2021.12.12 Inter FM「Daisy Holiday!」より
H:こんばんは。細野晴臣です。きょうは…1年ぶりですね。今頃の時期に来て頂いていた、くく?ここ?くくだね(笑)
2人:(笑)
原田:くくくです。
H:くくくだね(笑)原田郁子さん、角銅真実さん。いらっしゃいー。
2人:おじゃまします。
H:だいたい2年前もこの時期に…年に一度来てくれるね(笑)恒例になってきたね。
原田:今年が終わるなぁ、と思うと…
H:そうすると思い出すのかね(笑)最近はどうですか?一人ひとり近況報告をお願いします。
角銅:どうですか?
H:じゃあ、郁子ちゃんからですね。
原田:えーと…クラムボンというバンドをやってるんですけど、そのライヴが…今年のいつぐらいからかな?だんだん少しずつできるようになってきて。3本だけツアーをやることが…
H:これから?
原田:ううん、もう秋に終わって。去年延期していたものを…
H:あ、もう終わったんだね。延期して今年になった…みんなそうやってるなぁ、最近。ライヴ活動がだんだん増えてきていい傾向ですよね。
原田:このまま続いてくれたらなぁ、と思うんですけど。
H:そうなんだよなぁ。いま日本はすごく安全じゃない?でもなんか、世界では変なことが起こってるよね。なんかイヤな感じだよね。
原田:どうなるんだろう…
H:それでは角銅さん。
角銅:私も旅してライヴをする機会が増えて…新幹線とか飛行機とか。
H:お、乗ってる?
角銅:乗ってどこかへ出かけて。
H:それはグループで?
角銅:はい。サポートしているバンドだったりとか、ソロでとか。
H:どういう場所に行ってますか?
角銅:最近は大分の中津というところに…
H:温泉?
角銅:温泉入りました。
H:温泉行きたい…行ってないんだよね。
原田:行ってないですね…行きたいなぁ。
H:温泉が日本の中でいちばん好きかもなぁ。僕はこないだ大阪に2回ほど行ってて…11月になったら急に忙しくて。大阪に1週間いたのね。
原田:へぇ!
H:そのときにチンチン電車に乗ったり。大阪っていいねぇ、と思って。はてしなく続いてる商店街があって…ブラブラ歩いてると8000歩ぐらいになっちゃう(笑)歩ける街だなぁと思って。
原田:そんなに長く滞在するのってひさしぶりですか?
H:外国みたいだよね、1週間ひとつの街にいるって。2年前はニューヨークとかにそのくらい行ってたけど、国内は…例えばライヴで行くと1泊とかで移動しちゃうでしょう?だから1週間なんて初めてで。街って1週間ぐらいいるとおもしろい。発見があって。
原田:ようやく馴染んでくるものがありますね。
H:そうそう。だからついお客さんの前で「住みたい」なんて言っちゃって…
角銅:(笑)
原田:それはうれしいだろうなぁ。
H:んー、なんか喜ばれたけど、どこ行っても「住みたい」って言ってるから(笑)
2人:(笑)
原田:そう、少し前に…実家が福岡なんですけど、やっと、2年半ぶりぐらいに帰れました。
H:みんなそうだよね。みんな帰れない感じが続いてたよね。
原田:ちょっと帰れる兆しがあるかなと思うと、もうちょっと待とうかな、みたいな。短くて、お墓参りに行ったり親戚のあいさつに行ったら終わっちゃったんだけど…(笑)でも嬉しかったですね。
H:ご両親は?
原田:うん、元気です。
H:あー、よかったね。角銅さんは東京でしたっけ?あれ?
角銅:私は長崎です。
H:そうだ!いいところだよな、皆さん。九州人だね。
原田:帰れてる?
角銅:帰れてないんですよ。もう、しばらく帰ってない…ですね。
H:そういう人多いね。僕は東京だから、いつでも帰ってる状態なんだけど(笑)
原田:住んでいた家というか場所はここ!っていうのがあるんですか?
H:うん、ここだよ。
角銅:!
原田:ここ?!
H:うん。このスタジオじゃないけどね(笑)この場所に古い家があって、その地下を掘ってスタジオにしてるけどね。ここで育ったんですよね。
原田:へぇー!
角銅:きょう、このスタジオに来る前に2人で周りをずーっと散歩してて。
原田:そうそうそう。
角銅:細野さんって小さなとき、この辺で遊んでたのかな?とか…
H:遊んでたよ(笑)いまイチョウ並木がすごく…ちょうど盛りなのかな?
角銅:うん、きれいでした。
H:僕が子どもの頃はあの道がなくて、イチョウもなかったの。わりと長屋っぽい家が並んでて情緒があったんだけど。
原田:なんか、坂が多くておもしろいですね。
H:まぁ、東京は坂が多いよね。大阪は真っ平だね(笑)
角銅:あー、たしかにそうかもしれない!
H:京都もそうだし、ニューヨークとかもね。真っ平なところにみんな街を作るんだね。東京ってめずらしい。
原田:あの映画をね、それぞれ観てきました。昨日。
H:あ!観てくれたんだ!
角銅:まだ余韻の中に…
H:いやー、なんか…どうでしたかね。
角銅:なんて言っていいかわからないんですけど…ライヴで曲が終わるたびにこうやって拍手してました(笑)
H:ほんと?うれしい(笑)観てる感じになるもんね。
原田:不思議な気持ち。
H:なんとなくわかる。僕もそうだよ。すごく不思議。
原田:細野さんもですか?ご自身で?
H:なんか現実感がないんだよね、あのライヴ映像とかね。やったことは確かだけど(笑)その後、2年間モードが変わっちゃったから。遠い存在になっちゃって、あの時期が。夢を見たみたいだね。たぶんそうなんじゃないかな?夢なのかもしれない(笑)
角銅:(笑)
H:現実でやったという実感がないんだよね。
原田:お客さんの表情とか歓声とか、それを見てるだけで胸がいっぱいになってしまって。
角銅:ライヴを待ってる人とかね。
H:それは僕もちょっと感激しましたけどね。初めて知った気がする。彼らがなにを考えてるか。
原田:そっか。今はきっとSpotifyとかで…細野さんの音楽を何かのきっかけで知ったときに、これまでのアルバムとか音がぜんぶそこには広がってるという…お客さんたちの表情を見て自分もその感覚になってみて。ああ、いっぱい入口にがある、楽しいだろうなぁ、と思いました。
H:でっかい遊園地みたいなもんだね(笑)
原田:え!これも細野さん?これも細野さん?という。
H:自分ではよくわからないんですけど。ひとつ言えるのは、もう50年もやってるとそうなっちゃうっていうことだね(笑)当時はインターネットもないし、誰も聴いてくれていないと思ってやってたわけだから。ありがたいよね、今の時代はね。
原田:音楽って出会うタイミングはそれぞれなんだけど、いつもそこには入り口があって…時間とかを超えて出会えるのかな、と思って。うれしかったです。
H:それはもう、僕もうれしいです。だから、皆さんも聴かれてるからね。
2人:!
H:気を付けないとね(笑)ぜったい聴いてるから、世界中で。だから手を抜いちゃダメっていうこと(笑)
原田:聴いてくれていた人の存在が初めてわかった、という感じですか?あの映画は。
H:そう。ほんとにそうです。漠然としてたからね。なんとなく、日本のシティ・ポップが人気あるというのは知ってたし、その中で僕は色々やってたから皆さんも名前を見つけるだろうし。そういうことは知ってたけど、具体的には…最初はね、ヴァンパイア・ウィークエンド(Vampire Weekend)が"花に水"っていう僕が忘れていた曲を使ってくれたりしたのが2018年ぐらいだったかな。そこら辺から具体的になってきた。で、ロンドンにある放送をやってる組織があるんだけど、このラジオも時々そこでかかったりするっていう。
2人:へぇ…
原田:おーい(笑)
角銅:おーい(笑)
H:(笑)
2人:(笑)
H:日本語だけなのによくやってくれてるなぁ、と思うけどね。でもすごく興味を持たれてる。だから、なんだろう…うかうかしてられないっていう感じ(笑)
H:…あ、静かになっちゃった(笑)
2人:(笑)
H:なんか曲、聴かせて。
原田:ありますか? 角銅さん。
角銅:ありますか?
H:譲り合い(笑)日本の文化ですね。
原田:じゃあ、今年作った曲を聴いてもらってもいいですか?
H:聴きたいです。
原田:寺尾紗穂さん。
H:うんうん、寺尾くん(寺尾次郎)の娘さんね。
原田:音楽家で、ピアノと歌の方ですけど…ライヴでは時々いままでも対バンしたり、一緒に連弾したことはあったんですけど。初めて曲を一緒に作って。
H:へぇ。
原田:寺尾さんと原田郁子の連名で…え、聴いてもらっていいですか?
H:聴きたいから(笑)
角銅:(笑)
原田:1曲あると思いますが…これは傘を全部手作りで作っている人たちがいて。雨傘も日傘も…
H:傘?へぇ!浪人みたいだね。
原田:そのイイダ傘店という傘屋さんがなかなか…今までは展示会をしてたのがコロナの所為でできなくて。で、映像で自分たちの新作を発表して受注するという初めての試みで、それに併せて傘の曲を作ったんですけども。それぞれの家で往復書簡みたいに…歌詞はぜんぶ寺尾さんが書いてくれて、それにちょっとずつお互いがメロディーと曲を…
H:楽しそう。いい方法だね。
原田:じゃあここまでやったから続きをどうぞ、という風に。なのでずーっと完成させないまま…何日かパパパッと往復してできた曲です。
H:それはどこで完成した、って決めたの?
原田:できたかな?ってメールしたら「できたね」って(笑)
角銅:(笑)
H:いいよね。理想的。
原田:じゃあ、聴いてみてください。
H:お願いします。
H:いやいやいや…なんともやさしい歌です。
原田:"傘の向こう"という曲でした。
H:いいね。傘が好きになるね。
原田:曲作りはそれぞれの家だったんですけど、スタジオに行って作ったパートは…ピアノを弾いたり。で、家の音を使うパートもあったり。
H:いろんなモードが重なっておもしろいな。
原田:寺尾さんの声は本当にファルセットできれいに…空が高いようなイメージがわく声で。自分はとってもくぐもってるんですけど、その2人が声を出したときにちょっと陰影が出てくるというか…天気みたいに、急に曇ってきたなぁ、と。
H:なるほどね。変化があって…次どうしようか、って作った感じがすごくいいよね。
角銅:刺繡みたい。
H:そうそう。
原田:去年、自分のおうちでやってるときに…ミュートピアノ?アップライトとかで音を少し消音にする。あの音がすごくちょうどよくて。最初といちばん最後のアルペジオとか…
H:不思議な響きがしていたところだね。
原田:丸みのある…たぶんフェルトがハンマーの間に来るから、ちょっと丸くなるんだと思う。
角銅:なんかコショコショって音が…(笑)
原田:ありがとうございます。
H:どうもありがとう。
H:じゃあ次はね、角銅さんの番です。
角銅:はい。私自身の曲じゃないんですけど、ラッパーの環ROYさんという方の曲をリミックスしてください、と言われて。したことなかったんですけど、声だけ残して…"憧れ"という曲が…
H:それはちょっと楽しみだね。
憧れ (角銅真実 Remix) - 環ROY
H:…おもしれぇ(笑)こういうラップ聴いたのは初めてかも。
角銅:環さんは…このリミックスをしてくれませんか?というお便りをくれるまではあんまりお話したことなくて。でもライヴはすごく好きで、何回か話したぐらいで。
H:環さんが頼むということはこういう感じを欲してたってことかな?
角銅:どういう感じにしたかったのかわからないんですけど、環さんが聴いたときに驚くか笑ったらいいな、っと思いながら…
H:どうだった?
