2018.07.01 Inter FM「Daisy Holiday!」より
細野さんの返しがだんだん雑になっていくのウケますね。
H:こんばんは。細野晴臣です。今回も…先週に引き続きですね。
O:こんばんは、岡田崇です。
惣:あ、こんばんは、鈴木惣一朗です。
H:取材、取材ね。
惣:いっぱいしゃべり過ぎましたね、先週は。僕が。
H:うーん、ひとりでしゃべってたね(笑)
惣:もう諦めてください。しょうがないんで。
H:いいよ。聴くの得意だから。
惣:この前木久扇さん(林家木久扇)の落語を観に行っちゃったんで…
H:あー、いいな。
惣:ちょっと落語っぽくなってるんですよ。
H:そんなにおもしろくはないよね。
一同:(笑)
惣:いやいや。そんなに面白くはないですよ、僕は。落語には「枕」っていうものがありますよね。
H:枕大好き。木久扇さんっていうのは枕だけでしょ?
惣:枕が素晴らしい…林家三平さんもそう。だから僕も枕かな、みたいな感じで話してますが。
H:なるほど。
惣:いっぱい話さなきゃいけないことがあって、どんどん訊きます。
H:どうぞ。じゃあ早口でどうぞ。
O:(笑)
惣:細野さんはあんまり早口…じゃないですよね。
H:僕はゆっ…
惣:ゆっくり目じゃないですか?
H:…く~り~なん~だよね~。早~い話…
惣:やめよう、やめよう(笑)
H:人見明。知らないか。
惣:古いしね、それ。
H:うん。
惣:この前は『銀河鉄道の夜』の制作時期の話をしていたんですけれども。細野さんはクラシックの音楽をよく聴いて…
H:そうです。その影響が出てます、あれ。
惣:それで、昨日聴き直していてちょっと思ったんですけど。
H:うん。
惣:細野さんってピアノはね、小さい時に…たとえばバイエル(Ferdinand Beyer)であるとか、そういうのって一回通られてるんですか?
H:強制的に…母親がピアノ好きだったんで。やらされてた。
惣:そうですか。ブルクミュラー(Johann Burgmüller)という人がいますけど。
H:ブルクミュラー、うん。
惣:『25の練習曲』という…
H:名曲が揃っていますよね。
惣:そうですよね。それでね、ブルクミュラーを昨日聴いてたんですけど、すごい細野さんの…
H:あー…バレたか(笑)
H:なるほどね。
惣:で、聴き直したら、なんかこう…近い、というか
H:意識したことはなかったけど、いま言われて影響はあるかもしれないな、と。
惣:よかったぁ、訊いて。
H:もう一つね、教則本にフランスのがあるんですよ。『メトード・ローズ(Méthode Rose)』。
惣:知らないです。
H:これはね、元がフランス民謡だったり、なかなか個性的な教則本で。これが大好きだった。
惣:聴いてみます。
H:ブルクミュラーというのはもう一段階上の…
惣:難しい?
H:難しい。
惣:じゃあ、バイエルと[ブルクミュラーとの]真ん中ぐらいがメトード・ローズですか?
H:バイエルはね、やってないんだよね。
惣:あ、やってないんですか。
H:メトード・ローズから始めた。
惣:やっぱり違いますね。フランスから始まるんですね。
H:バイエルが全然おもしろくなくて…
惣:そうなんですよね。弾いてても苦しいだけっていうか…
H:まあ教則本っていうのはそういう[ものですよ]。まあ、そこら辺の影響っていうのはあるよね。子供のころに刷り込まれて。
惣:だから先週「holy」だのなんだのって僕言ってましたけど。
H:はい。
惣:細野さんが『銀河鉄道の夜』の仕事をするときに…「innocent」という簡単な言い方もありますけども、子供時代の頃の「戻った」感じが細野さんが奏でる曲に匂うんですよね。
H:そうですか。
H:んー…あんまりそういうことは考えないでやったけどね。だから、思うまんま。
惣:うん。
H:結構ね、鍵盤に向かって即興的に作ってたんだよね。"プリオシーヌ"(="プリオシン海岸")なんてワンテイクだったんだよね。
惣:そうですか。
H:もうほとんど同時にミックスしちゃったみたいなところがあるんですけど。あのテーマ曲は…あれは、いつできたんだろうね?
