2018.06.24 Inter FM「Daisy Holiday!」より

NON-STANDARD&MONADボックス、めちゃくちゃ楽しみです。

 

daisy-holiday.sblo.jp

 

H:こんばんは。細野晴臣です。えー、今日はですね…まずは。
 
O:こんばんは、岡田崇です。
 
H:はい。そして?
 
惣:あ、こんばんは。ご無沙汰してます、鈴木惣一朗です。
 
H:鈴木くん、久しぶりだね。
 
惣:いや細野さん、あのね、今朝起きたら、警官がやって来たんですけど…そんなことはいいんだけど(笑)
 
H:いやいや、おもしろいな、なんだそりゃ。
 
惣:隣の家に不法入国者の女の人がいたらしく…これ言っていいのかな、ラジオで。まあいいや…見かけましたか、って。そういう人って多いんですかね、世の中に。
 
H:最近多いんじゃない?んー。
 
惣:細野さんは不法…ではないですね(笑)
 
H:いやー、不法に生まれちゃったのかな。
 
惣:無国籍っぽい…(笑)
 
H:でもパリで…パリだか知らないけど、フランスで5,6Fのベランダから子どもが落ちそうになったところに、登っていって助けたアフリカ系の男の人がいるじゃん。
 
惣:ええ?!
 
H:その人は不法移民だったの。
 
惣:ああ、いい人なんだ。
 
H:でも、それでヒーローになっちゃったんで、大統領と対談して、不法移民を解除して、おまけに消防署員の職を与えてあげたっていう。
 
惣:あ…じゃあ「不法」と言いますが悪い人ばかりではない、と。
 
H:悪い人が不法っていうことじゃないからね。
 
惣:あ、それは偏見ですね。いや、言葉をパッと聞くと、アッ、と思っちゃう。
 
H:ね、「不法」。うん。
 
惣:そんな話をね、しに来たんじゃないんですよ。
 
H:何?(笑)
 
惣:いや、きょうは大事なね…発表します、発表しますよ、ここで。
 
H:どうぞ。
 
惣:細野さんの力作、『銀河鉄道の夜』という。かつて…憶えてますか?
 
H:なんとなくね。
 
惣:それの完全版をですね、年内に出そうと。
 
H:知ってるよ、それ。
 
惣:と、同時に。
 
H:はい。
 
惣:僕が所属していたノン・スタンダード(NON-STANDARD)レーベル、モナドMONAD)レーベル…
 
H:テイチクでやっていた…
 
惣:テイチクでやっていたものを僕がボックスセットでまとめる、という偉業に…
 
H:ありがたいことです。
 
惣:まさに手を掛けようとしている時にですね、このラジオに呼ばれたので、お忙しい…ロンドンに行く前の細野さんに…
 
H:取材ね、この番組は。
 
惣:取材も兼ねて…(笑)ラジオに出るという。なんか以前もそういうパターンがあったような気がするんですけど。
 
H:どうぞ?
 
惣:ちょっとまあ、忙しいから…訊かなきゃいけないんですけど。
 
H:いいよ。
 
惣:いいですか?
 
H:岡田くんもいいの?
 
O:はい、あの、聞いてます。
 
H・惣:(笑)
 
惣:なんか、細野さんが眠くなりそうだったらハァッとか言ってね。
 
O:ハァッって言うんですか(笑)
 
H:なんかギャグかまして、ギャグ。
 
惣:ちょっと、一時間ぐらいは話しますよ?
 
H:この番組30分だけどね。あ、2回に分けるのね。
 
惣:ああ、そうなの?
 
H:オッケー。
 
 
 
メイン・タイトル(『銀河鉄道の夜』より) - 細野晴臣
 
 
 
 
 
惣:いいですか?
 
