2020.03.22 Inter FM「Daisy Holiday!」より
H:細野晴臣です。ゲストをお招きしてます。
岡田:えーと、わたくし、岡田拓郎と申します。お邪魔させて頂いております。よろしくお願いします。
H:お願いします。
アルコポン - 岡田拓郎
(from 『ノスタルジア』)
岡田:あの、これは本当にめちゃくちゃ興味がある、みたいなことを一個々々言っていくような感じに…そういうタイムに突入しそうで…(笑)
H:どうぞ(笑)
岡田:細野さんのアンビエント作品の特徴として、1980年代の作品は特に、電子音とその中に伝統的な民族音楽の楽器が入っている印象が…その2つを並列的に使うようなイメージがあって。
H:うん。
岡田:それこそ去年の「細野観光」…僕も行ったんですけど、ワンフロアが民族音楽コレクションで埋まるところとかあったじゃないですか(笑)
H:あった(笑)
岡田:なので、そこの…純粋な疑問として、いわゆる生楽器、ピアノとかベースとかドラムスというよりは、民族的な楽器とテクノロジーの最先端の電子音を混ぜる、みたいなことをやっていたと思うんですけど、そこってけっこう、意識をするところではあったんですかね?
H:たぶん…その前の僕はテクノで、ずっと引きこもってひとりでデスクトップで作ってたわけだね。
岡田:はい。
H:でも、それじゃあやっぱり物足りないところがあるんで、どんどん生の楽器を入れるようになっていって…そういう意味では、その頃は過渡期だったと思うんだけど、結局中心にあるのは電子的なものだったりビートだったりね。そういうものが中心にあったんだけど。
岡田:うんうん。
H:今はね、違うんだよね(笑)
岡田:おお…
H:当時はMIDIとか使ってたわけ。シンクロするためにね(笑)今、最近の人は使ってないと思うんだけど、僕もだんだん離れて行って。あるいは、シンセサイザーが好きじゃなくなってるというかな。
岡田:あ、現在のことですか?
H:いまね、うん。当時は頼ってたんだよね、やっぱり。いろんな音源が出始めてておもしろかったからね。今はもう、飽きちゃってるというか…(笑)
岡田:なるほど(笑)
H:ぜんぶ生で構築したい、っていう気持ちが強いよね。
岡田:あ、そうなんですね。僕は去年の細野さんのインタビューで印象に残ったのが、「今のアメリカのメインストリームのポップスの音響技術・録音技術はエレクトロでも生でもすごいおもしろくて。それこそいま、テイラー・スウィフト(Taylor Swift)にもめちゃくちゃ感銘を受けた」みたいな話を聞いて…(笑)
H:そうそう、「音」でね(笑)そうなんだよ。
岡田:そこのムードともいまはちょっと違う、という感じなんですか?
H:あのね…すごい、なんか、グルグル変化してるから、いま。
岡田:はい。
H:特にその…コロナウイルスの所為で、グローバリズムが崩壊しそうなんだよ。
岡田:そうですね。うん。ホントに…ここまでようやく持ち堪えてきたものがけっこうみんな…厳しそうな感じはしますもんね。
H:そうなんだよ。で、同時期に…数年前、グローバルな音楽を聴いてて音が良いなと思ってて。自分がそっちに行くかどうかすごく迷ってたんだけど…まぁ、機材は新しくしようと思って今やってるんですけど(笑)
岡田:らしいですね(笑)
H:それで、ある種のヴァーチャルな空間の心地よさっていうのは…映画もそうなんですけど、観続けると飽きちゃう、聴き続けると飽きちゃう。この先はどうなるんだろう、っていう。
岡田:うんうん。
H:先が見えないんですよ。
岡田:そうですよね。
H:究極の形ができちゃってて。完成しちゃったんだろう、と。
岡田:あー、ポップスに於いて、ですか?
