2019.03.10 Inter FM「Daisy Holiday!」より
↓岡田さんの補足解説は要checkです…
デイジーホリデーのプレイリストを更新しました。選曲や関連動画のほかに、今回は補足解説を少し書きましたので、お時間ある時にぜひチェックしてみて下さい。写真はエノケン双六とゴメンナサイと「唄の世の中」収録のCDです。https://t.co/aB1ovNAGtw #daisyholiday pic.twitter.com/R49VJROhx8
— 岡田崇 (@_okadatakashi) 2019年3月10日
H:こんばんは。細野晴臣です。いやいや、久しぶりですね。
O:ご無沙汰s…しております。噛んじゃった(笑)岡田崇です。
H:ちょっと待って…(くしゃみ)
O:ひさしぶり、すぎて…
H:ね。なんかあの、風邪もらっちゃったみたいだ。
O:あら…気をつけないと。
H:あの、[日本]アカデミー賞の円卓の辺りで咳してる人がいたんで、もらっちゃったみたい(笑)あのテーブルの人たちみんな、いま頃、喉痛いんじゃないかな。
O:大丈夫ですか?
H:ちょっと熱っぽいの。だから、お願いね。
O:…あれ?(笑)
H:ちょっと、目つぶってやるから…
O:(笑)
H:じゃあ、しゃべりながらやって。
O:(笑)
H:…えーと、なに?きょうは。
O:きょうはですね、最近手に入れたものを、まあ…相変わらずですが…かけていこうと思いますが。
H:でしょうね。
O:まず最初に、江利チエミさんをかけようと…心に決めてきました。
H:いいね。
O:1953年の録音なんですけど、江利さんってその前年、15歳で…
H:15歳でデビューしてるのね。早熟だね。
O:"テネシー・ワルツ"と"カモナ・マイハウス"。で、翌年、アメリカに招待されて。L.A.のほうで。ナイトクラブで歌ったりとか…したらしいんですけど。
H:あー…あんまりそういうニュース、無いよね。こっちには。
O:その中で、Capitolレコードのスタジオでレコーディングをしたという話があって。
H:それはすばらしい。
O:当時の新聞だと、「それがCaptolから出てチャートにも入った」…みたいな話になってるんですけど、Capitolから出たっていうことは無くて。Federalっていうレーベルから出てます。
H:あ、そうなんだ。
O:「Capitolから」っていうのは、「Capitolレコードで録音した」っていうのがちょっと…「[Capitolの]スタジオで」、っていうのとレコード会社とを混同してるんだと思うんですけど。
H:そうかそうか。
O:で、バッキングがチャック・ミラー・トリオ(Chuck Miller Trio)だという噂がありまして…
H:やった!大好きだな。"House Of Blue Lights"歌ってんだよね。
O:いいですよね、あのヴァージョン。
H:影響されてます。はい。
O:じゃあ、まずは江利チエミの"Pretty-Eyed Baby"を。
Pretty-Eyed Baby - CHIEMI ERI
H:いいねぇ。江利チエミとは思えないね(笑)なんか、いいよ。チャック・ミラーのピアノ、いいねぇ。
O:うーん、そうですね。
H:音が良い。
O:音良いですよね。当時の…この頃の江利さんの[他の]SP盤聴いても、こういう音は絶対出てないんで…
H:そうだろうね。あの頃の差はすごいよね。
O:んー。
H:いやー、いいな。これ、なんか…ユーナ・メイ・カーライル(Una Mae Carlisle)っていう人にそっくり。声がね。
O:おお…
H:初々しいっすよ。16歳?
O:16歳(笑)当時…2枚目なのかな、レコーディングしたのは。向こうで50回ぐらいテストをされて、ようやく録音出来たみたいなんですけど。
H:あ、そうなんだ。いや、いいですよ。このままやればよかったね(笑)
O:日本に帰ってきちゃいますからね、当然。
H:まあ、それで有名になったんですけどね。
O:(笑)
H:もう1曲聴きたいな。"ゴメンナサイ"やってるんでしょ?