H:どうぞ。
 
惣:まず最初に、『銀河鉄道の夜』。1985年の4月…もう何年前ですか、33年前ですか。
 
H:もうね、数えられないんだよ。
 
惣:僕は音響ハウスにおりまして、その頃。WORLD STANDARDのミックスダウンというのをやっていたんですが。
 
H:築地にある音響ハウス(ONKIO HAUS)ね。
 
惣:で、プロデューサーが細野晴臣という人で。
 
H:そうだったんだね。
 
惣:僕が作業をしていると、細野さんが裸足に短パンでやって来る、という日々を…
 
H:裸足じゃないでしょ(笑)
 
惣:いやいや、裸足でした。あ、スタジオに来たら裸足になってた。
 
H:あー、当時そうだったかもね。
 
惣:靴下がにおうって、言ってました。
 
H:におわないよ(笑)
 
惣:失礼しました。それでね、『銀河鉄道の夜』をちょうど細野さんは制作している時期で、サウンドトラックを。
 
H:あー。
 
惣:すごいいっぱいアルバムを作られている時だったので。
 
H:そうね、よく働いてたよな、あの頃。
 
惣:それを、スタジオに来てかけてくれたの。
 
H:あ、ホント?
 
惣:すごいよく憶えてます。
 
H:へぇ、そうか。
 
惣:「鈴木くん、聴いて聴いて」みたいな。すごい機嫌が良かった。
 
H:(笑)
 
惣:まあ当時元気でしたから、細野さん。今も元気だけど。
 
H:いやー、元気ないっすね。
 
惣:声も大きくて。「聴いてよ!」みたいな。
 
H:ホント!?
 
O:(笑)
 
惣:無理やり言ってくれっていうんじゃ…(笑)それで「銀河鉄道」のテーマを聴かされて…ブッ飛んじゃったっていうか、落ち込んじゃった。
 
H:落ち込んだ?
 
惣:いやいや、だって自分が作ってる慎ましやかな音楽に比べると、ものすごいダイナミックに聞こえました。
 
H:そうだっけね…んー。
 
惣:ビックリしちゃって。僕(当時は)知らなくて、あんまり様子を。細野さんこれ、「銀河鉄道の夜」っていうのは何なんですか、まあ「映画の音楽です」と。
 
H:うんうん。
 
惣:で、「いっぱいトラックを作ったんで、2枚組になっちゃうと思うよ、鈴木くん」って言われたのをすんごい憶えてる。
 
H:ああ、そうだったっけ。
 
惣:30年経っても憶えてたの。
 
H:おー。執念深いっていうかね。
 
惣:大事なことは憶えてる、と。
 
H:そうか。ぜんぜん忘れてるわ、それ。
 
惣:それで、テイチクのテープ倉庫で調べたところ…
 
H:調べちゃったんだね。
 
惣:(未発音源が)いっぱいあった、という流れがありまして…で、それのインタビューというか、ブックレットにも使用されるものを訊くんですが…前置きが長くなりました。
 
H:いいよ。
 
惣:そもそもですね、細野さんが宮沢賢治さんと、小っちゃい頃かもしれませんが、「出会った」というか、「銀河鉄道の夜」の(原作)本を(初めて)読んだのはいつ頃ですかね。
 
H:「銀河鉄道」はね、はっぴいえんどの頃だね。
 
惣:あ、ホント?
 
H:うん。その前のは…「風の又三郎」とかね、映画にもなってるし、いろんな形で知ってはいる。
 
惣:それは小さい頃に?
 
H:そうそうそう。子どもとして、子ども向けの物語として捉えてたけどね。
 
惣:たとえば稲垣足穂さんとか、中原中也さんであるとかも、はっぴいえんどの時に…?
 
H:それ以降だね。ああいうのは大人になんないとわかんないから。
 
惣:そうですか。そのはっぴいえんどの時の「銀河鉄道の夜」は、松本(隆)さんとかに教えられたものですか?
 
H:まあ教えられたというか、有名な本だから…松本隆がそういうのをすごく読んでたのは知ってるけど。ま、自分もこの際だから、ということでね、読んでみたけどね。うん。
 
惣:その時の印象は?不思議なお話なんで。
 
H:んー、そうだね…長かったな。
 
惣:(笑)長かったね。でも読み切った。
 
H:たぶんね…たぶん。よく憶えてないんだよね(笑)
 
惣:いいです、憶えてることだけ言ってくれれば、いいです。
 
H:はい。
 
惣:で、その中にインサートされていたお話の中に…タイタニック号のお話がインサートされているんですが。
 
H:そうなんだよね。
 
惣:その有名な(細野さんの)おじいさんとの因果関係について、わかってましたか?その頃。
 
H:因果鉄道の夜だ。
 
惣:因果鉄道の夜じゃないです。
 
H:いやあ…なんとなくね、おんなじ時代だったのか、ということだよね。
 
惣:あ、ちょっとボワンとしてるけど、知ってはいたんですね。
 
H:うん。殊更そこを掘り下げたりはしなかったけど。
 
惣:その中で"主よ 御許に近づかん(Nearer, my God, to thee)"という讃美歌が、タイタニック号が沈んでいく時に楽団が演奏していて。
 
 
H:有名な話としてね。
 
惣:もう、童話のようなお話ですが、そのことは細野さんは…その後に知りましたか?
 
