2018.04.08 Inter FM「Daisy Holiday!」より

4/8放送分におけるピアノロールの掘り下げが個人的に嬉しすぎたので…

 

daisy-holiday.sblo.jp

 

H:こんばんは、細野晴臣です。今日は久しぶりにまた、岡田君を招いてですね、どうぞ。

 
O:こんばんは岡田崇です。よろしくおねがいします。
 
H:最近僕はずっと仕事に没頭してて…外部の音楽聴いてないんだよね。久しぶりにね、今日はリスナーに徹して…
 
O:おや…(笑)
 
H:というのは、ノヴェルティ音楽の…何ていうの、ヒストリーみたいなものが、今日聴けるんじゃないの?
 
O:ちょっと調べてきて…もともとZez Confreyという、"Dizzy Fingers"の作曲家のことを特集しましょうという話が。
 
H:そうだよね。それが今日だ。んー。
 
O:それをまあ、ちょこちょこ調べていたので、その途中経過というか。
 
H:なるほど。じゃあそのコンフレイ…名前なんだっけ?
 
O:Zez(ゼズ)。
 
H:ゼズね。Zez Confreyのピアノで、"Dizzy Fingers"っていうのを聴かせてもらおうかね。
 
O:はい。
 
 
Dizzy Fingers - Zez Confrey
 
 
H:なるほど。思うにね…このオリジナルってあの、ラグタイムね。
 
O:そうですね。
 
H:うーん、いま初めて知ったよ(笑)ノヴェルティっていうよりもその以前に。
 
O:そうなんですよ。「ノヴェルティ・ラグ」と言われた…「ノヴェルティ・ピアノ」と呼ばれたジャンルなんですね。
 
H:やっぱりそういうのがあるんだね。何年ごろ、これ?
 
O:これが作曲されたのが1921年。今のはピアノロールなんですけど、それが(発表されたのが)1926年。
 
H:あ、これ今聴いたのはピアノロールね。自動ピアノね。
 
O:自動演奏ピアノです。
 
H:どおりで。オクターブの音が入ってて、一人じゃ無理だろうと思った。
 
O:Zez Confreyって、1895年の4月3日生まれなんですけれども…もう、こないだですね、誕生日。
 
H:つい最近だね。
 
O:そうですね。で、ショパンとかバッハとか、クラシックから入って、ちゃんと音楽大学に行って。
 そこでフランス印象派とか…ラヴェルとかドビュッシーとかに影響を受けて…お兄さんと一緒にオーケストラを率いて、ホテルだとかボールルームとかで演奏していて。で、あの…第一次世界大戦が。
 
H:すげえ昔だな(笑)
 
O:第二次じゃなくて(笑)で、海軍に行って演奏してたんですけど、終わって退役後、ピアノロールの会社に…1918年に。
 
H:そうかそうか、当時流行ってたんだね。
 
O:そうなんですよ、大ブームで。 で、その頃にはあのもう…その前、最初の、出たての自動演奏ピアノというのはパンチで、「ステップ・レコーディング」というんですかね、シーケンサーで言うと。
 
H:コンピューターと同じだよね(笑)
 
O:そうですね、あの、テクノなのでほとんど。で、1910年代中盤には「リアルタイム・レコーディング」というのができるようになってきて。
 
H:弾きながらパンチを開けていくって言うやつね。
 
O:作曲者が弾いたものをパンチしてって…あの、跡を付けていくみたいで、跡を付けていったところを後からちゃんと穴を開けるみたいな。そうしないとちょっと…
 
H:穴を開けるのは大変だよね。
 
O:で、そこでちょっと微調整したりしながらピアノロールを作っていったというんですけど。なので、Zezはピアノロールの会社に入って1921年にこういう、この辺の曲を書くんですけど…要は「ピアノロールのための曲」なんですよ。
 
H:弾きにくいからね。弾けないよね、普通(笑)
 
