2021.02.28 Inter FM「Daisy Holiday!」より
H:こんばんは、細野晴臣です。きょうはですね…初めて来て頂いた斉藤和義さん。よろしく。
和義:お願いします。
H:ひさしぶりですね。
和義:おひさしぶりです。
H:いつ会ったのかはちょっと憶えてないけど…ステージでよく会ってたよね。
和義:そうですね。あとは1回、番組で…いとうせいこうさんの番組。
H:あ、そうかそうか。そういうこともあったね。
和義:たぶん、お会いするのはそれぶりな気がしますけど。
H:そうだね。ちゃんと、じっくり話したことはないよね(笑)
和義:そうですね。打ち上げでチラッと…ぐらいですかね。緊張します。
H:いやいやいや…(笑)
和義:よく聴いてるんです、この番組。細野さんが紹介した曲とかをよく買ってます。
H:あ、ホント?(笑)うれしいね。
和義:ぜんぜん知らない人ばっかりかかるんで…すごい勉強になってます。
H:そうか。おもしろいな、それ。ぜんぜん…どういう音楽を聴いて育ってきたのか知りたいんだけど。
和義:はい。
H:世代的には僕と2周りくらい違うのかな?
和義:いま54歳なので…
H:あ、そっかそっか。じゃあベテランだなぁ、もう。
和義:ベテランではないですけど…ちょうどビートルズが来日した年生まれなんですよね。
H:そうなんだね。それはわかりやすい。
和義:それこそ歌謡曲が好きでしたし…ギター始めたころ、最初はフュージョンブームみたいなものがあったので。高中さん(高中正義)とかね。"BLUE LAGOON"が弾きたくてギターを始めました。
H:やっぱり最初からギターなんだね。
和義:そうですね。
H:でも、いろんな楽器やるんでしょ?
和義:まぁ、どれもテキトーに…
H:じゃあおんなじだ、僕と。
和義:いやいやいや…
H:ドラムやったりね。トランペットって書いてあったな、どこかに。
和義:小学生のときに鼓笛隊みたいのをちょっとやって。最近またできるかな、と思ったらぜんぜん…
H:あんまり似合わないかもね(笑)
和義:そうですね(笑)
H:やっぱりギターがいちばん似合うね。
和義:細野さんは最初ギターですか?ベースではなくて。
H:うん。最初からベースっていう人はあんまりいないね。
和義:そっか。
H:ギターやってて…誰も弾かないじゃない、ベースって。みんなギターで。
和義:まぁそうですね。
H:津軽三味線みたいにみんなユニゾンでギター弾いてて…(笑)
和義:俺の時代でも…中学生くらいのときに組んだバンドは6人編成だけどギターは4人でしたね(笑)
H:多いよ(笑)
和義:ベースっていう存在をあんまりみんな知らなくて。
H:そうなんだよ。ベースはね…軽く見られてたんだよ。昔はね。「どれがベースの音?」って、普通の人は。
和義:そうですね。でも、意外と…タイトルがわからない曲があったときに、それはどういう曲?って訊いたときに口ずさむメロディーが意外とベースラインだったりする。
H:あ、なるほどね。
和義:だから、意外と聴いてはいるんだろうな、と思って。
H:そうだよね。やっぱり潜在意識に残っちゃうのかね。
和義:そうかもしれないですね。
H:えーと、新作。3/24にリリースですけど、もうかけていいかな?
和義:はい。これはまさに去年の自粛中に…最初はギターとかで作ってたんですけど、いっぱり作りすぎて飽きちゃって。
H:飽きちゃうぐらい?すごいな。
和義:それで曲も録らなきゃな、と思い始めたときにYMOの"BEHIND THE MUSK"を…すみません、細野さんの曲じゃないんですけど(笑)
H:いや、いいんですよ(笑)
和義:あれが前から…もちろんYMOは大好きだったんで。
H:あ、好きだったの?
和義:大好きでした!『スネークマンショー』とかも毎日のように聴いてたし。
H:あー、そうだったのか。
和義:特に『SOLID STATE SURVIVER』はずーっと、あの頃から…
H:中学生ぐらい?それ。
和義:そうですね。小6か中1ですかね。
H:いちばん吸収しちゃう世代だよね。
和義:そうですそうです。で、それを勝手にカヴァーさせて頂いて…
H:そうかそうか。聴きたいな、"BEHIND THE MUSK"。聴いていいの?
和義:はい。
H:聴かせてください。
BEHIND THE MUSK - 斉藤和義
(from『55 STONES』)
H:いやいや、ヴォコーダーだ(笑)歌ってるのかと思ったら。
和義:そうですね(笑)あれを全部生楽器でやってみよう、と思って。やってみました。
H:そうか。クラプトン(Eric Clapton)のアレンジってどんなんだっけな…こういう感じだっけ?
和義:いや、もっと…歌ものですね。マイケル・ジャクソンのも歌ものですね。
H:そうか。
和義:僕は英語がぜんぜんダメなので…
H:そうかそうか。あれ?でもロサンジェルスのレコーディング、どうだったのかな?それがすごい気になるんだけど。それはいつやったんだっけ?
和義:えーと、ロスは5年ぐらい前ですかね。2015年ぐらいに…チャーリー・ドレイトン(Charley Drayton)というドラマーがいて。キース・リチャーズ(Keith Richards)がエクスペンシヴ・ワイノーズ(The X-Pensive Winos)というバンドと最初のソロアルバムを出したときに…
*1988年発表『Talk Is Cheap』。
H:あー、そこら辺は知らなかったな。
和義:スティーヴ・ジョーダン(Steve Jordan)もドラムで。そのチャーリー・ドレイトンとベースとドラムがテレコになったりして。
H:うんうん。
和義:そのチャーリー・ドレイトンがすごく好きで。前にも、2000年初期ぐらいにもいっしょにやってもらったりして。で、久々にまた彼とやろうということで[ロスに]行って。
H:そうかそうか。
和義:で、なぜか彼はダリル・ジョーンズ(Darryl Jones)さんの家に居候してたんですよ。そこで3曲ぐらい…ダリルさんも来てくれて。
H:来た?豪勢。僕も一昨年ロサンジェルスでライヴやって。最近そのライヴ盤が出ましたけど。
和義:めちゃめちゃ盛り上がってるやつですよね(笑)
H:そうですね。あれはヤラセじゃないですから(笑)
和義:歓声がすごいですよね(笑)
H:そのときにコーディネートしてくれた日本人の人がね。
和義:あ、洋平ちゃんですか?鹿野洋平。
H:鹿野洋平くんじゃなくて…洋平くんだったかな?その情報は。あ、そうだ。僕もよく知ってる人だからね。鹿野くん。
和義:うんうん。
H:そしたら「斉藤さんが来ましたよ」と。彼がやったんだっけ?コーディネート。
和義:そうです。何曲かギターとベースも弾いてもらって。
H:そうか。そのときに…ジョー・ヘンリー(Joe Henry)のスタジオなの?どこでやったの?
和義:えーとね、エンジニアの…
H:エンジニアはフリーランド(Ryan Freeland)っていう人かな?違うかな。
和義:誰だったっけ。名前忘れちゃった…
H:ジョー・ヘンリーがすごい好きなんで。よく一緒にやってるエンジニアがサイトで調べて…どんな機材使ってるのか、とかね。で、そのページに「Kazuyoshi Saito」っていう写真があったんだよね。
和義:あ、そうですか。
H:そこに行ったんでしょ?たぶん(笑)
和義:行きましたね(笑)
H:(笑)
和義:一軒家でした。
H:あー、そうだよ。よさそうだよなぁ。行きたくてしょうがない、そこ。
和義:一軒家で、スタジオっていう感じじゃなくて。自分の家族が住んでる家が隣にあって。そのガレージを改造したような…
H:ロサンジェルスにはそういうところ多いよなぁ。んー。
和義:だからあんまり大きな音はずっと出せないんで夜9時までとか。
H:あ、そうなんだ(笑)
和義:だからでかい[音量の]トラックとかを録るとブースの中まで聞こえてきちゃうような感じでしたけど…でもよかったですよ。
H:そうなんだ。良いところでやったなぁ…
和義:2階がコンソールルームになってて、1階がブースで…ブースといってもそんなに広くなくて。
H:あ、意外だね。広くないところでもドラムセット置いたりできるわけね。
和義:ドラムのブースがいちばん広くても、まぁ8畳ぐらいな感じで。あとは2畳もないようなブースが3つぐらいあって。
H:へぇ。ミックスもしたの?
和義:ミックスは日本で。
H:あ、そうなんだ。
和義:ロスのなんていう地域なのかな…
H:僕もよくわかんないな。
和義:海よりももっと内側のほうだったんで。で、ロスのわりに行ってた時期はずーっと曇ってたんで。
H:最近曇ってるんだよね、ロサンジェルスって(笑)
和義:そうですね。なんか千葉で録ってるみたいな感じで。
H:(笑)
和義:ずーっとそこにいたし、どこにも出かけなかったんで。ロスでやってる気がしなかったですけどね。
H:それはまためずらしいね(笑)
H:そのときに洋平くんが言ってたけど…タバコの話していいかな。吸うよね?
和義:ガンガン吸います。
H:おんなじだ(笑)外国行くとすごい大変じゃない、旅は。どこも吸えないじゃん、ホテルは。
和義:そうですね。
H:で、吸えるところを探すんだよね。探すでしょ?
和義:探します、探します。
H:その探したっていう話を聞いたんだよね(笑)
和義:はいはい…(笑)すごい安ホテルみたいなところで…
H:すごい、環境が悪いところなんじゃないの?