H:ええ。だから、音楽の良し悪しなんか通らないんですよ、今。
岡田:んー、まさにそうですね。
H:音の良さと、それを並べていくデザインというかね。あとは歌…声の力っていうかな。それだけで出来てるんで。ここから先、彼らはどこへ行くんだろう、という。そういうシステムがね。
岡田:はい。
H:ところが今…なんかすごい、風が吹いてるだけでね(笑)
岡田:めちゃくちゃ吹いてますね(笑)
H:それがなんかね、今、真っ只中だから。先がどうなるかわかんないけど、何かが変わっていく最中なんだろう、と思うわけね。
岡田:なるほど…なんかまったく僕も…まぁ、これまでの28年ぐらいの人生ですけど(笑)その中で初めて、本当に「この先」の音楽が今、見えないな、っていう感覚が強くあって。
H:うん。
岡田:たぶん2000年の手前ぐらいが…まぁ、世紀が変わるところで、この後音楽はどうなるんだろう、みたいなところがあったと思うんですけど。
H:あったねぇ。うん。
岡田:そこは僕が学生時代にずっと本で読んでいたところで。で、あれを回避というか…あのタイミングで出たエレクトロニカが本当におもしろくて。
H:エレクトロニカ、おもしろかった!(笑)
岡田:タッチ(Touch)とかずっと聴いてて…
H:いやー、ホントにおもしろかったんだよ。
Wiper - Sketch Show
(from 『Loophole』)
H:2000年から2010年はまぁ…そうね、エレクトロニカがあって。2010年から今に至るのは集大成というかね。デスクトップの中で0.1mmぐらいの精度で編集していくっていうね(笑)
岡田:はい(笑)
H:もう、音を[一時]停止させて作っていくっていうような時代ですから。それを僕はエレクトロニカの頃にやってたわけで。どんどん密度が深くなってくる。
岡田:うんうん。
H:で、なんであれが終わっちゃったのかちょっとわかんないけど。
岡田:気付いたら…(笑)でも、あのエレクトロニカの手法をポップスの人たちが取り入れてるんですよね。2010年代というか、最近。
H:そうなの!それが出てきて、ああ、ダメだ、と思った(笑)
岡田:ダメだと…(笑)
H:なんか、すごいスターが出てきちゃって。
岡田:なるほど。ある意味、エレクトロニカって部屋で世界に太刀打ちできる可能性があるものを作れるんだ、みたいなところで、みんな…
H:興奮してたよ。んー。
岡田:そうですよね。
H:で、もう…なんて言うんだろう、マスメディアを通さないで、対パーソナルでやり取りしてた時代ですから。
岡田:そうですね、インターネットが…
H:そうそうそう。それ以前にインターネットができたときもすごかったけど、今までと違う音楽の聴かれ方が出てきたわけだね。
岡田:うん。
H:で、なんだろう、そういう旬の音楽…自分にとってね。エレクトロニカの中でもこれはすごいな、と思うようなものがどんどん、北から南下して行ったりして。桜前線みたいなね(笑)
岡田:わかるなぁ…(笑)
H:南米まで行ったりしてね。
岡田:そうですね。たしかにたしかに…
H:でもね、それが終わる頃に気が付いたことがあって。たとえばアイスランド。ムーム(múm)とかね。いっぱいいろんなおもしろい人が出てきた。ビョーク(Björk)もそうだけど。
岡田:そうですね。
H:アイスランドの[金融]バブルが崩壊したときがあるんだよね。バブルだったのか、と思って(笑)
岡田:そうですよね(笑)
H:ああ、そういうところから音楽が出てくるんだな、と。後で気が付いたんだよね。
岡田:なるほど…
H:やっぱり経済とすごい密接に関係しているんだな、と思って。
岡田:ホントに、それはそうですよね。
H:だから経済が…良いものも悪いものも多いけど、活発になるっていうことなんだろうね。
岡田:うんうん。
H:でも良いものも出てくるわけで…それを知らずにやってたんだけどね、僕は。
岡田:はいはい。
H:日本はバブルが崩壊したまんまだったけど…(笑)ひっそりとおもしろいことができるところもある、と。まぁそんなような時代を2010年くらいから今に至るまで…感じてやってましたね
岡田:なるほど。それこそ時代の変わり目変わり目の…困難な時代に対するところに、ある種カウンター的にいつも…アンビエントだとかニューエイジだとか。スピリチュアルジャズみたいなのもそうだったと思うんですけど。