角銅:なんか、笑ってました(笑)楽しい感じ!
H:笑ってた?新鮮だよ。
原田:おもしろい。
角銅:これも家でマイク1本で…ピアノとかは録って。
H:あ、ほんと?弦の音は?
角銅:これはチェロで、チェロは家に来てもらって、それもマイク1本で…
H:なんか、風の音みたいのが入ってたね。
角銅:~~~…息の音(笑)
原田:すごい、耳のそばでしたよね(笑)
H:そうそうそう(笑)
角銅:たまにボッ!とか鳴ってるかも(笑)
H:いやー…斬新ですね、皆さん。
2人:(笑)
H:年末だけど、もう来年の話になっちゃうよね。どうしてるのかね、来年。
角銅:どこか…遠くの国に行ったりもしたいですね。
H:そうだよね。なんか、今のナントカって変異株でまた行けなくなりそうで。なんなんだろう、これ。まぁでも日本はなんとなく安定して…国内は大丈夫なのかね?
角銅:祈ります。
H:ね。お祈りしよう。では、時間が来ちゃったね。
角銅:あっというま…
H:また来年の今頃…とは言わず(笑)何度も来てください。
原田:ありがとうございます。
H:原田郁子さん、角銅真実さんでした。どうもありがとうー。
2人:ありがとうございました。
2021.12.05 Inter FM「Daisy Holiday!」より
手作りデイジー🌼#27
(以下、すべてH:)
はい、細野晴臣です。今年最後の手作りデイジーということになります。1960年代をずーっとやってきまして、いよいよ最終段階ですね。70年代からははっぴいえんどを始めるんですけど、その前に聴いていたロックバンドのバッファロー・スプリングフィールド(Buffalo Springfield)、そしてモービー・グレイプ(Moby Grape)。これらを特集したいと思ってます。
まず"For What It's Worth"。これはバッファロー・スプリングフィールドのスティーヴン・スティルス(Stephen Stills)が書き下ろした1966年の作品で、1枚目のアルバム(『Buffalo Springfield』)に収録されています。これはヒットしまして、7位まで上がったんでしょうかね。この歌は1966年にハリウッドのサンセット・ストリップという地区…クラブがいっぱいあったんですけど、騒がしいということで規制がかかってしまいまして。それに抗議する若者がいっぱい集まって、ちょっとした暴動になってしまったんですね。それをテーマにスティルスが作ったわけです。後世ではプロテストソングとして人気のある曲でパブリック・エネミー(Public Enemy)がカヴァーしたり…なかなか今の時代にも通じるような内容だと思うんです。
そして次が"Bluebird"。これもシングル盤で買ったんですね。非常に短かったんですけど、アルバムではロングヴァージョンが入ってます。今回はそれをかけますね。
For What It's Worth - Buffalo Springfield
(from『Buffalo Springfield』)
Bluebird - Buffalo Springfield
(from『Buffalo Springfield Again』)
1967年に出たシングル盤ですね。この"Bluebird"の「Blue」というのは当時スティルスが付き合っていたジュディ・コリンズ(Judy Collins)の目の色だと言われています。僕は数年前に1回録音してますね。まだ未発表なんですけど、そのうちまとめたいと思います。
次はこの"Bluebird"のシングル盤のB面に入っていた、ニール・ヤング(Neil Young)の"Mr. Soul"。
Mr. Soul - Buffalo Springfield
(from『Buffalo Springfield Again』)
Mr. Soul - Haruomi Hosono, Shigeru Suzuki, Tatsuo Hayashi
はい。何を隠そう、この歌は僕が歌ってるんですね。ベースを弾きながらですけど。ドラムスが林立夫、鈴木茂がギター。これは友人の家のパーティで演奏している…カセットだったかな、残ってるんですね。ちゃんとお聞かせするにはまだちょっと用意が出来てないんですけどね。まぁ片鱗を聴いてください。
さて、次がバッファローの最後の曲なんですけど…まぁホントは全部かけなきゃいけないんですが、特に影響された曲をかけます。これは本当にはっぴいえんどに直接影響した曲だと言えますね。"Questions"。
Questions - Buffalo Springfield
(from『Last Time Around』)
次からはモービー・グレイプです。2枚目のアルバム『Wow』から、スキップ・スペンス(Skip Spence)の作品"Motorcycle Irene"。これは松本隆のドラムにすごく影響を与えています。
Motorcycle Irene - Moby Grape
(from『Wow』)
モービー・グレイプはサンフランシスコで1967年に結成されました。ですから、サイケデリックバンドの一つとして出てきたんですね。その本領を発揮したのが"Fall On You"。
Fall On You - Moby Grape
(from『Moby Grape』)
曲作りはバッファローで…プレイヤーとして影響されたバンドがこのモービー・グレイプですね。しかし、その中にピート・ルイス(Pete Lewis)というフォークシンガーが参加してまして。はっぴいえんどにかなり影響を与えたと思います。曲は"He"。
He - Moby Grape
(from『Wow』)
はっぴいえんどを作る前に初めて大瀧詠一くんと会ったとき、僕の部屋に置いてあったシングル盤を名指して「お!"Get Together"!」と言いました。ザ・ヤングブラッズ(The Youngbloods)の"Get Together"です。
Get Together - The Youngbloods
(from『The Youngbloods』)
大瀧くんの話が続きますけど。彼が初めてやったきたとき、そのスタイルにビックリしました。ビー・ジーズ(Bee Gees)そのものだったんですね。ではそのビー・ジーズ、1967年のヒット曲、"New York Mining Disaster 1941"。
New York Mining Disaster 1941 - Bee Gees
(from『Bee Gees' 1st』)
さて、これで最後の曲なんですが、この続きは…え、続きがあるんだ、信じられない(笑)来年また、はっぴいえんどの初期から中期にかけての…まぁそこら辺で終わるんじゃないかなと思います。お楽しみに。それでは、1967年当時に大瀧詠一、仲田佳彦と3人で「Lamp Post」というグループをちょっとやってましたけど。そのLamp Postの元になったのがこのサイモンとガーファンクル(Simon & Garfunkel)の"59番街の歌(The 59th Street Bridge Song)"です。
The 59th Street Bridge Song (Feelin' Groovy) - Simon & Garfunkel
(from『Parsley, Sage, Rosemary and Thyme』)
2021.11.28 Inter FM「Daisy Holiday!」より
前田:こんにちは、TV Bros.編集部の前田と言います。きょうはちょっとイレギュラーな形なんですけれども、細野さんと岡村靖幸さんとの対談を雑誌のほうで企画しておりまして、その対談をそのままラジオでも流す、という趣旨でやっていこうと思っています。後日これがTV Bros.の岡村さんの連載「あの娘と、遅刻と、勉強と」に載りますし、こうやってオンエアにも流れるということで…やっていこうと思います。細野さん、岡村さん、よろしくお願いします。
岡村:お願いします。
H:よろしく。
@@@@@@@@@@@@@@@@
前田:岡村さんは細野さんのすごいファンで。
岡村:そうですね。
H:そうなの?ぜんぜん知らない…(笑)
岡村:何回かお会いして伝えてはいるんですけど、「初めてだね」ってさっき言われて…(笑)
H:傷ついてる?(笑)
岡村:完全に傷ついてますけど(笑)
H:いや、誰に会ってもそうなの。記憶がない。
岡村:レストラン…キャンティ(CANTI)でお会いして。
H:あ、キャンティか。
岡村:普段だったら僕も近寄ったりは絶対しないんですよ?ちょっとほろ酔いの力を借りて近寄って…お慕い申し上げてます、尊敬してます、とひとことだけ言ったり…あと、DJのイベントで出させて頂いたりとか。
H:そうなんです、それはもちろん憶えてます。観てたんで(笑)
岡村:あ、ほんとですか!それは憶えてくれてるんですね(笑)
H:会ったという感じじゃない、観てたから(笑)
前田:だからまぁ、憶えていなかったことも含めて、ちゃんと面と向かって話しましょう、というのはこれが初めてなんですよね。
H:そうそうそう。うん。
前田:なのできょうはちょっと、積年の聞きたいことのエネルギーが溜まってると思うので…
岡村:尊敬しすぎて難しいとは思うんですけど(笑)
H:そうなんですか…
岡村:きょうは時間が限られてるので…話したかったのは細野さんの音楽のすごくミステリアスな部分、セクシーな部分にフォーカスしてしゃべりたかったんですけど。
H:どうぞ、なんなりと。
岡村:"ファム・ファタール"とか"ハリケーン・ドロシー"とか、"アンドロジーナ"とか。「なるほどこういう感じで作ったんですね!」というのが全然わからない(笑)わからないんだけど、とっても色っぽくて。セクシーで。ああいうものについて…どうやって作ってらっしゃるのかが想像もつかないんですよね。
H:…わかんないなぁ(笑)自分の場合はどうなんですか?どうやって作ってるか説明できるんですか?
岡村:んー、だいたいは何かに影響を受けてリズムから作ってみようか、とか。
H:ああ、それはおんなじだね。
岡村:そうですか。
H:1980年代の色がすごく強いじゃないですか。ざっと聴いてて…最近作も聴いたんですけど、"ぐーぐーちょきちょき"だっけ?あれがすごく好きだったんで(笑)
岡村:あ、ほんとですか!
ぐーぐーちょきちょき - 岡村靖幸
H:あれが最近作だというのがなんか…おもしろいよね。
岡村:ほんとですか。光栄の極みとしか言いようがないです。
H:それまではわりとダンスビートが多かったでしょう?"ぐーぐーちょきちょき"はちょっと色が違いますよね。あれはどういう?
岡村:あれはNHKの「みんなのうた」からリクエストがあって、子ども用に、と。
H:あ、それでね。
岡村:でも、ダンスビートも本当は細野さんがやってきたことの影響下にあるんですけどね。
H:80年代だったらそうだね。やってたからね。
岡村:『S-F-X』とかにはびっくりするぐらい影響を受けていますし。
H:そうですか。いやいや、なんだか光栄というかなんというか…恥ずかしいですね。
岡村:"アンドロジーナ"とかはどうやってるんだろうな、とか思いますね。
H:あれはなんなんだろうなぁ…どこから来てるんだろう?自分でもわかんない(笑)
岡村:コード進行とかはちょっとどうなってるのかまったくわからない…アラビックな感じもあるし。
H:そうね、ちょうどあの頃はワールドミュージック…そんなような時代だったしね。
岡村:妖しい感じ、妖艶な感じが…
H:特にあのアルバムは自分ではあんまり…どうやって作ったのか憶えてないんだよなぁ。
岡村:そうですか。でもあの中にはものすごいパワーが凝縮されてて、いま聴いても圧倒されますね。
H:ああいう元気はもうないんですよ、いま(笑)
岡村:(笑)
H:あれは30代だったかな。で、岡村さんはいま…年代で言うと僕よりずいぶん下ですよね。
岡村:僕は1965年生まれです。56歳?
H:そうか。じゃあYMOの頃は何歳?
岡村:中学1年生くらいですね。
H:あ、やっぱり。その時期ってすごく吸収力があるからね(笑)
岡村:もう、YMOはモロに吸収してましたね。
H:それはわかります。なんか申し訳ない感じが…(笑)
岡村:いやいや…(笑)あ、それはわかります、と思ってもらえるのはすごくありがたいです。
H:いやー、わかりますよ。もちろん。
岡村:あ、じゃあよかったです!僕ね…きょう、これだけは言いたかったんですけど、ものすごい影響下にあるんですね。
H:それは認識してなかったですね。
岡村:言われることはないんですけど、みんな気づいてくれよと思ってるんです。
H:そうだったんだ。ときどき80年代の音楽…あれはなんだったっけな?とか思い出そうとするんだけど。ずーっと一日中考えて、あ、スクリッティ・ポリッティ(Scritti Politti)だ!とかね、思い出すんだよね(笑)
岡村:ありますよね。
H:で、岡村さんのを聴くと、音像にあの頃のビシッとしたものを感じたんだよ。やっぱりそういうのも聴いてたでしょう?