和義:そうでした。モーテルみたいな…
H:とにかくタバコ優先なんだね(笑)
和義:そうですそうです(笑)すぐ吸えるように1階にして…
H:いやぁ、気持ちわかるわ(笑)
和義:そのときはまだ部屋でも吸えたんですけど、もう今は完全にダメで。
H:あ、ホント?僕はね、ベランダがあるとこっそり吸っちゃうしね。
和義:あー、ですよね。でもアメリカ人もバンバン吸ってますよね。
H:道はね。道はもう、自由だね。
和義:そうですよね。歩いてるとぜったい「1本売ってくれ」とかって言われます(笑)
H:ホント?(笑)
和義:「1本1ドルで売って」みたいな。
H:なんだそれ(笑)ずいぶん高いな、1ドル。
和義:でも向こうにすると…1箱で1,000円以上しますからね。
H:そうかそうか。
和義:へぇ、よかった。タバコみんな止めていくじゃないですか。
H:ホントにみんな…全員止めたね。
和義:とくに歌う人とか。俺の周りみんな…つい5,6年前までとか…やっぱり50歳を機に止めたりする人も多くて。
H:ね。
和義:で、「普通、止めるでしょ」とかみんなに言われるんですけど。
H:言われるよ。んー。
和義:普通、止めないでしょ、と思うんですけどね(笑)
H:どっちが「普通」なのかね(笑)
和義:うーん。なんか、喉に悪いとかって言いますけど。
H:それはね、嘘だよ。
和義:嘘ですよね。
H:お酒はアルコールで焼けるんだよね。だからちょっと[声が]低くなってるんだよね。
和義:なるほどなるほど。
H:でも、イタリアのオペラ歌手とかみんなタバコ吸うからね。
和義:あ、そうですか。へぇ。そう、喉が逆に鍛えられていいんじゃないか、と思ってるんですけどね。
H:あのね、いろんな良いことがあるよ(笑)
和義:(笑)
H:ここでしか言わないけどね(笑)免疫を少し上げるからね。やっぱり毒だからね。多少の毒を入れると免疫が騒ぐっていうか。
和義:なるほど。そうだと思います。よかった、細野さんのお墨付きがあれば堂々と吸えますよ、これから。
H:いや、お墨付き…(笑)いろいろと理屈を考えないと吸えないから(笑)
和義:(笑)
H:いやー、タバコは嫌いな人多いから。
和義:多いんですかね。
H:タバコの話するだけでももう煙い…みたいなね。
和義:いやー、ホントにね。でも売ってるんだからね。合法なんですから。
H:そうなんですよ。で、僕はお酒が飲めないんだよ。
和義:あー、そっかそっか。
H:飲むでしょ?両方行く?タバコとお酒。
和義:そうですね。でも、どっちかやめろって言われたら酒止めますね。確実に。
H:あ、ホント?(笑)
和義:お酒は普段は…ツアー中だと打ち上げとか飲んじゃってますけど。特に去年の、自粛になっちゃってからは…家に居たらまぁ飲まないし。だからあんまり必要なかったんだな、と思いますね。
H:そうなんだね。だって、お酒のほうがいろんなことが起こるよね、街で。泥酔して道で寝ちゃったり。タバコ吸って街で寝る人はいないじゃん。
和義:そうですね。
H:まぁそんな話はいいか。はい。
和義:(笑)
和義:そういえば一昨年でしたっけ?六本木でやってた細野さんの展覧会というか…
H:展覧会かな?あれ(笑)「細野観光」っていうやつだ。
和義:あれ行ったんですけど、すごいですね。物持ちの良さというか…(笑)
H:みんなに言われるんだよね(笑)
和義:小学生のときに描いたマンガそのままとか。
H:あんなものがあるなんて自分じゃぜんぜん知らなかった。どこかに入れてあるんだね。
和義:そうなんですか。
H:で、捨てないんだよ。捨てられないの。だから、部屋が散乱してるタイプの…片付けられない人間ですよ。
和義:いやいや、それにしてもあんなに…まぁ楽器が取ってあるというのはわかるんですけど。
H:なんでも取ってあるというのは母親の遺伝子かもしれないね。
和義:おやー、あれはすごくおもしろかったです。
H:ありがとうございます。
H:音楽…このアルバム、「フィフティーファイヴ」と読んでいいの?
和義:そうですね。
H:『55 STONES』。『202020』…なんて読むの?(笑)
和義:「ニーマル・ニーマル・ニーマル」っていう…これは去年出したやつですね。
H:そうだね。最近、数字の人が増えたなぁ。いま気が付いたけど。全部新曲…あ、"純風"が入ってるね。わりと毎日聴いてるね、僕。テレビで(笑)
和義:あ、そうですか(笑)
H:結構観ることがあるんだよね(笑)
和義:へぇ、高田純次さんの…
H:そう!毎日聴いてるな。ちょっと聴きたくなるんだよね、そういうのはね。
純風 - 斉藤和義
(from『55 STONES』)
和義:1曲かけたかったのは、細野さんに以前ベースで参加して頂いた曲で…
H:"幸せハッピー"?
和義:あ、それもカヴァーさせて頂いたんですけど…"行き先は未来"という曲があって。林さん(林立夫)にドラムを叩いて頂いて。
H:そうだそうだ。それ聴きたいな。
和義:前にせいこうさんとかの番組に出たときに、いつかベースを弾いてください、という話をして。その後に実際にお願いしたらお受けして頂いて。
H:はい。やったね。
和義:そのときは自分が弾いたベースをデモでお渡ししたんですけど、そのときのヒヤヒヤ感といったらなかったですよ。
H:(笑)
和義:細野さんに弾いてもらうのに自分のベースのデモって…入れなくてもいいだろうなと思いながら。
H:ぜんぜん気になんなかったな。
和義:で、帰ってきたらそれが…
H:おんなじように弾いてた?(笑)
和義:いやいや(笑)ぜんぜんまるっきり感じが違ってて、うわぁ、さすがだ…と思って。
H:いやいや…いろいろ話したいんだけどもう時間が来ちゃったな。曲はかけられないかな?大丈夫?かけちゃおうかな。じゃあその曲を聴いてお別れしようかしら。
和義:はい。
H:じゃあ、また来てもらうしかないな。30分なんで。
和義:あ、お願いします。
H:ありがとね。斉藤和義さんでした。
和義:はい、ありがとうございます。
行き先は未来 - 斉藤和義
2021.02.21 Inter FM「Daisy Holiday!」より
H:こんばんは。細野晴臣です。さぁきょうはですね、ひさしぶりに…LITTLE CREATURESの新譜を出しました、青柳拓次くん。いらっしゃい。
青柳:どうもー、おひさしぶりです。
H:ひさしぶりだね。いつの間にこっちに移住…移住っていうのはヘンだけど(笑)
青柳:(笑)
H:ずっと沖縄に住んでると思ってたから。
青柳:ええ、戻ってきました。3年ぐらい前に。
H:もう随分前だね。まぁ、この1,2年ってあっという間に過ぎちゃったけどね。
青柳:不思議な時期ですね、今は。
H:去年は何もなかったとおんなじような…活動しないしね。
青柳:そうですね。
H:じゃあ、LITTLE CREATURESはいつレコーディングしたんですか?
青柳:これはね、夏頃ですね。去年の。
H:あ、そうなんだ。
青柳:普通に顔を合わせてスタジオに入り…わりと普通に録音しました(笑)
H:普通だよね。それは普通でできるよね。なんでやらなかったのかな、僕も。
青柳:(笑)
H:タイトルは『30』。どういう意味かな?(笑)
青柳:もうホントにそのまま、30周年なので…(笑)
H:そっかそっか。30歳っていうわけじゃないよね、まさか(笑)
青柳:(笑)
H:30周年!随分経ったねぇ。
青柳:そうですね。なんだか…芸人30年、という感じです。
H:メンバーはみんな東京だよね。
青柳:そうですね。
H:まぁちょっと最初にこの『30』から、LITTLE CREATURESで…なにがいいでしょうね。おすすめ。
青柳:じゃあ、いちばん最後の"踊りかける"というのを。
H:じゃあ、それを聴いてみたいと思います。お、良い音だね。
踊りかける - LITTLE CREATURES
(from『30』)
H:おお。カッコいいね、単純に。
青柳:ありがとうございます。
H:LITTLE CREATURESは3人だよね?
青柳:そうですね。
H:僕はベースの鈴木正人くんとはいっしょにやったことあるし、青柳くんともやってるし…もう一方とはやってないんだよね。
青柳:あ、栗原(栗原務)ですね。そういえば、そうですか。
H:去年の1年間って、じゃあ、東京なの?
青柳:東京です。国立…(笑)
H:国立。どんな生活をしてたの?1年間。夏はこのレコーディングをやってたわけだね。
青柳:ええ。そうですね…もうホントに、家でコンピューターを前になんか作ってましたね。劇伴[の仕事]とか多かったので、それをじっと部屋の中で…(笑)
H:じゃあ僕と似たような感じだね。そうなんだよ、音楽作ると楽しいよね、いつだってね(笑)
青柳:そうですね、作ってる間はちょっと気持ちがね…
H:他のメンバーもみんな元気そうだね。よかったよかった。
青柳:そうですね。なんとかやってます。
H:沖縄は今、気持ちがいいんじゃない?そうでもないのか。[感染者数は]増えてるのかな。
青柳:徐々に来てますけど…やっぱり観光の島なので。人の出入りがね…
H:青柳くんが住んでたところは山原(やんばる)のほうだっけ?人があんまりいない…
青柳:そうです!けっこう奥地の…(笑)
H:すばらしいところだよね。
青柳:いいとこでしたね。
H:あそこら辺のシャーマンのおばあちゃんとかと僕、知り合いになったりしてたんだよ。
青柳:あ、ホントですか。
H:山を案内されたり。
青柳:けっこうお祈りする場所が…滝とかあったりとか。
H:そうそう。
青柳:へぇ。それはいつ頃ですか?
H:それはね…もう10年以上前だな。だからそのおばあちゃん、友達になったんだけど今はもういないんだよね。
青柳:どうしてるんですかね。
H:いや、もういなくなっちゃった。かなりご高齢だったんで。
青柳:そうですか。なんか、いろいろ…普通の生活の中にそういう方がいたりとか。
H:周りにもいたでしょ?
青柳:いましたいました。いろんなタイプの方がいましたね…(笑)
H:なんか相談したりしたの?
青柳:訊いたりしたことはありますね。これからどんな風にしてったらいいですかね、とか…(笑)
H:(笑)どう?東京は。
青柳:まぁ、また気持ちは戻ってきてますね。
H:そっかそっか。切り替えられるよね。
青柳:やっぱり、生まれがこちらなので。
H:生まれは何区なの?