O:超難しい…(笑)あのー、ラグタイムとノヴェルティ・ラグの違いというのがそこで。ノヴェルティ・ラグというのは基本的に機械ピアノのために作られたもの。
 
H:コンピューターミュージックだね、本当にね。
 
O:難解なものが多くて…要は…ラグタイムって当時、すごい流行ってましたけど、「譜面」なので当時、レコードじゃなくって。
 
H:そうだよ。まだ1915年…
 
O:音楽の伝播の仕方というのが、「譜面をみんな買ってアマチュアの人がピアノで弾く」というのが。
 
H:だから出版社が勢いがあったわけでね。
 
O:そういう感じなので、わりとラグタイムって簡単な曲が多いんですけれども、ノヴェルティ・ラグになるとその…自動ピアノのすごさとかも知らしめないといけないので。ちょっと難解な曲になってきたりするわけですね。
 
H:なるほど、宣伝も兼ねてね。
 
O:で、その中のラグタイムをノヴェルティ・ラグと言って…その前、1915年ぐらいとかだとストラヴィンスキーが自動演奏ピアノのための曲を作ってたりとか。
 
H:なんか…すごいみんな面白がってたんだろうね、当時ね。画期的だったんだろうね。
 
O:もう…ピアニストじゃ弾けないものを作曲しちゃう、というのが面白かったんじゃないですかね。
 
H:いやぁ、"Dizzy Fingers"という曲を最初に知ったのは『Eddy Duchin物語』っていう、日本タイトルは『愛情物語』か。
 
O:Carmen Cavallaroが…
 
H:うん、Carmen Cavallaroがバックで弾いてるんですけど。すごい上手かったね、それがね。
 それからずっと聴いてるんだけど、今の話は初めて今日聞くんだよね。
 
O:この曲…ノヴェルティ・ラグの曲を実際にピアノで弾けるっていうことがもう、すごいっていうことなんじゃないですかね。みなさん弾きたがるんじゃないですかね。
 
 
H:じゃあなんかその…Zez Confrey、その流れをちょっとまた聴かせてください。
 
O:試しにですね、ストラヴィンスキーの自動ピアノの曲を。
 
H:これはなかなか珍しい。
 
O:ピアノラ(Pianola)っていう機械があって、自動演奏ピアノの。「ピアノラのための練習曲(エチュード)」というのを
 
Etude pour pianola - Igor Stravinsky
 
H:これは難解だ(笑)
 
O:ストラヴィンスキーはたくさんピアノロールを残していて…要は、自分の作品を間違った解釈で弾かれるのがイヤだ、っていう発想で…(笑)
 
H:まあ、すごいツールだよね。
 
O:で、その"Dizzy Fingers"とかを出版した出版社というのはですね、例のごとくですね…Mills Musicなんですね。
 
H:あー、出てくるね(笑)
 
O:当時はまだJack Mills Musicって言って、Jack MillsというのはIrving Millsのお兄さんで。兄弟で出版社をやってて。
 
H:ここら辺の話は…語られたことがないね(笑)
 
O:なかなか…そうですよね、映画にでもなってるといいんですけど。
 
H:注目してないんだよ、誰も。
 
O:George Gershwinの伝記でも、この辺りにはね…
 
H:出てこないでしょ?
 
O:出てこないですね。
 
H:大事な話だよね。音楽的に、音楽史の中で。
 
O:けっこう面白い部分だと思うんですけどね。…で、さっきガーシュインの名前が出ましたけど…ガーシュインピアノロールの部署に入ってるんですね。 最初ソング・フラッガーで、出版社でピアノを弾いてお客さんに曲を紹介するという。
 
H:ガーシュインの伝記のハリウッド映画にもそういうシーンは出てくるよね。
 
O:そうですね、そこのシーンはあるんですけど。その後、自動ピアノのところは端折られてるんですけれども。
 
H:自動ピアノは出てこなかったね。
 
O:出てこないですね。でも、一番最初の冒頭のシーンでお店の、店頭で自動ピアノが動いているのをガーシュインはこう、 見ながら鍵盤を触ってるんですよね。そこで自動ピアノが出てくるんですけど。
 
