2021.02.21 Inter FM「Daisy Holiday!」より
H:こんばんは。細野晴臣です。さぁきょうはですね、ひさしぶりに…LITTLE CREATURESの新譜を出しました、青柳拓次くん。いらっしゃい。
青柳:どうもー、おひさしぶりです。
H:ひさしぶりだね。いつの間にこっちに移住…移住っていうのはヘンだけど(笑)
青柳:(笑)
H:ずっと沖縄に住んでると思ってたから。
青柳:ええ、戻ってきました。3年ぐらい前に。
H:もう随分前だね。まぁ、この1,2年ってあっという間に過ぎちゃったけどね。
青柳:不思議な時期ですね、今は。
H:去年は何もなかったとおんなじような…活動しないしね。
青柳:そうですね。
H:じゃあ、LITTLE CREATURESはいつレコーディングしたんですか?
青柳:これはね、夏頃ですね。去年の。
H:あ、そうなんだ。
青柳:普通に顔を合わせてスタジオに入り…わりと普通に録音しました(笑)
H:普通だよね。それは普通でできるよね。なんでやらなかったのかな、僕も。
青柳:(笑)
H:タイトルは『30』。どういう意味かな?(笑)
青柳:もうホントにそのまま、30周年なので…(笑)
H:そっかそっか。30歳っていうわけじゃないよね、まさか(笑)
青柳:(笑)
H:30周年!随分経ったねぇ。
青柳:そうですね。なんだか…芸人30年、という感じです。
H:メンバーはみんな東京だよね。
青柳:そうですね。
H:まぁちょっと最初にこの『30』から、LITTLE CREATURESで…なにがいいでしょうね。おすすめ。
青柳:じゃあ、いちばん最後の"踊りかける"というのを。
H:じゃあ、それを聴いてみたいと思います。お、良い音だね。
踊りかける - LITTLE CREATURES
(from『30』)
H:おお。カッコいいね、単純に。
青柳:ありがとうございます。
H:LITTLE CREATURESは3人だよね?
青柳:そうですね。
H:僕はベースの鈴木正人くんとはいっしょにやったことあるし、青柳くんともやってるし…もう一方とはやってないんだよね。
青柳:あ、栗原(栗原務)ですね。そういえば、そうですか。
H:去年の1年間って、じゃあ、東京なの?
青柳:東京です。国立…(笑)
H:国立。どんな生活をしてたの?1年間。夏はこのレコーディングをやってたわけだね。
青柳:ええ。そうですね…もうホントに、家でコンピューターを前になんか作ってましたね。劇伴[の仕事]とか多かったので、それをじっと部屋の中で…(笑)
H:じゃあ僕と似たような感じだね。そうなんだよ、音楽作ると楽しいよね、いつだってね(笑)
青柳:そうですね、作ってる間はちょっと気持ちがね…
H:他のメンバーもみんな元気そうだね。よかったよかった。
青柳:そうですね。なんとかやってます。
H:沖縄は今、気持ちがいいんじゃない?そうでもないのか。[感染者数は]増えてるのかな。
青柳:徐々に来てますけど…やっぱり観光の島なので。人の出入りがね…
H:青柳くんが住んでたところは山原(やんばる)のほうだっけ?人があんまりいない…
青柳:そうです!けっこう奥地の…(笑)
H:すばらしいところだよね。
青柳:いいとこでしたね。
H:あそこら辺のシャーマンのおばあちゃんとかと僕、知り合いになったりしてたんだよ。
青柳:あ、ホントですか。
H:山を案内されたり。
青柳:けっこうお祈りする場所が…滝とかあったりとか。
H:そうそう。
青柳:へぇ。それはいつ頃ですか?
H:それはね…もう10年以上前だな。だからそのおばあちゃん、友達になったんだけど今はもういないんだよね。
青柳:どうしてるんですかね。
H:いや、もういなくなっちゃった。かなりご高齢だったんで。
青柳:そうですか。なんか、いろいろ…普通の生活の中にそういう方がいたりとか。
H:周りにもいたでしょ?
青柳:いましたいました。いろんなタイプの方がいましたね…(笑)
H:なんか相談したりしたの?
青柳:訊いたりしたことはありますね。これからどんな風にしてったらいいですかね、とか…(笑)
H:(笑)どう?東京は。
青柳:まぁ、また気持ちは戻ってきてますね。
H:そっかそっか。切り替えられるよね。
青柳:やっぱり、生まれがこちらなので。
H:生まれは何区なの?