H:はい。
岡田:そういうものが都度々々あったりする中で、僕は2020年代に、いったんまた論理的なものというよりは…それこそ非西洋的なもので、もう一段階なにか出来ることをみんな模索していそう、みたいなことを……
H:そう!その通りだよ。
岡田:(笑)
H:その通り。片やグローバルがあったけど、非常に作家的な人たちが増えてる。映画もそうなんだけど。
岡田:そうですね。アジア系の人とかも映画では多いですよね。
H:そうなの。非常に個人的に作っていくタイプの人が増えてる。それもすごく良いものがいっぱいあって。音楽もそうだと思うんですけどね。その人たちの出番がこれからあるんだろうな、と(笑)
岡田:そういう時代が来てほしいな、とは思うんですけどね…(笑)
H:いや、絶対来ると思うね。で、節目は2011年もそうだったけどね。
岡田:はい。
H:あの頃変わるかなと思ったら…あれは局地的だったんだね。東北。
岡田:3.11のときですよね。
H:そう。東京が真っ暗になって。なにかが変わっていくんだろう、と思ったら、また元に戻っちゃった(笑)
岡田:戻りましたね…(笑)どうして忘れてしまうんですかね、人は…っていう、壮大なテーマに…(笑)
H:日本人はけっこう忘れっぽいよね。
岡田:そういうところはある…
H:でも、今回は日本だけじゃない。
岡田:そうですね。
H:世界中で…南極大陸以外は全部赤くなっちゃって…(笑)
岡田:そうですよね…
H:そういう風が吹いてるっていう。これはなんか、やっぱり、否応なく変わらなきゃやっていけないでしょうね。経済的にもね。
岡田:変わらずには…そうですね。
岡田:じゃあやっぱり、その中で…いま、そういったアプローチをしようとしている音源のデモとか、ひとりで作っている段階なんですか?
H:いや、まだですね。僕はまだなんですけど、たぶんこういうときに引きこもってやってる人は多いと思うね。
岡田:うん、そうですね(笑)
H:それがなにかを育んでいくんじゃないかな、と思うけど(笑)
岡田:なるほど(笑)
H:僕の場合は…3.11の頃はそんな感じだったんですよね。
岡田:あー、『HoSoNoVa』の…
H:ええ、そうですね。『HoSoNoVa』は震災の前に作って、ミックスは終わってたんですけど。これはもう出ないな、と思ってたら「出します」って言うんで…(笑)
岡田:(笑)
H:4月かな、4月に出たんですけど。自分自身が音楽を聴かなくなっちゃって。その当時ね。放射線が吹き荒れてるときですから。
岡田:はい。
H:で、車で聴くのは…カルロス・ガルデル(Carlos Gardel)っていう人。アルゼンチンの。タンゴ歌手だったり…非常に物悲しい曲ばっかり聴いてて…(笑)
岡田:へぇ…
H:それもすごく、自分の中では変わったんですよね。変えてったっていう。
岡田:はい。
H:で、いまも変わっていく最中なんで、まだ表に出せないんですよ。自分の中で。内側で何かが変わってるんで。なにかを作るとしたらこれから…なにが出来るかは自分でもわからないですけど。
岡田:なるほど…3.11の後の4月にリリースされて、5月か6月にやるかやらないかの時期にライヴが[日比谷]公会堂であったときに、僕、観に行ってたんですけど。
H:あ、そうですか。
岡田:あそこで観た…それこそ僕も、こうやって音楽を作ることだとか、レコードマニアとして音楽を聴く、みたいなところにちょっと自信が無くなる…っていう話でもないんですけど、居場所が難しい、と思ってたときに。
H:そうだよね。当時はみんなそうだったね。んー。
岡田:あの日にいちばん印象に残ってるのが、鈴木茂さんのギターがホントにバコーン!と胸にくるものがあって…(笑)
H:あー、はいはい(笑)
岡田:僕はやっぱりギターを弾きたい、とそのときに思ったことがあったりもしましたね。だから、わりといろんな…グッとくる瞬間っていうのはけっこう言葉にできないものが多いですよね。なんか(笑)
H:そうでしょうね(笑)言葉にできないね、たしかに。んー。
岡田:そういうことを細々とでも、形にできるような場を2020年とかにどんどん…小さいところでも、またそういう動きが出てくると信じてはいるんで…そういう小さい声をまた聴くような時代になればいいな、と本当に思いますね。
H:なるんじゃないかな?