青柳:僕は中野区です。実は今、仕事場が中野にあって。また戻ってきてる感じでなんか不思議ですね(笑)
H:あ、ふるさとに(笑)なんか、一周するようなことはあるからね。
青柳:僕は今年で50歳になるんですけど…
H:まだ50か…
青柳:(笑)
H:いや、僕から見るとね(笑)若いな。
青柳:細野さんが50のときはどんな感じだったんですか?
H:なにやってたっけ…40代の続きをやってたような感じだよね(笑)50歳ってあんまり区切りがつかないというかね。60になるとね、なんか区切りがついちゃうんだけど。30代からずっと引きずって50代に行っちゃう、という感じで。
青柳:なるほど、そうなんですね…
H:そうじゃない?そうでもないかな。
青柳:どうなんだろう…このコロナ禍の不思議な…(笑)
H:これはホントに、めったにできない体験をしてるよね。
青柳:そうですね。それでいろいろと考えることがあったりもしますけど。
H:なにを考えてるか知りたいです(笑)
青柳:(笑)
青柳:ひとつ質問してもいいですか?
H:もちろん。
青柳:細野さんはプロジェクト…これからやりたいこととか。いくつか既にあったりするんですか?
H:うっすらとね。一昨年までやってたようなことはもう、アメリカのツアーで…まぁ、ツアーといってもニューヨークとロサンジェルスだけだけど。あとロンドンとか。そういうので一応、締めちゃったというか。完成しちゃったな、という気持ちがあって。
青柳:ええ。
H:それまではアメリカの古い音楽とかブギウギをやってたけど、去年からはやっぱり変わっちゃったね。その前にね、90年代に一度、アンビエントの頃に変わっちゃったんだよね。リセットされたというか。それまでやってたいろんなことをやめちゃって、アンビエントばっかりやってたの。そこからまた段々陸に上がってきて。
青柳:(笑)
H:色がついてきて、また自分の20代の頃に好きだったことをやり出したりして。それでブギウギをやったりして。でも、やっぱり去年の1年でそれは真っ白になっちゃったな。そのときになにを考えてたんだろう…手作りでラジオをやってて。それまでラジオは好き勝手やってたの。誰が聴いてるかはあんまり考えずにね(笑)思うままに好きな曲をかけてたの。
青柳:ええ。
H:でもひとりで、手作りでここで作るようになってから、聴いてる人のことを考えるようになったわけ。つまり、世の中のことを考えるようになったというか(笑)それでやっと、同時代の人たちがなにを考えてるのかにすごく興味が出てきて。
青柳:なるほど。
H:で、耳に入ってくる音楽は内省的なものがすごく多くなって。自分の部屋で作ってるような音になったりとか。自分もそうなんだなぁ、と思って。
青柳:ラジオを通じたひとつのコミュニケーション…演奏とかではなく。
H:そう。音楽を作る以前の話だよね。自分がどうなってるのかはよくわからないんだけど…とにかく、今までのことじゃない、ということは確かだね(笑)
青柳:んー、そうですね。これは皆さん、音楽家の方は思うんですかね。この時期ね。
H:そうだと思うよ。なんか…調子に乗って続けられない、という感じがあるね(笑)
青柳:(笑)
H:きっとね、去年がそういうことじゃなければ調子に乗って続けてたと思うんだよね。
青柳:音楽に限らず、広がるところまで、複雑になるところまでグーッて、なんでもなって…
H:極限だったね。ピークだった。
青柳:そうですね、ピークでしたね。だからここでキュッと…
H:そうそう。いろんなことが見えるようになってきてるしね、今。音楽だけじゃないんですけど。政治とか経済とか。アメリカで起こってることとかね。ああいうことが音楽にどういう影響があるのかって、やっぱり考えるんだよね。で、アメリカのショウビジネスってすごく影響を受けてるじゃない?
青柳:そうですね。
H:映画がいちばん影響を受けてるかもしれない。音楽もメジャーな、派手な動きが聞こえなくなってきてるしね。逆に個人的な音楽が非常に届くようになってきてる。
青柳:そうですね。それこそテイラー・スウィフト(Taylor Swift)みたいな大メジャーな人もかなり内省的な…
H:『Folklore』作ったりね。でも売れるんだけどね(笑)
青柳:そう、それでも売れるという…(笑)
H:そういうさなかで作ったアルバムというのは貴重だと思うんで…もうちょっと聞かせてもらおうかな。
青柳:じゃあ…"あさやけ"という曲をお願いします。
あさやけ - LITTLE CREATURES
(from『30』)
H:斬新な終わり方だね(笑)
青柳:スッ、と終わってますね(笑)
H:この"あさやけ"とか…去年の印象は自然がすごいきれいだったなぁ、と思って。
青柳:そうですね、空とか…
H:自然が生き生きしてて、人間がショボンとしてて(笑)
青柳:(笑)
H:[去年の]桜の季節が忘れられないんだよね。この辺りもそうだけど、西郷山公園とかね。代官山にあるんだけど。あそこまでずっと…桜のところにいたな。
青柳:それは散歩ですか?
H:散歩ね。けっこうやってた。で、桜はクマリンというエキスを放出するんだよね。
青柳:なんですか?それ。クマリン?
H:僕も知らなかったんだけどね。花びらにもあるのかな、幹から出てるらしいんだけど。周りの植物を抑制する成分なんだって。自分が咲き誇るために。
青柳:えー?
H:ということは、ウイルスも抑制するんじゃないかな、と思って…桜があると見に行ってたね。
青柳:それは初めて聞きましたね(笑)
H:うん。知らないことが多いんだけどね、僕も。まぁ東京は自然がけっこうあるんだな、と思って。意外とね。
青柳:あー、実は…なるほど。そうかもしれないですね。でも、散歩とかするようになりましたね、意識的に。
H:だって、3年前に住んでた山原のあたりはもう、すごいでしょ?大自然の中でしょ?(笑)
青柳:自然に襲われるぐらいの…(笑)
H:襲われちゃう(笑)圧倒されるよね。そこで何年いたの?
青柳:僕は8年いましたね。
H:けっこう長いね。じゃあもう、完全にしみ込んでるよね。
青柳:そうだと思います。細胞にちゃんと、沖縄の食べ物が入って…(笑)
H:そうだよね(笑)それはいい滋養というか、いいエネルギーが溜まってるよね。うらやましいね。
青柳:段々抜け始めてる感じもあるんですけど…(笑)
H:まだ大丈夫。
青柳:大丈夫ですかね?(笑)僕は焚火が好きで、沖縄にいる間はずーっと焚火をやってて。
H:いいなぁ…焚火やりたい…すごいやりたい(笑)
青柳:ですよね(笑)それが恋しくて、今はホントに…
H:昔は秋になれば庭でね、いろんなものを…枯葉といらない紙とかお芋とかね。やってたよね。
青柳:いいですね…それが恋しい。
H:それは僕の世代もみんな恋しいかもしれないね。
青柳:あー、そうですか…
H:ところで、この『30』。
青柳:はい。
H:2枚組なんだね。
青柳:そうなんです。1枚はいわゆるオリジナルアルバム。
H:今聴いてたやつね。
青柳:そうです。もう1枚は…まぁ、ベスト盤的な選曲のアコースティックライヴというか、スタジオセッションですね。
H:こっちは英語なんだね。
青柳:そうなんです。初期、中期ぐらいまでは[英語が]多いんです。今もたまに歌いますけど、日本語が多いので…
H:それで、もう1枚頂いたこれは…
青柳:これはドイツ、ミュンヘンのちょっとおもしろいブラスバンドで。
H:ミュンヘン?おもしろそう。
青柳:ちょっと名前が言いにくいんですけど、ホッホツァイツカペレ(Hochzeitskapelle)という…(笑)
H:ぜったい覚えられない(笑)
青柳:「結婚式のバンド」みたいな、そんな意味らしいんですけど。
H:でもプロなんだよね?
青柳:はい。元々は皆さん尖った音楽というか…インディーの、力のあるミュージシャンそれぞれが集まって、新たなコンセプトで。冠婚葬祭に出ていく音楽、みたいな…(笑)
H:どうやって知り合ったの?
青柳:自分が過去にイギリスからアルバムを出したことがあって。そのアルバムを彼らが聴いててくれて。
H:あ、いい関係だね。
青柳:それで声をかけてもらいました。
H:向こうからね。それはすごいラッキーというか、いい出会いだね。
青柳:そうですね。楽しい関係というか。それで曲を書かせてもらって、彼らと一緒に演奏する、という。
H:じゃあミュンヘンまで行ったわけね。
青柳:はい、そうですね。
H:聴きたいね。聴いていいかな?
青柳:ぜひぜひ。
H:じゃあ、なにがいいでしょう?
