2021.05.09 Inter FM「Daisy Holiday!」より
H:細野晴臣です。えーとですね…随分前ですけど、来て頂いて。今回もまた続きをやります。くるりの岸田繁さん。いらっしゃい!
岸田:どうも、よろしくお願いしますー、お邪魔しますー。
H:関西弁、いいね(笑)
岸田:抜けないんですよね、なかなか(笑)
H:いやー、抜かないほうがいいですよ。えーと…ツアーが。
岸田:はい。
H:それをちょっと、知らせて頂きたいんですけど。
岸田:はい。6月に数公演ですけども…行うことが決定しています。6/2が大阪のZepp難波、6/3がZepp 名古屋ですね。6/7がZepp福岡。6/9と6/10が東京のZepp羽田という…
H:羽田にあるんだ(笑)
岸田:なんかできたみたいですね。
H:へぇー。
岸田:以上。一応、やります。
H:僕も行けたら行きたいですけどね。
岸田:いやー、遊びに来てほしいです。
H:えーと…ところで、いっしょにやってた頃。福島に行ったりしてね。で、レコーディングにもちょっと顔出したりして。天橋立のほうにお邪魔したり。
岸田:はい。いっしょに温泉行ったりとか。
H:そうですよね。
岸田:10年前ぐらいですよね。
H:もう10年経っちゃったね。
岸田:ですよね。そう考えたら…お変わりないですよね(笑)
H:いやいや、お互い様だよ(笑)
岸田:なんか、遊びたいですね。
H:あの頃僕はレコーディングに結構深く…まぁ、見学してたというか。
岸田:いやいや…スネア叩いてもらったりとかもしたし。
H:で、あぁいい曲がいっぱいあるな、と思ったら、その後それをレコーディングしないんだもん、くるり。
岸田:あ、そうでしたっけ。
H:あのね…ペンギンが出てくる歌あったでしょ。
岸田:あー、ペンギンの歌ありましたね!
H:あれはレコーディングしてなかったっけ?
岸田:あれは…いや、ペンギンの歌はレコーディングしたんじゃないかな…
H:したか。したんだね。
岸田:したと思います。おそらく。
H:そういうのを聴くと、ああいうタイプは岸田くんの…これ言っていいかわからないけど、ソロアルバムっぽい。
岸田:そうですね。バンドというよりはパーソナルな感じかもしれないですね。
H:そういうところもすごい好きだったんだよね。
岸田:あー、めっちゃうれしいです。
H:そういうのも作ってくれるのかな?
岸田:そういうのも…1曲だけ入ってますけどね、今回。
H:あ、ホント?それ聴かせてもらおうかな。
岸田:じゃあそれ行きましょう。"渚"という曲。バンドサウンドではあるんですけど、ちょっとそういうタイプの曲です。
H:なるほど。
渚 - くるり
(from『天才の愛』)
H:うん、なるほど。岸田くんの中にいろいろある、フォークの部分っていうのはすごくいいよね(笑)
岸田:根本はたぶん、フォーキーな人なので…(笑)
H:そうなのかな?(笑)
岸田:最近また、これ作ってから…結構このアルバムはごちゃごちゃといろんなタイプの曲が詰まってて。なんて言うんかな…ちょっと人間味が薄い感じの曲が多いんですよね。
H:あー、天才だ(笑)
岸田:で、つい最近…反動もあるんですけど、「そのまま」みたいのがいいなぁという風に思い出して。最近ぽろぽろ書いてる曲はもう、フォークソングみたいな。そういうのを書き始めてますね。
H:なるほど。なんかそれはわかるな。僕もたぶん、そういうことを考え出してるから。
岸田:あ、そうなんですね。それって、なんて言うかな…たぶん10年ぐらい前に細野さんとよく遊んでたときに、ブギとか…バンドで、ちょっとロックっぽいやつのブームがあったじゃないですか。
H:そうそうそう(笑)そうなんですよ。
岸田:[その後]劇伴とか『HOCHONO HOUSE』とかやらはって、ちょっとプロダクティブな感じの印象があって。
H:そうね。
岸田:で、次…どんな感じなんですかね?ただの一ファンとしてはどれが来てもうれしいんですけど…(笑)
H:いやー、自分でもまだわかんなくて。去年の1年間でリセットしちゃった、個人的なね。今、世界では「グレート・リセット」って言ってるけど。「マイクロ・リセット」。
岸田:はいはいはい…マイクロ・リセット。
H:ブギとかやってて。その前の年、2019年にアメリカに行って。アメリカ人の前でブギをやって…ああ、もうこれでいいや、と思ったんだよね(笑)
岸田:なるほど。ひとつの達成感、じゃないですけど…
H:そうだね。ああいうブギウギの古いやつをアメリカ人の前でやっていいんだろうか?と思いながらやったんだけど…まぁ、やってよかったみたい。
岸田:うんうん。
H:それでちょっと燃焼しちゃったのかな、そこで。
岸田:僕ら聞き手は過去の細野さんの長い歴史…アーカイブの中から次のものを想像したりするじゃないですか。でも、作り手は先を見てらっしゃるじゃないですか。
H:いやー…そうかね?(笑)
岸田:で、1年ギターを弾いてはらへんって言ってはったけど、次ポロっと弾いたときに細野さんの中の何かと…シンクロニシティみたいなのがあって…
H:そうだね。それは期待しちゃうけどね、自分でも。
岸田:なんか…細野さんが歌うフォーキーなやつ、聴きたいですね。
H:やっぱり?僕はね、1年間ギター触ってないんだよね。白状すると(笑)
岸田:えー!(笑)ベースとかは?