H:その後だよね。ギャヴィン・ブライヤーズ(Gavin Bryars)の『タイタニック号の沈没』というアルバムがあるんですけど。
 
惣:はい。『The Sinking of the Titanic』。
 
H:そうです。それをよく聴いてたんですよ、すごく好きでね。
 
惣:Obscureという、ブライアン・イーノ(Brian Eno)のレーベル。みんなよかったですね。
 
H:で、(そのアルバムでは)その時の…楽団が演奏していたのは実はこっちなんじゃないか、っていう曲を取り上げてた。
 
惣:うん。
 
H:それが讃美歌の何番かはちょっと憶えてないんですよ(笑)
 
惣:そう、3つくらい候補があって。"主よ 御許に近づかん"ではないんじゃないか。"エアー"っていうものじゃないかとか、いろいろあったんですけども。
 
H:通説でね。
 
 
惣:まあ、そういうストーリーが重なっていくというか。おじいさんのことやブライアン・イーノのObsureで聴いていたもの…で、テイチクで、ノン・スタンダードレーベルというものをやることになり。
 
H:うん。
 
惣:細野さんはね、かなり早い段階でこの映画のオファーを受けています。
 
H:いつだろう。
 
惣:1984年の暮れ。だから、YMOで、アルファのYENレーベルはまだ継続されてはいるんですが、テイチクと契約を結びます。
 
H:はい。
 
惣:つまりアルファとノン・スタンダードはちょっとクロスしているんですよね。
 
H:そっかそっか。
 
惣:なかなか不思議な…
 
H:二重契約?(笑)
 
惣:二重契約じゃないんですけど、まあいろんな、大人の事情だとは思うんですが…その「銀河鉄道の夜」のオファーが来た時のことって、なにか憶えてることはありますか?
 
H:…ぜんぜん無い。テイチクとの契約のことはよく憶えてますよ。南口(重治)社長さんっていう、名物社長さん。奈良の人ですよ。
 
惣:はい。
 
H:で、(南口社長が)「細野さんの夢を見た」っていうんで、これは仕方ないな、って思って契約しましたよね(笑)
 
惣:アレでも本当だったみたいですよ。
 
H:ホントなんだね。ウソはつかないだろうね(笑)
 
惣:まあ細野さんは僕の枕元にも立つことはあるんですけれども。
 
H:まだ生きてるよ(笑)
 
惣:枕元に立つっていうのはちょっと言葉を間違えましたが…(笑)夢に出てくることもあるんですが、大体ふざけてる、と。
 
H:ああそう(笑)
 
惣:まあ僕の印象なんですよ。大体細野さんはふざけて夢に出てくる。
 
H:そうか。
 
惣:ただ、南口さんの夢の中では神懸かった感じで出てきたみたいですよ。
 
H:なんでだろうね…詳しいことはよくわからないんだけど。
 
惣:で、テイチクで契約を結んだ後に…最初の『Making of NON-STANDARD MUSIC』っていうアルバムのレコーディングに入るんですが、これが1984年の春なんです。南口さんと会ってるのは。
 
H:うん。
 
惣:で、7月には記者会見をやるんですよね、細野さん。
 
H:そうでしたっけね。
 
惣:こんなことやってる時に、もう銀河鉄道のオファーは来てるんですが…
 
H:来てるんだね。
 
惣:来てるんですが、まー細野さんは忙しくて、いきなり『パラダイスビュー』に出ろ、と。
 
H:そっちに行っちゃったんだね。
 
惣:たぶんその話を聞きながら沖縄に行っちゃってんですよね。小林薫さんや戸川純さんと。
 
H:なるほどね…忙しいなあ、かわいそうに…(笑)
 
O:(笑)
 
惣:まあ今もちょっとかわいそうな気もするんですけど。
 
H:僕?
 
