2020.04.05 Inter FM「Daisy Holiday!」より
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林:あの…家に帰って来ていきなりうがいは気を付けたほうがいいってよ?
H:なんで?(笑)
林:うがいをしてる間に中に入っちゃうんだって。
H:(笑)
林:だから、まず…うがいをする前に[水を]口に入れたら「ペッ!」ってやるの。
H:あ、それはやってる。
林:やってる?
H:口の中をまず掃除して…
林:それからうがいなんだって。
H:それはやってるやってる。うん。で、塩水でうがいすっとね、気持ちが良いんだよ。喉の奥に塩の感触が…あ、しょっぱい、と思うわけ。
林:甘いもん食べたくなんない?
H:いや…(笑)
林:(笑)
H:飲まないからね(笑)
林:あ、そっか(笑)
H:で、[水が]喉のどこまで来てるかわかるわけ。塩のおかげで。
林:うんうん。
H:あ、ずいぶん奥まで来てる、と思って。
林:体感するんだ。
H:うん。
林:へぇ~。
H:で、ちょっと飲んじゃったりする(笑)
林:それ、溺れたときとおんなじじゃない(笑)
H:そうそう(笑)海水は0.9%なんだよね。塩の割合が。
林:へぇ。
H:それに合わせて作るんだよ、塩水。
林:そんなことまでやってんですか!(笑)
H:いや、「そのつもり」でやってるだけで、別に厳密に量ってない(笑)コップに9回だけシャッシャッシャッシャッ…て入れて。これで0.9、って(笑)
林:料理作るわけでもないのにね(笑)
H:まぁ、目分量だから。うん。
H:いやー、もう…YouTubeばっかり見てて。今はいろんな人がいろんなことを言ってるのをぜんぶ見てるの。
林:あ、そっちを探ってるわけね。あんまり見ないほうがいいですよ?
H:…最近そう思い始めて(笑)
林:見過ぎは良くないんじゃない?
H:たしかに。見過ぎちゃってるんだよね。
林:ついつい、ね。そういう風になるよね。
H:なんか、いろんな情報が頭の中に入っちゃって。イヤな話とかいっぱいあるんだよね。まぁ、それは言わないよ。人には言わない。
林:あの「専門家」っていうのがどこまで信じられるのかね。
H:専門家がさ…「防御法は?」っていうと「よく手を洗え」って言うだけだから(笑)
林:それ専門家じゃなくても言うでしょ(笑)
H:言うよ(笑)でも、それしかないんだね。
林:その「専門家」っていうのが…本当にその人が「専門家」なのか、どう確かめるんだろう、っていう感じがする。
H:ホントにね。で、ニーム(Neem)っていうお茶を飲んでるんだけど、僕。
林:あ、そう。
H:めっちゃくちゃ苦い。この世でいちばん苦い。
林:へぇ~。それはでも、いかにも体に良さそう。
H:うん。でも、毒性も強い。気を付けないといけない。
林:あ、じゃあ量が大切だね。
H:まぁ、お茶で飲んでるんだけどね。これはでも、インドでは古代から使われてる、アーユルヴェーダ(Ayurveda/आयुर्वेद)の一種だから。
[*インドの伝統医学の総称。]
林:なるほど。ただそのほら…使われているときの頻度とか量とか。
H:それがわかんないね。
林:そこをちゃんと知っとかないとさ。ああいうものはね…一見穏やかだけど実はすごいからね。自然のものとか。
H:強い。植物ってすごい。
林:すごいですよ、そりゃあ。
H:植物はさ、人間が出現する前からいるじゃん。
林:うん。たしかに。
H:で、整えてくれてるんだよ。酸素を出して。
林:はい。
H:そこに人間が来て…植物のおかげで暮らせてるわけじゃん。薬もそうだし。
林:いや、ホントそう。
H:抗生物質も。ぜんぶそう。植物がぜんぶやってくれてる。
林:ほら、シャーマン(shaman)とかってよくいるじゃない。
H:うん。
林:ああいう人たちって、どの草がなにに効くかっていうことを知ってる家系なんでしょ?
H:そう。薬草の専門家。
林:でも、一般人にはそれぜんぶ雑草にしか見えないからね(笑)
H:そうそう(笑)彼らはすごいよ。知ってるから、そういう薬草の効果を。いかに強いものか。
林:そうそうそう。
H:だから、それを採取するときにお祈りして…「きょうはこれくらいにしておきます」とかね、宣言するんだよね。その薬草の中のでっかいやつに挨拶するわけ(笑)
林:ほうほうほう…
H:で、宣言して、お供え物をしてから…
林:感謝だね。ある種のね。
H:そうそう。そのぐらいの、謙虚な感じじゃないと扱えないものなんだよ。ホントは。
林:それは代々、その家系だけでずっと踏襲されるんですか?
H:まぁ、そうなんだろうね。
林:ね。一般にはその…いわゆる知恵みたいなものは出ていかないわけですよ。
H:そうなんだよね。やっぱり「専門家」だから(笑)
林:(笑)
H:本当の「専門家」だよね。彼らはみんなね、煙草を吸うんだよ。
林:あ、そう?
H:煙幕を張るわけ。
林:へぇ。
H:で、煙草こそ、祖先との交信に使うわけ。煙をね。
林:それなんか、細野さんに都合の良いように言ってない?いま。
H:言ってないよ!(笑)
林:そんなことない?(笑)
H:だって僕、アメリカのネイティブに会って、連れてかれて…アナサジ(Anasazi)っていう遺跡を見ながら煙草を吸え、って言われて。
林:うん。
H:この煙によって交信するんだ、と。でも肺に入れなくていい、とかね。言うんだけど。
林:あ、じゃあふかすだけでいいわけね。
H:そうそう。
林:煙がポイントだってことね。
H:煙が大事なの。で、彼らにはパイプっていうのはすごく聖なる儀式だから。パイプを回すのね。煙草の葉だけどね、もちろん。
林:はいはいはい。あの、死んじゃったギタリストのジャケットの…なんだっけ、あの人。
H:誰だ。
(D:ジェシ・デイヴィス(Jesse Ed Davis)。)
林:そう、ジェシ・デイヴィスのジャケットがそうだよね。
H:あ、そうだ。あの人はネイティブ系なの。うん。
林:その煙草の葉っぱも農薬とかかかってない、ナチュラルなもので…
H:そうそうそう。あの…売ってるスピリッツ(アメリカン・スピリッツ)なんかもね、そんなつもりで作ってるみたいだけど。
林:で、紙にも巻かない。
H:パイプで。うん。
林:そういうことか。
H:どうですか、一服?
林:煙ね。
H:ちょっと失礼…フゥー…
林:いま煙に巻いたんでしょ(笑)
H:そうそうそう(笑)シャーマンはみんな煙に巻くんだよ。けむにまく、っていう。
林:けむね。
H:そうやって視覚を鋭敏にさせたりするんだよ。
林:んー、まぁ、意味はぜったいあるわね。
H:あるんだよね。それで、ああやって煙草を制限してるのは、ネイティブに対する怨念というかね。アメリカ。なんだろう。まぁいいや、この話は(笑)
林:(笑)
You Belladonna You - Jesse Ed Davis
(from『Jesse Davis!』)
H:本筋からそれた(笑)本筋に行こう。
林:…戻れる?(笑)
H:戻れるかな…巻き戻そう(笑)えーと…大学のときに音楽部に入ってたでしょ?
林:うん。高校のときにね。
H:あ、高校のときか。
林:軽音楽部に入ってた。
H:それの後輩に矢野顕子がいたりね。
林:そうね。鈴木顕子ね。
H:あ、鈴木顕子。すごいな、その…坩堝だな
林:そうね…
H:その頃はアッコちゃんとなんかやったりはしてないの?
林:いや、ぜんぜんやってない。もう[自分が]卒業して…それこそキャラメル・ママで…南佳孝くんだっけな。で、「矢野誠さんがいて。
H:はいはい。
林:なんか、あのぐらいのときに「青学の高等部にすごいピアニストがいる」みたいな話を…
H:あ、その頃?
林:うん。聞いた記憶がある。
H:じゃあその直後…わりとすぐにアッコちゃん、来たじゃない。
林:そうそうそう。「ああ、君ね。君だったのね」みたいな。
H:そうかそうか。だから、僕の知らないところでいろんな交流があるんだな、と思ってね。交流っていうか…例えば…誰だっけな。本に出てたけど忘れちゃった、もう(笑)
林:まぁね(笑)
林:ユーミンは、だって…いちばん最初は新宿のスタジオみたいな不思議なところで、ユーミンの曲を聴かせてもらったじゃないですか。
H:うんうん。
林:あれが最初。
H:あ、そう?じゃあ、おんなじなんだね。
林:僕らの周りで言うと…小原(小原礼)と幸宏(高橋幸宏)がユーミンのことをその前から知ってた。ムッシュ(ムッシュかまやつ)とかね。
H:あ、そうだ。そうだよね。ユーミンのデモを作ってた。
林:そうそう。シングルも作ってたって聞いたよ?
H:そう。それがね、"返事はいらない"なのよ。
林:あー、そうか。
H:で、アルファの村井さん(村井邦彦)から「"返事はいらない"の違うヴァージョンを作ってみてくれ」っていうから、電話がかかってきた。
林:うん。
H:それで、始めたんだよね。
林:最初はそこだったの?
H:うんうんうん。だから、最初にやったのは"返事はいらない"でしょ?
林:え、そうだった?
H:そうなんだよ。
林:レコーディング?
H:うん。
林:僕、もっとずーっと後だったような気がする。
H:いや、1枚目だよね?
林:いちばん最初にセッションでやった?
H:うん。
林:あー、そうだったっけ…"ひこうき雲"をいちばん最初にやったのかと思ってた。そうじゃなかったんだ。
H:そう、かもしれない(笑)
林:すごい、簡単に無くなったね話が、いま(笑)
H:(笑)
(from『ひこうき雲』)
林:まぁね、歴史ってこんなもんですよね(笑)
H:そうそうそう。当時はマッスル・ショールズ(Muscle Shoals)をいっぱい聴いてたじゃない。
林:聴いてましたねぇ…
H:ね。
林:でもね…細野さんに言うのは初めてなんだけどね。
H:うん。
林:細野さんがいろんなアルバムを僕らに聴かせたじゃない。その中でいちばん…脳天逆落としはマーティン・デニー(Martin Denny)なのね。
H:そうだったのか(笑)
林:僕以上に脳天逆落としは鈴木茂だよ(笑)だって、聴いてて「これ、ギター入ってないよ?」って言ってたから。
H:たしかにね…(笑)
林:でもね、あのマーティン・デニーを聴いて…最初は僕もなんだかどうすればいいんだろう、とか思ってたんだけど。だって、"お富さん"なんか入っちゃうんだもん(笑)どうなってるんだよ、これ、みたいな。
H:ちょっと待って、あれはアーサー・ライマン(Arthur Lyman)。
林:あれアーサー・ライマンか。そうか。マーティン・デニーじゃなかったっけ。
H:まぁ似たような…(笑)
林:あの世界だね(笑)そうか。僕、それ一緒になってた。
林:でも、あの辺のを聴いて…その後ね、ドラムを叩くときに一切の制約が…あれを通過したことで一切なくなった。
H:うんうん。
林:それはね、ホント感謝。
H:僕もそうなんだよ。
林:あれでぜんぶがね…いい意味でブチ壊れた(笑)
H:そうでしょう?(笑)あー、やっぱりそういう…だから、プレイヤーじゃないね。そういう音楽の聴き方っていうのは。
林:そうかな?完全にあれはひとつのターニングポイントっていうかね。
H:だって、ドラマーとしてもし聴いたら、なんにも無いじゃん、別に(笑)
林:まぁ、たしかにね(笑)でもサウンドとしてはめっちゃくちゃおもしろい。
H:でしょ?サウンドで聴いてるんだね。うん。いや、僕もそうだよ。マーティン・デニーのおかげでその後10年ぐらい生きられた、っていうか
林:マーティン・デニーで?ちょっと、きょう家帰ったらアーサー・ライマン聴いてみよう。もっと。
H:聴いてみてよ。"お富さん"。♪タタンタタンタタンタタンタタン…(笑)
林:どこまで行くんだ!みたいなね(笑)あー、そうなんだ。じゃあけっこう僕、違うところで間違ったこと言ってたね。マーティン・デニーって言っちゃった。そうなんだね。
H:まぁ、親戚だからな。親戚っていうか、弟子みたいなもんか。
林:え、どっちが先なの?
H:マーティン・デニー。
林:が先?あー、そうなんだ。
H:まぁ、ハワイでやってるんだよね。みんな。
林:そうなんですよ。あれがね…いつか細野さんに、なにか機会があったら言おうと思ってて。
H:そうか(笑)そうだったんだね。もう、それでぜんぶ納得したわ。なるほど。
林:自分がそれまで…ジャズも聴いたし、いろんなハワイアンだのカントリーだの聴いて。
H:いっぱい聴いてるよね。んー。
林:別にのめり込んでるわけじゃないんだけど、なんとなく入ってきてる、みたいなのが…マーティン・デニーという駅を通過したら…(笑)
H:(笑)
林:ぜんぶ、なに入れてもいいんだ!みたいな(笑)
H:おんなじだよ。まったく僕もそうだったから。"Sake Rock"っていうのを聴いてね。なんだ、こんなんでいいんだ、と思ってね(笑)
林:"Sake Rock"、あったね(笑)
Sake Rock - Martin Denny
H:それで…先週かけた"七夕の夜"がきっかけでTin Panが再結成っていうね、流れがあったじゃん。
林:うん。
H:それまで僕はアンビエントをやってて、ここのスタジオにひとりで籠ってたわけ。
林:はいはい。
H:誰ともやんなかった。生なんてぜんぜんやんなかった。
林:へぇ。
H:で、ひさしぶりにやったら楽しくて。"七夕の夜"で。それで、その直後に林くんと茂が来てくれて。ここに。
林:そうね。いっしょになんかやろうよ、って。
H:やろうって言われて、すぐやりたくて、乗っちゃったの。
林:うんうん。
H:ただ、難しかったね(笑)
林:いろいろね(笑)ホントだね。
H:でも、今聴くとなかなかおもしろいけどね。どう思う?
林:僕は、なんかこう…模索っていうかね、決まってなかったからこその魅力はあるな、っていう。逆にね。
H:そうだよね。
林:やってる最中は大変だったけど。
H:うんうん。意欲的だったような気がするよ。例えば…なんか聴こう。えー…なにがいい?
林:タイトルがいま出てこないんだよね…
H:"Queer Notions"とか…"Travellin' Mood"。"Flowers"。
林:"Flowers"は?
H:"Flowers"にしよっか。じゃあ、"Flowers"を聴きます。Tin Panです。
Flowers - Tin Pan
(from『Tin Pan』)
H:というわけだね。
林:おもしろい…なにを考えてたんだろうね(笑)
H:これ、よくライヴでやってたよな(笑)
林:ホントだね(笑)
H:今できないな…これ、3人だけだからね。なかなかだよね。
林:こういう…なんというか、ジャンルもへったくれもないよね(笑)
H:うん。わかんない、いまだに(笑)
林:でも、おもしろい。
H:おもしろいよね。これ出た当時…音楽誌から取材が来て、音楽好きの評論家みたいな人、誰だっけな…に、すごい辛辣なこと言われちゃった。
林:あ、そう。
H:地味だからね(笑)
林:(笑)
H:なんか、もっと期待してたのかな。TIn Panっていうとね。
林:どういうのを期待してたんだろうね。
H:わかんないけど…んー。
林:「お構いなく」って言っちゃえばよかったのに(笑)
H:そうだね(笑)まだ若かったから(笑)
林:(笑)
H:若かないか(笑)2000年だよな。20年前か。んー。それで、Tin Panはライヴもやったしね。
林:ツアーもチラッとやりましたね。
H:やったね。で、また…しばらくなんにもなかったね。
林:そうだね。
H:で、僕が自分でライヴをやり始めたときに、時々参加してくれたよね。
林:そうですね。
H:で、そのとき話したのが…ブラシが好きだと(笑)
林:いやー、ブラシっていうのはおもしろいよ。
H:で、カホン専門家になってたよね、当時(笑)
林:あれはあれで、自分の中では新鮮だったんですよね(笑)
H:そう(笑)
林:ブラシって、ドラムの中で唯一…いわゆる白玉っていうか、2分音符だの全音符だのができるでしょ?コントロールできるし。
H:そうだね。
林:そういうおもしろさがありますよね。だから、「歌える」っていうか。
H:そう、あのね…林くんはね、ドラム叩きながら歌ってるんだよね。関係ないメロディー(笑)
林:あれね、ミックスのときホントにイヤなんだよ(笑)
H:聞こえてくるんだよね(笑)
林:で、自分がいるときだったらまだいいんだけど、いないときにこれ、みんな聞いてるんだよなって…それがイヤでイヤでしょうがなくて(笑)
H:そっか(笑)あれは止められないんだろうね。
林:どうしようもない(笑)
H:やっぱりメロディーが聞こえてないとダメなんだね。
林:ダメなの。ぜったいダメなの。
H:あれは自分で作ってるの?メロディー(笑)
林:そんなことはないけど…(笑)まぁ、なんかね、自分で…そうですね。違う曲歌ってたりしますね。
H:そうでしょ?あれはね、ユニークだよね。あれで、あのまんまソロを作ったら?(笑)
林:2枚ぐらい売れるかな?(笑)
H:いやいや、時間がいくらあってもこれは足りないんで…また続きは…ちょっと時間を置いた後にね。また来てもらおうかな。
林:はい。
H:えー、きょうはじゃあこれくらいで…締めましょう。じゃあ、最後に僕のソロの『HoSoNoVa』から…ちょうどそういう話を…ブラシの話をしてたときのレコーディングね。"ウォーカーズ・ブルース"。ピアノは佐藤博で…どうもありがとうございました(笑)
林:ありがとうございました(笑)楽しかったです。
ウォーカーズ・ブルース - 細野晴臣
(from『HoSoNoVa』)
2020.03.29 Inter FM「Daisy Holiday!」より
H:こんばんは。細野晴臣です。えーとですね…このご時世に、はるばるやって来てくれました。ゲスト、林立夫くん。
林:こんにちは。このご時世に…
H:(笑)
林:やって参りました。
H:えーとね、3月がまだ続いてますが…これからどうなるのか。どうなるの?
林:どうなるんでしょうね。まったく予測がつかない。
H:みんなわかんないよね。誰も。
林:そう。
H:国の総理大臣もわかんないよね。
林:予測をつけるのをもう、やめる。
H:やめるよね。もうやめた。んー。
林:ね。
H:あの…出歩いてる?
林:んーとね、こないだまで僕、高松にいて。香川県の。
H:あ!香川県はね…
林:あそこはね、街歩いててもなんか、安心な感じで…(笑)
H:あー、いいよね。そうかい。それはなに?休みで、っていうことね。仕事じゃないよね(笑)
林:東京辺りだと、9割方がマスクしてるでしょ?
H:してるしてる。
林:向こうはね、9割方がマスクしてないの(笑)
H:いいね(笑)マスクって、見ると緊張するんだよな。
林:そう。で、みんな美人に見えるんだよね。
H:そうね(笑)いやー…僕の場合はきょうか明日のライヴが中止になっちゃってるんで。
林:そうなんだ。どこでやるの?
H:オーチャードホールの…「EAST MEETS WEST」だっけ?
林:はいはいはい。
H:ニューヨークからウィル・リー(Will Lee)とスティーヴ・ガッド(Steve Gadd)が来て…いっしょにできると思ってたんだけどね。
林:あ、細野さんの?