惣:訊かれてもね(笑)
H:憶えてないんだけど…
惣:あれ、いいじゃないですか。
H:あれは好きだよ、自分でも。んー。
惣:あれを称して「リリカル」と言いますけどね。
H:そうなんですか。
惣:「リリカル」とはあの曲のことだ、と言ってもいいですね。いまでも好きです。
H:あ、そうなんですか。
惣:不思議、ですね。あの辺の音楽詳しいつもりでいますが、出てこない。引き出しがわからない。
H:僕もわかんないんですけど、小学校の時に…さっき言ったピアノの教則本もあるけど、映画もあるんだよね。
惣:あ、そうそう。そのことを聞きたかった。
H:でも、[その映画の]音楽を憶えてるわけじゃないんだよね。イメージなんだよ。たとえば、不思議なアニメーションがあるの。
惣:なんだろう。
H:『悪魔の発明(Vynález zkázy)』っていう。
惣:あっ、あっ。それで「悪魔の発明」…これは後で訊きます。そこから?
H:これはいま観たい作品の一つなんだけどね。アニメーション。これの音楽がどうだったか憶えてないんだけど、その世界観が大好きだった。
惣:なるほどね。
H:同時に…チェコとかロシアのアニメーションも好きだった。ゆったりとしたね。
惣:うん。
H:だから、アニメーションというと僕の中では原点が、それがあって、一方ではディズニーのアニメがあったけどね。あるいはワーナーとかね。『トムとジェリー』とか、そういうのもあったけど。自分にいちばん近いのは『悪魔の発明』だったりする。うん。
惣:細野さんというと、一般的には「アメリカ音楽にとっても詳しい人」という風な、ざっくりした…
H:だろうな。アメリカ音楽研究会。
惣:アメリカ音楽伝承家。
H:はい。
惣:ところがですね、この『銀河鉄道の夜』…[細野さんのキャリアの中の]ある時期において急に東欧的な…
惣:まあ、ガーシュイン(George Gershwin)とかはちょっとあるかもしれないけど。非常にヨーロッパ的な音楽に寄る時期があるんですよ。
H:たしかにそうですね。
惣:たとえばですね…あ、おめでとうございました。最近賞を獲られた…
H:僕は[賞に]関係無い。
惣:『万引き家族』の音楽を僕もちょっと聴かせて頂いたんですが…
H:そうだ、宣伝。サントラの配信…
惣:あ、急に宣伝の時間ですか、また。宣伝の時間が…岡田くん。
H:岡田くん、きょうも一つ。ね。
O:『万引き家族』のサントラ配信が…
H:それはいいんだよ、それはもう言ったから(笑)
O:で、ですね…ボー・ハンクスの…(笑)
H:いいよ、毎週言わなきゃ。ちゃんと言って、ちゃんと。
O:レイモンド・スコットカヴァー集が2タイトル同時に発売になっておりますので、皆さん…
H:…「皆さん」どうしたんだよ(笑)
O:買ってほしいなぁ!(笑)
惣:心の叫びだ!
O:そこんとこぜひ、よろしくお願いします。
H:オッケー。じゃあそれはもうそれで、次。
惣:また戻っていいんですか?
H:いいですよ。
O:突然だった…(笑)
惣:そう、映画音楽になると、今年の『万引き家族』でもそうですが。
H:うん。
惣:まあ、ブラジルっぽい曲もありますが、細野さんの中の…さっき話してました「東欧・ヨーロッパ主義」みたいなものがまた一瞬にして戻ってくる辺りにですね…
H:出てくるね。
H:(笑)
惣:この引き出しが…階層になってるんですかね?どうなってるのかなぁ、と思って。
H:あのね、なんかの取材で答えたんだけど、やっぱりね「音楽的統合失調症」なんですよ。
惣:「音楽的統合失調症」って実際にあるんですか?
H:いや、僕の中ではあるんだと思うよ。
惣:統合が失調しちゃってるんですね。
H:統合できてないんだよね。
惣:どうなってんですか?