惣:ええ。まあそういう宿命だと。諦めてください。
 
 
The Paradise View(『PARADISE VIEW』より) - 細野晴臣
 
 
H:あのね、『パラダイスビュー』のことは憶えてるよ。『パラダイスビュー』のアイディアを持って来たのは高嶺(剛)さんという監督ね、石垣の人なの。
 
惣:あ、そうなんですか。
 
H:でも大阪に住んでたんだけど。で、僕を主役にしたいって言うんだよ、最初。映画の。
 
惣:あ、小林薫さんじゃなくて?
 
H:じゃなくて。最初の時。それ、お断りしたの。
 
惣:え、主役やればよかったのに…
 
H:主役の器じゃない、って言って。
 
惣:でも『居酒屋兆治』でも以前、目立ってましたよね。
 
H:「主役」だったからね、あれは(笑)
 
惣:(笑)じゃあ「脇役」は高倉健っていう…すごい状況ですね。でもすごい印象的でしたね、ランニング着てね。
 
H:よく言われるんだよね…
 
惣:あれ名作ですよ。映画が素晴らしい。って言うと細野さんはどうなんだってことになるけど…(笑)
 
H:いやいや。自分が出た映画ってなかなか観ないんだよ。自分をあんまり見たくないんで。
 
惣:そういうもんなんですか。
 
H:でも、ついこないだ観たんだよね。4、5年前かな。
 
惣:よかったでしょ?
 
H:よかった!いい映画だ。
 
惣:そう、いい映画なんですよ、『居酒屋兆治』って。高倉健さんの映画ってどれもいいんですけれども…戻ります
、『パラダイスビュー』。
 
H:はい。
 
惣:10日間くらい沖縄に行っちゃうんですよね。
 
H:それは憶えてる、よく。うん。
 
惣:で、さあそれやって戻ってきました、って言って"Non-Standard Mixture"。
 
H:あ、それやったんだね。
 
惣:もうそれをレコーディング…セディック(SEDIC)に入っていきなり『S・F・X』のレコーディングに、入っていくんですが。
 
H:あ、そうだっけ。セディックって六本木のWAVEがあったとこで、やってたのを憶えてます。よく。
 
惣:何階建てでしたっけ。6F建てでしたっけね。
 
H:WAVEっていうビルは西武系のね。
 
惣:バブリーな、いいレコード屋さん。
 
H:いやー、いい音楽がいっぱい集まってて、何度も行ってましたよ週に。うん。
 
惣:だから、上で細野さんがレコーディングしてて。
 
H:スタジオがあったんだよね。
 
惣:下は、もうウジャウジャいいレコードがあるレコード屋で。1Fは喫茶店だったんですよね、おしゃれな。で、地下はシネ・ヴィヴァン。
 
H:そうそうそう、映画館もあって。
 
惣:いい映画館もあって。あそこに行けば一日過ごせる感じで。僕もよく行ってましたけれど。
 
H:うん。
 
惣:細野さん、大体セディックで、当時は。
 
H:よく使ってましたよ。
 
惣:ええ。レコーディングをしていくんですが…ちょっとまた戻しまして。「銀河鉄道」に戻します。
 
H:うん。
 
 
 
 
惣:で、「銀河鉄道」のオファーが来たときに細野さんはどう思いました?「やっぱり来たか」っていう感じでしたか?
 
H:やっぱり、とか、そういうことは思わないけど(笑)
 
惣:やりたかった?
 
H:いや、(オファーが)来てから、これはやりがいがあるな、って思ったね。
 
惣:やりがい、ね。
 
H:というのはやっぱり、真っ先にタイタニックの因縁というのかね、因果というか。これは宮沢賢治と向き合わないとできないな、と。そう思いながら作っていった。
 
惣:そこが訊きたいんだわ…どう向き合ったんですか?
 