H:あー、そうだったっけね。
 
O:ガーシュインがZez Confrey…Zez Confreyは1921年からけっこう人気作家になってて、ガーシュインはもちろん舞台の音楽で人気があって。 1924年にポール・ホワイトマンが例の"Rhapsody in Blue"のコンサートを開くんですね。
 
H:有名なやつだね、それね。
 
O:で、それのタイトルが「Experiment in Modern Music」という。そのタイトルで、こういうノヴェルティ・描写音楽とジャズ・シンフォニーを融合させていこう、みたいな。そこでフィーチャリングされているのがZez Confreyと、ガーシュイン。この二人が。
 
H:なるほど。
 
O:で、そのですね、『アメリカ交響曲』というガーシュインの伝記映画。その中で…ちょうどそのコンサートのシーンが最後あるんですけど。
 
H:あるね。ピアノ弾いてる人、誰だと思ってる?
 
O:あれが…えっと…名前が出てこないな。
 
H:違う人ね。Zezじゃないんだね。
 
O:Zezじゃないですね。あの…あの日って、大雪のシーンなんですけど。 コンサート最後、"Rhapsody in Blue"の前にポール・ホワイトマンが袖に来て、 ド緊張しているガーシュインに向かって「外の気温はどうだ」って言う。そうすると(ガーシュインが)「零度です」、 (ポール・ホワイトマンは)「観客はマイナス10度だよ」って言うんですよ。
 
H:(笑)
 
O:そう言うセリフがあって。
 
H:それ映画ね?
 
O:映画です。まあ脚色されてると思うんですけど、その前ってZez Confreyが演奏しているはずなんで…(笑)
 どういうこっちゃってポールホワイトマンにツッコミを入れたくなるシーンなんですけど。
 
H:なるほどね…その、ガーシュインのなんかあるんですか?
 
O:じゃあガーシュインの…プレイヤーピアノのやつをちょっと聴いてみましょうか。
 
Rialto Ripples - George Gershwin
 
 
H:これもラグだね。ポップミュージックになる前夜はラグなんだね、みんな。ラグタイムスコット・ジョプリンが有名だった。それにしても今の…パンチ、穴開けていくやつね。職人、ちょっとヘタだったね(笑)なんかズレてるよね。
 
O:難しいですよね、パンチ。
 
H:いやいやいや…なんか身につまされるっていうか。ついこの間まで僕映画音楽の仕事やってて、ピアノをやっぱり自動演奏させてたから…(笑)なんかこう…遠い話じゃないんだよな。
 
O:そうですよね。機械でやらせるための音楽を作ってて、だんだん生の時代になって…今また機械に戻ってきているという。
 
H:日本のメーカーだってピアノの自動演奏、有名ですもんね。まあ、あれと同じことなんですけどね。
 
O:そのポール・ホワイトマンが「Experiment in Modern Music」というコンサートのシリーズを1924年からずっと続けていて… 1938年に第8回というのがあって、それが最終回になるんですけど。そこで紹介されるのが…レイモンド・スコットなんですね。
 
H:続いちゃうね、繋がっちゃうね。
 
O:その最後の回に紹介されているのがバート・シェフター(Bert Shefter)だとかウォルター・グロス(Walter Gross)だとか、 モートン・グールド(Morton Gould)…わりとこのラジオでレイスコっぽい曲をやってる人たちとして紹介してる人たちが、みんなその日に。
 
H:やっぱりそれが原点なのね。みんなびっくりしちゃったんだね
 
O:だから、まあポール・ホワイトマン的にはそういう…最初ノヴェルティ・ラグとジャズの融合を目指して、そういうノヴェルティ・ミュージックとか描写音楽を突き詰めていって、若い人を色々集めていって、紹介していって…
 