H:子どもの頃…戦後生まれだから、それこそホントにGHQの「洗脳」を受けてるんだよね。ブギなんかそうだよ。スウィング、ブギ…でもそれらが素晴らしいからいいワケだよ。
惣:うん。
H:つまんないものに洗脳されたわけじゃないから。いいものにすごく影響されて、それはもう自分からは拭い去れないっていうか、自分の核に入っちゃってるからね。
惣:はい。
H:で、ヨーロッパ的なものっていうのはもっと…アメリカ的なものがフィジカルなものだとすれば、ヨーロッパのものはメンタルにすごく入りこんできてるんで。
惣:うん。
H:そこら辺がやっぱり、統一できてないっていうかね。でも、自分の中では全部平等に影響されているものなんで、出しちゃってるけどね、時と場合によって。あんまり使い分けてはいないっていうか。受けた仕事の中でそれが活かされればそれを使うとか、そんなところですね。
惣:僕も1959年の生まれですが、1960年代に繁華街とかラジオでは普通に…いまでも記憶がありますが、ヨーロッパがね、ニーノ・ロータ(Nino Rota)とか有名ですけど。
H:そう。わりと世界的にヒットチャートに上がってきたりしてた時代があったんだよね。
H:そうなんだよ。
惣:自分の意識とは関係なく。で、いまの細野さんのお話を聞いていると、GHQのアレがあるのかもしれないですけども…
H:だから、アメリカだけじゃなかった時代、っていうのがあるんだね。たしかにそれ、言われてみると、そうだよ。サンレモ(Sanremo)の音楽とかね。
惣:サンレモ音楽祭、ありましたね。
惣:ユーロヴィジョン・コンテストというものがありまして。
H:へぇ、それは知らなかったな。
惣:毎年々々、ヨーロッパの人が…日本でテレビでやってたり。"ナオミの夢(אני חולם על נעמי)"とか、有名ですけど。ミッシェル・ポルナレフ(Michel Polnareff)とか、ヘドバとダビデ(חדוה ודוד)。
H:あー。なるほどね。
惣:ああいうものが普通に流行って。で、日本語ヴァージョンとフランス語ヴァージョンが[出たり]。シルヴィ・バルタン(Sylvie Vartan)とか。
H:僕はもっとその前だね。カテリーナ・ヴァレンテ(Caterina Valente)とか。
H:"情熱の花(Tout L'Amour)"日本語ヴァージョン、とかね。
惣:"日曜はダメよ"(Ποτέ Την Κυριακή / Never on Sunday)とか、そうした細野さんが大好きなものもやっぱり普通に…あれギリシャ[映画]ですからね。ああいうのはなかなかいま無いですよ、ギリシャ映画なんて。
H:そうですね。
惣:でも普通に流行ってたし…
惣:うん。
H:そういう意味では、子供の頃っていうのは…小学校入る前の時代に僕はブギとか聴いてたから、小学校の時からはもっと開かれた、アメリカだけじゃない音楽をいっぱい聴いてたね。たしかにそうだ。
惣:まあそれが時期とか、仕事に内容によっていろいろ変わる、という風な感じもしますが。いまちょっと話しながら思い出しましたけど、細野さんが『銀河鉄道の夜』をやられる前に…
H:うん。
惣:いろいろね、YMOの時期とクロスしますけれども、「こんな映画音楽が好きだよ」っていうのを新聞で時々コメントを寄せていたことがあって。
H:そうでしたっけ。
惣:よくそれを見てみました。で、あれ、こんなのも言ってくるんだと思ったのは、さっき(先週)「揺れる」っていうことを言ってましたけど、『銀河鉄道の夜』を作る時に。
H:うん。
惣:『ブリキの太鼓(Die Blechtrommel)』。
H:大好きだ。
惣:細野さん好きでしょ?モーリス…
H:ジャール(Maurice Jarre)。
惣:[音楽を担当したモーリス・ジャールという人のことをものすごく強めに書いている。
H:すごい好き。
H:はい。
惣:なんか、なんとなくスネアのロールが無意味に入ってきたり。
H:無意味か…(笑)
惣:すみません、無意味って言っちゃいましたね(笑)まあ、音楽に意味はないですから、ほとんど。
H:はい。
惣:『ブリキの太鼓』っぽい感じがちょこちょこっと出てくるんですよね、
H:スウィング・スロウにそれが出てるかなぁ…
惣:それはいま勢いで言いました。
H:まあでも、『ブリキの太鼓』は世界中のミュージシャンに影響を与えたんですよ、実は。
惣:あ、そうなんですか?