岡村:もちろん聴いてました。でもやっぱり細野さんの『S-F-X』には本当に、すごく影響を受けましたね。いま聴いても音圧がすごいですしね。
H:聴いてみようかな(笑)そうですか。あの頃ね、アナログのマルチからデジタルに移行するちょうど中間の時期で。
岡村:ですよね。
H:最初はアナログと両方回してたの。でも、デジタルだと無音の状態のときにノイズが入らない!あれが気に入っちゃったというのは覚えてる(笑)
岡村:いまレコーディングをなさってて…イコライジング、パンニングに関しては悩みます?
H:悩むね。いま音像が変わってきたじゃない?世界的に。とくに映画なんかを観てヘッドフォンで聴いてると良い音だなぁ、と思うわけね。そういう音を出したいんだけど、できない(笑)
岡村:あと聞きたかったのは…細野さんはずーっとグルーヴィな、ファンキーな音楽をやってきた。たとえエレクトロであったとしても。その中にはすごいファンクの魂みたいなのを感じるんですけど。いまアメリカの音楽を聴いても全然ファンキーじゃないんですよ。アメリカのヒットチャートを、ブラックミュージックを聴いてもまったくファンキーじゃない。
H:じゃないね。わかるよ。
岡村:昔は…70年代、ロックを聴いてもファンキー。リトル・フィート(Little Feat)を聴いてもファンキーだったし、ザ・バンド(The Band)を聴いてもファンキーだったし、細野さんを聴いてもファンキーだった。ファンキーの血というものがアメリカからずーっとあったのに全くなくなってしまって…細野さんはどう思ってらっしゃるのかなぁ、と。
H:おんなじ。みんな手法が似てて…すごくシンプルになって音が良くなったから、楽器をあんまり入れなくなって。同じビートの中で歌を聴かせてる、という。
岡村:あとコード進行が単純ですよね。ああいうのはわざとなのか…
H:単純だね。やっぱりあれは…なんだろう、グローバリズムとしか言いようがないね。みんなおんなじ音だからね。韓国のも似たような音を出してるからね。
岡村:先日僕、細野さんの映画を観に行ったんですけども。いまは世界中で細野さんの音楽が聴かれて、若者たちがディスカヴァーして。そういう音楽が…さっき言ったような非常にシンプルでファンキーじゃない音楽がメインストリームでありながらも、逆にそうではない細野さんの音楽をディスカヴァーしているような人たちがたくさんいるんだな、というのを映画を観て感じました。だからあそこには希望があったし。
H:そうなんですよ。たぶんね、みんなそういうグローバルミュージックに飽きちゃったんだと思う。なに聴いてもおんなじだから(笑)
岡村:ですよね。
H:聴くと最初はね、あ!いいな!と思うんだけど、続かないんだよね(笑)
岡村:プリセットみんな同じやつ使いすぎ、みたいなこともあるんですよね。
H:それはあるね。機材の元々の音源が良くなったり、というのもあるしね。僕たちの世代はもう、ほんと苦労したからね。音作りは。
岡村:そうですよね。僕がこの世界に入ったばかりの頃は、ミックスにもトータルがなかったですからね。毎回ミックスしなくちゃいけなかったし。スタジオが変わると全然音が変わっちゃって…あれ!あんなにいい感じだったのにモッサリしてる!とか言って…(笑)
H:まぁでも、それがおもしろかったんだけどね。60年代からはだいたいマルチで録ってるんだけど、バンドが移籍するじゃない?そうすると全っ然音が違うから。モサッとなったり…あれ?と思うんだよね(笑)
岡村:そうですよね。レイ・チャールズとかエルヴィスとか変わりましたよね。
H:みんなレーベルが変わると音が変わっちゃう。そういうのがいま思うとおもしろいな、と思うね。
岡村:細野さんも変わりましたよね。アルファに行って…(笑)
H:変わりましたよ(笑)あのね、山下達郎にそれを指摘されて。
岡村:そうですか。僕は大好きなんですけどね。
H:それはうれしいです。
岡村:『はらいそ』は大好きです。ものすごい影響を受けましたね。
H:今となっては『はらいそ』も『泰安洋行』も並べて聴けるからね。当時『泰安洋行』を聴いてた人がアルファの『はらいそ』を聴いたら、音が変わっちゃったんで…(笑)
岡村:クリアになりましたよね。
H:クリアになった、モダンになっちゃったのかな。あの『泰安洋行』の音はなかなか出せないからね。
岡村:そうですよね。いま再現しようとしても難しいですよね。自然なローファイ憾の味わいがあるし。
H:そうそうそう。でも、そういう音楽も好きなんですか?
岡村:大好きです。というかね、細野さんが勧めるものにみんなすがるように…「細野さんが密教がおもしろいと言ってる、じゃあちょっと本読んでみよう」とか。心理学のこの人がおもしろい、とか…
H:あ、それほど?(笑)
岡村:そうです。「『赤い風船』という映画を絶賛してる、じゃあちょっと観に行ってみよう」とか。そんな世代です。
H:すごい影響だな、それ(笑)うかつなことができない(笑)
岡村:ネットもなかったですしね。だから細野さんが仰ることや勧めるものにすがるように聴いてましたね。だから当然アメリカの音楽もそうですし、アメリカ以外の音楽もそうですけど。影響を受けてましたね。
H:そうなんだ。いやー、そのことを知らなくてよかったな。自由に遊んでただけなんで(笑)
岡村:僕の世代はほとんどみんなそんな感じだと思います。
H:あー、そうですか。
岡村:失敗したくないわけです、当時2500円のレコードを買うのに。で、細野さんが勧めるものだったらきっと良いだろうとか、ビートルズ関連だったら良いだろうとか。あと「不朽の名盤」と誰かが言ってるんだったら良いだろう、といった情報にすがるように…ネットがないですからね。
H:それは僕もおんなじですよ。まぁセレクトショップみたいなもんですよ(笑)
岡村:(笑)でも、ほんとにそんな感じでした。
H:まぁでも一貫してますよね、岡村さんは。音がね。
岡村:僕ですか。んー、迷ってますけどね。
H:そうですか。迷いは感じられないけどね(笑)
岡村:常に迷ってますね。あとはひとりでやってることへの迷いですね。
H:そうだ、全部ひとりで音作りしてるんでしょ?
岡村:最初はそれが心地よかったんですけれども。ノイズが入らないので。でも、自分で自分に飽きる問題というのがあって。
H:あー、わかるな。
岡村:最近はインストをたくさん…あ、この話もお伺いしたかったんですけど、いまインストをたくさん作らなくちゃいけない仕事をやってまして。で、自分の手癖や指癖みたいなものに限界がありまして。膨大な曲を作らなくてはならないのに自分の限界があって…もう1回勉強し直さなくちゃダメなのかな、みたいな。
H:(笑)
岡村:インストってどうですか?作る難しさって。
H:はっぴいえんどの頃…それまでは音楽というのはメロディーを先に作ってたんだけど、はっぴいえんどから松本隆くんの詩が先に届いて。詩を見ながら曲を作ってたのね。
岡村:はい。
H:それがだんだんおもしろくなってきて。先にコードでメロディーを作るとやっぱり器楽的になるんで、いざ自分が歌おうとすると歌えないんだよ(笑)だからやっぱりその2つは違うものなのかな、と思って。詩が持つメロディーやリズムというものを作っていくと、自分が普段作らないものができてくる。
岡村:インストを作るときは口のメロディーで作るときもありますか?それともやっぱりピアノやギターのメロディーで考えますか?
H:そうだね、場合によって様々ですけど…一時期、80年代に『銀河鉄道の夜』というのを作ってる頃から即興的に作ることにやみつきになって。それを「コインシデンタル・ミュージック」と自分で呼んでたんだけど。悩みはおんなじですよ、手癖で作っちゃうというところからちょっと離れて…パソコンがあったからできたんですけど、テキトーに作ってみるというのをやってみたらおもしろくなって。
岡村:でも細野さんが作られてるのは…なんでしょうね、40年代のミュージカルとかクルト・ワイルの音楽とか…バックボーンがどうやって作られてるのかわからないですけど、例えばベニー・グッドマンの音楽を1回自分の中で咀嚼してバラバラにして出されてる、再構築みたいなものは感じました。
H:なるほど。僕も一時期勉強しようと思ったことがあって。知り合いの先生についてすごく難しいことを教わろうとして、先生が呆れて。「こいつできねぇや」と思って(笑)自分からやめたんですけどね。そういう基礎的な楽典というのが僕は苦手でね。そういうことを覚えたらそうやってしか作れなくなっちゃうだろうしね。
岡村:そうですよね。
H:だからメチャクチャに近いんですよね、僕はね。だから伝統的な音楽が好きな場合…ニューオーリンズのリズム&ブルースとか。ああいうのはほんとに手癖でできてるんで、ああいうのをやるときは自分もその手癖でできるんですけど。いろんなジャンルをやるんで、それが通用しない音楽もいっぱいあるわけでね。クラシックも好きだけど、自分なりの解釈でやるしかないんで…例えばくるりの岸田くん(岸田繁)はすごいなと思うんだけど(笑)交響曲を作ったりして…
岡村:やってますよね。
H:そういうことが僕はできない、ヘンテコリンになるんですよ。それをクラシックをよく知ってるミュージシャンから言われたんだけど…ポリフォニックなんとかとか、クラシックの中にもそういうのがあるんだな、と。
岡村:ドビュッシーとかラヴェルとか、近代的なやつですよね。ガーシュインもそうですけど、ジャズ寸前みたいな…そういうやつは細野さんのを聴くとすごく感じますし。やっぱりさっきの「色気」というのにちょっとつながっていきますけど、色っぽいクラシックみたいなものは作ってらっしゃるなぁ、と。そうですね、この話…今回したかったのはやっぱり色気。細野さんに言うとはぐらかされてしまうかもしれませんが、色っぽいなと常に思っていて。滲み出ているな、と。
H:そうすか。
岡村:そうですよね、「そうすか」しかないですよね(笑)
H:いやいや(笑)ただ本人が色っぽくないから…そういうことを考えながら作ってるわけじゃないしね(笑)
岡村:(笑)
H:まぁでも、ときどき言われることは言われるね。
岡村:そうでしょう。坂本さん(坂本龍一)も言ってました。
H:あ、そうですか。ですよね、彼はちゃんとした教育を受けていて…僕からしたらすげぇなと思うんですけど。逆に坂本くんから見れば、なんの根拠もないのによくできるなぁ、みたいなね(笑)
岡村:んー、ミステリアスですね。
H:すごく買いかぶられてる感じがありますけどね、ドビュッシーとかラヴェルみたいだ、とかね。まさかぁ…
岡村:(笑)
H:ほんとにおこがましいというかね…
岡村:でも、なんかつながってますよね。さっきも言ったベニー・グッドマンとか…"Moonlight Serenade"は誰でしたっけ?