青柳:僕は中野区です。実は今、仕事場が中野にあって。また戻ってきてる感じでなんか不思議ですね(笑)
H:あ、ふるさとに(笑)なんか、一周するようなことはあるからね。
青柳:僕は今年で50歳になるんですけど…
H:まだ50か…
青柳:(笑)
H:いや、僕から見るとね(笑)若いな。
青柳:細野さんが50のときはどんな感じだったんですか?
H:なにやってたっけ…40代の続きをやってたような感じだよね(笑)50歳ってあんまり区切りがつかないというかね。60になるとね、なんか区切りがついちゃうんだけど。30代からずっと引きずって50代に行っちゃう、という感じで。
青柳:なるほど、そうなんですね…
H:そうじゃない?そうでもないかな。
青柳:どうなんだろう…このコロナ禍の不思議な…(笑)
H:これはホントに、めったにできない体験をしてるよね。
青柳:そうですね。それでいろいろと考えることがあったりもしますけど。
H:なにを考えてるか知りたいです(笑)
青柳:(笑)
青柳:ひとつ質問してもいいですか?
H:もちろん。
青柳:細野さんはプロジェクト…これからやりたいこととか。いくつか既にあったりするんですか?
H:うっすらとね。一昨年までやってたようなことはもう、アメリカのツアーで…まぁ、ツアーといってもニューヨークとロサンジェルスだけだけど。あとロンドンとか。そういうので一応、締めちゃったというか。完成しちゃったな、という気持ちがあって。
青柳:ええ。
H:それまではアメリカの古い音楽とかブギウギをやってたけど、去年からはやっぱり変わっちゃったね。その前にね、90年代に一度、アンビエントの頃に変わっちゃったんだよね。リセットされたというか。それまでやってたいろんなことをやめちゃって、アンビエントばっかりやってたの。そこからまた段々陸に上がってきて。
青柳:(笑)
H:色がついてきて、また自分の20代の頃に好きだったことをやり出したりして。それでブギウギをやったりして。でも、やっぱり去年の1年でそれは真っ白になっちゃったな。そのときになにを考えてたんだろう…手作りでラジオをやってて。それまでラジオは好き勝手やってたの。誰が聴いてるかはあんまり考えずにね(笑)思うままに好きな曲をかけてたの。
青柳:ええ。
H:でもひとりで、手作りでここで作るようになってから、聴いてる人のことを考えるようになったわけ。つまり、世の中のことを考えるようになったというか(笑)それでやっと、同時代の人たちがなにを考えてるのかにすごく興味が出てきて。
青柳:なるほど。
H:で、耳に入ってくる音楽は内省的なものがすごく多くなって。自分の部屋で作ってるような音になったりとか。自分もそうなんだなぁ、と思って。
青柳:ラジオを通じたひとつのコミュニケーション…演奏とかではなく。
H:そう。音楽を作る以前の話だよね。自分がどうなってるのかはよくわからないんだけど…とにかく、今までのことじゃない、ということは確かだね(笑)
青柳:んー、そうですね。これは皆さん、音楽家の方は思うんですかね。この時期ね。
H:そうだと思うよ。なんか…調子に乗って続けられない、という感じがあるね(笑)
青柳:(笑)
H:きっとね、去年がそういうことじゃなければ調子に乗って続けてたと思うんだよね。
青柳:音楽に限らず、広がるところまで、複雑になるところまでグーッて、なんでもなって…
H:極限だったね。ピークだった。
青柳:そうですね、ピークでしたね。だからここでキュッと…
H:そうそう。いろんなことが見えるようになってきてるしね、今。音楽だけじゃないんですけど。政治とか経済とか。アメリカで起こってることとかね。ああいうことが音楽にどういう影響があるのかって、やっぱり考えるんだよね。で、アメリカのショウビジネスってすごく影響を受けてるじゃない?
青柳:そうですね。
H:映画がいちばん影響を受けてるかもしれない。音楽もメジャーな、派手な動きが聞こえなくなってきてるしね。逆に個人的な音楽が非常に届くようになってきてる。
青柳:そうですね。それこそテイラー・スウィフト(Taylor Swift)みたいな大メジャーな人もかなり内省的な…
H:『Folklore』作ったりね。でも売れるんだけどね(笑)
青柳:そう、それでも売れるという…(笑)
H:そういうさなかで作ったアルバムというのは貴重だと思うんで…もうちょっと聞かせてもらおうかな。
青柳:じゃあ…"あさやけ"という曲をお願いします。
あさやけ - LITTLE CREATURES
(from『30』)
H:斬新な終わり方だね(笑)
青柳:スッ、と終わってますね(笑)
H:この"あさやけ"とか…去年の印象は自然がすごいきれいだったなぁ、と思って。
青柳:そうですね、空とか…
H:自然が生き生きしてて、人間がショボンとしてて(笑)
青柳:(笑)
H:[去年の]桜の季節が忘れられないんだよね。この辺りもそうだけど、西郷山公園とかね。代官山にあるんだけど。あそこまでずっと…桜のところにいたな。
青柳:それは散歩ですか?