O:そうなんです。そもそもはこの"Gomenasai"をやってるというので、探して買ったんですね。
H:SP盤しか出てない、と。
O:そうです。日本でも当時出なかったですし、今でも出てないと思います。
H:レアですね。
O:で、B面の"Gomenasai"が「エリチエミ&G.I.ジョー」という名義で…(笑)
H:G.I.ジョー、どうしたの?
O:まあ、進駐軍で流行った曲なんで…
H:あー、そうだそうだ…んー。
O:進駐軍の将校さんのベネディクト・メイヤーズ(Benedict Mayers)っていう人が作詞をして、レイモンド服部(Raimond Hattori)が書いた曲ですね。で、その人の勧めかなんかで、Disneyに売ったんですよ。この曲の権利を。
H:ホントに?
O:だからクレジットにDisneyの出版社が書いてあるという、ふしぎな…(笑)じゃあ、"Gomenasai"を。
H:はい。
Gomenasai (Gomen Nasai) - CHIEMI ERI And G.I.JOE
H:なるほどね…アメリカンですね(笑)いやー、歌ってる人は誰だかわかんない、G.I.ジョーっていう人(笑)
O:G.I.ジョー、誰でしょうね。
H:うまいよね、みんな。いや、すばらしい。江利チエミさん。
O:ね。16歳ですよ(笑)
H:あのね、この世代…年代ってすごいんだよね。雪村いづみさんもすごかった。
O:すごいですよね。
H:カヴァーをやると、アメリカのシンガーみたいだった(笑)
O:英語とかね…
H:英語、よかったんだよね。
O:進駐軍のキャンプを回って…12歳の頃から回ってたみたいですね、江利さんは。
H:ね。いやいや、だいぶ今とは違う時代ですけどね。
O:はい。
H:時代と言えばですね、3/6に…『HOCHONO HOUSE』が出まして。
O:わーい。
H:長く待ったんだよ…作ってから2カ月ぐらい待って、やっと出るんで(笑)
O:(笑)
H:まあ、その間落ち込む…
O:落ち込むんですか。
H:落ち込むんだよ。「もうダメだ!」。「ダメなもの作っちゃった!」とかね。
O:いやいや…すばらしいじゃないですか。
H:みんなの声を聞くと安心するんですけどね。よかった…
O:もう、みんな聴いた頃ですね。このラジオの[放送される]時は。
H:もう聴いてるんでしょうね。あの、この場を借りて…なんて言ったらいいのかわかんないけど(笑)そんなことはいいか(笑)
O:(笑)
H:慣れないことはやめて…しかも、明日(3/11)は震災の記念日…記念日っていうとヘンですけどね。震災の日だったんで。『HoSoNoVa』が出た頃を思い出しますよ。ちょうど、やっぱり、いま頃…
O:そうですね。ホントに僕、『HoSoNoVa』のジャケットの入稿をしてる最中、ビクターの方と電話してたところです…
H:揺れた時ね。すごいことやってたね(笑)
O:「とりあえずちょっと、電話切ってみますか?」って言ったらもう、どこともつながらなくなっちゃって(笑)
H:あー…よく、まあ、入稿できたよね。
O:翌日入稿しましたけどね。
H:そうだよね。すごいよ。
O:で、印刷屋さんが不安になっちゃって、なんかもう、動いてないと…みたいな感じで。
H:あ、わかるわかる。
O:仕事をすごいしてましたよ。
H:わかるよ。なんかやってないと不安だよね。
O:んー。
H:まあ、大変な時期に出たんで…うん。思い出しますね。
H:さて、本題に戻りますとですね。
O:本題…?