H:グレン・ミラー。
岡村:グレン・ミラーとか。細野さんの中では全部つながってる感じがしますね。
H:そうですね。それは子どもの頃に聴いてたんで身に染みてる、というところはあるんですよね。再構築するというのはおもしろいから、まぁ遊びですよね。
岡村:だから僕、やっぱり影響下にあるんでしょうね。もう1回観直そうと思って、『ベニー・グッドマン物語』と『グレン・ミラー物語』。
H:いいね!『グレン・ミラー物語』はすばらしいね。
岡村:すばらしいですよね。観直しました。
H:あのちっちゃなバスで旅回りするというのは憧れなんですよね。
岡村:カッコいいですよね。"Moonlight Serenade"ができるきっかけみたいのが…少しずつやっていくんですけど。
H:あのシーン好きだな。
岡村:いいですよね。
H:まぁあんなような感じですよね、曲を作るというのは。
岡村:そうですよね。
H:だから僕もコンピューターで…数値で打ち込むMC-4。ドが36という番号だったり。で、4和音しか出ないんで…なんかね、テキトーに和音を積み重ねていって1小節できた、じゃあ次の1小節はどうしよう?という風に作っていったのが、さっき言った即興的に作るという…それがすごくおもしろかったんですよね。
岡村:それはあれですよね…さっきちょっと言いましたけど、自分で自分に飽きたりしたときにどうやってフレッシュになれるかというと、自分では想像つかなかったりとかアドリブ性の奇妙なものをだんだん整えていく…みたいなやつをやると。
H:それはね…僕もおんなじだよね。例えば鍵盤の前で曲を作ってていつもとおんなじようなフレーズしか出てこないときは、メチャクチャ押さえると。ネコみたいにね(笑)
岡村:うんうん。わかります。
H:で、ときどきそれが…サルがタイプライターを打つみたいに、すごくいいものができたりするんですよね。それをパソコンはメモリーできるから…そういうことを膨らませていったりすることもあるよね。ありますか?
岡村:ありますあります。もうなんか…そうやってなんとかにじり寄る感じです。
H:そうか。でもそれは楽しいでしょう?決して苦労してる感じはないよね(笑)
岡村:そうですね(笑)でもさっき言った、音についてはイコライジングの――――――
(from『はらいそ』)
H:――――――長かったから大変だね、まとめるのが。おもしろかったよ、全部。
岡村:ありがとうございました。光栄でした。
H:こちらこそです。取っといてね、第2弾。どっかで。
前田:あ、2本分かもしれないということですか?
H:あるね、あるある。まぁ来年になるけどね。
2021.11.14 Inter FM「Daisy Holiday!」より
H:…やりますかね。適当だから(笑)
?:…緊張する~(笑)
H:大丈夫だいじょうぶ(笑)
@@@@@@@@@@@@@@@@
H:細野晴臣です。こんばんは。さぁきょうは、いつになくお若い女性が来てくれました(笑)藤原さくらさん。
藤原:よろしくお願いします~
H:よろしく。
藤原:[InterFMの]前の番組でDJをさせて頂いていて…
H:そうなんだよね。続いてるから、まぁ…だいぶ近い存在なんだけど(笑)
藤原:そうですね(笑)
H:でもちゃんと話したことはないね。
藤原:うんうん!前に和義さん(斉藤和義)が私のラジオのゲストに来てくれた後に、そのまま細野さんのほうに…
H:あ、そうか。続いてるね(笑)
藤原:はい。続いてて、いいなぁ…と思ってたからうれしいです、きょうは。
H:じゃあ今度…ご自分の番組も時々ゲストを呼ぶんでしょ?
藤原:はい。
H:じゃあ呼んでもらおうかな(笑)
藤原:え、いいんですか!うれしいです。
H:行き来してね、交流して。あれは生放送?じゃなくて収録か。
藤原:生放送のときもあるんですけど、ほとんどは2週分収録して…という感じでやってますね。いろいろと特集しながら…
H:特集か。僕もいま特集やってるんだけど…自分で作ってるんだよね、このスタジオで。けっこう時間がかかるんだけど、作ったところでもう満足しちゃって聴かないんだよね、オンエアは(笑)
藤原:なるほど(笑)なんか細野さんが「ムジカ・ピッコリーノ」を見てくださったという…
H:見た!よかった!
藤原:え、ホントですか!めちゃくちゃうれしいです。
H:だってあの、"PomPom蒸気"。
藤原:そうですそうです!
H:あれ歌える人、あんまりいないんだよね(笑)
藤原:まさか見てくださってるとは思っていなくて…
H:なんかね、情報が来て。"PomPom蒸気"をやるという話を聞いたんで、これは見なきゃ!と思って。
藤原:うれしい…
H:おもしろい番組ですね、あれ。
藤原:いろんなジャンルの曲を取り上げたりだとか…けっこうあの番組で初めて知った音楽とかも多くて。なかなか自分が…なんて言うんだろう、普通に生きてたら好きなものばっかり聴いちゃうところがあるんですけど。
H:そうね。うん。
藤原:あれで初めて…ボブ・マーリーとかを演奏させてもらって、そこで初めてレゲエを好きになって。そこから掘り下げて、自分のライヴでもレゲエアレンジしてみたりとかしましたね。いい番組だと思います。
H:へぇ…あれはレギュラーでやってるんでしょう?
藤原:レギュラーでやっていて…あ、この前フジロックでも"PomPom蒸気"を。
H:やったの?
藤原:歌わせて頂きました。
H:うれしいね…あれをよく歌えるなぁ(笑)
藤原:あれは難しい曲ですよね。でもほんとに大好きな曲で…ありがとうございます。
H:あれを歌えるというのは…なんて言うんだろうな、人と違うセンスというか…どうやって育ったのか後で聞きますね。
藤原:いやいや…(笑)
H:えーと…音楽聴かせてもらおうかな。なにがいいかな。
藤原:はい。じゃあ…
H:『SUPERMARKET』ってアルバムからかしら。
藤原:じゃあ『SUPERMARKET』というアルバムからにしようかな…
H:どっちでも、自由に。
藤原:”Super good”という曲があって、それは初めてファンキーな…
H:なんかジェームス・ブラウンっぽい響きだね。
藤原:ファンクの曲を流そうかな、と…ごめんなさい急で(笑)
Super good - 藤原さくら
(from『SUPERMARKET』)
H:ファンクだね。どういうのを聴いて育ったんだろう?
藤原:私は…お父さんが60年代とか70年代のブリティッシュロックがすごく好きで。だからビートルズとかは…
H:小っちゃい頃から聴いてたの?
藤原:はい、聴きましたね。で、やっぱり最初…小っちゃい頃はその良さが全然わからなくて。
H:わかると怖いよね(笑)
藤原:車ではずっとビートルズが流れてて。
H:刷り込まれてるんだね。
藤原:そうなんですよね。自分が好きなJ-POPが聴きたい!とか言っていた時期もあったんですけど(笑)
H:(笑)
藤原:でも自分で曲を作るようになって。それからはもう、空でビートルズを歌えるようになってて。
H:それはもう染み込んでるね。
藤原:そのときに、いい音楽を聴かせてもらってたんだな、と気づいて。そこからカヴァーするようになったり…昔の曲を聴いてましたね。
H:お父さんはミュージシャン?じゃなくて…(笑)
藤原:ベースをやっていて。
H:やってたんだ!
藤原:プロを志して東京に出てきて…いまはもう福岡で普通のおじさんとして活動してます(笑)
H:活動してるんだ(笑)
藤原:でも、チャカ・カーンのコピーバンドで「シャカ・カーン」というのをやったりしています(笑)
H:おお…なんかいいね、シャカ・カーン。
藤原:今でも音楽をやっていて、自分のバンドとか…私が福岡で活動してた時はベースを弾いてくれたりしていました。後ろで。
H:それはそれは…いい関係だね。うらやましい。
藤原:お父さんもこのラジオはすごく聴いてるので…
H:ほんと?それはうれしいな。
藤原:めちゃくちゃ聴いてます(笑)
H:誰が聴いてるかわからないままやってるんで…(笑)
藤原:いやいや、みんな聴いてますよ(笑)
H:みんな聴いてるんだね(笑)
藤原:細野さんの曲も…この前の周年のイベントのときに"東京ラッシュ"と"四面道歌"を歌わせて頂いて。
H:そうだった!あー、そうだったそうだった…
藤原:「細野さんを歌おう」という…
H:恵比寿でやったときね。
藤原:そうですそうです!あそこでやったときに…
H:あれは観てたんだ、僕。客席で。
藤原:そう!うれしかったです、めちゃくちゃ…
H:難しい歌だね(笑)
藤原:難しい曲でした…(笑)でもやっぱり『はらいそ』とかのトロピカルなところはめちゃくちゃ私も聴いて。
H:やっぱりお父さんが聴いてたのかな?(笑)
藤原:はい、そうですそうです(笑)こんな風なアルバムを作りたいな、ってずっと思ってます。
H:ほんと?星野くん(星野源)みたいなこと言うね(笑)
藤原:(笑)
藤原:京都のコイズミとかにも行かれるんですよね?民族楽器の…
H:行くよ!最近は全然行ってないけどね(笑)
藤原:あ、そうなんですね!私もつい最近また行って、ヘンな楽器がたくさん置いてあるんですよね。
H:何かしら買っちゃうんだよね。
藤原:買っちゃうんですよ(笑)
H:細かいものだけどね。
藤原:私もあそこでチャランゴを買ったりとか…
H:チャランゴ!本物の?
藤原:あ、でもアルマジロのやつは…
H:ダメでしょ?あれ。ワシントン条約だ。
藤原:そうですね。だから普通の木のやつなんですけど。
H:でもそのほうがいいや。ちょっと不気味なんで…(笑)
藤原:ちょっと怖いんですよね(笑)あそこはよく行くので。「細野展」(細野観光)に遊びに行かせてもらったときにいろんな楽器が飾ってあって。
H:あ、来たんですか。ガラクタばっかり(笑)
藤原:どこで買うんですか?ああいうの。
H:あっちこっちでね…楽器屋さんじゃないね。
藤原:あ、そうなんですね。
H:骨董品屋に置いてあったりとか…ガラクタ屋と言ったほうがいいかもね。横浜の中華街に1軒あったのね、民族楽器店が。たぶん今はもうないんじゃないかな?だから、見つけたときに買っておかないと手に入らないから(笑)
藤原:ほんとにもう、二度と同じものには出会えないから…私もあったら買うようにはしてるんですけど。
H:へぇ。楽器マニアなのかな。
藤原:楽器はすごく好きですね。細野さんはいろんな、マルチプレイヤーであられるから…私もそんな風になりたい。
H:それはなんか…弟子だな(笑)
藤原:うれしいです(笑)ベースも最近始めたので…
H:え、ベースまで!上手い?(笑)
藤原:全然上手くないんですけど…(笑)セレック(Serek)というシカゴのメーカーがあって。そこのベースを買いました。
H:モノとしていいからね、ああいう楽器って。
藤原:ほんとに…ビジュアルで買っちゃうことが多いんですけど。
H:そうだよね、わかるわかる。
H:英語で歌うことも多いでしょう?英語の経験というのはあるわけ?
藤原:それこそ…中学生の時とかはめちゃくちゃ英語の点数が悪くて。全然喋れない…(笑)外国にずっと居たという経験もないので。英語で色んな曲をカヴァーして歌うのが好きで、メロディーの響きとか…英語だけじゃなくてワールドミュージックとかも聴いていたので、もう何を歌っているのかはわからない(笑)
H:わからないよね。わかんなくたっていいんだよ別に(笑)
藤原:そう(笑)でも、わからないけど涙が出てきたりとか…
H:それが音楽だよね、やっぱり。
藤原:それが自分の原点にあって。
H:じゃあなんか似てるな。コンビニに行ってJ-POPとかがかかってても、歌詞が入ってこないんだよね。
藤原:あ、私も…!メロディーを聴いちゃうところがあって。だから楽器とかに走るのかもしれないんですけど。
H:ミュージシャンっぽいのかね。んー。おもしろいな。
藤原:でも、何を歌ってるのかわからなかったら届かないなと思うので、英語とかも勉強して…
H:あ、偉い。僕は意味わからないで歌ってるから(笑)
藤原:(笑)でもそうですよね。色んな曲をカヴァーされたりするじゃないですか、ブギとか。
H:うん。そうね。
藤原:カヴァーをするのは…楽器を始めたらカヴァーしたい!というところから始まるじゃないですか。その原動力というのはそういうところからくるんですか?