H:そう「思った」だけなの(笑)
 
惣:いや、それは「向き合った」ということにしときましょう(笑)
 
H:要するに、ミディアム(medium)っていうか、その…
 
惣:ここはミディアムです。
 
H:まあそうね、(細野さんの所属する)事務所の名前ですけど。
 
惣:はい。伝承、伝達…
 
H:「霊媒」って言っちゃうとちょっとニュアンスが違うけど、宮沢賢治の気持ちね。平たく言えば、どんな気持ちで過ごした人か、っていうことに自分を合わせようとしたわけ。
 
惣:うん。
 
H:なんかこう…それまでは遠い人だったからね。岩手だしね。行ったこと無いし。仲間の一人がイーハトーヴだったけど。
 
惣:またちょっと脱線しますけど。僕は花巻に…宮沢賢治さんのトリビュートアルバムっていうのをその後、僕が監修で、ソニーで作って。
 
H:そうだっけね。
 
惣:で、細野さんにもレコーディングに参加してもらったんですが、憶えてますか?裕木奈江さんと…
※引用者註:細野さんは『宮沢賢治 メンタル・サウンド・スケッチ~星めぐりの歌』(1993年)において"星めぐりの歌"(歌:祐木奈江)のアレンジを担当。
 
H:ははあ、あれがそうか。あれいいアルバムだったね。
 
惣:いいアルバムでしょ?それ僕が作ったんですよ。
 
H:あれ、そうなんだ(笑)
 
惣:なかなかいやらしい言い方になっちゃいましたけど、しょうがないですよね。一つの才能っていうのがそこに結実してしまったっていうのは…
 
H:(笑)
 
惣:でも、まあこういうおもしろい言い方になっちゃうけど…おべんちゃらは言いませんけど、『銀河鉄道の夜』の感動は30年間、僕を包んでいる。
 
H:へぇ!
 
惣:うわマジメなこと言っちゃった。でもホントだから。
 
H:ホントなんだ。
 
惣:だから『銀河鉄道の夜』のトラックを聴いた時に、まあ浴びるように聴きました、当時。
 
H:うんうん。
 
惣:宮沢賢治さんのトリビュートアルバムを作る時にも、そのいわゆるholyな響き、僕の言い方になりますけれども。
 
H:うん。
 
惣:細野さんの音楽にholyな感じが…嗅ぐってきた、におってきた。
 
H:靴下じゃなくてね。
 
惣:靴下じゃなくて。随分いいにおいがしてきたのが、ちょうどですね、YMOが終わって…そしたらちょっと段々ね、細野さんが作る音楽に、してくるワケですよ。
 
H:なるほど。
 
惣:それがね、なぜなんだろう、と。で、そこが宮沢賢治さんが持っている世界観とクロスしていくんですけれども。
 
H:うん。
 
惣:たとえば、松田聖子さんのシングル、安田成美さんのシングルを聴いても、僕はholyだと思ってました。
 
H:ヒエー。
 
惣:たとえば"プリオシーヌ"という曲。あれは『銀河鉄道の夜』の時に作ったものですが、その後『Omni Sight Seeing』に収録される。
 
H:作り直した。歌にした。
 
 
プリオシン海岸(『銀河鉄道の夜』より) - 細野晴臣
 
 
惣:この"プリオシーヌ"を見つけているのは結構この時期、「香りがしてくる」辺り。それから『花に水』というカセットブック、無印良品の…西武系ですけど。
 
H:店内用のBGMだったんだよね。
 
惣:ホントにかかってましたね。聴きに行きましたよ僕。あれで購買意欲がわくんだろうか、とすら思いましたけど(笑)
 
H:寝ちゃうよね(笑)
 
惣:あんまり売れてませんでしたよね、最初の頃の無印良品って…でもその『花に水』を聴いた時にも同じようなものを感じたんですよね。
 
H:うん。
 
惣:つまり『フィルハーモニー』辺りからちょっとなんか、まあ"ホタル"ひとつとってもそうですけど、いわゆる今日的には「スピ系」と言いますけど、スピリチュアルね。
 
H:うんうん。
 
惣:なんか細野さんの中で変化が…まあそれがノン・スタンダードの他にもう一つあるモナドというレーベルにも結実していくと思うんですけれども。宮沢賢治さんと触れ合って行く辺りに…
 
