:彼が店員やってるんで…で、松永くんと話してて。そういえばこないだのデイジー[=この番組]聴いた?って話をしてて。
H:デイジー(笑)
O:「いや、聴いてない」、「ブギウギ少年が出てきてさ」って話をしたら…(笑)
H:(笑)
O:スーッと視界に入ってきて、「僕です!」(笑)
H:なんだそれは(笑)
O:ビックリでしたね(笑)
H:ね、ビックリだよな。そういうところにパッと入って行く…なんて言うの?感覚があるわけ?なんなの?「きょう行くとなんかあるな」みたいなことはあるわけ?
音:いや、ぜんぜん…(笑)
H:そういうのじゃないんだ(笑)
音:2回目だったんで、ハイファイ[Hi-Fi Record Store]…
O:松永さんと話がしたくて来たんでしょ?
音:そうです。
O:その前は上京して…大学の初日?
音:初日に…大学の近くにあるんで、ウィル・ブラッドリー(Will Bradley)のレコードのことを、ちょっと…噂を聞いて、あるんじゃないかな、と思って。
H:あった?
音:そのときは確か、無かったと思うんですけど…その話をさせて頂いて。
O:(笑)
H:ちなみに、音くんは19歳、だよね?まだね。
音:はい。
H:うん。大学生。この輪っかの中に入ってきました(笑)
O:(笑)
音:すみません(笑)
H:不思議な、現象です。こないだはキーポンくん(KEEPON)が来て…もうちょっと若いですけどね。
O:15歳ですね、まだ。
H:なんか、僕が前作った…リメイクした"薔薇と野獣"を聴いて「負けた!」って思ったんでしょ?(笑)
O:そう言ってましたね(笑)
H:張り合うってのはいいね(笑)ひさしぶりだよ、そういう…挑戦的な感じっていうのは。
音:(笑)
H:音くんもね、ブギウギやってるんで…なんだっけ?「[日本でも自分以外にブギウギを]やってるやつがいる」みたいな感じだよね(笑)
O:(笑)
音:ビックリしました(笑)
H:ビックリしたんだね(笑)んー。また次に出てくるのかね、誰か。
O:ね。
昨日ぼくに「ウィル・ブラッドレーのLPはありますか?」と尋ねてきた少年。中学生のころからブギウギやスイングが大好きで、どうしてもレコードで手にしたくて大学を受け四国から上京した18歳。なんかあったら相談乗るよと名刺渡したけど、もしツイッターやってたら連絡して!https://t.co/k78FU5sAkR
— 松永良平Ryohei Matsunaga (@emuaarubeeque) April 7, 2019
えーと、上の話の信じられない後日談をば。デザイナーの岡田崇さんとお店で話してて「そういえば先週のDaisy Holiday聴いた?」と聞かれた。「細野さんのお孫さんの悠太くんとブギウギにめちゃ詳しい10代の男の子が出ててさ」と岡田さんが教えてくれたタイミングで「それ、ぼくです!」と声がした。
— 松永良平Ryohei Matsunaga (@emuaarubeeque) August 30, 2019
なんと、さっきからお店のなかにいた少年こそ、その彼、福原音くんだった。「また、こないだみたいな音楽の話したくて来たんです。話すきっかけ探してたらぼくの話が出て」と話す彼の顔を見て思い出した。きみはあのときのウィル・ブラッドレー買った子! 岡田さんも彼とは初対面でびっくりしてた。 pic.twitter.com/OFpLzSR2rK
— 松永良平Ryohei Matsunaga (@emuaarubeeque) August 30, 2019
友人から「昨日、細野さんのラジオで松永くんの名前が出たよ」とメール。びっくりして詳しく聞いたら(昨日のその時間はOrgan barでDJしてたので)、福原音くんと岡田さんとがぼくの目の前でばったり出会ったエピソードを岡田さんが紹介してくれたのだそう。 https://t.co/2FcUzid7fV
— 松永良平Ryohei Matsunaga (@emuaarubeeque) September 23, 2019
H:じゃあ、この音楽の続きを…かけるのがもったいないね。
O:(笑)
H:SP盤って2枚組なの?
O:3枚組です。
H:3枚組!じゃあ、いっぱい入ってるね。
O:6曲です。
H:あ、6曲か、たったの(笑)
O:(笑)
H:そのうち、CDにするんだよね?
O:すると思います。
H:これは発見者の権利だよね。
O:いや…(笑)
H:まぁ…そういう活動をもっと、いっぱいしなきゃいけないな、と思ってたんだよね。これから、今後。
O:そうですね。ラジオも20年ぐらいやってますし。
H:そうだ。
O:散々、こういうアンノウン・ミュージックを発掘してきてるんで…(笑)
H:流しっぱなしだよ(笑)
O:形にしていきたいですね、
H:しましょう。ね。いや、楽しみだな。じゃあ、きょうは岡田くん特集なんで…
O:僕特集ですか(笑)じゃあ、もう1曲かけちゃいますか。
H:いいんじゃない?
O:じゃあ、ハル・ハーゾンで"Prime Donna"という曲を。
H:それを聴きながら…きょうはこれでおしまいです。また音くんも来てください。
音:ありがとうございます。
H:じゃあ岡田くん、ありがとうございました。
O:はい。
Prime Donna - Hal Herzon Septet
(from 『Morton Gould's Musical Fantasies』)