H:僕の曲をバッキングしてくれるって言うんだよ。
林:うわー!本当?観たかったぁ…
H:すげー楽しみにしてたんですけどね。
林:本当…それは観たかったね。
H:ええ。まぁ、「延期」じゃなくて「中止」なのか、よくわかんないよね(笑)
林:どんなになってただろうね?それは楽しみ…残念。
H:スティーヴ・ガッドとできるってなんか夢のようじゃない?我々にとって。
林:いやー、わかります。
H:まぁ、目の前にいるけどね。スティーヴ・ガッドが。
林:いやいや…(笑)
H:(笑)
林:スティーヴ・ガッドって、別物ですよね。あの人は。
H:別物だね。影響されたよね。ひと頃ね。
林:んー…今のほうが僕は好きですね。
H:あ、そうだよね。
林:すごいシンプル。
H:シンプルになって…枯れてきた、っていうかね。んー。ウィル・リーっていう人はめちゃくちゃ元気なベース…
林:あの人は枯れない。
H:枯れない。ぜんぜん枯れない(笑)
林:あの人はぜったい"枯葉(Autumn Leaves)"という曲はやらない(笑)
H:やらない(笑)イライラするんだろうね(笑)
林:日本に住んでるっていう噂よ?ウィル・リー。
H:え!そうなの?それは知らなかった…
林:だって僕ね、1回名古屋に遊びに行ったときに、ホテルの窓から下を見たら、ウィル・リーが横断歩道を渡ってた。
H:ウソだろ…(笑)
林:ホントホント(笑)
H:そんなバカな…(笑)
林:そっくりさんかな?(笑)
H:ところで…林立夫くん、『東京バックビート族』という自伝が出ましたね。
林:…遺書じゃないです(笑)
H:遺書じゃないよね(笑)自伝だからね。これはね、まだ全部は読んでないけど途中まで読んでて…おもしろい。
林:あ、それ言われるとうれしいですよ。
H:だって、あの…[初めて]会った頃、林くんは高校生じゃない、まだ。
林:そうですね。
H:で、僕は大学生。
林:うん。すっごい年上に見えたけどね。
H:(笑)
林:もう、すっっごい年上に見えた(笑)
H:今は?
林:今はなんか、ほら…近いかな?っていう感じが…
H:そうか(笑)だんだん狭まってきた。あの頃は…黙々とやってたから。
林:うん。
H:「君はどこの人?」なんてぜんぜん訊いたことない(笑)
林:あ、そうだね。
H:だから、どこに住んでるか、なんてあんまり知らなかった。
林:細野さんはあんまり他人のこと訊かないから。
H:訊かないんだよね。ごめんなさい。
林:僕は細野さんが住んでるところ知ってましたが(笑)
H:だって、来るからね(笑)ドラムセット運んできたんだよね。
林:そうなんですよ…あの頃はね、タクシーに載せてくれたんですね。
H:あー、そうだよ。ウッドベースも載せてくれたし。
林:ね。今じゃ考えられないかもしれない。
H:あの頃のことはよく憶えてるよ。暑い夏にさ、2階に上がって行って。布団を垂らして。
林:防音にしてね(笑)
H:汗だくでやってたんだよね(笑)
林:細野さん、ポンチョ着てなかった?あのとき。
H:それは…(笑)それは冬だよ(笑)
林:いまだに、その…(笑)
H:会うたんびにポンチョ、ポンチョって…(笑)
林:ポンチョなんだよね(笑)
H:印象が深いんだね。
林:すごいポンチョ…ポンチョにショートホープっていう…(笑)
H:恥ずかしいね…(笑)
林:一生残る、その場面が…
H:そうか。じゃあ、もう1回ポンチョ着ようかな。けっこう好きだけどね。んー。で、青山に住んでたのね。
林:そうね。そう。
林:ウエストよりももうちょっと細野さんのうち寄り。約100mくらいだけどね。
H:あそこら辺の景色ってすごい好きだったんだけど。
林:変わりましたよ、でも。
H:変わっちゃったね。都電が、ほら。専用軌道で。砂利の上をね。
林:そうです!
H:車が入れない。
林:入れない。そうなの。
H:で、僕は白金…天現寺から乗って中学に通ってたから、青山一丁目で降りるんだよ。
林:うんうん。
H:南青山一丁目で…そこら辺でしょ?
林:それ、うちの駅(笑)
H:あんなに静かなところ無かったね(笑)
林:もう、単なる田舎ですよ(笑)
H:ホントだ(笑)
林:なんにも無かった。うん。
H:だって…都電が満員なのね。当時からもう、ホントに人がいっぱいいたんだけど、南青山一丁目で停まると、シーン…
林:(笑)乗る人も少なければ降りる人もね。
H:少ない。うん。
林:だって葬儀場しかないんですから。
H:そうだよね。まぁでも、いいところで。左側に青山墓地があって、「月光仮面」のロケをやってた。
林:そうなんですよ。
H:知ってる?見た?
林:だって、うちの斜め前でやってるんだもん(笑)
H:やっぱり(笑)
林:「サタンの爪」の人が途中、お昼でお休みしてたりね、してるんですよ(笑)
H:のどかだ(笑)すごいね、それ。歴史的な目撃だよ。
林:でも、あの辺の話をリアルタイムでできる数少ない人ですよね、細野さん。
H:そうだよね(笑)
林:ね。都電でね。
H:もう、誰もいないよ、今。だから、あんなところに住んでたのか、って。その話をしたかったんだけどね。
林:あ、そうなんだ。あの辺は松本さん(松本隆)のうちもわりと近かったんじゃない?
H:松本の家はね…青山と白金の中間ぐらい。
林:中間?どこになるの?
H:今で言う西麻布だけど、まぁ霞町(かすみちょう)の…
林:霞町!あー…昔の名前のほうが良いね。
H:ぜんぜん良いよ。
林:ね。
H:もう、霞町って言っても誰も知らないもんね。
林:あー…高樹町(たかぎちょう)はまだある?もうない?
H:なんかね、高速の表示に「高樹町」っていうのはあるね。
林:あ、そうなんだ。
[*首都高3号線「高樹町入口」。]
H:もう、いろんな地名がどっか行っちゃって忘れちゃったけどね。
林:箪笥町(たんすまち)、憶えてる?六本木から溜池に…
H:あー!良い名前だ…(笑)
林:ね。箪笥町、好きだったんですよ、僕。
H:狸穴(まみあな)。
林:狸穴ね。「狸穴蕎麦」っていうのがありましたね(笑)
H:あったね(笑)こういう話になっちゃうよな、どうしてもね。
林:(笑)
[*2020年4月現在、「麻布狸穴町」としてかろうじて現存。]
H:そうか…まぁほとんど同世代っていうことだな、じゃあ。
林:同じような東京を体験してますよね。
H:そうだよね。んー。まぁでも、当時は高校生で…なんでいっしょにやることになったかっていうと。
林:はい。
H:僕は大学で音楽サークルみたいなのにね、入ってて。
林:ピープ(PEEP)。
H:ピープ。アマチュアのライヴでオーディションして、ムーヴァーズが来て…そのドラムが林くんだったわけ。
林:でしたね。
H:すごい、ビックリしたね。ムーヴァーズ観て。
林:衣装で?(笑)
H:いや、衣装でじゃない…(笑)ホントに中身で。
林:あ、そう?
H:サイケ。
林:サイケ(笑)
H:なにやったっけな…モビー・グレイプ(Moby Grape)やってた?
林:かもしれない。ちょっと、どの曲やったか憶えてない。
H:なんかね、ショックだったんだよね。
林:あのオーディションで僕が憶えてるのは…僕らはね、"Satisfaction"やりたくてしょうがなかった。
H:あー。
林:ところが、ファズのディストーションの音が出せなくて…
H:本に書いてあった(笑)
林:そしたら茂(鈴木茂)がね…
H:茂ね(笑)ファズ…
林:もうなぜかね、シャー!っていうノイズが出たまんま…
林:あのオーディションはCIA…茂のバンドの。
H:CIAは3人組のね、ベンチャーズスタイル。
林:と、ムーヴァーズと。他にいた?
H:他にね、ヒロ柳田。3人組の…PPM(Peter, Paul & Mary)スタイルのフォークやってた。
林:ヒロが?
H:うん。
林:で、あの「ギョスタ」だよね、あれ、たしか。オーディションやったの。
H:そうだったけ?
林:たしか「ギョスタ」だったと思う…
H:ちなみに「ギョスタ」というのは「御苑スタジオ」というね…(笑)みんなあそこを使ってた。いまだにあるんじゃないかね。
林:あります。
H:うんうん。はっぴいえんどもあそこでデモを録ったんだよね。
林:へぇ~!
H:なんか、モビー・グレイプやったりしてたんだよね。オリジナルないから(笑)
林:あ、そうなの?最初は?
H:最初ね。
林:へぇ。そのとき細野さんはベースなに使ってたの?
H:なんだっけな…たぶん、日本製の…エルク(Elk)から頂いたベースだったと思うよ。
林:へぇ。ここの…細野さんの家で練習したときって、細野さんはベースなに使ってた?憶えてる?
H:なに使ってたかな…憶えてない(笑)
林:記憶にないんですよね、僕も。
H:ないよね。ベースやってたかな?(笑)
林:やってたと思う(笑)
H:やってたね(笑)たぶん、借りてたんだと思うよ。
林:そう?
H:グレコ(Greco)とかね。日本製の。フェンダー(Fender)なんてもう、とんでもないよね。買えない。
林:フェンダーといえば…「エレキベース」と言ったら「フェンダーベース」なんだってね。
H:あ、そう?
林:だから、なんて言うの…「サランラップ」みたいなもんで(笑)
H:あ、そっか(笑)登録商標…
H:それはでも、日本だね。「エレキ」って…(笑)
林:まぁね(笑)じゃあ、「エレクトリックベース」。
H:あー、そっかそっか。なるほど。それは初めて聞いた。
林:しかもそれはプレシジョンなんだってね。
H:あ、プレシジョンのほうがメインなんだね。なるほど、そう言われるとわかるよ。プレシジョン、すばらしいよ。
林:あのベースがなかったら、いまのポップスの姿はないよね。
H:ないだろうね。
林:そう考えるとフェンダー、すごいね。
H:すごいよ。みんな使ってたからね。フェンダーの音が好きになったのはチャック・レイニー(Chuck Rainey)からかな。まぁ…ドラムスの話のほうがいいんじゃないの?(笑)
林:あ、そっか(笑)
H:なに使ってたの?
林:僕、楽器、あんまり詳しくなくて…(笑)
H:やっぱり。おんなじ(笑)
林:うん。いちばん困る質問なんだよね(笑)
H:そっか(笑)でも当時から、良いものは使ってたんでしょ?
林:いや、なかったですよ?
H:本の中には…お兄さんの影響がすごい強いじゃない。
林:うん。兄貴がムラヤマのドラムセットを持ってて。
H:あ、ムラヤマね。んー、渋い。
林:本物の革のやつね。
H:いいねぇ。
林:それを使ってて…自分で初めて買ったのはロジャース(Rogers)のスネアかな。
H:ロジャース。松本もロジャース使ってたね。
林:あ、そう?アルバイトしたお金を貯めて買いましたね。
H:ワンセット?
林:いや、スネアだけ。ワンセットなんてとんでもないですよ…
H:そうだよね(笑)あー…なんか、何十年前?これ。
林:50年前…
H:50年前…だろうね()
林:半世紀(笑)おそろしいね。
H:でも、クリアに憶えてるよね。
林:うん。憶えてる。
H:どんな気持ちで僕ん家でセッションしたの?
林:どんななんだろうね…なんか、人攫いに遭ったような…(笑)
H:(笑)
林:なんだったんでしょうね?ただ…僕の周りで音楽的に刺激的な話とか、そうだよね、って思えるような話ができる唯一の人ですよね。細野さんは。
H:あ、そっか。
林:たまたま僕は兄貴とかの影響があってちょっとマセてて。でも細野さんはその辺の音楽ぜんぶ知ってるじゃないですか。ずっと聴いてて。
H:まぁね。でもお兄さんって僕より年上でしょ?
林:そうですね。
H:じゃあ、プレスリー世代、っていうかね。ロカビリー世代だね。
林:ロカビリー世代。ホントにそう。
H:僕の姉もそうだったから…あの頃、1,2年違うとやっぱり違うんだよね。
林:だいぶ違うね。うん。
H:で、プレスリーはもちろん知ってるけど、のめり込んで聴いたことはない(笑)
林:あ、細野さんはあんまり行かなかったの?プレスリーには。
H:姉に連れられて『G.I.Blues』は観に行って。おお、いいなぁ、とか思ってね。そっから集め出したりしてた。
林:へぇ…そうそうそう。きょうは僕、細野さんに会うので、フッと思い出したのが…
H:はい。
林:昔、カセットを作ってくれて。
H:そうだっけ?
林:うん。その中にね、チャック・ベリーの"Havana Moon"とね…
H:おお。
林:それからね、"Ruby Baby"が入ってたんだよね。
H:お、ディオン(Dion)だ。
林:ディオンだ、あれ。
H:ディオン。それが聞きたかったわけね(笑)
林:そうそう。ディオンだったかドリフターズ(The Drifters)だったか、誰だったかなぁ、と思って。ディオンだね、あれ。
H:ディオンなの。オリジナルはドリフターズなんだけど、カヴァーしたディオンのほうが大ヒットして。
林:あ、そういうことなんだね。
H:ディオンっていう人は昔、その頃「ダイオン」って書かれてて…(笑)
林:そう(笑)
H:ボブ・ディランは「ボブ・ダイラン」(笑)
林:すごいね(笑)
H:そういう時代だよ(笑)ディオン・ディムーチ(Dion DiMucci)っていうイタリア系の…歌がなかなかうまい人なんだけどね。ベルモンツ(The Belmonts)っていうロカビリー、コーラスグループやってて。独立して、大ヒットをいっぱい飛ばしたの。
林:あ、そうなの?何年くらいですか?あれ。
H:あれはね、1962年ぐらいかな。その頃がいちばんおもしろいからよく憶えてるんだよね。
林:あー。
H:でも、そんなポップスの時代なのにサイケデリックが出てきて…まぁ、ムーヴァーズなんかはそういう世代だよな。
林:うーん…
H:そういう話は小原(小原礼)とかみんなとよくしてたんでしょ?
林:でも、よく考えるとサイケデリックってなんだかよくわかんないジャンルですよね。
H:それは…高校生だしね(笑)
林:なんだかね(笑)
H:なんでモビー・グレイプなんかを聴き出したわけ?
林:それはね…理屈じゃないんだよね。
H:理屈はないだろうけど(笑)
林:よくわからないんですよね…
H:誰かが持ってきたの?
林:そうだろうね。それが誰だかちょっとわからないです。
H:あー。なんでだろう?たとえば…その後なんだけど、バーンズっていう慶應のね、松本隆が…
林:はいはいはい…小山さん?
H:そう、小山(小山高志)とか松本隆とか…大学生で、シャドウズ(The Shadows)のカヴァーをやってたグループが、突然リズム&ブルースみたいなことをやりたいっていうんで「ベースやってくれ」、って言われて(笑)
林:へぇ~!
H:それでオーディションされて…
林:ピープで?(笑)
H:そうそう(笑)生意気な!と思ってね。で、ジミ・ヘンドリックスとかやったんだよね。
林:それ、ギターは誰?
H:伊藤剛光っていう、お坊ちゃんだよ。
林:政治家さんみたいな名前。
H:(笑)で、いいとこに住んでるの。青山の。
林:あー。名前からしてそうっぽいね。
林:へぇ…
H:で、そこの家にまたモビー・グレイプがあったんでビックリした。僕はひとりで聴いてたの。どうやって手に入れたかはちょっと憶えてないんだけど。
林:うんうん。
H:で、みんな…ムーヴァーズもそうだし、バーンズも。なんでモビー・グレイプを知ってるんだろう、と思ってビックリしてたわけ。
林:あの頃って…いわゆる鍵盤弾きがいなかったじゃないですか。
H:誰もいない(笑)
林:ね。だからギターのサウンドですよね。竿物っていうか。
H:そうだよね。竿物…(笑)
林:竿物って、みんな言うじゃない(笑)
H:初めて聞いたよ(笑)
林:ギターサウンドですよね。
H:そうそう。ホントにキーボードがいない。ボーカリストもあんまりいなかった。
林:そうね。たしかに…
H:ちょっと音楽でも聴くか(笑)
林:そうか(笑)そういうことよね。
H:なに聴こう…その頃の音源はないからね。1回、テープレコーダーを回したことがあるんだよね。
林:なんのとき?
H:練習…練習っていうの?なんて言うんだろう(笑)
林:練習…(笑)今で言うリハーサルですね。
H:うんうん。なんかやった憶えがあるんだけど、残ってないんだよな。
林:へぇ。でも細野さん、よく持ってますよね、そういうのね。データとして。
H:捨てないだけだよ。捨てちゃうんでしょ?(笑)
林:どっかなくなっちゃうんだよね。
H:家の中のどっかにあるんだよね。で、引っ越しを僕はけっこうするんで、なくなったものもいっぱいあるよ。
林:そう。そこが怖いね。というか、そのなくなったものを見てみたいね。すごいものがいっぱいありそうじゃない。
H:いや…なにがなくなったか憶えてるから、思い出したくないの。大事なシングル盤がごっそり盗まれた。
林:じゃあこれは…この話題はやめましょう。
H:やめよう。うん。じゃあ、音楽…なにを聴いたらいいんだろう(笑)えー…ずいぶん後になっちゃうけど…あ、これ聴きたいな。
林:…なつかしい(笑)
H:急に(笑)これは匿名でね、森高千里さんが歌ってるんですけど。
林:匿名で森高千里さんが…(笑)
H:だって、「Chappie」っていうアーティスト名だよ。"七夕の夜、君に逢いたい"。
七夕の夜、君に逢いたい - Chappie
H:これ、なんで…たまたまかけたんだけど。思い出したんだけど、この曲をきっかけにまたティンパン(Tin Pan)みたいなね…久しぶりだったんだよね?
林:そうだね。博さんだよね、たしか。
H:そう、佐藤博。このメンバー良いなぁ…
林:良い音してるね。
H:もう…いや、すっばらしい。なんつってね(笑)
林:ヘッドフォンで聴くことってあんまりないから、こうやって聴いてると良いね(笑)
H:良いでしょ?ヘッドフォンはなかなか良いんですよ。だから…この後だっけ?ティンパンやったのは。
林:そうだね。
H:ね。そうなんだよ、2000年なの。これは2000年より前なのかな。
林:前なんだね!そうか…でも、そのままの音の感じがするね。
H:そうだよね。この…それまでなにやってたの?(笑)
林:子育て(笑)
H:あー、そうか(笑)
林:もうね、本当に子育て…
H:1回、なんか引きこもってたよね。ドラムから離れて。
林:引きこもったっていうか、だから…子育て(笑)
H:まぁ、仕事もね。なんかいろんな、違う仕事やってたりね。
林:そうですね。
H:そっちがなんか、有名になっちゃったりしてね。
林:うーん、あんまりスタンスは変わってないんだけどね。今も。
H:そうか。今はまた、ドラマーになってるもんね。そんな感じだよ、今。
林:そう?ドラマー、なんだ…
H:うん。ダメ?(笑)
林:いや、別に…(笑)「ドラマー」っていうのがどうも自分で…くすぐったい(笑)
H:なんて言ったらいいかな…
林:細野さんも「ベーシスト」って、ちょっとくすぐったいでしょ?
H:くすぐったいよ。
林:でしょ?
H:というか、ピンとこないね。
林:ね?わかる?その感じ。
H:あんまし、上手くないし(笑)
林:幸宏(高橋幸宏)と話してても同じこと言う(笑)
H:やっぱりみんなそうだよな。だから…あ、林くんはね、ドラム以外もできるじゃん。
林:いや、できないですよ…
H:知ってるもん、だって。見てるもん。
林:それは触ってるだけだから…
H:いやいやいや、ゾンビーズ(The Zombies)の"Tell He Know"(笑)
林:なんか、ポンチョの復讐みたいになってない?(笑)
H:いや…(笑)くっきり印象に残ってるもん。♪ジャカジャジャッジジャッジャッジャッ…
林:あれ好きなんだもんね、あの曲。
H:だから、いい趣味してるな、と思ったの。そのとき。
林:あ、ホント?