青柳:えーと…
H:10曲入りで、『Wayfaring Suite』というアルバムタイトル。
青柳:じゃあ2曲目、"Part.1"というのを。
H:じゃあこれを聴きながら…また今度来てくださいね。
青柳:ぜひ!ありがとうございます。
H:では最後に"Part.1"を聴いて…青柳拓次さんでした。
青柳:ありがとうございました。
Part.1 - Hochzeitskapelle & KAMA AINA
(from『Wayfaring Suite』)
2021.02.14 Inter FM「Daisy Holiday!」より
手作りデイジー🌼#17
(以下、すべてH:)
はい、こんばんは。細野晴臣です。先週やったばっかりでまたやるの?っていう感じなんですけど(笑)先週は子どもの頃の音楽体験[特集]をやってて、なんか次もやりたくなっちゃって。1か月待てないんで、つい作ってるんですけど。まぁでも、週に1回やるのは大変でしたね、去年の4月頃は。それは無理なんですけど、時々こうやって続けてやりたくなることがあるんで悪しからず…ということで。
そして先週、5,6歳の頃から中学生頃までの音楽体験をずらっと…まぁ、ホントにざっとやったんですけど。今回はその頃聴いていた音楽がいかに今の自分に影響を与えてくれているか、というサンプルを…オリジナルとカヴァーを並べて聴いていきたいと思います。
最初はマーガレット・ホワイティング(Margaret Whiting)の"Good Morning, Mr. Echo"。1951年のヒットです。続けて、1996年にコシミハルと一緒にやったスウィング・スロー(Swing Slow)でもおんなじ曲をやってますので、ぜひ聴いてください。
Good Morning, Mr. Echo - Margaret Whiting
Good Morning, Mr. Echo - Swing Slow
(from『Swing Slow』)
次は"I'm Leaving It Up To You"という曲。1963年のヒット曲でデイル&グレイス(Dale & Grace)、そしてスウィング・スローです。
I'm Leaving It Up To You - Dale & Grace
I'm Leaving It All Up To You - Swing Slow
(from『Swing Slow』)
1950年代初頭にザ・コースターズ(The Coasters)というドゥーワップグループが登場して、軽快なノヴェルティソングが大流行りしました。その彼らのやってるリズムを継承している、という感じで聴いてください。コースターズで"Yakety Yak"。
Yakety Yak - The Coasters
このコースターズの"Charlie Brown"という曲をカヴァーしているのがザ・コーデッツ(The Chordettes)。
Charlie Brown - The Chordettes
1964年、ロックシンガーのロイ・ヘッド(Roy Head)による"Teen-Age Letter"。
Teen-Age Letter - Roy Head & The Traits
コーデッツと並んで…お嬢さんもやってますね。ペイシェンス&プルーデンス(Patience & Prudence)も"Little Wheel"。これは1969年です。
Little Wheel - Patience & Prudence
1998年の日本にもこのスタイルは受け継がれてます。まぁ、僕が受け継いだんですけどね。では森高千里で"Hey! 犬"。
Hey! 犬 - 森高千里
(from『今年の夏はモア・ベター』)
ポップスのいろんなパターンがあるんですけど、そういうのは結構伝統的なものになってますが…最近では受け継がれてる感じはしませんね。リンク・レイ(Link Wray)のやってる"Comanche"という曲、これは全然最近まで知らなかったんですが…なんかおんなじことを僕もやってるんですよね。"Comanche"。
Comanche - Link Wray & The Wraymen
このリンク・レイは1959年のレコーディングですね。次はシーナ&ザ・ロケッツ(SHEENA & THE ROKKETS)で1997年にレコーディングした"INDIAN HEART"という…これは自分でもすごく好きなんですよ。"INDIAN HEART"というタイトルはシーナが付けてくれました。ありがとう。それではこれで…また来月、ということになるのかな。まだこの感じは続くかもしれないんで、ちょっと予想ができませんね。また来週。
INDIAN HEART - SHEENA & THE ROKKETS
(from『@HEART』)
2021.02.07 Inter FM「Daisy Holiday!」より
手作りデイジー🌼#16
(以下、すべてH:)
こんばんは、細野晴臣です。毎月初めの「手作りデイジー」。さぁきょうはですね、いま発売中の『細野晴臣と彼らの時代』という本がありますが、門間雄介さんの8年かかった労作というか…本当にいい本を作って頂いてうれしいと思っています。
これの最初の数ページ分、子どもの頃の音楽をかけていきたいんですけど…そうですね、1947年生まれなんで昭和22年。その頃はまだなんにもなかったんですけど、4,5歳になって…昭和26年ぐらいから音楽を聴き始めて。小学校に入って中学1年ぐらいまでの間に聴いてた音楽…全部はかけられませんね。まぁ、こんな感じで始めたいと思います。ベニー・グッドマン(Benny Goodman)ですね。
Boy Meets Girl - Benny Goodman Sextet
4歳の頃に聴いてた太鼓のレコード…母親にねだって聴かしてくれ、と言ってたんです。当時はSP盤です。すぐ割れちゃうタイプの、78回転のレコードを電蓄に据えてかけてもらってたんです。その音楽がですね…「太鼓のレコード」っていうくらいなんで、たぶんジーン・クルーパ(Gene Keupa)辺りの…つまりベニー・グッドマン楽団だったんだと思うんですけど。
Farewell Blues - Benny Goodman Sextet
こんな感じなんだけど…ちょっと違うんですよね。なんだか憶えてないんですよ。そのSP盤が残ってないんで。他の盤は数枚残ってるんですけどそれだけ残ってないんですよ。なんだったのかな…まぁ、これではないですね。
Blue Skies - Benny Goodman
ん、これかな…いや違うな。これは"Blue Skies"だよね?"Sing, Sing, Sing"だと思ってたんですけど…あんまり好きじゃないんですよね、あれ。やっぱり子どもの頃から変わってないんですよね、趣味が(笑)あれじゃないんですよ。まぁ、こんな感じです。
いろんなSP盤が家にあって…これもそうですね、「3匹のこぶた」。これはカヴァーで後半ジャズになっていくんですけど、そこもよかったんですよね。
Who's Afraid Of The Big Bad Wolf? (The Three Little Pigs) - Victor Young & His Orchestra
もうひとつは「ハイホー(Heigh-Ho)」。これがよかったんですよ。これはちょっと、丸々聴いてみたいと思います。SP盤なんでちょっと雑音が多いです。これはハリー・ロイ&ヒズ・オーケストラ(Harry Roy & His Orchestra)のヴァージョンです。
Heigh-Ho - Harry Roy & His Orchestra
もうひとつ、ディアナ・ダービン(Deanna Durbin)というかわいい少女が歌う、"It's Raining Sunbeams"。
It's Raining Sunbeams - Deanna Durbin
まぁこんなような…戦時中の歌謡曲もあったんですよね。これは"上海便り"という上原敏さんの歌ですね。
上海便り - 上原敏
あとブギウギもわりと流行ってましたね、日本では。笠置シヅ子を筆頭に…これは暁テル子の"ミネソタの卵売り"。すごい好きでしたね。
ミネソタの卵売り - 暁テル子
童謡もいっぱい聴いてました。"とんがり帽子"の歌ですね、これは。古関裕而さんの作曲ですね。菊田一夫作詞です。
とんがり帽子 - 川田正子, ゆりかご会
そして、ついにテレビっ子になりました。"シャボン玉ホリデー"、ザ・ピーナッツ。
30分の間にいろんな曲をかけたいんですけど、まぁ限界がありますね。最初に観た映画の印象というのは…これは『ぼくの伯父さん(Mon Oncle)』ですね。リュシエンヌ・ドリール(Lucienne Delyle)のカヴァーのほうをかけます。
Mon Oncle - Lucienne Delyle
ぼくの伯父さん - 中島潤, 平岡精二クインテット
実はこの中島潤さんが歌う「ぼくの伯父」のカヴァーを、映画を観た帰りに買ってもらったんです。オリジナルは売ってなかったんですよね。
毎朝ラジオで朝7時くらいになると流れてくる…学校へ行く前の時間ですね。これがミシェル・ルグラン・オーケストラ(Michel Legrand & His Orchestra)で"A Paris"。口笛はフランシス・レマルク(Francis Lemarque)だと思います。
A Paris - Michel Legrand & His Orchestra
こんな小学生の間の音楽体験なんですけど、テレビの影響は強くて。「シャボン玉ホリデー」もそうですけど、テレビの西部劇映画も始まって。「ローハイド(Rawhide)。これはシェブ・ウーリー(Sheb Wooley)という…「ローハイド」に出てたピート・ノーラン(Pete Nolan)という役のカーボーイですけど。シェブ・ウーリーが歌う"Rawhide"を聴いてください。
Rawhide - Sheb Wooley
(from『Songs From The Days Of Rawhide』)
テレビの影響もさることながら、ラジオの影響はやっぱりすごいですね。1960年代前後からポップスが花開いた時代があります。ニール・セダカ(Neil Sedaka)、キャシー・リンデン(Kathy Linden)、コニー・フランシス(Connie Francis)。そしてエルヴィス・プレスリー(Elvis Presley)。
(Let Me Be Your) Teddy Bear - Elvis Presley
プレスリーの"Teddy Bear"。ここら辺から大瀧詠一くん…はっぴいえんどの仲間ですけど。彼と音楽体験が重なってくるんですね。エヴァリー・ブラザーズ(The Everly Brothers)で"Cathy's Clown"。
Cathy's Clown - The Everly Brothers
ドン・エヴァリー(Don Everly)、フィル・エヴァリー(Phil Everly)兄弟の作詞・作曲で"Cathy's Clown"でした。1960年。
「スリー・ボビー*」のうちの一人、ボビー・ヴィー(Bobby Vee)の歌で"More Than I Can Say"。これは僕もカヴァーしてます。
*Bobby Vee、Bobby Darin、Bobby Rydellの3人。Bobby Vintonを加えて「フォー・ボビー」と呼ぶこともあるとかないとか。
More Than I Can Say - Bobby Vee
ドゥーワップも聴くようになりました。ザ・ドリフターズ(The Drifters)、クライド・マクファッター(Clyde McPhatter)のリードヴォーカルで、"Honey Love"。
Honey Love - The Drifters
ガールポップグループもよく聴きましたね。この頃出てきたのがザ・シフォンズ(The Chiffons)で"One Fine Day"。
One Fine Day - The Chiffons
ゴフィン&キング(Gerry Goffin & Carole King)の曲で、"One Fine Day"。シフォンズ、1963年のヒット曲。
そしていよいよフィル・スペクター(Phil Spector)の登場ですね。ザ・クリスタルズ(The Crystals)、"Da Doo Ron Ron"。スペクターさん、安らかに。
Da Doo Ron Ron - The Crystals
フィル・スペクターさん。刑務所でお亡くなりになられましたけど、ついこないだのことです。すばらしい業績を残してくださいました。
最後の曲。リンダ・スコット(Linda Scott)の"I Don't Know Why"。この続きはまた、今度やりたいと思います。
I Don't Know Why - Linda Scott
2021.01.24 Inter FM「Daisy Holiday!」より
H:こんばんは。細野晴臣です。きょうは新年、という気分じゃないですが、今年初めてレギュラーのお2人を呼んでます。
O:こんばんは、岡田崇です。
H:はい。ありがとう。
越:こんばんは、コシミハルです。
H:はい。どうもどうも。3日にね、お2人は誕生日を迎えて。
O:はい。
H:一つ歳をとったという。
O:ですね。
H:でも、世界中の人がみんな1歳ずつ年取るからね。自分だけじゃないんで。一斉にね。
O:ね(笑)
H:昔はお正月にみんな歳をとったんだよね。
O:あ、そうなんですか。
H:うん。お誕生会とかない。さて、いくつになったの?