H:大事な仕事をやってたんだね。
 
O:最終的にはレイモンド・スコットを紹介して終わるという…
 
H:すごいじゃん。ポール・ホワイトマンってそんなに僕あの…買ってなかったんだけど(笑)
 
O:ポール・ホワイトマンの本人の作品でこれ!っていうのはないんですよ。
 
H:本人作品ではぜんぜん…知られてないからね。
 
O:でも、裏方の人間としてはすごいプロデューサーで。
 
H:ガーシュインもやっぱりポール・ホワイトマンによって有名になっただろうし、なかなか…ね、大変な人だったんだね、知らなかった。
 
O:ポール・ホワイトマンの映画を観てもイマイチその辺が伝わってこないんで
 
H:なんか見た目が信用できないっていうか…(笑)
 
O:ちょこちょこ出てきますよね、映画に。
 
H:おもしろいよ。キャラクターがおもしろいんだよね。画になるんだよね。
 
O:ビックス・バイダーベックBix Beiderbecke)の映画とかにも、ホーギー・カーマイケルと一緒に出てきたり。
 
H:似顔絵が有名だよね。ちょび髭のね、太っちょの。
 
O:絵にしやすい顔なんで、丸顔の。
 
H:でもそうか、その人が…ポール・ホワイトマンがレイモンド・スコットを紹介して、それが、まあ起爆(剤)になったっていうかね。 そこからみんなが影響され出したっていうことだね。
 
O:そんな気がするんですよね。
 
H:繋がってますね。そこが、今に繋がってますよね。
 
O:そうですね。「おおそういうことか!」って。
 
H:影響されてるよね。
 
O:ぜんぜんそういうのと関係なしにZezさんを調べていったら、そこになんか…
 
H:なるほどね。人間って面白い。ね。何かやってんだ、みんなね(笑)
 
 
O:また繋がってきちゃったよ、って。
 
H:まあ一人ひとりそうなんだろうね。まだ名前も知られてない人にもそういう人がいるんだろうな。
  じゃあ続きをちょっと聴かせてください。
 
O:じゃあZezさんの演奏も聴いてみましょうか。あ、じゃあ、あのですね…Zezさんの歌声っていうのを。
 
H:歌ってんの?んー…(笑)
 
O:やめときますか。
 
H:いやいやいや…
 
O:じゃあ先に…ピアノロールがあって。"That's Old Piano Roll Band"っていう曲をピアノロールでやっていて。
  これは未発表のものだったらしいんですけど。
 
 
That's Old Piano Roll Band - Zez Confrey
  
 
H:これってあの…ピアノだけじゃない音が聞こえるんだけど。なんか弦のような。
 
O:ピアノでやってんじゃないですかね。
 
H:なるほどね…へえ…色んな技があるわけだ。おもしろい。僕もやったけどねこういうの、ついこの間。
 
O:そうなんですね、映画音楽で…
 
H: そうなんです。えーっと、そろそろ時間なんだけど…歌ってるっていうのは次の回にまわして、えー…
   僕にとってそのZez Confreyは"Dizzy FIngers"ですよ。期せずして今日はラグタイム特集みたいになっちゃったけど。
 
O:そうですね(笑)
 
H:本当はそっから先がね、ヘンなことになっていくわけでね。それ、来週聴きたいんだけどね。
 あのー、Eddy Duchinってやっぱりね、ジャズピアニストっていうか…何ピアニストっていうの?こういうの。
 
O:なんていうんですかね?
 
H:まあCarmen Cavallaro…映画ではCarmen Cavallaroが弾いてて、『Eddy Duchin物語』の中でね。 で、本人の、Eddy Duchinのレパートリーが…"Dizzy Fingers"がすごいこう、有名だったわけでしょう。じゃあそのEddy Duchinの"Dizzy Fingers"を、今日は最後に聴きながら、また来週ということで。
 
 
Dizzy Fingers - Eddy Duchin