H:うん。要するに、プレイヤーってもっと…なんかこう、プログレみたいなね。方向に行っちゃう人、多いじゃん。
林:あー、そうかな。僕らの周りにはいないですね。
H:いないよ。
林:ねぇ。
H:だから…聴く音楽がぜんぜんドラムに関係ないっていうのがよかった。
林:あー、そうかもしれない。ドラムはあんまり聴いてないほうが多い(笑)
H:そこがなんか、自分にも通ずる…共通点があるね。
林:はい。なんか、それはわかります。
H:…もうね、話が尽きないんで、次の週にまた続きをやりますんで。きょうはこれくらいでね。
林:はい。
H:また来週。突然ですけど(笑)
2020.03.22 Inter FM「Daisy Holiday!」より
H:細野晴臣です。ゲストをお招きしてます。
岡田:えーと、わたくし、岡田拓郎と申します。お邪魔させて頂いております。よろしくお願いします。
H:お願いします。
アルコポン - 岡田拓郎
(from 『ノスタルジア』)
岡田:あの、これは本当にめちゃくちゃ興味がある、みたいなことを一個々々言っていくような感じに…そういうタイムに突入しそうで…(笑)
H:どうぞ(笑)
岡田:細野さんのアンビエント作品の特徴として、1980年代の作品は特に、電子音とその中に伝統的な民族音楽の楽器が入っている印象が…その2つを並列的に使うようなイメージがあって。
H:うん。
岡田:それこそ去年の「細野観光」…僕も行ったんですけど、ワンフロアが民族音楽コレクションで埋まるところとかあったじゃないですか(笑)
H:あった(笑)
岡田:なので、そこの…純粋な疑問として、いわゆる生楽器、ピアノとかベースとかドラムスというよりは、民族的な楽器とテクノロジーの最先端の電子音を混ぜる、みたいなことをやっていたと思うんですけど、そこってけっこう、意識をするところではあったんですかね?
H:たぶん…その前の僕はテクノで、ずっと引きこもってひとりでデスクトップで作ってたわけだね。
岡田:はい。
H:でも、それじゃあやっぱり物足りないところがあるんで、どんどん生の楽器を入れるようになっていって…そういう意味では、その頃は過渡期だったと思うんだけど、結局中心にあるのは電子的なものだったりビートだったりね。そういうものが中心にあったんだけど。
岡田:うんうん。
H:今はね、違うんだよね(笑)
岡田:おお…
H:当時はMIDIとか使ってたわけ。シンクロするためにね(笑)今、最近の人は使ってないと思うんだけど、僕もだんだん離れて行って。あるいは、シンセサイザーが好きじゃなくなってるというかな。
岡田:あ、現在のことですか?
H:いまね、うん。当時は頼ってたんだよね、やっぱり。いろんな音源が出始めてておもしろかったからね。今はもう、飽きちゃってるというか…(笑)
岡田:なるほど(笑)
H:ぜんぶ生で構築したい、っていう気持ちが強いよね。
岡田:あ、そうなんですね。僕は去年の細野さんのインタビューで印象に残ったのが、「今のアメリカのメインストリームのポップスの音響技術・録音技術はエレクトロでも生でもすごいおもしろくて。それこそいま、テイラー・スウィフト(Taylor Swift)にもめちゃくちゃ感銘を受けた」みたいな話を聞いて…(笑)
H:そうそう、「音」でね(笑)そうなんだよ。
岡田:そこのムードともいまはちょっと違う、という感じなんですか?
H:あのね…すごい、なんか、グルグル変化してるから、いま。
岡田:はい。
H:特にその…コロナウイルスの所為で、グローバリズムが崩壊しそうなんだよ。
岡田:そうですね。うん。ホントに…ここまでようやく持ち堪えてきたものがけっこうみんな…厳しそうな感じはしますもんね。
H:そうなんだよ。で、同時期に…数年前、グローバルな音楽を聴いてて音が良いなと思ってて。自分がそっちに行くかどうかすごく迷ってたんだけど…まぁ、機材は新しくしようと思って今やってるんですけど(笑)
岡田:らしいですね(笑)
H:それで、ある種のヴァーチャルな空間の心地よさっていうのは…映画もそうなんですけど、観続けると飽きちゃう、聴き続けると飽きちゃう。この先はどうなるんだろう、っていう。
岡田:うんうん。
H:先が見えないんですよ。
岡田:そうですよね。
H:究極の形ができちゃってて。完成しちゃったんだろう、と。
岡田:あー、ポップスに於いて、ですか?
H:ええ。だから、音楽の良し悪しなんか通らないんですよ、今。
岡田:んー、まさにそうですね。
H:音の良さと、それを並べていくデザインというかね。あとは歌…声の力っていうかな。それだけで出来てるんで。ここから先、彼らはどこへ行くんだろう、という。そういうシステムがね。
岡田:はい。
H:ところが今…なんかすごい、風が吹いてるだけでね(笑)
岡田:めちゃくちゃ吹いてますね(笑)
H:それがなんかね、今、真っ只中だから。先がどうなるかわかんないけど、何かが変わっていく最中なんだろう、と思うわけね。
岡田:なるほど…なんかまったく僕も…まぁ、これまでの28年ぐらいの人生ですけど(笑)その中で初めて、本当に「この先」の音楽が今、見えないな、っていう感覚が強くあって。
H:うん。
岡田:たぶん2000年の手前ぐらいが…まぁ、世紀が変わるところで、この後音楽はどうなるんだろう、みたいなところがあったと思うんですけど。
H:あったねぇ。うん。
岡田:そこは僕が学生時代にずっと本で読んでいたところで。で、あれを回避というか…あのタイミングで出たエレクトロニカが本当におもしろくて。
H:エレクトロニカ、おもしろかった!(笑)
岡田:タッチ(Touch)とかずっと聴いてて…
H:いやー、ホントにおもしろかったんだよ。
Wiper - Sketch Show
(from 『Loophole』)
H:2000年から2010年はまぁ…そうね、エレクトロニカがあって。2010年から今に至るのは集大成というかね。デスクトップの中で0.1mmぐらいの精度で編集していくっていうね(笑)
岡田:はい(笑)
H:もう、音を[一時]停止させて作っていくっていうような時代ですから。それを僕はエレクトロニカの頃にやってたわけで。どんどん密度が深くなってくる。
岡田:うんうん。
H:で、なんであれが終わっちゃったのかちょっとわかんないけど。
岡田:気付いたら…(笑)でも、あのエレクトロニカの手法をポップスの人たちが取り入れてるんですよね。2010年代というか、最近。
H:そうなの!それが出てきて、ああ、ダメだ、と思った(笑)
岡田:ダメだと…(笑)
H:なんか、すごいスターが出てきちゃって。
岡田:なるほど。ある意味、エレクトロニカって部屋で世界に太刀打ちできる可能性があるものを作れるんだ、みたいなところで、みんな…
H:興奮してたよ。んー。
岡田:そうですよね。
H:で、もう…なんて言うんだろう、マスメディアを通さないで、対パーソナルでやり取りしてた時代ですから。
岡田:そうですね、インターネットが…
H:そうそうそう。それ以前にインターネットができたときもすごかったけど、今までと違う音楽の聴かれ方が出てきたわけだね。
岡田:うん。
H:で、なんだろう、そういう旬の音楽…自分にとってね。エレクトロニカの中でもこれはすごいな、と思うようなものがどんどん、北から南下して行ったりして。桜前線みたいなね(笑)
岡田:わかるなぁ…(笑)
H:南米まで行ったりしてね。
岡田:そうですね。たしかにたしかに…
H:でもね、それが終わる頃に気が付いたことがあって。たとえばアイスランド。ムーム(múm)とかね。いっぱいいろんなおもしろい人が出てきた。ビョーク(Björk)もそうだけど。
岡田:そうですね。
H:アイスランドの[金融]バブルが崩壊したときがあるんだよね。バブルだったのか、と思って(笑)
岡田:そうですよね(笑)
H:ああ、そういうところから音楽が出てくるんだな、と。後で気が付いたんだよね。
岡田:なるほど…
H:やっぱり経済とすごい密接に関係しているんだな、と思って。
岡田:ホントに、それはそうですよね。
H:だから経済が…良いものも悪いものも多いけど、活発になるっていうことなんだろうね。
岡田:うんうん。
H:でも良いものも出てくるわけで…それを知らずにやってたんだけどね、僕は。
岡田:はいはい。
H:日本はバブルが崩壊したまんまだったけど…(笑)ひっそりとおもしろいことができるところもある、と。まぁそんなような時代を2010年くらいから今に至るまで…感じてやってましたね
岡田:なるほど。それこそ時代の変わり目変わり目の…困難な時代に対するところに、ある種カウンター的にいつも…アンビエントだとかニューエイジだとか。スピリチュアルジャズみたいなのもそうだったと思うんですけど。
H:はい。
岡田:そういうものが都度々々あったりする中で、僕は2020年代に、いったんまた論理的なものというよりは…それこそ非西洋的なもので、もう一段階なにか出来ることをみんな模索していそう、みたいなことを……
H:そう!その通りだよ。
岡田:(笑)
H:その通り。片やグローバルがあったけど、非常に作家的な人たちが増えてる。映画もそうなんだけど。
岡田:そうですね。アジア系の人とかも映画では多いですよね。
H:そうなの。非常に個人的に作っていくタイプの人が増えてる。それもすごく良いものがいっぱいあって。音楽もそうだと思うんですけどね。その人たちの出番がこれからあるんだろうな、と(笑)
岡田:そういう時代が来てほしいな、とは思うんですけどね…(笑)
H:いや、絶対来ると思うね。で、節目は2011年もそうだったけどね。
岡田:はい。
H:あの頃変わるかなと思ったら…あれは局地的だったんだね。東北。
岡田:3.11のときですよね。
H:そう。東京が真っ暗になって。なにかが変わっていくんだろう、と思ったら、また元に戻っちゃった(笑)
岡田:戻りましたね…(笑)どうして忘れてしまうんですかね、人は…っていう、壮大なテーマに…(笑)
H:日本人はけっこう忘れっぽいよね。
岡田:そういうところはある…
H:でも、今回は日本だけじゃない。
岡田:そうですね。
H:世界中で…南極大陸以外は全部赤くなっちゃって…(笑)
岡田:そうですよね…
H:そういう風が吹いてるっていう。これはなんか、やっぱり、否応なく変わらなきゃやっていけないでしょうね。経済的にもね。
岡田:変わらずには…そうですね。
岡田:じゃあやっぱり、その中で…いま、そういったアプローチをしようとしている音源のデモとか、ひとりで作っている段階なんですか?
H:いや、まだですね。僕はまだなんですけど、たぶんこういうときに引きこもってやってる人は多いと思うね。
岡田:うん、そうですね(笑)
H:それがなにかを育んでいくんじゃないかな、と思うけど(笑)
岡田:なるほど(笑)
H:僕の場合は…3.11の頃はそんな感じだったんですよね。
岡田:あー、『HoSoNoVa』の…
H:ええ、そうですね。『HoSoNoVa』は震災の前に作って、ミックスは終わってたんですけど。これはもう出ないな、と思ってたら「出します」って言うんで…(笑)
岡田:(笑)
H:4月かな、4月に出たんですけど。自分自身が音楽を聴かなくなっちゃって。その当時ね。放射線が吹き荒れてるときですから。
岡田:はい。
H:で、車で聴くのは…カルロス・ガルデル(Carlos Gardel)っていう人。アルゼンチンの。タンゴ歌手だったり…非常に物悲しい曲ばっかり聴いてて…(笑)
岡田:へぇ…
H:それもすごく、自分の中では変わったんですよね。変えてったっていう。
岡田:はい。
H:で、いまも変わっていく最中なんで、まだ表に出せないんですよ。自分の中で。内側で何かが変わってるんで。なにかを作るとしたらこれから…なにが出来るかは自分でもわからないですけど。
岡田:なるほど…3.11の後の4月にリリースされて、5月か6月にやるかやらないかの時期にライヴが[日比谷]公会堂であったときに、僕、観に行ってたんですけど。
H:あ、そうですか。
岡田:あそこで観た…それこそ僕も、こうやって音楽を作ることだとか、レコードマニアとして音楽を聴く、みたいなところにちょっと自信が無くなる…っていう話でもないんですけど、居場所が難しい、と思ってたときに。
H:そうだよね。当時はみんなそうだったね。んー。
岡田:あの日にいちばん印象に残ってるのが、鈴木茂さんのギターがホントにバコーン!と胸にくるものがあって…(笑)
H:あー、はいはい(笑)
岡田:僕はやっぱりギターを弾きたい、とそのときに思ったことがあったりもしましたね。だから、わりといろんな…グッとくる瞬間っていうのはけっこう言葉にできないものが多いですよね。なんか(笑)
H:そうでしょうね(笑)言葉にできないね、たしかに。んー。
岡田:そういうことを細々とでも、形にできるような場を2020年とかにどんどん…小さいところでも、またそういう動きが出てくると信じてはいるんで…そういう小さい声をまた聴くような時代になればいいな、と本当に思いますね。
H:なるんじゃないかな?
岡田:なってほしいな。じゃないと僕が食えないっていう…(笑)
H:(笑)
岡田:僕の地味な音楽じゃ…(笑)
H:そっかそっか(笑)いや、地味な音楽がこれから大事だよ。
岡田:大事ですよね。いやー…ありがとうございます。
H:地味っていうのは誇らしいことだ、っていうのがだんだんわかってくるんじゃないかな。これからね。
岡田:だといいですね(笑)細野さんがそう言ってると、そうなる気しかしなくなってきたな…(笑)
H:(笑)
ノスタルジア - 岡田拓郎
(from 『ノスタルジア』)
H:こっちから言うと、たとえば、さっき言ってたけど…ニューエイジの最初の姿っていうのをこないだ僕は友達に話してたのね。訊かれたんで。「ニューエイジってなんだ?」って(笑)
岡田:うんうん。
H:自分にとってニューエイジは嫌いなんだ、と。元はね、やっぱりヒッピームーヴメントがあって、意識革命があって、その後に芽生えてきたものなんですよね。
岡田:そうですよね。
H:でも決定的に違うのは、そこにニューサイエンスが入ってきた。いちばん有名なのはマンデルブロー(Benoît Mandelbrot)という学者の言った「フラクタル(fractale)」っていう考え方。で、フランスでもポストモダンが出てきて、その元になるデカルト(René Descartes)とかカント(Immanuel Kant)を批判する形でジャック・デリダ(Jacques Derrida)みたいな、ああいうサイエンスっていうか、哲学が出てきて。その興奮を日本の若い人が受け継いだんだね。それが中沢新一だったり浅田彰だった。
岡田:はいはい。
H:そこら辺はすごく、興奮の坩堝だったね。知的な興奮というか。それにすごく影響されて、ニューエイジっていうのはそういうものだ、と僕は思ってたわけ。ニューエイジ・サイエンス。
岡田:うんうん。それはざっくり…僕も詳しいところまではぜんぜん勉強してなかったんですけど。たとえばキリスト教的な今までのあり方だとか、そういうものと違う観点を持ってこようとした人たち、ということなんですかね?彼らは。
H:まぁそういう人も多かったと思うし…そうね。当時僕はノンスタンダード・レーベルっていうのをやってたんですけど。
岡田:はい。
H:それは数学で「ノンスタンダード・アナリシス(Nonstandard Analysis)」っていう…つまり標準じゃない、今まで傍流にいたような、とんでもない理論というかね(笑)そういうものが急に中心に来ちゃったっていう。
岡田:はい。
H:だから、それが非キリスト教的であることはもう、しょうがないことなのね。ダーウィン的でもないし…なんて言ったらいいかな。んー…僕もよくわかんないんですよね(笑)
岡田:(笑)
H:とにかく、ニューエイジの「本質」っていうのはそこら辺なんだよね。新しいものだったの、ホントに。でもいつの間にか、「アンビエント」とかのアレとおんなじで…エレクトロニカもキレイに整理されて使いやすくなっちゃったのとおんなじで。ニューエイジにも嫌いな部分がいっぱいあるわけ。
岡田:もう、それこそ今…アンビエントのリバイバルの中で、「俗流アンビエント」みたいな…(笑)
H:「俗流」ね(笑)
岡田:スピリチュアルな、自己啓発的な、アンビエントの体裁を取ったCDってある時期すごく出てたと思うんですけど。
H:出てたね。紛らわしいね(笑)
岡田:紛らわしいですよね(笑)アレは産業的ニューエイジの商品じゃないですか。
H:そうそうそう。商品だよね。
岡田:そういうものと、本来の…「そういうものに対してのニューエイジ的な思想」がそもそもあったはずなのに、みたいなところがあるんですよね。
H:そうなんですよね。まぁ最初の、発生時期っていうのはだいたいそうですよね。おもしろいものだったのがだんだんコンビニ化してく、っていうかね。
岡田:そうですね。インスタントになっていくし。
H:で、平均的なものが「聞きやすい」し、「わかりやすい」っていう(笑)
岡田:そうですね…
H:ただ、ニューエイジっていうものは肥大化してて、いまだに…ますます肥大化してる。新興宗教っぽくなってきてるしね。
岡田:うんうん。
H:で、最近のアメリカ映画を観ると…若い世代の[監督の]映画ね。『アンダー・ザ・シルバーレイク(Under the Silver Lake)』っていう映画がアメリカでヒットしたんで、僕も観たんだけど。
岡田:おお、観てない…
H:シルバーレイクっていうのはロサンゼルスのちょっとそばにあって。そこにも行ったんですけど。なんか、意識の高そうな若者がたむろするようなね、街なんですよ。
岡田:はいはい。
H:で、映画自体は、最後はカルト集団に取り込まれていくっていうね(笑)そのカルトが、なんかね…つまんないカルトなんだよ(笑)
岡田:なるほど(笑)
H:で、いま上映されつつある…なんて言うんだっけ、『ミッドサマー(Midsommar)』っていう映画があるんですけど。これも似たようなもんなんだよね。
岡田:へぇ。
H:やっぱりカルト系のホラーなんだよね。
岡田:あー、結び付いている…どれも題材としては最近の、リアルタイムを描いたものっていうことですね。
H:そう。だから、たぶん若い世代はそういうことにすごく興味があるんだろうな、と思ってね。
岡田:ちょうど最近聞いた話で、リアルタイムの、今のアメリカのジャズメンたちがみんな…ある種学理っぽいところから離れて。音楽的にもアメリカのジャズの歴史じゃなくって、東洋的なところに…それこそ音楽[ジャンルとして]のニューエイジみたいなところにジャズの人たちが向かって行ってて。
H:なるほど。
岡田:それが…やっぱりアメリカこそいろんな問題を抱えている中で、若者たち…ジャズの人たちが、フィジカルで戦ってきた人たちが、フィジカルじゃなくって…今までの道理の中とは違うところを見出していかないと自分たちが保てない、みたいな雰囲気になってるんだ、というのがけっこう興味深い話で。
H:そうか。あー、まぁ、ジャズはそうだろうね。
岡田:そうなんでしょうね…っていうのも思いました。ニューエイジのリバイバルとは別次元で、リアルタイムのジャズメンにそういうことが起きてるっていう…
H:なるほどね。そっかそっか…みんな、40年代のことを忘れてるんだな。
岡田:お、興味深そうなワードですね(笑)
H:いやいや(笑)あの頃の発見っていうのはすごい…ものすごい、宝の山みたいな世界なんで。
岡田:あー、40年代が…なるほど。あんまり僕は意識したこと無かったですね。そこら辺になにがあったか、みたいな。
H:あのね、音源が残って無かったのね。ヘンなアーティストがいっぱいいて…アーティストっていうか、アレンジャーであり作曲家がね。白人たちなんだけど。
岡田:はい。
H:とてもヘンテコリンな音楽をいっぱい作ってる。まぁ、いちばん有名なのはレイモンド・スコット(Raymond Scott)なんだけど。
岡田:あー、はいはいはい。
H:ああいう音楽よりもうちょっと、現代音楽に近い音楽がいっぱいあるわけ。それが「ジャズ」の体裁を保ってるわけ。
岡田:なるほど。
H:で、決して頭でっかちじゃない。とてもおもしろい(笑)
岡田:それこそ、違うかもしれないですけど、デューク・エリントン(Duke Ellington)とかもそのくくりに入るんですかね?