H:若い頃、20代の頃はカヴァーばっかりやってたの。カヴァーというかコピーだよね、あの時代は。そういうのにもう飽きちゃって、はっぴいえんどというバンドではオリジナルを作らなきゃ、と。自分たちは日本人だから日本語で歌わないとダメだろう、と。それで松本隆の難しい詩をこねくり回して…(笑)
藤原:(笑)
H:全部、先に詩をもらうんだよ。
藤原:あ、そっか…
H:詩を先にもらうと自分では思いつかないようなメロディーが出てくる。でもいまだに歌えないの。"風をあつめて"とか(笑)間違えちゃう。
藤原:難しいですよね。
H:僕は自分で間違えた映像をつなげて上げてるんだけど、もう今は見れないかもしれないな。いかに間違るかっていう…おもしろ動画を上げてたんですよ。
藤原:間違えますよね。私も歌詞とか全然覚えられない…
H:逆に僕、ブギウギのすさまじいくらい語数が多い音楽は言葉を覚えられちゃうんだよ。
藤原:不思議ですね。
H:不思議なの。日本語は覚えられない…(笑)
藤原:たぶん、歌詞としてというよりはメロディーの音として覚えてるということですよね。楽器を弾くみたいに歌えるという…
H:そうなんだよね。言葉のおもしろい音楽が好きだね。
藤原:うんうんうん。わかるなぁ…
H:英語ってリズムがあるじゃない?日本語ってどうしてもリズムが薄いよね。
藤原:難しいですよね。英語だったら詰め込んで歌えるところを、やっぱり母音とか子音とかの兼ね合いで一つの音しか入れ込めないから…
H:まぁラップの人はがんばってるけどね(笑)
藤原:そうですね(笑)
H:ああいう風にやらない限りは出来ないよね。
藤原:うーん、そうですね。英語で歌いたいなと思っていく中で…でもやっぱり売れないと続けていけないという…
H:それはあるね(笑)
藤原:続けるために、人に届くような音楽がしたいな、と思って日本語で歌ってみたりとか…いろんなことをしてますね。
H:最近は、ライヴはどうしてるの?
藤原:最近は久しぶりに…先々月くらいに野音でワンマンライヴを。
H:いいね、野音は。
藤原:ほんとに野音の雰囲気が好きで…あそこは都会と自然の融合というか、気持ちいい風が吹いて…いい季節だったし、よかったです。ライヴは楽しいですよね。
H:そうか…観に行きたかったな。
藤原:来てほしかったな…
H:今度じゃあ、観に行っていいの?
藤原:え!ぜひ!うれしいです(笑)
H:行っちゃいけないとか言われたらどうしよう(笑)
藤原:ライヴは大好きなんですけど、コロナで歌う機会が減ったことによって爆音に慣れなくて…耳が正常に戻った、というのに近いのかもしれないんですけど。
H:なるほどね。
藤原:なんか、キーンとするというか。ライヴハウスででっかい音を聴いた後に耳がクンッとなるみたいになってしまったりして。イヤモニとか使いながらやってますけど。多いみたいですね、そういう人。周りにも…
H:わりと世界的に、ステージの上の音が小っちゃい人が増えてるみたいだね。バンドでも。
藤原:この前もみんなイヤモニをしてみたりしました。中音を消して…
H:イヤモニすると静かになるよね(笑)
藤原:静かになってちょっと物足りない気もするんですけど…いろいろ試してやったりしてますね。
H:そうだよ、みんなイヤフォンモニターを…僕もやってますけどね。
藤原:そうですよね…いやー、ぜひ来てください(笑)
H:もう1曲聴いていい?どれかな?
藤原:えーと…自分が好きな曲を選んでみたんですけど。
H:そうそう。持ってきてもらったんだ。
藤原:コロンビアのムッシュ・ペリネ(Monsieur Periné)というバンドがいて。
H:それは知らないな…
藤原:いろんな楽器が使われてておもしろいので…
H:ぜひぜひ、聴かせてください。
藤原:"La Tienda de Sombreros"という曲です。
La Tienda de Sombreros - Monsieur Periné
(from『Hecho a Mano』)
H:楽しい。
藤原:こういう曲がすごく好きで…CDのクレジットでなんの楽器が入ってるのかを見るのがすごく好きなんですよね。
H:男の子っぽいよな…
藤原:いまサブスクリプションとかで情報が出てなかったり、配信だけだと…
H:ほんっとにあれは困っちゃうね。
藤原:困っちゃいますよね。
H:作詞・作曲者も出てない、プロデューサーも出てない。
藤原:そうなんですよ。どこで録ったんだろうとか、どんな楽器が入ってるのかがいちばん興味があるのに…この曲も最初に聴いたときに、今なんの音が入ったとかを全部書き出したりしてましたね(笑)
H:すごい(笑)
藤原:やっぱり楽器の音が好きで。笛とか…
H:研究熱心だね(笑)
藤原:この最初の音で入ってる、復弦のウクレレみたいな…あれはチャランゴなのかな?で、それを聴いて買いに来ました(笑)
H:あ、それで(笑)
藤原:この音を入れたい!と思って。
藤原:あ、アルマジロヴァージョンを!
H:ええ、当時は手に入ったんで。それはでもね、弾けなくて(笑)
藤原:ウクレレと同じ配列なんですよね。
H:そうなんだよね。で、忌野清志郎といっしょにHISというバンドをやってたときに、それ欲しいと言われて…(笑)
藤原:あ、あげた…?
H:あげちゃったの。
藤原:なるほど!
H:で、彼はすごく上手く弾くんだよね。"日本の人"という曲でそのチャランゴを弾いてて。
藤原:あげちゃったんですね(笑)
H:あげちゃったけど、代わりにエーストーンの古いリズムボックスを…
藤原:物々交換?いいですね(笑)
H:そうそうそう(笑)けっこうやるんだよね、物々交換。なんかない?ちょうだい(笑)
藤原:持ってくればよかったですね…(笑)でも、コイズミで買うことが私も多いんですけど。
H:共通点あるね。んー。
藤原:細野さんはいろんな楽器を…ヘンな楽器が多いじゃないですか。あんまり教則本とかもないような。
H:教則本は見ないね。
藤原:自分でレコーディングスタジオに持って行って、良い音を探していく、みたいな。
H:音が出ればなんでもいいんだよね。
藤原:そうですね。このコップだって楽器になりますしね。
H:よくこの鉄の灰皿を使うけどね。カウベルの代わりに。
藤原:カウベルの代わりに!
H:うん。ステージでも使うしね。ビンを叩いたり。
藤原:なんでも楽器になるからおもしろいですよね。
H:前ね…『源氏物語』というアニメの音楽をやったときに、琴を買ったの。
藤原:お琴?難しそう…
H:うん、難しい。なんにも知らないで、チューニングもわからないままアラブっぽいチューニングにして(笑)
藤原:えー!(笑)
H:それでレコーディングしたら…琴の名手の女性がね、割とご年配の方が。あの曲やりたいから譜面をください、と言うんだよね。で、譜面なんてないから…(笑)
藤原:すごい…
H:チューニングももう覚えてないし、ちょっとそれは無理です、ってお断りしちゃって。申し訳ないと思って…
藤原:それもレコーディングの当日にいろいろ試してみて、実験的にやってみたという感じですか?
H:そうそう。でもそれが終わると触らなくなっちゃったりするんだけどね(笑)
藤原:でも、アルバムによっていろいろと実験的なことをやられているから…
H:まぁ遊んでるんだけどね。
藤原:それがすごい…それこそ音楽、やりたいことだな、って思います。
H:やってよ(笑)
藤原:ヘンな楽器をいっぱい入れたい(笑)
H:やってやって!そういうときは呼んでね。
藤原:え、やってくれるんですか?(笑)
H:やるやる、なんでも。灰皿叩きに。
藤原:クレジットに灰皿で細野さんの名前が入ってるのは贅沢すぎますね(笑)
H:いやー…まだお若いからマーケットのことだとか、いろいろ考えちゃうと思うけど。僕はもう考えてないから(笑)
藤原:いやいやいや…(笑)すばらしい、もうほんとに大尊敬してます。
H:ありがとうございます。初めて僕が藤原さくらさんの名前を知ったのは随分前の…いつだったかちょっと憶えてないけど、ライヴを観に来て頂いて。
藤原:そうですそうです!中野サンプラザに行きました。
H:そうか。それをすごく褒めてくれてる記事を見たんだよね。
藤原:褒めてくれてる…?(笑)いや、本当に素晴らしくて…あのバンドの感じとか、MCとか照明とか。もうすべてが私のやりたい…このスタイルでやりたい。
H:そうなんだね。やっぱりちょっと似てるところがあるのかな。共通点がね。そういう人はあんまりいないんだけどね。
藤原:いやいや、なりたいです…
H:ほんと?なってよ。
藤原:なります。
H:(笑)
藤原:がんばります(笑)
H:はい(笑)
藤原:あ、お時間が…
H:お時間が来ちゃうね。30分なんで。
藤原:残念です。次は私の番組に…
H:ぜひぜひ。この続きはじゃあ、お邪魔してお話ししようかな。ここの楽器を持ってって…
藤原:あ、ぜひぜひ!ありがとうございました。
H:どうもありがとう!藤原さくらさんでした。
藤原:藤原さくらでした。
藤原:ありがとうございました~…
H:話は尽きないんで…(笑)
藤原:私、細野さんのスパニッシュギターがあるじゃないですか。白いピックガードがついてる。
H:ああ、あれね。
藤原:あれを中野サンプラザのライヴで見て、欲しい!と思って(笑)
H:(笑)
藤原:で、ナイロンギターを買って、細野さんの写真を見せて…
H:あ、見たよ!YouTubeで上げてて…なにこれ!と思ったんだよ(笑)
藤原:ぜんぜんスパニッシュギターでもなんでもなくて…
H:この子なに?と思った(笑)
藤原:(笑)
2021.11.07 Inter FM「Daisy Holiday!」より
手作りデイジー🌼#26
(以下、すべてH:)
はい、細野晴臣です。こんばんは。11月に入って…いよいよ1960年代特集も大詰めということになってきました。きょうはサイケデリックを中心に、僕が20歳のときに聴いていた…まぁロック全盛期ですね、その頃は。そういう音楽を聴いていきたいと思います。抜けてるものがいっぱいありますけど悪しからず、と。ともかくザワザワしてますよ~。覚悟してください。
年代はだいたい1969年前後で、この数年間でその後の音楽の原型が生まれたということがよくわかりますね。それはともかく、1969年に僕は初めてエイプリル・フール(APRYL FOOL)という、プロのバンドに参加しました。そこではきょうかけるような音楽を聴いてコピーしたり、クラブで演奏していたんです。その後、1970年代以降にはっぴいえんどがスタートするわけですね。そこに至る音楽遍歴を確認するという…今までわりと置き忘れていたことをやってるわけです。そしてこの特集は来月12月で一応、区切りを付けたいんです。まぁつまり、12月の特集ははっぴいえんど結成時に影響されていた音楽を特集しますね。そこでめでたく「さよならアメリカ、さよならニッポン」という…さよなら2021年というのが来月ですね。
では最初に3曲続けて紹介します。1967年という年はすごい年で…3つのグループがかなり衝撃的なデビューを果たしましたね。最初はジミ・ヘンドリックス(Jimi Hendrix)で"I Don't Live Today"。そのジミヘンもファンで、同期のクリーム(Cream)。エリック・クラプトン(Eric Clapton)…いまちょっとね、いろいろなことで話題になってますけど。そのクリームで"Strange Brew"。これはクラプトンがリードヴォーカルをとってますね。そしてヴァニラ・ファッジ(Vanilla Fudge)。シュプリームス(The Supremes)の"You Keep Me Hangin' On"をカヴァーしてます。これも印象深いです。ベースはティム・ボガート(Tim Bogert)、カーマイン・アピス(Carmine Appice)がドラムス、憶えてますね。