H:ベースも触ってない。
岸田:あ、そうですか!
H:音楽は聴いてばっかりいるね。
岸田:そうなんですね。なんか作られたりとかするときはどうやって作られてるんですか?
H:最近はね、楽器持たないで…鼻歌だね(笑)それをメモしておくというかね。
岸田:鼻歌で…(笑)いちばんいいですよね。鼻歌でメモしたものを後で聴いて、これなんやったっけ?って(笑)
H:そういうことばっかり(笑)
岸田:僕も多いです(笑)
H:だから、気に入ってるやつは説明を言葉で入れておくんだね。
岸田:なるほど。
H:たとえばルーツの音を自分で入れておいて、それに想定的なメロディーはなんだ、というのがわからないと…突然メロディーを聴いてもわからないからね。
岸田:僕もよくiPhoneのボイスメモで…BPMはだいたい100ぐらいで、キーは一応E♭で…とか。
H:あー、僕もおんなじことやってる。
岸田:で、ドラムをまず歌うんですよ(笑)
H:おんなじだ!(笑)みんなやってるんだな、それ。
岸田:電信柱の陰とかに隠れて、ドン、タン、ドン、タン…(笑)
H:突然湧いてくるんだよね、歩いてたりするとね。
岸田:たまにありますね。でも、突然湧いてくることって歳を取るとなくなってきません?そんなことないですか?
H:いや、昔からそんなに多くないけどね。
岸田:そうですか。「さあやろう!」というときにできるものなんですかね。
H:さあやろう、という期間があるじゃない。で、その期間の中でそういうことが起こるよね。普段のボーっとしてるときにドンと降ってくるということは…ないな。
岸田:昔から?
H:うん。
岸田:そっかそっか…
H:あるんだね?
岸田:いやー、もうなくなったんですけど、ホンマに…たとえば締め切りがあるやつとかは「ここからやろう」、となったらそういう態勢にはなるんですけど。
H:うんうん。
岸田:昔はあんまりそういうのがなくて。パッと浮かんでくるものをキャッチすることに必死やったので…
H:あー、そんなにいっぱい出てくるんだ(笑)
岸田:昔ですよ?ホンマに20代のときとか。だからいちばん困ったのは…女の子とデートとかしてるときに曲が出てきて…(笑)
H:出てくるんだ。それは困るね(笑)
岸田:で、ちょっと帰ってくれる?みたいな。言ったことがあって…(笑)
H:ヒエー(笑)
岸田:いや、ホンマに悪いことしたなぁ、と思って。
H:やっぱり天才か変態か…そういう類の人だよなぁ。
岸田:もう、そういうのはなくなりました。
H:なくなった?じゃあまぁ、平和だね(笑)僕なんかは…作ろうと思わないとできない、作らないからね。だから普段から音楽的な生活をしている、ということではないんだな。自分は。そう思うわ。
岸田:でも僕も…若いときはそうやったんですけど、最近は生活と音楽が切り離されているというか。音楽やってないときに出てきたりとかはなくなりましたね。ほとんど。
H:あー。
岸田:でも、ひとりでタバコ吸ったりとかしてるときに…歌詞作らな、と思ってた曲の歌詞が一節、パパっと出てきたりとかはたまにありますけど。
H:そういうのはあるね。散歩中はそれ、よく出てくるなぁ。
岸田:『HOCHONO HOUSE』の…"恋は桃色"の新しい録音のやつあるじゃないですか。
H:うん。
岸田:あれのアレンジとかはどういうときに思い浮かんだんですか?たまたまきょう聴いてて。オリジナルのほうのイメージが僕、強かったので。そもそも、こういう風に作ろうと思われてた、という話もあったじゃないですか。
H:それはそうなんだよね。ひとりでやると決めて、このスタジオに籠もってて。遊んでるようなもんだよね。音をいじくってね。
岸田:うんうん。
H:でも、やりたい方向がだいたい決まってた。昔と同じにはできないんで…ひとりでやるからにはどうしても、プログラミングでやってくからね。まぁ、遊んでたんだな。
岸田:今でも新しい曲とか、劇伴とかもやられてるじゃないですか。
H:はいはい。
岸田:もちろん、お仕事としてやられる…名目ではあると思うんですけど、音で遊びながら見つけていく、みたいな感じですか?