H:あ、エリントンにもその片鱗があって、大好きなんだよ。
岡田:あー、めっちゃくちゃすごいですよね、あの人。異次元な…(笑)
H:そうそうそう(笑)だから、プレイに偏らないっていうかね。あの人、そんなに弾かないからね(笑)
岡田:そうですね(笑)プレイヤーとしてのイメージはまったく無いですけど。それこそ"Caravan"とか、すごい曲だなぁ、って思いますね。細野さんもカヴァーしてますよね、"Caravan"は。
H:してます。エリントンのビッグバンドももちろん良いけど、彼はピアノで何枚かソロを出してるんですよね。
岡田:あー、ありますね。
H:そのピアノの楽曲が素晴らしいんですよね。弾き過ぎない感じが…(笑)
岡田:たしかに…
H:だから、そこら辺をもう1回聴いてほしいな、とは思いますけどね。
岡田:たしかに、今エリントンとかレイモンド・スコットを改めて聴く感じは…たぶん、僕の世代の人で誰も共有できない話だから…
H:そうか。
岡田:というか、たぶん誰も気付いてないから…やっぱり50年代のロックンロール、ポップスの体裁が生まれるギリ前ぐらいが、なにかが本当に起ころうとしていたところで、みんな好き勝手…おもしろい発見があったんだろうな、っていうのはすごい感じますね。そこら辺の時代の音楽って言うと。
H:なるほどね。いやー、おもしろい時代ですよ。戦争っていう背景がひとつ、あるんだろうけどね。だから今も戦争みたいなもんだから…(笑)
岡田:そうですね。ホントに…
H:なにかが生まれる…なんて言うんだろう、そういう時間を今過ごしてるのかもしれないね。
Manhattan Minuet - The Raymond Scott Quintette
岡田:そうだ、「レイモンド・スコット・ボックス」(『Raymond Scott Songbook』)が出たときに、僕はノアルイズ・レコード(Noahlewis Record)のDJイベントで初めてレイモンド・スコットを、岡田さん(岡田崇)がかけているのを聴いて…尋常じゃない衝撃を受けたことがありましたね。
H:あ、ホント?そっか。うん。
岡田:あれ、何にも似てないですもんね(笑)
H:そうなの(笑)僕も初めて聴いたのはたかだか20年ぐらい前で、まったく知らなかったから。
岡田:あ、そうなんですね。
H:で、『ファニー・ボーン(Funny Bones)』っていうイギリス映画を観てたらおもしろい音楽が使われてて。これはなんだろう、と思って。デューク・エリントンにしてはちょっとなんか行き過ぎてる(笑)
岡田:行き過ぎてますね(笑)
H:それで調べて、レイモンド・スコットに辿りついて…もう、おもしろすぎる人だよ。
岡田:(笑)
H:でも、ぜんぜん知られてないんだよね。
岡田:そうか…でもあれ、大学生のときに出たんですけど、一部の大学生の間では話題でしたね。「レイモンド・スコット・ボックス」。
H:あ、ホント?よかったよかった。
岡田:彼らがいまなにを聴いてるのかわからないですけど…(笑)
2020.03.15 Inter FM「Daisy Holiday!」より
H:細野晴臣です。さて…今週と来週の2週にわたってゲストをお招きしてます。どうぞ、自己紹介を。
岡田:わたくし、岡田拓郎と申します。ミュージシャンでもあるんですが、今回は…今度『ニューエイジ・ミュージック・ディスクガイド』というものが出版されるんですけども、それに伴った「ニューエイジ・アンビエントとしての細野さん」のお話を…たぶん、今まであまり…
H:ぜんぜん訊かれたことない。うん。
岡田:はい、その流れでわたくしが…うまくお話を引き出せたらな、というところで。おじゃまさせて頂いております。
H:わかりました。ぜひ。よろしくお願いします。
岡田:よろしくお願いします。じゃあ、もう、ゆるりとしゃべっていけば大丈夫ですかね?
H:はい、どうぞ。大丈夫。気分転換になるね(笑)
岡田:もう、少しでも気分転換になれば、という感じで…(笑)[細野さんが]アンビエントについて話しているインタビューとか、そういう記事が残ってるのもあんまり見たことが無くて。
H:でしょうね。うん。いま、ちょっとしたブームなんでしょうね。
岡田:はい。それこそ、細野さんの曲もコンパイルされた『Kankyō Ongaku』っていうコンピレーションが…
H:あったね。
岡田:しかもグラミー賞のノミネートっていうのは…
H:そうそうそう(笑)ビックリした。
岡田:僕も、いまニューエイジがこういう風に聴かれているんだ、って思うぐらい、すごくビックリしたところなんですけども。
H:うん。
岡田:改めて、「環境音楽」だとかアンビエント・ミュージックというものが今こうやって評価されていることについて、率直な感想としてどういう風に思われていますか?
H:まぁ最初にビックリしたのは、『花に水』の音楽を…
岡田:ああ、ヴァンパイア・ウィークエンド(Vampire Weekend)が。
H:うん。彼らから…ずいぶん前なんだけど打診があって。
岡田:あ、そうなんですね。
H:軽く「いいよ」って言って(笑)それで出来てきたのを聴いたら、すごく良かったんだよね。
岡田:うんうん。
H:ああ、こうやって使えるんだな、と思って。
2021 - Vampire Weekend
(from 『Father of the Bride』)
H:で、彼らがなんで僕のそれを知ってるのか、っていうのがまず疑問だったのね。最初ね。
岡田:うんうん。そこら辺の話はしたんですか?彼らと。
H:いやいや、ちゃんと話したことはないからね(笑)
岡田:そうなんですか(笑)なんとなくの、いろんな話を聞いた限りだと、ヴァンパイア・ウィークエンドのエズラさん(Ezra Koenig)もYouTubeで『花に水』を見つけた、というところで。
H:そうだね。それは聞いた。
岡田:ホントに…まぁ、ビックリですよね。
H:ビックリビックリ。
岡田:しかも、無印(無印良品)の店内BGMとして作ったものですよね。
H:そうそう。だからまったく…長さも気にしないというか、ダラダラと作った(笑)
岡田:15分ぐらいとかっていう感じですよね(笑)
H:そうそう(笑)それを聴いてる人がいるんだと思うとビックリだね。んー。
岡田:そうなんですよ。ぜんぜんどうでもいい話かもしれないんですけど、僕も学生時代は無印でバイトしてたので…(笑)
H:あ、ホントに?じゃあ聴いてたのかな?(笑)
岡田:そうかもしれないですね(笑)あの音楽自体は、もともとBGMとして使う用に作った音楽なんですか?
H:もうホントに、[依頼された]仕事をこなした、っていうだけで…(笑)
岡田:そうなんですね(笑)
H:あの頃は周りの人はそういう仕事ばっかりやってたの。コピーライターが多くて。秋山くん(秋山道男)っていう人から頼まれて。
岡田:じゃあ『ENDLESS TALKING』のアルバムで、もう一度あのモチーフみたいのが出て来るんですけど、あれは無印のBGMとして作ったもので手応えみたいなものを感じて、もうちょっと手を加えてやっていこう、みたいな…そういうところはあるんですか?
H:うんうん。あの頃は…そうだったね。『COINCIDENTAL MUSIC』っていうのを作ったときに…そういったテレビのコマーシャルで作ったやつとか。無印系のもちょっと影響あるけど、そういうタイプの音楽を集めてみたのね。
岡田:うんうん。
H:それで、『ENDLESS TALKING』っていうのはまた別の切り口があって。これはミラノのメンフィス・ミラノ(Memphis Milano)っていうデザイナーチームがいて。イタリア人で。
岡田:はい。
H:で、「インスタレーションを作るんで、中に音楽を付けてくれ」と。ジェノヴァの山があって…小高い山の中にインスタレーションを並べるんで、そこに音楽を付けてくれ、と。あ、だったらエンドレステープでずっと流していけばいいのか、と思って。それで『ENDLESS TALKING』っていう名前(笑)
岡田:あ、そうなんですね、なるほど(笑)じゃあホントに、『ENDLESS TALKING』の楽曲に関してはその空間を…音楽を音楽として聴かせるというよりは、空間として音楽がなにか空気的に作用している、というようなものを狙って作った、みたいなところなんですかね。
H:そうそう。特に、自然の中の…山みたいなところですから。登って行くうちにインスタレーションというか…変わった、動物みたいなオブジェがいっぱい置いてあって。それを聞きながら登って行く、というようなことだったんで。
岡田:んー。
H:実際、僕がジェノヴァに行ったときにそこに登ったんですよ。そしたら誰も人がいなくて…(笑)
岡田:そうなんですか(笑)
H:でも、猫が聞いてるんだよね(笑)
岡田:いい話ですね、それ(笑)
H:これはいいな…と思ってね。猫とか鳥が聞いてくれてればいいや、と思って。
岡田:なるほど。じゃあ、なんだろう…音楽なんて「人が聴くこと」が前提で、当たり前とされているところがあって…
H:そうだったよね。そこからちょっと脱した感じがあるね。人が聴かなくても自然が聞いていればいい、っていうね(笑)
岡田:なるほど(笑)
The Animal's Opinion - 細野晴臣
(from 『THE ENDLESS TALKING』)
岡田:これ、僕はすごい興味があったんですけど、細野さんの音楽の中で…もともとはロックやポップスから音楽が始まっていく中でポンッと…気付けばアンビエントだとかエクスペリメンタルな音楽の人たちにも影響を与える存在に…
H:与えたのかな?(笑)
岡田:いや、めちゃくちゃ与えてますよ!(笑)
H:あ、そうですか(笑)
岡田:その中で初めてビートとか…ポップスの要素?メロディーがあるとかリズムがあるみたいなところがまったく無い音楽が初めて聴けたのが、横尾さん(横尾忠則)との『コチンの月(COCHIN MOON)』かな?という印象があって。
H:あー、そっかそっか。
岡田:この音楽自体って、そもそもどうして出来たんですか?っていうのにすごい興味があったんですよね。
H:これはね…横尾さんの罠に嵌った、というかね。とにかく、横尾さんと…他のいろんなアーティストがいたんですけど、インド旅行に1ヶ月ぐらい行って。
岡田:はい。
H:で、なんか横尾さんがボソボソ「録音しなきゃ…」って言ってるんですよね。
岡田:あ、もともと録音するために行くつもりじゃなかったんですか?
H:まぁ、僕はそのつもりだったんだけど、横尾さんはなんか仕事を抱えてインドに行ったの。その仕事っていうのは、アルバムを1枚作るという…
岡田:あ、横尾さんが?なるほど(笑)
H:で、それを知らない間に僕がやってた、っていう…(笑)
岡田:そういう経緯なんですね。
H:だから、横尾さんがプロデューサーだと思って、なんでもいいからやってみようかな、っていうね(笑)
岡田:なるほど(笑)あ、じゃあ初めから…アンビエント的なニュアンスもあるとは思うんですけど、そういう「アンビエント的な構造を持った音楽を作ろう」というよりは、ホントに自然にああいう形になっていったんですか?
H:そうですね。だから、出来てからずいぶん時間が経ったけど、ほとんど僕は、あれは自分の中では…なんて言うんだろう、「いい出来」とは思ってなかったわけね(笑)
岡田:あ、そうなんですね(笑)
H:あの、メチャクチャだな、と思って(笑)
岡田:まぁ、捉え方によりけりかもしれないですけれども…(笑)
H:ところが、アメリカの人が「あれがいい」とかね、言い出したりして。横尾さんもヘアカット行ったときにそこで流れてたりして。
岡田:それは日本でですか?
H:うん、日本でね。で、横尾さんも「あ、いいんだ」と思って…
岡田:すごい床屋ですね(笑)
H:だから2人とも後付けで、他人から「いいんだよ」と言われて…(笑)
MALABAR HOTEL Ground floor~Triangle circuit on the sea-forest - 細野晴臣
(from 『COCHIN MOON』)
MALABAR HOTEL Upper floor~Moving triangle - 細野晴臣
(from 『COCHIN MOON』)
岡田:それこそ僕もジム・オルークさん(Jim O'Rourke)が紹介してて…
H:あ、そうだったね。
岡田:その前に聴いたときは…ホントに僕はポップス的なものしか聴いてない中であれを…「『はらいそ』の辺りで別のアルバムがあるらしい」という流れで聴いたら、これはホントに言葉できない、みたいな印象があって…(笑)
H:(笑)いやー、自分自身がそうだったんで。おんなじですよ。それ以前もそれ以降も、ずいぶんポップスに傾倒してたから。あのアルバムだけ異質だったんだよね。
岡田:なるほど。じゃあ、当時はああいう実験音楽的なものとか、そういう…「非ポップス」になるような音楽っていうのは聴いてはなかったんですか?
H:あまりね、うん。意識してなかったね。何をやるにもポップスのフィルターを通して聴いてたから。YMOもそうでしたね。ジョン・ケージ(John Cage)とか聴くときは…プリペアド・ピアノみたいなスタイルはすごい刺激があったりね。それはポップスに聞こえるからね(笑)
岡田:そうですね。それでよくわかるな…ジョン・ケージとかがポップに聞こえる瞬間ってすごいありますよね。スティーヴ・ライヒ(Steve Reich)とかもポップだなぁ、って思いますしね。
H:そうなんですよ。ぜんぶそうやって聴いてたんで、決してエクスペリメンタルな実験作家じゃないんですよね(笑)
岡田:(笑)なるほど。じゃあ…なんて言うんですかね、ビートが無かったりだとか、ポップス的なメロディーの楽曲じゃなくなるときって、けっこう音楽を言語的に組み立てるのが難しくなってくるじゃないですか。
H:うん。
岡田:その中で、アンビエントを作ったりだとか、エレクトロ・ミュージックの抽象的なものを…それこそ『NAGA』とか、『MEDICINE COMPILATION』とか。あの時期にすごい傾倒されていたと思うんですけど。ああいうのって「こういう音楽を作ろう」と思ってそこに向かっていくのか…
H:うん。やっぱり1980年代…『COCHIN MOON』は1978年か。ずいぶんロックの時代ですよ、まだ(笑)
岡田:そうですね(笑)
H:その後は時間がずいぶん変化してきた、っていうかね。環境が。で、最初に僕は横尾さんからオブスキュア・レーベル(Obscure Records)を紹介されて。イギリスの。
H:そこのシリーズをぜんぶ聴いて。ギャビン・ブライヤーズ(Gavin Bryars)が好きだったりとか。ハロルド・バッド(Harold Budd)がよかったりとか。
岡田:すばらしいですねぇ…
H:で、もちろんブライアン・イーノの『Ambient』シリーズも聴いて。これは自分の部屋に帰って聴くものだ、と思って(笑)スタジオではテクノをやってて。家に帰ってきてからそれをずーっと流してた、っていう。
岡田:それこそYMOをやってた頃なんですか?
H:そうなんです。で、癒されてたっていうかな。それが段々、そうやって聴いてたから身に染みちゃったんだと思うんだよね。
岡田:なるほど。
H:その頃はね、僕はテレビを観なくなっちゃって。テレビの上に照明のような、マトリックスみたいな…なんだろう、あれは。
岡田:サーモグラフィーみたいな…(笑)
H:そうそうそう(笑)それを被せて、光のドットだけで観てたの(笑)音を消して。
岡田:(笑)
H:それでイーノをかけて。だから心境の変化はそこら辺から来てて。でも、実際に自分でやりだすのはその後で…まぁ、なんて言ったらいいかな、アンビエントとハウスっていうのがあって。両方とも違うものだったわけね。
岡田:うんうん。
H:自分の中でも違うし…
岡田:聴いた感じもやっぱり、違うものというイメージがありますね。
H:そうですね。音楽の世界でも違うものとして存在していた。でも、ロンドンのクラブでね。要するにハウスで…たぶんオーブ(The Orb)なのかな?そういう人たちが両方同時に、アルバムをかけたわけだね。
岡田:なるほど…
H:片一方はビートが無いから、ビートのあるものと実は相性が良かった、という。
岡田:あ、それはDJが同時にかけるというところで…?
H:そう。で、それは後で知ったんですけど、おんなじことを僕はやってたんだよね。実は。
岡田:そうですよね。なんて言うんだろう…アトモスフィアな、空間的なものがありながら、そこに杭を打つように、グル―ヴ的なビートが乗ってくるような印象は昔からあって。
H:で、最初にそれをやったのはイベントで…清水靖晃くんといっしょに。
岡田:あ、マライアとかの…
H:そうそう。ターンテーブルをステージに持って行って。2人でね。DJっぽくやったわけですよ。そのときに、グレゴリオ聖歌とハウスみたいなものをかけたんですよ(笑)
岡田:へぇ…すごい聴きたい、それ…(笑)
H:これがなかなかおもしろくて。気持ち良くて。その後に、「アンビエント・ハウス」っていうのがあるんだ、っていうのを知ったんですよ。
岡田:あ、そうなんですね。すごい…アトモスフィアの究極型的なグレゴリオ聖歌をそこで選んでいるのがおもしろいです(笑)
H:だから…たぶんね、同時進行というか、同時多発というか。みんながそういうことを自然にやりだした時代なんですよね。あっちでもやってるんだ!こっちでもやってるし。ふしぎ!と思ってやってたんですけど(笑)
岡田:なるほど…
H:最初に『Ambient House』っていうコンピレーションアルバムが…イタリアから出たんですよね。
岡田:うんうん。
H:あ、イタリアはすごいな、と。だから、ロンドンとイタリア…どこら辺だろうな、やっぱりミラノとかそこら辺から。そういうのを聴いて…そういうのを聴くと、やる気が出るわけですよ。こっちも。そうやってどんどん、アンビエント・ハウスに入り込んでいったんですよ。
岡田:なるほど…
H:そのうちアシッド・ハウスに入り込んでいったり。やっぱりビートからは離れられなかったのね。当分。
岡田:やっぱりそれって楽器プレイヤー的なところで…グル―ヴがあったり、ビートがある、みたいなことと音楽とが紐付いている、離せない、みたいなところがあったんですか?