H:はい。イギリスにジャパン(Japan)がいたでしょ。
惣:ジャパン、はい、デヴィッド・シルヴィアン(David Sylvian)。
H:彼らが『Tin Drum』っていうアルバムを作ってるんですよ。
惣:『Tin Drum』、いいアルバムでしたね。
H:それはもうまさに『ブリキの太鼓』の影響ですよ。あの映画で初めて触れた音っていうのがあるんですよね。葦笛なのか、ブルブル言う笛の音。あれがよかったんだよね。
惣:細野さんはあれをProphet-5で再現してますよね。
H:もう、真似しようと思ってね。
惣:で、再現できてるんですよね、恐いことに。
H:出来てた?ほんと?(笑)
惣:そういうことを知らずに聴いても、なんか繋がってるんじゃないのかなって思ってましたから。
H:意識的に、集中して作った曲っていうのは憶えてるけどね。んー。
惣:だからまあ、映画音楽をやられる時に、さっきの東欧のこともそうですけども、好きな映画音楽の作家とか映画のイメージが…細野さんは「映画を聴きましょう」の方ですから、いっぱい出てくるというか。
H:うんうん。
惣:『銀河鉄道の夜』も…分析なんかできませんけど、いろんなテクスチャーが入ってるような気がするんですよね。
H:まあ…いま思えば自分的はまだ若い、若すぎたな。
惣:細野さんあの頃いくつですか?40前ですか?
H:40前ですよ。
惣:若い…年下だ。肌ツルツルしてましたもんね。
H:いやいや(笑)いま膝っ小僧ツルツルだからね。
O:(笑)
惣:それ、どうしちゃったんですか?
H:健康のバロメーターなんだよ。
惣:膝っ小僧のツルツル度が?
H:うん。
惣:あれ、僕黒ずんでますけどね。疲れてんですかね。
H:疲れてんじゃないの?
惣:あっれぇ…クリーム塗ればいいの?
H:僕は何もしない。で、膝小僧ピカピカなんだよ。それがくすむとやっぱりダメなんだよ。
惣:あ、ホント?そうなの岡田くん?
O:いや、どうですかね(笑)
惣:あっそう、気にしてみます。
H:まあ誰でもそうってワケじゃないからね。
惣:まあ元気そうですよね。
H:友達の野上眞宏くん、こないだここに来たりして。「あと10年だね」なんて話はしてますけどね。
惣:あと10年だねっていうのは81歳ですか?
H:そうです。平均寿命に届いちゃうとね、もう後10年くらいですよ。まあしょうがないよね。
惣:うーん、まあ僕ももう言えないですからね。
H:みんなおんなじだよ。誰だって。
惣:ねえ。順繰り順繰りに。
H:なんの話?
H:いいねえ!
惣:急に…(笑)さて細野さん、完全版を…細野さんにもアウトテイクを渡してあって。
H:はいはい、聴いた。うん。
惣:聴いて頂いたと思うんですけど、3曲ボツということで。
H:はい。
惣:だけど[それを除いても]30分以上ありますよね、いろいろ。
H:結構あるね。
惣:だから2枚組になるんで。皆さんお楽しみに、ということで…
H:特に、なんかでも…「これは!」っていうのが無かった、自分的にはね。
惣・O:シーッ!
H:…まあ、興味深いけどね。
惣:まあ、僕はそんなことはないと思いますけども。
H:そうだ、讃美歌が入ってるんだね。
惣:讃美歌が入ってます。
H:これは本編に入れてないCDだよね。
惣:入れてないヴァージョンが見つかったり、デモテープが見つかったり。
H:デモテープっぽいよね。
惣:貴重なものが見つかったんで収録して、今年の末には出ると思うんで、皆さんお楽しみに。
H:そうですね。僕も楽しみにしています。
H:はい。
惣:さて、本編に入りますけど…
H:あれ、これから本編なの?(笑)
惣:ノン・スタンダード(NON-STANDARAD)レーベルが1984年の春から1986年の春まで。
H:2年間ね。
惣:わずか2年間の中で毎月、毎月アルバムがたくさん。
H:毎月出してたんだ。
惣:しかも月に1枚じゃないんですよね。月に4,5枚出てたんですよね。
H:すごい。
惣:ええ、そういう時期で…3つの季節に僕は分けたんですけど…黎明期、まず。1984年。
H:うん。
惣:南口さん(南口重治, 当時テイチク社長)と、テイチクの会見をした…前回そういう話もしましたが、『S・F・X』に入っていく辺り。
H:うんうん。
惣:で、アウトテイクが2曲発見されて。
H:そうなんだよね。
惣:それを収録してもいいというめでたいご意見を頂いたので、その2曲のことを今日は特別に…皆さんこういうことに興味があると思うんで。
