2018.12.16 Inter FM「Daisy Holiday!」より

 Joe Henry特集回。

 

daisy-holiday.sblo.jp

 

 

(以下、すべてH:)

 こんばんは。細野晴臣です。えー、久しぶりにひとりで…やりますけど。きょうはもう12月16日で、押し迫ってきますね。僕はですね、まだ制作…後半なんですよね。なにを制作してるかって言うと、1973年にリリースした処女アルバム…処女じゃねぇか、童貞アルバムか(笑)『HOSONO HOUSE』ですね。それのリメイクをずっと、何ヶ月もやってます。年内には上がるという…目標なんですけどね。で、きょうはですね、それにまつわる話をしながら、進めたいと思います。

 

 そうですね…ジョー・ヘンリー(Joe Henry)というプロデューサー、シンガーソングライターがいますが、彼の音をかけながらですね、話をしてこうと思います。まずはランブリン・ジャック・エリオット(Ramblin' Jack Elliott)の『A Stranger Here』というアルバムから"Rising High Water Blues"。


Rising High Water Blues - Ramblin' Jack Elliott

 (from『A Stranger Here』)
  

 

 ランブリン・ジャック・エリオット、いままだ健在ですけど、1931年生まれで。このアルバム出したのが2009年で、77歳だったかな…76歳でしたね。健在です。ジャック・エリオットは1950年代からやってますので、ボブ・ディランBob Dylan)以前のフォークシンガーとして有名だった人なんですけどね。フォークブルースもやってて、この『A Stranger Here』というアルバムは1940年代の、不況の時代のブルースを集めた音楽なんですよね。で、プロデューサーがジョー・ヘンリーという男。彼がデザインする音がすばらしいんで、当時出た時にビックリしました。なんだろう、奥行き、というかね。一緒に組んでるエンジニアの人がまた、すごい良いんだろうけど。これはすごく…そういう意味では刺激があるアルバムだったんですよね。歌ってるのはおじいちゃんなんですけどね(笑)

 

 ジョー・ヘンリーの音楽がこの後…またしてもおじいちゃんが歌ってるアルバムを出したんで、それが輪をかけてまたよかったんですよ。まずはそれを聴いちゃいますかね。モーズ・アリソン(Mose Allison)という人が…惜しくも2年前に亡くなりましたけど、80代でアルバムを作って、それがすばらしかったという。『The Way Of The World』というアルバムから、"Some Right, Some Wrong"という曲です。

 

 

Some Right, Some Wrong - Mose Allison

(from 『The Way Of The World』)

 

 モーズ・アリソンは1927年生まれですよね。だいぶ、高齢です。そのころにレコーディングした音なんですけど、プロダクションが良かった所為かね、これもすごく、影響されたアルバムです。で、数年前にモーズ・アリソンは日本に来て、Blue Noteで演ったのを観に行きましたけど、いやぁ、なんか達者ですよね。前のめりのピアノで。歌うんです。まあ、ジャズのシンガーソングライターのはしりですよね。トリオでやってたんですけど、走っていく前のめりのピアノにドラムスとベースが合わせていくっていう、絶妙なコンビネーションがすごくおもしろかったんですよね。まあ、惜しくも亡くなっちゃいましたけど。


www.bluenote.co.jp

 

 で、言いたいことはですね、そのサウンド・プロデュースなんですよね。ちょうど僕、この頃はバンドでブギウギやったり、レコーディングしてましたので、かなり影響されたりしてましたけど。

 思えばはっぴいえんどの頃から、もうそういう問題はつきまとってて。日本で作ったアルバムはわりとみんな気に入ってたんですよね。『風街ろまん』、自信作だったんですけど。その後アメリカに行ってロサンゼルスでレコーディングして、ヴァン・ダイク・パークスVan Dyke Parks)と関わったりして。音の作り方を学んだんですよね。あ、今までとちょっと違うな、と。日本で作ってる時はあんまり考えなかった。横に並べてたんですよね、ステレオだったし。マルチレコーディングで。いま思えば、それが日本の伝統的な…巻物の絵みたいだったんですよね(笑)絵巻物っていうの?鳥獣戯画みたいな。横に並べていくっていう。まあ、それも斬新ですよね。浮世絵なんかもうそうですけど、全部が均等に描かれている。遠いものも近くに描いてあるし。っていうのはね、遠近法が西洋とはちょっと違うわけです。そもそも遠近法っていうのが無かったんで。逆に、西洋の絵も音もね、奥行きがあるんですよね。そこら辺が違うな、と。ロサンゼルスでヴァン・ダイク・パークスに教えられたようなもんですね。レイヤー感覚っていうんですか。積み重ねて、「奥」があるという。それの延長線上でずっと…欧米の音楽には脱帽してきた音楽人生でしたけど。ここに立ってまたね、そういうことが起こってるわけで。いっつもそうです。

 

 いまやってる『HOSONO HOUSE』のリメイクっていうのは…1973年で、23,24歳の頃作ったアルバムなんで、デビューアルバムですよね。で、歌をあんまり…歌いたくない時期に録ったものだったし(笑)いま思えば、がんばって、背伸びして作ってたんですよね。それを今やるとどうなるんだろう、と。