H:そうですね。それはもうずっと…70年代からそういうことを追求してたんで。ニューオーリンズ・スタイルとかね。いろんなグルーヴ、ビート。
岡田:世界のリズムとか、っていう…
H:そこからは離れられない、っていうか、離れる気はなかったんですよ(笑)
岡田:うんうん。
H:でも、またそれが変わってくるのが90年代辺りからなんですけどね。
岡田:あー、なるほど。その中でけっこう興味深いというか…細野さんのアンビエントと、後になって今回の『Kankyō Ongaku』のコンピレーションでまとめられたものの中で、日本人じゃない人はどこが「日本的」と感じているんだろう、みたいなところに興味があって。
H:あー、それは興味あるな(笑)
岡田:いろいろと自分の観点で考えていた、圧倒的な主観だけで見つけたところが1個あって…
H:あ、聞きたいね。なんだろう。
岡田:なんて言うんですかね…海外だと通奏低音的なドローン音がファー…って持続的にある中に、テクスチャーというか、彩るような電子音だとか生楽器がドローンの上に装飾されているものが多かったり。
H:うん。
岡田:たぶん、「通奏低音が常にある中でどう発展させていくか」みたいなところがあるような気がしていて。
H:なるほど。
岡田:そんな中で『Kankyō Ongaku』の…まぁ、ぜんぶがぜんぶというわけではないですけど。それこそヴァンパイア・ウィークエンドがサンプリングした無印のBGMの曲だったりだとか。あとは吉村弘さんだったり、このコンピの中でも音数が少ない人たちに[共通して]言えるのは、「無音になる瞬間」というか「間」みたいなところを意識していたのかな、と…
H:あー、そうか。なるほどね。
岡田:[共通の意識]みたいなのがみなさんにあったんですかね?ということに興味があったんですけど…
H:たぶん、芸術家の人は意識してやってたんだろうけど、僕はぜんぜん…(笑)
岡田:え、そうですか?(笑)
H:でも、「間」は好きだからね。で、80年代中頃からレコーディングシステムがデジタルになるんですよね。
岡田:そうですよね。
H:で、僕が『S・F・X』っていうのを作ってる頃に、「無音になる瞬間」がすごく強く印象に残るわけね。デジタルだと。
岡田:あー、そうですよね。バサッとなくなって…
H:そうなの(笑)
岡田:余韻も無いし。
H:無音になっちゃう。ヒスノイズっていうのは無いんだよね。そこにすごく気を取られた瞬間があったんだね。そこから意識するようになったんだな。
岡田:あー、なるほど。それはじゃあ、雅楽の太鼓とかがドーン…って言ってなくなった後に、またポンッて来ると、これに感動する僕はやっぱり日本で生まれた…って思ったりするんですけど(笑)
H:わかるわかる(笑)わかるよ。そういうのって習わなくてもできるじゃない、僕たち(笑)
岡田:そうなんですよね(笑)
H:[生まれついて]持ってるものなんだよね。それは意識しようとしまいと持ってるんだよ。だから、それを意識すると使うことができる、っていうかね。
岡田:なるほど。じゃあ、やっぱり自覚的ではありながらやってたっていう感じですかね?
H:そういうところもあるかもしれないね。
岡田:おもしろいですね…(笑)なんかもう、ファンとして訊きたいことが目の前でいろいろ聞けるというのがすごくうれしいです(笑)
H:もう、訊かれたらなんでも答えるっていう(笑)
岡田:ありがとうございます(笑)
Ambient Meditation #3 - 細野晴臣 with Laraaji
(from 『MEDICINE COMPILATION』)
岡田:あ、これもたぶん、あんまり訊かれたことないと思うんですけど。
H:はい。なんだろう。
岡田:あの『MEDICINE COMPILATION』で…
H:うん。
岡田:まず、ニューエイジャーとして、音楽家として、真っ先に挙がるのがララージ(Laraaji)…という印象が僕にはあって。そのララージとこのアルバムで共演されてると思うんですけど。
H:はい。
岡田:このときララージから…音楽的な部分でも、精神的な部分でも、なんか影響を受けた部分ってあったりしたんですか?
H:うん。ララージがたまたま来てたのか呼んだのか、ちょっと記憶がないんだけど…(笑)
岡田:あ、そうなんですね(笑)
H:でも、ずいぶん深いところまでやってくれたけど。そうだな、印象としては…ララージは白人系の人じゃなくて、どこの国の人かわからない感じがあるわけね。
岡田:わかります(笑)
H:インドが入ってたり、アフリカなのか…で、存在そのものは「動物っぽい」人なんだよね。
岡田:なるほど…ちょうど去年ライヴを観に行ったんですけど。
H:あ、行ったんですか?
岡田:はい。日本に来てて…
H:えー!そうか、会いたかったな。
岡田:すごい良いライヴ…すばらしかったです。
H:あ、ホント?じゃあ、なんか進化してるのかな。
岡田:もう、どうなんですかね?進化とか…たぶん、こういうものなんだろうな、っていう。
H:あー、やっぱりそうなんだ。
岡田:ずーっとやってるんだろうな、みたいなところもあるし。そういう意味で…あ、それこそライヴ中に…途中でツィターを弾いて歌うんですけど。ツィターを基本にしながら、時折パッと思い出したように演奏を止めたかと思ったら、他の場所に…
H:インプロヴィゼーションなんだね、ぜんぶ。
岡田:そうですね。
H:まぁそういう人だよ。ホントに。だから…スタジオでね、休憩時間にいろんな動物の仕草をしてくれたのね。
岡田:へぇ、おもしろそうだな…(笑)
H:その印象が強いんだよね。あ、この人はやっぱり、天性の動物感覚の人なんだ、と思ってね。
岡田:なるほど…すごい、フィジカルな強さを感じましたね。
H:そうそう。
2020.03.08 Inter FM「Daisy Holiday!」より
~~~~~~~~~~~~~~
H:細野晴臣です。
?:(笑)
H:笑われちゃった(笑)
?:緊張感が無さすぎる(笑)
H:無いでしょう(笑)えー、きょうはゲスト、姉妹…姉妹じゃねぇや(笑)姉弟。清水ミチコさんと…
ミ:はい。弟の…
H:清水イチロウくんね。やっと覚えたよ。
イ:こんばんは、清水…「細野晴臣です。」
H:お。
ミ:お前、勇気あるな。
H:(笑)
イ:「こんばんは。」
~~~~~~~~~~~~~~
H:…で、僕はユーミン(松任谷由実)とはあんまり深く話したことが無かったんだけど、こないだラジオに…去年ね、暮れ。
ミ:あ、聴いてました。
H:聴いてた?
~~~~~~~~~~~~~~
ミ:…そうなんですね。私、すっごいしゃべってるのかと思ったら…でも、ラジオ聴いてて、あ、そうなんだ、って初めて思いました。
H:そうなんだよ、うん。なんかね…いろんな気持ちが伝わってきたけど、今この場ではちょっと言えないな。なんか(笑)
2人:(笑)
ミ:どゆこと?(笑)
H:いやー、いろんなこと考えてるんだな、っていうのはわかったんだけどね。言えないなぁ。んー。
ミ:「天才少女」っていう感じはしたんですか?やっぱり。
H:会ったときは…おもしろい女の子だったね。言い回しが独特で。
ミ:あ、そうですよね!
H:うん…あ、今のそっくり(笑)
ミ:「あ、そうですよね。」
H:(笑)
ミ:「黒柳徹子さんにあだ名をつけたんですけれど、それが「干しイチジク」って言うんですよ。」
H:(笑)
ミ:…っていうぐらいに、わりとズバッと言われますよね(笑)
H:そうそう。言葉がおもしろいんだよ。
ミ:おもしろいですよね。
H:だから…そういう印象が強くて。まぁ、音楽はもちろん良かったから。とくに[直接のやりとりは]マンタに任せちゃってたから…マンタっていうのはアレなんだけど、松任谷くん(松任谷正隆)ね。
ミ:あー。でも、"返事はいらない"っていう曲のイントロのイメージは皆さんで…?
H:あれはね、最初に僕のところに連絡が来て。「こういう曲があるんだけど、アレンジしてくれ」って、レコード会社の社長から言われてね。で…リハやったのかな?1回ぐらい。そのときに、その当時聴いてたスカ(Ska)をやりたくてしょうがなかった。マッスル・ショールズ・リズムセクション(Muscle Shoals Rhythm Section)に影響されてたから。それでやっちゃったら、すげぇ上手くいったのね。
ミ:すごいですね!
H:でも、彼らは…「彼ら」っていうかなんというか…(笑)あんまり気に入ってなかったんだなぁ、と思って。
ミ:「どこに連れて行かれるのかな?と思いましたね。」って仰ってましたよね、本人は。今のそっくりなんですけど。
H:そうそうそう…そっくりだな、本当に(笑)
ミ:自分で言う(笑)
H:おもしろいな。
返事はいらない - 荒井由実
(from 『ひこうき雲』)
ミ:おもしろい時代ですね。みんな実験的なことをたくさんして。
H:そうそう。自由だったね。まぁ…長い付き合いになっちゃったけどね。みんなもう、いい歳になっちゃったな、と思って。
ミ:(笑)
H:僕は20世紀の音楽が大好きだから…1950年代、40年代とか。まぁ今やってるのがね。ブギとかそうだけど。
ミ:うん。
H:なんか、誰が聴いてるんだろう?と思いながら最初はやってたわけ。そしたら、若い人がけっこう聴いてくれるんだけどね。でも、同世代はぜったい聴いてくれないんだよね。
ミ:へぇ…
H:なんか、さびしいくらい聴いてくれないっていうか…いじわるなの。
イ:(笑)
ミ:いや、いじわるではないですけど(笑)
H:いやいや、ホントに(笑)あ、嫌われてるな、とかね。思っちゃうけどね。
ミ:感覚が先鋭的すぎるんですかね?人より。
H:いやー…そういうんじゃないんだろうな。なんか…あるミュージシャンに言われたんだけど、「なーんか、うまくやってますよね(笑)」みたいなことを言われたことあるんだよね…(笑)
イ:ひどい…(笑)
ミ:やっかみ(笑)
H:こっちだって苦労してんだよ!(笑)
2人:(笑)
H:さっきも「運が良い」とか言われてたけどね。
ミ:運が良いと思う!
H:そうかな…んー、わかんないな。
ミ:だって…タイタニック号のお話もあるじゃないですか。
H:ああ。まぁ、おじいちゃんは運が良いような、悪いような…
ミ:でもあのとき、ほら…テムズ川に帽子が落ちていた、と。どういうわけか。乗る前にね。
H:そうそうそう。
ミ:で、なんか悪いことが起きるような気がする、っていう天啓を受けたんですよね。あれがすっごい印象的で…
H:そうなんですよ。よく知ってるね。だから、船怖いんだよね、僕ね。
ミ:あー、そうでしょうね。家族中もそうでしょうね、きっと。
H:そうだろうね(笑)みんな。そうそう。
ミ:何回も観たよね、あの『ファミリーヒストリー』。
イ:おもしろかった…
H:(笑)
ミ:きょうだいで何回観たかわからないね、あれ。
H:そうなの?(笑)おもしろいんだ。
ミ:おじいさんがよかったよね。
イ:三代ぐらいかけないと人って何かを為せないんだな、と思って。
ミ:そうだね!思った。
ミ:矢野顕子さんとも一緒に観ました。
H:あ、ホント?へぇ…どんな感じで?
ミ:「すごく、細野さんらしいな、って思いました。」
2人:(笑)
H:すごいや…(笑)本人みたい。
ミ:矢野さんとはなにでお知り合いになったんでしたっけ?ピアノ?
H:アッコちゃんはね、最初…元の名前が鈴木顕子だったの。
ミ:あ、そうだ。
H:で、16歳だった。
ミ:高校生か…
H:で、キャラメル・ママやってたのかな?僕たちは。それのセッションにピアノで参加したことがあるんだよね。すごい上手くて。
ミ:やっぱり?
H:うん。で、あれよあれよという間に、1stソロを作るんで呼ばれて、手伝ったの。
イ:へぇ…
H:それがやっぱり…最初かな。"相合傘"やってくれたんだよ。カッコいい…と思って。自分よりカッコいいと思って(笑)
ミ:(笑)
H:で、アッコちゃんが僕の曲やると、ぜんぶ僕のより良いんだよ。やんなっちゃった(笑)
2人:(笑)
イ:でも僕…矢野さんってすごい細野さんの曲をカヴァーされるじゃないですか。
ミ:日本でいちばん、ね。
H:ね、言ってるね。
イ:ぜったい細野さんのことを男として好きだった…
ミ:(笑)
H:いやいや、そんなこと考えるなよ(笑)
イ:いや、そういう時期があったんじゃないか、と思って、ご本人に訊ねたんですよ。
H:え!そんなこと訊くなよ!(笑)
ミ:ほんっと…ポカーンとしてたよね(笑)
イ:そしたら、「んなわけないじゃん!」って。「仕事仲間だよ」っていう。
H:それもちょっとさびしいな(笑)
ミ:「プロとして尊敬してるけど、そういうのは無い」って言ってて(笑)好きにならないんですか!?っていう感じだったよね。弟は大好きだからね。
イ:一時期は細野さんのことすごい好きだった時期があったんじゃないかな、と思って。
H:いや、それは感じたこと無いよ。
イ:あ、そうですか。でも、あんなにカヴァーされると「こいつ、俺のこと好きなんじゃないか?」みたいな…
H:いやいや、そんな風には思わないよ(笑)
イ:あ、思わないですか?(笑)
ミ:ゲス…ゲスだな、お前は(笑)
イ:すいません…(笑)
H:音楽と人格はあんまり関係ないよ。
イ:あ、そうですかね?
ミ:弟は『NO SMOKING』観て、人格、魂…「霊格」か。そういうこと言ってたよね。
H:霊格?(笑)
イ:細野さんって信心深いですもんね。
H:まぁ、そうかな…そう言われるとそうかもしれない。わかんないや。そうでもないよ。
イ:そうですか?
ミ:だって、「はい、私は信心深いです」なんて言うミュージシャン、見たことある?(笑)興醒めだわ(笑)
2人:(笑)
H:なに、信心深いの?イチロウくんは。
イ:僕は細野さんの影響で信心深くなってるんですけど、今もう、じゃあ…あんまりしなくていい…(笑)
H:いいよ(笑)
ミ:口に出さなきゃいいんだよ(笑)
イ:でも、奉納演奏みたいなことされるじゃないですか。
H:それは…呼ばれると行くんだよね。
イ:やっぱり、呼ばれちゃうんですね?
H:呼ばれるんだよ。ショウビジネスはみんなそう。「Calling」っていうんだよ。
イ:コーリング。
H:これはニューヨークでブロードウェイやってる連中の言葉だけど。お呼ばれ。
イ:お呼ばれ。
ミ:へぇ…
H:自分から何かを仕掛けるのってなかなかできないんだよ。だから何事も…「信心深い」っていうのはつまり、昔の人はそうなんだよ。お天道様の…
ミ:あー、恥ずかしくないように…
H:恥ずかしくないように生きろ、とか。そういうことなんだよ。別に[特定の宗教における]信仰心っていうよりも、民間信仰に近いよな。だから、「お呼ばれ」もそうだよ。芸人はみんなそう思ってるんじゃない?昔の。
ミ:あ、そうですね。
H:で、呼ばれたら断らない、とかね。そんな感じですよ。
H:じゃあ、1曲かけようかな。もう1曲、なんか持って来てくれたの?
ミ:はい。
H:…ラトルズ(The Rutles)の"Ouch!"を聴いてください。
Ouch! - The Rutles
(from 『The Rutles』)
H:外国のコメディアンで誰かいるの?あこがれみたいな。
ミ:あこがれ…和田誠さんが「実はこの人はすごくモノマネが上手いんだ」っていって、サミー・デイヴィス・ジュニア(Sammy Davis Jr.)がいろんなモノマネしてるのをもらったことがあるんですけど…
H:あー、やってるね。
ミ:あ、ご存知でしたか。すごいやっぱり、シャレてるっていうか…(笑)
H:そうだよね(笑)
ミ:知らない人でも「似てる」って思っちゃう。
H:あの当時…60年代くらいはそういう人いっぱいいたね。アメリカに。
ミ:へぇ。モノマネっていうか、パロディっていうか?
H:スターがいっぱいいたでしょ?
ミ:あー、そうですね!
H:キャラクターの強いスターがいっぱいいたから。ケイリー・グラント(Cary Grant)の真似とかね。知らないけどおもしろかったね。
ミ:やっぱり一時期、寅さんとか美空ひばりさん一本だけで食べていける芸人さんとかね、いたけど。今はひとりじゃダメだから…(笑)
H:いたね(笑)いたいた…昔から好きだったな、そういうの。桜井長一郎さんとかね。
ミ:ね。見ちゃいますよね、やっぱ。
H:で、なにから始めたの?最初は。ユーミン?
ミ:いや、最初は桜田淳子さんとか。アイドルの方…
H:あー!そうかそうか。歌から入っていったんだね。
ミ:異様に好きで…自分の部屋に帰っても、桜田淳子さんがレコード大賞を受賞したときの喜び、みたいのを自分でやるんですよ。そうするとホントに泣けてきて…(笑)
H:(笑)それは本人になりきっちゃうわけ?そういうのは。
ミ:そうですね。高校時代は部屋で桃井かおりになりきって…「宿題やらなくちゃねぇ。」とか言いながら…(笑)
2人:(笑)
H:高校からやってるんだ。
ミ:やってましたね。ぜんぜんやってなかったですか?モノマネのほうは。高校時代は。
H:高校時代は…
ミ:やってそうだけれども。
H:いやいや。そんなに僕は、器用にはできないなぁ…低いからね。声が。ダメでしょ?低いと。
イ:そうですね。限られてきちゃいます。ただ僕、細野さんの坂本龍一さんの顔マネ大好きで…(笑)
ミ:あれおもしろい(笑)
H:あれね(笑)
イ:あれ最高ですよね。
H:あれは自分でも似てると思う(笑)
イ:あの細かい…
ミ:細かい心理がね。
H:そうそう。
イ:すごい…
ミ:あれは自分で見つけたんですよね?
H:そうなの。
ミ:疑ったりしてごめん(笑)
H:教わったわけじゃないよ(笑)
ミ:師匠がいるわけじゃない(笑)
H:坂本くんから教わったっていう。
ミ:自分で学んだ、という。
H:でも幸宏(高橋幸宏)の顔マネはできない。「固まってる」からね(笑)
イ:固まってる…(笑)
ミ:(笑)
H:うらやましいんだよ、ああいう固まった顔って。写真写りがいい…
ミ:いいですよね(笑)
H:いいよね~どんな場面でもいいんだよね。うらやましい。こっちはひどいからね、もう。
ミ:YMOのそのバランスって、[それまでに]なかったですよね、そういえばね。バランスにおいても。
H:そう。なんかヘンな取り合わせだったね。おもしろかったね。
ミ:で、なんかちょっとした、田舎っぽいものを置くほどYMOが映えるっていうかね。あれもなんか不思議だった(笑)
H:田舎っぽいものってなんだ?(笑)
ミ:都会的なものを置きそうなんだけど…なんて言ったらいいのかな?
イ:温泉マークとか。
ミ:そうそうそう。
H:あー、そういうことね。そうかそうか。なるほどね。3人とも東京だよな、そういえばな。
ミ:そうですね。
H:はっぴいえんどは大滝くん(大滝詠一)が岩手だったね。そこがまたおもしろかったけど。
ミ:でもこないだ…細野さんは観てないかもしれないけど(笑)あの番組、なんて名前だっけ?
イ:『TOKYO ROCK BEGINNINGS』。
ミ:そう!
H:コピー…ビデオもらったんだけどね…DVD。
ミ:まだ観てない?
H:観てない。
ミ:観てなそー(笑)すごい良いこと言ってたんだよね。
H:なんて言ってたの?