H:まあ、きっかけにはなってるよ。確かに。
 
惣:なってますか。
 
H:やっぱり宮沢賢治の宗教観っていうのはすごく…仏教的な世界観だったり。でも、仏教に留まらないというかさ。エスペラント語を使ったりね。
 
惣:世界万物の共通語…
 
H:そうそう。そういう、世界に向けた精神世界があるわけでしょ。そこにすごく共鳴したのは確かだよね。うん。
 
惣:僕はWORLD STANDARDで通っていますが。
 
H:世界だね。
 
惣:あとはNON-STANDARD。あと無国籍な音楽をやる、『Omni Sight Seeing』もそうだし『泰安洋行』もそうだと思うんです。
 
H:はいはい。
 
惣:「無国籍」というのは、まあヴァン・ダイク・パークスVan Dyke Parks)の音楽も近いかもしれませんけれども、やっぱり細野さんが最初に提示してきた。
 
H:んー。
 
惣:たとえばマーティン・デニー(Martin Denny)とて、無国籍かなぁ、みたいな。今聴くとわりと普通のラウンジかぁ、みたいな感じもしますし。
 
H:うん(笑)
 
惣:だけども『銀河鉄道の夜』の音楽を聴いた時に、この音楽はなんだろう、というのが僕の素朴な疑問です。それは今も変わらなくて、よくわかんない、この音楽。なんで成り立ってるのか。
 
H:なんであんなのが出て来たのかね。
 
惣:なんでできたのかわかんないから、何度も聴こう、と。
 
H:あのね、杉井ギサブローさんっていう(「銀河鉄道」の)監督さん。最初に、「ゆれる音楽を」って言ったんだよ。
 
惣:「ゆれる」ってなんですかね。
 
 
幻想四次のテーマ(『銀河鉄道の夜』より) - 細野晴臣
 
 
 
H:だからね、冒頭のシーンにそれを使ったわけ。揺れてんの。画面も揺れてるしね。
 
惣:細野さんも揺れてる。
 
H:揺れてる。最初に作ったのがあれなのね。
 
惣:あ、そうですか。いいことを聞いた。
 
H:ブルブルブルっていうような。
 
惣:わかります。
 
H:実はあれがいちばん好きなんだ(笑)
 
惣:あー。
 
H:だから、「ゆれる音楽」っていうキーワードを頼りに作り始めて…あとはね、その当時聴いてた音楽っていうのを言わなきゃいけないんだけど。
 
惣:はい。
 
H:なんて言ったらいいんだろう。ドヴォルザーク(Antonín Dvořák)とかね。
 
惣:"ユーモレスク"の。
 
H:"ユーモレスク"の人だけど。あと、ロシアの…
 
惣:スメタナ(Bedřich Smetana)ですか?
 
H:スメタナじゃなくて…スメタナはロシアじゃない。えー…出てこないんだよ最近(笑)
 
惣:まあでも、ボヘミアの作曲家の方をよく細野さんは聴いていて。
 
H:それの影響が強いかもしれないね。
 
惣:チャイコフスキー(Пётр Чайковский / Peter Tchaikovsky)も聴いていた。
 
H:"アンダンテ・カンタービレAndante cantabile)"っていう曲が好きなんだよ。
 
惣:"アンダンテ・カンタービレ"は事務所でよくかけていました、細野さんが。
 
H:うん。
 
惣:それからフランク(César Franck)という。なかなか渋い人を。
 
H:フランクの"バイオリンソナタ"をずっと聴いてて、それをどっかで発表したら…
 
惣:フランクが売れたんですか?
 
H:いやいや。「レーリッヒ協会」という人たちが訪ねて来たんだよ。
 
惣:ありゃあ…
 
H:神秘主義だね。だから、そういう時代だったのかな。ニコライ・レーリヒ(Николай Рёрих / Nicholas Roerich)というロシアの退役将校が一人で、あるいは息子と二人で馬に乗ってシャンバラを訪ねていく。
 
惣:"シャンバラ通信"ですね。
 
H:そうそう。そういう憧れというか、ロマンがあったワケさ。でもビックリしたけどね、そのレーリッヒ協会が来た時は。
 
惣:今思い出しましたけど、細野さんは当時グルージェフ(Гео́ргий Гурджи́ев / George Gurdjieff)という作曲家の人がいて…
 
H:作曲、というか、まあ、神秘主義者だよ。
 
惣:でもいっぱいピアノのアルバムを出していて。
 
H:グルティエフ・ダンスっていうのがあってね、日本でも時々やってて。なんてことはないんだよね。あんまりおもしろくない(笑)
 
 
 
惣:でもね、おもしろい言い方をされていて。今も細野さんが言ったように「すごいロマンティックだ」って言ってたの。
 
H:あ、そうだっけ?
 