H:本題っていうかなんというか…(笑)本題なのかな?これ…
O:(笑)
H:えー、日本のね。1950年代当時の人たちがいかに、アメリカの音楽のマニアックな部分に影響されてるか、っていうね。
O:そうですね。
H:予想以上ですよね。
O:予想以上ですね。
H:たとえば…レイモンド・スコット(Raymond Scott)ね。みんなよく聴いてたんだね。
O:レイモンド・スコットだと50年代というか、30年代末から40年代ですね。
H:そうだ、そうだ。
O:まあ、戦争が始まるともう…
H:途切れちゃうね。
O:途切れちゃうんですけど、その前はホントに…日本でもヒットしていたし、舞台で…吉本新喜劇だとか。松竹少女歌劇でもたしか、服部良一のアレンジで"18世紀のサロンにて(In An 18th Century Room)"とかやってた…"Toy Trumpet"だったっけな?
H:そうかそうか。かなり、ポピュラーだったっていうことだよね。
O:そうです。映画にも出てたんで、それで有名にもなっていたはずです。
O:はい。あの…1月の末ぐらいに、早稲田の演劇博物館のイベント…イベントというか…
H:そういうのがあったわけね。
O:はい、集まりがあって。その中で、栗原重一さんというですね…あまり知られていない方がいるんですけど。
H:うん。
O:エノケンさんの映画の舞台音楽のほとんどをやってた方…
H:重要人物だ。
O:重要人物がいるんですよ。で、その方の残した楽譜が早稲田で…去年、研究が始まって。
H:あ、そうなの。
O:それの途中経過発表みたいなシンポジウムが…
H:その方はいま…
O:もちろん亡くなってます。
H:そうですよね(笑)
O:1983年に亡くなってますね。1897年生まれですもん。
H:じゃあ、再発見されたわけですね。うわー…
O:で、その発表会があったんで…ちょっとおもしろそうだな、と思って何気なく遊びに行ったんですね。
H:においを感じて…
O:そうなんですよ(笑)で、行ったら、第2部が、当時のスコアを使って再演するという…セクステッド(6重奏)ぐらいの楽団がいて。
H:あ、そうなの?
O:で、その楽団のリーダーの人も知り合いだったので…
H:あ、若い人たち?
O:渡邊恭一くんっていう、サックスの…去年の漣くん(高田漣)のライヴでも出てたはずです。で、彼はボー・ハンクス(The Beau Hunks)のメンバーと接触したこともあったり、そういう人なんで…
H:あ、そうなんだ。
O:けっこう、おもしろいところにいる人で。彼がリーダーでその楽団を率いてやってるんですけど、その中で"18世紀のサロンにて"を再演したんですね。それがすばらしくって。他にも"ボレロ(Boléro)"だとか、いろいろやったんですけど。
H:演奏だけをやったってこと?
O:演奏だけです。あの、"ボレロ"はエノケンの映画をバックに、実演で…BGM付ける感じでやったんですけど。
H:なるほど。
O:で、その時の話を聞いたら、その栗原さんの楽譜の中に"Powerhouse"もあった、と。
H:名曲…
O:"Twilight In Turkey"もあった…
H:あー、もう、しょうちゅうかけてるね。
O:おそらく"Toy Trumpet"もあるだろう、と。
H:そう。
O:だからおそらく、エノケンの舞台でやってたわけですよね。"Powerhouse"とかを。
H:…信じらんないね。
O:(笑)
H:見たかったね。
O:見たかったですね…そういう事実が。
H:まあ、それで、エノケンさんが歌ってるのがあるんでしょ?