イ:「あのー…ミュージシャンはオシャレじゃないとダメだから。」
H:そんなこと言わないよ(笑)
ミ:そうだ(笑)だから学生時代にね、そっちに行かなかった理由は…
イ:「あの人たちはダサかったから…」
ミ:カッコいい…(笑)
イ:「ヘルメットと棒でね、なんかダサく見えたんですよね。」
ミ:うちの弟上手いわ~(笑)
H:いや、似てるとは思わないけどね、別に…(笑)
ミ:似てるんだなぁ…(笑)
H:違う人だよ(笑)
イ:「んん~…」
ミ:あの番組よかったよね、でも。
イ:すごい良いです。ぜひ観てください。
H:そっか。
イ:細野さんだけがカッコいいです。
ミ:なんか私、長く残る名曲って、どういうわけか金持ちのボンボンが作ったのが多いのが昔から謎だったの。
H:どういうことだい、それ(笑)
ミ:なんでなんだろう、と。
H:はっぴいえんどは別に金持ちのボンボンじゃないよ(笑)
ミ:でも、その番組見たら…林さん(林立夫)が言ってたのかな?それはしょうがないんだ、と。
H:うん。
ミ:たとえばドラムをやりたいにしても、家でやろうったって、防音が無ければできないし…
H:そうだよ。林くんは坊っちゃんだよ。
イ:へぇ…
ミ:あ、そうなんですね。
H:だって僕ん家はドラムなんて置けないし、買えないし。やっぱりドラムセット置ける人っていうのはお金持ちですよね。
ミ:それでピアノ買える人、ギター買える人。で、地方はなかなか楽器屋さんまで遠い、とか。
H:そうだよね。
ミ:そういう物理的なものがあるんだ、って仰ってましたよね。
H:それはあるね。うちはね、母方の祖父が調律師だったから、ピアノがゴロゴロ…直してた(笑)それの古いやつをもらったんだよね。んー。アップライトで。
2人:…
H:なに?黙っちゃって(笑)
ミ:いや、そういえば…調律師になろうかな、って言ったら、おじいさんが。
イ:「やめたほうがいい。」
ミ:表現するものがあるんだったら…
H:そうそうそう。よく知ってるね。
ミ:何回観たかわかんないもんね?
イ:[細野さんは]『ファミリーヒストリー』も観てないんじゃない?(笑)
ミ:観てないんでしょ!?
H:(笑)自分のは観たこと無い…
イ:あ、そうなんだ…
ミ:照れ屋さんだからね(笑)私、なんかで観てビックリした…大原麗子さん主演の映画にも出てらっしゃいましたね。
H:あれはね…今頃になってじわーんとくる作品ですね。『居酒屋兆治』。
ミ:あ、そうですね!ビックリした。
H:いや僕もね、ビックリした。
ミ:いや、ビックリしないでください、オファーを受けて…(笑)
H:いや、当時はそんなにわかんなかったんだけど、今生き残ってる人はほとんどいないと思う。
ミ:ハッ…ショック。ホントだ。
イ:あー…
H:で、僕がいちばん印象的だったのが…伊丹十三さんと絡むんだよね。ケンカするの。
ミ:そうですよね。飲み屋で。
H:その出番の前ね、ずっと隣でね…日活の撮影所だったかな。お話をしてくれるんだよ。僕は聞いてるだけなの。
ミ:ほう。
H:ひとりでダーッてしゃべってるのを聞いてあげてたの。
ミ:へぇ…
H:そしたら、まだ映画作る前だったんだよね。「映画の美」について語ってて、勉強になったね。「映画はモノクロに限る。黒と白の美学だ。」で、作った作品はカラーだった(笑)
2人:(笑)
H:それで印象に残っちゃった。
ミ:『お葬式』かな?
イ:1本目。
H:そうそう、たぶんそう。で、高倉健さんに僕、肩を触られた。
ミ:映画の中で?
H:うん。後ろから。「まぁまぁ」とか言いながら。ケンカしようとしてたのをおさめてくれて。
ミ:やっぱりカッコよかったですか?
H:カッコいいね。ぜんぜん…普段は出てこないんだよね、部屋から。ロケ現場に。
ミ:さすが一流。へぇ…
H:でも、肩触られた人は僕だけだよ。
ミ:そんなことないと思いますよ。
H:そんなことないか(笑)
ミ:夢を壊すようですけど…(笑)
H:いや、女優さんならいるかもしれないけどね。
ミ:まだ言う…(笑)
H:大原麗子さんが、とにかく…
ミ:絶世の美女。
H:ロケの合間に、函館でね…呼ばれたんだよ。ヒマだったらしくて。
ミ:へぇ!
H:ホテルの真向かいにカフェがあって、そこに呼ばれて。
ミ:そんな良い思いしてたんだ!
イ:(笑)
H:もう一人ね、有名な脇役の俳優の人と一緒だったんだけど。
ミ:へぇ。超キレイでしたよね、やっぱ。
H:なんだろうね…なんにもこっちからは話さなかった。やっぱりみんな…俳優さんって、自分からずーっとしゃべってんのね。
ミ:おもしろいですね。
H:おもしろい。なにしゃべってたんだろう。
ミ:もう中身は忘れた?さすがに。
H:忘れちゃった。んー。いや、良い経験したな、と思って。
ミ:そうですね。いつもは無いことですもんね。
H:思うと、やっぱり…去年僕は50周年やったでしょ?やっぱり50年って長いんだな。
2人:(笑)
ミ:でしょうね(笑)
H:もう、大昔の映画に出てるんだから。
ミ:あー、そのことで逆に感じるのかな?
H:そう、感じるんだよ。だから、ついこないだ、なんかのことで…『スター千一夜』って番組があったんだよ。
ミ:ありましたね。
H:あー、やっぱり知ってますか。よかった。今の人は誰も知らないでしょ?
ミ:そうかもね。知らないよね?弟は。
イ:俺は知ってますよ。
H:知ってるんだ。あれに出たことあるんだよ。
2人:えー!
H:YMOで。
イ:えー…
ミ:似合わない!
H:似合わないんだよ(笑)
ミ:3人で出たの?
H:そう。
2人:へー!
H:たぶん、[番組が]終わる直前の頃だと思うよ。で、調べてみたらハリウッドスターがずーっと出てるのね、あれ。
ミ:あ、そうなんですか。
H:ビックリしちゃった。大昔の話。だからもう、この先はないんだな、と思って。
2人:(笑)
H:20世紀と共に僕はおさらばするから。
ミ:これからでしょ?だっていますごい…若い人とかね、オーストラリアとか。海外での人気がこんなに高まるって思ってました?若い頃。
H:いやいやいや!まさか。
ミ:イヤイヤ歌ってましたよ?パルコで。
2人:(笑)
*[前週参照。]
H:ホントにね、誰が聴いてるんだろう、って…とさえ思わなかったかな?ひとりで黙々とやってたね。んー。
ミ:じゃあ、ああ見えて…暗黒期みたいのは意外と若い頃なんですかね?
H:そうだね。暗黒なの?あれ。
2人:(笑)
ミ:「なんだと?」(笑)
H:いやいや(笑)
H:そういえば前にイチロウくんに…テレビ局のスタジオの喫煙室で一緒になったときに。
イ:はい。
H:いきなりね、「プレスリー」って言われたんだよ。僕のこと。
イ:あー、言いましたね。
H:あれはビックリしたんだよ。
ミ:どゆこと?
イ:僕ね、細野さんがもし次にアルバムを作ってくれるとしたら、プレスリーのカヴァー集はどうでしょう?って提案したんです。
H:突然言うんだ、それを。
ミ:なんで?
H:なんで?と思うよね。
イ:いや、なんか細野さんは合うんじゃないかな、と思って。
ミ:あー、そうかね?
イ:うん。で、なんか細野さんくらいになると、そのまんま英語で歌ってもカッコいいんですよね。
H:うーん、やってるけどね。"Love Me"っていう曲とかね。
イ:はいはい。なんか、それだけで1枚聴きたい、っていう気分に僕…プレスリーのファンでもあるんで。両方、ね。
H:なるほどね。いい声だな。
ミ:(笑)
イ:もし細野さんが作られないんだったら僕が作りますけど、よろしいでしょうか?
H:あ、やってよ(笑)
ミ:どんな心臓してんだよ(笑)
H:いや、聴きたい聴きたい。
イ:喫煙室ってホントおもしろくて。Corneliusさんとも喫煙室で一緒になって…どうも2代目細野さんっていうのはCorneliusさん、っていうことになってるんですけど…僕はそれでもいいんですけど、3代目は僕に頂けませんかね?って…
H:(笑)
ミ:お前、心臓強いな(笑)
イ:そしたら、不思議そうな顔をして僕を見てらっしゃいました。
H:(笑)
ミ:恥ずかしい…(笑)
H:だいたい、Corneliusは僕の2代目じゃないから(笑)
イ:ないんだ…(笑)でも、若い頃は細野さんにそっくり、って皆さん仰いますよね。
H:似てるとは言われたけどね。FUJIROCKに出たとき、出番前に並んで、一列に…僕の後ろがCorneliusだったの。で、Corneliusのところに行って、「細野さん、サインください!」って言ってたよ、誰かが(笑)
2人:(笑)
H:その人目が悪いよ(笑)いくらなんでも…歳の差がすごいもん。
ミ:そっか、似てるか…
H:似てるとは思わないよ、僕。ぜんぜん、Corneliusのほうがね、やっぱり…かわいらしいというかね。人気があるよね。
イ:いやでも、僕は細野さんが若い頃すごいかわいかったからビックリしちゃって…
H:いや、ぜんぜん…
ミ:細野さん、ルックスめっちゃいいですよ。
H:ホントかね?
イ:いいと思います。
H:じゃあ、早く言ってもらいたかったなぁ、その頃。誰にも言われなかった。
2人:(笑)
イ:あ、そうですか?
ミ:男女ともに好かれる顔だよね。
イ:うん。と、僕も思います。
H:そうかな?ぜんっぜんいい思いしたことないんだよね。
イ:へぇ…
ミ:じゃあ、鏡で自惚れるっていうこと、ホントに無い?
H:鏡は大っ嫌いだ。いまだに。
ミ:もったいない…(笑)
H;きょうも見てないもん、鏡。鏡見てきた?イチロウくん。
イ:あんまり見ないですね(笑)
H:じゃあおんなじだ、僕と(笑)
ミ:そっか。男はあんまり無いのか。
H:あのね、自分のダサさに気が付いたのは高校1年のときに、目黒駅で電車を待ってて。電車が来て、窓ガラスに僕の姿が写ったわけ。自分の。
ミ:うん。
H:そのとき初めて、あ、ダサい!って思って。
イ:どういうこと…(笑)
ミ:きびしい…(笑)高校時代ってやっぱり、自分のこといちばん嫌いですからね。
H:でしょ?だからいまだにそうかもね。なんか、ほんっとダメなんだよね。
ミ:へぇ…もったいない。
H:いやいやいや、とんでもない。ほんっとに嫌だ…だから、アッコちゃんが好きにならないのもよくわかるわけ。
イ:面食いだから?
H:面食いだから(笑)
2人:(笑)
ミ:お前、なんてこと言うんだ(笑)
イ:(笑)
H:まぁ、そんなこんなでね…話がもう、ぜんぜん…(笑)
ミ:とりとめもない(笑)
H:とりとめがない、おもしろいわ(笑)また来てください。
ミ:はい、ぜひ。ありがとうございました。
H:今度はちゃんと…なんかやってもらいますんで…(笑)
2人:(笑)
ミ:もういいでしょ(笑)
H:じゃあ…清水ミチコさん、清水イチロウさん、姉弟です。ありがとうございました。
ミ:はい。お邪魔しました。ありがとうございました。
イ:ありがとうございました。
Love Me - 細野晴臣
(from 『HoSoNoVa』)
2020.03.01 Inter FM「Daisy Holiday!」より
H:細野晴臣です。
?:(笑)
H:笑われちゃった(笑)
?:緊張感が無さすぎる(笑)
H:無いでしょう(笑)えー、きょうはゲスト、姉妹…姉妹じゃねぇや(笑)姉弟。清水ミチコさんと…
ミ:はい。弟の…
H:清水イチロウくんね。やっと覚えたよ。
イ:こんばんは、清水…「細野晴臣です。」
H:お。
ミ:お前、勇気あるな。
H:(笑)
イ:「こんばんは。いらっしゃい。」
ミ:(笑)
H:いい…いい声だねぇ。
イ:ありがとうございます。
ミ:自分で自分をほめてるみたい(笑)
H:いやいや…僕よりいい声なんだよ。
イ:いや、そんなことないですよ。
H:僕、あんな低い声じゃないんですよ、実は。高いんだよ。
イ:あ、そうですか。
H:うん!(裏声)
ミ:ちょっと!(笑)
イ:(笑)
ミ:魅力が半減した(笑)
H:いやいや…(笑)
ミ:弟はね、細野さんの歌い分けのモノマネがわりと上手で。
H:歌い分けね。
ミ:初期の頃と後半と、ぜんぜん違うんですって。心理的にも。
H:それはたしかに違うわ。
ミ:あ、感じます?自分でも。
H:うん。でも、自分じゃできないよ、それ。
イ:あ、僕できますよ。
H:ちょっとやってみて。
ミ:お前、心臓強いな…(笑)
イ:昔の細野さん、やりますね。「♪きーみの瞳は~」っていう。
*"HURRICANE DOROTHY"の歌い出し。
H:わかったわかった(笑)いやー、その通りだ…
ミ:うるせぇな(笑)似てないですよ、こんなの(笑)このときの…心理的にはどうなんだっけ?
イ:えーとですね、これは「虚無感」ですね。
H:虚無感?(笑)
ミ:占い師みたいになってきた(笑)
H:よくわからない…(笑)
イ:虚無感。
ミ:ありました?
イ:ありましたね。
H:そうですか…
ミ:最近は?
イ:最近はね、ちょっと自分の声が好き過ぎて…
H:えぇ~。
イ:「えぇ~。」
H:(笑)
ミ:やめろ(笑)
イ:あの、細野さんがすごい興味のない話を聞くときの相づち、っていう新しいモノマネが。
ミ:(笑)
H:ホント?どんな感じなの?
イ:「んん~。」
2人:(笑)
イ:こういうときは大抵細野さん、話聞いてないですね。
H:(笑)
ミ:このラジオで?Daisy Holidayで?
イ:「んん~」って言うときは、聞いてないんです。
H:いやいや、そんなことはないよ(笑)
イ:(笑)
ミ:パス、スルー、みたいな(笑)
H:じゃあ…もういいや、2人でやってもらおうかな。
ミ:そうですか(笑)乗っ取ろうか。
イ:(笑)
ミ:でもね、初めて…私がこの番組をオファーされたのは、憶えてないと思うんですけど、ちょうど10年ぐらい前。
H:そうだってね。それはビックリしちゃった。
ミ:そうなんですよ。それで、そのとき…「今度Daisy Holiday出てよ。俺のことだから、たぶん遅くなると思うけど。実現は。」って言ってたけど、ホントに10年経って…(笑)
H:(笑)
イ:10年…(笑)
H:10年か…じゃあずっと、[正式なオファーが]いつ来るか…
ミ:いつ来るか、と思ってたのに…先月でしたっけ。やっと話が来たぞ!と思ったら、事務所から電話があって…
H:飛んじゃったんだよね(笑)
ミ:そのときはもう、弟は飛騨高山から見学に来るつもりで東京に来てたので。
H:来てたんだよね。
ミ:なんて説明しようかな、と思ってたんですけど…(笑)
H:(笑)
ミ:きょうはよかったね、出れて。
イ:よかったです。はい。
H:そのときはどうだったの?[収録が]無くなったときは。どんな心理状態?(笑)
イ:いや…(笑)吉祥寺にいたんですけど、これからホテルを出るっていうところで姉からメールが来て。「きょうなくなったから」って言われて。レコード買いに行きましたけど…
H:あ、ホント。
ミ:なくなったと言っても細野さんが亡くなったわけじゃないから…(笑)
H:いやいやいや…(笑)そういうこともあるかもしれないし。
イ:(笑)
ミ:やめてください(笑)
H:えーと、お2人は…とくにお姉さん。
ミ:はい。
H:声がね…天才だよね。
ミ:モノマネっていうことですか?
H:うん。
ミ:わー、うれしい!ありがとうございます。
H:いっつもそう思うんだけど…なんか「芸人」じゃないし、「アーティスト」でもない…
ミ:…それはなにかと尋ねたら?(笑)
2人:(爆笑)
*落語『豊竹屋』の引用。
ミ:そうですかね?でも、細野さんの周りの方が…矢野さん(矢野顕子)とかユーミンさん(松任谷由実)とかが大好きなので、すごくうれしいですし…また、ずーっと保ちますよね。私、高校のときに手に入れたんですけど、あの2人を(笑)
2人:(笑)
ミ:まだ保ってる~、と思って。
H:保つね~(笑)
ミ:弟もよかったね、細野さんを手に入れて(笑)
イ:そうですね。
H:他の人はやらないの?
イ:他…ひとりだけね、高田渡さんっていう。
H:お!そう。
イ:いいですか?やってみて。
H:ちょっとやってみて。
イ:「いやーどうもね、高田渡です。いつもね、うちの漣くんがね、お世話になっちゃって…」
H:ぜんぜん似てないわ(笑)
2人:(爆笑)
ミ:厳しいんだよ、この道は(笑)
イ:すごい似てると思ってた…
H:いやいや、声の質が違う。
イ:あ、そうですか。
H:そんな低くないし。高い声だから。
イ:そうか…
ミ:細野さんは?誰かモノマネできるんですか?
H:あのね、ここに来る前にちょっと聴いたら…清水さんの[レパートリー]を。
ミ:うん。
H:鳳啓助やってるでしょ?
ミ:ちょこっとね、昔ね(笑)CDかなんかで。「エッ」とかいうやつ。
H:そうなんだよ。それが僕、好きなんだよ。「エッ、鳳啓助でございますよ。エッ。」
ミ:(笑)
イ:似てねぇ…(笑)
H:似てない?(笑)
ミ:他人に厳しすぎる、この3人(笑)
H:似てないかな?
イ:似てないと思います。
ミ:自分の中で聞こえるのとはやっぱり違うのかな?
イ:あー…
H:違うのか。すげー似てると思ってるんだけどな…「忘れようとしても思い出せない」。
ミ:…ホントにひどいね、今のは。
イ:ちょっとひどい。
H:ちょっと浪花節になっちゃった。
ミ:そういう問題かな?(笑)
H:あの、大橋巨泉は得意だよ。
ミ:え?
H:「ど…だっつったっただい…(笑)」
ミ:あ、ちょっと似てる。
イ:それいいですね。似てます。
H:でしょ?よかったぁ…
ミ:演芸番組になってきましたね(笑)
H:(笑)
ミ:でも、弟が言ってたんですけど。YMO…というか、細野さんの世代から、二枚目でカッコいいことをやるっていうことは「カッコ悪い」に変わったって言ってました。
H:あ、ホント?(笑)
イ:それが、僕は…細野さんの遺した大きな功績だと思いますね。
H:もっかい説明してくれる?よくわかんないんだ(笑)
イ:えーと、YMO以降ですね、カッコいいことをやるのがカッコ悪くなったんじゃないかな、と僕は思ってるんですけど。
H:なんか、そういうコピーライトを誰かが考えたんだよな。
イ:あ、そうですか。
ミ:ウソでしょ?
H:「カッコいいことはカッコ悪いことだ」とか。当時、流行ったよ。刷り込まれてるんだよ。
ミ:そっか、たまたま…(笑)
イ:小学生だった…(笑)
H:(笑)
ミ:そうか、私、弟はいいこと発見したなぁ、と思ってたんだけど、違ったんだな…
イ:そうか…
H:たぶん…あの頃のコピーライトってみんなすごかったんだよ。糸井さん(糸井重里)とかね。
ミ:あー…そうか。
H:うん。
ミ:私は細野さんを初めて生で見たのは…自分が19歳だから、もう30年ぐらい…あ、40年ぐらい前か。
H:(笑)
イ:サバ読んだ(笑)
ミ:サバ読んじゃった(笑)あの…パルコ劇場で、1人でお歌いになったんですよ。
H:ああ、そう?
ミ:自分よりちょっとだけ年上だ、っていうことはわかってたんですけど、「神童が現れた」っていう感じ…(笑)
H:神童…(笑)
イ:(笑)
ミ:他の人たちも出てたのに、特別に格の高いっていうか、徳の高いものみたいな感じで…だけど決してね、歌いたい!っていう感じの顔じゃないわけ。
H:(笑)
ミ:イヤイヤやって帰る…みたいな感じなんだけど、なんかすごいものを見た、と思って。
イ:へぇ…
H:何歌ったんだろうなぁ…
ミ:忘れちゃった…
H:忘れちゃうか(笑)
ミ:(笑)
H:だから当時はたぶん、歌いたくなかったんだよね。ぜんぜん歌うっていうのが好きじゃなくて。
ミ:演奏は好きだけど?