惣:つまり、僕からするとちょっと恐い音楽を(細野さんは)「ロマンティックだ」って。
 
H:そうか、その当時はそう思って聴いてたんだけど今はぜんぜん、憶えてないんだよな。聴いてないから、最近。
 
惣:でも、たとえばデヴィッド・リンチDavid Lynch)、その後にね。
 
H:いいねえリンチ。
 
惣:恐いでしょ?恐いこわいっていうわけ、みんな。
 
H:何が?リンチが?
 
惣:『ツイン・ピークス(Twin Peaks)』という映画。
 
H:ああ、作品がね。
 
惣:でも、去年…
 
H:WOWOWでやってたやつね。
 
惣:あれをこの歳になって観ると、ぜんぜん恐くないですよ。
 
H:ぜんぶ観たの?
 
惣:観ました。
 
H:僕は2話しか観てないんだよ。
 
惣:その時メールしましたよね(笑)「2話観たよ!」っつって、止まってましたね。忙しくなっちゃったからか…
 
H:いや、その後に観るチャンスが無いんだよ。
 
惣:だから6話がおもしろいのに…あの爆発するところが。
 
H:それなんか持ってる?貸して。
 
惣:送ってもいいですけど(笑)
 
H:DVDになったら買おうと思ってんだけど、なんないんだよ。
 
惣:いや、なってます(笑)
 
H:なってんの?!なんで知らないんだろう。
 
惣:「なってんの?!」って言われても、まあ…(笑)細野さんの財力だとすぐ買えますよ。明日買えますよ。
 
H:ぜんぜん知らなかった。
 
惣:なんで知らないのそんなこと(笑)
 
H:宣伝してくれないから。
 
惣:知ってると思ってるんですよ。
 
H:だから岡田くん。
 
O:はい。
 
惣:あれ?
 
H:宣伝しないとダメだよ。
 
O:あ…
 
惣:そうだそうだ、宣伝するものがあるでしょ?
 
H:どうぞ!
 
惣:急に…宣伝っていうところでつながったのかな。
 
O:急にですね…
 
H:うん。
 
O:あの…Li'l Daisyからボー・ハンクスのですね…突然、なんなんでしょう、これ。
 
惣:ヘンな流れ…(笑)
 
O:レイモンド・スコットのカヴァー集というのが、2作品。
 
H:貴重ですよ、これは。
 
O:出しましたが…
 
H:ボー・ハンクスは廃盤になってて、本国オランダの…イディオットじゃなくて、BASTAレーベルでは廃盤になってますから、それを日本で出したのが…
 
O:アタシです(笑)
 
H:そうですよね。宣伝になってるかな?
 
惣:なったんじゃないですか、今。急に。
 
H:ぜんぜん話題になってないからね。
 
O:ぜんぜん話題になってないですね(笑)
 
惣:細野さんは聴かれたんですか?
 
H:聴いたよ。だって、もトもと聴いてるし。声がひっくり返っちゃった(笑)
 
O:あの…こう、手元に持っておいてもらいたい感じのですね、美麗なブックレットになっておりますので。
 
惣:美麗ね!
 
H:そうだ、ブックレットがなかなかいいんだよね。
 
O:ご家庭に一つ、二つ、三つと…
 
惣:必死だね岡田くん。がんばってんの?
 
H:家庭が無いよ、みんな。家庭が無い。
 
O:あの、話題がブレブレなんですけど(笑)まあいいんですけど。
 
H:じゃあもう、これで一つ、宣伝は締めといて。どうぞ。
 
惣:宣伝から戻っていいですか?(笑)
 
H:そうだよ、音楽かけなきゃね。じゃあ1週目の最後に音楽を。
 
O:じゃあそのボー・ハンクスのアルバムから…有名なところで"Powerhouse"を。
 
H:あ、"Powerhouse"。オッケー。では、またこの続きは来週ね。お願いします。
  
 
Powerhouse - The Beau Hunks Sextette
(from『Celebration on the Planet Mars』)