I Don't Live Today - Jimi Hendrix Experience
(from『Are You Experienced』)
Strange Brew - Cream
(from『Disraeli Gears』)
You Keep Me Hanging On - Vanilla Fudge
(from『Vanilla Fudge』)
さて、先月紹介したテリー・メルチャー(Terry Melcher)のように、カリフォルニアではサーフロックバンドがサイケデリックを始める例が多くて。次のエレクトリック・プルーンズ(The Electric Prunes)もクリエイターが集まってヒットしたケースなんです。1966年のヒット「今夜は眠れない」、"I Had Too Much To Dream Last Night"。
I Had Too Much To Dream Last Night - The Electric Prunes
続くブルー・チアー(Blue Cheer)。これは1968年、史上初のヘヴィ・ロックなんじゃないかと思います。"Summertime Blues"。
Summertime Blues - Blue Cheer
(from『Vincebus Eruptum』)
ヘルマン・ヘッセの小説『荒野のおおかみ』から取ったグループ名を持つ、ジョン・ケイ(John Kay)率いるステッペンウルフ(Steppenwolf)。映画の『Easy Rider』で使われました、"Born To Be Wild"が大ヒットしました。"Magic Carpet Ride"。
Magic Carpet Ride - Steppenwolf
(from『The Second』)
いやー、魔法の絨毯で飛んでいくような気分で聴いてました。"Magic Carpet Ride"、1968年のヒット曲です。
次は1967年に…これもヒットしました。トラフィック(Traffic)の"Heaven Is In Your Mind"。
Heaven Is In Your Mind - Traffic
(from『Mr. Fantasy』)
イギリス人なのにまるでレイ・チャールズ(Ray Charles)のように歌うトラフィックのスティーヴ・ウィンウッド(Steve Winwood)ですけど。エリック・クラプトンはクリームにウィンウッドを入れたがっていたみたいですね。その後、ブラインド・フェイス(Blind Faith)を結成します。
さて、最後の1曲。それはプロコル・ハルム(Procol Harum)です。僕にとってはザ・バンド(The Band)とともにかなり影響されたグループです。ザ・バンドがアメリカ大陸の山や草原のグループだとすれば、プロコル・ハルムは海の音楽。さすが海洋国家イギリスのグループですね。そのプロコル・ハルムで1969年のアルバム『Salty Dog』からマシュー・フィッシャー(Matthew Fisher)の作曲・歌で「巡礼者の道」、"Pilgrim's Progress"。
Pilgrim's Progress - Procol Harum
(from『A Salty Dog』)
2021.10.31 Inter FM「Daisy Holiday!」より
H:はい、こんばんは。細野晴臣です。えー、きょうはですね…ゲストがいらっしゃってます。『NO SMOKING』、そして今度の『SAYONARA AMERICA』。僕のライヴの映画を監督して頂いた…
佐渡:あ、佐渡岳利と申します。きょうはちょっと、末席を汚させて頂きます(笑)
H:なに言ってんだい(笑)
佐渡:光栄なお話でございますが…
H:いやいやいや…もう随分、長い付き合いになりますよね。
佐渡:そうですね。
H:だって『イエローマジックショー』からだもんね。
佐渡:2000年ですね。
H:あれ2000年?そうかそうか…随分経ったなぁ。あれは何本作ったかな。
佐渡:あれは3つまでですね。
H:3つやったんだ。それで…最初の時は僕、認識がないんだよな。
佐渡:『イエローマジックショー』の時ですか?
H:うん。あれ…あの時って大物プロデューサーがいましたよね?湊さん(湊剛)という…
佐渡:いましたね(笑)
H:いやいや、ユニークな人がいたなぁ、NHK。
佐渡:そうですね。濃い方がいっぱいいたのがどんどんいなくなって、今は薄い…(笑)
H:薄い世代になってきた?(笑)自分自身はどうなんですか?
佐渡:僕は中間ぐらいですね。
H:なるほどね。忙しいでしょう?今はなにを手掛けてますか?
佐渡:今は配信系の…某配信者のものとか。あと番組ももちろんやらせて頂いたりとか。
H:だいたい人気アーティストを手掛けてますよね。
佐渡:え、僕ですか?
H:そう。僕以外ね。Perfumeとか。
佐渡:ああ、そうですね。
H:…あとはよく知らないんですけど(笑)
佐渡:(笑)
H:いやー…だって紅白もやってたでしょう?
佐渡:紅白は毎年やってるんですよ。僕らの部署は必ずほぼ全員参加になるので…
H:あ、そうなんだ。とにかく音楽担当ですよね。
佐渡:そうですね、音楽番組をやらせて頂いてます。
H:それで、僕の今回のライヴ…随分前からやってますよね。ずーっとカメラ持って僕を追っかけてたでしょう?
佐渡:イヤだったんじゃないですか?
H:イヤだった(笑)
佐渡:(笑)
H:でも、その記録がすごいなぁと思って。全部は見てないですけどね。今回のライヴはどうでした?
佐渡:外国のですか?これはすごかったと思います。
H:現場にいて撮ってた…じゃあずっとカメラから見てたんですね?
佐渡:そうですね、カメラも見てましたけど…やっぱりお客さんの盛り上がりとかわかるので。
H:そっか。
佐渡:前にもお伝えしたかもしれないですけど、こういう仕事をやっていると時々「おお、来た!」という感じの時があるんですよ。身体が揺さぶられるというか、魂が鷲掴みにされる瞬間ってほんとに少なくあるんですけど。もう、グッと…
H:来ました?
佐渡:来ましたね。
H:勘違いじゃなくて?(笑)
佐渡:勘違いではないと思いますね(笑)
H:どこで来たんだろう?
佐渡:ニューヨークでもロスでも来ましたね…
H:そうですか。やっぱり終盤のほうかな?
佐渡:そうですね。終盤に盛り上がってくると、お客さんのテンションもどんどん盛り上がってくるから…そういうのに呼応されてるというのもあると思うんですけど。自分がそういう風に感じたということはお客さんもそう感じたんじゃないかな、とは思いますね。波形というのかな、波がドーン!と来る感じ。
H:なるほど。その場にいないとそれはわからないよね。で、やってるほうもわからない(笑)
佐渡:あれ、やってるほうはなにか感じられるんじゃないですか?
H:まぁもちろん、それはあるんだけど…たぶん違う感覚なんだろうなぁ。ウケてる!とか、よかった…とか。そういう感じですよ。感動が押し寄せるというよりも…緊張してますからね(笑)
佐渡:(笑)
H:行く前は本当に不安だったんだけど…撮るほうも不安だったんじゃないの?
佐渡:いやー、でも…どうなんでしょうかね。海外に出張して取材をすることが何度かあったんですけど、向こうの音楽関係者に話を聞いたりするとき、やっぱり細野さんのお名前ってすごく出るんですよ。
H:へぇ、それは知らなかった。
佐渡:さすが人気者なんだな…と若かりし頃から思ってました。
H:そんな実感、僕はないなぁ。そうなんだ、初めて聞く(笑)なんでこんなおじいちゃんがいいんだろうね…ブツブツ…(笑)
佐渡:(笑)
H:でも、要所要所は全部撮って頂いていて、映像の作品になってないものもいっぱいあるわけで。例えばブライトンはどのくらい撮ってたかな…あれ、ブライトンって映像作品になってたっけ?
佐渡:ブライトンは『NO SMOKING』に入ってますね。
H:あ、そうだ。水原姉妹が…"東京ラッシュ"のやつ。
佐渡:そうです。
H:あとはそうだ、YMOのメンバーが…
佐渡:そうですね、[ロンドンの]バービカン・ホールで…
H:あ、バービカンだ。
佐渡:それも『NO SMOKING』に入ってますね。
H:映画にするというのはどうですか。難しいでしょう?僕は難しいと思っちゃった。
佐渡:あ、細野さんのですか?
H:そうそうそう、ライヴの映画。僕にとってはやったことなんで…あんまり正視できないというか(笑)
佐渡:でも、どうでしょう…そんなに数は多くはないですけどコンサート映画みたいなものはあると思いますけど。
H:そうですね。
佐渡:大画面で、音も爆音で楽しめるので…コンサートに行かれなかった方とか。特に今回は外国のライヴなので、日本の方は全然行けなかったと思いますから。そこを疑似体験できるというところはすごくいいコンテンツなんじゃないかな、とは思います。
H:そうだね、それはあるね。観てない人はわからないもんね、どんなことが起こったのか。
佐渡:そうなんですよ。あんなにアメリカ人のお客さんがいっぱいいらっしゃって、盛り上がっているというのが…
H:僕も予想してなかったね。
佐渡:本当にこれはすごいな、と思います。
H:ビックリしましたよ、僕も。だってやる前、ステージに上がっていく前まではずっと他人事のように…なんて言ったらいいんだろう、ダメだろうな、とか思ってましたよ(笑)
佐渡:(笑)僕らは並んでるお客さんに取材したりするので…事前にわかるんですね。
H:あ、そっかそっか。そうだ、あの並んでるお客さんのインタビュー、映画を作るときに初めて見たんですよ。
佐渡:はいはい。
H:もちろんチラチラ見てはいたんだけど、なに言ってるかわからなくて(笑)ちゃんと訳が付いてて。それでビックリしたんだよね。
佐渡:みなさん、すごいですよね。
H:すごい。自分より深く聴いてるというか(笑)よく知ってるし、これはウカウカできないなと。あの時初めて思いましたよ。これから作るとき気を付けなきゃな…とかね(笑)
佐渡:(笑)
H:まぁ、誰が聴いてるのかわからないまま作ってたから良いんだろう、と思うんだけどね。気にしちゃったらなんかね…気持ち悪いものができたりして(笑)
佐渡:(笑)
H:なんか音楽かけようかな、じゃあ。えーと…「今回の映画のために音楽を付けてください」と佐渡さんから言われて。
佐渡:はい。
H:2曲ぐらい、と。でも1曲しかできなかったんですけど…(笑)
佐渡:(笑)
H:それを作ってる間に…タイトルも付けてくれ、と。
佐渡:そうですね。
H:で、ライヴの映像だけをまとめてもなぁ…とか思ってて。あるとき屋上に上がってね、このスタジオの。ギターに触ってなかったのは本当なんで…2年ぶりにギターを持ってきて。弾けないんだけどね、チューニングしてないし(笑)それでブツブツとコメントを入れて。そのときに「あ、"さよならアメリカ"だ」と思ってね、音楽が。使いたいなぁと。
佐渡:うんうん。
H:ちょうどロサンゼルスで、はっぴいえんどが行ったスタジオに再訪して。何十年ぶりに行ったのか…40年ぶりかな。
佐渡:2019年当時で46年と…
H:ああ、そんなに経っちゃったんだね。で、スタジオは全然変わってないんで、すごく懐かしかったんですよ。おまけにそのとき[レコーディング現場に]いたヴァン・ダイク・パークス(Van Dyke Parks)が楽屋に来てくれたしね、今回。そういうことがあってあの曲を選んだんですけど、じゃあその曲を…11/3に配信になるんで、ちょっと早いですけど、聴いていいですか?いいの?はい。じゃあ"Sayonara America, Sayonara Nippon"。
Sayonara America, Sayonara Nippon - 細野晴臣
H:で、あれを…『SAYONARA AMERICA』というテーマになっちゃったでしょ?どう思います?