H:うん。プレイヤーだったから。だから、はっぴいえんどのときもほとんど歌ってないよ。ライヴではね。
ミ:あー、そうですか…
H:そのとき何を歌ったんだろうな…イヤイヤながら歌ったんだよな、たぶん。いまは歌うのが楽しいですよ。イチロウくんが言ったように。
イ:あー、そんな気がします。
ミ:そう感じる。うん。何から変わったんですかね?
H:あのね、2006年に狭山でライヴがあって。イヤイヤながら出てって…『HOSONO HOUSE』っていう昔のアルバムから、[人前では]歌ったこと無い曲も歌ったのね。
ミ:うん。
H:で、そのときはどしゃ降り…どしゃ降りじゃなくて、豪雨じゃなくて、なんだろう…異常気象で、洪水になっちゃったの、会場が。野外で。
ミ:はいはい。
H:で、止まないとこれはできないな、と思ったら止んでくれて、出てったの。そしたらすごい気持ち良かったの、それが。そういう条件が揃っちゃって、そこで刷り込まれたっていうか。「あ、歌うのって気持ちいいな」と思って。
ミ:へぇ…やっぱり持ってますね、細野さん。いろいろ。
H:いやいや(笑)
ミ:だって、この洪水の話も初めてじゃないもんね?[別のときにも]細野さんが歌う番になったら雨が上がった、とか。
H:あー…そうかい?(笑)
ミ:うん。聞いたことありますよね?…マネージャーさんも頷いてらっしゃいます。
H:そっか(笑)いや、雨が降るときもあるけどね、もちろん。んー。
ミ:そのときはどしゃ降りの中やるんですか?ちゃんと。
H:やったことあるよ。うん。
ミ:へぇ…大丈夫?精神的に。
H:いや…それはやっぱりダメだったね。
ミ:正直…(笑)
イ:(笑)
H:だってね、弦がヨレヨレになっちゃうしね、湿気で。打楽器も鳴らなくなっちゃうでしょ。もう、ひどいステージやったことある。でも、神社だったの、それ。熊野の。
イ:へぇ…
ミ:あ、熊野神社で?
H:その前に一青窈が出てて…そのときも雨だったような気がするよ。
2人:へぇ~
H:そういえば一青窈さん、連れてきたでしょ?映画をみんなで観に行った…(笑)
ミ:ありましたね!『Lost In Translation』を細野さんと私と、鈴木茂さんと一青窈さんと…
H:なんでああいうメンバーになったの?
ミ:なんですかね?誰が…
H:自分だよ(笑)
ミ:私?
H:そうだよ(笑)
ミ:私、そんなネットワークあるかな…
H:え!ある人だと思ってた(笑)
ミ:一青窈さんを誘ったのは私、憶えてます。で、行くことになったのも憶えてるんだけど、誰が最初に言い出したか、っていうのは憶えてなくて。もしかして10年ぐらい前にあった番組…はっぴいえんどのときの番組ですかね?
H:いやいや…?
ミ:それだったら大滝さん(大滝詠一)もいるはずですもんね。
H:そうだよ。まだ健在だったし。
ミ:そうだ、あのときご飯もごちそうになったんですよね。ありがとうございました。
H:そう。
ミ:「そう。」だって…普通は「いえいえ…」って言いますよ、大人なら(笑)
イ:(笑)
H:そっか(笑)
ミ:「そう、あれ俺。」(笑)
H:そのとき、車に乗せてみんなでどっか…代々木のほうに行ったのかな?あれ。どこだっけな…
ミ:そうですね。
H:で、そのとき僕、ラジオ…遅かったよね?時間。
ミ:遅かったの。
H:「深夜便」(NHKラジオ深夜便)かけてたの。そのときなんか、ヘンな反応してたね。
ミ:あのね、落語家さんが映画についてすごい怒ってたの。
H:あー…はいはい。
ミ:「なんでこの人いっつも怒ってるのかな?」って、細野さんが言ってましたね。
H:そっかそっか。憶えてるね、よく。
ミ:憶えてる(笑)とくに…カッコいい車だったんですよね。それで、何がかかるのかな、と思ったら…AMなんだ、と思って(笑)
H:そうだよ、AM大好きなの(笑)これ、AMじゃないよね?FMなんだ…
ミ:知らなかったのかよ…(笑)
イ:(笑)
ミ:Inter FMです。よろしくお願いします。
H:それでね…一青窈さんと2,3回ね、メールのやり取りがあったの。その後。メールアドレスを交換したんだね、きっと。
ミ:そうですね。
H:でもね、最初に会ったときに「私のこと知ってますか?」って訊かれて。知ってるよ~裸足で歌う人でしょ?って言ったら、怒られちゃった(笑)
イ:(笑)
ミ:当たり前ですよ…(笑)
H:「そういうこと言う人なんだ…」って…(笑)
ミ:ヒヤヒヤするわ…(笑)あの後、誰でしたっけ…武部聡志さんか。
H:そう!武部くん。
ミ:現る。それで一青窈さんに「よかったなぁ~」って。「細野さんとご飯を食べられるなんて、ホントにお前は成功したんだ!」って仰ってて…(笑)
イ:(笑)
H:そんなこと言ってたっけ?(笑)
ミ:酔ってらっしゃったのかな?すごい印象的だった…(笑)
H:その後、メールが来て…余計なことを僕、また書いちゃったんだよな。
2人:(笑)
H:一青窈っていう名前は崑崙山の妖怪みたいだ、って書いちゃった(笑)
イ:(爆笑)
ミ:なんで2回も…(笑)
H:そしたら、返事が無かった(笑)
2人:(爆笑)
H:いや、すごい良い名前だと思って、ほめたつもりだったんだけど、ダメだったね。んー。
ミ:台湾の…顔の一族と書いて顔一族っていう…すごい一族のお嬢さん。
H:あー、名門なんだね。
ミ:名門なんですよね。そう。
H:いやー…だから、あれ以来僕は一青窈さんにはもちろん会ってないし。清水ミチコさんともプライベートでは会ったことがない。
ミ:そうですね。めずらしい会だったんですよね。
H:で、茂とも会ってないでしょ?
ミ:会ってないですね、あれから。
H:ヘンなの。
ミ:ホントですね。あのときの鈴木さんの話もすごいおもしろかった。よく憶えてる。
H:うん。
ミ:「人ってさ、驚くとホントに跳ぶんだよ。知ってる?」って言ってたのを憶えてます?(笑)
2人:(笑)
H:知らない…(笑)
ミ:鈴木さんがその集まりに来るまでに、誰かが車を運転してたのを目撃して。そしたらその人が「えー!」って言ってすごくビックリしたのと同時に、座りながら跳んだんですって(笑)「だからあれはマンガじゃないんだ!」って言ってて…めっちゃかわいい人だな、って(笑)
イ:(笑)
H:茂はね、おもしろいよ…(笑)
ミ:おもしろい方ですね。はっぴいえんどを結成して4人で地方かどっかに行ったときに、電車の中で大滝さんが「○○とかけて××ととく、っていう遊びをしよう」って言って、「俺はなんて年寄りの中に来てしまったんだろう…」と思った…(笑)
2人:(笑)
ミ:その話し方もすっげーおもしろかった…(笑)
H:そうかそうか…たしかになぁ…(笑)
ミ:たしかにそうかもね(笑)
H:そう、大滝と僕でそれをやってたよ。謎かけをね(笑)
ミ:あ、そうなんですか!(笑)大滝さんもすごい、パロディーみたいの好きでしたもんね。
H:好きだったね。もう、そんな話ばっかりしてたね。仲良いんでしょ?清水さん。
ミ:はい。ライヴによくいらしてたし…メールでもやり取り、ありましたね。
H:なんかもう、すごい大きな顔してたでしょ?(笑)
ミ:叱られたことありましたね、何回か(笑)
H:そう(笑)
ミ:あとはやっぱりラジオで、「ああいう冗談はよくない」とかそうやって教えてくれることもありました。
H:すごい。先生だな…そうか、そういう風に言ったほうがいいのかな、じゃあ。
イ:(笑)
ミ:何を目指してるのかわかりませんけど…(笑)少なくとも、AMかFMかぐらいはわかっといてください(笑)
H:そうだね…音楽かけようかな。
2人:(笑)
ミ:逃げた(笑)
H:何がいいんだろう…あ、なんか持ってきてくれたんでしょ?
ミ:そうです!
H:じゃあ…それ、なんだっけ?
ミ:はい、アーサー・キット(Eartha Kitt)という方の"Sho-Jo-Ji"を…
Sho-Jo-Ji (The Hungry Raccon) - Eartha Kitt with Joe Reisman's Orchestra & Chorus
H:なるほど。
ミ:おもしろいですよね。
H:これ、いつ頃から聴いてるの?こういうの。
ミ:これを知ったのは…30年ぐらい前ですかね。
H:あー、やっぱり。んー。
ミ:もう、小学校のときには知ってたんですか?
H:うん。流行ったからね。
ミ:あ、この曲が?
H:ヒットした。うん。
ミ:へぇ…
H:"Uska Dara"っていうトルコの歌も…♪ウーシュカダーラ、ギーデリカ…っていうね。それの後にこれが流行ったのかな。どっちだろう?どっちが先かわかんないや。
ミ:日本びいきだったんですか?このアーサー・キットさんは。
H:キットさんね。なんかトルコの歌とか、ヘンテコリンな歌が得意だったね。
ミ:ヘンテコリンな…(笑)
イ:(笑)
ミ:たしかになんか…英語の発音もちょっとヘンテコリンなんですよね(笑)
H:♪オルウェイズハングリー~
イ:(笑)
ミ:そうそう、聴き取りやすいなぁっていう…(笑)
H:イチロウくんの音楽の趣味は何?
イ:あの…僕、ジャズが好きだったんですけど。
H:そうか。
イ:でも、最近は…
H:いい声だなぁ。
イ:はい(笑)
ミ:似てますけどね(笑)
イ:最近は義理の兄の影響でレナード・コーエン(Leonard Cohen)っていう人を聴いてます。
H:お兄さんいるんだっけ?
イ:えーと、姉の相方というか…
H:あ、旦那さんね。レナード・コーエン!渋いねぇ。
イ:なんかやっぱり、声の低い人が好きみたいで、僕。
ミ:おー…
H:おんなじ(笑)高い人嫌い(笑)
イ:(笑)
ミ:たしかに、声高い人ってあんまり魅力ないかもね、歌は。
H:そう?(笑)
イ:いや、そっちのほうが人気あるんだよ、やっぱり。少数派ですよ。
ミ:そっか。ロックなんかはそうか。
H:男の人は高くなって、女の人は低くなってるっていう時代だからね。んー。
ミ:へー。なんか、通販の番組って、高い男の人の声がいちばん売れるんですって(笑)いちばん響くんだって。なんでだろう?
イ:(笑)
H:たしかに高いわ…(笑)ちょっとマネして?
ミ:簡単に言わないでください、なんでもできると思うな(笑)
イ:(笑)
H:いやー、なんでもできるでしょう(笑)
イ:…あ、僕ですか?
H:どっちでも。
ミ:「今回のラジオは!」(笑)
2人:(笑)
ミ:恥かかされた…(笑)
H:なんか違う…違う人だよ(笑)
ミ:違いましたね(笑)こんなに訛ってない…(笑)
H:訛ってたよ(笑)
イ:訛ってたほうが売れたりするんですかね?
ミ:まさか…どうなんだろう、ひとりしかいないでしょ?(笑)
イ:あ、そっか…(笑)
ミ:この人の経営してるジャズ喫茶っていうのは、お父さんがやってたのを…父が亡くなって引き継いだんですけど。
H:あ、そうなんだね。
ミ:いまは誰でも演奏できるような…
イ:そう。僕の楽器を置いてるんで…
ミ:ヒマな時は…
イ:外人さんとかがよく演奏しますね。
H:あ、ホント?外国人も来るんだね。
イ:いっぱい来ます。
H:あ、そう?有名なんだね。
イ:そうですね…(笑)
ミ:フラッと楽器弾けるっていうのがすごいよね。趣味人が多いよね。
イ:こないだね、日系三世みたいな人が来て。そこでレナード・コーエンさんも歌ってる"Hallelujah"を歌ってくれたんですよ。ギターの弾き語りで。
H:ほう。
イ:感動しましたね。すごく良くて…
H:すごいな…えー、高山っていうと、中央線で行くと…中津川を通って名古屋から行くと…あれ、違うか。ぜんぜん違う。行ったことないわ、高山。
ミ:うん、たぶんそうですね(笑)なんか遠いところに連れて行かれた…(笑)
イ:(笑)
H:いや、すっごい遠いようなイメージなんだけど…(笑)
ミ:でも、遠いよね。
イ:遠いですね。松本経由で…車だとね。5時間ぐらい。
H:あのー、古い宿屋とかがいっぱいあるところにあるの?喫茶店。
イ:いや、うちは駅前なので…
H:あ、駅前なんだ。そうか。
イ:ぜひ一度お越しください。
H:行きたい行きたい。高山の夢は見たことがあるんだよ。
ミ:(笑)
イ:どういうことですか?(笑)
ミ:高山の夢は見たことがある…すごい新曲が出た(笑)
イ:(笑)
H:20代の頃に見た夢を憶えてるんだよね。
ミ:へぇ…横尾さん(横尾忠則)の影響?関係無い?
H:いや、その頃は横尾さん知らなかった(笑)
ミ:あ、そうなんですか(笑)
H:えーと…ああいう宿場みたいな通りでね。向こうからね、天狗が2人、こっちに向かってくるんだよ。
イ:おお…
H:で、棒を持ってるの。僕は子どもなの。で、僕の頭をパーン!って叩くの。
イ:(笑)
ミ:いきなり…(笑)
H:それだけの夢なんだけど(笑)それがなんで高山かは知らないよ?自分では「高山だ」って思ってるの。なんか縁があるのかな?
ミ:でも、天狗っていうお店あるよね?
イ:ありますね。けっこうたくさんありますね。
H:あ、ホント?
ミ:やっぱ関係あるのかな、何か。
イ:あるかもしれない。
H:どういう育ち方をしたわけ?お2人は。
ミ:(笑)
イ:あの…わりと音楽に囲まれてましたね。
H:特殊な家だったんですね。
イ:そうですね。ジャズ喫茶の横に居間があったんで。
H:つまり、お父さんがもう、ホント音楽好きなわけね。
イ:そうです。
ミ:ジャズが好きでしたね。
イ:しかもベーシストだったんですよ。
H:あ、そうなの!そうなんですか。
ミ:そうだ。ウッドベースの大きいのがね。
H:あったんだ。
イ:でも、「ジャズをやってた」って言うから、ジャズをやってたんだと思ってたんですけど…父の時代ではハワイアンからなにからぜんぶ「ジャズ」…
ミ:洋楽のことぜんぶ「ジャズ」(笑)
H:そうだったね(笑)
イ:キューバ音楽とかもやってたみたいで。名前はキューバンボーイズみたいな…
H:お、いいじゃない。
イ:そういうバンドでベースを弾いてたみたい。
H:それはどこでやってたんだろう?東京?
イ:あのね、それが…その頃はテレビとかが無くて。わりと大きいところでやってて。1,000人以上のお客さんがいたから…屋外とかだったのかもしれないし。
H:高山で、ってこと?
イ:そうです。
H:あ、そう。
イ:それで…僕がライヴやって50人ぐらいお客さんが来た、とか言うと「少ねぇ~」とか(笑)
H:(笑)
イ:50人でやったー!とか思ってたのに。
H:その、お父さんの録音物は無いの?
イ:無いんですよ…でもこないだ、父が書いた譜面っていうのを初めて見ました。
ミ:へぇ~。見して。
イ:うん、今度。
ミ:書けるんだ、譜面。
イ:うん。あの人は譜面読めるんですよ。
ミ:へぇ、意外…へぇ~。
H:あれ?清水ミチコさんは譜面読むでしょ?
ミ:でも、すごい時間をかけて…っていう感じですね。
H:あ、ホント?じゃあおんなじだ、僕と。
ミ:あ、ルビ振ります?
H:振るー。
ミ:いちばん楽ですよね。「振るー」…(笑)
イ:(笑)
ミ:ギャルか(笑)
H:(笑)
ミ:振る?イチロウ。
イ:僕は振らないように今、がんばってます。
ミ:あー。
H:もう今はね、譜面使わなくなっちゃったよ。
ミ:コード譜は?
H:コード譜さえも使わない、もう。
ミ:耳コピってこと?
H:うん。なんか…覚えちゃうから。
イ:こないだ細野さんが演奏されたユーミンの…なんだっけ、"卒業写真"のベースをコピーしようと思って聴いてたら…
H:あ、言ってたね。
イ:いや、驚いちゃって。
H:なにが?
イ:すごい独創性と…なんて言うんですか、リズム感?ユーミンの歌を抜いて、後奏の部分とか聴いてると、これは90年代以降の音楽なんじゃないか?とか思うぐらい新しい…
H:いやいや…言い過ぎだよ。
ミ:あれって、その場で考え付くっていうか…
H:うん。ぜんぶそう。
ミ:その場でってこと?
H:ぜんぶ…このラジオもそうだけど、その場の…
ミ:この場はそうでしょうね、すごい伝わります(笑)
H:(笑)
ミ:台本無いだろうな、っていう感じはわかります(笑)へぇ…
H:ぜんぶその場でやってきて…で、僕はユーミンとはあんまり深く話したことはなかったんだけど、こないだ…去年の暮れにね、ラジオに呼ばれて。
ミ:あ、聴いてました。
H:聴いてた?じゃあ、あれも聴いてたんだ。「清水ミチコと話してるみたい」って言っちゃったんだけどね。
ミ:え、そんなこと言ってましたっけ?
H:あれ、カットされたのかな?(笑)カットされたんだ…
2人:(爆笑)
ミ:さみしい気持ちになったわ(笑)知らなきゃよかった…(笑)
H:そうか…やっぱりイヤなのかな?そんなことはないよな。
ミ:でも、もし自分がディレクターだったらやっぱりちょっとカットするかも。
H:そうすか?(笑)
イ:(笑)
卒業写真 - 荒井由実
(from 『COBALT HOUR』)
H:…あ、2週分録ってるんだ、今。そうか。
ミ:やった。すごい、何詐欺っていうんだろう?これ(笑)
H:ちょっと休憩したいんだけど。いいですか?
ミ:私もこれおいしいんで、もう1杯もらっていいですか?
H:ちょっと休憩(笑)
2020.02.23 Inter FM「Daisy Holiday!」より
H:細野晴臣です。えーと…また、きょうもゲストをお招きしています。冨田ラボさん。
冨田:こんばんは。よろしくお願いします。
H:よろしく。えーとね、どこで…去年の暮れに会ったんですよね。
冨田:はい、細野さんのライヴ、コンサートに伺いました。
H:あ、そっか。来てくれたんですね。
冨田:いやー、よかったですね~
H:そうですか(笑)
冨田:とても楽しかったです。
H:楽しかったですか。よかった、それは。コントのほうじゃなくて、ライヴのほう?(笑)
冨田:ライヴのほうです(笑)翌日にコントがあるっていうのをね、僕、その場で知りまして。すげー見たかったですけど(笑)
H:最近はどうなんだろう。忙しいのかな?