岡田:なってほしいな。じゃないと僕が食えないっていう…(笑)
H:(笑)
岡田:僕の地味な音楽じゃ…(笑)
H:そっかそっか(笑)いや、地味な音楽がこれから大事だよ。
岡田:大事ですよね。いやー…ありがとうございます。
H:地味っていうのは誇らしいことだ、っていうのがだんだんわかってくるんじゃないかな。これからね。
岡田:だといいですね(笑)細野さんがそう言ってると、そうなる気しかしなくなってきたな…(笑)
H:(笑)
ノスタルジア - 岡田拓郎
(from 『ノスタルジア』)
H:こっちから言うと、たとえば、さっき言ってたけど…ニューエイジの最初の姿っていうのをこないだ僕は友達に話してたのね。訊かれたんで。「ニューエイジってなんだ?」って(笑)
岡田:うんうん。
H:自分にとってニューエイジは嫌いなんだ、と。元はね、やっぱりヒッピームーヴメントがあって、意識革命があって、その後に芽生えてきたものなんですよね。
岡田:そうですよね。
H:でも決定的に違うのは、そこにニューサイエンスが入ってきた。いちばん有名なのはマンデルブロー(Benoît Mandelbrot)という学者の言った「フラクタル(fractale)」っていう考え方。で、フランスでもポストモダンが出てきて、その元になるデカルト(René Descartes)とかカント(Immanuel Kant)を批判する形でジャック・デリダ(Jacques Derrida)みたいな、ああいうサイエンスっていうか、哲学が出てきて。その興奮を日本の若い人が受け継いだんだね。それが中沢新一だったり浅田彰だった。
岡田:はいはい。
H:そこら辺はすごく、興奮の坩堝だったね。知的な興奮というか。それにすごく影響されて、ニューエイジっていうのはそういうものだ、と僕は思ってたわけ。ニューエイジ・サイエンス。
岡田:うんうん。それはざっくり…僕も詳しいところまではぜんぜん勉強してなかったんですけど。たとえばキリスト教的な今までのあり方だとか、そういうものと違う観点を持ってこようとした人たち、ということなんですかね?彼らは。
H:まぁそういう人も多かったと思うし…そうね。当時僕はノンスタンダード・レーベルっていうのをやってたんですけど。
岡田:はい。
H:それは数学で「ノンスタンダード・アナリシス(Nonstandard Analysis)」っていう…つまり標準じゃない、今まで傍流にいたような、とんでもない理論というかね(笑)そういうものが急に中心に来ちゃったっていう。
岡田:はい。
H:だから、それが非キリスト教的であることはもう、しょうがないことなのね。ダーウィン的でもないし…なんて言ったらいいかな。んー…僕もよくわかんないんですよね(笑)
岡田:(笑)
H:とにかく、ニューエイジの「本質」っていうのはそこら辺なんだよね。新しいものだったの、ホントに。でもいつの間にか、「アンビエント」とかのアレとおんなじで…エレクトロニカもキレイに整理されて使いやすくなっちゃったのとおんなじで。ニューエイジにも嫌いな部分がいっぱいあるわけ。
岡田:もう、それこそ今…アンビエントのリバイバルの中で、「俗流アンビエント」みたいな…(笑)
H:「俗流」ね(笑)
岡田:スピリチュアルな、自己啓発的な、アンビエントの体裁を取ったCDってある時期すごく出てたと思うんですけど。
H:出てたね。紛らわしいね(笑)
岡田:紛らわしいですよね(笑)アレは産業的ニューエイジの商品じゃないですか。
H:そうそうそう。商品だよね。
岡田:そういうものと、本来の…「そういうものに対してのニューエイジ的な思想」がそもそもあったはずなのに、みたいなところがあるんですよね。