O:そうなんですよ。その栗原さんが音楽を担当しているエノケンの映画をYouTubeとかでバーッと見てって。
H:うん。
O:そしたらですね…
H:見つけたんだね。
O:『孫悟空』という、1940年の映画の中で…
H:有名な映画だよね、うん。
O:「砂漠よいとこ」というタイトルが一応ついてるんですけど。それを…(笑)"Twilight In Turkey"をエノケンと岸井明が歌っている、というのを見つけましたんで…
H:すごいめずらしいな。
O:それをちょっと…
H:はい。
砂漠よいとこ - 榎本健一・岸井明
H:あれ、これは…"Twilight In Turkey"のメロディは出てこないじゃん(笑)
O:Bメロですよ。Bメロをずっと繰り返してるんですよ。
H:ああ、あそこのね、アラブっぽいとこね。なんだか…ふざけてるね(笑)
O:(笑)砂漠の中で、美女がたくさんいるオアシスを見つけて。
H:なるほどね。
O:お酒を飲んで、歌い踊るシーンですね。
H:榎本健一は僕が小学校の時はまだ人気があったよ。「エノモトケンイチです!」って真似してた、みんな(笑)
O:(笑)
H:これ鳳啓助かな?「ええ、オオトリケイスケでございますけど」。
O:ほぼおんなじ(笑)
H:おんなじだね(笑)
H:さて、この続きの流れでいっていいのかな?
O:いいですよ、はい。
H:こないだ週刊誌見てたら、往年のスターの付き人をやってた人たちの証言、っていう特集があって。まあ、いろんな人が出てくるんだけど、中に森繁さん(森繁久彌)も出てくる。
O:はいはい。
H:で、森繁さんの付き人やってたのがなべおさみさんだ。で、付き人から離れるときに、「お前にはぜんぶ種を植えつけておいた。それが実るのは自分がいなくなってからだろう」って。いま咲いてるのかもね(笑)
O:(笑)
H:いや、いろんなスターの…昔の人たちはおもしろい。んー。杉村春子さんとかね。なんか、みんな背筋がピーンとしてるからね。で、その森繁さんの歌が聴けるんですよね。
O:そうなんです。シンポジウムのときに…当時の日本映画って、著作権に関することがすごい甘かったんで…
H:まあ、そうだろうな。
O:この『孫悟空』の中でも"星に願いを"とかね、使っちゃってるんですよ。メロディをやんわり変えて。だからちょっと、なかなか…今リリースするのは難しいような話があって。で、森繁さんの…1950年のものでですね、『腰抜け二刀流』という…
H:…気になるタイトル(笑)『腰抜け二挺拳銃(The Paleface)』だよね。
O:まんま、隠す気なし、っていう感じですよね。
H:ボブ・ホープ(Bob Hope)、んー。へぇ、それは…ひょっとすると"ボタンとリボン(Buttons and Bows)"なわけ?
O:そう…だと思いますよ?
H:わかんない?
O:いや、聴いてわかると思います(笑)
H:歌ってるだけね?日本語でね。
O:歌ってます。
H:それは聴きたいですよ。
O:じゃあ、聴いてみましょう。
H:森繁久彌さん。
H:これは"ボタンとリボン"に…似てるけど違う曲だね(笑)
O:似た感じですよね(笑)
H:ちょっと変えてるんだね(笑)やっぱり遠慮してるんだ。
O:50年になると、ちょっとそういう意識が…
H:芽生えてくると…ゆるい時代ですよね。ええ。今、大変ですよ。
O:んー…
O:そうですね。
H:さて…きょうはなんか、ヘンな世界にさまよいましたけど。
O:(笑)
H:まだあるの?こういうの。
O:いや、さすがに(笑)
H:じゃあ…なんか、きょうの締めを。なにがいいですか?
O:締めですか…じゃあ、もう、日本語のでいいですかね。岸井明の"唄の世の中"って1936年の録音なんですけど。
H:うん。
O:あの、"Music Goes Round and Round"。
H:あー!
O:…を、日本語でやってるんですけど。これもなかなか、良い、ですよ。
H:よかった。
O:ぜんぶ同じなんですけど…鈴木静一さんという方が、さっきの「悟空」も…編曲がそうなのかな。
H:凝ってたよね。うん。
O:で、いまの森繁さんは、作曲が鈴木静一さん。
H:なるほど…
O:で、今回の"唄の世の中"は編曲が鈴木静一さんです。
H:なるほど。では、それを最後にですね…また来週!
唄の世の中 - 岸井明