O:僕は52ですね。
H:えー!まだ若いね。
O:(笑)
H:52が若いって言われて、どういう気持ちなのかな?(笑)
O:どうなんでしょうか(笑)
越:…
H:ちょっと、沈黙しないでよ(笑)
越:(笑)
H:いや、聞かないよ、歳は(笑)
越:イヤだなぁ…(笑)
H:うーん、まぁイヤだよね。しょうがないよね。
O:(笑)
H:もう1月24日になっちゃったよ。正月早々、散々だよね。こういう仕事もやりにくいよね。
O:そうですね。
H:マスクしながら…僕はしてなかった、ごめんなさい(笑)いましました。やっぱり声こもるのかな?
O:こもりますね。
H:んー。これはこのまんま…こんな感じで行く?じゃあ音楽かけましょうか。岡田くんからね。
O:じゃあですね…トム・マクダーモット(Tom McDermott)というですね、ニュー・オーリンズ在住のピアニストの方の曲で。
H:今の人ね?
O:今の人ですね。ニュー・オーリンズなんですけどブラジルの音楽に没等していて。ヴァン・ダイク・パークス(Van Dyke Parks)がこの人の大ファンで。
H:あ、そう?
O:過去に彼が出したアルバムからヴァン・ダイクが編集してアルバムを1枚作ったりしてるんですけど。
H:ぜんぜん知らなかった(笑)
O:その中の1曲、"Casa Denise"という曲を。
Casa Denise - Tom McDermott
(from『Bamboula』)
H:いやぁ、終わったよ。終わんないかと思った(笑)
O:長いですよね(笑)5分。
H:こういう昔からの舞踏音楽ってぐるぐる回るじゃない。だから終わらないんだよね(笑)
O:(笑)
H:でもこれは、ニュー・オーリンズに住んでるだけの人だね。
O:そうですね(笑)いちばん最初にこの人を知ったのって…レイモンド・スコット(Raymond Scott)のカヴァーをやってたんですよ。
H:え、そうなんだ。人のこと言えないや、これは(笑)
O:それで知って…そのアルバムだと、デューク・エリントン(Duke Ellington)だとかジャンゴ・ラインハルト(Django Reinhardt)とか、いろんなカヴァーをやってて。その後になってヴァン・ダイクがアルバムをプロデュースしたっていうニュースを見て。
H:出てるの?それ。
O:出てます。
H:ぜんぜん知らないな。なんでだろう?
O:それで知って、あれ?この人、前持ってるよな?と思ってみたら…"Twikight In Turkey"やってたんですけど、そのときは。
H:いやー、つかみどころのない…人のことは言えない…(笑)
O:おもしろい人だなぁと思って(笑)
H:さて…あ、ミハルちゃんは何年…っていうのは訊いちゃいけないな(笑)
越:(笑)
H:今年は丑年だよね。で、こないだ"Cow Cow Boogie"かけたら、いろんな人がかけてるね。ピーター・バラカンとか(笑)"世界は日の出を待っている(The World Is Waiting for the Sunrise)"は村上春樹がかけたり…おんなじジェフ・ベック(Jeff Beck)ヴァージョンをかけてた。
O:みたいですね(笑)
H:で、調べてたら水森亜土さんが"Cow Cow Boogie"、歌ってるんだね。"Song Is Ended"とか。それ、聴けないんだよね。今度じゃあ、岡田くんお願いしますね。
O:はい。
H:いや、すごい人がいるなぁ。ライバルが(笑)ミハルちゃんのライバルだっけね?(笑)
越:YouTubeでちょっと聴けたりしますね。ライヴの…
O:けっこういいですよね。"Come On-A My House"とかやってるのもあって…すごいいいですよ。
越:そう。すごいサラッとやってて。キュートですよ。自由な感じが。
H:いいね、あの人はすごいね。ホントはそれがメインで、お絵かきはついでだったんだろうね(笑)
2人:(苦笑)
H:じゃあ、ミハルちゃんどうぞ。
越:じゃあパラディ(Paradis)で"Toi Et Moi"。
H:トワエモア?日本の?あ、違う。
O:日本のかと思った(笑)
Toi Et Moi - Paradis
(from『Recto Verso』)
H:なんか、テレックス(Telex)を思い出したな。
越:ね!懐かしいよね、こういう音ってね。
H:あ、この人たちは今の人たちなんだ。
越:そうなんです。
H:なんかこういうの好きだな(笑)
越:いいよね、こういうの。ずーっと…普通になってきましたね。「普通」ってなんか変な言い方だけど(笑)テレックスからずーっと…
H:ミハルちゃんにピッタリだよね、こういうの。
越:こういうのを聴いてお料理したりお掃除したりっていう…
H:前もそういうこと言ってたね。いつもそれ(笑)
越:いつもそうなんですけど…(笑)
O:(笑)
H:なるほど。いやー、『Parallelisme』思い出すよね。
越:思い出しますね。
H:今度特集しようかな。
H:干支の話に戻るんですけど。僕はいつも干支占いっていうのをサイトで見てるのね。
O:そうなんですね(笑)
H:古いでしょ?(笑)星占いじゃないからね。で、去年だったか。12月に見たある日、「あなたは転ぶ」って書いてあったのね。
越:(笑)
H:まさか!と思ったらホントに転んだんだよ(笑)それ以来ちょっと気になってて。なんかね、きょうのもひどかったんだよね。
越:どんな感じだったんですか?
H:え?「海辺で恋人と別れる」って…いないけどね(笑)海に行かないし。
2人:(笑)
H:具体的なんだよね。1月、新年になってからね…このラジオをずっとためてたハードディスクがクラッシュして…(笑)
O:悲しい…(笑)
H:で、振るとマウントするから接触不良なのかな?怖いね、ハードディスクって。
O:怖いですね。
H:それで車に乗ったら、「タイヤの空気圧が低下してるから直ちに止めなさい」みたいなね(笑)
O:言われるんですね、今の車は。
H:そうなの。もう、参ったよ。で、テレビつけると「自粛しろ」と。
O:んー。
H:もう、制約だらけで。機械が壊れやすいから気を付けてね、皆さん。太陽の所為かもしれないよ。
O:太陽の所為…?
H:うん。詳しいことは知らない(笑)
O:(笑)
H:で…ずいぶん前、去年のいちばん最後の週かなんかに、僕は時間が経つのが早い、それがわかった!って言ったじゃん。
O:言ってましたね。
H:…それがなんだったかな、と思って(笑)
2人:(笑)
越:あの時はうまく説明できなかった…(笑)
H:難しいんだよ(笑)難しいの、すごい数学的なの。ただ一つ言えるのは、地球の自転がちょっとずつ遅れてるんですよね。それに関係があるかもしれない。
O:んー…
H:さぁ、帰って寝ようかな、きょうは。
2人:(笑)
H:曲がないんだよ。クラッシュしてて。なんでもよければここにあるけどね。
O:じゃあそれにしましょう。
H:じゃあね…"I'm A Fool To Care"のいちばん古いカントリースタイルのを見つけたんで。歌ってる人は…テッド・ダファン(Ted Daffan)。
I'm A Fool To Care - Ted Daffan
H:すごい古い音源ですけど。1940年代ですね。
越:すごくいいアレンジですね。
H:そうですか(笑)すごいシンプルで。これを有名にしたのはレス・ポール(Les Paul)だけどね。メリー・フォード(Mary Ford)と
H:えー…で?なんの話?みんなどんな話が好きなの?音楽の話以外、なんかないの?
O:音楽の話以外…うーんと…(笑)
H:ないか(笑)
O:今年はどうなんですかね…ってわかんないしね。
H:わかんないね。オリンピックはどうなるのかね。
O:ね。
H:わかんないね。えー…[アメリカの]大統領がどうなったかは、もう決まってるんだよね。
O:そうですね。20日に。
H:20日にもう決まっちゃったんだね。今の時点ではまだわかんないんですよ、実は。まぁわかってるんだけど(笑)
O:(笑)
H:大変な騒ぎでね。はい、そんなこんなで、またこの番組は続いていきますが…きょうの最後は岡田くんに任せちゃおうかな。
O:じゃあどうしようかな…インク・スポッツ(The Ink Spots)で"Address Unknown"という曲を。1939年の曲ですね。
H:古いね。
O:じゃあ、これを聴いて…
H:はい。じゃあ、また来週。
Address Unknown - The Ink Spots
H:なんか、告知はなかった?
越:…コクチ?
O:(笑)
H:いいや(笑)
越:あるといいな…(笑)
H:…今のはおもしろいから使ってください(笑)
O:(笑)
越:やめて(笑)
2021.01.17 Inter FM「Daisy Holiday!」より
H:こんばんは、細野晴臣です。Daisy Holiday!今週も、先週に引き続き小説家・朝吹真理子さんとの対談を編集してお届けします。お楽しみください。
12/7発売、文學界1月号の書影と内容が公開されました。表紙画はジョルジュ・バタイユです。今号は細野晴臣・朝吹真理子・松本幸四郎・いとうせいこう・九龍ジョーの各氏による「藝能文學界」/小佐野彈氏、吉村萬壱氏ほかによる創作、さらにhttps://t.co/TJQNoUv89u @amazonJPより
— 文學界 (@Bungakukai) December 3, 2020
H:どんな生活をしてたんですか?この2月ぐらいから、今までに。
朝吹:あ、わたくしですか?
H:うん。
朝吹:あまり、常と変わらず…(笑)
H:変わらないよね、わかるわかる(笑)
朝吹:マスクをするのでニキビができやすくなったぐらいで…特に、人生がなにか大きく変わったりはしておらず。
H:はい。
朝吹:あ、ただ…お外になかなか出られないというときに、家が割と好きなのでそんなに困らないかな、と思ってたんですけれど、ものすごくお薬味を食べるようになって。
H:薬味?