佐渡:これはでも…なんて言うんでしょう、痺れるものがありましたね。
H:あ、ほんと?(笑)
佐渡:はい。素晴らしいタイトルだな、と。『NO SMOKING』のときも思いましたけど。
H:ちょっと捻くれてますよね(笑)
佐渡:いや、でもいいんじゃないですか?すごく合点がいったというか…作品を作る上でのすごく良い指針になったという感じがしましたね。
H:なんかね、そこら辺にはすごく責任を負ってる感じがしてたの。だって、出てくるのは自分だしね。この2年間起こっていることとあの時と違うから。どういう風に気持ちを持っていったらいいのかね、難しい…と思ってやってたんですけどね。
佐渡:はいはい…
H:だからどうしても、「今」の自分の気持ちを入れたかったの。それで屋上に上がってしゃべったんですけど。最初はね…横尾忠則さんの「WITH CORONA」という絵のシリーズがあって、あれを使わせてもらおうかと思ったんだけど。横尾さんはいま個展中だしね。まぁ遠慮したんですよね。そのときにコメントを入れようと思って、それが屋上のヴァージョンになったんですよね。どうしたって今の気持ちを言わないと収まらないので。それで自分は落ち着いたんですけど。
佐渡:でも、あの屋上のコメントはまさに…コロナがあって、世界が変わってしまった流れの中で非常に心に沁みわたるものがあったし、観て頂く方にはあれがあることでタイトルがすごく腑に落ちるんじゃないかな、と思いましたけどね。
H:通じてるかな?ならいいんだけどね。
H:まぁたしかに、佐渡さん自身もあれから…2019年のライヴからその後の2020年って、大きな変化があったでしょう?
佐渡:ありましたね。僕としては…テレビが終わるのかな?という感じがすごくしましたから…
H:あー、そこまで行ったか。
佐渡:なんて言うんですかね…世の中みんなが表に出なかった間に家にいて、テレビがあんまりおもしろくないですから…(笑)
H:言っちゃっていいのかな?(笑)
佐渡:ちょっとこれはダメかなぁ、と思ったりとか。
H:まぁでもたしかにね。僕もそうだったなぁ。テレビ、なんとかしてくださいよ(笑)
佐渡:いやー、そうですね(笑)でも、そっちの系統のものはあんまり作ってなかったので…
H:あ、そうだね。
佐渡:どちらかというと今回のような…音楽をちゃんとご覧頂いて、「そこはかとない良さ」というんですか?それが直接なにかを訴えてるというのではないと思うんですけど。
H:そうだよね。音楽というのはそういうところがある、大事かもしれないなぁ、と思っちゃったりしてね。
佐渡:そうですね。あれだけ素晴らしい空間だったライヴについて、今はどんなことを考えてらっしゃるんですか?
H:あのね…こないだ若手のバンドと話したりしていて。先週はD.A.N.が来てくれたんだけど、その前はヨギー(Yogee New Waves)という若いバンドですね。30歳前後の。
佐渡:はいはい。
H:やっぱり彼らはバンド活動ができない時期があったわけでしょう?そうすると、生活に影響してくるわけですよね。切羽詰まってるところがあるわけで。最近になって少し状況が改善されてますから、みんなツアーをやり出してるんですよね。11月からはみんなやり出すんじゃないかなと思うんです。で、僕自身はね…そんなでもないです。やりたいってあんまり思わない(笑)
佐渡:そうなんですか(笑)
H:もう、終わっちゃったね。オワコンというやつ(笑)
佐渡:(笑)あれ、でも海外のファンは待ってるんじゃないですか?
H:あのライヴ前に行列してた人たち。大らかで音楽好きで、いい人たちばっかりだったんですけど、あの人たちが今どうしてるんだろう?というのが気になるんだよね。
佐渡:あの人たちはでも、アメリカだから…マスクしないでガンガン活動されてるんじゃないですか?
H:いや、ニューヨークの規制って厳しいから…なんか異常だったんですよね、ひと頃。パスポートがないと買えないとか。そういう騒動があったんですよ、夏頃。あの人たちはどうしてたんだろう、って最近思うんですよね。音楽聴いてるのかな、と思ったりね。
佐渡:…聴いているんじゃないですか?(笑)
H:ですよね(笑)
佐渡:(笑)
H:佐渡さんは音楽好きでしょう?だからこういう仕事やってるんだよね(笑)
佐渡:そうですね(笑)そんなこととも言えると思います。
H:なにを聴いて育ったんだろう?
佐渡:えー…でも、子どもの頃はやっぱり歌謡曲ですかね?テレビで観て…テレビがすごく好きでしたから。歌謡曲を聴いてて…それでYMOとかが小学校6年生のときですね。
H:え!そんなときなんだ。
佐渡:はい。それでこういう…「音楽」という世界があるんだ、と思ったんですよね。それまではテレビとかと同じ、いろんな娯楽の中の一つだと思ってたので。それで、音楽をちゃんと聴くというジャンルがあるんだなぁ、ということがわかったタイミングだったと思いますね。
H:そこから音楽に目覚めていったんだ。それで就職したわけね、NHKに。
佐渡:そうですね。
H:音楽をやろうと思って。
佐渡:いや、元々はドラマをやろうと思ってたんですよ。
H:あ、そう!ドラマはやった?
佐渡:いや、まったくやらないで…割り振られたところが音楽のところだったんですよ。
H:あ、じゃあ運命だね。
佐渡:そうですね。だから…僕、楽器とか演奏できないので。
H:できたらすごいな…(笑)
佐渡:(笑)だからいまだに信じられないというか。細野さんのような方とご一緒できてるというのが…こんなグレートな方とご一緒できるのは本当に信じられないですね。
H:いやいやいや…僕もだよ(笑)
佐渡:なにを仰ってるんですか(笑)
H:いや、だって…あんまり僕、総合には出してもらえないからね。
H:うん。BS専門家だからね(笑)
佐渡:あれ?でも「ファミリーヒストリー」とか出てらっしゃったじゃないですか。
H:あ、出たな(笑)
佐渡:けっこう出てらっしゃいますよ(笑)
H:毎日、ETVで声やってるしな。
佐渡:(笑)
H:「2・3・5・5」って。
佐渡:あの曲、いい曲ですよね。
H:あれはあっちのチームの方が作ってますからね。
佐渡:あー、なるほど。
H:もう1曲かけようかな。じゃあやっぱりライヴからかな…なにがいいですかね?(笑)
佐渡:ライヴの中からですか?えー、なにがいいですかね…アメリカの曲のほうがいいですか?それとも細野さんの曲のほうがいいですか?
H:『SAYONARA AMERICA』なんで、アメリカの曲で行こうかね。
佐渡:じゃあ…"House of Blue Lights"とか。
H:あ、そうしようかね。じゃあ…ライヴの中から"The House of Blue Lights"。これを聴きながらお別れしますが、ゲストは佐渡……
佐渡:…岳利(笑)
H:フルネームってぜったい覚えられない(笑)
佐渡:そうですよね、そんなに大した名前じゃないですし。
H:いやいや…岳利さんでした。どうもありがとう。
佐渡:こちらこそ。ありがとうございました。
The House of Blue Lights (Live at The Mayan Theatre, Los Angeles, July,2019) - 細野晴臣
(from『あめりか』)
2021.10.24 Inter FM「Daisy Holiday!」より
H:はい、こんばんは。細野晴臣です。えー、先週に続いてですね…バンドのD.A.N.。ディー、エー、エヌ、D.A.N.。自己紹介をひとつお願いします。
櫻木:D.A.N.のボーカルの櫻木(櫻木大悟)です。
市川:ベースの市川(市川仁也)です。よろしくお願いします。
H:お、3人組だよね。あとの人は…きょうは来れないね。
櫻木:そうなんです。ドラムの川上(川上輝)が…
H:そうか。シンプルな構成だなぁ。櫻木さんは歌うだけなの?
櫻木:僕は一応、シンセだったりギターだったりをやったりします。
H:レコーディングでは色々やれるけど、ライヴもそれでやってるんでしょ?
櫻木:そうですね。うん。
H:えーとね…なんだっけな、ここに書いてあるんだけど…新しいのが出る…出たのかな?もう。
櫻木:もうちょっとで出ますね。そうなんですよ。
H:「成熟と実験で向かう、その先に開かれた新たな景色」。これは期待しちゃうよね(笑)
2人:(笑)
市川:ちょっと恥ずかしいですね(笑)
櫻木:なんかすごく盛ってる気がするけど…(笑)まぁでも、3枚目です。やっと。
H:3枚目だね。やっぱり成熟するだろうね、それは。
櫻木:いやいやいや…
H:だって、前にここに来てくれたのがもう4年前だって言うからね。あれは1stの時だね。
櫻木:ですかね、はい。めちゃくちゃ前ですね。
H:先週、Yogee New Wavesが来てくれて、2人。やっぱりおんなじ場所でみんなと出会ってるんだよね。福岡の「CIRCLE」で。そのときに紹介されて…憶えてるんだよ、それは。
櫻木:いやー、光栄です。本当に。
H:いやいやいや…耄碌してるから忘れっぽいんだけど…(笑)
2人:(笑)
H:えー…なんだろうな、このジャケットを見てもいい感じだよね。
櫻木:まぁ、いい感じにがんばりましたね(笑)
H:すごく楽しみだよ。タイトルが『NO MOON』というアルバムね。さっそく聴かせてもらおう。1曲推薦してもらおうかな。
櫻木:いや、緊張するなぁ…(笑)なにを聴いてもらえばいいんだろう…とりあえず"No Moon"かな?
市川:うん。
櫻木:アルバムのタイトルの…いちばん最後の曲ですね。
H:ぜひぜひ。
No Moon - D.A.N.
(from『NO MOON』)
H:いやー…月のない世界だね。ディストピア的な気持ちなのかね。やっぱり。
櫻木:うーん…ただ、どこかで希望を探していたいというか。
H:それはそうだ。音楽っていうのはそういうものだしね。音楽を聴いてますます落ち込むというのはまずいよね(笑)
櫻木:そうですね(笑)たしかに…
H:みんなに訊いてるんだけど、この2年間の影響というのはすごいでしょ?
櫻木:いやー、モロですね。
H:モロだね。活動はどうしてた?
櫻木:僕らはライヴ活動ができなくなったので、収入とかがガッツリ無くなっちゃって。
H:そこに結び付くもんね。それはそうだ。
櫻木:そうですね。経済的に厳しくなって…その影響はやっぱり大きいですね。
H:そうかそうか。それはひしひしと来るよな。
櫻木:はい。もうリアルに…明日どうしよう、みたいな(笑)そういうレベルで結構厳しい思いをして。それでもやっぱり音楽を作ることはすごく楽しいから、それだけは一生懸命やりたい…そういう2年間でしたね。
H:お互いに会ってたわけ?バンド自体は。
櫻木:そうですね。
H:そういう仲間がいると、いいね。
櫻木:そうですね、たしかに。3人で集まって…結構キツいよね、みたいなところはみんな一緒だったと思うので。
H:で、これを作ってたのはいつ頃なの?『NO MOON』は。
市川:去年の暮れぐらいから本格的に作り始めましたね。
櫻木:うん。
H:すごい時間をかけたのかな?
櫻木:どうですかね。半年ちょいとか…ですかね。全部含めると。
H:うんうん。僕も急に止めちゃったんで…止めちゃったというか、まだやってるんだけど(笑)ライヴをやらなくなっちゃったでしょ。だからミュージシャンにはみんなそういう気持ちが共通してるんだろうな、とは思ってたんだけどね。でも、もうそろそろツアーがあるんでしょ?
櫻木:そうですね。11月5日の大阪から始まって…
H:東京が…
櫻木:12月8日ですね。STUDIO COAST。
H:そうかそうか。ヨギーの人たちもツアーが始まると言ってたんで…みんな一斉に動き出してることは確かだよね。でも世の中いま…普通にみんな外に出てるから(笑)なんだろう、普通以上に出てるかな。3、4年前より人が多い。車も多いしね。
櫻木:なるほど…ある種、そういう反動なんですかね?