H:そうなんですよね。まぁ最初の、発生時期っていうのはだいたいそうですよね。おもしろいものだったのがだんだんコンビニ化してく、っていうかね。
岡田:そうですね。インスタントになっていくし。
H:で、平均的なものが「聞きやすい」し、「わかりやすい」っていう(笑)
岡田:そうですね…
H:ただ、ニューエイジっていうものは肥大化してて、いまだに…ますます肥大化してる。新興宗教っぽくなってきてるしね。
岡田:うんうん。
H:で、最近のアメリカ映画を観ると…若い世代の[監督の]映画ね。『アンダー・ザ・シルバーレイク(Under the Silver Lake)』っていう映画がアメリカでヒットしたんで、僕も観たんだけど。
岡田:おお、観てない…
H:シルバーレイクっていうのはロサンゼルスのちょっとそばにあって。そこにも行ったんですけど。なんか、意識の高そうな若者がたむろするようなね、街なんですよ。
岡田:はいはい。
H:で、映画自体は、最後はカルト集団に取り込まれていくっていうね(笑)そのカルトが、なんかね…つまんないカルトなんだよ(笑)
岡田:なるほど(笑)
H:で、いま上映されつつある…なんて言うんだっけ、『ミッドサマー(Midsommar)』っていう映画があるんですけど。これも似たようなもんなんだよね。
岡田:へぇ。
H:やっぱりカルト系のホラーなんだよね。
岡田:あー、結び付いている…どれも題材としては最近の、リアルタイムを描いたものっていうことですね。
H:そう。だから、たぶん若い世代はそういうことにすごく興味があるんだろうな、と思ってね。
岡田:ちょうど最近聞いた話で、リアルタイムの、今のアメリカのジャズメンたちがみんな…ある種学理っぽいところから離れて。音楽的にもアメリカのジャズの歴史じゃなくって、東洋的なところに…それこそ音楽[ジャンルとして]のニューエイジみたいなところにジャズの人たちが向かって行ってて。
H:なるほど。
岡田:それが…やっぱりアメリカこそいろんな問題を抱えている中で、若者たち…ジャズの人たちが、フィジカルで戦ってきた人たちが、フィジカルじゃなくって…今までの道理の中とは違うところを見出していかないと自分たちが保てない、みたいな雰囲気になってるんだ、というのがけっこう興味深い話で。
H:そうか。あー、まぁ、ジャズはそうだろうね。
岡田:そうなんでしょうね…っていうのも思いました。ニューエイジのリバイバルとは別次元で、リアルタイムのジャズメンにそういうことが起きてるっていう…
H:なるほどね。そっかそっか…みんな、40年代のことを忘れてるんだな。
岡田:お、興味深そうなワードですね(笑)
H:いやいや(笑)あの頃の発見っていうのはすごい…ものすごい、宝の山みたいな世界なんで。
岡田:あー、40年代が…なるほど。あんまり僕は意識したこと無かったですね。そこら辺になにがあったか、みたいな。
H:あのね、音源が残って無かったのね。ヘンなアーティストがいっぱいいて…アーティストっていうか、アレンジャーであり作曲家がね。白人たちなんだけど。
岡田:はい。
H:とてもヘンテコリンな音楽をいっぱい作ってる。まぁ、いちばん有名なのはレイモンド・スコット(Raymond Scott)なんだけど。
岡田:あー、はいはいはい。
H:ああいう音楽よりもうちょっと、現代音楽に近い音楽がいっぱいあるわけ。それが「ジャズ」の体裁を保ってるわけ。
岡田:なるほど。
H:で、決して頭でっかちじゃない。とてもおもしろい(笑)
岡田:それこそ、違うかもしれないですけど、デューク・エリントン(Duke Ellington)とかもそのくくりに入るんですかね?