朝吹:薬味。なんでなんだろうと思ったら、どうも香り、においに飢えたみたいで。
H:なるほど。
朝吹:街に出ると、良いか悪いかは別にして、もののにおいがすごくいっぱい流れていたと思うんですけど。お店のにおいとか、人とすれ違う時の体臭とか。人が歩くことで出てくるにおいとか、お店を開けてるにおいとか。そういうのが全部閉まって、人と人との距離を取らないといけないというときに…これまで常在菌を交わし合ってたのに、急に自分だけの菌になってしまって。で、においが届かなくなって。だから、異様ににおいのするものが食べたくて。大葉とか茗荷とか、パクチーとかクミンとか。そういうのを貪り食って…
H:なるほど。なんか、嗅覚が敏感なんですね(笑)
朝吹:敏感なのか…ただ、においがあんまりしないことが不安で。
H:それはわかるわかる。うん。
朝吹:それで、香水を新しくしてみたりとか。ちょっと違うにおいを取り入れて…外部を取り入れたいというときに、実際に人にはなかなか会えなかったから、においとかお茶の葉を買ってみたりとか。それが自分の中で起きたいちばん大きな変化だった気がします。
H:なるほどね。それは些細なことではないというか…なんて言うんだろう、小さなことではない、本能的なことだな。
朝吹:人間ってこうやって会ってるときに…私、自分自身に考えていることが深くあるタイプだとは思っていなくて。内面があんまりないと思ってるんですけど。常在菌を交換し合うように意識のやり取りをして、でろでろとした流動体をなんとなく互いに侵食しさせ合いながら空間があって。
H:オカルティックだな(笑)
朝吹:それでまた去って行って、また会ったら交わして…というのを繰り返してると思っているので、誰のも会えないと…
H:非常に不自然だよね。
朝吹:なんか、自家中毒が起きそうな感じがありました。
H:あー、たしかに。
朝吹:そういうときはやっぱり音楽を聴くのがすごくよかったんですけど…あ、結婚をして夫がいるんですけど、夫と音楽の趣味が合わないとこんなにも大変なんだな、と思いました(笑)
H:そうなの?(笑)あー、そういうことあるよな。
朝吹:なので、互いにヘッドフォンで聴いてました(笑)
H:ディスタンスだね、そりゃあ(笑)
朝吹:ディスタンス、音さえも…(笑)でも、使うんですけど、ヘッドフォンが苦手で。やっぱり部屋の壁に当たって聞こえてくるとか、隣の部屋で流れている音が聞こえてくるとか、それぐらいの距離がわりと好きで。だから「ここ」[耳元]で聞こえてくると自分の歩いている音とかもわからなくなっちゃうし、自分の呼吸音も聞こえなくなるしで…ちょっと音に呑まれる感じがあって怖いですね。
H:みんな、人々はイヤフォンして電車に乗ったりして、やっぱり遮断してるんだね。音楽っていうのは空気を伝わって流れてくるものだから、すごく空気は大事ですよ。だから、国によって音が違うのもそのせいかもしれない。空気が濃い国とかね。
朝吹:空の色も全然違いますもんね。ホントに青の色が違うし。おもしろいですよね。
Dream - The Pied Pipers
朝吹:去年、カナダのバンクーバーで日本文学を研究しているラフィンさんという方が、たまたま小さい文章を翻訳してくださることになって。日本でお会いしたときに、ちょうど私、いま夢にすごく関心があって。
H:へぇ。
朝吹:夢の小説を書き始めているんですけれども。その話をしていたんです。細野さんの音楽の話にも重なるんですけど、昔の人の夢って「見ただけでは所有者ではない」という考えなのが私はとても好きで。偶然、その人のところに入って届いてしまっただけで、必ずしもその人だけに向けられたメッセージではないということ。
H:なるほど。
朝吹:で、源頼朝の奥さん…北条政子の妹が頼朝と結婚する夢を見るんですけど、その夢がなにかわからなくてお姉ちゃんの政子に相談するんです。なんか私、こういう夢を見たんだけど、って。そしたら北条政子が、それが天下人の妻になるというめっちゃラッキーな夢だということに彼女は気づいて。すごくずるいのが…お姉ちゃんがその夢をもらってあげる、って。悪いものかもしれないから、って(笑)
H:へぇ…(笑)
朝吹:で、妹はお姉ちゃん、いいの?って言って、[政子がその夢を]所有する、という。
*『曽我物語』「時政が娘の事」より。
H:夢を交換できるんだ。
朝吹:私はその感じとか…夢は自分ではわからなくて夢を解いてもらう人に会いに行く、とか。夢が入ってくるのは本当に偶然で、入ってきただけではまだ自分とは関係がないかもしれない、という。そういう夢と人との付き合い方がすごくしっくり来ていて。その話をラフィンさんにしていたんです。そしたらラフィンさんが教えてくれたのがカナダの先住民族の人たちの夢の話で…先住民族のどの人たちか、まではちょっと聞きそびれちゃったんですけど。カナダの民族博物館にある時まで、とある先住民族の人のおうちの夢がひとつひとつ書かれていたんですって。展示物の一つとして。それは口伝で、先祖代々見続ける夢があるみたいで。
H:へぇ。
朝吹:それは決して人に口外してはいけなくて、宝なんですって。親から子へ、そして次の代に…伝えられていく、というよりも親子代々で「見ていく」夢というのがあるみたいで。語るということと見ることが同じなんだと思うんだけど。それが増えて行っているのかどうかはわからないけど、とにかく数珠繋ぎに続いていっている、と。ただ、最近それは…それが読める状態で展示してあるのは先住民の人の宝を私たちが見ることになってしまうのでやめましょう、ということで剥がして。もう見られなくなったそうなんですけど。
H:そう。
朝吹:でも私はその夢の話が忘れられなくて。ずーっと、代々夢を見てきた人たちの夢はどんなものだったのか、ということにすごく興味があります。そういう、入ってきて聞こえてしまう、見てしまう、みたいな感じで音楽が入ってくる。
H:似てるかも。
朝吹:特に細野さんの音楽を聴くとそう思います。
H:ほとんど夢と同じかもしれないね、そう言われると。音楽って。
朝吹:すごく不思議です。しかも一緒にいる人と聴いてても…同じ空間にはいるんだけど、同じ音楽を聴いているとは思えないときもあるから。音楽はとても長い時間と繋がっているのにとても個人的なものであって、そこここの身体の中の震えと一緒になっておもしろいな、と思います。
H:そうなんですよ。だから、作ったものをどう聴かれてるのかまったく知らないんですよ。最近はね、SNSでフィードバックがあるんで。誰かが送ってくれるのをよく見てるんですけど。自分では想像できないような聴き方をしてる人もいるわけだね。ちょっと、具体的には忘れちゃったけど。人それぞれ自分の世界と共鳴して音楽を聴いてるんだな、と思って。だからなんて言うんだろう…ちゃんと作らなきゃいけないな、って思ったんですけど(笑)
朝吹:(笑)
H:自分としては全然ダメな音楽もちゃんと聴いてくれてる、というのに、すごくね、責任を感じちゃった。
2021 - Vampire Weekend
(from『Father of the Bride』)
H:夢の話だけど、僕も夢をいっぱい見て。糸井重里のホームページに夢日記のページがあるんですけど、そこに連載したこともあるくらい、いっぱい見るんですけどね。最初はくだらない夢が多かったんで、笑えるなぁ、と思ってそれを始めたんですけど。いまお話しされていたような深い夢じゃないんですよ(笑)例えば、「揚物合戦」とかね。
朝吹:…え?(笑)
H:犬が出てきて、先住民みたいな人がいっぱいいて、揚げ物を揚げてるんですよ、なんでか(笑)
朝吹:(笑)
H:で、犬はその揚げ物を…ぶつけられるのかな?ちょっと忘れちゃった(笑)とにかくそれを「揚物合戦」というタイトルにして。誰かに絵を描いてもらって。
朝吹:それはすごい夢ですね。
H:で、そういうことをやってたら、あるとき内田百閒の『件』という文庫本を読んで。それがまったく自分と同じような…夢とは書いてないんですけど、ぜったい夢なんだろうな、と。展開の仕方が夢独特の…法則があるというか。要するに支離滅裂なわけですよね。でもなんか笑っちゃうんですよ、読んでてね。あんまり僕は文学派じゃないんですけど…(笑)そういう夢に関する本はおもしろいなぁ、と思って。ただ、黒澤明の『夢』はちょっとわかんなかったけどね。んー。
朝吹:私は映画が観られなくて…
H:え!
朝吹:なので、『星の王子 ニューヨークへ行く(Coming to America)』くらいしかわからない…(笑)
H:ホント?(笑)それはまためずらしい…どういうことなの?
朝吹:閉所恐怖症なんです。
H:あ、そうなんだ。
朝吹:で、閉所と言ってもここは開放感があって…大丈夫です。明るくて、いろんなものがあって、出られる道があると大丈夫なんですけど、映画館が本当にダメで…映画館って、一回座ったら出てはいけないムードと…空気が変わるくらいの、バフンッっていう、あの重い扉。
H:あー、扉ね。
朝吹:ライヴハウスは平気なのに、あれが怖いんです。映画館の。
H:なんとなくわかる。
朝吹:で、光をすごい浴びて観ることになってとても怖くて。ドーナッツ食べたりとか、ノートに絵を描きながらとかじゃないと観られなくて。で、隣の人に怒られたりとかするので、あんまり行かないようにしてます(笑)
H:そうか。めずらしい人ですね(笑)でもわかるような気がするね。
朝吹:こわいこわい。
H:僕も2時間以上の映画は観れないからね。1時間半以内にしてもらわないと。
朝吹:80分くらいだったらいいですね。おしっこも我慢できる。
H:そうそうそう。タバコ吸いたくなる、トイレ行きたくなる。だから始まる前にいつも時計を見て…それはお芝居もそうだけど。なんか、ずーっと座ってるのがダメなのかな(笑)でも、家でDVDとかは観られるんですよね?
朝吹:あ、そうですね。たまに観たりします。ただ情報量が多すぎて、観た後に2,3日ポカーンとしちゃうので。なるべく観ないようにしてます(笑)
H:(笑)ストーリーというものにそれほどこだわりがないように見受けられるんですけど、小説というのはストーリーから入るんですか?