H:それはあると思う。ずーっと閉じこもってて…でもマスクだけはしてるというね。
櫻木:細野さんは今のこの世の中をどうやって見てるんですか?コロナだったりとか。
H:ものすごく少数派だと思う。僕はほら、喫煙で何十年も前から圧迫されてきた身分だから。二級国民というかな(笑)
2人:(笑)
H:だから…世の中の圧力がすごく変わってきた。なんて言うんだろう、人を差別するようになったというかね。
櫻木:ほんとですよね。
H:で、その波は日本だけじゃないからね。世界で押し寄せてるでしょ?先に世界で始まって、次に日本に来るという…今回もおんなじパターンを踏んでるでしょ。だからすごく居心地が…最初は居心地が悪かったんだけど、いまはつらいね。もう、気が弱いから負けそうになるんだよね(笑)
櫻木:いやー、でもしんどいですよね。
H:でも音楽をやっててよかったよ。自由業だから(笑)仕事は自由、という感じで。
2人:(笑)
H:D.A.N.は…ツアーやってたでしょ、前。外国?
櫻木:はい。
H:結構、海外で人気があるんだね。
2人:いや~、どうなんですかね~。
H:(笑)
櫻木:もっとがんばりたいんですけどね…
H:がんばってよ(笑)
市川:自分たちが行きたくてなんとか行った、という感じだったんですけど。
H:でも、すごく歓迎されたでしょ?
市川:そうですね、経験にもなりましたし…
H:場所はどういうところだったの?大きなところ?
櫻木:中国とかは会場大きかったですね。
H:中国ってどういう反応をするの?僕はやったことないんだ。
櫻木:メロウで落ち着いた曲だったり、聞き入る曲を好むというか…良い反応がありましたね。ポップでダンサブルなものよりかはどちらかというとそういう方向のほうが…僕らはリアクションがよかったように思いました。
市川:なんか、ムーディーなものが好きな印象ですかね。
H:そうかそうか。意外だね。まぁたしかに、中国のイメージとそこに住んでる人たちのイメージとはずいぶん違うんだろうけどね。
市川:あとはロンドンですかね。
H:お。ロンドンはどうだったの?
櫻木:ロンドンはおもしろいですね…
市川:正直ですね、反応が。
H:え、どんな反応だったんだろう?興味がある。
櫻木:初めてD.A.N.でロンドンに行ったときは…めちゃくちゃくさい、小っこいパブで(笑)ほんとうにションベンくさい、ひどい異臭の…
H:(笑)
櫻木:最初はほんとに2人か3人か…現地の学校に通ってる日本人だったりとかがまばらにしかいなかったんですけど、ライヴが始まると奥のほうの部屋から「なんか音が聞こえる」みたいな感じでどんどん集まってきて。最終的にはいい感じ盛り上がって…みたいな。それはすごく楽しかったですね。
H:へぇ。それってすごくいいパターンだよね。
市川:僕らのことをたぶん知らない人が、単純に音だけで…
H:だんだん増えてくるってすごくいい感じだよね。昔の『グレン・ミラー物語』とかを観るとそんな感じだったからね(笑)やっぱり正直にコミュニケーションしてるのがいちばんいいよね。
市川:そうですね。細野さんもこないだ『あめりか』というライヴアルバムを出されてたじゃないですか。
H:うん、そうなんですよ。
市川:あれを聴かせて頂いたんですけど…
H:どうでしたかね。
市川:いやー、めちゃくちゃ良かったです。
H:あ、よかった。
市川:ずっと聴いてたんですけど…どうですか?アメリカとかにライヴで行くと。
H:僕も似たようなものなんだけど…すごく不安だったんだよね。特に、最近やってた音楽ってアメリカの古いブギウギとかね。カントリーまでやってたから…そんなの、日本人がアメリカ人の前でやっていいのかどうかって(笑)
櫻木:あー、なるほど…
H:そういう不安があったの。まぁでも、ニューヨークやロサンゼルスなら大丈夫かな、と。たぶん南部なんかに行ったら座布団が飛んでくる…というか、ウイスキーの瓶が飛んで来たりするんじゃないかな(笑)
2人:(笑)
H:あるいは熱狂させるか。どっちかだと思う。
櫻木:たしかに緊張感がありますよね(笑)
H:そうなの。予測できなかったね。
市川:伝統芸じゃないですか、その現地の。根付いてるものですよね。
H:そうなんだよ。だから舞台に立つまではわからなかったんだけど、立った瞬間に「あ、歓迎されてる」と思って。東京や大阪でやるのとあんまり変わらなかったね。
櫻木:いやー、それはそうですよ…
H:いやいやいや…わかんないよ。まぁ、それの映像がもうすぐ上映されるんですけどね。
櫻木:あ、そうなんですね。楽しみだな…
H:『SAYONARA AMERICA』というタイトルで…どうしてそうかというと、もう終わっちゃったから…なんて言うんだろうね(笑)
2人:(笑)
H:2019年にやって、次の年にこんな時代になっちゃったから。なんかね…区切りがついちゃったというかね。
市川:時代が変わった、みたいな感じしますよね。
H:変わっちゃったんだね。遠い昔のような気がしてね。
櫻木:なるほどなるほど…
H:では、D.A.N.は…これから先も海外に行くね、たぶん。
櫻木:行く…っすね(笑)
市川:行きたいですね…
櫻木:やっぱり新しいところに行って、新しい人たちに自分たちの音を聴いてもらうのが興奮しますよね。刺激的ですよね。
H:そうそう。
櫻木:リアクションが悪くても良くても楽しいな、と思うので。
H:わかるわ。音楽って別に説明しなくても、音を出せば感じてくれるからね。
櫻木:言葉じゃなく「おーおー」みたいになるんで…あれはおもしろいですね。
H:そうそう、言葉じゃないんだよね。そういう経験を今できてるというのは貴重だけどね。多くのバンドはその経験がないから。意外とね。なんの準備もなくフラッと外国に行って演奏する…そういうのはあんまりないよね。
櫻木:たしかにそうですね。
H:なんか計画して、チケットをどれくらい確保できるか…とかね。「世の中はmoney」だからね。この歌詞にもあったね。
櫻木:そうなんです。実はね。
H:ね。おんなじ考えだね(笑)
櫻木:「貨幣の奴隷」とか、だいぶ尖ったことを言ってて…すみません(笑)
H:いやいや、いいよ(笑)みんなだいぶ遠慮してるよね、言うのを。なんか反応が怖いんだよね、日本の。でも、言ってくれてよかった。「貨幣の奴隷」。
2人:(笑)
H:自分でも言いたいんだけど…なかなか、気が弱いからね僕は…(笑)誰かが言ってくれるのは嬉しいよね。
H:この…D.A.N.のいる事務所はヨギーもいる。
櫻木:そうですね。
市川:あとはネバヤン(never young beach)ですね。
H:ネバヤン。バンド同士の交流はそんなにないの?
櫻木:うーん、まぁでも…事務所で会ったりはするよね。
市川:うん。
H:そっかそっか。芸人みたい(笑)
2人:(笑)
櫻木:なんか、楽屋トーク的なことは行われますよ(笑)
市川:あと、never young beachのボーカルの安部。
H:安部勇磨くん。
市川:勇磨のこないだ出たソロアルバム、細野さんがミックスを…
H:何曲かやったね。
市川:あれは僕がベースを弾いたりとかしてて。
H:あれ、そうだったんだ(笑)
市川:そうなんです(笑)そういう、友達同士で「弾いてよ」みたいな感じで弾いたりとか。そういう交流はありますね。
H:それはそうだろうな。僕は普段、誰にも会わないね。
櫻木:あー、そうですか。
H:まぁこういう場があるから、幸いね。ラジオは結構貴重な時間なんですけど。
櫻木:じゃあ、おうちにいることが多いですか?
H:うちに閉じこもってるわけじゃないんだよね。毎っ日外食してるしね。この2年間毎日(笑)
櫻木:え、なんか美味しいものありました?(笑)
H:それは困ったな…あのね、頭の中にあるのはチャーハン・焼きそば・ハンバーグの3つしかないんだけど…
櫻木:いやー、やんちゃですね(笑)
市川:(笑)
H:やんちゃっていうのかな?(笑)
櫻木:いいですね、いちばんうまいですね。
市川:変わらないやつ。
H:で、そういうものが美味しいところは他のメニューも美味しいじゃない。
櫻木:間違いないです。
H:でもね、無くなってきたんだよ。最後のおいしい店が閉店しちゃったの。まぁそれはこういう時代の影響ではなくて…3年ぐらい前かな。世代交代が今、多いじゃない。お年寄りのやってるお店は後を継ぐ人がいないと閉店しちゃうんだよね。
櫻木:うーん、たしかにそうですね。
H:君たちはなにが好きなの?
櫻木:でも、僕らもやっぱりチャーハン…焼きそばもマストですね(笑)
H:いいね(笑)
櫻木:三軒茶屋に町中華があって…すごくおすすめのところありますよ。美味しい…きったないですけどね。
市川:(笑)
H:え、知ってるかな…あとで教えて。
櫻木:はい。あそこはうまいですよ…
H:そういうところは貴重だからね、ぜったい知っておくべきなの。応援するためにもね。
櫻木:そうですね。
H:年を取ると新規開拓をしたくないの。
櫻木:あ、じゃあ行くところは決まってるんですか?
H:決まってるの。だいたいは日本そば屋と洋食屋と中華と。
櫻木:えー、洋食気になるなぁ…細野さんが食べてる洋食はどこなんだろう。めっちゃ気になる…
H:あとで教えるよ。
櫻木:知りたい…
H:さて…もう1曲聴かせてもらおうかな。
市川:じゃあ…インストなんですけど、6曲目の"Fallen Angle"という曲を。
H:おお。
Fallen Angle - D.A.N.
(from『NO MOON』)
H:いいね。D.A.N.って元々エレクトロニック系のイメージがあったんだよね。当初はそういう曲が多かったよね。
市川:もっとさわやかな感じでしたね、元々は。
H:あ、そうだったね!たしかに、そうかもしれない。やっぱり今の時代の音というかな。共鳴する人は多いんじゃないかな。
櫻木:そう言ってもらえると嬉しいです。
H:じゃあまた、これからの活動を僕は楽しみにしてますので…D.A.N.のお2人でした。櫻木さんと市川さん。 また来てください。
2人:ありがとうございました。
@@@@@@@@@@@@@@@@
H:緊張してない?なんか(笑)
櫻木:緊張しますよ、それは!
H:これが終わるとみんなおしゃべりしだすんだよね(笑)
2人:(笑)
櫻木:いやー…ほんとに嬉しいです。
市川:みんな大好きなので…
H:え?
市川:本当に大好きな細野さん…
H:大好きなんだ(笑)それは嬉しいけど。
市川:僕らが高校生ぐらいの時ですかね?仲間内ではっぴいえんどだったりYMOとか、細野さんのソロだったりをみんなで掘って、聴いて、というのをやってました。
H:高校の頃?へぇ。
市川:みんなでライヴの映像を掘ったりとか…
H:そういうことを本番でしゃべってくれないと(笑)
市川:そうですね、もうちょっと出してもよかった…(笑)
櫻木:ふつうに飯屋とか、どうでもいいことを聞いちゃった(笑)すみません…
H:いいよいいよ(笑)おもしろい…んー、そうだったんだ。もうだから…世代交代だよ、ほんと。もう疲れちゃった(笑)
櫻木:いやいや…もっと聴きたいですよ?(笑)
H:だって、すごい歳離れてるよね。
櫻木:そうかもしれないですね。
H:40以上だよ。すごいな、それ。でも不思議だな…年齢の格差はないな、音楽は(笑)
2人:ないですね。
H:それがおもしろい。