H:そうだね。遊びでやらないと絶対できないよ。無理に作ってもつまんないものしかできないと思うしね。
岸田:そうですよね。きょうね、新幹線で東京来たんですけど。ガラガラで。
H:ガラガラだろうな。
岸田:移動中は音楽聴くことが多いんで。ひさしぶりの長距離移動…というんですかね?よく晴れてて。浜名湖とかきれいじゃないですか。
H:そうだよ。富士山も見えるだろうし。
岸田:そうそう。それでいろんな音楽聴いてて、細野さんのも聴こうと思って。『HOCHONO HOUSE』聴いて、いいなぁと思って。あと映画の劇伴のやつかな。ちょっと前に出た…『万引き家族』か。あれも聴いて。
H:はい。
岸田:で…あ、はっぴいえんど聴こうと思って、「ゆでめん」を…最近聴いてなかったから。全部聴くと品川着いてまうから…どれ聴こうかなと思って。
H:うん。
岸田:最後の"はっぴいえんど"。
H:あれね。鈴がチャランっていうやつ(笑)
岸田:そうそう、チャランというやつ。ちょっとプロコル・ハルム(Procol Harum)っぽい…あれ聴いて、ああもう!これ!と思って。僕、大好きで。いいなぁ、バンドっていいなぁ、みたいな風に思ったりしながら…
H:あの頃はバンドでしか音、作れなかったからね(笑)
岸田:なんかね、あれの…もちろんバンドのみなさんの音はしてるし、大瀧さんがカーンと歌ってはる感じとかも気持ちいいし。でもその…なんだろう。"暗闇坂むささび変化"とか"風をあつめて"とか、いわゆるフォーキーな…その頃書かれた曲、あるじゃないですか。
H:はいはい。
岸田:その感じとかの源流というんですかね。細野さんの中にある…楽器を持ったらこういう感じになる、みたいな。
H:あるよね。楽器を持つとどうしても作っちゃうよね。
岸田:その癖みたいな…収まりが僕の中ですごくよくて。で、あれも聴いたんですよね。『HoSoNoVa』の中の"バナナ追分"。あー、いい曲やなぁと思って。上手いこと音楽的な説明とかはできないんですけど…
H:いやいや、それはうれしいです。
H:楽器には全然触らなかったんだけど、毎日見てたの。挨拶はしてた(笑)
岸田:楽器にね(笑)ギターに挨拶、大事ですよね。
H:(笑)
岸田:わかります。
H:でも、手に取らない。なにかを溜めてるのかな、よくわかんない。次に触ったときになにか出るのを期待してるのかもしれないしね。自分で。
岸田:僕もね、制作中…もちろんギターも弾いたんですけど、結構触らなかったんですよ。マウスばっかり握ってて。
H:(笑)
岸田:あんまりギターも…そんなに興味なくて。授業とかでちょっと弾いたりとかね。こういうときはこんな感じ、みたいな。僕はバート・ヤンシュ(Bert Jansch)が好きで。
H:懐かしい。
岸田:で、レッド・ツェッペリン(Led Zeppelin)も好きやったから…ジミー・ペイジ(Jimmy Page)とかも。
H:うんうん、わかるわ。
岸田:ダドガド(DADGAD)みたいなチューニング…5度チューニングが好きで。学生に「変則チューニングを自分で考えよう」みたいなのをやって。
H:あ、おもしろそう。
岸田:みんな結構おもしろいのを考えて。やってたら…なかなかすごいのがあったんで、そういうのを試してたらおもしろくなってきて。自分では弾かないんやけど、とにかくオープンチューニングでおもしろいのを作って…スタジオにいろんなチューニングのギターが置いてあるんですよ。そしたらレギュラーチューニングのやつがなくて…(笑)
H:ないんだ(笑)
岸田:結果、弾かなくなる、みたいな(笑)たまにスタジオ来たらポロポロンって、全部鳴らして。
H:それはやっぱり…ちょっと変わってるよなぁ(笑)
岸田:そういうことはやってるんですけど…でもやっぱり、ギターは楽しいですね。弾き出すとね。
普段私はレギュラー・チューニングよりもDADGADでギターを弾くことが多く、その運指練習用に作ったフレーズを基に、第1主題のメイン・リフを作りました。https://t.co/tlkLhrL0VG
— 岸田繁 (@Kishida_Qrl) February 21, 2019
H:音楽の話は尽きませんが…最後の曲を1曲、選んでください。
岸田:細野さんに聴かせたい…いろんなんあんねんけど…
H:(笑)インスト?
岸田:インスト行きましょうか。プログレか、ちょっとジャズっぽい…
H:おお!いいですね。
岸田:あ、ジャズっぽいやつ…ジャズなんかな、これ?という感じではあるんですけど…じゃあ"less than love"という曲を…聴いてください。
H:じゃあ、これでまた…そのうちウィーンに行ったり温泉に行ったり。
岸田:いいですね。ウィーンにも温泉、あるんで。
H:あ、そうなの?ぜひぜひ…岸田繁さんでした。
岸田:どうもー。
less than love - くるり
(from『天才の愛』)
H:ほう…これは[ベース]弾いてるの?
岸田:これは佐藤さん(佐藤征史)弾いてます。
H:やっぱり音像が違うんだな。いいね。