朝吹:いや、小説はどっちかっていうと…前に書いた『きことわ』という小説があるんですけど、それはお買い物のメモでチラシの裏にハムとかホウレンソウとか書くとき、「たまご」という字を書いたときに…普段だったら「玉」のほうの玉子を書くんですけど、そのときだけ「卵」を書いて。その「卵」が2人の女の子に見えて。かわいいなと思って。ポニーテールの子とショートカットの子に見えて。この2人はなんで背を向けあってるのかな、と思ったんですけど、そのときはただ一瞬の妄想で。しばらくしたときに…そのときまだ大学生だったのでフランス語の授業があって。フランス語で卵って「ウフ(Oeuf)」って書くんですけど、OとEが一つの字で「ウ」という音のときに…私はすごく筆記体が下手なので、OもEもUもFも全部がものすごく伸びたような字になって一本の線になったときに、これは「卵」の2人の女の子の髪の毛が繋がってるんだ、と。その髪の毛が繋がったり、繋がらなかったり、また繋がったりする、そんな話だ、と思って書き始めたので…
H:独特な発想だね(笑)へぇ…
朝吹:で、やっぱりストーリーは大事なんだけど、それは文章のリズムが生んでくれると思っていて。一行書いたらその一行が次の一行を呼んでくれて。
H:あー、音楽とおんなじだ。
朝吹:で、もう1回、朝になったら読んで、消したりして…
H:いやー、僕もそうやって音楽作るんで…4小節作ったら、そこから先はその4小節が生んでいく、というね。
朝吹:ええ。
H:で、ストーリーはないですからね。音楽。後付けで言葉で考えたりするけど。歌詞がなくたってホントはいいんですよね。歌詞を考えるのがすごくつらいんですけど。なんだろう…こないだ『HoSoNoVa』のアナログ盤がアメリカで出るんで、アメリカ人向けに歌詞を英訳するという作業をやってくれてたんですよ。どなたかが。日本の人がね。で、ここが訳せない、わからない、という質問状が来て。んー、困ったなぁ…と思ったんですよね。訳せないです、僕も。どうやってサジェスチョンしていいかわからないので、訳はやめてくれ、と。やめちゃったんですね。やっぱり日本語って…俳句もそうなんだろうけど、英訳できないですよ。意味があるようでないしね。ちゃんとしたストーリーがあればそれは訳しやすいんでしょうけど。そうじゃない、というのがそのとき初めて自覚して。もう英訳はしたくない、と思いましたね。
朝吹:なんか、やっぱり音だから…意味はもちろんあるんだけど。音が大事だと、英訳して…というのは本当に難しいですよね。
H:意味はね、どうでもいいんですよね。んー。意味以前の世界が音楽だと思うので。
朝吹:私は文字に音の顔があると思っていて。「音貌」と呼んでいるんですけど。
H:初めて聞くね。
朝吹:いや、勝手に自分で…(笑)
H:あ、そっか(笑)
朝吹:ひらがなとかカタカナ、漢字とかでリズムを変えて作って書いてるときに、自分の中でこっちは開いたほうがいい/閉じたほうがいいとか。あとは音読しながら書くので、意味よりも音のほうの雰囲気が…どれを選択するほうが音の名残が文字に出るかな、ということを考えて書いていて。それは…ジョイス(James Joyce)が好きなんですけど、ジョイスの『フィネガンズ・ウェイク(Finnegans Wake)』の中で…「I」の字をたくさん使って小鳥が並んでいるのを示している、というのをどうやって[日本語に]訳すのかを柳瀬尚紀さんという英米文学の方がものすごい考えた、という話とかを聞いていて。ちょっとどうやって訳したのかは忘れちゃったんですけど、でもすごくわかるというか…文字にはイメージがたくさんあるから、それは本来であったら翻訳できない。できない中でどうやってもう1回作っていくか、ということで…柳瀬さんはたぶん、ジョイスに近づいて、ジョイスに正しく…スライドさせて翻訳する、というのではなく、むしろジョイスがやったことをやろう、と。それがいちばんの翻訳だ、と考えた…
H:それは大変なことだ(笑)
朝吹:でもその姿勢にすごく私は感銘を受けて。自分でも、自分でなにかをものを作っているというよりも、今まで読んできたものとか聞いたもの、見たものが偶然自分の中で爆発して、偶然響いたものを書きとってる、という風に思ってるので。それに沿うように言葉を探して配置する、という感じがします。
H:なるほど。
Smoke Dreams - Helen Ward
2021.01.10 Inter FM「Daisy Holiday!」より
H:えー…なにをお話ししましょうか?(笑)顔が見えないな…
朝吹:私の顔は、でも、ほぼマスクなので…(笑)
H:(笑)
朝吹:きょうはよろしくお願いします。
H:よろしく、こちらこそ。
門間:えー、本のほうが、12月に発売になる…
H:僕のね。
門間:はい。それを朝吹さんに先に読んで頂いてて。元々、細野さんの音楽をお聴きになっていると伺ったので…
H:いま顔が見えた(笑)そうですか。申し訳ない。
2人:(笑)
Daisy Holiday。今週は昨年11月に対談し『文學界』1月号に掲載された、小説家・朝吹真理子さんとの対談を編集してお届けします。
12/7発売、文學界1月号の書影と内容が公開されました。表紙画はジョルジュ・バタイユです。今号は細野晴臣・朝吹真理子・松本幸四郎・いとうせいこう・九龍ジョーの各氏による「藝能文學界」/小佐野彈氏、吉村萬壱氏ほかによる創作、さらにhttps://t.co/TJQNoUv89u @amazonJPより
— 文學界 (@Bungakukai) December 3, 2020
朝吹:えっと。細野晴臣さんのお名前は昔から知っていて。初めて買って聴いたのは…2011年に『HoSoNoVa』を買いました。
H:おお。
朝吹:ちょうどそのときに、前後する形で…細野さんが採集された民族音楽のCDの選集がすばらしい、というのを聞いて。最初の小説を書く頃にそれを聴きました。
H:あ、そうなんだ。
朝吹:それは今も持ってるんですけど、なんというか…自分が今まで古語がすごく好きなんですけど。古語辞典を読んでるときに、かつて生きていた人たちがくちびるを震わせていた肉声があったりした、ということを、古語を読むときに感じるんだけれども。
H:なるほど。
朝吹:その古語の声というものをなかなか…文字を読んでいるときに、どんな声なんだろう、とか想像していて…古語辞典って絶滅した言葉たちの集まりだと思って化石を見るような形で見ていたんですけど、最近古語辞典を読んでいると、実はクマムシみたいに起きるのを待ってすごく長く眠っている言葉たちに見えるようになってきて。
H:生きてるね。んー。
朝吹:ある瞬間になにか今の、現在の言葉とぶつかったりしたときに、また新しい命になって古語が息を吹き返したり、昔の人たちの声がワーッと出てくるんじゃないかと思うことがあるんですけど。そのことを最初の選集を聴いてたときに、人間のひとつの声や節にはかつて歌われてきた数々の肉体を通った人たちの時間というのが流れていて、それが採集されていま自分の耳にこうやって届いているということを本当に幸せに思いました。
H:なるほど。
朝吹:それが細野さんの音楽に出会う前に細野さんのお仕事として知ったよろこびです。
成人式の歌
(from『Ethnic Sound Selection Vol.1: ATAVUS 祖先』)
朝吹:それで…実は2011年に高輪に引っ越しをして。
H:え!近い。おんなじテリトリーだ(笑)
朝吹:そうなんです(笑)だからすごく懐かしくて。2014年に引き払ったので3年間だったんですけれども。よく歩いて…往復すると1時間くらいかかっちゃうんだけど…
H:高輪はちょっと遠いもんね。
朝吹:はい。その屋上にペントハウスがあって。そこは祖父が使っていた場所だったんですけれども、そこを一人暮らしの部屋にして。
H:いいなぁ。
朝吹:ものすごい暑くて…朝、鼻血が何度か出ました。暑すぎて…(笑)
H:それは過酷だな(笑)
朝吹:そのときにレコードと、祖父が死んでから十何年間使われてなかったスピーカーがあって。それをつないで音楽を聴こうと思ったときに、『HoSoNoVa』を。
H:へぇ。
朝吹:それは音楽評論家の湯浅学さんと会ったとき、今度引っ越ししてレコードで音楽を聴きたい、って言ったときに…まぁレコードとCDと両方あってそのとき最初はCDを買ったんですけど。「『HoSoNoVa』はすごくいいから聴いたら気持ちいいと思うよ」って言われて。
H:それは湯浅さんに感謝しないと…うれしいな。
朝吹:それで『HoSoNoVa』を…ホントにね、ものすごい回数聴きました。
H:ちょうど震災の直後ですよね。あの頃の僕は聴くものがなくて。でも、自分のを聴いてる人がいるな、というのは噂では聞いてたんですけどね(笑)そういうふうに聴かれてたんだな、と思って。そんないっぱい?
朝吹:はい。それで、やっぱり音っておもしろいな、と思ったのが…最初はスピーカーが寝ぼけた音をしていて。でも毎日電気を通してると、だんだん…おじいちゃんの冷たい指先も温かくなってくるっていう感じで…(笑)
H:(笑)そういことあるね。
朝吹:だんだん温かくなってきて…ちょうど天井からふわぁっと落ちるような感じで音が聞こえてくるので、細野さんの声がおくるみみたいになってて。
H:おくるみ…(笑)
朝吹:あの、赤ちゃんの…
H:あー、なるほど。
朝吹:すごく気持ちがよかったです。YMOのことは知っていたんですけども…YMOと出会うというよりも、細野さんの『HoSoNoVa』に出会う、という感じです。それまでもYMOは知っていて…なぜかというと母が音楽の仕事をしていて。実はYMOのいちばん最初のデビューの…もう無くなっちゃったライヴ会場に母は行っていて。
H:へぇ。
朝吹:それで「半分の人が出て行ったけれども、私はとても好きだと思った」と言っていました。
H:あれ…出て行っちゃった、っていうライヴはなんだったっけな…(笑)
朝吹:そのときは怒って出て行った人とかもいたんだけど、それも含めてよく憶えている、と言っていたのを聞いたことがあったんですけど。
H:へぇ、そうなんですね。
朝吹:でも、そうなんだ、という感じで…そのときは音楽として出会うというよりも「母の好きな音楽」として聴く、という形でした。
H:なるほどね。あれ、お母さんはおいくつ?