 ということで取りかかってみたものの…やり始めたら、実はひとりで作ってるので、なんだろう、壁にぶち当たったんですよね。やり始めたのを後悔しちゃって。やるんじゃなかった、なんて思いながらも。いろんなことを見直して。ああ、音の違いってのが如実にあるな、と。2010年代。これから2020年までの10年間に起こってることっていうのは、やっぱり聞きにくいっていうか、見えにくいっていうのかな。音像の世界が変わってきてるっていう。いちばん手っ取り早く言うと、音圧が無くなっちゃったと。その代わりにですね、「ヴァーチャルな音圧」が出てきてる、と。それは脳内で感じる音圧で、身体じゃないんですよね。昔から音圧っていうのは…例えば、ベースとキックドラムとか、ドンッっていう音が身体に響いたり。スピーカーで言えばコーンが揺れたり。非常にフィジカルな音だったんですよね。それを聴いて身体に影響があったり。それがいま無いんで、脳内に響いてるんですよね。ヘッドフォンで聴くとそれがよくわかるわけで。そもそもは映画から始まってるんじゃないかな、と思ってたんですけど。

 で、そういうところでこないだ…ついこないだですけど、NASAが火星の風の音を発表したんで、それを聴いたんですよね。そうすると、天然自然の音なんですよ。なんて言うんだろう、スピーカーが再生しきれないような、不思議な音なんですけど。…これ今鳴ってるんですけど聞こえないね(笑)で、これを変換した音がこれですね。2オクターヴ上げた音がこれですね。で…これがまた変換して、ピッチを上げた音です。こうするとね、よく…この世でも聴ける音になるわけですけど。まあ、そう思うとですね、地球上の音も…風の音とか雷の音とか、ぜんぶ音圧があるわけですよね。フィジカルな音で。音で身体が動いたりしちゃうわけですよ。

 それが今の音楽は(フィジカルな)音圧が減少してるんですよね。音圧の時代が終わった、っていう意見もあるみたいですけど。で、代わりに出てきてるのが脳内の、ヴァーチャルな音。これがね、今を席巻してるわけですよ、世間を。だんだん一般化してると思うんですけど。映画なんか観ると、だいたいそういう音になってますね。ある種のアルゴリズムが開発されて、完成して、洗練されてきてるっていう。

 僕はそういうのを10年、20年放っぽらかして、生演奏に勤しんできたんで、ちょっとあわてたんです。で、ひとりで作るとそういうことに没頭するわけですよね。それでシステムを変えたりして。いろんなことを変えてるうちに時間が無くなったりして、困ってるわけですけど(笑)

 

 そんな中で…今の流行りの音楽はだいたいそんなことなんで聴いてみてください。ヘッドフォンで聴くとよくわかるんですけど。ビックリするような音がいっぱいあるんですけど。それとはちょっと違うアプローチをしてるのがいままで聴いてきたジョー・ヘンリーのプロデュースなんですね。これは…まだ僕にもわからないことがいっぱいあるんですね。えー…まあ、ちょっとまた聴いてみましょうか。じゃあ、ボニー・レイットBonnie Raitt)の"Take My Love With You"という曲を。

 

Take My Love With You - Bonnie Raitt

(from 『Slipstream』)

 

 ジョー・ヘンリーがプロデュースしたボニー・レイットのアルバムから"Take My Love With You"という曲でしたけど。ボニー・レイットなんていうとわりとメジャーなシンガーなんで、ジョー・ヘンリーもそこら辺を気遣ったんじゃないかな、と。聴きやすいですね。

 さっきかけたジャック・エリオット、モーズ・アリソンはかなり音的な冒険っていうのをしてるんですよね。これはね、なかなか…真似が出来ないような音なんですよ、実は。っていうのは、使っているインターフェースは自分と同じものが多かったりするんですけど、そこに投入するアウトボード…いろんな古い機材いっぱいもってるんですね、エンジニアの人が。その数たるやすごいんで、とても集めることはできないですね、そういうものは。高価なものばっかりなんでしょうけど。そこら辺が真似できない。もう一つは、録ってるスタジオの音がすばらしいですね。これは日本ではなかなか…んー、見当たらない音なんですよ。スタジオ用に作った音、というよりも…家の響きというのかな。部屋の響き。それがすばらしい。ドラムの音も、(叩くときに)力を入れなくても録れるっていう。デッドなスタジオっていうのが日本には多いんですよね。デッドっていうのはつまり、音が壁にぜんぶ吸い込まれて…つまり音が回りこまないんで録りやすいんでしょうけど。そうすると、力いっぱい叩かないと音が響かないんですよね。しかもマイクを近づけるんで。スネアドラムとか、かなり近づけて録るんで、まるでラインで録ってるようなもんですよね。だから宅録に近いっていうかな。ところがこういう…ジョー・ヘンリーが録ってるのは、部屋鳴りをぜんぶ録ってるんですね。そこら辺の真似が出来ないっていう、感じでしょうか。まあ、目標ではあるんですけど。憧れるんですね、僕なんかは。

 で、数年前にジョー・ヘンリーは自分のソロで歌うために(日本に)来たんです。フェスの一環なんでいろんな人が出たんですけど。ジョー・ヘンリーが出てきて、パーカッションと、ご本人は生ギターと歌で演ったんですけど…なんかこう、とても地味だったんですよね(笑)やっぱりレコードとは音が違うわけですね。ところがソロ(音源)を聴いてみると、これがすごいんですね。ヘッドフォンでやっぱり聴くんですけど。で、ラジオで聴くとどうなるかわからないんですけど。ソロは曲が良いとか悪いじゃなくて、音がすごいんで…どれでもいいかな(笑)えー、時間が経っちゃったんで最後の曲になりそうですね。またジョー・ヘンリー特集はしたいと思います。ソロのアルバム『Civilians』からそのタイトル曲、"Civilians"。

 

Civilians - Joe Henry

(from 『Civilians』)

 

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