冨田:えーと、そうですね。相変わらず毎日制作…やってますね。
H:毎日?んー。なんか、「制作の人」だね(笑)
冨田:そうですね(笑)冨田ラボ以外に他の方のプロデュースとかも多いんで…そういうのがけっこう続いちゃってる感じがあります。
H:あ、そっか。もう、ずーっとね…1年半ぐらい前に、「MPCナントカナントカ」っていう難しいタイトル…(笑)
冨田:はいはいはい(笑)『M-P-C』ですね。
[*『M-P-C "Mentality, Physicality, Computer"』、2018年10月リリース。]
H:あのアルバムを聴いて、「うわー!良い音!」と思って。
冨田:いやいやいや…
H:そしたらおんなじ…Victor系列だったりしてね。
冨田:そうですね。
H:いつかお話聴こうかな、と思って。やっと呼べました。
冨田:いやー、呼んで頂けて光栄…なのとですね、僕はそのとき実は…細野さんが僕の『M-P-C』を聴いてくださって「なかなか良い」と仰ってる、ということを小耳にはさみまして。
H:そうですか(笑)
冨田:よく憶えてるんですけど、僕はそのときライヴのリハーサルをやってたんですよ。わりと本気で小躍りした感じが…(笑)
H:ホント?(笑)
冨田:細野さんの耳に届くとはまったく思ってなかったんで…
H:届きますよ(笑)
冨田:いやー、ホントうれしかったですね…
H:ホント?それは知らなかった。じゃあ、来てもらった甲斐があるね。あの、生まれつき「冨田ラボ」っていう名前なの?
冨田:違います(笑)僕は「冨田恵一」って言いまして…(笑)
H:そうだよね(笑)
冨田:あのー、「Laboratory」の「Lab(ラボ)」なんですよね。
H:やっぱりそうなんだ。うん。
冨田:で、いま16年ぐらいやってるんですかね。2003年ぐらいから冨田ラボというのを始めまして。
H:うんうん。
冨田:だから…小山田さん(小山田圭吾)が「Cornelius」みたいな感じなんです(笑)
H:なるほどね(笑)
冨田:冨田恵一なんだけど「冨田ラボ」。そんな感じでやってます。
H:もう、だから…ベテランだよね。16年やってるとね。
冨田:そうですね…けっこう長くなりましたね。
H:だから、ホントはジャンルがすごく広い人でしょ?
冨田:あー、かもしれないです。途中で大きく変わったりもしましたんで。
H:あ、やっぱりね。うん。まぁじゃあ、早速ちょっと『M-P-C』のアルバムから…なにがいいですかね?
冨田:あ、あとはあの…憶えてらっしゃるかはわからないんですけど、どの曲をお聴きになったのかな、っていうのが僕はすごく気になって…どれでしたかね?
H:いや、どの…全体だね(笑)
冨田:あ、全体ですか。ありがとうございます。
H:音の迫力というかね。どれが良かったかな…あれからね、あんまり…怖くて聴けないんだよ(笑)
冨田:いえいえ、とんでもないです…たぶん、"OCEAN"か"パスワード"がいいかな、と思うんですけど。
H:ほうほう。たぶん、それかもしれないぞ。うん。どっちがいい?
冨田:"パスワード"にしてみましょうか。
H:"パスワード"にしようか。はい。じゃあ、冨田ラボさんの『M-P-C "Mentality, Phisicality…
(冨田:Computer...)
H:, Computer"』というアルバムね(笑)じゃあその中から、"パスワード"。
(from 『M-P-C "Mentality, Physicality, Computer"』)
H:いいね。
冨田:ありがとうございます(笑)
H:なんか…音響マニアでしょ?
冨田:わりとそうかもしれないですね。
H:「ラボ」っていうくらいだから。「研究所」でしょ?(笑)
冨田:そうなんですよね(笑)一応…まぁ他の仕事もやりつつ、自分の「冨田ラボ」というのをやるにあたって…真っ先に試したいことは「冨田ラボ」の中でやろうかと。
H:なんか、自分のスタジオをわりとあちこち…3つ目ぐらいなんだって?
冨田:そうですね、3つか4つか…プライベート・スタジオで。最初は自分の家の近くにマンションを借りて。防音も手作りぐらいでやってたりとかで…ずっと賃貸でやってたんですよね。
H:はいはい。
冨田:でもそうすると、簡易的な防音だと夜になると音量をちょっと我慢するとか…そういうこともあったりとかして。
H:あー。
冨田:で、まぁ…いま使ってるところはいちばん長くて。もう9年ぐらい一緒なんですけど。
H:あ、そんなに長いんだ。
冨田:それはもう、自宅を建てるときに地下に。
H:あ、じゃあもう自分の…賃貸じゃなくてね。作ったわけだ。理想的。
冨田:そうしたらですね、賃貸のときのいろんな…周りに気を遣うとかそういうのが耐えられなくなってきちゃって(笑)
H:あー、じゃあ今、大らかにやってるわけだね。
冨田:そうですね。ちょっと籠りっきりになっちゃうのはちょっとイヤかな、と思いつつも…(笑)
H:いやー…ミュージシャンの中にはスタジオが大好きっていう人もいるからね。僕もそうだけど。
冨田:僕もそうですね(笑)
H:籠っちゃうよね、ずーっと。
冨田:ここは細野さんが作業されてるところですよね?
H:うん、ここで作業してたりする。それで、ちょうど1年半ぐらい前に…自分のソロを作ってて。機材がここはものすごい古いの。もう、誰も使ってない機材でやってるわけよ(笑)
冨田:あ、じゃあ『HOCHONO HOUSE』を作られたときには、それほど…新しい機材に入れ替えて、とかではなかったんですか?
H:ないんですよ。
冨田:あー、そうですか。
H:だから苦労したんだよね…音が出なくて(笑)
冨田:なんか、ありますもんね。あの…テクノロジーのおかげだけ、とは思わないんですけど。最近の音像とか。
H:最近のはね、やっぱり違うよね。うん。
冨田:サウンドデザインとかも…明らかにそのテクノロジーのおかげでああなってるところもあるような気がしますよね。
H:あるよね。そうそうそうそう。まぁ、それがずーっと気になってたんで。
冨田:あー、なるほど。
H:とくにアメリカ辺りの流行りものの音とか、すごいじゃない?
冨田:そうですよね。あのー…普通にヒットしてるものが極上の音だったりしますよね(笑)
H:そうなんだよ!(笑)それでね…それにショックを受けたんだよね。テイラー・スウィフト(Taylor Swift)良い音じゃん!とかね(笑)
冨田:ホントですよね。でも細野さん、昔から仰ってますよね。たぶん10年ぐらい前の著作を読ませて頂いたときにも…
H:うん。
冨田:アメリカのヒットソングの音の構築具合というか、そういったものは学ぶべきだ、といった趣旨のことを…
H:いやー、そう。いまだにそう思ってるね。
冨田:でも、ホントそう思いますよね。
H:うん。学んだの?(笑)
冨田:いや…(笑)僕もね、ゼロ年代ぐらいまでは…冨田ラボで言うと直近の2枚以前のものはわりとシミュレーショニズムというか…1970年代、80年代の音像でいろいろやってやれ、っていう気持ちだったんで。リアルタイムのものはまったく聴いてなかったんですけど。
H:あー…いまの僕と似てるな…(笑)
冨田:あ、ホントですか?なんですけど、何かのきっかけで…2010年代ぐらいにヒップホップとかR&Bとか、ヒットチャートものを耳にすることがあって。「普通にカッコいい」ってすごく思っちゃったんですよね(笑)
H:はいはいはい…(笑)そっからだ。そうかそうか。
冨田:そこからなんですよ。はい。
H:いやー…でも、実現してるね。
冨田:あ、ホントですか?
H:うん、そう思うよ。これ聴いたときに、あ、並んでるな、って思ったよ(笑)
冨田:いやー、恐縮ですね、すごいうれしいですね。
H:でも、そこはもう、目指したでしょ?だって。
冨田:目指したと言えば目指しました。だからその…もちろん、楽曲の骨組みはよいものにしなきゃ、っていうのはあったんですけど。アメリカのヒットチャートなどを聴いていて感動するのが、曲が良いだけじゃなくて、サウンドデザイン自体にグッときたところがあったので…
H:そうなんだよ。デザインされてるんだよね(笑)
冨田:なんとか、やっぱり…追い付け追い越せじゃないですけど、そこも自分の納得いくようにしないとダメだな、っていうのは『M-P-C』とかやってたときのテーマでもあったんで。
H:なるほどね。
冨田:そこをそう言って頂けるのはうれしいです。
H:いや、それを感じたんで、ずーっと…その当時の僕のいちばんのテーマだったから。この後はどうなってるの?『M-P-C』の後は。
冨田:えーと…今まさに曲を作り始めた、ぐらいの感じで。まぁ、今年制作をやるんですけど。
H:お。楽しみだね。んー。
冨田:なんかね、その辺の…いわゆるサウンドデザインに…でも、ホントなんかね、最近あれなんですよね。聴くもの聴くもの「良いなぁ…」って思う…(笑)
H:そうそう、おんなじ(笑)
冨田:あ、おんなじですか?(笑)いや、ホントそうなんですよ。でもそうすると…それが「普通」になってしまったときになにを考えようかな、みたいな…
H:そうなんだよ。今はそれがわりと「普通」になってる時代だよね(笑)
冨田:そうですよね。
H:この先どうなるの?っていう感じだよね。んー。
冨田:ですよね。で、結局…良くサウンドデザインされたものが「普通」になった場合に、じゃあデザインじゃなくてやっぱりその「中身」の話になってくるのかな、とか。
H:そうだよね、それはあるだろうなぁ。どうなってくんだろう。
冨田:僕もぜんぜん、予想はできないんですけど。
H:だから、今は曲を「作る」っていうよりも「デザイン」してるでしょ?みんな。別にAメロ、Bメロがあるわけじゃないしね(笑)
冨田:そうですね。リフの断片を繰り返していって、デザインで聴かせるっていう。だから、曲自体の構造についてもけっこう考えますよね。
H:考えるね。
冨田:いま仰ったように、メロディと和声だけでストーリーを作っちゃうと、ちょっとトゥーマッチかな?と思ったりとか。
H:いやー、なかなか…わかるわ。いまどきっぽい事を考えてるね、やっぱり(笑)
冨田:というか、細野さんも同じように考えてらっしゃるのがやっぱりすごいなぁ、というか。
H:まぁね、だから…聴く耳っていうのはあるんで、いろいろ聴いちゃうんだよね。そういうのをね。その中に冨田さんのも入ってるわけ。
冨田:いやー、ありがとうございます。
H:でも今、すごく…この先どうなるんだろうな、とは思ってるね。それをじゃあちょっと、新作で今度聴かせてもらおうかな(笑)
冨田:それは…がんばりたいと思います(笑)
H:注目してますよ。
冨田:ありがとうございます。
H:それで、そういえば…なんだっけ。あ、昔のやつをミックスし直して出したでしょ?
冨田:あー、去年やりましたね。2006年がオリジナルのアルバム、『Shiplaunching』っていうんですけど。それをやり直しました。
H:そこに幸宏(高橋幸宏)が入ってるんだね(笑)
冨田:あ、入ってます。大貫妙子さんとデュエットで。
H:あ、ホント?それ聴きたいんだけど。ぜひ、聴きましょう。
冨田:あ、じゃあ…"プラシーボ・セシボン"、聴いてください。
プラシーボ・セシボン feat.高橋幸宏+大貫妙子 - 冨田ラボ
(from 『Shiplaunching [2019 Mix]』)
H:これは…生だよね?
冨田:あのー、ドラムは打ち込み…なんですけど…(笑)
H:あ、打ち込みなんだ(笑)そういう風に聞こえないわ(笑)
冨田:当時、自分でドラムセット作って打ち込みをやっていて。
H:…あ、音自体は生?
冨田:そうですね。自分でセットして…それでプログラミングしてますね。
H:なるほどね。いやー、ベースいいな。誰?
冨田:ありがとうございます。僕、自分で…(笑)
H:お。すげぇ(笑)
冨田:これ、楽器はぜんぶ僕ですね。
H:あ、すごい!オールマイティなんだね。
冨田:わりと楽器弾くのが好きで…やってますね。20代の頃はサポートで楽器を弾く仕事を…ギターでやってたんですけど。
H:うんうん。
冨田:でもなんか、宅録…多重録音するようになってからはいろんな楽器を弾く形になりました。
H:いちばん得意なのはなんだろう?(笑)
冨田:なんでしょうかね…子どものときはピアノ習ってましたけど。
H:あ、そうなんだね。
冨田:でも、レコーディングした楽器の量で言うと、ベースがいちばん多いかもしれないですね。
H:ホント?
冨田:何にでも入るじゃないですか(笑)シンセベースを使う場合以外は。
H:うんうん。
冨田:ということで言うと、もしかしたらベースがいちばんかもしれないですね。
H:なるほどね。それは興味深いわ。んー。
H:ところで…『M-P-C』作った後って、どんな評判だった?それをすごい知りたいんだよね。
冨田:そうですね…実はその『M-P-C』の1枚前、『SUPERFINE』というアルバムから…先ほどの話で言うと、音像をリアルタイムの、サウンドデザインされたものに変えることに意識的になって。
H:なるほど。
冨田:というか、それが好きになって変わっちゃったんですけど。その前までは、ホントに…いま聴いて頂いてるように、70年代、80年代のをやっていたんで…
H:うんうん。
冨田:『M-P-C』よりも、その前に変わるときに、自分としては…こんな、けっこう変わっちゃってどう思われるかな?みたいのを…まぁ、心配半分、楽しみ半分でやってたんですけど。
H:うん。
冨田:「あ、変わったな!」っていう人と、「根本は変わってないじゃん」っていう、2つの意見があって。
H:なるほどね。
冨田:まぁ、たしかにそれはそうだ、と。概ね「良い」という風には言って頂けて。で、『M-P-C』が出たときには、「やっぱり前作の流れでまだ行くんだな」というような批評家が多かったと思います。
H:うん。それはまぁ、国内だよね?
冨田:国内ですね。海外の方には届いてないんじゃないですかね?(笑)
H:ホント?いや、そこがね、気になるんだよね。届けないと(笑)
冨田:あー…そうですね。『M-P-C』が届いてるかどうかはわからないですけど、段々ね、サブスクとかになってきて。海外の方にも聴いて頂きやすい環境にはなってるとは思うんで。
H:そうだよね。
冨田:作り手の意識もどんどん変わるかな…とも思ったりとか。
H:あの…日本の音も良くなってるけど、とくにアニメとか聴くとすごいなぁと思うんだよね(笑)
冨田:あー、そうですよね。
H:あとは…意外とアイドルグループ、少女たちの音とかすごいよね。
冨田:すごいですよね。
H:そういうのやってる?
冨田:たまにやりますけど…ただ、たぶん僕がやっても、アイドルソングのガッチガチにすごい感じにはなってないと思うんですけど(笑)
H:なんないよね(笑)
冨田:あれ、なかなか独特な手法ですよね?
H:そうなんだよ。気になるんだよ(笑)
冨田:気になりますよね(笑)明らかに[自分たちとは]違うこと考えてやってるな、っていう風にはけっこう感じるんですよね。
H:そうなんだよ!(笑)
冨田:なんなんでしょうね、あのルーツはね…(笑)
H:なんだ、冨田さんも知らないんだ(笑)
冨田:いやー、僕もちょっとわからないんですよね…(笑)
H:ただね、うるさい(笑)
冨田:そうですね(笑)わりとビジーな感じはありますよね。でも、あのビジーさが「若さ」とか感じさせてるんですかね?
H:そうかもしれない。とにかく、そこが違うね、冨田ラボは。落ち着いた音が…(笑)
冨田:そうですかね。まぁ、わりとキャリアとかもあるのかもしれないですけどね。
H:そうだろうね。あとは、洋楽に近いっていうかね、音がね。
冨田:そうですね。洋楽ばっかり聴いてきて…細野さんとはちょっと世代が違いますけど、やっぱり僕の世代ぐらいだとまだ洋楽ばっかり聴いていた世代でもあるので。
H:そうだよね。今は違うんだろうね。
冨田:違うみたいですね。
H:ね。洋楽聴かないみたいね(笑)
冨田:そうですね。最近の若いミュージシャンとかと話したり…あと、作品を聴いてもそうなんですけど、洋楽と並立に…細野さんはもとより、僕なんかも長く、日本の音楽界で作ってるじゃないですか。
H:はいはい。
冨田:そういったものが並立で、ルーツとして入り込んでる様をときどき聞いて。
H:あー、なるほどね。並立ね。もう、並んでるんだよね。
冨田:そういう感じがするんですよね。
H:そういう時代なのはわかるわ。んー。
冨田:不思議なんですよね…
冨田:あと僕、細野さんにひとつ申し上げたいことがあって。
H:なんでしょう?
冨田:僕の…先ほど『Shiplaunching』の説明をするときにも「シミュレーショニズム」って…
H:言ってたね。
冨田:はい。僕、「シミュレーショニズム」っていう言葉を…たぶん、冨田ラボを始めたときから使ってるんですけど。
H:そうだったんだ。んー。
冨田:あの…確か細野さんがスウィング・スローをやられてたときに、インタビューで「シミュレーショニズム」という言葉をお使いになってた…
H:使ってた。
冨田:あ、憶えてらっしゃいますか?詳細…一言一句は正しくないと思うんですけど…「そこに自分が心を打たれていない限り、現行の音楽、ヒットチャートを追うのは不健康で、そうであればシミュレーショニズムで自分をクリエイトするほうが健全だ」的なことを仰って…
H:それは憶えてないな(笑)そんなこと言ったんだ(笑)
冨田:あ…そういうことを仰っていて。もちろん作品もそうなんですけど、そのインタビューでの細野さんの発言が…完全に僕をそっちに導いてくれて。
H:ホント?(笑)
冨田:導かれたんです、僕。
H:知らなかったな、そんなことは(笑)
冨田:もちろん、そうだとは思うんですけど…(笑)
H:へぇ…
冨田:現行のヒットチャートとかにはあんまり興味の持てる音がなかったときに…
H:あー、そういうときあったよね。うん。
冨田:そういうときもあるじゃないですか。で、まぁ、僕は駆けだしのプロデューサー、編曲家だったので、いろいろ…現行に寄せなければいけないのか、みたいな圧力とか。いろいろあるじゃないですか。
H:あるね。
冨田:そういうときに、自分の心持ちとしてどうしようかな…みたいに思ってるときに、そういった細野さんの言葉を…
H:なるほど。読んでたんだね。そっか。
冨田:はい。それで完全にそっちに…
H:そうですか。まったく関係ないところでやってる人だと思ってたから…(笑)
冨田:いやいやいや…(笑)ホントにそれで冨田ラボがああいう風に発進して…まぁ、いまはまたちょっと変わったりはしてるんですけど。
H:そうですか。もう、だから…楽しませてもらってますよ。そういう意味では。
冨田:いやー、ありがとうございます。光栄です。ホントに。
H:まぁ、これを機会にまた…出てくださいね。もう時間が来ちゃったんで…
冨田:いくらでも。はい。
H:1曲だけ聴こうか?なんか、持ってきてくれたのがあるでしょ?最近聴いてる曲っていうのを、ちょっと紹介してもらおうかな。
冨田:最近聴いてる曲がよろしいですか?
H:もう、いちばん…気になってる曲でも、なんでも。
冨田:最近…僕、なんか、わりと音が悪いのばっかり聴いてるんですよね(笑)
H:あ、ホント?そっち行っちゃったんだ(笑)
冨田:それか…『M-P-C』を作ってたときに、「あ、これ音良いな」って思ってたやつとか…
H:おお。それ、聴きたいな。
冨田:それにしましょうか。ではミッシー・エリオット(Missy Elliott)で、"I'm Better"を聴きましょう。
H:じゃあ、それを聴きながら…おしまいにします。また、来てください。
冨田:どうもありがとうございました。
H:冨田ラボさんでした。
I'm Better feat.Lamb - Missy Elliott
(H:音が少ない(笑))
(冨田:音少ないですよね。なんか、少なさにちょっと…)
(H:うん。ショックだよね、少なさが(笑))
(冨田:そうなんですよ(笑)ラップミュージックなので…)
(H:ね。それで…すごいエネルギーが詰まってる。)
(冨田:そうですね。)