朝吹:えーと、細野さんが1947年…母は48年生まれです。
H:あ、ホント?近いなぁ。
朝吹:ビートルズのライヴに行きたかったけれども学校で禁止され、ウッドストックの映画を観て感激してロンドンに行ったりしていました。
H:話が合いそうだね(笑)
朝吹:(笑)
H:でも、YMOが最初じゃなくてよかった(笑)
朝吹:(笑)『HoSoNoVa』と、細野さんがセレクトした選集が最初でした。
H:うんうん、それはいい出会いかもしれない。
(from『HoSoNoVa』)
朝吹:細野さんの音楽をいろいろ聴きますと…「わたくし個人ではない記憶を、どうしてこんなに思い出すような音楽なんだろう」と不思議に思います。
H:へぇ。
朝吹:三木成夫の『内臓とこころ』がとても好きなんですけども、三木成夫の考えとかも思いましたし…なんて言うんですかね、自然の長い歴史のリズムというものが人間の中に流れているということ。
H:そうね。
朝吹:それを[細野さんの]音楽を聴いて感じていて。それは私個人が感じたというよりも、誰かの記憶として知っているようなことを思い出すような…そういう不思議な音、音楽だな、と思います。
H:なるほど。
朝吹:で、それを…何回も生まれ変わったりしているわけではない細野さんが1回の人生で、いろんな音楽でやっているということが、結構怖いなと思います(笑)
H:怖い?(笑)でも…朝吹さんの本を僕はまだ…これから読むんですけど(笑)なんとなくですよ?非常に音楽的な感じがするんだよね。いや、読んでないからアレなんだけど…(笑)たぶんあってると思う。
朝吹:(笑)
H:とても音楽的な、響きのある本…のような気がする。で、いま仰ったことは…たとえば僕の中にある音楽的なイメージというのは「思い出す」ということに近いんですね。だから夢を見てて、起きて思い出すけどなかなか思い出せない、ということにすごく近くて。いつもそうやって、記憶を思い出そうとする行為。それがだんだん深くなってくると、過去の歴史的な音楽に触れていかざるを得ないというね。で、自分が作るんだけど、自分が初めて作った音楽じゃない、という気持ちがいつもあるわけだ。誰かしらが過去に作った音楽を思い出していたり…それは名もない音楽かもしれないけど。
朝吹:ちょうどまさに、メモで…「夢で鳴っているけれど、起きると忘れる音」というふうに思いました。とくに『はらいそ』のアルバムを聴いているときに思ったことがあるんですけど、細野さんは古生代の海を泳いでいたことがたぶん、かつてあったと思います。
H:あったんだろうね(笑)みんなそうだよ。
朝吹:私もきっと何かで泳いでいたと思うんですけど…(笑)それで、阿弥陀如来の…折口信夫が山越しの阿弥陀像を見て『死者の書』を書いたときと同じ山越しの阿弥陀像…だったと記憶してるんですけど。
H:うん。
朝吹:それを京都博物館で見させてもらったことがあって。そのときにエッセイを書いたんですけれど、その山越しの阿弥陀像は阿弥陀さんのお胸のところがボロボロになっていて。なんでこんなに剥落しているんですか?って訊ねたら、昔はそこから五色の糸を長く垂らして…死ぬときにその阿弥陀さんを床の間にかけて、阿弥陀さんを見ながら五色の糸をつかんで亡くなる前に来迎を待った、というのを教えて頂いたんです。
H:それは初めて聞くなぁ。
朝吹:そのとき…資料室だったんですけど、寝そべらせてもらって。昔の人が死を迎えるときの気持ちを…まぁ資料室だから光とかはぜんぜん違うと思うんですけど、感じるために10分ぐらいじっと見ていた。
H:うんうん。
朝吹:で、そのときに金色の光が揺れて…おそらく死に際だと、昔だからもっと光も暗くて、ろうそくにちらついているとさらに光って。糸がゆっくり揺れて自分のところに…そう思っていると、一筋に貫かれて、身体を置いて心が飛んでいく、というふうにきっと思えて…死がかなり安らかなものになったんじゃないか、という昔の人の気持ちを体験した気がしたんです。800年前の人の気持ちを。
H:うん。
朝吹:そのとき…阿弥陀如来がこの世をじーっと見つめているときに、おそらく雲の向こうから音がたくさん鳴っているような気がしていて。その音が聞こえたような気がしたんです。それは…私には「聞こえたような気がした」という、ほとんど気配のような感じだったんだけれども、きっとこういう音を細野さんはたくさん捕まえて音楽にされているんだろう、と思って。この阿弥陀如来の絵を見たときのことを思い浮かべました。
H:そうか。なるほどね。いや…プロの音楽家ってそういうことじゃダメなんじゃないかなと思うんだよね(笑)いつも音が鳴っててね、それは雑音に近いからね。音楽をやってない人のほうが純粋にそういうのを受け止めるというかね。ただ表現ができないだけで、感じてるっていう人は多いと思うのね。職業音楽家はそういう余裕がない、っていうかね(笑)でも、僕はなるべくそっちに近づこう、と。いつも真っ白になって音楽を紡ぎ出すっていうかね。過去のことは全部忘れて…なるべくそうやって音楽に接したいと思うんだけど。まぁでも、そう思わない限りいつも雑然としてるね。今どきの音楽はどうかな、とかね。いろんなことを考えちゃったりね。お仕事の場合はそういう、デザインに近いようなことをやったりするけど。やっぱりソロアルバムでは…いま仰ったような、繊細な音をつかみたいな、というのはありますね。んー。
朝吹:なんか、音を作っているというよりも、世界に流れている音がキラッとやってくるような感じがします。
H:うんうんうん。そう…かな?(笑)
朝吹:そう思いました(笑)
H:あ、思う?それはうれしいですよ。
Retort ーVu Jà Dé ver.- - 細野晴臣
(from『Vu Jà Dé』)
朝吹:私はこの長い…果てしなく長い伝記本を…(笑)
H:読んだの?
朝吹:はい、読みました(笑)
H:それはもう、ご苦労様…(笑)
門間:(笑)
朝吹:おもしろいな、と思ったのは、細野さんはホントに…すごく昔から生きていて、世界を見て、いろんな音楽を聴いてきたような感じがするんだけれども、やっぱり肉体は1回だから、一応リニアな線があるんだな、というのがわかりました(笑)
H:それはそうだ(笑)
朝吹:すごくおもしろかったのが、子どもの頃の物売りの声のところのお話と…
H:あー、はいはい。
朝吹:ピアノの…お母様のおじいさまの調律の音と…それから、近くの電気ノコギリの…
H:材木を切る音です。うん。
朝吹:それが絶えず流れていたという…
H:そう、毎日。毎日聞いてた。
朝吹:それがすごく腑に落ちるというか…物売りの声って時間を教えてくれるし季節を教えてくれるし。あとはやっぱり、遠くから運ばれてくるにおいを教えてくれるし。
H:そうだね。
朝吹:江戸時代から…へたしたら中世からも続く、物を売り歩いている人たちの気配があって。私は物売りの声を、残念ながら…
H:もう無くなっちゃった時代…
朝吹:に生まれてきたので…実は「江戸東京大鑑」っていうCD-ROMに物売りの声がちょっとだけ入っていて。それを大学時代に、江戸時代の勉強をするときにちょっとでもそういう声を聴いてみたくて。レコードの収録されている音を図書館で聴いたり。
H:なるほどね。いや、僕もそれを聞いてたのは小学校の3年生ぐらいだから…10歳ぐらいまでしかないなぁ。その後どんどん無くなってっちゃったんで…最後の「らう屋(羅宇屋)」さんっていうのを僕は聞いてるんで…らう屋って言ったって、今は通じないんですけどね(笑)
朝吹:初めて知りました。あれはタバコの…
H:煙管の掃除屋さんで…
朝吹:すごくニッチな商売だなぁ、と…(笑)
H:それはすごく記憶に残っていて…江戸時代みたいな話だと、自分でも思いますね。そんなのがまだ残ってた。蒸気を発しながらね、屋台が遠くからやってくるんですけど。途切れない音でピーッていうのがだんだん近づいてくる。母方の祖父が一緒にいるときにその音が聞こえてきて、あれはなんだ、とおじいさんに訊いて。祖父は煙管をやってましたからね。煙管でタバコを吸ったり。パイプが多かったけど。そしたららう屋だと教えてくれましたね。
朝吹:煙管ってよさそうですよね。
H:煙管、あこがれますね。
朝吹:私は咽やすいのでタバコはぜんぜん吸わないんですけど…
H:あ、すみません、僕はタバコ吸うんで…(笑)
朝吹:いえいえ、どうぞ。タバコって余白があってすごくいいですよね。点けて、無言でいられる…
H:そう。それがないとなんかもう、なにしていいかわからないっていう…(笑)
朝吹:空間に煙がゆっくり流れるのもきれいだし。タバコが最近なぜかやり玉に挙がってるけど、悲しいですよね(笑)
H:うん。アメリカに行ってネイティヴ・アメリカン…まぁインディアンですけど。案内されてアナサジっていう古代の不思議な遺跡が見える丘に登って、ここでタバコを吸うんだ、と教えられて。その…先生みたいな人なんですけどね、インディアンの。一緒にタバコをふかすんですね。それは古代から天と自分をつなげる煙が大事なんだ、と。だから肺に吸い込む必要はない、って言ってましたね。
朝吹:それを聞いたら、俄然…(笑)
H:吸わなくてもいいからね(笑)煙だけでも。
朝吹:でも、すごく…スーッと白い煙が流れて、やわらかく消えていって。今ここに自分が存在しているんだ、っていう感じが…父がタバコ喫みだったので、父の隣で見てると「この瞬間ここにいる」という感じがすごくする…
H:なるほどね。
朝吹:しかも、しゃべらなくてもいいけど、そこにいることを肯定している感じというか。それがすごくいいものだな、と思っていたら…
H:そうですよね。しゃべらなくていい、っていうのがすごくいいんですよ(笑)
Smoko Memories - 細野晴臣
(from『NO SMOKING』)