H:うん。
惣:僕は以前「録音術」という本をやってた時、いろんな細野さんのマスターテープを見ている中に2 Mixのテープがあって。岡田くんと撮影をしにテイチクに行って、その中に"悪魔の発明"と書いてある曲と…
H:さっき話が出てたやつだ。
惣:"北極"という風に書いてある曲…
H:んー。
惣:"Medium Composition; #2"のアウトテイクというのもあるんですけど、それは今回は対象にしませんでしたが。
H:それは聞いてないね。
惣:『S・F・X』のアウトはこの"北極"と呼ばれる曲と"悪魔の発明"。
H:うん。
惣:"悪魔の発明"はカレル・デーマン…
H:ゼーマン(Karel Zeman)。
惣:ゼーマンですか、という[監督の]アニメーションから曲名をインスパイアされて付けられているもの。
H:うん。
惣:で、僕は聴いてみました。が、"Body Snatchers"だった。
H:そうだね。
惣:"Body Snatchers"のサビ抜きですね。大サビって言えばいいかな。ベーシックはほとんどできていて、なぜこれをボツにするのかわからない…
H:ボツっていうか、それを下敷きにして[Body Snatchersとして]作りなおしたんじゃないかな。
惣:で、もう一つ。ま、もう一つが結構謎で、"北極"。
H:これどういう曲だっけな…ちょっと憶えてない(笑)
惣:YMOの『BGM』に入っていた"CUE"に似てるとか…
H:そうだ、"CUE"に似てるっていうんでボツにしたっていうことね。
惣:で、マルチテープに…細野さんの文字は僕は見るとわかるんで、「YMO CUE?」って書いてあるんですよ。で、もうボツにする気満々で。
H:あ、そっか。
惣:つまり、でも、『S・F・X』のレコーディングの最初の段階でやってるはずなんですよね。
H:まだYMOの余韻のまんまやってるんだよね。
惣:リズムの感じとかコード感とかちょっと似ていて。クリシェが、循環コード。
H:おんなじ。
惣:それがたぶん気に入らなくて。
H:そうね。でもいま聴くと、別に悪くはない。
惣:あれ歌のっければね…
H:まあ、歌をいつか入れてもいいけどね。
惣:つまり、『S・F・X』のアウトテイクに僕が固執した理由が一つあって、発売した時から、なぜ6曲入りなんだ、ということが…
H:(笑)
惣:素朴な疑問だったんですよ。
H:そんな少ないの?(笑)
惣:6曲しか入ってない。
H:コンパクトディスクだよね。
惣:コンパクトすぎるコンパクトディスクだったんですけど…1985年の時点でもかなりコンパクトで。まあレーベルが始まるぞ、という旗揚げみたいな時期に6曲入りってちょっとないんじゃないかなぁ、みたいな
H:ねえ。
惣:もうちょっと入れてくださいよ、って思ってたら、細野さんはちゃんと仕事してたんですね、ということを今年になって分かりました。失礼致しました。
H:ちゃんと仕事してた、ってどういうこと?
惣:ちゃんと録音してたってことですよ。いっぱいね。10曲くらいだいたいやるじゃないですか。この時もやられてたんですよね。
H:全部カットしちゃったんだね。
惣:だけど、当時の担当エンジニアの寺田康彦さんが「細野さんは完璧を目指した」と、『S・F・X』で。この2曲は外す理由があったんじゃないかと。
H:んー。
惣:で、ああそうですか、みたいな感じだったんですけど、いま聴いてみるとおもしろいなあ、と。
H:おそらく、当時って1曲が長い時代だよね。
惣:そう、リミックスもしたりするから。
H:だから6曲といってもそんなに短くはないんだよね。
惣:それで、なんで"北極"ってタイトルなんですか?
H:いや、憶えてないね(笑)
惣:憶えてないでしょう。"北極"ですよ。"北極"といえばもう熊ぐらいしか思えませんけど、僕は。
H:あのね、逆さまにすると意味が出てきちゃうね。「極北」。
H:「辺境の音楽」とか言われてたね(笑)
惣:辺境の音楽は僕でさえ言われてましたね(笑)
H:あ、そうなの?(笑)仲間だ。
惣:ね、寂しい思いをしたりもしますが。あ、「極北」ですか。
H:としか考えられないね、いま思えばね。
惣:細野さん言葉をひっくり返すの好きですよね。タイトル。
H:んー、そうだっけ。
惣:そうですよ(笑)
H:ギロッポン。
惣:(笑)
H:えー、じゃあ、話は尽きないんで…この話の続きはまた来週ってことだよ。
惣:はい、また来週。
H:また来週。岡田くん、いい?
O:はい。