H:散歩ね。けっこうやってた。で、桜はクマリンというエキスを放出するんだよね。
青柳:なんですか?それ。クマリン?
H:僕も知らなかったんだけどね。花びらにもあるのかな、幹から出てるらしいんだけど。周りの植物を抑制する成分なんだって。自分が咲き誇るために。
青柳:えー?
H:ということは、ウイルスも抑制するんじゃないかな、と思って…桜があると見に行ってたね。
青柳:それは初めて聞きましたね(笑)
H:うん。知らないことが多いんだけどね、僕も。まぁ東京は自然がけっこうあるんだな、と思って。意外とね。
青柳:あー、実は…なるほど。そうかもしれないですね。でも、散歩とかするようになりましたね、意識的に。
H:だって、3年前に住んでた山原のあたりはもう、すごいでしょ?大自然の中でしょ?(笑)
青柳:自然に襲われるぐらいの…(笑)
H:襲われちゃう(笑)圧倒されるよね。そこで何年いたの?
青柳:僕は8年いましたね。
H:けっこう長いね。じゃあもう、完全にしみ込んでるよね。
青柳:そうだと思います。細胞にちゃんと、沖縄の食べ物が入って…(笑)
H:そうだよね(笑)それはいい滋養というか、いいエネルギーが溜まってるよね。うらやましいね。
青柳:段々抜け始めてる感じもあるんですけど…(笑)
H:まだ大丈夫。
青柳:大丈夫ですかね?(笑)僕は焚火が好きで、沖縄にいる間はずーっと焚火をやってて。
H:いいなぁ…焚火やりたい…すごいやりたい(笑)
青柳:ですよね(笑)それが恋しくて、今はホントに…
H:昔は秋になれば庭でね、いろんなものを…枯葉といらない紙とかお芋とかね。やってたよね。
青柳:いいですね…それが恋しい。
H:それは僕の世代もみんな恋しいかもしれないね。
青柳:あー、そうですか…
H:ところで、この『30』。
青柳:はい。
H:2枚組なんだね。
青柳:そうなんです。1枚はいわゆるオリジナルアルバム。
H:今聴いてたやつね。
青柳:そうです。もう1枚は…まぁ、ベスト盤的な選曲のアコースティックライヴというか、スタジオセッションですね。
H:こっちは英語なんだね。
青柳:そうなんです。初期、中期ぐらいまでは[英語が]多いんです。今もたまに歌いますけど、日本語が多いので…
H:それで、もう1枚頂いたこれは…
青柳:これはドイツ、ミュンヘンのちょっとおもしろいブラスバンドで。
H:ミュンヘン?おもしろそう。
青柳:ちょっと名前が言いにくいんですけど、ホッホツァイツカペレ(Hochzeitskapelle)という…(笑)
H:ぜったい覚えられない(笑)
青柳:「結婚式のバンド」みたいな、そんな意味らしいんですけど。
H:でもプロなんだよね?
青柳:はい。元々は皆さん尖った音楽というか…インディーの、力のあるミュージシャンそれぞれが集まって、新たなコンセプトで。冠婚葬祭に出ていく音楽、みたいな…(笑)
H:どうやって知り合ったの?
青柳:自分が過去にイギリスからアルバムを出したことがあって。そのアルバムを彼らが聴いててくれて。
H:あ、いい関係だね。
青柳:それで声をかけてもらいました。
H:向こうからね。それはすごいラッキーというか、いい出会いだね。
青柳:そうですね。楽しい関係というか。それで曲を書かせてもらって、彼らと一緒に演奏する、という。
H:じゃあミュンヘンまで行ったわけね。
青柳:はい、そうですね。
H:聴きたいね。聴いていいかな?
青柳:ぜひぜひ。
H:じゃあ、なにがいいでしょう?
青柳:えーと…
H:10曲入りで、『Wayfaring Suite』というアルバムタイトル。
青柳:じゃあ2曲目、"Part.1"というのを。
H:じゃあこれを聴きながら…また今度来てくださいね。
青柳:ぜひ!ありがとうございます。
H:では最後に"Part.1"を聴いて…青柳拓次さんでした。
青柳:ありがとうございました。
Part.1 - Hochzeitskapelle & KAMA AINA
(from『Wayfaring Suite』)