H:あ、エリントンにもその片鱗があって、大好きなんだよ。
岡田:あー、めっちゃくちゃすごいですよね、あの人。異次元な…(笑)
H:そうそうそう(笑)だから、プレイに偏らないっていうかね。あの人、そんなに弾かないからね(笑)
岡田:そうですね(笑)プレイヤーとしてのイメージはまったく無いですけど。それこそ"Caravan"とか、すごい曲だなぁ、って思いますね。細野さんもカヴァーしてますよね、"Caravan"は。
H:してます。エリントンのビッグバンドももちろん良いけど、彼はピアノで何枚かソロを出してるんですよね。
岡田:あー、ありますね。
H:そのピアノの楽曲が素晴らしいんですよね。弾き過ぎない感じが…(笑)
岡田:たしかに…
H:だから、そこら辺をもう1回聴いてほしいな、とは思いますけどね。
岡田:たしかに、今エリントンとかレイモンド・スコットを改めて聴く感じは…たぶん、僕の世代の人で誰も共有できない話だから…
H:そうか。
岡田:というか、たぶん誰も気付いてないから…やっぱり50年代のロックンロール、ポップスの体裁が生まれるギリ前ぐらいが、なにかが本当に起ころうとしていたところで、みんな好き勝手…おもしろい発見があったんだろうな、っていうのはすごい感じますね。そこら辺の時代の音楽って言うと。
H:なるほどね。いやー、おもしろい時代ですよ。戦争っていう背景がひとつ、あるんだろうけどね。だから今も戦争みたいなもんだから…(笑)
岡田:そうですね。ホントに…
H:なにかが生まれる…なんて言うんだろう、そういう時間を今過ごしてるのかもしれないね。
Manhattan Minuet - The Raymond Scott Quintette
岡田:そうだ、「レイモンド・スコット・ボックス」(『Raymond Scott Songbook』)が出たときに、僕はノアルイズ・レコード(Noahlewis Record)のDJイベントで初めてレイモンド・スコットを、岡田さん(岡田崇)がかけているのを聴いて…尋常じゃない衝撃を受けたことがありましたね。
H:あ、ホント?そっか。うん。
岡田:あれ、何にも似てないですもんね(笑)
H:そうなの(笑)僕も初めて聴いたのはたかだか20年ぐらい前で、まったく知らなかったから。
岡田:あ、そうなんですね。
H:で、『ファニー・ボーン(Funny Bones)』っていうイギリス映画を観てたらおもしろい音楽が使われてて。これはなんだろう、と思って。デューク・エリントンにしてはちょっとなんか行き過ぎてる(笑)
岡田:行き過ぎてますね(笑)
H:それで調べて、レイモンド・スコットに辿りついて…もう、おもしろすぎる人だよ。
岡田:(笑)
H:でも、ぜんぜん知られてないんだよね。
岡田:そうか…でもあれ、大学生のときに出たんですけど、一部の大学生の間では話題でしたね。「レイモンド・スコット・ボックス」。
H:あ、ホント?よかったよかった。
岡田:彼らがいまなにを聴いてるのかわからないですけど…(笑)